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(平18.1.25裁決、裁決事例集No.71 349頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、漁業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人所有の船舶に乗船させる外国人漁船員の手配等を依頼した法人に支払った金員の一部について、原処分庁が、所得税法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下同じ。)第161条《国内源泉所得》第8号イに掲げる国内源泉所得に該当し、同法第212条《源泉徴収義務》の規定の適用があるとして行った源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分に対し、請求人が、国内源泉所得には当たらないこと等を理由にその取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人に対し、平成15年12月19日付で、平成12年1月から平成12年8月まで、平成12年10月から平成14年2月まで及び平成14年4月から平成14年12月までの各月分(以下、これらを併せて「本件各月分」という。)の源泉所得税について、別表1の「納税告知処分」欄及び「賦課決定処分」欄のとおりの各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成16年2月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月11日付で別表1の「異議決定」欄のとおり、上記イの各納税告知処分及び各賦課決定処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定により一部取り消された後の各納税告知処分及び各賦課決定処分を、それぞれ「本件各納税告知処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)。
ハ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成16年6月7日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第2条《定義》第1項第3号は、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいうと、同項第4号は、非永住者とは、居住者のうち、国内に永住する意思がなく、かつ、現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人をいうと、また、同項第5号は、非居住者とは、居住者以外の個人をいうとそれぞれ規定している。
ロ 所得税法第161条第8号イは、俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するものは、国内源泉所得に該当する旨規定している。
ハ 所得税法第212条第1項は、非居住者に対し国内において同法第161条第1号の2から第12号まで(国内源泉所得)に掲げる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ニ 所得税法第213条《徴収税額》第1項第1号は、前条第1項の規定により徴収すべき所得税の額は、同項に規定する国内源泉所得の金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ホ 所得税法施行令第285条《国内に源泉がある給与、報酬又は年金の範囲》第1項第2号は、居住者又は内国法人が運航する船舶又は航空機において行う勤務その他の人的役務の提供(国外における寄航地において行われる一時的な人的役務の提供を除く。)は、所得税法第161条第8号イに規定する政令で定める人的役務の提供に該当する旨規定している。
ヘ 所得税基本通達3−1《船舶、航空機の乗組員の住所の判定》は、船舶又は航空機の乗組員の住所が国内にあるかどうかは、その者の配偶者その他生計を一にする親族の居住している地又はその者の勤務外の期間中通常滞在する地が国内にあるかどうかにより判定する旨定めている。
ト 船員法第50条《船員手帳》第1項は、船員は船員手帳を受有しなければならないと規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件各納税告知処分のうち別表1の「所得の種類」欄の「非居住者」の部分は、請求人所有の船舶のうち船名をF及びGとする各船舶(以下「本件船舶」という。)に乗船した外国人漁船員について行われたものである。
ロ 請求人とP市Q町に日本国内の事務所を置く外国法人であるH社が平成9年2月20日付で取り交わした配乗管理委託契約書(以下「本件配乗管理委託契約書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)業務内容
