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(平18.3.30裁決、裁決事例集No.71 43頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が滞納者の滞納国税を徴収するために行った原処分に対し、第三債務者である審査請求人(以下「請求人」という。)が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2)当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等

イ 納税者D管理組合(以下「本件組合」という。)は、法人税について、平成16年12月16日現在、別表各欄記載の各税額を滞納していた。
ロ 原処分庁は、上記イの滞納国税の徴収のため、平成16年12月16日、本件組合が請求人に対し墓地用地購入代金返還請求権○○○○円(以下「本件債権」という。)を有するとして、請求人に対し、債権差押通知書(以下「本件通知書」という。)を送達して本件債権を差し押さえる原処分を行い、その際、同処分に係る差押調書を作成し、本件組合に対し、同日付で、同調書の謄本を送付した。
ハ 請求人は、異議審理庁に対し、平成17年1月12日、原処分に不服があるとして異議申立てをしたところ、同庁は、同年3月3日、同申立てを却下する異議決定をした。
ニ 請求人は、当審判所に対し、平成17年3月30日、上記ハの異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3)関係法令(要旨)

 国税通則法第75条第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定している。

(4)争点

イ 請求人は、原処分に「不服がある者」(国税通則法第75条第1項)に当たるか。
ロ 原処分に係る手続に違法性又は不当性がないか。
ハ 本件債権の債権者が本件組合ではないとの主張は、請求人の「法律上の利益に関係のない違法」(行政事件訴訟法第10条《取消しの理由の制限》第1項参照)を理由とするものでないか。
ニ 本件組合を債権者とする本件債権は存在するか。

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2 主張

(1)争点イ(「不服がある者」該当性)について

イ 請求人の主張
 請求人は、原処分により、今後、本件債権に係る取立訴訟を受ける可能性のある立場に置かれた以上、原処分を取り消すにつき法律上の利益を有するから、原処分に「不服がある者」に当たる。
ロ 原処分庁の主張
 原処分の結果、差押債権者たる国は、本件債権について滞納者たる本件組合の立場に立つに過ぎず、第三債務者たる請求人は本件組合に対する抗弁をもって国に対抗できるのであるから、請求人には原処分を取り消すにつき法律上の利益がなく、原処分に「不服がある者」には当たらない。

(2)争点ロ(原処分の手続的違法性・不当性)について

イ 原処分庁の主張
 原処分に係る手続は、国税徴収法の規定に従ってなされており、適法である。
 なお、国税徴収法第62条《差押えの手続及び効力発生時期》の規定に基づく差押えは、第三債務者の権利又は法律上の利益を侵害するものではないし、国税徴収法は、国家の財政的基盤である租税徴収の確保という公益を目的としていることからすると、第三債務者に対し事前に陳述の機会を与えなかったとしても、憲法第31条に違反するものではない。
ロ 請求人の主張
 原処分に係る手続には、次のとおりの違法性又は不当性がある。
(イ)原処分庁は、第三債務者が「不服がある者」に当たらないと主張しながら、本件通知書において、同主張と矛盾する不服申立てについての教示をしており、不当である。
(ロ)憲法第31条により、国民に不利益が生ずる場合には、告知・聴聞の機会を与えなければならないところ、原処分庁は、原処分を行うに当たり、第三債務者たる請求人に本件債権の有無等に関する陳述の機会を与えなかったのであるから、同条に反するし、また、不当である。

(3)争点ハ(「法律上の利益に関係のない違法」該当性)

イ 請求人の主張
 上記(1)イ記載のとおり、請求人は、原処分により、今後、本件債権に係る取立訴訟を受ける可能性のある立場に置かれた以上、本件債権の債権者が本件組合ではないとの主張は、請求人の「法律上の利益に関係のない違法」を理由とするものではない。
ロ 原処分庁の主張
 上記(1)ロ記載のとおり、請求人は本件債権の不存在をもって国に対抗できるのであるから、本件債権の債権者が本件組合ではないとの主張は、請求人の「法律上の利益に関係のない違法」を理由とするものである。

(4)争点ニ(本件債権の存否)について

イ 原処分庁の主張
 本件債権は、本件組合を債権者として有効に存在する。
ロ 請求人の主張
 本件債権は、請求人とEとの間の売買契約の解除に係るものであって、その債権者は、本件組合ではないから、本件組合を債権者とする本件債権は存在しない。

