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(平18.6.30裁決、裁決事例集No.71 299頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社役員である審査請求人(以下「請求人」という。)が生命保険契約に基づき受領した満期保険金等に係る一時所得の金額の計算において、原処分庁が、保険契約者である法人が保険料として費用処理をした支払保険料については「収入を得るために支出した金額」に算入できないなどとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該法人が費用処理をした支払保険料についても「収入を得るために支出した金額」に算入できるとして同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯及び内容

 審査請求(平成17年8月4日)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである(以下、異議決定を経た後の平成13年分、平成14年分及び平成15年分の所得税の各更正処分を「本件更正処分」という。)。

(3)関係法令等

  関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

(4)基礎事実

イ 請求人は、平成8年8月21日に、C社の代表取締役に就任した。
ロ C社は、各生命保険会社と別表2から別表4のとおりの内容で、年払いの養老保険契約(以下、これらの養老保険を「本件養老保険」といい、その契約を「本件養老保険契約」という。なお、本件養老保険のうち一部の保険については、その保険期間中に満期保険金受取人の変更を行い、その結果、本件養老保険の満期保険金受取人はすべて請求人となっている。)を締結し、本件養老保険契約に係る保険料を支払った(以下、本件養老保険契約に係る支払保険料を「本件支払保険料」という。)。
ハ C社は、本件支払保険料のほぼ半額を「保険料」として経理処理した(以下、当該経理処理した金額を「本件費用処理保険料」といい、各保険の本件費用処理保険料の金額は、別表2から別表4の「本件費用処理保険料」欄のとおりである。)。
ニ また、C社は、本件支払保険料のうち本件費用処理保険料以外の金額を、請求人に対する「役員報酬」若しくは「貸付金」又は請求人からの「仮受金」の減算として経理処理した(各保険の本件費用処理保険料以外の金額は、別表2から別表4の「本件費用処理保険料以外の保険料」欄のとおりである。)。
 なお、別表2の番号1及び別表3の番号2の保険については、それぞれ平成13年11月29日及び平成14年1月23日に、満期保険金受取人をDから請求人に変更しており、また、別表3の番号1の保険については、平成13年11月29日に、満期保険金受取人をEから請求人に変更しているが、その名義変更に伴い、C社は、それぞれの保険の名義変更前の各保険料支払時にD又はEに対する「役員報酬」又は「貸付金」として経理処理していた金額の合計額と同額を、それぞれ請求人に貸し付けて、請求人は、当該貸付金と同額をD又はEに支払っている。
ホ 請求人は、本件養老保険契約が満期となったことに伴い、別表5のとおり、満期保険金及び割増保険金(以下、これらを併せて「本件満期保険金等」という。)を受領した。
ヘ 請求人は、本件満期保険金等を受領した際に、本件満期保険金等をもって前記ニのC社から貸付けを受けていた金額を返済するとともに、当該返済額を控除した残額を、C社に貸し付けている。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ C社は、本件養老保険への加入に関して、平成8年10月2日に社員総会を開催し、同日付で「生命保険契約付保に関する規定」を制定しており、当該規定には要旨次の内容が記載されている。
(イ)当社は、役員(その家族を含む。)を被保険者とし、死亡保険金の受取人を当社、生存保険金(満期保険金)の受取人を役員(その家族を含む。)とする養老保険等の生命保険契約を生命保険会社と締結することができる。
(ロ)当社は、将来万一役員(その家族を含む。)が死亡したことにより、当該役員に対し死亡退職金又は弔慰金を支払う場合に備えて、役員(その家族を含む。)を被保険者とし、当社を死亡保険金の受取人とする生命保険契約を生命保険会社と締結することができる。
(ハ)当社がこの生命保険契約に基づき生命保険会社から受け取る死亡保険金の全部又はその相当部分は、退職金又は弔慰金の支払に充当するものとする。
ロ 請求人が当審判所に提出した資料のうち、平成16年生命保険大学課程のテキストには、受取人が被保険者ないし遺族のときの課税関係等について、要旨次の内容が記載されている。
(イ)満期保険金
 満期保険金は、一時所得として所得税の対象となる。必要経費としての保険料は、本人の給与所得としての課税の有無に関係なく、企業負担分を本人が負担したものとして取り扱う。
(ロ)死亡保険金
 被保険者が従業員、役員の家族で、その死亡により従業員、役員が受取人として受け取るときは一時所得となり、必要経費は前記(イ)と同様である。

