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(平17.10.26裁決、裁決事例集No.70 20頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、申告書及び添附書類の作成及び提出(以下「申告手続」という。)の代行を委任した税務職員の不正な還付請求申告によって、修正申告をするに至った審査請求人(以下「請求人」という。)が、申告手続の代行を委任した以上、受任者のした不正な行為の効果は請求人に及ぶとしてされた、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項の規定に基づく重加算税の賦課決定処分を不服として、過少申告加算税に相当する部分を含めて、全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年1月中旬から同年2月上旬ころ、当時、C税務署職員であったDに対し、平成10年分ないし平成13年分及び平成15年分の給与所得の源泉徴収票(以下「本件各源泉徴収票」という。)等を交付し、本件各源泉徴収票に係る年分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の還付を受けるための申告手続の代行を委任した(以下、この委任に基づく申告を「本件確定申告」という。)。
ロ 原処分庁は、平成16年3月○日、別表の「確定申告」欄のとおり記載された請求人名義の平成12年分、平成13年分及び平成15年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の各確定申告書を、また、同年3月30日、別表の「第1次修正申告」欄のとおり記載された請求人名義の本件各年分の所得税の各修正申告書をそれぞれ受理した(以下、この各確定申告書、各修正申告書を、それぞれ「本件各確定申告書」、「本件第1次各修正申告書」という。)。
ハ その後、原処分庁は、E国税局の調査(以下「本件調査」という。)の結果、本件第1次各修正申告書は、請求人の意思に基づかないものであることが明らかになったとして、平成16年6月22日、本件第1次各修正申告書の無効を確認するための部内決議をした上で、同年6月24日、別表の「第2次修正申告」欄のとおり記載された本件各年分の所得税の各修正申告書を改めて受理した(以下、この各修正申告書を「本件第2次各修正申告書」といい、これによる申告を「本件第2次修正申告」という。)。
ニ 原処分庁は、本件第2次修正申告の内容に基づき、別表の「賦課決定処分」欄記載のとおり、平成16年7月1日付で、本件各年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、平成16年8月20日、本件各賦課決定処分を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月5日付で異議申立てを棄却するとの異議決定をしたことから、同年11月29日に審査請求をした。

(3)基礎事実(争いのない事実で、当審判所の調査の結果によっても認められる事実)

イ 請求人は、友人であるFを通じて、Dに対し、本件各源泉徴収票と住所、氏名、生年月日及び還付される税金の受取場所(G銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○))などを記載し、押印した所得税の確定申告書の未使用の用紙5枚(以下「本件口座等を記載した申告書用紙」という。)を交付し、申告手続の代行を委任した。
ロ Dは、請求人の委任を受けて、本件口座等を記載した申告書用紙を使用せずに、本件各確定申告書を作成し、平成16年3月○日、原処分庁に対し、本件各年分の本件各源泉徴収票のほか、報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(以下「本件各支払調書」という。)及び収支内訳書(一般用)(以下「本件各収支内訳書」という。)を、それぞれ添付して提出した。
ハ Dは、本件各年分の請求人の事業所得について、架空の本件各支払調書を作成し、本件各収支内訳書に虚偽の収入金額及び必要経費を計上することにより、多額の損失があったかのように仮装し、本件各確定申告書を提出した。
ニ 本件第1次各修正申告書の作成及び提出は、Dが独自に行ったもので、請求人の委任に基づくものではない。

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2 争点

(1)Dによる本件確定申告に係る隠ぺい・仮装行為を、請求人の行為と同一視し得るものとして、請求人に対し、重加算税を賦課することができるか否か(争点1)
(2)本件第2次修正申告は、請求人の意思に基づかないものか否か(争点2)
(3)過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由の有無(争点3)

3 争点に対する当事者の主張

(1)争点1について

イ 原処分庁
(イ)確定申告は、納税者が自らの判断と責任において、その税額を確定する行為であるので、納税者が第三者に申告手続の代行をゆだねた場合には、第三者が行った確定申告に係る行為は、納税者の行為と同一視されると解されている。
(ロ)請求人は、申告手続の代行について、Fを介し、Dに依頼した旨申し述べており、Dは、本件各確定申告書に架空の報酬に係る損失金額及び源泉所得税額を記載しており、事実の隠ぺい又は仮装行為を行っている。
(ハ)そうすると、上記(ロ)のDの行為は、通則法第68条第1項に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当し、請求人の行為と同一視されるから、その効果は、請求人に及ぶ。
(ニ)したがって、請求人に対し、重加算税を賦課することができる。
ロ 請求人
 本件各確定申告書の提出に当たり、Dが作成した本件各確定申告書並びにそれに添付された本件各支払調書及び本件各収支内訳書は、Dが請求人の了解を得ず作成したものであり、請求人は、重加算税の賦課要件である隠ぺい又は仮装行為を行っていない。
 したがって、Dのした隠ぺい又は仮装行為の効果は、請求人には及ばないから、請求人に対し、重加算税を賦課することはできない。

