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(平17.4.1裁決、裁決事例集No.69 437頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、譲渡担保権者である審査請求人(以下「請求人」という。)に対してなされた国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定に基づく告知処分及び譲渡担保財産に係る差押処分の適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、別表1に記載するC(以下「滞納者」という。)の相続税に係る滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するために、請求人が別表2に記載する不動産(以下「本件不動産」という。)の譲渡担保権者であるとして、請求人に対し、平成16年5月19日付で徴収法第24条第2項の規定に基づく告知書(以下「本件告知書」という。)を送付するとともに(以下、本件告知書に基づく告知を「本件告知処分」という。)、同日付で請求人の住所の所在地を所轄する税務署長及び滞納者に対してその旨通知をした。
ロ 原処分庁は、本件滞納国税が本件告知書を発した日から10日を経過した日までに完納されていないとして、徴収法第24条第3項の規定に基づき平成16年6月7日付で本件不動産について差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ハ 請求人は、平成16年7月15日に本件告知処分を不服として、また、同年8月7日に本件差押処分を不服としてそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月6日付でいずれも棄却する旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成16年11月5日に審査請求をした。

(3)関係法令の要旨

イ 徴収法第24条第1項は、納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(以下「譲渡担保財産」という。)があるときは、その者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる旨規定している。
ロ 徴収法第24条第2項は、税務署長は、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収しようとするときは、譲渡担保財産の権利者(以下「譲渡担保権者」という。)に対し、徴収しようとする金額その他必要な事項を記載した書面により告知しなければならない旨規定し、この場合においては、その者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。以下同じ。)の所在地を所轄する税務署長及び納税者に対しその旨を通知しなければならない旨規定している。
ハ 徴収法第24条第3項は、上記ロの告知書を発した日から10日を経過した日までにその徴収しようとする金額が完納されていないときは、徴収職員は、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができる旨規定し、この場合においては、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第3項から第5項まで及び徴収法第90条《換価の制限》第3項の規定を準用する旨規定している。
ニ 徴収法第24条第6項は、上記イの規定は、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利移転の登記がある場合又は譲渡担保権者が国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている事実を、その財産の売却決定の前日までに、証明した場合には、適用しない旨規定し、この場合においては、徴収法第15条《法定納期限等以前に設定された質権の優先》第2項後段及び同法第3項(優先質権の証明)の規定を準用する旨規定している。
ホ 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)第8条《譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知等》第1項は、上記ロの告知に係る書面には、次の(イ)ないし(ニ)の事項を記載しなければならない旨規定している。
(イ)納税者の氏名及び住所又は居所
(ロ)滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額
(ハ)譲渡担保財産の名称、数量、性質及び所在
(ニ)(ロ)の金額のうち上記イの規定により徴収しようとする金額
ヘ 徴収法第49条《差押財産の選択に当っての第三者の権利の尊重》は、徴収職員は、滞納者(譲渡担保権者を含む。)の財産を差し押さえるに当っては、滞納処分の執行に支障がない限り、その財産につき第三者が有する権利を害さないように努めなければならない旨規定している。
