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(平18.6.16裁決、裁決事例集No.71 246頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所有していた不動産に関する権利を譲渡したことに伴い生じた損失を他の所得と損益通算したことについて、損益通算はできないとして原処分庁が行った平成15年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に対し、違法を理由にその全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 審査請求(平成16年12月8日請求)に至る経緯は、別表のとおりである。

(3)関係法令

 別紙1のとおりである。

(4)基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年○月にT社の営業所長から○○支社長へ昇進することが内定し、同年○月○日に昇進の上、平成14年○月○日まで勤務した。その後、請求人は、平成15年○月○日付でU社に移籍した。
ロ 請求人とW社は、平成9年3月○日に同社が所有するP県Q市q町○―○に所在するリゾートホテル「Xホテル」の土地及び建物の共有持分の売買及び施設利用に関し、不動産売買契約(以下「本件売買契約」という。)及び施設相互利用契約(以下「本件施設利用契約」という。)をそれぞれ締結するとともに、同物件及び諸施設に関する管理運営並びに利用について管理規約(以下「本件管理規約」という。)及び利用規程(以下「本件利用規程」といい、本件売買契約、本件施設利用契約、本件管理規約及び本件利用規程を併せて「本件各契約」という。)の定めを遵守することを承諾した。
(イ)本件売買契約の内容は、要旨以下のとおりである。
A 請求人とW社は、下記「物件表示」に記載の不動産のうち、Xホテル○○号室(以下「本件不動産」という。)の1口分(以下「本件共有持分権」という。)の売買に関し、下記B以下のとおり定める。
B 請求人は、本件共有持分権を売買代金総額金5,800,000円(外消費税168,800円)で買い受ける。
C 請求人は、売買代金として平成9年3月○日に100,000円(第1回中間金)、同月○日に168,800円(第2回中間金)、同月○日に5,700,000円(残金)を支払う。
D Xホテルの土地及び建物並びに付属施設の共用部分は、区分所有者全員の共有に属するものとし、これらの共有持分は、建物の専有部分の総床面積に対して請求人が所有する専有部分の床面積の割合による。
E 本件共有持分権は、売買代金が完済された時に請求人に移転する。引渡しは、付帯の施設相互利用契約書第△条に定めるオーナーカードの交付の日をもって行われたものとする。
F 本件売買契約と本件施設利用契約とは、不可分一体の契約であり、本件売買契約が解除された場合、本件施設利用契約も当然解除されたものとする。
G 請求人は、本件共有持分権の代金の完済後、W社に本件共有持分権の買取りを請求できる。ただし、Xホテル竣工後5年を超え10年以内とする(第○条第1項)。
H 本件売買契約が、Xホテルの竣工後になされたときは、上記Gの請求は、契約時から5年を超え竣工後10年以内の期間に行使できるものとする(第○条第2項)。
I 上記G及びHにおける買取条件は、土地は、契約時の取得価格とし、建物は、30年を限度としてその価格を年7.4%(定率法)で償却した残額で買い取るものとする(第○条第3項)。
J 本件不動産の使用については、本件施設利用契約、本件管理規約及び本件利用規程の定めに従うものとする。
K 請求人は、本件不動産の管理・運営を、W社又は同社が指定する業者に委託する。
L 本件不動産に関する公租公課は、引渡しの日を境として、その日以降の分は、請求人の負担とする。
M 請求人は、本件不動産の敷地及び建物共用部分の持分を、建物専有部分の区分所有権と分離して処分してはならない。また、敷地及び共用部分の持分は、分割請求できない。