(2)検討

イ 「収入を得るために支出した金額」の意義
(イ)一時所得の金額の計算
 一時所得の金額の計算について、所得税法第34条《一時所得》第2項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除する旨規定している。この「収入を得るために支出した金額」について、「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る」としているのは、一時所得に係る収入に関連して、あるいは収入があったことに起因して所得者が負担したようなものは収入を得るために支出した金額とするものであると解されるところ、このことは、個人を納税義務者とし、当該個人の収入から支出を差し引いた純所得に課税するという所得税の本旨からすれば、条理上当然であると認められる。
 次に、所得税法施行令第183条《生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》第2項第2号は、生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算について、当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金(以下、これらを併せて「保険料等」という。)の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する旨規定している。ただし、同条第4項においては、厚生年金保険法等に基づき事業主が保険料等を支出する場合に、事業主が支出した保険料等で加入員が実質的に負担していないと認められるものは、その保険料等の総額から控除する旨規定し、所得者である当該加入員自らが負担したと認められる保険料等に限って「収入を得るために支出した金額」に算入することとしている。
(ロ)所得税基本通達34−4の趣旨
 所得税基本通達34−4《生命保険契約等に基づく一時金又は損害保険契約等に基づく満期返戻金等に係る所得金額の計算上控除する保険料等》は、生命保険契約等に基づく一時金に係る所得金額の計算上控除する保険料等の総額には、その一時金の支払を受ける者以外の者が負担した保険料等も含まれる旨定めている。
 この取扱いは、一般に保険料等は保険契約者が負担することになるが、使用者が保険契約者として支払った保険料等相当額を使用人の給与として課税した場合には、使用人が実質的に負担していると認められるから、使用人が保険料等を負担していないとして控除しないとするのは適当ではなく、また、そのように法令を解するおそれがあることから、一時金の支払を受ける者(所得者)以外の者が保険契約者として保険料等を負担した場合も、当該所得者である使用人が実質的にその保険料等相当額を負担しているときには、当該保険料等は当該所得者の収入を得るために支出した金額と認めるという趣旨で定められたものと解される。
 このことは、所得税基本通達34−4の注書きにおいて、少額不追求の趣旨から使用者が負担した少額な保険料等については、給与課税がされなかったとしても「保険料等の総額」に含める旨を追加的に定めていることからみても明らかである。
(ハ)以上のことから、所得税法第34条第2項に規定する「収入を得るために支出した金額」とは、所得者である請求人自らが負担した金額(実質的に負担した金額を含む。)に限られると解するのが相当である。
ロ 本件費用処理保険料を所得税法第34条第2項に規定する「収入を得るために支出した金額」に算入することの適否
 請求人は、所得税法第34条第2項、同法施行令第183条第2項第2号及び所得税基本通達34−4の規定等の文理から解釈して、所得税法第34条第2項に規定する「収入を得るために支出した金額」とは、所得者である請求人が負担した金額であるか否かは問わず、本件支払保険料の総額であり、本件費用処理保険料を「収入を得るために支出した金額」に算入しないことは許されない旨主張する。
 しかしながら、本件費用処理保険料を所得税法第34条第2項の「収入を得るために支出した金額」に算入できるか否かについては、前記イの法解釈等に照らし、本件費用処理保険料を請求人自らが負担したかどうかにより判断することが相当である。
 ところで、本件支払保険料については、前記1の(4)のロのとおり、C社が保険契約者として各生命保険会社に支払い、その経理については、前記1の(4)のハ及びニのとおり、本件費用処理保険料を「保険料」として費用処理し、その残額を保険金受取人である請求人に対する「役員報酬」若しくは「貸付金」又は請求人からの「仮受金」の減算として処理していることが認められる。
 そうすると、本件支払保険料のうち本件費用処理保険料については、C社の経理上、「保険料」として費用処理されており、当該金額を請求人に対する経済的利益として給与課税した事実もないことから、請求人自らが負担したものとは認められず、所得税法第34条第2項に規定する「収入を得るために支出した金額」に算入することはできない。
 なお、本件支払保険料のうち本件費用処理保険料以外の金額については、〔1〕請求人に対する「役員報酬」として経理処理された金額は給与課税が行われていること、〔2〕請求人に対する「貸付金」として経理処理された金額は、前記1の(4)のニ及びへのとおり、C社に対して返済義務を負い、請求人が本件満期保険金等をもって返済していること及び〔3〕請求人からの「仮受金」の減算として経理処理された金額は、請求人が従前から有していた債権と保険料支払時に生じた債務を相殺したものと認められることからみて、いずれも請求人自らが負担したものと認められ、所得税法第34条第2項に規定する「収入を得るために支出した金額」に算入することとなる。
ハ 請求人のその他の主張
 請求人は、前記ロのほか、次のとおり、〔1〕租税法律主義違反、〔2〕保険金受取人が負担したか否かにかかわらず、支払保険料の総額を一時所得から控除することの合理性、〔3〕予測可能性・法的安定性及び〔4〕租税公平主義の観点から、本件更正処分は違法である旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
(イ)租税法律主義違反
 請求人は、〔1〕課税要件法定主義・課税要件明確主義が要求される租税法の解釈において、原処分庁が主張する「規定振り」といった漫然とした法解釈は許されない旨、〔2〕一時金の額から控除される保険料の総額が「課税済のものに限られる」とするならば、C社の請求人に対する貸付金については控除できないと思われるが、原処分庁はそのようには解していない旨、及び〔3〕請求人の主張は、前記(1)のロの請求人が提出した資料に記載されている一般的解釈に沿うものである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第34条第2項、同法施行令第183条第2項第2号及び所得税基本通達34−4の規定等の法解釈等は前記イのとおりであり、また、本件支払保険料のうち請求人に対する「貸付金」等として経理処理された金額が所得税法第34条第2項に規定する「収入を得るために支出した金額」に算入されることは前記ロのとおりであるから、上記〔1〕及び〔2〕に関する請求人の主張には理由がない。