ト 徴収法第153条《滞納処分の停止の要件等》第1項は、税務署長は、滞納者につき次の各号に該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる旨規定している。
(イ)滞納処分を執行することができる財産がないとき(第1号)。
(ロ)滞納処分を執行することによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき(第2号)。
(ハ)その所在及び滞納処分を執行することができる財産がともに不明であるとき(第3号)。
チ 徴収法第153条第3項は、税務署長は、同条第2号の規定(上記トの(ロ))により滞納処分の執行を停止した場合において、その停止に係る国税について差し押さえた財産があるときは、その差押えを解除しなければならない旨規定している。
リ 相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 滞納者を含む4名の相続人(以下、これら相続人4名を「滞納者ら」という。)は、平成4年8月○日の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告及び修正申告に係る納付すべき相続税額について、滞納者らの関係法人が所有する不動産を担保提供し(以下、滞納者らが担保提供した不動産を「本件延納担保物件」という。)、それぞれD税務署長から延納許可(以下「本件延納許可」という。)を受けた。
 なお、本件延納担保物件に対する抵当権の設定順位については、滞納者らのうち滞納者を最後位として抵当権の設定登記がなされている。
ロ 本件延納許可の際における本件延納担保物件の評価額は、滞納者らの延納に係る相続税の額を上回っている。
ハ 本件滞納国税は、滞納者が本件延納許可に係る分納税額を納期限までに納付しなかったことにより、平成14年3月29日付で本件延納許可が取り消され、滞納となったものである。
ニ 本件延納担保物件は、本件告知処分の日現在において、任意売却及び公売によりすべて売却されている。
 なお、公売に伴う滞納者に対する配当額は、他の相続人よりも少額となっている。
ホ 滞納者は、原処分庁が請求人に対して本件告知処分を行った時点において、本件滞納国税を滞納している。
ヘ 本件滞納国税の法定納期限等は平成5年2月23日及び同年12月21日である。
ト 本件滞納国税は、本件告知処分に係る告知書を発した日の平成16年5月19日から10日を経過した日である同月30日までに完納されず、さらに本件差押処分の日である平成16年6月7日においても完納されていない。
チ 本件不動産に係る区分建物全部事項証明書(不動産登記簿)では、平成14年2月○日に譲渡担保を原因として、滞納者から請求人へ所有権移転の登記がなされている。
リ 請求人は滞納者との間で、平成14年3月○日に要旨次のとおりの公正証書(平成14年第○○号「債務承認・譲渡担保設定・弁済契約公正証書」)(以下「本件公正証書」という。)を作成している。
(イ)滞納者は請求人に対し、2,500万円の債務(以下「本件債務」という。)を負っている。
(ロ)滞納者は、本件債務及び利息等を担保するため、本件不動産の所有権を本日請求人に譲渡した。
(ハ)請求人は、滞納者に対し本日から本件債務の完済日である平成24年2月末日まで本件不動産を無償で使用することを認める。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由によりいずれも違法であるから、全部の取消しを求める。
イ 本件告知処分について
(イ)徴収法第24条は、譲渡担保財産から滞納者の国税を徴収することができるのは、滞納者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限られる旨規定しているが、請求人は、滞納者及び本件滞納国税に係る連帯納付義務者への滞納処分が十分に行われていないと認識している。
 したがって、滞納者に対する滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると判断した根拠並びに滞納処分及び本件滞納国税に係る連帯納付義務者に対する納付責任の追及に十分手を尽くしたことが、譲渡担保権者たる請求人に対して明らかにされなければ譲渡担保財産からの徴収は許されない。
(ロ)徴収法第49条は、徴収職員が滞納者(譲渡担保権者を含む。)の財産を差し押さえるに当たっては、滞納処分の執行に支障がない限り、その財産につき第三者が有する権利を害さないように努めなければならない旨規定しているところ、請求人は滞納者が滞納している事実を知ることも予測することもできなかった善意の第三者に当たるから、当該規定を遵守すべきである。
(ハ)原処分庁は、本件延納担保物件の売却代金について、滞納者らの滞納金額に均等に配当すべきであることから、本件延納許可の際の抵当権の設定において各相続人を同一順位にすべきであったところ、そのような手続を怠り、各相続人を同一順位にしない誤った抵当権の設定に基づき配当を行った。