(2)争点2について

イ 請求人
(イ)請求人は、税務当局により、本件第2次各修正申告書に強制的に署名、押印させられた。
(ロ)したがって、本件第2次修正申告は、請求人の意思に基づくものではない。
ロ 原処分庁
 上記イの(イ)の事実は否認する。
 請求人は、本件調査の結果、本件各確定申告書の記載内容が誤っているとして、本件第2次各修正申告書を提出したものである。

(3)争点3について

イ 請求人
 本件確定申告は、社会的に信用度の高い税務署職員を信頼して任せてしたものであり、また、上記(1)のロのとおり、本件確定申告の効果は請求人に及ばない。
 したがって、本件確定申告によって、請求人が本件第2次修正申告をしなければならなくなり、それにより納付すべき税額が生じたとしても、請求人の責めに帰すべきことではなく、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由がある。
ロ 原処分庁
 過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由とは、法定申告期限内に正しい申告をしなかったことが、真にやむを得ない理由によるものとされているところ、上記(1)のイのとおり、本件確定申告に係るDの一切の行為の効果は、請求人に及ぶと認められる本件において、通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない正当な理由があるとは認められない。

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4 判断

(1)前提(Dによる本件確定申告の効果が、請求人に及ぶか否か)について

イ 所得税については、自己の所得を正しく計算し、自らの判断と責任で自主的に申告納税するという申告納税制度が採用されているが、この制度の下においても、納税者の判断とその責任において、申告手続の代行を第三者に一任し、その者が納税者に代わって申告した場合には、その申告は、そのまま申告名義人である納税者が行った申告として取り扱うべきものと解される。
ロ これを本件についてみると、前記1の(3)のイ及びロ並びに下記(2)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は、Fを介して、申告手続の代行を、Dに一任しているので、請求人が本件確定申告の内容を承知しているか否かにかかわらず、本件確定申告は、申告名義人である請求人の行った申告として取り扱うべきものであって、その効果は、請求人に及ぶ。

(2)争点1(Dによる本件確定申告に係る隠ぺい・仮装行為を、請求人の行為と同一視し得るものとして、請求人に対し、重加算税を賦課することができるか否か)について

イ 前記1の(3)の基礎事実に加え、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。
(イ)請求人は、平成16年1月中旬ころ、Fから、知り合いの税金に詳しい人に源泉徴収票を渡せば、申告手続の代行をしてくれた上、税金が戻ってくるという話を聞き、申告手続の代行を委任することとした。
(ロ)その後、請求人は、平成16年1月下旬か2月上旬ころ、Fの自宅において、同人に対し、請求人の源泉徴収票及び税金の還付金の振込口座番号などを書いた未使用の確定申告書用紙5枚を渡したが、そのとき、Fに対し、申告手続の代行を委任する相手が誰であるかを尋ね、その人物が税務職員であることを知った。
(ハ)請求人は、平成16年3月27日、Fから連絡を受け、税務署から何か連絡があったら知らないと言うように、申告手続の代行を委任した人物が言っていたことなどを知った。
 請求人は、もしかしたら、何か悪いことをしたのではないかという疑いを持ち、税金はもう戻ってこないのではないかと思ったが、そのまま放置していた。
ロ 重加算税の制度は、過少申告をした納税者が、課税要件事実の全部又は一部の隠ぺい、又は仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い負担を課し、行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度及び徴収納付制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 そして、納税者が申告を第三者に委任した場合において、当該第三者がした隠ぺい・仮装行為に基づく申告について、納税者がどこまで責任を負うべきかについては、納税者と当該第三者との関係、当該行為に対する納税者の認識及びその可能性、納税者の黙認の有無、納税者が払った注意の程度等に照らして、個別的、具体的に判断されるべきものであり、したがって、上記の事実関係を基礎にして、納税者が当該第三者に対する選任、監督上の注意義務を尽くすことにより、当該第三者の隠ぺい・仮装行為を防止することができた場合には、当該第三者の不正行為を納税者の行為と同一視し得るものとして、その防止を怠った当該納税者に対し重加算税を賦課することができると解すべきである。
ハ そこで、これを本件についてみると、前記1の(3)のハのとおり、Dは、本件各年分の請求人の事業所得について、多額の損失があったかのように仮装して、本件各確定申告書を提出したものであり、これは、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した」ものということができる。
 そして、前記1の(3)のイ及びロのとおり、Dは、請求人から、本件各確定申告書の作成及び提出を委任された者であると認められるところ、請求人は、本件各確定申告書の作成及び提出を委任する者としてDを選任するに当たって、前記1の(3)のイ並びに上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、Dがどのようにして申告手続を代行し、どのような理由で税金が戻ってくるのかという肝心な点について、確認しておらず、また、自ら予定する申告内容を具体的に指示することもなく、Fを介して、本件各源泉徴収票と本件口座等を記載した申告書用紙をDに交付することにより、申告手続の代行を包括的に一任している。
 また、その後の本件第1次各修正申告書の作成及び提出は、前記1の(3)のニのとおり、請求人の委任に基づくものではなく、本件の一連の状況についてみても、上記イの(ハ)のとおり、請求人は、平成16年3月27日には、本件確定申告について、何か悪いことをしたのではないかという疑念を抱くに至りながら、そのまま放置していた。
 以上の事実関係からすれば、請求人には、申告を委任したDについて、その選任、監督上の注意義務を尽くさなかった違法があるというべきであるから、Dによる本件の隠ぺい・仮装行為は、請求人の行為と同一視し得るものとして、請求人に対し、重加算税を賦課することができるというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3)争点2(本件第2次修正申告は、請求人の意思に基づかないものか否か)について