N 物件表示
(A)物件の概要
a 敷地の「敷地利用権の割合」 2,043,630分の6,547×○分の1
b 建物等の「構造・規模」 鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄骨造、地上○階
c 「分譲後の権利形態」 建物専有部分については、持分表の各室の専有面積の持分○分の1の共有とする。
(B)持分表
a 「タイプ」 ○○
b 「分譲ルームNo.」 ○○
c 「専有面積」 ○○平方メートル
d 「1口持分」 ○分の1
(ロ)本件施設利用契約の内容は、要旨以下のとおりである。
A 請求人が取得した土地付区分所有建物及び諸施設(以下「共有施設」という。)等の利用について、本件管理規約、本件利用規程を遵守する。
B 請求人は、本件施設利用契約締結により、登録料5,300,000円(外消費税159,000円)及び保証金○○○○円を支払うものとする。
C 登録料は、請求人に返還せず、保証金は、本件施設利用契約期間中W社が預かり、同契約が終了若しくは解除された場合、無利息で請求人に返還する。
D 運営管理費の額は、年額120,000円(外消費税3,600円)とする。
E 本件施設利用契約の期間は、請求人が共有施設につき共有持分権を有する期間とする。
F W社が、本件売買契約第○条により、本件共有持分権を買い取った場合は、本件施設利用契約は解除されたものとし、保証金は、請求人の残債務を控除して返還する(第○条第1項)。
G 請求人が、本件施設利用契約、本件管理規約及び本件利用規程等に違反した場合には、W社は、本件施設利用契約を解除することができる。
H 本件施設利用契約と本件売買契約とは、不可分一体の契約であり、本件施設利用契約が解除された場合、本件売買契約も当然解除されたものとする。
I W社は、請求人が登録料と保証金を完済することにより、共有施設の利用権を認め、利用権の証としてオーナーカードを発行する。請求人が登録料と保証金を割賦支払中でW社が特に認めた場合もこれに準ずる(第△条第1項)。
J 請求人は本件不動産等の持分につき、抵当権、質権、代物弁済の予約等、区分所有権の制限を伴ういかなる処分もできないものとする。ただし、提携ローンの際の抵当権設定については、この限りではない。
(ハ)本件管理規約は、「Xホテル」の区分所有建物、土地及び付属施設の管理又は使用について、区分所有者相互間の事項を規約として、本件利用規程は、「Xホテル」の利用方法及び利用実費等についてそれぞれ定めている。
ハ 平成15年12月○日付「Xホテルの買取りについて」と称する文書(以下「本件買取書」という。)には、本件売買契約第○条に基づき、契約時から5年を超え(6年目から)Xホテル竣工後10年以内の期間に、請求人から買取りの請求があった場合は、要旨以下の条件で買い取る旨の記載がある。
(イ)土地は契約時の取得価格とし、建物は契約時の建物価格を年7.4%(定率法)で償却した残存価格で買い取る。
(ロ)保証金は無利息で返還し、買主に残債務がある場合はそれを控除した残額を返金する。
(ハ)登録料については、返還しない。
(ニ)保証金 ○○○○円
(ホ)土地 ○○○○円
(ヘ)建物 ○○○○円
(ト)建物残存額 ○○○○円×(1−0.074)7=○○○○円
(チ)上記条件による返還金額
 保証金+土地+建物残存額=○○○○円
ニ 請求人とW社は、平成15年12月○日に本件買取書の内容に従い、要旨以下の条件で、本件売買契約及び本件施設利用契約を解約することを合意(以下「本件解約合意」という。)した。
(イ)返還金額  ○○○○円
(ロ)返金予定日  平成16年1月○日
(ハ)振込先  ○○銀行○○支店普通預金口座、口座名義請求人
(ニ)その他の条件 所有権抹消登記費用28,050円は請求人の負担として上記(イ)の返還金額から差し引き、平成16年分年会費126,000円は上記(イ)の返還金額に加算し、合計○○○○円を振込みで送金する。
ホ 請求人は、平成16年1月○日にW社から○○○○円を受け取った。

