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(平18.5.29裁決、裁決事例集No.71 97頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、請求人は日本の居住者に当たるとしてタックスヘイブン課税等の原処分を行ったことについて、請求人が、日本法人及びF国等に所在する外国法人の役員であって国外で業務に従事する必要性が高くF国に住所があるから、日本の居住者に該当せず、また、租税回避を意図していないこと、原処分は正常な海外投資活動を阻害するものであることなどを主張して、その全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分及び平成14年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成16年12月14日付で各年分の所得税について別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件各更正処分等を不服として、平成17年2月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年5月11日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件各更正処分等に不服があるとして、平成17年6月9日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第2条《定義》第1項第3号は、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう旨規定している。
ロ 所得税基本通達2−1《住所の意義》は、法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する旨定めている。
ハ 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第40条の4《居住者に係る特定外国子会社等の留保金額の総収入金額算入》第1項(平成14年法律第79号による改正前のもの。)は、第1号及び第2号に掲げる居住者に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が、その未処分所得の金額から留保したものとして、政令で定めるところにより、当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合には、その適用対象留保金額のうちその者の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当する金額は、その者の雑所得に係る収入金額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日の属する年分のその者の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する旨規定(以下「タックスヘイブン課税」という。)し、第1号において、同号に掲げる居住者とは、その有する外国関係会社の直接及び間接保有の株式等の当該外国関係会社の発行済株式の総数又は出資金額のうちに占める割合が100分の5以上である居住者をいう旨規定している。
 また、措置法第40条の4第2項第1号(平成14年法律第79号による改正前のもの。)において、外国関係会社とは、外国法人で、その発行済株式の総数又は出資金額のうちに居住者及び内国法人が有し、並びに特定信託の受託者である内国法人が当該特定信託の信託財産として有する直接及び間接保有の株式等の総数又は合計額の占める割合が100分の50を超えるものをいう旨規定している。
ニ 租税特別措置法施行令第25条の19《特定外国子会社等の範囲》第1項第2号(平成17年政令第103号による改正前のもの。)は、特定外国子会社等を、その各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以下である外国関係会社とする旨規定している。
ホ 措置法第40条の4第3項(平成15年法律第8号による改正前のもの。)は、居住者に係る特定外国子会社等(株式若しくは債権の保有、工業所有権その他の技術に関する権利若しくは特別の技術による生産方式及びこれに準ずるもの若しくは著作権の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業とするものを除く。)