 さらに、請求人が提出した資料については、前記(1)のロに記載された取扱いを行うこととなる生命保険契約の内容及びその根拠が明らかでなく、前記ロの当審判所の判断を覆すに足るものとは認められないから、上記〔3〕に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ)保険金受取人が負担したか否かにかかわらず、支払保険料の総額を一時所得から控除することの合理性
A 死亡保険金が一時所得となる場合の課税上の取扱いとの整合性
 請求人は、死亡保険金が一時所得となる場合の相続税法基本通達3−17《雇用主が保険料を負担している場合》の(2)の取扱いを根拠に、一時所得から控除される保険料は、保険金受取人が負担したか否かにかかわらず支払保険料の総額である旨主張する。
 しかしながら、請求人が根拠とする相続税法基本通達3−17は、雇用主が従業員のために保険料を負担している場合に、その保険料を従業員が負担しているものとして、その保険契約に係る死亡という保険事故が発生した場合の取扱いをケース別に定めたものであり、その内容は相続税又は贈与税の課税関係の有無を整理したものと解される。すなわち、同通達3−17の(2)の取扱いでは、従業員以外の者の死亡を保険事故として当該従業員が死亡保険金を受け取った場合に、上記のとおり、保険料負担者を従業員とすることにより、保険料負担者と保険金の受取人が同一となることから、相続税及び贈与税の課税関係が生じない旨を明らかにしたものにすぎず、この場合に生ずる所得税の具体的な課税関係、つまり一時所得の金額の計算方法まで定めたものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、死亡も生存も保険事故としては性質を同じくするので、受取保険金の課税上における支払保険料の取扱いは同じくすべきである旨主張するが、〔1〕従業員等の被保険者の死亡という保険事故が生じた場合はその遺族等が保険金受取人となり、保険期間満了時に被保険者が生存した場合は事業主が保険金受取人となる、いわゆる福利厚生を目的として事業主が加入する養老保険と、〔2〕保険期間満了時に被保険者が生存した場合に被保険者又はその親族が保険金受取人となり、被保険者の死亡という保険事故が生じた場合は事業主が保険金受取人となる本件養老保険とは、その加入の趣旨目的を異にするものと認められ、その課税上の取扱いについても同等に論ずることはできないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 結果から顧みて、保険料の取扱いの不合理性を指摘することの不合理性
 請求人は、養老保険は、死亡、生存のいずれも保険事故とするものであり、このうち、法人が契約者、法人の従業員(役員)を被保険者、満期保険金受取人を法人、死亡保険金受取人を法人の従業員(役員)の遺族とするパターンにおいては、法人税基本通達9−3−4《養老保険に係る保険料》の(3)のただし書において、便宜的に支払保険料の2分の1を資産計上し、残りの2分の1を給与として経理処理することとなるが、後に死亡又は満期という結果が出たからといって、さかのぼって当該支払保険料の取扱い(給与課税)をやり直すことはしないことからすると、本件更正処分のように、結果から顧みたとき、本件支払保険料の2分の1への課税がなされていない(請求人負担がない)として、その控除を認めないとすることは明らかに不合理である旨主張する。
 ところで、一般に養老保険といわれる生命保険は、被保険者が死亡した場合に死亡保険金が支払われるほか、保険期間の満了時に被保険者が生存している場合にも満期保険金が支払われる生死混合保険である。つまり、養老保険の保険料には万一の場合の保障と貯蓄の二面性があり、これを会計処理の面からみると、死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、満期保険金の受取人が保険契約者である法人の場合、その支払った保険料のうち、法人が受取人である満期保険金に係る部分は法人において資産に計上すべきことはいうまでもないが、死亡保険金に係る部分については、受取人が被保険者の遺族となっていることからみて、従業員の福利厚生を目的としたものであると解されることから、原則として一種の福利厚生費として期間の経過に応じて損金の額に算入できるものとされている。
 しかしながら、本件養老保険契約は、〔1〕前記1の(4)のロ(別表2から別表4)のとおり、死亡保険金の受取人がC社、満期保険金の受取人が請求人となっており、法人税基本通達9−3−4の(3)に定める生命保険契約とは、その内容を異にしていること、〔2〕前記(1)のイのC社の「生命保険契約付保に関する規定」の内容からすると、C社が福利厚生以外の目的を主目的として締結したものと認められることから、本件養老保険契約を上記法人税基本通達9−3−4の(3)が想定しているところの従業員の全部を対象として保険に加入する、いわゆる福利厚生に資することを目的として締結された生命保険契約と同視して判断することはできず、また、本件費用処理保険料が所得税法第34条第2項に規定する「収入を得るために支出した金額」に算入できないことは前記ロのとおりであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)予測可能性・法的安定性
 請求人は、所得税法第34条第2項、同法施行令第183条第2項及び所得税基本通達34−4のいずれにも「支払保険料のうち一時所得者の負担分に限り一時所得から控除する」旨の改正が今日までなされないまま行われた本件更正処分は、法の予測可能性・法的安定性を害する違法な処分である旨主張する。
 しかしながら、前記イの(イ)のとおり、所得税法第34条第2項及び同法施行令第183条第2項の規定上、一時所得の金額の計算において「収入を得るために支出した金額」が、所得者である個人自らが負担した金額に限られていることは明らかであり、また、所得税基本通達34−4の趣旨については前記イの(ロ)のとおりであるから、本件更正処分は、法の予測可能性・法的安定性を害する違法な処分とはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)租税公平主義
 請求人は、税負担は国民の間に担税力に即して公平に配分されなければならず、各種の租税法律関係において国民は平等に取り扱われなければならないが、本件養老保険と同様の保険商品は全国に無数にあるにもかかわらず、請求人のみにおいて本件費用処理保険料について控除を認めないとするのは、租税公平主義に反する違法な処分である旨主張する。
 しかしながら、本件費用処理保険料が、所得税法第34条第2項に規定する「収入を得るために支出した金額」に算入できないことは前記ロのとおりであり、さらに、本件養老保険と同様の保険商品が無数にあるにもかかわらず、請求人のみが本件費用処理保険料の控除を認められなかったというのは、請求人の想定にすぎず、また、そのことは前記ロの判断を左右するものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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(3)以上のとおり、本件更正処分は適法である。

