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(平17.4.5裁決、裁決事例集No.69 427頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、共同担保に係る根抵当権の移転登記について、登録免許税法第13条《共同担保の登記等の場合の課税標準及び税率》第2項の規定(以下「本件規定」という。)を適用しないで登録免許税を納付し当該登記を受けた後において、本件規定の適用により納付税額が過大であったとして、同法第31条《過誤納金の還付等》第2項による還付請求が認められるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年7月22日に、別紙物件目録1の物件(以下「A物件」という。)の根抵当権移転登記申請書(以下、当該申請書に係る登記申請を「A物件の登記申請」という。)に、課税標準の額を720,000,000円及び登録免許税の額を720,000円と記載して、その税額に相当する金額の収入印紙をちょう付の上、これをB法務局C出張所に提出することにより当該登録免許税を納付し、根抵当権移転登記を受けた。
ロ 次いで、請求人は、平成16年8月31日に、別紙物件目録2の物件(以下「本件物件」という。)の根抵当権移転登記申請書(以下「本件登記申請書」といい、当該申請書に係る登記申請を「本件登記申請」という。)に、課税標準の額を720,000,000円及び登録免許税の額を720,000円と記載して、その税額に相当する金額の収入印紙をちょう付の上、これを原処分庁に提出することにより当該登録免許税を納付し、本件物件の根抵当権移転登記(以下「本件登記」という。)を受けた。
ハ その後、請求人は、平成16年10月1日に、原処分庁に対し、本件登記に係る登録免許税の額が本件規定の適用により4,500円となるので、上記ロの納付した税額との差額715,500円につき、所轄税務署長に対し還付通知をすべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をしたところ、原処分庁は同月14日付で還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成16年11月2日に審査請求した。

(3)関係法令等

イ 登録免許税法第9条《課税標準及び税率》は、登録免許税の課税標準及び税率は、別段の定めがある場合を除くほか、登記等の区分に応じ、同法別表第一による旨規定し、別表第一第1号の(6)のイは、法人の合併による抵当権の移転登記に係る課税標準は債権金額又は極度金額とし、税率は千分の一とする旨規定している。
ロ 登録免許税法第13条第2項は、同一の債権のために数個の不動産等に関する権利を目的とする抵当権等の設定登記を受ける場合において、当該設定登記の申請が最初の申請以外のものであるときは、当該設定登記に係る登録免許税の課税標準及び税率は、当該設定登記がこの項の規定に該当するものであることを証する財務省令で定める書類を添付して当該設定登記の申請をするものに限り、当該設定登記に係る不動産等に関する権利の件数一件につき千五百円とする旨規定している。
ハ 登録免許税法施行規則第11条《共同担保の登記等の場合の税率の特例の適用を受けるための書類》は、上記ロの財務省令で定める書類は、その登記に係る債権金額につき既に同一の債権のために数個の不動産等に関する権利を目的とする抵当権等の設定登記を受けている旨を証する書類(以下「本件証明書類」という。)とする旨規定している。
ニ 昭和43年10月14日民事甲第3152号民事局長通達は、本件規定は、共同担保の抵当権の移転登記にも同様の適用がある旨定めている。
ホ 登録免許税法第31条第1項第3号は、登記機関は、過大に登録免許税を納付して登記等を受けた事実があるときは、当該過大に納付した登録免許税の額を登記等を受けた者の納税地の所轄税務署長に通知しなければならない旨、また、同条第2項は、登記等を受けた者は、当該登記等の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記を受けた日から1年を経過する日までに、その旨を登記機関に申し出て、第1項の通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ヘ 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第12号は、登録免許税の納税義務は登記の時に成立する旨規定し、同条第3項第5号は、登録免許税は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 上記(2)のイの登記及び本件登記は、いずれも平成14年10月1日合併を原因とするD社から請求人への極度金額720,000,000円の根抵当権の移転登記であり、A物件及び本件物件は、当該根抵当権に係る共同担保として登記がなされている。
ロ 請求人は、本件登記申請書に本件証明書類を添付しないで本件登記申請をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 社会通念上、一般に、税の申告の修正又は訂正が認められているところ、登録免許税法に登記申請の修正又は訂正を認めない旨の規定はないことから、後日、本件規定の適用を求め、本件証明書類を提出して行った本件還付通知請求は認められるべきである。
ロ 請求人は、A物件の登記申請において、根抵当権の極度額である720,000,000円を課税標準とする登録免許税の額720,000円を納付済みであり、本件登記申請は、A物件と同一の根抵当権の共同担保に係るものであるから、本件登記申請の手続の不備をもって本件還付通知請求を認めないことは、二重課税を容認することとなり、違法である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件規定の趣旨について
 本件規定は、課税標準及び税率について特別の扱いを受けようとする場合、当該登記の申請人は、登記申請する時に本件証明書類を添付しなければならない旨規定して、手続的要件を明確に限定しているが、他方において、本件証明書類の添付がなかった場合には、これをゆうじょする旨の関係法令の規定はない。
 これは、登録免許税が納税義務の成立と同時に特別に手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であること、登記の事務処理は大量の事件を迅速に処理しなければならないという要請があること、登録免許税の減免は特例の措置であり、それを受けるか否かは申請人の問題であることから、登録免許税についての減免の特例措置を受けたいと考える者に、登記の申請時にその証明書を添付させ、一回の手続で終わらせることとし、同項に規定する実体的要件及び手続的要件(本件証明書類を添付すること。)をいずれも充足した場合に限り、本件規定を適用する旨定めたもので、当該手続的要件を履践できなかった事情を問わない。
ロ 本件通知処分の適法性について
(イ)請求人は、本件登記申請に当たって、本件証明書類を添付せず、課税標準額及び登録免許税の額についても上記1の(2)のロのとおりの申請をしている。
 このような場合、登記官には申請人に登録免許税の減免の措置を必ず受けさせなければならないという義務はなく、自らの積極的な調査により当該措置の適用があるかどうかを判断しなければならない法的義務を負うものではないから、原処分庁は、審査の結果、却下事由が存しないため、本件登記申請を受理して本件登記を実行したものであり、何ら違法性はない。
(ロ)本件規定は、本来負担すべき登録免許税の税率を軽減するものとして、登録免許税法に規定された特別な制度であり、その解釈・適用に際しては、租税負担の公共性や公平負担の原則に照らし、狭義、厳格になされるべきであり、むやみに類推解釈又は拡大解釈すべきでないと解される。
 したがって、通常の登録免許税を納付して登記を申請し、法令に基づき正当な手続によってその登記申請が受理され、登記が完了した後において、本件証明書類を添付してなされた本件還付通知請求の可否については、上記イで述べた本件規定の趣旨に照らして、これを認める合理的理由はないと解される上、その他関係法令においても、このような請求を認めるゆうじょ規定はないから、本件還付通知請求に応じることはできない。