 原処分庁は、抵当権設定順位について、各相続人に対し問い合わせをすべきであり、各相続人からの申出がないのであれば同一順位で抵当権を設定すべきであるところ、各相続人は原処分庁からの問い合わせがなく、ただ単に原処分庁の指示に従って担保提供に応じたものである。
 したがって、本件延納担保物件の売却代金の配当は、誤った抵当権の設定に基づくもので適法に行われたとはいえないから、このような抵当権の設定を行った経過説明と配当の是正を求める。
(ニ)本件告知処分は、滞納者の延納に係る本件滞納国税が、その後の経済情勢により、本件延納担保物件を換価してもなお徴収不足となるためにされたものであるが、このような徴収不足は原処分庁の責任で処理すべきである。
 また、原処分庁は、滞納者を含む各相続人の延納に係る相続税に満足する担保物を徴取していたのであるから、その後の経済情勢により、各相続人の延納に係る相続税を十分に満足できなくなったとしても均等に配当すべきであるところ、登記上の形式に従った原処分庁の配当は、著しく均衡を失したものであり、請求人の権利を侵害するものである。
(ホ)請求人は、本件不動産に体調不良の滞納者が居住しており、本件不動産が滞納者の生活維持に不可欠なものであるため譲渡担保権の実行を猶予していたのであるから、本件告知処分は不適切な処分であり取り消すべきである。
ロ 本件差押処分について
(イ)上記イのとおり、本件告知処分は取り消されるべきものであるから、本件差押処分も当然に取り消されるべきである。
(ロ)原処分庁所属の処分担当徴収職員(以下「本件処分担当者」という。)が滞納者に行った説明によれば、本件不動産を公売した後、請求人に弁済した残余を本件滞納国税に充てるとのことであったが、この説明は誤りであった。そのことにより、請求人は大きな被害を受けたのであるから、簡単に間違いで済むものではなく、譲渡担保権者である請求人の権利が保護される処置を求める。
(ハ)徴収法第153条の法意は憲法第25条に規定する国民の生活権保障を前提としているものであり、滞納者に生活権喪失を強いる権限までも原処分庁に与えるものではない。むしろ、原処分庁には、滞納者に健康で文化的な最低限度の生活権の保障措置を講ずること、例えば、滞納処分の停止及び差押えの解除が求められている。
 したがって、滞納者は、既に資力喪失、生活困窮の状況にあり、実質的に弁済不能であることは明白で、徴収法第153条第1項第2号に該当するものとして処理されるべきであり、同条第3項の規定により直ちに本件差押処分は解除されるべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件告知処分について
(イ)本件告知処分の適法性について
A 本件不動産については、譲渡担保を原因として平成14年3月7日付で請求人に対し所有権移転の登記がなされており、また、請求人及び滞納者は本件公正証書において本件不動産が譲渡担保財産であることを確認している事実が認められる。
B 本件滞納国税の法定納期限等は平成5年2月23日及び同年12月21日であり、本件不動産の譲渡担保を原因とする所有権移転登記は当該法定納期限等後であることが認められ、また、滞納者の財産について滞納処分を執行しても本件滞納国税に不足すると認められる。
 したがって、本件告知処分は、徴収法第24条の規定に基づいて適法に行われており、何ら違法、不当なものではない。
(ロ)上記1の(3)のイないしホのとおり、徴収法第24条の譲渡担保権者の物的納税責任の成立要件及び告知手続は法令によって詳細に規定されており、本件告知処分は、これらの規定に基づく事項を記載した書面により適法に行われたものであり、処分理由を明示すべき定めはない。
 したがって、本件につき徴収すべき国税に不足すると判断した根拠等を明らかにされなければ譲渡担保権者からの徴収は許されないとする請求人の主張には理由がない。
(ハ)徴収法第49条は、例えば、納税者に財産が数個ある場合において、一方に抵当権等が設定されており、他方が第三者の権利の対象となっていないもので、かつ、この財産により滞納国税を満足させることができるときは、後者を差し押さえなければならない旨を規定しているものである。
 これを本件に照らしてみれば、本件告知処分時において、滞納者及び本件滞納国税に係る連帯納付義務者には、本件不動産以外に本件滞納国税を徴収し得る財産がなく、本件不動産は徴収法第24条第1項に規定する徴収不足の要件に該当することから、本件告知処分を行い、本件差押処分を行ったものであり、請求人は善意の第三者に当たるから、徴収法第49条の規定を遵守すべきであるとする請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、原処分庁は本件延納担保物件に対する抵当権設定において、各相続人を同一順位にすべきである旨主張するが、抵当権設定時における本件延納担保物件の評価額が各相続人の相続税全額に充足しており、各相続人から同一順位で抵当権を設定することについての申出がなかったのであるから、原処分庁が抵当権設定についての手続を怠り、誤った抵当権設定を行ったものとは認められず、請求人の主張には理由がない。