が、その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域において、その主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有し、かつ、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っているものである場合であって、各事業年度においてその行う主たる事業が次の各号に掲げる事業のいずれに該当するかに応じ当該各号に掲げる場合に該当するときは、当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象留保金額については、適用しない旨規定し、第1号において、卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業又は航空運送業である場合には、その事業を主として当該特定外国子会社等に係る第1項各号に掲げる居住者その他これらの者に準ずる者として政令で定めるもの以外の者との間で行っている場合として政令で定める場合、第2号において、前号に掲げる事業以外の事業の場合には、その事業を主としてその本店又は主たる事務所の所在する国又は地域において行っている場合として政令で定める場合である旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成12年12月31日において、G国を本店所在地とする外国法人であるH社の発行済株式総数100,000株のうち50,998株を所有し、また、各年分において、H社の取締役であった。
 H社が、G国税務当局に提出した平成12年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成12年12月期」という。)の法人税の確定申告書控には、業種欄に投資持株会社(Investment Holding Company)である旨記載され、また、請求人は、当審判所に対して、H社の業種は、株式保有である旨答述している。
 H社の平成12年12月期の子会社株式及び投資株式の額の合計は、貸借対照表に記載されている期末の総資産の残高の97%超であり、また、定期預金利息及び受取配当の金額は、損益計算書詳細に記載されている営業収入の99%超である。
ロ H社の平成12年12月期における所得金額は○○○○、法人税額は○○○○、損金に算入した法人税額は○○○○であった。
 また、H社は、平成12年2月10日に、同年1月21日付の平成10年及び平成11年度賦課決定書に基づく法人税の合計額である○○○○を納付した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 居住者非該当性について
(イ)住所の判定には、国外の会社における請求人の地位と国内の会社における請求人の地位の両方を勘案し、国外に居住する必要性と国内に居住する必要性を比較したうえ、国外又は国内に居住する意思とそれに基づく事実関係を勘案して居住地を認定判断すべきである。
 原処分庁は、P市p町○−○を本店所在地とし、玩具製造販売等を業とするJ社における請求人の地位のみを理由に、国内に居住する必要性を判断しているが誤りである。
(ロ)請求人の住所は、次の理由からF国にあったので、日本の居住者には該当しない。
A 請求人は、平成13年中に194日間、平成14年中に122日間日本国外に滞在していた。
 請求人は、F国政府発行の出入国カードを所有しており、F国の出入国に際して、出入国カードと指紋認証により出入国手続をしていたので、旅券にF国の出入国記録を記載されずに出入国していた。
 したがって、異議決定において「パスポート等により滞在場所が確認できない日」とされた日は、F国に滞在していた可能性が高く、同日の日数をF国滞在日数に含めると、請求人がF国に滞在した日数はG国に滞在した日数を含めて、平成13年が92日で、平成14年が71日である。
 請求人は、日本国外滞在日数からみても、国外で業務に従事する必要性が高く、F国を拠点とすることが好都合であったので、平成8年10月30日から平成16年1月19日までF国に住所を置いて拠点とした。
B 請求人は、F国に滞在した間、平成11年ころ以降はF国に所在するKマンションに居住していた。
C 請求人は、F国をはじめとする諸外国を本店所在地とするJ社等の関係会社の代表取締役等の地位にあった。
 特にF国には営業拠点であるL社があり、G国には生産拠点であるM社があった上、N国に多くの関係会社があり、R国にも生産拠点であるS社があった。
 したがって、請求人は、F国を拠点として業務を行う必要が極めて高く、相当期間国外に居住することが必要とされた。
D 請求人は、F国を住所地としていた間、F国において個人の所得税の確定申告を行っていた。
 また、請求人は、日本の平成13年分及び平成14年分の所得税の確定申告書の住所欄に記載している住所は、当時請求人が代表取締役社長を務めていたL社の事務所所在地であり、請求人がF国政府に対して届け出ていた登録上の住所である。
E 請求人は、昭和44年からF国内の工場建設のため、国外生活が長くなり、その後、F国での就労ビザが取得できたこともあり、平成8年以降は、住民登録をF国に移した。請求人の日本の戸籍の附票にも、平成8年10月30日から平成16年1月19日まで住所がF国にあった旨記載されている。この間、ときどき、短期間日本国内に住民票上の住所を置いているのは、日本国内における諸手続のために印鑑証明を取得するなどの必要が生じた場合に限ったものである。
