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(平18.6.8裁決、裁決事例集No.71 178頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、不動産賃貸事業の用に供されていた不動産を相続によって取得し、これを引き続き不動産賃貸事業の用に供したことから、相続により取得した当該不動産を登記する際に支払った登録免許税及び司法書士報酬等を、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであったとして更正の請求を行ったところ、原処分庁が、更正すべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が、その取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年分の所得税について、青色の確定申告書に総所得金額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円と記載して法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、平成17年3月15日に、総所得金額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円とすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成17年6月29日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成17年7月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月27日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年11月22日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第37条《必要経費》第1項は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及び同所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
ロ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
ハ 所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項第1号及び同法施行令第96条《家事関連費》は、家事上の経費に関連する経費(以下「家事関連費」という。)について、〔1〕家事関連費の主たる部分が不動産所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費及び〔2〕青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事関連費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費に限り、必要経費に算入することができる旨規定している。
ニ 所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項第1号は、居住者が贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した山林又は譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定している。
ホ 所得税基本通達(平成17年6月24日付課個2−23ほかにより一部改正された後のもの。)37−5《固定資産税等の必要経費算入》(以下「改正所基通37−5」という。)は、業務の用に供される資産(相続、遺贈又は贈与により取得した資産を含む。)に係る登録免許税(登録に要する費用を含み、その資産の取得価額に算入されるものを除く。)等は、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入する旨定めている。
 なお、上記の取扱いについては、その附則において、平成17年1月1日以後に取得する資産について適用する旨定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の父Aは、不動産賃貸事業の用に供していた不動産を所有していた。
ロ 父Aは平成15年○月○日に死亡し、請求人は、上記イの不動産を相続し、引き続き、これを不動産賃貸事業の用に供していた(以下、請求人が相続した当該不動産賃貸事業用の不動産を「本件不動産」という。)。
ハ 請求人は、平成15年10月27日、本件不動産を含む相続により取得した不動産について、相続を原因とする所有権移転登記手続を行った。
ニ 請求人は、平成15年11月10日に、司法書士に対して、上記ハの登記手続に伴う登録免許税及び司法書士報酬等として○○○○円を支払った。
ホ 請求人は、上記ニの金額のうち本件不動産に対応する金額○○○○円(以下「本件登記費用」という。)を、請求人の平成15年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであるとして更正の請求をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 改正所基通37−5には、「業務の用に供される資産に係る固定資産税、登録免許税(登録に要する費用を含み、その資産の取得価額に算入されるものを除く。)、不動産取得税、地価税、特別土地保有税、事業所税、自動車取得税は、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入する。」と定められているから、本件登記費用が不動産所得の金額の計算上必要経費になることは明らかである。