 H社は、請求人の要請に基づき、請求人の所有する船舶に配乗勤務させる外国人漁船員の適切なる選択、乗船手配及び管理を行うものとする。
(ロ)配乗外国人漁船員の承認
 H社は、配乗させる外国人漁船員の氏名、国籍、年齢、乗船経歴等の明細を「配乗船員承認申請書」に記載して、請求人に提出するものとし、請求人は「配乗船員承認書」に捺印しH社の配乗手配を承認するものとする。
(ハ)業務委託料
 請求人は、H社に対し、外国人漁船員の本国出発日から帰国日までの期間を対象として別途覚書に定める業務委託料を支払うものとする。
(ニ)業務委託料の支払方法
 請求人は、H社の請求に基づき、1か月毎に業務委託料を前払するものとし、船員下船後、船員の請求人に対する債務、雇用日数等を計算の上、精算するものとする。
(ホ)船主負担
 業務委託料の他、作業服、カッパ、長靴、寝具(実物貸与)は、請求人の負担とする。
(ヘ)外国人漁船員の乗船期間
 外国人漁船員の乗船期間は、別途覚書に定めるものとする。
ハ 本件船舶に関して請求人とH社が取り交わした上記ロの(ハ)及び(ヘ)にいう覚書(以下「本件覚書」という。)は、本件船舶のそれぞれごとに、かつ、その航海ごとに作成され、外国人漁船員の人数、乗船期間並びに外国人漁船員別に業務委託料として給与・概算賞与、諸経費及び管理手数料ごとの金額等について記載されている。
 また、業務委託料の中の賞与に関しては、概算払いであり最終的に決定した金額との差額を当該外国人漁船員の下船時に精算する旨、さらには、乗船期間の変更については、請求人とH社の協議により変更可能である旨の記載もされている。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各納税告知処分について
(イ)国内源泉所得について
 次の理由により、本件船舶に乗船する外国人漁船員は、請求人との間に雇用関係があると認められ、かつ、内国法人である請求人が運航する船舶において人的役務の提供を行っているので、本件船舶における外国人漁船員の人的役務の提供に係る対価(以下「本件対価」という。)は、所得税法第161条第8号イに掲げる国内源泉所得に該当する。
A 請求人の代表取締役であるJは、原処分庁に対して要旨次のとおり申述した。
(A)上記1の(4)のロの(ロ)のようにH社が請求人に提出する配乗船員承認申請書(以下「本件配乗船員承認申請書」という。)は、人数、期間、漁海域、乗下船港及び報酬等に係る請求人の希望に基づき作成される。
(B)本件配乗船員承認申請書に記載された者の中から、請求人が外国人漁船員を選択し、H社に上記1の(4)のロの(ロ)の配乗船員承認書(以下「本件配乗船員承認書」という。)を送付することで、国内におけるすべての手続が終了する。
(C)外国人漁船員は、本件配乗船員承認書に基づき、指定された日時に外国の港で本件船舶に乗船し、漁の終了後、指定された外国の港で下船する。
B 上記1の(4)のロ及び上記Aからすれば、請求人は、外国人漁船員を本件船舶に乗船させるか否かを決定する権利を有し、H社が作成した本件配乗船員承認申請書に記載された者の中から本件船舶に乗船させる外国人漁船員を最終的に選択しており、当該外国人漁船員との雇用関係に基づき本件船舶において人的役務の提供を行わせ、指定した外国の港において乗・下船させていることが認められる。
 また、船員職業安定法(平成16年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)第53条《船員労務供給事業の禁止》においては、船員労務供給事業を行う者から供給される人を船員として自らの指揮命令の下に従事させてはならないとされており、請求人はH社から船員の派遣を受けることはできないこと、国際漁業における外国人漁船員の受入れについては、漁業者が個々の外国人漁船員と雇用契約を締結し、船員手帳の交付を受けることが必要とされていることからも、本件船舶に乗船した外国人漁船員と請求人との間には雇用関係があると認めるのが相当である。
C 請求人は本件船舶を運航し遠洋漁業をしているのであるから、本件船舶において行う勤務その他の人的役務の提供は、所得税法施行令第285条第1項第2号の規定のとおり、所得税法第161条第8号イに規定する国内において行う勤務その他の人的役務の提供に該当することとなる。
(ロ)外国人漁船員の受入方式について
 請求人は、下記(2)のイの(ロ)のとおり主張するが、請求人の主張するマルシップ方式は、船主と外国人漁船員との間に直接雇用関係がないものであり、請求人が本件船舶に採用している海外基地方式と同様のものではないから、その取扱いが異なっても不合理ではない。
(ハ)源泉徴収義務等について
A 所得税基本通達3−1は、上記1の(3)のへのとおり、船舶又は航空機の乗組員の住所が国内にあるかどうかは、その者の配偶者その他生計を一にする親族の居住している地又はその者の勤務外の期間中通常滞在する地が国内にあるかどうかによって判定する旨定めているところ、これは、船舶又は航空機の乗組員にとって、搭乗する船舶又は航空機は単なる勤務場所に過ぎないと解されているためである。