ロ タックスヘイブン課税について
(イ)請求人には、租税回避の意図がなく、H社もM社株式の売却資金の使途を借入金の返済と設備投資等のために使用すると予定しており、会社に留保する予定も株主に配当する予定もなく租税回避を意図していなかった。
 また、タックスヘイブン課税制度には、正常な海外投資活動を阻害しないように適用除外規定がある。
 請求人には租税回避の意図がないにもかかわらず、原処分庁が行った本件各更正処分等は、正常な海外投資活動を阻害するものであり違法である。
(ロ)請求人は、課税対象留保金額に係る金員を現実に得ておらず、また他の株主との争いから将来配当を得ることも不可能であるから、請求人には担税力が全く存在せずタックスヘイブン課税の適用要件に該当しない。
(ハ)本件は、タックスヘイブン課税制度で課税を予定していた事案とは、全く異なるから、本件各更正処分等は違法である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 居住者該当性について
(イ)所得税法第2条第1項第3号は、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいうと規定している。
 そして、所得税法上「住所」については特に定義規定がないことから、所得税法における住所とは、民法(平成16年法律第147号による改正前のもの。)第21条に定める住所の意義と同様に、各人の生活の本拠をいうと解される。
 また、個人の生活の本拠がいずれにあると認めるべきかについては、客観的な事実、すなわち住居、職業、資産及び国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か等に基づき判断するのが相当と解されている。
(ロ)上記(イ)に照らして、請求人の住所を判断すると、請求人の生活の本拠は次の理由から平成13年及び平成14年当時において、P市q町○−○の住居にあり、請求人は居住者に該当する。
A 請求人の国内外の滞在日数を比較した場合、平成13年は1年の約半分、平成14年は1年の約3分の2の日数について、日本に滞在している。
 請求人が住所であると主張するF国には、隣国であるG国における滞在日数を含めても、平成13年は63日、平成14年は34日しか滞在していないと認められる。
 請求人のF国滞在日数が、仮に請求人の主張のとおり平成13年は92日、平成14年は71日であったとしても、請求人の生活の本拠の判断に影響を及ぼすものではない。
B 請求人は、P市q町○−○に居住用の土地及び家屋を所有する外、日本国内に複数の賃貸用不動産を所有しているものの、国外所在の不動産を所有していない。
C 請求人と生計を一にする配偶者Tは、P市q町○−○に所在する家屋に居住して、同所を生活の本拠としていると認められる。請求人は、J社における代表取締役の地位に照らせば、相当期間日本国内に居住することが必要とされるものと認められる。
ロ タックスヘイブン課税について
 措置法第40条の4第1項の規定により、本件課税対象留保金額は、請求人の平成13年分の雑所得に係る収入金額とみなされることになるから、請求人が本件課税対象留保金額を現実に得ていないことや担税力が全く存在しないことを理由に、タックスヘイブン課税の適用を受けないとすることはできず、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が居住者に該当するか否か及びタックスヘイブン課税が適用されるか否かにあるので審理したところ、以下のとおりである。

(1)居住者か否かについて

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人に係る出入国記録調査及び旅券の記載によれば、請求人の出入国状況及び滞在国は、別表2のとおりである。
 請求人の日本国内滞在日数は、平成13年が171日、平成14年が247日であり、国外滞在日数は、平成13年が194日、平成14年が118日である。
 一方、請求人のF国の滞在日数は、旅券の記載から滞在国が判明しない日数をすべてF国に滞在していた日数としても、最大でも、平成13年が29日であり、平成14年が40日である。
(ロ)請求人は、日本に滞在した間は、P市q町○−○に所在する請求人所有の自宅において生活をしていた。請求人は、その自宅に係る土地を、昭和42年2月23日売買によって取得し、同年5月8日付でその旨所有権移転登記をし、その自宅に係る建物を、昭和61年1月18日新築して取得し、昭和62年1月6日付で所有者を請求人として所有権保存登記した。
 そして、請求人は、各年分の年中、上記の自宅において、昭和38年○月○日に婚姻した請求人の妻のTと同居して生活し、その間、請求人と生計を一にする親族は妻のTのみであった。