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3 判断

(1)争点イ(「不服がある者」該当性)について

 「不服がある者」とは、当該処分によって直接自己の権利又は法律上の利益を害された者をいうと解する。
 これを、国税徴収法に基づく債権の差押処分に係る第三債務者についてみるに、同法第62条第2項が、徴収職員は、債権を差し押さえるときは、第三債務者に対しその履行を禁止しなければならない旨規定していることからすると、差押処分によりその債務の履行を禁止される第三債務者は、同処分によって自己の権利又は法律上の利益を直接害されることになる。
 したがって、原処分によって本件債権の履行を禁止された第三債務者たる請求人は、原処分について「不服がある者」に当たるというべきである。

(2)争点ロ(原処分の手続的違法性・不当性)について

イ 上記2(2)ロ記載の請求人の主張(イ)について
(イ)認定事実
A 当審判所の調査の結果によれば、一方で、次の事実が認められる。
 請求人は上記2(2)ロ記載のとおり原処分に係る手続についての違法性又は不当性についても主張しているにもかかわらず、原処分庁は、同(1)ロ記載のとおり、請求人は「不服がある者」に当たらない旨主張し、本件審査請求について却下のみを求めていた。
B 他方で、次の各事実も認められる。
(A)原処分庁が請求人について「不服がある者」に当たらないと主張する根拠は、上記2(1)ロ記載のとおり、第三債務者たる請求人は本件組合に対する抗弁をもって国に対抗できるとの点にあった。
(B)原処分庁は、同(2)イ記載のとおり、原処分に係る手続について適法である旨の主張もしている。
(C)本件通知書に記載された教示に誤りはなかった。
(ロ)上記(イ)Aの事実からすると、債権の差押処分について第三債務者が「不服がある者」には当たらず、したがって不服申立てもできないとの見解を原処分庁が採用しているかのごとき誤解を生じさせかねず、この点は必ずしも妥当とはいい難いといわざるを得ない。
 しかしながら、同Bの各事実も併せ考えると、原処分庁の主張の趣旨は、本件債権の不存在を主張するのみでは請求人は「不服がある者」に当たらないが、差押処分の手続的違法性を主張するのであれば、「不服がある者」として不服申立てできるとの点にあるとみることができる。そして、不服申立てについての教示をしなかった場合やその教示に誤りがあった場合であっても、原処分が違法となるものではないと解されることからすると、教示自体に誤りはなかった本件においては、上記の点をもって原処分を取り消すべき違法性又は不当性があるとはいえないというべきである。
ロ 上記2(2)ロ記載の請求人の主張(ロ)について
(イ)当審判所の調査の結果によれば、原処分において、請求人に対して陳述の機会は与えられていなかったことが認められる。
 しかしながら、差押処分について、被差押債権の第三債務者に陳述の機会を与えなければならない旨を定めた法令上の規定はないから、この点をもって原処分が違法となるものではない。
 また、第三債務者たる請求人は、上記(1)記載のとおり、原処分によりその履行を禁じられるが、差押処分の要件である債権差押通知書の送達を受けることで原処分の存在を認識でき、差押前から有する本件組合に対する全ての抗弁を国に対抗することができる上、供託によりその債務を免れることもできる(民法第494条)のであるから、事前に陳述の機会を与えられなかったことをもって原処分がこれを取り消すべき不当性を帯びるともいえない。
(ロ)なお、請求人の憲法第31条に反する旨の主張については、憲法適合性の判断は当審判所の権限に属さないから、審理の限りではない。

(3)争点ハ(「法律上の利益に関係のない違法」該当性)について

 審査請求は、違法又は不当な処分によって侵害された者の権利利益の救済を図るものであるから、当該処分の取消しを求めるに当たっては、当該審査請求人の「法律上の利益に関係のない違法」を理由とすることはできないと解する(行政事件訴訟法第10条第1項参照)。
 そして、第三債務者は、被差押債権の存否について、国の提起する当該差押債権の取立訴訟等においてこれを主張することができ、被差押債権の全部又は一部が存在しないときは、その部分につき執行が効を奏しないことになるだけであって、そのような債権につき差押処分がされても第三債務者が法律上の不利益を被ることはない。そうすると、第三債務者は、債権の差押処分の取消しを求めるに当たり、被差押債権の不存在を理由とすることはできないというべきであるから、被差押債権の不存在は、第三債務者の「法律上の利益に関係のない違法」であると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件債権の債権者は本件組合ではないという請求人の主張は、本件債権の不存在をその内実とするものであるから、請求人の「法律上の利益に関係のない違法」を理由とするものである。

(4)原処分の適法性

 上記(3)からすると、争点ニについて判断するまでもなく、請求人の同争点に係る主張は原処分を取り消す理由たり得ない。
 原処分のその他の部分について請求人は主張せず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 以上より、原処分には、これを取り消すべき違法及び不当はない。

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