 さらに、国際漁業における外国人漁船員の受入れについては、国土交通省の指導の下、日本漁船は外国人漁船員を受け入れないように指導されていたが、平成2年3月30日付海労第115号海上技術安全局船員部長通達「国際漁業における外国人漁船員の適正な受入れについて」により、海外基地方式を利用する日本漁船を対象に一定の制限を設けたうえで外国人漁船員を受け入れることが認められたところ、同通達によれば、対象の日本漁船への受入れが可能な外国人漁船員は、〔1〕対象漁船の漁業者の海外事務所に雇用されているものであること、〔2〕運航要員以外の乗組員として乗り組むものであること、〔3〕本邦以外の他の地において乗船及び下船し、本邦に上陸しないものであること、及び〔4〕外国人漁船員の員数は、必要最小限のものであることのいずれにも該当するものであることが定められている。
 これらのことから、外国人漁船員は、国内以外の地において乗下船し、国内に上陸しないこととなるから、その住所は国内に無いと判定されるので、非居住者に該当し、居住者である非永住者として取り扱うことはできない。
B そうすると、上記(イ)のとおり、本件対価は所得税法第161条第8号イに掲げる国内源泉所得に該当し、かつ、本件船舶に乗船する外国人漁船員は非居住者に該当することから、請求人は、同法第212条の規定により、本件対価の支払の際に、所得税を徴収し、納付しなければならないこととなる。
 そこで、所得税法第213条第1項第1号の規定により本件各月分の当該外国人漁船員に係る源泉所得税の額を計算すると、別表1の「所得の種類」欄の「非居住者」の部分の金額は、同表の異議決定に係る「納税告知処分」欄の金額といずれも同額であるから、本件各納税告知処分は適法である。
(ニ)関係団体等の指導について
 請求人は、下記(2)のイの(ニ)のとおり主張するが、関係団体等を通じた指導がなかったことは、本件各月分に係る各納税告知処分を違法とする理由にはならない。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各納税告知処分は適法であり、かつ、国税通則法(以下「通則法」という。)第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、同項に基づき行った本件各賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人

 原処分は次の理由により違法であるから、原処分のうち非居住者に対する国内源泉所得に該当するとして行われた部分の取消しを求める。
 なお、原処分のその他の部分については、争わない。
イ 本件各納税告知処分について
(イ)国内源泉所得について
 次のとおり、請求人と本件船舶に乗船する外国人漁船員との間に雇用契約はなく、請求人は外国人漁船員の雇用主ではない。請求人はH社から当該外国人漁船員の派遣を受けているのみである。
 したがって、請求人がH社へ支払う金員は、その全額がH社からの外国人漁船員の派遣の対価なのであって、所得税法第161条第8号イに掲げる国内源泉所得に該当するものではない。
A 外国人漁船員の本件船舶への乗船に関する契約書類は、本件配乗管理委託契約書と本件覚書のみであり、請求人は外国人漁船員と雇用契約書を取り交わしていない。
B 請求人と本件船舶に乗船する外国人漁船員との間に雇用関係があるとすれば、乗船期間の変更については当該外国人漁船員の同意が必要であるところ、本件覚書においては、上記1の(4)のハのとおり、請求人とH社との協議により変更可能な旨が定められており、当該外国人漁船員本人の同意が必要とされていない。
 このことからも、外国人漁船員は、請求人が雇用しているものではなく、H社から派遣を受けたものであるといえる。
C 請求人は、本件配乗船員承認申請書に基づき本件船舶に乗船させる外国人漁船員を選択しているが、これは、外国人漁船員の経歴、技能によってH社への支払額が異なることから、漁船の操業効率及び採算面を考慮して選択しているのであって、このことをもって、請求人と外国人漁船員との関係が派遣であることを否定し、雇用関係に基づくものであると断定できるものではない。
D 外国人漁船員の本件船舶への乗船が船員職業安定法第53条の規定に抵触した場合に、請求人に受入側としての責任を問われることはあっても、外国人漁船員の派遣を受けたことの実態に変わりはないから、同条の規定をもって、請求人と外国人漁船員との間に雇用契約があることにはならない。
E 請求人が外国人漁船員に係る船員手帳の交付申請の際に提出する雇用契約(予約)証明書は、国土交通省が外国人漁船員に対して日本国への入国を禁止しているにもかかわらず、船員手帳の取得を義務付けているためにやむを得ず作成しているものであり、実態とは異なっているから、このことをもって請求人と外国人漁船員との間に雇用契約があることにはならない。
(ロ)外国人漁船員の受入方式について
 請求人は、本件船舶において海外基地方式により遠洋漁業を行っている。
 漁船に外国人漁船員を乗船させ操業する方式としては、マルシップ方式と海外基地方式があるが、これらの方式のうちマルシップ方式による外国人漁船員の受入れは、派遣によるものであるとして、その対価については源泉所得税の徴収対象とされていない。