 また、平成13年分、平成14年分及び平成15年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 関係法令等の要旨

所得税法第34条《一時所得》

(第1項)
 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
(第2項)
 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。

所得税法施行令第183条《生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》

(第2項)
 生命保険契約等に基づく一時金の支払を受ける居住者のその支払を受ける年分の当該一時金に係る一時所得の金額の計算については、次に定めるところによる。
第1号 省略
第2号 当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する。ただし、次に掲げる掛金、金額又は個人型年金加入者掛金の総額については、当該支出した金額に算入しない。
イ 厚生年金保険法第9章《厚生年金基金及び厚生年金基金連合会》の規定に基づく一時金に係る同号に規定する加入員の負担した掛金
ロ 確定給付企業年金法第3条第1項《確定給付企業年金の実施》に規定する確定給付企業年金に係る規約に基づいて支給を受ける一時金に係る同号に規定する加入者の負担した金額
ハ 小規模企業共済法第12条第1項《解約手当金》に規定する解約手当金に係る同号イに規定する小規模企業共済契約に基づく掛金
ニ 確定拠出年金法附則第3条第2項《脱退一時金》に規定する脱退一時金に係る同法第55条第2項第4号《規約の承認》に規定する個人型年金加入者掛金
 第3号 省略
(第3項)
  前2項に規定する生命保険契約等とは、次に掲げる契約又は規約をいう。
 第1号 生命保険契約及び生命共済に係る契約
 第2号から第6号 省略
(第4項)
 第1項及び第2項に規定する保険料又は掛金の総額は、当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額から次に掲げる金額を控除して計算するものとする。
 第1号 省略
第2号 次に掲げる保険料又は掛金(第65条《不適格退職金共済契約等に基づく掛金の取扱い》の規定により給与所得に係る収入金額に含まれるものを除く。)の額
イ 第76条第1項第2号又は第2項第2号に掲げる給付に係る保険料又は掛金
ロ 厚生年金保険法第9章の規定に基づく一時金(法第31条第2号に掲げるものを除く。)に係る掛金(当該掛金の額のうちに同号に規定する加入員の負担した金額がある場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分に限る。)
ハ 確定給付企業年金法第3条第1項に規定する確定給付企業年金に係る規約に基づいて支給を受ける一時金(法第31条第3号に規定する加入者の退職により支払われるものを除く。)に係る掛金(当該掛金の額のうちに同号に規定する加入者の負担した金額がある場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分に限る。)
ニ 法人税法附則第20条第3項《退職年金等積立金に対する法人税の特例》に規定する適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金(第72条第2項第4号に規定する勤務をした者の退職により支払われるものを除く。)に係る掛金又は保険料(当該掛金又は保険料の額のうちに同号に規定する勤務をした者の負担した金額がある場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分に限る。)
ホ 確定拠出年金法附則第3条第2項に規定する脱退一時金に係る掛金(当該掛金の額のうちに同法第55条第2項第4号に規定する個人型年金加入者掛金の額がある場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分に限る。)
へ 中小企業退職金共済法第16条第1項《解約手当金》に規定する解約手当金又は第74条第5項《特定退職金共済団体の承認》に規定する特定退職金共済団体が行うこれに類する給付に係る掛金
第3号 省略
 所得税基本通達34−4《生命保険契約等に基づく一時金又は損害保険契約等に基づく満期返戻金等に係る所得金額の計算上控除する保険料等》
 令第183条第2項第2号又は第184条第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額には、その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の額も含まれる。
(注)使用者が負担した保険料又は掛金で36−32により給与等として課税されなかったものの額は、令第183条第2項第2号又は第184条第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額に含まれる。

所得税基本通達36−32《課税しない経済的利益‥‥使用者が負担する少額な保険料等》

  使用者が役員又は使用人のために次に掲げる保険料又は掛金を負担することにより当該役員又は使用人が受ける経済的利益については、その者につきその月中に負担する金額の合計額が300円以下である場合に限り、課税しなくて差し支えない。ただし、使用者が役員又は特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを対象として当該保険料又は掛金を負担することにより当該役員又は使用人が受ける経済的利益については、この限りでない。
(1)省略
(2)生命保険契約等又は損害保険契約等に係る保険料又は掛金

相続税法基本通達3−17《雇用主が保険料を負担している場合》

 雇用主がその従業員(役員を含む。以下同じ。)のためにその者(その者の配偶者その他の親族を含む。)を被保険者とする生命保険契約又はこれらの者の身体を保険の目的とする損害保険契約に係る保険料の全部又は一部を負担している場合において、保険事故の発生により従業員その他の者が当該契約に係る保険金を取得したときの取扱いは、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次によるものとする。ただし、雇用主が当該保険金を従業員の退職手当金等として支給することとしている場合には、当該保険金は法第3条第1項第2号に掲げる退職手当金等に該当するものとし、この取扱いを適用しない。
(1)省略
(2)従業員以外の者の死亡を保険事故として当該従業員が当該保険金を取得した場合
 雇用主が負担した保険料は、当該従業員が負担していたものとして、当該保険料に対応する部分については、相続税及び贈与税の課税関係は生じないものとする。
(3)省略

法人税基本通達9−3−4《養老保険に係る保険料》

 法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする養老保険(被保険者の死亡又は生存を保険事故とする生命保険をいう。)に加入してその保険料を支払った場合には、その支払った保険料の額については、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次により取り扱うものとする。
(1)及び(2)省略
(3)死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、生存保険金の受取人が当該法人である場合
 その支払った保険料の額のうち、その2分の1に相当する金額は資産に計上し、残額は期間の経過に応じて損金の額に算入する。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合には、当該残額は、当該役員又は使用人に対する給与とする。