(5)争点

争点1 請求人が、本件各契約によって取得した権利を合意に基づき解約した場合において、それぞれの権利につき、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡が生じていると認められるか否か。
争点2 仮に本件共有持分権の譲渡が資産の譲渡と認められる場合において、本件共有持分権は、所得税法第69条第2項に規定する生活に通常必要でない資産に該当するか否か。
争点3 仮に本件共有持分権の譲渡が資産の譲渡と認められる場合において、本件施設利用契約の解約により生じた資産の損失の金額は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1)争点1

 請求人が、本件各契約によって取得した権利を合意に基づき解約した場合において、それぞれの権利につき、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡が生じていると認められるか否か。
イ 法令解釈等
(イ)所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する資産価値の増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税しようとする趣旨と解される。
 このような譲渡所得に対する課税の趣旨にかんがみると、所得税法第33条第1項にいう資産とは、当事者間の契約、行政官庁の許認可等により発生した法律上及び事実上の権利など一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ、資産の増加益の発生が見込まれるようなすべての資産を含み、また、原則として、それぞれの権利ごとに1つの資産としてみるが、例外的に当事者間の契約等により、複数の権利義務関係(以下「複数の権利等」という。)が、法律上あるいは事実上不可分一体あるいは分離不可能なものとみることができるものについては、これらを1つの資産としてみるものと解される。
 上記解釈を踏まえれば、当事者間の契約等により、複数の権利等を譲渡する場合において、これらが例外的に1つの資産であると認められるか否かは、複数の権利等が法律上あるいは事実上不可分一体あるいは分離不可能な権利であるか否かにより判断されるべきものであると解するのが相当である。
 また、所得税法第33条第1項にいう譲渡とは、有償、無償を問わず、一般に所有権その他の権利を他の者に移転させる行為を広く含むものと解される。
(ロ)民法第206条及び同法第249条の規定を踏まえれば、所有権は、ある特定の物を全面的に支配する権利であり、共有に基づく持分権についても、各共有者が共有持分に応じて共有物を所有するという共有という性質から課せられる制限があるほかは、所有権と同様に共有者は、自己の共有持分を自由に処分することができ、また、各共有持分に応じて所有者と同じく共有物の全部を使用、収益することができる権利であると解される。
ロ 判断
(イ)譲渡の対象となる資産
A 上記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)によれば、請求人は、本件売買契約に基づき、W社から本件共有持分権を買い受けるとともに、本件施設利用契約に基づき、同社に登録料及び保証金を支払い、同契約に基づく本件施設利用権を取得したが、当該保証金は契約終了時等に返還されるものであると認められるから、本件各契約によって発生する権利は、本件共有持分権、本件施設利用権及び保証金返還請求権(以下「本件保証金返還請求権」という。)の3つの権利である。
B そして、上記3つの権利の関連性についてみるのに、上記イの(ロ)及び上記1の(4)のロなどによれば、〔1〕不動産の共有持分権は、共有という性質から課せられる制限があるほかは、自己の共有持分を自由に処分し、又は、共有者間の協議に基づき共有物の全部を使用・収益することができることから、独立した権利として法律上認められた権利であること、〔2〕本件共有持分権は、売買代金を完済することによって請求人に権利が移転されるのに対し、本件施設利用権は、登録料及び保証金を完済することによって生じるなど、各権利は、関連性のない義務を履行することによって取得されるものであること、〔3〕一般的には、売買契約に基づき取得する不動産の共有持分権は、独立した権利として市場流通性を有し取引の対象となるほか、これを有することのみをもって、本件施設利用権の有無にかかわらず、固定資産税などの負担が生じることが認められる。
 これらを踏まえれば、本件共有持分権、本件施設利用権及び本件保証金返還請求権という3つの権利は、法律上も事実上も不可分一体あるいは分離不可能なものとはいえないから、これらの権利が譲渡される場合においても、これらを1つの資産として譲渡所得の対象となる資産と取り扱うことは相当ではない。
C 請求人は、本件解約合意によりW社に譲渡した資産は、その元となった本件各契約が一体のものであり、本件共有持分権又は本件施設利用権のみを売却することはできないから、本件共有持分権、本件施設利用権及び本件保証金返還請求権の3つの権利が渾然一体となった施設利用権である旨主張する。そして、なるほど本件売買契約及び本件施設利用契約の内容からすれば、通常、本件共有持分権と本件施設利用権の両者が同一の主体に帰属しない限り、経済的に十分な価値は発揮され難いことになる。
 しかしながら、上記Bに示したように、法律上の権利の性質が異なること及び権利の取得要件となる事実が異なることからすれば、請求人の主張するような経済的価値のみから、これら3つの権利につき一体性を認めることは、所得税法第33条第1項のみならず、本件の事実関係の下では、物権法定主義にも反するおそれがあるから、請求人の主張は採用できない。
(ロ)所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡の存否
A 上記1の(4)のハないしホによれば、本件解約合意は、W社が本件売買契約第○条に基づき、本件共有持分権を買い取ることなどに合意したものであると認められる。
B そして、上記1の(4)のロの(イ)のGないしI及び同ハないしホのとおり、請求人が本件売買契約第○条に基づき、本件共有持分権をW社に譲渡し、当該譲渡代金として同社から○○○○円を受け取ったことは、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に該当すると認めるのが相当である。
C しかしながら、上記1の(4)のロの(ロ)のF及び同ハないしホからすると、請求人は、本件解約合意及び本件施設利用契約第○条第1項に基づき、自らの意思により、本件施設利用契約を解約して本件施設利用権を消滅させ、これに伴い、本件保証金返還請求権に基づき保証金○○○○円の返還を受けたと認められるが、これは、本件保証金返還請求権を譲渡したものでも、本件施設利用権の消滅の対価として保証金を受け取ったものではなく、単に金銭債権を行使したものであると認めるのが相当である。
 したがって、本件解約合意に基づく本件施設利用権の消滅及び本件保証金返還請求権に基づく保証金の返還は、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には該当しないと認めるのが相当である。
(ハ)以上によれば、本件解約合意に関し、所得税法第33条第1項にいう資産の譲渡があったと認められるのは、本件共有持分権のみであると解するのが相当である。