ロ 最高裁判所平成17年2月1日第三小法廷判決(平成13年(行ヒ)第276号所得税更正処分取消請求事件。以下「平成17年2月最高裁判決」という。)は、所得税法第60条の規定に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において、資産の受贈に伴う名義変更に要する支出は資産の取得に要した金額に当たると判示している。これは、資産の受贈に伴う名義変更に要する支出が家事上の経費であるとの従来の所得税法の解釈の誤りを指摘したものである。
 したがって、平成17年2月最高裁判決により、所得税法第60条だけでなく、同法第37条の適用上も本件登記費用は必要経費に算入されるべきである。
ハ 平成17年2月最高裁判決を受けて、所得税法第60条の解釈の間違いを正すために、所得税基本通達60−2《贈与等の際に支出された費用》が新たに整備され、これに伴い、同通達37−5の必要経費算入の見直しが行われ、これまでの間違いを正したものであるから、改正所基通37−5において、不動産所得の金額の計算上不動産の相続等に係る登記費用を必要経費に算入するとの取扱いについて、その遡及適用を制限する定めを設けることは違法である。
ニ また、所得税法第26条《不動産所得》第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とすると規定しているから、相続、贈与又は売買により不動産を取得した者が支出した当該不動産に係る登録免許税、登記費用は必要経費となることは明らかである。
ホ 判例は新しいものが優先されるものであるから、最高裁判所平成12年7月17日第一小法廷判決(平成10年(行ツ)第122号更正処分等取消請求上告申立事件。以下「平成12年7月最高裁判決」という。)をもって贈与により取得した資産に係る登録免許税等が必要経費に該当しないとの判断が是認されたと主張することは的外れである。
ヘ 以上のとおりであるから、本件登記費用は、平成15年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 所得税法第37条第1項、同法第45条第1項第1号及び所得税法施行令第96条の規定は上記1の(3)のイ及びハのとおりである。そして、ある支出が必要経費として控除され得るためには、それが客観的にみて事業活動と直接の関連を有し、事業の遂行上直接必要な費用でなければならないと解されている。
 これを本件についてみると、本件登記費用は、請求人が父Aから本件不動産を相続したことに伴い生じた費用であると認められるところ、相続とは、個人に属していた権利義務をその者の死亡によって相続人に承継させるという制度に基づくものであるから、相続によって資産を取得すること自体は、所得を得るための事業活動とみることはできず、そして、請求人が本件不動産を相続し、貸付けの用に供したからといって、相続によって本件不動産を取得したこと自体の性格に変化はなく、相続に伴って本件登記費用を支出したことが、所得を得るための事業活動となるということはできない。
 したがって、本件登記費用は、客観的にみて事業活動と直接の関連を有し、事業の遂行上直接必要な費用に該当するということはできないから、これを請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。
ロ 改正所基通37−5の定めは、相続、遺贈又は贈与により取得した資産に関して、平成15年中に支払がなされた本件登記費用が必要経費になることを明示したものではない。
ハ ある通達が改正されたときに、当該通達が全国的に下級行政庁の租税徴収事務ないし税務指導を画一的に規律する関係上、特段の事情のない限り、遡及適用を認めない方が租税行政の円滑な推進に資するものであって、改正通達が遡及適用を認めないことをもって違法視することはできないと解されている(名古屋地裁昭和57年8月27日判決)。
 改正所基通37−5の定めは、その附則にあるとおり、平成17年1月1日以後に取得する資産について適用されるものであって、かつ、上記のとおり、遡及適用を認めないことを違法視することはできないから、所得税基本通達の改正を根拠とする請求人の主張には理由がない。
ニ 所得税法第37条第1項に規定する「別段の定め」として存在する同法第45条第1項は、居住者が支出し、又は納付する同項第1号に掲げる家事上の経費及び家事関連費で同法施行令第96条に規定するものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定している。
 そして、大阪高等裁判所平成10年1月30日判決(平成9年(行コ)第6号更正処分等取消請求控訴事件。以下「平成10年1月大阪高裁判決」という。)においては、贈与により取得した資産に係る登録免許税は、所得税法第45条第1項及び同法施行令第96条の規定に照らし、必要経費に該当しないとの判断がなされ、その上告審である平成12年7月最高裁判決においてもこの判断は是認されている。
 他方、平成17年2月最高裁判決は、所得税法第60条第1項及び同法第38条第1項の規定に関する判断をしたにすぎない。
 したがって、登録免許税等が、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得に係る必要経費に該当するか否かについては、所得税法第45条第1項及び同法施行令第96条の規定に照らして判断されるべきであり、請求人が主張するように、所得税法第26条第2項の規定によって登録免許税等が必要経費に該当するということはできない。
ホ 以上のとおりであるから、平成15年中に取得した資産に係る本件登記費用を請求人の平成15年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