別紙2 当事者の主張

争点 一時所得の金額の計算上、本件満期保険金等から本件費用処理保険料を控除することができるか否か。

請求人

 本件費用処理保険料は、次のとおり、一時所得の金額の計算上、総収入金額から控除することができる。
1 租税法律主義違反
(1)課税要件法定主義・課税要件明確主義
 租税法は侵害規範であることから、法的安定性の要請が強く働く。したがって、「疑わしきは納税者の利益に」との観点から、租税法の解釈においては、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されず、厳格に解することを要する。
(2)所得税法第34条第2項
 所得税法第34条第2項は、一時所得の金額の計算につき、「一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。」と規定するが、同項において、「その収入を得るために支出した金額」が、収入を得た請求人の負担分に限定される旨の明示は一切ない。かえって、上記の文言を素直に解釈すると、生命保険においては、「その収入」とは受け取った保険金全額を指し、「支出した金額」とは、受け取った保険金全額に対応する支払保険料、すなわち請求人負担分であるか否かを問わない支払保険料の総額を指すといわざるを得ない。
(3)所得税法施行令第183条第2項第2号
イ 所得税法施行令第183条第2項第2号は、「当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金・・・の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する。」と規定する。
 しかるに、所得税法施行令第183条第2項第2号においては、所得税法第34条第2項におけるのと同様、「支出した金額」に算入される保険料の総額が、請求人負担分の保険料に限られるとの限定は一切ない。かえって、「総額」という文言を素直に解釈すると、請求人負担分の保険料であるか否かを問わず、文字どおり、支払保険料の総額を指すといわざるを得ない。
ロ ただし、所得税法施行令第183条第2項第2号は、除外事由につき、ただし書を規定し、「支出した金額」に算入しないものを列挙していることから、当該列挙事由に該当する場合は、「支出した金額」に算入できないこととなる。しかしながら、本件養老保険において、本件費用処理保険料が上記列挙事由に該当しないことは明らかである。
 また、上記の租税法律主義の観点から、所得税法施行令第183条第2項第2号ただし書は、限定列挙と解すべきであるから、列挙事由に類似するという考え方が仮にあり得るとしても、本件養老保険において、本件費用処理保険料を「支出した金額」に算入しないことは許されない。
ハ 原処分庁が主張するように、一時金の額から控除される保険料の総額が「課税済のものに限られる」とするならば、C社の請求人に対する貸付金には給与所得としての課税はなされていない。とすれば、かかる貸付金については、一時金の額から控除される保険料の総額に含まれないとの結論に至ると思われるが、原処分庁はそのように解していない。
ニ また、原処分庁は、「法令上、一時金の額から控除される保険料の総額は『本人負担分すなわち課税済のものに限って控除する』との規定振りになっているものと認められる」と主張するが、課税要件法定主義・課税要件明確主義が要求される租税法の解釈においては、「規定振り」といった漫然とした法解釈が許されないことはいうまでもない。
 請求人の主張は、決して独自の見解に基づくものではなく、「必要経費としての保険料は、本人の給与所得としての課税の有無に関係なく、企業負担分を本人が負担したものとして取り扱う。」として、証拠資料として提出した生命保険大学課程テキストほか複数の実務書で述べられている一般的解釈に沿うものであるが、原処分庁の主張は、かかる一般的解釈を真っ向から否定している。
(4)所得税基本通達34−4
イ 所得税基本通達34−4は、極めて明確に「所得税法施行令第183条第2項第2号・・・に規定する保険料又は掛金の総額には、その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の総額・・・も含まれる。」と定めており、支払を受ける者以外の者が負担した保険料の総額も、所得税法施行令第183条第2項第2号の「支出した金額」に含まれる旨を明示している。
 また、上記(2)及び(3)のとおり、所得税法第34条第2項及び同法施行令第183条第2項第2号が、控除されるべき支払保険料の総額が請求人負担分であるか否かを問うていないからこそ、所得税基本通達34−4においても、このように明確に、請求人負担分であるか否かを問わず、支払を受ける者以外の者が負担した保険料の総額も控除される旨定めたのである。
ロ 原処分庁は、所得税基本通達34−4は、給与課税されていない保険料を一時所得の金額の計算上控除することを定めたものとは認められない旨主張するが、この解釈は、明らかに同通達34−4の明文に反するものである。
 租税通達は法規範ではないにしても、租税実務においては事実上、法規範と同様の極めて重要な機能を果たしていることから、租税通達の解釈においても、当然、課税要件法定主義・課税要件明確主義が適用されることとなる。それにもかかわらず、原処分庁は、一般に保険料の負担は契約者とされることから、使用者が保険料を支払ったことにより給与課税された場合に、使用人が負担していないとして控除されないとするのは適当でなく、また、そのように所得税法を解するおそれがあるため制定された通達だと、一般論を用いた上で、通達の文言では全く触れられていない「給与課税」された場合に限定したものであるとのし意的な解釈を行っている。
 このような原処分庁の解釈は、課税要件法定主義・課税要件明確主義に反することは明らかである。
(5)小括
 以上により、租税法律主義の観点からすると、本件更正処分は、所得税法第34条第2項及び同法施行令第183条第2項第2号に反するものであり、違法であることは明白である。
2 保険金受取人(一時所得者)が負担したか否かにかかわらず、支払保険料の総額を一時所得から控除することの合理性
(1)死亡保険金が一時所得となる場合の課税上の取扱いとの整合性
イ 相続税法基本通達3−17の(2)
