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(平17.3.30裁決、裁決事例集No.69 324頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、相続税法第38条《延納》の規定に基づいてなされた延納許可について、延納許可期間の計算の基礎となる取得財産の価額のうちに占める不動産等の価額の割合(以下「不動産等の割合」という。)が遺産分割協議によって増加したことに伴い、延納許可期間を5年から15年に変更することの可否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、A及びB(以下、請求人とこれら2名を併せて「本件相続人ら」という。)とともに、平成10年12月11日に死亡したC(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、被相続人の遺産が未分割であったことから、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定に従い、別表の「当初申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限内に提出した。
ロ 請求人は、上記イの申告書の提出と併せて、相続税物納申請書及び相続税延納申請書をそれぞれ法定申告期限内に提出した。
 なお、請求人は、本件相続に係る相続税のうち32,900,000円(本件相続人ら全体では98,750,000円)を期限内に納付した。
ハ 請求人は、平成12年10月31日に別表の「修正申告」欄のとおり、修正申告書を提出した。
ニ 請求人は、本件相続の遺産分割協議(以下、この遺産分割協議に基づく遺産分割協議書を「当初分割協議書」という。)が平成12年12月20日に成立したとして、平成13年1月10日に相続税法第32条《更正の請求の特則》第1号に基づく更正の請求をしたところ、原処分庁は、平成13年3月30日付で、別表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行った。
 なお、当初遺産分割協議書には、本件相続人らの署名押印がなされている。
ホ 請求人は、平成15年6月10日付で、上記ロの物納申請の一部を取り下げると同時に、取り下げた同額について相続税延納申請書を提出し、原処分庁は、これに対し、平成16年4月30日付で延納期間を5年とする延納許可(以下「本件延納許可処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、本件延納許可処分を不服として、平成16年6月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月10日付で棄却する旨の異議決定をした。
ト 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成16年10月6日に審査請求をした。

(3)関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙記載のとおりである。

(4)基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 上記(2)のニの更正の請求及び本件更正処分において、請求人が取得した相続財産の価額のうち不動産等の割合は0.45(461,774,426円÷1,026,200,215円=約0.45)である。
ロ 本件相続人らは、上記(2)のニの分割協議において、次の誤りがあったとして、平成13年6月11日に再度遺産分割協議書(以下「再分割協議書」という。)を作成した。
(イ)当初分割協議書における請求人の相続財産のうち、立替金100,475,027円は、亡D(本件被相続人の夫)の相続の際、本件被相続人が請求人とBの相続税を立て替えたものであり、本件被相続人の相続財産である当該立替金を請求人とBで2分の1ずつ分割すべきであったにもかかわらず、その全額を請求人の取得財産としていた。
(ロ)本件相続人らが上記(2)のロで納付した98,750,000円の原資は、当初分割協議書における請求人の相続財産のうち、割引金融債6口を売却したものであり、本件相続人らで按分して財産計上すべきであったにもかかわらず、その全額を請求人の取得財産としていた。
ハ 上記ロの再分割協議書によって、請求人は、請求人の取得財産の価額が減少するとともに、請求人の取得財産の価額のうち不動産等の割合が0.45から0.508(461,774,426円÷910,112,701円=約0.508)に増加することから、平成13年6月22日に「嘆願書」と題する書面(以下「本件嘆願書」という。)を原処分庁に提出し、その主な内容は別表の「本件嘆願書」欄に記載のとおりである。
ニ 原処分庁は、本件嘆願書に対して更正は行っていない。

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2 主張

(1)請求人

 本件延納許可処分は、次のとおり違法であるから、延納期間を5年から15年に変更することを求める。
 当初分割協議書は、上記1の(4)のロのとおり重大な瑕疵があり、錯誤によるもので、当初分割協議書を基になされた本件更正処分は誤っているから、税務署長は、通則法第24条の規定によって、再分割協議書に基づく、本件嘆願書にのっとった、正当な更正処分をする義務がある。
 したがって、本件延納許可処分は、誤った本件更正処分の内容(不動産等の割合0.45)に基づくものであるから、本件延納許可処分は、正当な再分割協議書に基づく別表の「本件嘆願書」欄の内容(不動産等の割合0.508)にしたがって、相続税法第38条《延納》の規定に基づき、延納許可期間を15年に変更するべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり、相続税法第38条及び相続税法施行令第14条第3項の規定に基づいて適法になされており、変更すべき理由はないから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件延納許可処分に係る相続税は、本件更正処分によって最終的に納付すべき税額が確定しているから、不動産等の割合の算定に当たっては、本件更正処分における相続税額の計算の基礎となった財産の価額が基準となり、その割合は別表の「更正処分」欄のとおり0.45である。
 よって、不動産等の割合は、10分の5を下回るから、本件延納許可処分における延納期間は5年以内となる。
ロ 請求人は、再分割協議書に基づいて計算した不動産等の割合は「0.508」であり、10分の5を超えているから、本件延納許可処分に係る延納許可期間を15年に変更するべきである旨主張するが、本件嘆願書の内容に基づいて、原処分庁が更正を行った事実はないことから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)法令解釈等