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(2)争点2

 仮に本件共有持分権の譲渡が資産の譲渡と認められる場合において、本件共有持分権は、所得税法第69条第2項に規定する生活に通常必要でない資産に該当するか否か。
イ 法令解釈等
(イ)所得税法第69条第2項が生活に通常必要でない資産に係る所得の計算上生じた損失について損益通算を認めていないのは、このような資産に係る支出及び負担は、個人の消費生活上の支出及び負担としての性格が強いことから、これによって生じた損失の金額について、損益通算を認めて担税力の減殺要素として取り扱うことは適当でないとの考え方に基づくものと解される。
(ロ)また、所得税法施行令第178条第1項第2号は、通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として保養等の用に供する目的又はその他主として保養等又は鑑賞の目的で所有する不動産を生活に通常必要でない資産として規定していることから、家屋その他の不動産については、その主たる所有目的によって、当該不動産に係る所得の計算上生じた損失が損益通算の対象となるか否かが決せられることとなる。もっとも、個人の主観的な意思は、外部からは容易に知り難いから、「主たる所有目的」の認定に当たって、個人の主観的な意思を重視することは、税負担の公平と租税の適正な賦課徴収を実現する上で適当でないというべきである。
 これらに照らせば、所有者の主たる所有目的の認定は、所有者の主観を重視するのではなく、〔1〕所有者の他の不動産の取得、利用状況、〔2〕当該不動産の性質及び状況、〔3〕所有者が当該不動産を取得するに至った経緯、〔4〕当該不動産から所有者が受け又は受け取ることができた利益、〔5〕所有者の負担ないし支出の性質、内容、程度などの諸般の事情を総合し、客観的に行うべきである。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の他の不動産の取得、利用状況
 請求人は、本件不動産以外に、自己及び自己と生計を一にする親族の居住用としてR県S市○○町○―○所在の土地建物を所有している。
(ロ)本件不動産の性質及び状況
A Xホテルは、○○駅の近くにあり、数々の名所・旧跡、さまざまなスポーツが楽しめるリゾート地域に所在する。
B Xホテルは、地上○階建ての会員制リゾートホテルとして建築され、分譲客室○○室のほか、付帯施設として和洋中等各種レストラン、コンベンションホール、結婚式場、和風宴会場、サウナ&スパ、ミニシアター、屋外プール及びテニスコートなどがある。
 また、分譲されている客室には十数種類のタイプがあり、タイプに応じて宿泊する際の利用実費などが定められている。
C 本件不動産は、Xホテルの最上階である○階の1室(宿泊可能定員○名)で、床面積は○○平方メートルであり、ベッド、家具、備品等が付属設備として付いている。
(ハ)本件共有持分権等を取得するに至った経緯
 請求人は、本件共有持分権及び本件施設利用権等を家族利用目的で購入した。
(ニ)請求人が本件不動産から受け又は受け取ることができた利益
A Xホテルは、リゾート施設を共同で所有し、一定の期間だけ利用する権利を与えるという制度を採用し、購入者は、ホテル1室の所有権の○分の1を所有する者として、これを専用で利用できる占有日が年間○日与えられ、使用(年20ないし30日程度)に比して多額の維持費を要するなど、別荘やリゾートマンションを個人所有する場合に生ずる問題を解消している。
B また、請求人は、○日の範囲内であれば、占有日を他の購入者と交換することにより、W社が管理・運営を行っている他のリゾートホテルを利用することができる。
C 請求人又は請求人の指定する者(以下「指定者」という。)は、請求人が所持するオーナーカードを持参することにより、本件不動産の定員である○名以内であれば、何名で宿泊しても1泊1室につき13,000円及び消費税等の諸税の利用実費の負担により、本件不動産に宿泊できる。
 なお、近隣のホテルにおいては、宿泊可能人員3名ないし4名で、面積約40平方メートルの部屋に1泊した場合の宿泊料は、1部屋で24,000円ないし32,000円程度必要となる。
D 上記Bの占有日は、W社によりあらかじめ定められており、これらの日については、1か月前の前日までに同社が運営する予約事務局に申し込むことにより使用が可能である。また、持分権者は、予約事務局に申し込むことにより、占有日を他のオーナーの占有日と交換したり、自己の有する占有日に他のリゾ−トホテルへ宿泊することもできる。