(イ)契約者を法人、被保険者を法人の従業員(役員)の家族、死亡保険金の受取人を当該従業員(役員)、満期保険金の受取人を法人とする養老保険においては、保険期間中において当該従業員(役員)の家族が死亡した場合には、従業員(役員)が死亡保険金を受け取ることとなる。この場合の課税上の取扱いについては、相続税法基本通達3−17の(2)が、「雇用主が負担した保険料は、当該従業員が負担していたものとして、当該保険料に対応する部分については、相続税及び贈与税の課税関係は生じないものとする。」と定めており、同通達3−17の(2)に従うと、当該従業員(役員)は、「相続税及び贈与税の課税関係は生じない」というのであるから、当該死亡保険金を一時所得として申告することとなるが、その一時所得の金額の計算においては、「雇用主が負担した保険料は、当該従業員が負担していたもの」とするというのであるから、雇用主(法人)が負担しているものとして経理処理された支払保険料の2分の1部分(積立金として資産計上)も、従業員(役員)が負担していたものとして、全額控除される取扱いとなる。
 つまり、死亡保険金が一時所得となる上記事例においては、一時所得から控除される保険料は、保険金受取人(一時所得者)が負担したか否かにかかわらず支払保険料の総額なのである。
(ロ)また、相続税法基本通達3−17の(2)においては、「当該従業員が負担していたものとして」との部分がなくとも、すなわち、仮に「従業員以外の者の死亡を保険事故として当該従業員が死亡保険金を取得した場合、雇用主が負担した保険料に対応する部分については、相続税及び贈与税の課税関係は生じないものとする。」と定めていたとしても、同通達3−17の(2)と全く同じ意味となる。それにもかかわらず、同通達3−17の(2)に「当該従業員が負担していたものとして」との文言が存在するのは、一時所得から控除される支払保険料が、課税の有無を問わず支払保険料の総額であることを明示するためと考えれば、所得税と相続税にまたがる同通達3−17の(2)を統一的かつ合理的に解釈することが可能となる。
(ハ)法人税基本通達9−3−4の(3)
 契約者を法人、被保険者を従業員(役員)の家族(普遍的加入)とし、死亡保険金の受取人を当該従業員(役員)、満期保険金の受取人を法人とする場合、法人税基本通達9−3−4の(3)では、法人は、支払保険料の2分の1を保険料積立金として資産計上し、残りの2分の1を福利厚生費として損金算入する経理処理を行うこととなる。この場合、福利厚生費として損金算入された支払保険料の2分の1については、給与課税されないこととなるが、それでも一時所得の金額の計算上においては、当該支払保険料の2分の1についても控除が認められることとなる。これは、従業員が使用者からその保険料相当額の経済的利益を、福利厚生として実質的に享受しているとの考え方に基づくものである。このように、死亡保険金の受取人に課税されていなくとも、一時所得の金額の計算上、支払保険料の控除が認められる場合もあるのであるから、「課税済のものに限って控除する」との原処分庁の主張は、何ら合理性を有さない。
ロ 生命保険においては、生存も死亡も同質の保険事故であること
 生命保険契約とは、被保険者(保険契約者と同一の場合と第三者の場合がある)が保険期間満了時に生存し、又は保険期間中に死亡したことに関して、生命保険会社が一定の保険金を支払うことを約束し、保険契約者が保険料を支払う契約をいう。
 死亡保険では、保険期間中の被保険者の死亡が保険事故であり、この保険事故の発生により保険契約は消滅し、生存保険では、保険期間満了時の被保険者の生存が保険事故であり、これにより保険契約は消滅する。このように、生命保険においては、人の生死が保険事故とされているが、これは必ずしも保険事故の対象をどちらか一方のみに限定しなければならないというわけではなく、実際には、生存と死亡の両方を保険事故とする保険商品も多いとされる。
 本件養老保険のような養老保険も、生存と死亡の両方を保険事故とするものであって、満期時に生存しているか、満期までに死亡するかは、だれにも分からないのであるから、死亡も生存も保険事故としては性質を同じくするのである。したがって、養老保険においては、保険期間中に死亡した場合も、保険期間満了時に生存していた場合も、受取保険金の課税上における支払保険料の取扱いは同じくすべきである。
 前記イの(イ)のとおり、死亡保険金が一時所得となる事例においては、一時所得から控除される保険料は、保険金受取人(一時所得者)が負担したか否かにかかわらず支払保険料の総額となるのであるから、本件養老保険のように満期保険金が一時所得となる場合においても、同様に一時所得から控除される保険料は、保険金受取人(一時所得者)が負担したか否かにかかわらず支払保険料の総額とすべきであり、あえて異なる取扱いをする合理的理由は何もない。このように解することが、かえって、所得税基本通達34−4の定めに従った取扱いに合致することとなることは明らかである。
(2)結果から顧みて、保険料の取扱いの不合理性を指摘することの不合理性
イ 原処分庁の実質判断
 本件更正処分においては、請求人が満期保険金を受け取っているが、本件支払保険料のうち2分の1は、C社の保険料として損金処理され、請求人に対する所得として課税されていないのであるから、本件支払保険料の全額控除を認めてしまうと非課税部分が不当に広がるという実質判断があるようである。もとより、非課税部分が広がるのを是正する必要があるのであれば、前記1に記載した租税法律主義の中においては、立法により解決しなければならないのであるが、それのみならず、原処分庁の上記の発想は、個人が満期保険金を受け取ったという結果からさかのぼって、当該個人が課税されていない支払保険料の取扱いが不合理であったと指摘するに等しく、合理的とはいえない。
ロ 便宜的取扱いをせざるを得ない保険料の仕訳
 養老保険は、前記(1)のロのとおり、死亡、生存のいずれも保険事故とするものであり、法人が契約者、法人の従業員(役員)を被保険者とする養老保険においては、満期保険金と死亡保険金の受取人が分離することも当然あり得る。このうち、満期保険金の受取人を法人とし、死亡保険金の受取人を従業員(役員)の遺族とするパターンについては、法人税基本通達9−3−4の(3)のただし書は、支払保険料の2分の1を資産計上し、残りの2分の1を給与として経理処理をするという取扱いをせよとしている。保険契約の消滅原因は、死亡、満期(あるいは解約)のいずれか一つしか存在せず、保険金を取得するのが法人となるか従業員(役員)側となるかが遅くとも満期時までには決定するのであるが、保険料を支払っている段階では、実際に消滅原因となるのが死亡か満期か分からず、保険金を取得するのが法人となるか従業員(役員)側となるかも分からない。したがって、その段階では、本来は、支払保険料はいずれの保険金受取人のために支払われたと整理することもできない。しかし、それではいつまでも(最も長期では満期までの間)支払保険料の会計処理ができないことになることから、便宜的に、保険料を2分の1ずつに分けて経理処理を行うこととしたのである。
ハ 支払保険料の事後的修正はないこと
