ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.70 >> (平17.9.27裁決、裁決事例集No.70 9頁)

(平17.9.27裁決、裁決事例集No.70 9頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成14年分の贈与税につき、原処分庁が過少申告加算税の賦課決定処分をしたことについて、請求人が、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項及び第5項の適用により過少申告加算税を賦課することはできないから、上記各条項の適用をいずれも否定してなされた上記処分は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、原処分庁に対し、別表の「申告」欄のとおり記載した平成14年分の贈与税の申告書を法定申告期限までに提出した(以下「本件申告」という。)。
ロ 請求人は、平成16年4月6日、原処分庁に対し、平成14年分の贈与税について、別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、別表の「賦課決定処分」欄のとおりの原処分をした。
ニ 請求人は、平成16年6月14日、原処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月8日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、平成16年9月29日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3)関係法令

 別紙のとおり

(4)基礎事実

(当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)
イ 本件申告
(イ)請求人は、平成14年3月22日、P市Q町○−○に居住するCから、D社の株式○○○株の贈与を受けた(以下、贈与を受けた株式を「本件株式」という。)。
 なお、請求人がD社の代表取締役に就任したのは、平成14年1月30日である。
(ロ)請求人は、本件申告に際し、D社の平成13年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成13年12月期」という。)の法人税の確定申告書に記載された所得金額等を基に、本件株式の価額を算定した。
ロ 原処分庁等による税務調査
(イ)E国税局A部門所属の調査担当者は、平成15年8月25日、D社の本社において、同社の法人税の調査(以下「本件法人税調査」という。)を開始した。
(ロ)原処分庁所属の調査担当者(以下「署調査担当者」という。)及びE国税局B部門所属の調査担当者(以下「国税局調査担当者」といい、署調査担当者と併せて「原処分調査担当者」という。)は、平成15年8月29日、D社の本社において、請求人の平成14年分の贈与税の調査(以下「原処分調査」という。)のために、請求人及びその代理人であるF税理士に面接し、原処分調査を開始した。
(ハ)原処分調査担当者は、平成15年9月29日、D社の本社において、D社の株式の贈与を受けたGの平成14年分の贈与税の調査のために、G、請求人、C及びF税理士に面接し、Gの平成14年分の贈与税の調査を開始した。
ハ D社による法人税の修正申告等
(イ)D社は、平成16年3月30日、原処分庁に対し、E国税局A部門所属の調査担当者の、本件法人税調査によって指摘された法人税の非違事項の一部についてこれを認め、平成13年12月期及び平成14年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の修正申告書を提出した。
(ロ)上記(イ)により、D社の平成13年12月期の法人税の所得金額等が増加し、請求人の平成14年分の贈与税の算出基礎となる本件株式の価額が増加した。
(ハ)請求人は、増加後の本件株式の価額を基にして、本件修正申告書を提出した。

トップに戻る

2 争点

(1)本件修正申告書の提出が、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるか否か(争点1)

(2)通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か(争点2)

3 争点に対する当事者の主張

(1)争点1について

イ 請求人
(イ)請求人は、平成15年11月に、請求人の平成14年分の贈与税については現状、問題はないと電話で説明を受けた後、本件修正申告書を提出するまで、原処分庁から何の連絡も受けなかったのであり、また、本件法人税調査と原処分調査は別なものであるから、原処分調査担当者が法人税の調査結果により請求人の平成14年分の贈与税が増額となる旨を説明したり、指摘したからといって、原処分調査が継続しているとするのは誤りである。
(ロ)したがって、原処分調査は、平成15年11月に終結していたとみるのが相当であり、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。
ロ 原処分庁
(イ)通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるというためには、その修正申告書が提出される以前に、課税庁において当該申告内容についての調査が開始されたとしても、それについて納税者が認識することができる前に自発的な意思に基づいて修正申告書の提出がされる必要があるところ、原処分調査担当者は、平成15年11月14日に、F税理士に対して、本件法人税調査の結果次第により、本件申告に関して修正申告が必要となる旨を説明している。
 したがって、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。
(ロ)なお、原処分調査担当者は、請求人に対し、本件修正申告書の提出後においても、本件法人税調査の結果に基づき、再度の修正申告書の提出が必要となる旨を説明するなどしており、平成15年11月に原処分調査が終了した事実はない。

(2)争点2について

イ 請求人
 請求人は、本件申告の時点では適正であるとされていたD社の法人税申告書を基に、本件株式の価額を計算し、これを基礎に本件申告を行ったのであり、本件法人税調査の結果により、本件株式の価額が変わったことに関して過失はない。
 したがって、本件申告は、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある場合の「申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により納税者の故意過失に基づかない過少申告となり、申告した税額に不足が生じた場合」に該当するというべきである。
ロ 原処分庁
 請求人には、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に該当する事情は認められない。