E 本件共有持分権及び本件施設利用権を有する者は、Xホテル内及びサウナ&スパ、プール、テニスコートなどのホテルの付帯施設を、無料若しくは格安の料金で利用できる。
(ホ)請求人の負担ないし支出
A 本件共有持分権のうち、建物については、耐用年数39年(定額法の償却率0.026)で減価していくことになるから、請求人は、各年分の減価相当額として、平成9年分は113,012円、それ以降は年135,614円の負担が生じていた。
B 請求人は、本件共有持分権を取得することに伴い発生する本件不動産の固定資産税として、平成10年度及び平成11年度は18,960円、平成12年度ないし平成14年度は18,100円、平成15年度は16,600円を支払っていた。
C 請求人は、本件共有持分権及び本件施設利用権の購入代金計○○○○円のうち、10,000,000円をW社が提携しているY株式会社からの借入金で支払った。そして、請求人は、当該借入金につき元本返済額として平成9年中に1,023,541円、平成10年中に1,851,224円、平成11年中に1,959,227円、平成12年中に2,060,087円、平成13年中に3,105,921円を、利息返済額として平成9年中に339,960円、平成10年中に435,739円、平成11年中に317,809円、平成12年中に217,927円、平成13年中に65,403円をそれぞれ支払っていた。
 なお、請求人は、平成13年5月23日に借入金の残額を繰上返済したため、同日以降の利息は生じていない。
D 請求人は、W社に対し、ホテル運営に必要な管理を同社に委託したことによる運営管理費として、平成10年から平成14年にそれぞれ126,000円(消費税を含む。)を支払っていた。なお、譲渡日の属する年分の運営管理費は、W社から全額返金されている。
E 請求人又は指定者が、本件共有持分権の所有期間中に本件不動産及び他のリゾ−トホテルを利用した状況及び利用に伴うW社への支払総額は、平成9年中は延べ8回で計295,055円、平成10年中は延べ23回で計1,519,702円、平成11年中は延べ17回で計1,656,390円、平成12年中は延べ19回で計1,367,180円、平成13年中は延べ10回で計678,635円、平成14年中は延べ11回で計812,214円、平成15年中は1回で計174,642円であった。
 そして、請求人は、上記支払金額のうち、平成11年中は延べ5回の利用で計204,558円、平成12年中は延べ4回の利用で計297,974円、平成13年中は1回の利用で計14,310円を、それぞれ事業上の必要経費として負担した。
(ヘ)請求人の負担ないし支出の性質及び内容等
A 本件不動産の建物部分に係る減価償却費、本件不動産に係る固定資産税並びに本件共有持分権及び本件施設利用権を購入するための借入金に係る利息は、いずれも請求人の各年分の決算書の損益計算書に請求人の事業に係る経費として計上されていない。
B 運営管理費は、請求人の平成10年分、平成12年分ないし平成14年分の決算書の損益計算書の会議研修費、採用育成費又は販売促進費の欄に経費として計上されている。
C 請求人は、本件不動産の土地及び建物の額に相当する金額を、請求人の各年分の決算書の貸借対照表の資産の部に、事業用の土地及び建物であるとして資産に計上していない。
D 平成9年から平成15年の間にW社に支払われた上記(ホ)のEの利用実費のうち、請求人が事業上の必要経費として負担した以外の部分は、請求人又は指定者が負担している。
(ト)請求人は、本件共有持分権の所有期間中、請求人及び同人の家族による本件不動産の利用は、3回であり、T社の社員5人が本件不動産を個人的に利用していた旨答述している。
(チ)W社の担当者が、本件共有持分権購入契約時に請求人に交付した「経理処理方法について(完成物件用)」と題する文書には、本件不動産を事業の用に供する場合の経理処理方法として、本件共有持分権の代金については資産として土地・建物勘定に計上し、建物については、耐用年数39年(定額法の償却率0.026)で償却することが例示されている。
(リ)T社の○○部の○○課長○○及び○○課長○○は、T社は、社員につき最低限の福利厚生及び研修等を行っていることから、各支社長は、福利厚生及び研修等のために施設を購入する旨の指示はしておらず、本件共有持分権の購入は請求人独自の判断に基づくものである旨答述している。
ハ 判断
(イ)上記ロの(イ)のとおり、請求人は、本件不動産を居住の用に供する目的で所有しているものではないことは明らかである。