 支払保険料を前記ロのように取り扱うことを定めた以上、後に死亡又は満期という結果が出たからといって、さかのぼって支払保険料の取扱いをやり直すことはしない。例えば、本件養老保険において、仮に被保険者が保険期間中に死亡し、C社が死亡保険金を受け取ることとなっても、原処分庁は、請求人(あるいは、当初満期保険金受取人兼役員報酬受取人)に対して、既に給与課税をした保険料について、被保険者の相続人に還付しないはずである。また、本件養老保険が解約された場合についても考えてみると、かかる場合における解約返戻金は、過去の支払保険料に対する課税関係とは無関係にすべて契約者たる法人に返還されることとなるが、この場合も、解約という結果から顧みれば、本来給与課税は不要であったこととなるが、やはり原処分庁は、給与課税をした保険料について還付を行わないであろう。
 このように、本件養老保険においては、保険料を支払っている段階では保険金の帰属が分からないので、本件支払保険料の経理処理は便宜的に取り扱わざるを得ず、また、その便宜的取扱いは結果からさかのぼって修正をしないことからすると、本件養老保険のように従業員(役員)には課税されず、法人が保険料として損金処理した部分が結果的に従業員(役員)の収入(満期保険金)に結びついたとしても、あるいは逆に給与等として従業員(役員)に課税されていたにもかかわらず、被保険者が死亡し、死亡保険金を法人が受け取ることになり、結果的に従業員(役員)の収入には結びつかなかったとしても、それは保険金受取人がだれになるかという結果の分からない本件養老保険のような養老保険の性質上やむを得ないことなのである。
 したがって、本件更正処分におけるように、結果から顧みたとき、本件支払保険料の2分の1への課税がなされていない(請求人負担がない)として、本件支払保険料の2分の1の控除を認めないとすることは明らかに不合理である。
ニ 原処分庁は、法令上、一時金の額から控除される保険料の総額は「本人負担分すなわち課税済のものに限って控除する」との規定振りになっていることから、本件費用処理保険料を総収入金額から控除することはできないとしたのであって、単に個人が満期保険金を受け取ったという結果及び本件支払保険料の2分の1について請求人に課税されていないという結果が不合理を来しているということで原処分を行ったものではない旨主張するが、この点、原処分庁は、単に個人が、満期保険金を受け取ったという結果及び本件支払保険料の2分の1について請求人に課税されていないという結果が不合理を来しているとして原処分を行ったものではない、すなわち、他の要因もあったことから原処分を行ったと主張しているのであるから、少なくとも、本件支払保険料の2分の1について請求人に課税されていないという結果が不合理を来していることも、原処分を行った一因であったことを認めているようである。
 しかし、繰り返し主張しているとおり、かかる結果は、本件養老保険においてはやむを得ないものであり、何ら不合理でないことは明らかである。
3 予測可能性・法的安定性
(1)法人税基本通達9−3−4は、昭和55年に制定されているところ、本件養老保険のパターンは、同通達9−3−4の(3)における死亡保険金の受取人と満期保険金の受取人を入れ替えたものにすぎない。なぜ、本件養老保険のパターンが規定されなかったのかについて疑問が生ずるところではあるが、いずれにしても国税当局は、昭和55年、本件養老保険のパターンが存在することを想定できたはずである。この場合、最初の本件養老保険のパターン(満期5年)の満期は、昭和60年になることから、このころから国税当局は、本件養老保険のパターンの満期保険金について取扱いを行うことを要したはずである。また、平成11年、本件養老保険と同様の養老保険の満期保険金の取扱いについて記載された国税庁職員執筆の書籍が発行されていることからみて、どんなに遅くとも、このころには、国税当局も、本件養老保険のような養老保険の満期保険金の取扱いにつき、問題意識を有していたはずである。それにもかかわらず、所得税法第34条、同法施行令第183条第2項及び所得税基本通達34−4のいずれも今日まで改正が行われないままとなっており、所得税法施行令第183条第2項の最終改正日は、平成16年11月4日であるが、その際にも、やはり「支払保険料のうち一時所得者の負担分に限り一時所得から控除する」旨の法改正がなされていない。
 以上から、納税者は、当然、本人負担分(課税済)であるか否かを問わず、支払を受ける者以外の者が負担した保険料についても控除されるとして、経済活動を行うとともに、納税も行ってきたのであり、これに反する本件更正処分は、法の予測可能性・法的安定性を害する違法な処分である。
(2)原処分庁は、法令及び通達を制定する機関ではないから、本件養老保険に関する法令の改正及び通達の制定について判断をする立場にないとだけ主張するが、請求人は、原処分庁に対して、法令及び通達を制定する機関として、法令の改正及び通達の制定について判断せよと主張しているのではなく、本件更正処分に至る20年もの間、法令の改正はおろか、通達の改正すら行われなかったという経緯があるにもかかわらず、今回、し意的に法令及び通達を解釈した上、本件更正処分をなした原処分庁の法令・通達の運用のやり方が、法の予測可能性・法的安定性を害するものであると主張しているのである。
4 租税公平主義
(1)税負担は、国民の間に担税力に即して公平に配分されなければならず、各種の租税法律関係において国民は、平等に取り扱われなければならない。しかるに、原処分に係る調査の担当職員(以下「調査担当職員」という。)の話では、本件更正処分は、受け取った保険金額が余りに大きかったので、請求人及びその家族に対してのみなしたとのことであった。
 本件養老保険と同様の保険商品は、全国に無数にあるにもかかわらず、請求人のみにおいて、本件費用処理保険料について控除を認めないとするのは、租税公平主義にも反する違法な処分である。
(2)原処分庁は、本件養老保険と同様の保険商品に対する処分の有無については、原処分と何ら関係がない旨主張するが、本件更正処分がなされる以前、調査担当職員は、事実、受け取った保険金額が余りに大きいので、請求人及びその家族に対して本件更正処分をなす旨を述べていたのであり、原処分庁が本件更正処分をすることを決定するに当たっては、かかる実質判断があったと考えざるを得ない。
 したがって、調査担当職員による上記発言の有無は、本件更正処分と大いに関係するところである。それにもかかわらず、原処分と何ら関係がないとだけを主張する原処分庁の主張は、誠実さを欠くといわざるを得ない。
5 結論
 以上により、本件養老保険において、本件費用処理保険料の控除を認めないとする本件更正処分が違法であることは明らかであり、仮に控除を認めないとする取扱いを行うならば、かかる取扱いを明記した立法を行った上でなさなければならない。