 しかしながら、これらの方式の内実は何ら変わるものではなく、いずれの方式を採用するかは、もっぱら、受入側漁船の運航上の便宜性にあるから、採用する方式により源泉所得税の取扱いが違うとするのは、実態を無視した不合理なものである。
 したがって、海外基地方式により外国人漁船員を受け入れた場合であっても、マルシップ方式と同様に派遣によるものと変わるところがないのであるから、その対価については源泉所得税の徴収対象とすべきではない。
(ハ)源泉徴収義務等について
A 上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人がH社に支払う金員に国内源泉所得に該当するものはないから、請求人に源泉徴収義務はない。
 源泉徴収義務があるとすれば、外国人漁船員の契約主、採用主であり最終賃金精算をするH社であって、請求人ではない。
B 仮に、本件船舶に乗船する外国人漁船員が受け取っている金員が源泉所得税の徴収対象となるものであるとしても、当該外国人漁船員のうち乗船期間が1年以上にわたる者については、本件船舶内に居所を有することとなるから、非居住者ではなく非永住者に該当するので、税率は居住者と同様の税率を適用すべきである。
(ニ)関係団体等の指導について
 請求人は、K組合の会員であるが、いまだかつて、関係団体等を通じて外国人漁船員に対する源泉徴収が必要であるとする指導がなく、また、同業他社においても源泉徴収しているとする実態はないと聞いており、原処分庁が過去にさかのぼって本件各月分に係る各納税告知処分をしたことは違法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イによる本件各納税告知処分の取消しに伴い、本件各賦課決定処分も取り消されるべきである。

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3 判断

(1)認定事実等

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成2年3月30日付海労第116号の海上技術安全局船員部労政課長通達に基づき、「海外基地を中心に操業する日本漁船に乗り組む外国人の配乗等に関する調書」を○○運輸局に提出し、また、上記1の(3)のトの船員法第50条第1項の規定並びに船員法施行規則第28条《船員手帳の交付》及び第29条《船員手帳の交付申請》の規定に基づき、外国人漁船員に係る船員手帳の交付申請に必要な船員手帳交付申請書及び添付書類を海外漁業船員労使協議会に提出するなど、本件船舶に外国人漁船員を乗船させるための所定の手続を行っている。
 なお、船員手帳交付申請書の添付書類である雇用契約(予約)証明書には、請求人が外国人漁船員を本件船舶の船員として雇用契約していることを証明する旨及び雇用契約期間、外国人漁船員の氏名、生年月日、国籍等の記載事項がある。
(ロ)本件配乗管理委託契約書に基づく本件各月分に係る本件船舶の本件配乗船員承認書には、外国人漁船員別に、国籍、乗船経歴、基本給及び下船時査定の賞与の金額の範囲等がそれぞれ記載されている。
 また、本件配乗船員承認書には、Jのほか、請求人の部長等の決裁印が押印されている。
(ハ)請求人がH社から送付を受けた本件船舶に係る請求書(以下「本件請求書」という。)には、請求書番号、請求年月日、船舶名、乗船期間、為替レート、日本円で表示された請求金額の合計額及び振込先としてL銀行○○支店のH社名義の口座番号○○○○の普通預金口座(以下「H社の預金口座」という。)が記載されているほか、外国人漁船員別に、給与・概算賞与、管理手数料及び諸経費の各金額がそれぞれ記載されている。
 なお、外国人漁船員が下船した際の本件請求書(2001年12月25日付No.○○○の精算書を含む。以下同じ。)には、これらのほか、外国人漁船員別に、賞与差額、各手当及び前渡金の各金額がそれぞれ記載されている。
(ニ)本件船舶の航海ごとの外国人漁船員の乗船期間、船長及び漁労長は、別表2のとおりである。
(ホ)請求人は、H社に対する支払を、○○銀行○○支店及び○○漁業協同組合○○支所からH社の預金口座に振り込む方法により行っている。
ロ Jは、当審判所に対して要旨次のとおり答述した。
(イ)外国人漁船員の乗船については、請求人から必要な人員をH社へ連絡し、同社からは必要人員より多めの外国人漁船員の乗船候補者が本件配乗船員承認申請書に記載して連絡がなされ、その中から請求人が経歴等を勘案し採用する者を決定し、本件配乗船員承認書に請求人の所在地、社名、代表取締役氏名及び代表者印を押印のうえH社へ送付している。
(ロ)H社からの請求は、円建てでされるので、本件請求書で指定されたH社の預金口座へ円で振り込む方法により支払っている。
(ハ)本件請求書では業務委託料が「給与・概算賞与」等に区分されているが、請求人は、H社に請求された金額を支払っているだけであり、内訳については特に考えていない。
 なお、外国人漁船員にどのように給与が支払われているかについては知らない。
(ニ)本件請求書に記載された「賞与差額」とは、漁獲高に応じて賞与を算定・精算し、下船時に調整する差額であり、また、「機関員手当」、「冷凍助手手当」及び「ボースン手当」とは、機関員、冷凍助手及び甲板長業務をした場合の手当であり、これらについては、本件船舶の漁労長が決めている。