 そして、本件不動産は、リゾート地域に所在し、充実した付帯施設などを有する会員制リゾートホテルの一室であるところ、請求人が取得した本件共有持分権及び本件施設利用権等によって、別荘やリゾートマンションを個人所有する場合に比して安い維持費で、定員の○名以内であれば、低額な料金負担により本件不動産の宿泊が可能になるばかりか、サウナ&スパ、プール、テニスコートなどのホテルの付帯施設を無料若しくは格安の料金にて利用できるなど種々の利用上の利益が得られる。これらによれば、本件不動産は、所有者である請求人が保養等の用に供し得る性質のものであると認められる。
 そして、請求人は、上記ロの(ハ)のとおり、本件共有持分権及び本件施設利用権を家族利用目的で購入したものであり、同購入代金、本件不動産の固定資産税、借入金利子、運営管理費等のうち、本件共有持分権等の購入代金、本件不動産の固定資産税及び借入金利子に係る負担については、個人の消費生活上の支出であったと認められる。
 さらに、上記ロの(ホ)のE及び(ト)のとおり、請求人又は指定者が、本件共有持分権の所有期間中における本件不動産及び他のリゾ−トホテルの利用回数及び利用に伴う支払額は、延べ89回で計6,503,818円であるところ、そのうち、請求人が事業上の必要経費として利用実費を負担した回数は、延べ10回で計516,842円であり、上記利用回数89回のうち延べ3回は家族利用であり、T社の社員5人が個人的に利用した回数が含まれていることが認められる。
(ロ)このような本件不動産の性質及び状況並びにその取得及び利用状況等の諸般の事情を総合勘案し、客観的にその主たる所有目的を判断すると、本件共有持分権は、事業の用に供する目的が全くなかったとまでは言い切れないものの、請求人が主として自己又は家族の保養等の目的で所有していたものと認められるから、生活に通常必要でない資産に該当すると認めるのが相当である。
(ハ)請求人は、本件共有持分権及び本件施設利用権を含むその他の権利は、支社長に昇進し、社員の成績向上を図る立場になったのに、T社の保養所等が○○圏に偏って○○圏に少なく、社員が利用するには不便であったことから、社員に対する福利のために購入したものである旨主張し、平成17年2月22日の当審判所に対する答述中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、上記ロの(チ)のとおり、W社の担当者は、請求人に対し、本件不動産を事業の用に供する場合の本件共有持分権の代金及び建物の資産計上方法を具体的に助言した文書を本件各契約の締結時に交付していたにもかかわらず、請求人は、上記ロの(ヘ)のA及びDのとおり、各年分の決算書において、本件共有持分権の代金相当額については資産として、建物部分については減価償却費として経費に計上していないが、このことは、請求人が本件共有持分権を含む上記権利を事業用資産としてみていたことと明らかに矛盾している。このことに関し、T社では、支社長が部下の福利厚生及び研修等のために施設を購入する必要性を認めておらず、現にそのような購入の指示もしていないことを明言していることをも併せ考えれば、請求人の上記答述は、にわかに信用することができない。そして、他に請求人の主張を裏付ける証拠はない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(ニ)また、請求人は、請求人及びその家族が本件不動産等を利用したのは3回程度であり、ほとんどの利用は、配下の社員の報奨旅行、社員の顧客の利用、社員の会議であるから、本件共有持分権、本件施設利用権及びその他の権利を事業の用に供する目的で所有している旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、請求人又は指定者が、本件共有持分権の所有期間中に本件不動産及び他のリゾ−トホテルを利用した回数延べ89回計6,503,818円のうち、請求人が事業上の必要経費として利用実費を負担した回数は延べ10回計516,842円にすぎず、それ以外の利用については、事業の用に供する目的により利用したことを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、請求人による本件不動産等の利用は、そのほとんどが事業の用に供する目的で利用したとは認められないから、請求人の上記主張は採用できない。
(ホ)以上のとおり、本件共有持分権は、所得税法施行令第178条第1項第2号に規定する生活に通常必要でない資産に該当するから、これを譲渡したことに伴う譲渡所得の金額の計算上生じた損失が損益通算の対象とならないとした原処分は、適法である。