(ホ)原処分庁は、滞納者の延納許可取消しに係る相続税につき、国税通則法第52条《担保の処分》第1項及び第4項の規定に基づき、担保物の処分を滞納処分の例により行うとともに、担保物の売却代金を滞納者の相続税に充ててもなお不足すると認められたため、徴収法第24条の規定に基づき本件不動産について滞納処分を執行したものである。
 したがって、請求人の主張するような経済情勢による事情があったとしても、そのことをもって本件告知処分の適法性及び妥当性に影響を及ぼすものではない。
 また、原処分庁は、本件延納担保物件の公売に際して、抵当権設定時と公売処分時との本件延納担保物件の評価額の変動により、各相続人の相続税全額には充足しないことが見込まれたことから、売却代金を均等に配当するために各相続人全員の申出が必要である旨を事前に各相続人に通知したが、滞納者以外の他の相続人からの申出がなかったため、売却代金の配当に当たっては、法律に基づき、各相続人の抵当権の設定順位にしたがって配当を行ったものであり、配当手続については、徴収法第129条《配当の原則》の規定に従って適法に行われており、請求人の主張はいずれも理由がない。
(ヘ)請求人は、本件告知処分よりも前に担保権の実行が可能であったところ、人道的見地から猶予していた旨主張するが、本件不動産により担保される請求人の債権が本件滞納国税の法定納期限等より劣後しているうえ、譲渡担保財産については、弁済期の経過後であっても、債権者が担保権の実行をするまでの間は、債務者は債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復することができるものと解されていることから、本件告知処分時において本件不動産がなお譲渡担保財産として存続していることは明らかであり、たとえ請求人のいうような事情があったからといって、それが本件告知処分に影響を与えるものではない。
ロ 本件差押処分について
(イ)本件差押処分の適法性について
A 徴収法第24条第3項の規定によれば、同条第2項の告知書を発した日から10日を経過した日までにその徴収しようとする金額が完納されていないときは、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができるとされている。
B 本件滞納国税は、本件告知書を発した日から10日を経過した日である平成16年5月30日までに完納されていないことが認められる。
 したがって、本件差押処分は同項の規定に基づいて適法に行われており、何ら違法、不当なものではない。
(ロ)本件告知処分に当たり、本件処分担当者が説明した内容について、仮に請求人が主張するような説明誤りがあったとしても、譲渡担保権者の物的納税責任が法律の規定に基づき成立し、譲渡担保財産から徴収するものであることからすれば、上記説明誤りをもって本件差押処分が当然に違法又は不当となるものではない。
(ハ)徴収法第153条の規定は、滞納処分の停止の要件等に関するものであって、差押えの制限について規定しているものではなく、本件差押処分の適法性及び妥当性に影響を及ぼすものではないことから、上記法令についての見解に基づく請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 滞納者は、本件告知処分の日現在において、本件不動産以外に本件滞納国税を満足することができる財産の所有は認められない。
ロ 連帯納付義務者(滞納者以外の相続人)は、本件告知処分の日現在において、本件滞納国税を満足することができる財産の所有は認められない。

(2)法令解釈

イ 譲渡担保とは債権の担保を目的として、財産の所有権を債務者から債権者に形式的に移転させることをいい、譲渡担保財産に対する滞納処分については、法形式上は譲渡担保権者の財産として強制執行の対象となるものであって、譲渡担保設定者の財産としては強制執行できないのが原則である。しかし、譲渡担保はその実質が担保であることから、法は、担保権と国税との関係に準じた調整措置をとることとし、法形式上は譲渡担保権者の財産であっても、徴収法第24条第1項及び第6項の規定により、一定の要件の下に譲渡担保設定者の国税をそこから徴収できることとしている。
ロ そして、これらの規定上、譲渡担保権者に譲渡担保設定者の滞納国税につき譲渡担保財産に関する物的納税責任を課される要件としては、〔1〕納税者が国税を滞納していること、〔2〕納税者が譲渡した財産で、その譲渡により担保の目的となっている財産(譲渡担保財産)があること、〔3〕納税者の財産につき滞納処分を執行しても、なお徴収すべき国税に不足すると認められること、及び〔4〕納税者の国税の法定納期限等以前に、その譲渡担保財産の譲渡に係る権利移転がされた旨の登記又は証明がないことのいずれもが満たされることであると解される。
 なお、上記の要件のうち〔3〕「徴収すべき国税に不足すると認められるとき」とは、税務署長が、納税者の財産を調査し、徴収法第24条第2項に規定する告知書を発するときの現況において、納税者に帰属する財産で滞納処分により徴収できる財産の価値が、納税者の国税の総額に満たないと認められる場合をいい、滞納処分を現実に執行した結果に基づく必要はないと解される。