トップに戻る

4 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
イ 国税局調査担当者は、平成15年8月29日の原処分調査における面接の際、請求人及びF税理士に対し、原処分調査の理由を、〔1〕本件申告の内容が正しいかどうか、〔2〕D社の株式の価額が正しいかどうかを確認するためである旨説明するとともに、本件法人税調査の結果によって、D社の株式の価額が変わるので、その結果が原処分調査の結果に影響する旨説明した。
ロ 原処分調査担当者は、平成15年9月29日のGの平成14年分の贈与税の調査の際、請求人及びF税理士に対し、上記イと同様の内容を説明した。
ハ 署調査担当者は、平成15年11月14日、Gの平成14年分の贈与税の調査の関連でF税理士に電話した際に、D社に対する本件法人税調査が終了していない旨、また、その調査結果次第でD社の株式の価額が変わってくる旨説明した。
ニ 署調査担当者は、平成15年12月から平成16年1月ころにかけて、F税理士に対し、本件法人税調査が終わらないので、原処分調査の結論をもうしばらく待ってほしい旨連絡をした。
ホ F税理士は、平成16年3月30日、署調査担当者に対し、本件法人税調査に基づきD社の修正申告書を提出した旨、それに伴い、本件申告について修正申告書を提出する旨電話で連絡した。
ヘ 署調査担当者は、平成16年6月14日、D社の会議室において、請求人及びF税理士に対し、本件法人税調査の結果に基づき、再度の修正申告書の提出が必要となる旨説明した。

(2)争点1(本件修正申告書の提出が、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるか否か)について

イ 通則法第65条第5項の「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、税務職員が申告に係る国税についての調査に着手し、その申告が不適正であることを発見するに足りるか又はその端緒となる資料を発見し、これによりその後調査が進行して先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し、更正に至ることが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達する前に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識することなく自発的に修正申告書を提出したときをいうと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、国税局調査担当者は、請求人に対し、平成15年8月29日の原処分調査における面接において、原処分調査の理由として、本件法人税調査の結果によって、D社の株式の価額が変わるので、その結果が原処分調査の結果に影響する旨説明していることや、署調査担当者は、平成15年12月から平成16年1月ころにかけて、F税理士に対し、本件法人税調査が終わらないので、原処分調査の結論をもうしばらく待ってほしい旨の連絡をしていることなどの事情を考慮すれば、遅くとも、D社が法人税の修正申告書を提出した平成16年3月30日の時点においては、その後、原処分調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達したということができる。
 そして、F税理士が、平成16年3月30日、署調査担当者に対し、D社の修正申告書の提出に伴い、本件申告について修正申告書を提出する旨電話で連絡した事実からすると、遅くとも、同日、D社の代表取締役である請求人は、請求人の平成14年分の贈与税の課税要件を更正する事実の発生、すなわち本件株式の価額が増加したことを確定的に認識したものといえる。
 そうすると、平成16年4月6日にされた本件修正申告書の提出は、請求人が、上記段階に達した後に、やがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意したことによるものというべきであるから、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には当たらない。
ハ なお、この点、請求人は、前記3の(1)のイのとおり主張するが、上記(1)のへの事実からすれば、本件修正申告書が提出された平成16年4月6日の時点で、原処分調査が継続していたことは明らかであり、本件修正申告書の提出が、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たらないことは、上記ロのとおりであるから、請求人の上記主張には理由がない。

トップに戻る

(3)争点2(通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か)について

イ 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」とは、過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰すことができない客観的な障害に起因する場合など、その申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが、不当若しくは酷になる場合を意味するものと解される。
ロ これを本件についてみると、請求人は、本件申告に際し、D社の平成13年12月期の法人税の確定申告書に記載された所得金額等を基に、本件株式の価額を算定したものであるが、請求人が本件申告の基礎資料とした上記所得金額等は、その後に、同社による修正申告によって増加するに至ったのであるから、そもそも誤った内容のものであったのであり、これは同社の法人税の申告が適正に行われていなかったことによるものである。
 そして、請求人は、上記法人税の確定申告書の提出時において、D社の代表取締役の地位にあったのであるから、同社の税務申告の最終責任者であると認められる。
 また、請求人は、本件申告時においても同じく代表取締役の地位にあったのであるから、上記法人税の確定申告書の記載内容が適正であるかどうかを確認できる立場にあった。
 これらのことを考慮すると、その誤りを看過し、本件では、過少申告となったことが、真にやむを得ない理由によるもので、請求人に過少申告加算税を課すことが、不当若しくは酷になる場合に当たるとは認め難い。
ハ したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(5)以上のとおりであるから、原処分は適法である。

別紙 関係法令

1 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を賦課する旨規定している。
2 通則法第65条第4項は、修正申告に基づき納付すべきこととなった税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として所定の方法により計算した金額を控除して、同条第1項の規定を適用する旨規定している。
3 通則法第65条第5項は、同条第1項の規定は、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、適用しないと規定している。

トップに戻る