(ハ)請求人は、平成11年ころ以降、F国に滞在した間はKマンションにおいて生活をしていた。同マンションは、F国に本店を置く外国法人のL社が賃借したものであった。
(ニ)請求人は、各年分において、J社の代表取締役であった。請求人の各年分におけるJ社からの給与等の収入金額は、平成13年分が○○○○円、平成14年分が○○○○円であった。
(ホ)請求人は、各年分において、別表3の外国法人の役員であった。請求人の各年分における、外国法人からの給与に係る収入金額は、別表4のとおりである。また、請求人の各年分における、外国法人からの配当の収入金額は、別表5のとおりである。
(ヘ)請求人は、日本国内に上記(ロ)の自宅のほか、賃貸用不動産を7ヵ所に所有している。他方、請求人は、日本国外に不動産を所有していない。
(ト)P市長発行の請求人に係る戸籍の附票の住所欄及び住所を定めた年月日欄には、各年分について、別表6のとおり記載されている。
(チ)請求人が、原処分庁に提出した各年分の所得税の確定申告書には、住所の欄に「P市q町○−○」とともにF国内のL社の事務所の所在地が記載されている。
 請求人は、各年分の所得税の確定申告書において、別表1の「確定申告」欄のとおりの所得金額について、医療費控除、社会保険料控除、損害保険料控除及び配偶者控除等の所得控除を適用して所得税を算出しているが、非居住者に対する所得税の総合課税について規定する所得税法第165条《総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算》によれば、非居住者に対する所得税の総合課税による税額計算上適用できる所得控除は、雑損控除、寄付金控除及び基礎控除に限られていることから、請求人の我が国での申告は、我が国の居住者であることを前提とする内容であると認められる。
(リ)請求人が、F国当局に提出した、課税期間が1999(平成11)年1月1日から同年12月31日であり、賦課決定年が2000(平成12)年である請求人の所得税の確定申告書の控には、住所はKマンションの内の一室である旨記載されている。
ロ 所得税法上、居住者とは「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」である旨規定されており、国内に住所を有する個人とは、国内に生活の本拠を有する個人をいい、生活の本拠であるかどうかは、その者の住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の有無及び所在、所有する資産の所在並びに国内外の滞在日数等の客観的事実を、総合的に勘案して判定するのが相当である。
 これを本件についてみると、請求人は、国外に事務所を有する外国法人であるH社等の役員であり、F国に滞在する間は、L社が賃借したマンションに居住し、また、P市長に対して、我が国からF国へ転出する旨の届出をし、F国当局へ所得税の申告をしていた。
 もっとも、請求人は、内国法人であるJ社の代表取締役の地位にあったほか、我が国に滞在する間は、妻のTと同居して請求人が所有する自宅に居住し、F国に滞在するようになってからも、この自宅を売却することなく所有し、請求人の妻が継続して居住している。
 そして、請求人は、我が国に対する所得税の確定申告において、各年分の所得税の確定申告書にF国の所在地を記載しているが、その申告内容は我が国の居住者であることを前提とするものである。
 そうすると、各年分において請求人に、外国法人の役員としての職務を遂行するため、日本国外に居住する必要性があり、実際にも日本国外に居住した日数があるとしても、上記のとおり、請求人は、我が国においても、内国法人の代表取締役の地位にあってその職務を遂行するために我が国に居住する必要性があり、実際に我が国において配偶者とともに、所有する自宅土地建物に居住しているのであるから、我が国においても職業上及び私生活上居住する必要性があったと認められる。
 そして、上記イの認定事実のとおり、請求人が我が国に滞在した日数は、請求人が滞在した各国の滞在日数のうちで最も多く、また、請求人が生活の本拠地であると主張するF国に滞在した日数を大幅に上回ることからすれば、相対的に見て我が国に滞在する職業上及び私生活上の必要性の方が優っていたと認められ、また、生計を一にする配偶者が我が国に生活の本拠を有することや請求人が我が国に自宅及び賃貸用不動産を所有する一方、F国においては不動産を所有していないことなどの客観的事実を総合的に勘案すれば、請求人は、我が国に生活の本拠を有していたと認めるのが相当である。
 したがって、請求人は、各年分において、所得税法第2条第1項第3号に規定する居住者であると認められる。
 なお、請求人が当審判所に対して証拠として提出した、F国当局に対して提出した所得税申告書の控には、配偶者欄に「U」と記載されている。