 そして、上記の各要件を満たした場合は、徴収法第24条第2項の規定により、譲渡担保権者に対し書面により告知するとともに、譲渡担保権者の住所又は居所の所在地を所轄する税務署長及び納税者に対しその旨を通知し、譲渡担保権者に告知書を発した日から10日を経過した日までに滞納国税が完納されないときは、徴収法第24条第3項の規定により、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができると解される。

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(3)本件告知処分について

イ 請求人に対する物的納税責任の成立要件等
(イ)請求人について、譲渡担保権者として物的納税責任が課されるための上記(2)のロの各要件の有無を検討すると、〔1〕滞納者は、本件告知処分の日現在において、別表1に記載の本件滞納国税を滞納していること、〔2〕上記1の(4)のチ及びリのとおり、本件不動産は、担保目的で滞納者から請求人に所有権が移転された譲渡担保財産であること、〔3〕上記の(1)のイ及びロのとおり、本件告知処分のときの現況において、滞納者及び連帯納付義務者らは本件不動産以外に本件滞納国税を徴収すべき財産はないこと、〔4〕上記1の(4)のへ及びチのとおり、本件滞納国税の法定納期限等(平成5年2月23日及び平成5年12月21日)後に、譲渡担保財産の譲渡に係る権利移転の登記(平成14年2月○日)がされていることから、徴収法第24条第1項及び第6項に規定するすべての要件に該当していることが認められる。
(ロ)そして、原処分庁は、徴収法第24条第2項の規定により、本件告知書により請求人に対し告知するとともに、請求人の住所の所在地を所轄するE税務署長及び滞納者に対しその旨を通知している。
(ハ)したがって、本件告知処分は、徴収法第24条第1項及び第6項に規定する要件に適合し、同条第2項に規定する手続にしたがって適法になされていることが認められる。
ロ 請求人の主張について
(イ)請求人は、滞納者及び本件滞納国税に係る連帯納付義務者への滞納処分が十分に行われていないと認識しており、徴収すべき国税に不足すると判断した根拠等を明らかにしなければ譲渡担保権者からの徴収は許されない旨主張する。
 しかしながら、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収しようとするときは、徴収法第24条第2項において告知することが規定されており、その趣旨は、滞納に係る国税及び滞納国税を徴収しようとする譲渡担保財産を特定し、これを譲渡担保権者に告知すること、さらに、告知処分を受ける者の不服申立てについて便宜を図ることにあると解される。
 そして、この趣旨から徴収法施行令第8条は告知書に記載すべき事項を列挙しているのであり、当該条項には、徴収すべき国税に不足すると判断した根拠は記載事項とされていないことから、当該根拠の記載の有無が本件告知処分の適法性及び妥当性に影響を及ぼすものではない。
 なお、滞納者が本件告知処分のときの現況において、本件不動産以外に本件滞納国税を徴収することができる財産がないことについては、上記2の(1)のロの(ハ)のとおり請求人も自認しているところである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、徴収法第49条の規定によれば、財産を差し押さえるに当たっては、滞納処分の執行に支障がない限り、その財産につき第三者が有する権利を害さないように努めるべきとされているところ、請求人は滞納者が滞納している事実を知ることも予測することもできなかった善意の第三者に当たるから、当該規定を遵守すべきである旨主張する。
 しかしながら、徴収法第49条の規定の趣旨は、徴収職員が差押えに当たって通常の調査をした結果、差し押さえ得る財産が複数ある場合における第三者の権利の尊重、例えば、一方は抵当権が設定されており、他方は第三者の権利の対象となっていないもので、かつ、この財産により滞納国税の額を満足させることができる場合は、後者を差し押さえなければならないことなどを規定したものであり、本件不動産以外に本件滞納国税を徴収し得る財産がない本件については同条適用の余地はない。
 また、譲渡担保権者に対する物的納税責任は、請求人が滞納者の滞納の事実を知り得ること及び予測し得ることの可否にかかわらず、徴収法第24条第1項及び第6項に規定する要件に該当することによって課されるものである。そして、本件告知処分時において、滞納者及び本件滞納国税に係る連帯納付義務者には、本件不動産以外に本件滞納国税を徴収し得る財産がなく、徴収法第24条第1項及び第6項に規定する徴収不足の要件に該当することは上記イの(イ)のとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、原処分庁は、本件延納担保物件の抵当権の設定において各相続人(滞納者ら)を同一順位にすべきであるところ、そのような手続を怠り、誤った抵当権の設定を行った旨主張する。
 しかしながら、本件延納担保物件が本件延納許可時において滞納者らの延納税額を満足するものであったことは、請求人も上記2の(1)のイの(ニ)において自認しているところであり、十分な担保価値が存する同一の担保物に複数の納税者の抵当権を設定する場合、各納税者から設定順位に関する申出があればともかく、必ず同一順位に設定すべきとする規定もないことから、原処分庁が抵当権の設定手続を誤ったとは認められない。