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3 判断

 本件は、請求人の平成15年分の所得税に係る不動産所得の金額の計算上、本件登記費用を必要経費に算入することができるかどうかについて争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)所得税法第37条第1項は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及び同所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。

 この規定は、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避ける趣旨で、課税の対象となる所得の計算上必要経費の控除を認めたものであるが、上記の規定及びこのような趣旨からすれば、ある支出が必要経費として控除され得るためには、それが事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な費用でなければならないと解される。
 他方、上記1の(3)のハのとおり、所得税法は、家事上の経費(衣服費、食費、住居費、娯楽費、教養費等のように個人の消費生活上の費用)は必要経費に算入されず(所得税法第45条第1項第1号)、また、家事関連費(接待費、交際費などにその例が多く、必要経費と家事費の性質を併有している費用)は、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明確に区分できる場合等は、その部分に限って必要経費に算入される(同号、所得税法施行令第96条)旨規定している。

(2)ところで、平成10年1月大阪高裁判決は、納税者が、被相続人から、同人が営む不動産賃貸事業の用に供していた土地の贈与を受け、不動産賃貸事業を営むようになった場合に、その土地の所有権移転登記を経由するに際し納付した登録免許税及び不動産取得税を不動産所得の必要経費に算入することができるか否かが争われた事案において、〔1〕所得税法においては、ある支出が必要経費として控除され得るためには、それが客観的にみて事業活動と直接の関連をもち、事業の遂行上直接必要な費用でなければならないこと、〔2〕登録免許税及び不動産取得税は、納税者が被相続人から土地の贈与を受けたことに伴い生じた費用ということができること、〔3〕贈与は、財産の移転自体を目的とする無償行為であるから、贈与によって資産を取得する行為そのものは、所得を得るための収益活動とみることはできないこと、〔4〕納税者が土地の贈与を受けたことが、不動産賃貸事業の用に供する目的であり、その後同事業の用に供されたからといって、贈与によって本件土地を取得した行為そのものの性格に変化はなく、収益活動となるものということはできないこと、〔5〕被相続人から納税者に対する土地の贈与は、被相続人の土地を対価の提供を伴わないで推定相続人である納税者に移転させたという点において相続に類似すること、〔6〕そうだとすると、納税者が土地に関して負担した登録免許税及び不動産取得税は、所得税法第45条第1項第1号所定の家事上の経費に該当し、同法施行令第96条第1号及び第2号所定の業務の遂行上必要であった経費には該当しないと解するのが相当であることを判示している。

 そして、その上告審である平成12年7月最高裁判決は、大阪高等裁判所が認定した事実関係の下においては、不動産所得の金額の計算上登録免許税及び不動産取得税を必要経費に算入することができないとした同裁判所の判断は、正当として是認することができると判示している。

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(3)これを本件についてみると、上記1の(4)のとおりの事実関係においては、本件登記費用は、所得税法第45条第1項第1号所定の家事上の経費に該当し、同法施行令第96条第1号及び第2号所定の業務の遂行上必要であった経費には該当しないと認めるのが相当である。