 しかしながら、請求人は、当審判所に対して、平成12年から平成14年の期間生計を一にしていたのは妻のTだけであり、ほかにはいない旨答述していること、「U」の実在の有無や請求人との関係を認定するに足る資料がないことからすれば、上記の申告書の配偶者欄に「U」と記載があることが、上記の当審判所の判断を左右するものとは言えない。

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(2)タックスヘイブン課税が適用されるか否かについて

イ 請求人は、上記(1)のとおり、我が国の居住者と認められ、また、上記1の(4)のイの基礎事実のとおり、H社株を5%以上保有しているから、措置法第40条の4第1項第1号に規定する居住者に該当する。
ロ また、H社は、G国を本店所在地とする外国法人であり、発行済株式総数100,000株の50%を超える50,998株を請求人が所有しているから、措置法第40条の4第2項第1号に規定する外国関係会社に該当する。
ハ そして、上記1の(4)のロのとおり、H社は、平成12年12月期において、法人税を負担しており、その負担割合は、所得金額に対して0.12%であって25%以下であるから、同社は、措置法第40条の4第1項に規定する特定外国子会社等に該当する。
ニ 適用除外要件について
(イ)措置法第40条の4第3項は、適用除外要件をすべて満たす場合に、タックスヘイブン課税を適用しない旨規定しているところ、適用除外対象となる特定外国子会社等には、株式の保有を主たる事業とするものを除く旨規定している。
 これを本件についてみると、上記1の(4)のイのとおり、H社は、投資持株会社であって、株式保有を主たる事業としているから、タックスヘイブン課税に関する適用除外規定の適用がないことは明らかである。
(ロ)請求人は、〔1〕請求人には租税回避の意図がないこと、〔2〕本件各更正処分は、正常な海外投資活動を阻害すること、〔3〕請求人は課税対象留保金額に係る金員を現実に得ておらず、将来配当を得ることも不可能であり、担税力が無いからタックスヘイブン課税が適用されない旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張する事項は、タックスヘイブン課税の適用除外要件を規定した措置法第40条の4第3項のいずれにも該当しないから、タックスヘイブン課税の適用に関し、何ら影響を与えない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ホ 課税対象留保金額
 上記1の(4)に基づき、課税対象留保金額に係る雑所得の総収入金額に算入すべき金額を算定すると、別表7の「雑所得の総収入金額に算入すべき金額〔11〕」欄のとおりとなる。

(3)本件各更正処分について

 上記(1)及び(2)のとおり、請求人は各年分において所得税法第2条第1項第3号に規定する居住者と認められ、また、タックスヘイブン課税が適用されるべきものと認められる。
 そして、居住者は、国内及び国外で生じたすべての所得について課税されることから、請求人の総所得金額を算定すると次のとおりとなる。
イ 請求人は、別表1の「不動産所得の金額」欄に記載された不動産所得を有している。
 したがって、請求人の各年分の不動産所得の金額は、別表8の「不動産所得の金額」欄のとおりとなる。
ロ 上記(1)のイの(ホ)の国外で生じた別表5の配当所得は、請求人の課税所得となることから、各年分の配当所得の金額は、別表8の「配当所得の金額」欄のとおり、平成13年分が○○○○円、平成14年分が○○○○円となる。
ハ 上記ロと同様に、請求人の国外で生じた別表4の給与所得も課税所得となることから、請求人の各年分の給与等の収入金額は、上記(1)のイの(ニ)のJ社からの給与等の収入金額と、別表4の外国法人からの給与等の収入金額の合計額であり、平成13年分が○○○○円、平成14年分が○○○○円となる。
 したがって、請求人の各年分の給与所得の金額は、所得税法第28条第3項に規定する給与所得控除額を控除して算出した金額であるから、別表8の「給与所得の金額」欄のとおり、平成13年分が○○○○円、平成14年分が○○○○円となる。
ニ 請求人の各年分の雑所得の金額については、平成13年分は、請求人の申告額に別表7の「雑所得の総収入金額に算入すべき金額〔11〕」欄の金額、すなわち、タックスヘイブン課税の適用に基づく雑所得に係る収入金額○○○○円を加算した○○○○円となる。また、請求人の申告した平成14年分の雑所得の金額は、相当であると認められる。
ホ したがって、請求人の各年分の総所得金額は、別表8の「総所得金額」欄のとおり、平成13年分が○○○○円、平成14年分が○○○○円となり、これらの金額は、いずれも本件各更正処分の額を上回るから、本件各更正処分は適法である。

(4)本件各賦課決定処分について

 以上のとおり、本件各更正処分は適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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