イ 原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。
(イ)請求人と面接した原処分庁所属の職員(以下「担当職員」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 担当職員は、請求人と、平成16年6月24日午後1時に、原処分庁所属のH部門統括国税調査官及びJ部門統括国税徴収官(以下、両者を併せて「各統括官」という。)立会いの下で面接した。
B 請求人は、本件調査を担当した職員から調査内容について説明を受けて、理解しているようであったが、修正申告書の提出については理解していない様子だったので、担当職員は、前もって金額欄(「収入金額」欄ないし「第3期分の税額の増加額」欄の該当部分)を記載しておいた修正申告書(以下「原処分庁作成各修正申告書」という。)を示しながら、修正申告の仕組み、所得税、加算税及び延滞税について説明したところ、修正申告書の提出について理解した様子で、原処分庁作成各修正申告書の「住所」欄ないし「電話番号」欄に自ら署名、押印し、提出した。
(ロ)請求人は、自身に対する所得税法違反、詐欺未遂被疑事件につき、取調べを担当した○○地方検察庁の担当検事(以下「検察官検事」という。)に対し、本件各確定申告書の「還付される税金」欄に記載された金額は、全くでたらめなもので、本来還付されるはずがない税金である旨供述した。
ロ 請求人は、税務当局により、本件第2次各修正申告書に強制的に署名、押印させられた旨主張するが、強制されたことについての具体的事実については、原処分庁が修正申告書の提出を拒否できるとは一言も言わなかったと主張するのみで、これに関する的確な証拠も提出せず、当審判所の調査によっても、そうした事実の存在は確認できない。
 かえって、上記イの(イ)のとおり、担当職員による請求人との面接は、原処分庁所属の各統括官立会いの下で行われていること、担当職員は、当日行った修正申告書の提出についての説明状況、請求人の応答ぶり、署名、押印の状況といった点について、具体的かつ詳細に答述していること、更に、上記イの(ロ)のとおり、請求人は、検察官検事に対し、本件各確定申告書の「還付される税金」欄に記載された金額は、全くでたらめなもので、本来還付されるはずがない税金である旨供述していることからすると、請求人は、自らの意思で原処分庁作成各修正申告書に署名、押印し、本件第2次各修正申告書を作成、提出したものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(4)争点3(過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由の有無)について

イ 通則法第65条第4項は、修正申告に基づき納付すべきこととなった税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として所定の方法により計算した金額を控除して、過少申告加算税を賦課する旨規定しているところ、ここに規定する「正当な理由」とは、過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因する場合など、その申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を賦課することが、不当若しくは酷になる場合を意味するものと解される。
ロ これを本件についてみると、請求人は、〔1〕本件確定申告は、社会的に信用度の高い税務署職員を信頼して任せてしたものであること、〔2〕本件確定申告の効果は請求人に及ばないことをもって、正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、上記〔1〕の点については、税務職員が、委任を受けて申告手続の代行をするなど、特定の納税者に便宜を図ることが禁止されていることは公知の事実であり、上記(2)のイの(ロ)のとおり、請求人は、申告手続の代行を委任する時点で、受任者が現職の税務職員であるとの認識を有していたにもかかわらず、一般的な注意義務を怠った過失により、上記の公知の事実を知らなかったものと認められるのであり、また、上記〔2〕の点については、既に上記(1)で検討したとおり、理由がない。
 したがって、請求人の主張する上記各事情は、いずれも申告が真にやむを得ない理由によるものであり、過少申告加算税を課すことが、不当若しくは酷になる場合には当たらず、ほかに、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」に当たる事情があるとも認められない。

(5)本件各賦課決定処分について

イ 以上検討したとおり、Dによる本件確定申告に係る隠ぺい・仮装行為を、請求人の行為と同一視し得るものとして、請求人に対し、重加算税を賦課することはできるところ、本件第2次修正申告は、請求人の意思に基づかないものとは認められず、本件第2次修正申告により減少する還付金の額に相当する税額が修正前の還付金の額に相当する税額の計算の基礎とされていたことについて正当な理由があるとは認められない。
ロ そして、重加算税の額は、本件第2次修正申告により減少する還付金の額に相当する税額に基づき、通則法第68条第1項の規定により正しく計算されている。
ハ したがって、本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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