イ 課税処分の違法性の承継について
 課税処分は、国税の納付義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする処分であり、一方、延納許可処分は、納付すべき税額が確定した相続税及び贈与税の納付に当たって認められた年賦延納という特殊な納付制度で、納税者の便宜を図ることを目的とする処分であって、両者はそれぞれ目的を異にする別個独立した行政処分であるから、課税処分が重大かつ明白な瑕疵により無効であるか、課税処分の違法を理由として権限ある機関によって取り消されない限り、先行する課税処分の違法等を理由として延納許可処分の取消しを求めることはできないと解するのが相当である。
ロ 更正の請求について
 通則法第24条の規定については、課税庁が常に更正を義務付けられるものと解することは、通則法第23条及び相続税法第32条の規定が設けられた期間の制限を実質上無意義なものにすることになるため、更正の請求期限を実質的に徒過した納税者が、職権による減額の更正を求め、その発動をする契機とするに足りる関係書類を提出した場合でも、通則法第24条に規定する調査の方法、時期及び範囲に関しては課税庁の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。

(2)本件延納許可処分について

イ 請求人は、当初分割協議書は、錯誤により作成されたものであり、当初分割協議書を基にされた本件更正処分は誤っているから、原処分庁は再分割協議書に基づいて計算した本件嘆願書により、通則法第24条に基づく減額更正を行うべき義務がある旨主張する。
 しかしながら、当初分割協議書には、立替金100,475,027円及び割引金融債6口98,750,000円が請求人の相続財産である旨の記載がされていることは請求人も自認するところであり、当初分割協議書は本件相続人らの署名押印がなされていることで有効に成立しており、当初分割協議書に基づく本件更正処分に何ら違法とすべきものは認められない。
 そして、請求人は、通則法第23条及び相続税法第32条に規定する更正の請求を行わず、本件嘆願書を提出しているのであるから、原処分庁が本件嘆願書によって通則法第24条に規定する更正を義務付けられるものではなく、本件更正処分は適法なものであることが認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、再分割協議書に基づいて計算した不動産等の割合は「0.508」であり、10分の5を超えているから、本件延納許可処分に係る延納許可期間を15年に変更するべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の相続税の額は、本件更正処分の税額をもって確定しており、本件延納許可処分の前提となる本件更正処分の違法を理由に、本件延納許可処分の変更を求めることはできない。そして、延納許可期間及びその算定の基礎となる基準については、相続税法第38条及び相続税法施行令第14条第3項の規定に基づき、延納を許可する時までに納付すべき税額の確定した相続税額の計算の基礎となった財産の価額を基準として計算することとなり、上記1の(4)のイのとおり、本件更正処分における不動産等の割合は0.45で10分の5を下回ることから、延納許可期間を5年とした本件延納許可処分は適法である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由はない。

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(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 関係法令等の要旨

1 国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求ができる旨規定している。
2 通則法第24条《更正》は、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。
3 相続税法第32条《更正の請求の特則》第1号は、相続税について申告書を提出した者は、相続税法第55条の規定により分割されていない財産について法定相続分の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことにより、当該申告(修正申告書の提出があった場合は当該修正申告)に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、その課税価格及び相続税額につき通則法第23条第1項の規定による更正の請求をすることができる旨規定している。
4 相続税法第38条《延納》は、延納の期間について原則5年以内とした上で、相続又は遺贈により取得した財産で当該相続税額の計算の基礎となったものの価額の合計額のうちに不動産等の価額が占める割合が10分の5以上であるときは、不動産等の価額に対応する相続税額については15年以内、その他の部分の相続税額については10年以内の年賦延納を許可することができる旨規定している。
5 相続税法施行令第14条《不動産等の価額に対応する延納税額の計算等》第3項は、不動産等の割合は、延納を許可する時までに納付すべき税額の確定した相続税額の計算の基礎となった財産の価額を基準として計算する旨規定している。

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