 したがって、請求人の平成15年分の所得税に係る不動産所得の金額の計算上、本件登記費用を必要経費に算入することはできない。

(4)請求人の主張について

イ 請求人は、平成17年2月最高裁判決は、所得税法第60条の適用上相続等により取得した資産に係る登記費用の支出は資産の取得に要した金額に当たるとしているから、同法第37条の適用上も、不動産所得の金額の計算上、相続によって取得した不動産所得の基因となる資産に係る登記費用は必要経費に算入されるべきであること、及び、平成17年2月最高裁判決は従来の所得税法の解釈の誤りを指摘したものであるから、改正所基通37−5の適用について、遡及期間を制限する定めを設けることは違法であると主張する。
ロ そこで、請求人がその主張の根拠として挙げる平成17年2月最高裁判決をみると、平成17年2月最高裁判決は、〔1〕譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税する趣旨のものであること、〔2〕「資産の取得に要した金額」には、当該資産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか、当該資産を取得するための付随費用の額も含まれると解されること、〔3〕所得税法第60条第1項は、居住者が同項第1号所定の贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算について、その者が引き続き当該資産を所有していたものとみなす旨を定めているが、上記の譲渡所得課税の趣旨からすれば、贈与、相続又は遺贈であっても、当該資産についてその時における価額に相当する金額により譲渡があったものとみなして譲渡所得課税がされるべきところ(所得税法第59条第1項)、所得税法第60条第1項第1号所定の贈与等にあっては、その時点では資産の増加益が具体的に顕在化しないため、その時点における譲渡所得課税について納税者の納得を得難いことから、これを留保し、その後受贈者等が資産を譲渡することによってその増加益が具体的に顕在化した時点において、これを清算して課税することとしたものであること、〔4〕同項の規定により、受贈者の譲渡所得の金額の計算においては、贈与者が当該資産を取得するのに要した費用が引き継がれ、課税を繰り延べられた贈与者の資産の保有期間に係る増加益も含めて受贈者に課税されるとともに、贈与者の資産の取得の時期も引き継がれる結果、資産の保有期間(所得税法第33条《譲渡所得》第3項第1号、第2号)については、贈与者と受贈者の保有期間が通算されることとなること、〔5〕所得税法第60条第1項の規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあるから、この規定は、受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきであること、〔6〕受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、「資産の取得に要した金額」(所得税法第38条第1項)として収入金額から控除されるべき性質のものであると判示している。
ハ そうすると、平成17年2月最高裁判決は、所得税法第38条及び第60条の規定の解釈及び適用について判示したものであって、同法第37条及び第45条の規定の解釈及び適用について判示したものではなく、平成17年2月最高裁判決をもって、平成12年7月最高裁判決を判例変更したものということはできない。
 したがって、平成17年2月最高裁判決が平成12年7月最高裁判決に優先するという請求人の主張には理由がない。
ニ また、改正所基通37−5は、業務の用に供される資産に係る固定資産税、登録免許税(登録に要する費用を含み、その資産の取得価額に算入されるものを除く。)等は、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入する旨定めているところ、これは、平成17年6月24日付の改正によって、「業務の用に供される資産」には、相続、遺贈又は贈与により取得した資産を含むこととされ、相続等により取得した業務の用に供される資産に係る登記費用等は、各種所得の金額の計算上必要経費に算入されることになったものである。
 その改正の経緯及び理由については、当審判所の調査の結果によれば、〔1〕相続、遺贈又は贈与により業務の用に供される資産を取得した際に支払う登記費用や登録免許税に係る課税上の取扱いについて、これまでは、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されず、家事費として取り扱われてきたが、〔2〕相続等により取得した資産に係る登記費用等を家事費としていたこれまでの取扱いについて、贈与により取得したゴルフ会員権の名義書換手数料が譲渡所得の取得費に当たるとする平成17年2月最高裁判決を受け、譲渡所得の金額の計算上取得費として取り扱うこととされ、〔3〕この平成17年2月最高裁判決は、これまでの業務の用に供される資産を相続等により取得した場合の登記費用等の必要経費の取扱いに直接影響を与えるものではないが、判決の結果、業務の用以外の用に供される資産については、相続等により取得した場合と購入により取得した場合の登記費用等がいずれも取得費とされるのに対し、業務の用に供される資産については、相続等により取得した場合は取得費とされる一方、購入により取得した場合は必要経費に算入されるため、取扱いに差異が生じることとなるため、購入により取得した場合の取扱いとのバランスに配慮して、相続等により取得した業務の用に供される資産に係る登記費用等を必要経費に算入することとしたものであり、〔4〕この取扱いは、平成17年2月最高裁判決から直接導き出されるものではないことから、平成17年1月1日以後に相続等により取得する資産に係る登記費用等について適用することとしたものと認められる。
 なお、平成16年12月31日以前に相続等により取得した資産に係る登記費用等については、その資産の譲渡時に譲渡所得の金額の計算上、取得費として控除することができる(所得税基本通達60−2)。
 上記の改正所基通37−5の改正の経緯及び理由によれば、相続等により取得した業務の用に供される資産に係る登記費用等は、事業活動と直接の関連をもつ事業の遂行上必要な費用ではなく、本来、必要経費には当たらないが、「バランスに配慮」して、ある時期以降の相続等により取得した業務の用に供される資産に係る登記費用等を必要経費に算入する取扱いにしたというものであるから、改正所基通37−5の定めを根拠にして請求人の本件登記費用が必要経費に当たるということはできず、また、改正所基通37−5の取扱いの要件も満たさないから、これを必要経費に算入することはできない。

(5)本件通知処分について

 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人の平成15年分の不動産所得の金額の計算上、本件登記費用を必要経費に算入することはできないから、本件通知処分は適法である。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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