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(3)争点3

 仮に本件共有持分権の譲渡が資産の譲渡と認められる場合において、本件施設利用契約の解約により生じた資産の損失の金額は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できるか否か。
イ 法令解釈等
 所得税法第51条第1項は、事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産(以下「固定資産等」という。)で政令で定めるものについて生じた損失について、その損失の生じた日の属する年分の事業所得に金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。そして、同項に規定する事業の用に供される固定資産等であるというためには、当該資産の主たる所有目的及び所有者において当該資産が事業の用に供される資産であると外部から客観的に認識できるかなどを総合的に勘案して、判断されるべきものであると解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、請求人は、本件施設利用権の額に相当する金額を、請求人の各年分の決算書の貸借対照表の資産の部に、資産として計上していないことが認められる。
ハ 判断
(イ)ところで、上記(1)のロの(イ)のAのとおり、本件各契約によって発生する権利は、本件共有持分権、本件施設利用権及び本件保証金返還請求権の3つの権利で構成されているところ、本件施設利用権は、本件不動産の利用を主とする共有施設等を利用する権利であると認められる。
 そうすると、本件施設利用権の主たる所有目的を判断するに当たっては、本件共有持分権の所有目的に関する事実に、本件施設利用権に関する事実を加えて判断すべきものとするのが相当である。
(ロ)そこで判断するに、上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件不動産は、所有者である請求人が別荘と同様に保養等の用に供し得る性質のものであり、請求人は、上記(2)のロの(ハ)のとおり、本件共有持分権及び本件施設利用権を家族利用のために購入したと認められること、請求人は、上記(2)のロの(ニ)の種々の利用上の利益に着目し、本件不動産を自己及び家族の保養等の目的で所有していたと認められること、上記(2)のロの(ホ)のC及び(ヘ)のC並びに上記ロのとおり、本件施設利用権は、請求人の事業に係る決算書の貸借対照表の資産の部に、事業用の資産として計上されていないこと及び本件施設利用契約の登録料及び保証金の支払のための借入金に係る利子についても事業上の経費に計上されていないことなど、請求人における他の本件不動産の取得、利用状況等の諸般の事情を総合勘案し、客観的にその主たる所有目的を判断すると、本件施設利用権は、請求人が主として保養等の目的で所有していたものと認めるのが相当である。
(ハ)そうすると、本件施設利用権は、所得税法第51条第1項にいう事業の用に供される固定資産等に該当するとは認められないから、本件施設利用契約の解約により生じた損失は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないと解するのが相当である。

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(4)以上のとおり、上記各争点について、原処分に違法はない。また、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 関係法令

1 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定している。
2 所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第1項は、居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供される固定資産やその他これに準ずる資産等について、取りこわし、除却、滅失等により損失が生じた場合に、その損失の金額から、保険金等により補てんされる部分の金額を控除した残額をその損失の生じた日の属する年分の必要経費に算入する旨規定している。
3 所得税法第69条《損益通算》第1項は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、これを他の所得の金額から控除する旨規定している。
4 所得税法第69条第2項は、その損失の金額のうちに同法第62条《生活に通常必要でない資産の災害による損失》第1項に規定する資産に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、それは生じなかったものとみなされる旨規定している。
5 所得税法施行令第178条《生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等》第1項第2号には、所得税法第62条第1項にいう生活に通常必要でない資産とは、通常、自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有する不動産等である旨規定している。
6 民法第175条は、物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない旨規定している。
7 民法第206条は、所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する旨、また、民法第249条は、各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる旨、それぞれ規定している。

