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(平17.12.19裁決、裁決事例集No.70 249頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、空気清浄機販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)において、8事業年度にわたる特許権の使用料に係る収益の帰属誤りから生じた欠損金額のうち、国税通則法(平成16年法律第14号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第2項の規定により更正することができる期間を経過した事業年度に係る欠損金額について、法人税法(平成16年法律第14号による改正前のもの。)第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》の規定の適用があるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年7月1日から平成12年6月30日まで、平成12年7月1日から平成13年6月30日まで、平成13年7月1日から平成14年6月30日まで、平成14年7月1日から平成15年6月30日まで及び平成15年7月1日から平成16年6月30日までの各事業年度(以下、順次「平成12年6月期」、「平成13年6月期」、「平成14年6月期」、「平成15年6月期」及び「平成16年6月期」といい、これらの事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ A税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、平成17年5月31日付で、本件各事業年度の法人税について、別表の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分の一部を不服として、平成17年6月29日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 通則法第70条第2項第2号は、純損失等の金額で当該事業年度において生じたものを増加させる更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から5年を経過する日まですることができる旨規定している。
ロ 法人税法第57条第1項は、確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入する旨規定し、同条第10項では、第1項の規定は、欠損金額の生じた事業年度について青色申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合に限り、適用する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人はB社から、同社が製造販売する空気清浄機に係る特許権の使用料(以下「本件使用料」という。)を次表のとおり、平成8年7月1日から平成9年6月30日まで、平成9年7月1日から平成10年6月30日まで及び平成10年7月1日から平成11年6月30日までの各事業年度(以下、順次「平成9年6月期」、「平成10年6月期」及び「平成11年6月期」という。)並びに本件各事業年度において、その支払を受け、当該各事業年度の受取手数料として益金の額に算入して、法人税の確定申告を行っていた。

事業年度本件使用料の額事業年度本件使用料の額
平成9年6月期24,429,332円平成13年6月期27,776,125円
平成10年6月期22,959,877平成14年6月期25,430,460
平成11年6月期21,100,287平成15年6月期21,484,532
平成12年6月期24,052,293平成16年6月期13,220,481

ロ A税務署長は、本件調査に基づき、上記イの空気清浄機に係る特許権は、請求人の代表取締役であるCに帰属するものであることから、本件使用料の額は請求人の益金の額に算入すべきものではないなどの理由により、本件各事業年度の法人税について、本件各更正処分をした。
ハ Cは、本件使用料の額(ただし、暦年での支払額)を雑所得とする平成11年分ないし平成15年分の所得税の各確定申告書を、平成16年12月21日にA税務署長に提出した。
ニ 請求人の平成9年6月期ないし平成11年6月期の法人税の申告状況は、別表の「確定申告」欄のとおりである。
ホ 請求人は、欠損金額のある平成9年6月期ないし平成14年6月期において、青色申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるので、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 過去の事業年度に係る減額更正処分を行うことによって控除事業年度に控除される繰越欠損金が増額されるという場合には、過去の事業年度の減額更正が通則法第70条第2項の規定に抵触しない場合にはじめて控除事業年度の繰越欠損金の額を更正できると解されている(最高裁判所第一小法廷平成元年4月13日判決)。
ロ 請求人は、平成9年6月期ないし平成11年6月期においても、本件使用料の額を過大に益金の額に算入していたところ、平成11年6月期以前の各事業年度は、既に法定申告期限から5年を経過しており、通則法第70条第2項に規定する更正の期間制限により更正することはできず、当該各事業年度については法人税法の適用上、本件使用料の額に係る欠損金額が生じなかったことが確定するのであるから、平成15年6月期の法人税の所得金額の計算上、請求人の主張する金額を繰越欠損金として損金の額に算入することはできない。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 請求人は、B社から支払を受けた本件使用料の額について、平成9年6月期ないし平成11年6月期においても益金の額に算入しているところ、当該各事業年度については更正の除斥期間は徒過しているものの、当該各事業年度の青色申告書を提出した事業年度の欠損金額として繰り越すべき金額は、本件使用料の額を益金の額に算入しないとして計算される欠損金額とすべきである。
ロ 原処分庁は、平成10年6月期及び平成11年6月期において本件使用料の額を減算することに伴って生じる繰越欠損金の額を、法人税法第57条第1項に規定する各事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額に含めておらず、その結果、平成15年6月期の更正処分に係る損金の額に算入すべき金額を過少に計算している。
ハ また、原処分庁が引用する最高裁判所の判例は、仮装経理に伴う減額更正に係るものであるところ、請求人は仮装経理を行っていないのであるから、当該判例を引用する原処分庁の主張には理由がない。
ニ なお、請求人は、本件各更正処分のうち上記以外については争わない。

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3 判断

 本件は、本件各事業年度における法人税法第57条の規定に基づく繰越欠損金の額及び当該金額に基づく損金算入額の適否について争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
(1)東京高等裁判所昭和63年9月28日判決(昭和62年(行コ)第68号法人税更正処分取消請求控訴事件。最高裁判所平成元年4月13日判決の原審である。)によれば、過去の事業年度における欠損金額を繰越欠損金の額として控除事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入するためには、その過去の事業年度において所得金額の計算上欠損金額が認められる場合でなければならないとされている。すなわち、過去の事業年度について、その後に欠損金額が生じていたことが判明した場合においては、更正により当該事業年度の欠損金額として確定することができる場合に限り、当該欠損金額を控除事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入することができると解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると、以下のとおりである。
イ Cは、上記1の(4)のハのとおり、本件使用料を自らに帰属する収益として、平成16年12月21日に平成11年分ないし平成15年分の所得税の各確定申告書をA税務署長に提出しているところ、当該提出日は、請求人の平成11年6月期の法人税の確定申告書の法定申告期限である平成11年9月30日から5年を経過していることから、原処分庁は、通則法第70条第2項の規定により、請求人の平成11年6月期以前の各事業年度について、本件使用料の額を所得金額から減算する更正をすることができなかったことが認められる。
ロ そうすると、平成9年6月期ないし平成11年6月期の各事業年度の欠損金額については、当該各事業年度の所得金額の計算上、いずれも本件使用料の額を所得金額から減算することによる欠損金額は生じなかったことが確定したのであるから、これを平成15年6月期の所得金額の計算上損金の額に算入することはできない。
(3)請求人は、原処分庁が引用する最高裁判所の判例は、仮装経理に伴う減額更正に係るものであって、請求人は仮装経理を行っていない旨主張するが、上記(1)のとおり、過去の事業年度について生じた欠損金額については、仮にその生じた理由が仮装経理に基づくものではなかったとしても、更正により当該事業年度の欠損金額として確定することができなければ、当該欠損金額を控除事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入することはできないと解するのが相当であるから、請求人の主張には理由がない。
(4)ところで、更正処分が不利益処分に当たるか否かは、当該更正処分により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきところ、平成12年6月期、平成13年6月期及び平成16年6月期の法人税の各更正処分は、いずれも所得金額を減少させるもので、確定申告の納付すべき税額を増加させる更正処分でないことは明らかであり、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえない。
 したがって、請求人には、平成12年6月期、平成13年6月期及び平成16年6月期の法人税の各更正処分の取消しを求める利益はなく、当該各更正処分に対する審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。
(5)以上のとおり、本件争点について原処分に違法はない。
 また、過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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