 そもそも、本件延納許可は滞納者らに対してなされたものであって、請求人に対してなされたものではないことから、本件延納許可に伴う本件延納担保物件に係る抵当権の設定順位について、請求人は不服申立てをすることができる立場にはない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は失当である。
(ニ)請求人は、本件告知処分は、滞納者の延納に係る国税が、その後の経済情勢により、本件延納担保物件を換価してもなお徴収不足となるためにされたものであるから、当該徴収不足は原処分庁の責任で処理すべきであり、その後の経済情勢により、各相続人の延納に係る相続税を十分に満足できなくなったことに伴い、本件延納担保物件の売却に係る配当は各相続人に均等に配当すべきであった旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が、本件延納担保物件を換価しても経済情勢により滞納国税の額に対して、なお徴収不足となることに責任をとらなければならないとする法令等による規定はなく、また、請求人は、徴収法第四節《換価代金等の配当》に規定する配当に参加し得る債権者又は滞納者にも該当しないことから、本件延納担保物件の売却に伴う配当に関して不服申立てをすることができる立場にはない。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
(ホ)請求人は、本件告知処分よりも前に担保権の実行が可能であったところ、人道的見地から猶予していた旨主張する。
 しかしながら、譲渡担保権者に対する物的納税責任は、徴収法第24条第1項及び第6項に規定する要件を満たすことで必然的に負うことになるものであり、仮に、請求人が人道的見地で担保権の実行を猶予していたと主張するような事情があったとしても、それが本件告知処分の適法性及び妥当性に影響を及ぼすものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

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(4)本件差押処分について

イ 徴収法第24条第3項は、同条第2項の告知書が発せられた日から10日を経過した日までに滞納国税が完納されていないときは、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができる旨規定している。
 これを本件についてみると、上記1の(4)のトのとおり、本件滞納国税は、本件告知書が発せられた日から10日を経過した日までに完納されていないことから、本件不動産に対する差押えがなされたものである。
 したがって、本件差押処分は、徴収法第24条第3項の規定に基づいて適法に行われていると認められる。
ロ 請求人の主張について
(イ)請求人は、本件告知処分は取り消されるべきものであるから、本件差押処分も当然に取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のイ及び上記イのとおり、本件告知処分及び本件差押処分は適法になされていることから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、本件処分担当者から、本件不動産を公売した後、請求人に弁済した残余を本件滞納国税に充てるとの誤った説明があり、そのことにより請求人は大きな被害を受けたことから、請求人の権利の保護を求める旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、請求人が主張するような説明があったことはうかがえるものの、本件告知処分及び本件差押処分が適法に行われている以上、仮に、本件処分担当者の説明に誤りがあったとしてもそれが直ちに本件差押処分の適法性及び妥当性に影響を及ぼすものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
(ハ)請求人は、滞納者は、徴収法第153条第1項第2号に該当し、原処分庁には生活権を保障する措置として、滞納処分の停止及び差押えの解除を求められている旨主張する。
 しかしながら、徴収法153条第1項の規定は、差押えの制限についての規定ではないことから、本件告知処分及び本件差押処分の適法性及び妥当性に影響を及ぼすものではない。
 また、徴収法153条の規定に基づく滞納処分の停止は、税務署長等の職権により行われ、たとえ同条第1項各号所定の停止の要件に該当する場合であっても、その停止をするかどうかは税務署長等の裁量にゆだねられていると解され、当審判所が滞納者の生活状況及び所有財産等を調査した限りにおいて、原処分庁が徴収法第153条第1項第2号の規定に基づく滞納処分の停止をしていないことについて、裁量権の逸脱は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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