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3 判断

(1)法令解釈

 登録免許税は、上記1の(3)のイからニのとおり、登録免許税法第9条の登記区分ごとに規定されている課税標準及び税率を基礎として算出されるのが原則であるところ、本件規定により、同一の債権のために数個の不動産に関する権利を目的とする抵当権等の設定の登記を申請する場合で、その申請が最初に受けた登記所と異なる登記所で登記を受けるものについては、特例の措置として、本件証明書類を添付して登記申請をするものに限り、当該登記に係る登録免許税は抵当権等の目的である不動産1個につき1,500円とされており、抵当権等の移転登記の場合においても同様に適用されている。
 また、登録免許税の納税義務は、上記1の(3)のへのとおり、登記の時に成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する。
 したがって、本件規定が適用されるのは、登記申請の時において本件証明書類が添付される場合に限られ、本件証明書類が添付されずに登記がなされた後においては、本件規定を適用することはできないと解される。

(2)本件通知処分について

イ 本件においては、〔1〕本件登記申請書には、課税標準の額が720,000,000円及び登録免許税の額が720,000円と記載されていること、〔2〕本件登記申請書に本件証明書類が添付されていないこと、〔3〕本件登記申請に当たり登録免許税の額720,000円が納付されていること、〔4〕原処分庁は、本件登記申請書を受理し本件登記をしたことが認められる。
 そうすると、請求人は、本件登記申請に当たり、本件規定によらず登記申請を行ったものであり、本件登記申請に係る課税標準の額及び登録免許税の額に誤りは認められず、また、原処分庁は、法令に基づき正当な手続によって登記申請を受理し本件登記を行ったものである。
 したがって、本件の場合、登録免許税法第31条第2項に規定する登記等の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことに該当しないから、本件還付通知請求には、還付の通知をすべき理由がないと認められる。
ロ これに対し、請求人は、一般に税の申告は修正又は訂正が認められ、登録免許税法においても、登記申請の修正又は訂正を認めない旨の規定はないから、本件還付通知請求は認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、申告した税額の変更の一般的手続としては、国税通則法において、税額が増額となる場合は修正申告、減額となる場合は更正の請求が定められており、いずれも、法令上明文規定がある場合にのみ修正又は訂正が認められていると解されるところ、登録免許税法には、本件証明書類の添付がなかった場合でも本件規定の適用が認められる旨の規定はない。
 そして、本件規定の適用については、上記(1)のとおりであり、本件登記の完了後において、本件証明書類を添付して本件還付通知請求をしても、本件規定を適用すべき事由はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、A物件の登記申請において所定の登録免許税を納付しているから、本件還付通知請求を認めないことは、二重課税を容認することとなる旨主張する。
 しかしながら、登録免許税は登記により納付すべき税額が確定するものであるところ、本件登記に係る登録免許税の額は、登録免許税法第9条の規定により算出された720,000円であり、当該税額に誤りはなく、二重課税とは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件還付請求に対し還付の通知をすべき理由がないとしてなされた本件通知処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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