別紙2 当事者の主張

争点1 請求人が、本件各契約によって取得した権利を合意に基づき解約した場合において、それぞれの権利につき、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡が生じていると認められるか否か。

原処分庁

 本件共有持分権、本件施設利用契約に基づく施設利用権(以下「本件施設利用権」という。)及びその他の権利は、本件売買契約と本件施設利用契約の2つの契約から生じたものであり、本件共有持分権がW社ヘ買い取られる際においても、解約合意書に基づき、本件共有持分権は買い戻され、本件施設利用権は解約されている。
 そうすると、本件共有持分権及び本件施設利用権その他の権利は、客観的に単一の資産と認識できるものではなく、2つの契約をそれぞれ経済的に実体のある取引と認識して、それがもたらす経済的実体に基づき所得の有無を判断すべきである。
 本件共有持分権の買取代金は、譲渡所得に該当するが、本件施設利用契約の解約は、本件施設利用権を自ら放棄して、単に保証金債権の回収をする資本取引であり、資産の譲渡には当たらない。

請求人

 本件共有持分権、本件施設利用権及びその他の権利は、その元になった本件各契約が一体のものであり、本件共有持分権のみや、本件施設利用権のみを売却することはできない。契約書に「解除」という文言が散見されるのは、これらを分離して売却されることを制限するための規制と考えられる。したがって、本件共有持分権と本件施設利用権と後記本件保証金返還請求権は、この3つの権利が渾然一体となった施設利用権である。
 本件売買契約第○条の買取制度は、渾然一体となった施設利用権を買い取るものであるから、渾然一体となった施設利用権を譲渡したものであり、契約書の「解除」という文言を捕らえて、単なる保証金の返還とするのは失当である。

争点2 仮に本件共有持分権の譲渡が資産の譲渡と認められる場合において、本件共有持分権は、所得税法第69条第2項に規定する生活に通常必要でない資産に該当するか否か。

原処分庁

 個人の主観的な意思は外部からは容易に知り難いから、客観的に主たる所有目的を認定すべきである。
 本件共有持分権及び本件施設利用権を含むその他の権利は、平成9年分ないし平成14年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税青色申告決算書(以下「決算書」という。)の貸借対照表の資産の部及び減価償却資産(繰延資産を含む。)のいずれにも計上がない。また、本件不動産の外形的及び客観的並びに利用形態から総合判断すると、当該不動産は、通常、請求人及びこれと生計を一にする親族が居住の用に供していない家屋であり、主として趣味、娯楽、保養の目的で所有する不動産であると認められる。
 したがって、本件共有持分権は、生活に通常必要でない資産に該当する。

請求人

 本件共有持分権、本件施設利用権及びその他の権利は、支社長に昇進し、〔1〕社員の成績向上を図る立場になったこと及び〔2〕T社の保養所等が○○圏に偏って○○圏に少なく、社員が利用するには不便であったことから、請求人が社員に対する福利のために購入したものである。
 請求人及びその家族が、本件不動産及びその施設を利用したのは3回程度であり、ほとんどは、配下の社員の報奨旅行、社員のお客様のご利用、社員の会議である。
 このことから、請求人は、本件共有持分権、本件施設利用権及びその他の権利を、事業の用に供する目的で所有していたのであり、本件共有持分権は、その利用状況からみても「生活に通常必要でない資産」に該当しない。

争点3 仮に本件共有持分権の譲渡が資産の譲渡と認められる場合において、本件施設利用契約の解約により生じた資産の損失の金額は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入できるか否か。

原処分庁

 本件共有持分権及び本件施設利用権を含むその他の権利は、請求人が原処分庁へ提出した決算書の貸借対照表の資産の部及び減価償却費の計算の資産(繰延資産を含む。)に計上がないことから、事業用資産とは認められない。
 したがって、本件施設利用契約の解除により生じた損失(登録料の不返還分)は家事費であり、所得税法上、災害盗難横領等以外控除の対象とはならない。

請求人

 請求人は、本件共有持分権、本件施設利用権及びその他の権利を、事業の用に供する目的で所有していたのであり、その利用状況からみても本件共有持分権、本件施設利用権及びその他の権利は、事業用資産である。

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