原処分庁

 本件費用処理保険料は、次のとおり、請求人の給与所得として課税されておらず、請求人が負担したものではないことから、一時所得の金額の計算上、総収入金額から控除することはできない。
1 租税法律主義違反
(1)所得税法第34条第2項
 一時所得の金額の計算について、所得税法第34条第2項は、「一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。」と規定している。
(2)所得税法施行令第183条第2項第1号、第2号、同号ただし書及び同条第4項
イ 生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算について、所得税法施行令第183条第2項第1号は、「生命保険契約等に基づき分配を受ける剰余金又は割戻しを受ける割戻金の額で、当該一時金とともに又は当該一時金の支払を受けた後に支払を受けるものは、その年分の一時所得に係る総収入金額に算入する。」と規定し、同項第2号は、「当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する。」旨規定している。
ロ ところで、所得税法施行令第183条第2項第2号ただし書や同条第4項では、社会保険料控除等の対象とされ、その全額が所得控除の対象とされたもの及び事業主が負担した保険料で支出時において給与課税されていないものの保険料は、一時所得の金額の計算上、総収入金額から控除される保険料の総額に含めないこととされていることからすると、法令上、一時金の額から控除される保険料の総額は「本人負担分すなわち課税済のものに限って控除する」との規定振りになっているものと認められる。
(3)所得税基本通達34−4
イ 所得税基本通達34−4は、一般に保険料の負担は契約者とされることから、使用者が保険料を支払ったことにより給与課税された場合に、使用人が負担していないとして控除されないとするのは適当でなく、また、そのように所得税法を解するおそれがあることから、一時金の所得者以外の者が負担した保険料も含まれる旨を明らかにする趣旨で制定されたものであり、給与課税されていない保険料を一時所得の金額の計算上控除することを定めたものとは認められない。
ロ 請求人は、原処分庁の所得税基本通達34−4の解釈は、明らかに同通達34−4の明文に反し、課税要件法定主義・課税要件明確主義に反することは明らかである旨主張するが、同通達34−4が、一時所得の計算において控除する保険料について、原則として、使用者が負担した保険料で給与課税していない保険料を控除できない場合も含めて定めていることは、同通達34−4の注書きと関連して解釈すれば明らかである。
 なお、所得税基本通達34−4の注書きには、「使用者が負担した保険料又は掛金で36−32により給与等として課税されなかったものの額は、令第183条第2項第2号又は第184条《損害保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額に含まれる。」と定めており、これは給与課税の少額不追求の趣旨で給与課税されなかったものは課税済と同等の状況にあり、これを一時所得の金額の計算上控除しないこととすることは、給与課税しないこととした趣旨が失われると考えられることによるものである。
2 保険金受取人(一時所得者)が負担したか否かにかかわらず、支払保険料の総額を一時所得から控除することの合理性
(1)死亡保険金が一時所得となる場合の課税上の取扱いとの整合性
 相続税法基本通達3−17は、雇用主が従業員のために保険料を負担する場合、保険料の負担者を雇用主とみるか従業員とみるかによって課税関係が異なることになるので、雇用主が従業員のために負担していた保険料について、その保険契約に係る保険事故(死亡)が発生した場合の取扱いを定めたものである。また、同通達3−17は、所得税や法人税では、使用者を契約者とし、従業員(役員及びこれらの者の親族を含む。)を被保険者とする養老保険等の保険料を支払った場合で、保険金受取人が被保険者又はその遺族であるときには、その支払った保険料の額は当該従業員に対する給与等とされている取扱いとひょうそくを合わせたものであり、一時所得の金額の計算上、雇用主が負担した保険料の全額が総収入金額から控除されることを定めたものではない。
(2)結果から顧みて、保険料の取扱いの不合理性を指摘することの不合理性
イ 原処分庁が、本件養老保険の一時所得の金額の計算上、本件費用処理保険料を総収入金額から控除することはできないものとした根拠は、前記1の(2)のロのとおりであり、法令上、一時金の額から控除される保険料の総額は「本人負担分すなわち課税済のものに限って控除する」との規定振りになっているものと認められることによるものである。
 したがって、単に個人が満期保険金を受け取ったという結果及び支払保険料の2分の1について請求人に課税されていないという結果が不合理を来しているということで原処分庁が原処分を行ったものではなく、原処分に何ら違法な点はない。
ロ 法人税基本通達9−3−4は、法人が役員又は使用人を被保険者として養老保険に加入して保険料を支払った場合の取扱いを定めたものであり、原処分が同通達9−3−4の(3)の定めと矛盾するところは、何ら認められない。
3 予測可能性・法的安定性
(1)原処分庁は、法令及び通達を制定する機関ではないから、本件養老保険に関する法令の改正及び通達の制定について判断をする立場にない。
(2)原処分の根拠は、前記1の(1)、(2)及び(3)のとおりであり、し意的に法令及び通達を解釈したものではなく、かつ、原処分が法の予測可能性・法的安定性を害するものではない。
4 租税公平主義
 本件養老保険と同様の保険商品に対する処分の有無については、原処分と何ら関係がない。

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