(ホ)本件船舶に乗船する船長、漁労長及びそのほかの日本人船員は、いずれも請求人の従業員であり、本件船舶に乗船する外国人漁船員は、漁労長の指揮命令のもと機関員、冷凍助手、甲板長、甲板員等の業務に従事している。
(ヘ)外国人漁船員は、日本には一切上陸させておらず外国で乗船させ希望する外国で下船させているので、おそらく日本には居所を有しない者であると認識している。

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(2)本件各納税告知処分について

イ 国内源泉所得について
(イ)請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のとおり主張するところ、請求人と本件船舶に乗船する外国人漁船員には、次の事実があると認められる。
A 上記1の(4)のロの(ロ)及び上記(1)のイの(ロ)からすれば、請求人は本件配乗管理委託契約書に基づき配乗外国人漁船員の承認手続を行っていると認められるところ、これと上記(1)のロの(イ)のJの答述を併せみれば、本件船舶に乗船させる外国人漁船員については、請求人の意思でその採否を決定していると認められる。
B 上記(1)のイの(ニ)及び同ロの(ホ)のJの答述からすれば、本件船舶に乗船した外国人漁船員は、請求人の指揮命令のもとで本件船舶に係る業務に従事していることが認められるところ、請求人以外の者が当該外国人漁船員に指揮命令をしていたと認めるに足りる証拠はない。
C 上記(1)のイの(ハ)のとおり、本件請求書には、諸経費や管理手数料とは別に、給与・概算賞与の額が記載されているところ、当該給与・概算賞与の額が本件覚書に記載されている外国人漁船員別の給与・概算賞与と同額であると認められること、並びに同(ロ)のとおり、本件配乗船員承認書には外国人漁船員別に基本給及び賞与金額の範囲が記載されていること及び上記(1)のロの(イ)のJの答述からすれば、請求人は本件船舶に乗船させる外国人漁船員の基本給や賞与の額もその採否の要素としていたものと認められる。
D 外国人漁船員に対する賞与については、上記1の(4)のハのとおり、最終的に決定した金額を下船時に精算するとされ、上記(1)のイの(ハ)のとおり、下船時の本件請求書に明示されているところ、同ロの(ニ)及び(ホ)のJの答述からすれば、当該本件請求書に記載されている賞与差額及び各手当は、乗船期間のみをその基礎とするなど請求人の判断と無関係に行われるものではなく、漁獲高や請求人の命じた業務など請求人の判断を反映させたうえで各人別に算定されたものであることが認められる。
E 請求人は、上記(1)のイの(イ)のとおり、本件船舶に外国人漁船員を乗船させるための正当な手続を行っていることからすれば、外国人漁船員に係る船員手帳の交付申請の際に提出する雇用(予約)証明書は、請求人が外国人漁船員を雇用していることを自ら証明したものであると評価すべきものと認めるのが相当である。
(ロ)上記(イ)、さらには、上記1の(4)のロの(ホ)のとおり、外国人漁船員の業務に必要な作業用具等を請求人が負担していることからすれば、請求人と本件船舶に乗船する外国人漁船員とが直接の雇用契約書を取り交わしていないとしても、請求人と当該外国人漁船員の間には、雇用関係があると認めるのが相当である。
 なお、請求人が主張に関する証拠として提出したH社からの平成16年1月20日付の「外国人船員の所得税源泉徴収の件」と題する文書には、請求人の主張と同旨のもののほか、外国人漁船員についてはH社が契約する保険で保護している旨が記載されているところ、H社が契約する保険の保険料の負担者が明らかでないことからすれば、当該文書をもって請求人の主張を認めるに足りる証拠と認めることはできない。
 そうすると、この点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。
(ハ)ところで、本件船舶は、上記1の(4)のイのとおり、請求人が所有しているものであること並びに上記(1)のイの(ニ)及び同ロの(ホ)のとおり、本件各月分における本件船舶の船長及び漁労長は請求人の従業員であることからすれば、本件船舶を運航していたのは請求人であると認められる。
(ニ)したがって、請求人が運航する本件船舶における外国人漁船員の労務提供の対価は、請求人との雇用関係によるものであるから、所得税法第161条第8号イに規定する俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬に該当するとともに、所得税法施行令第285条第1項第2号の規定により所得税法第161条第8号イに規定する国内において行う勤務その他の人的役務の提供に該当するから、国内源泉所得に該当することとなる。
ロ 源泉徴収義務等について
(イ)請求人は、上記2の(2)のイの(ハ)のAのとおり主張する。
 しかしながら、上記イの(ニ)のとおり、請求人が運航する本件船舶における外国人漁船員の労務提供に係る対価、すなわち、本件対価は所得税法第161条第8号イに掲げる国内源泉所得に該当するところ、同(イ)のC及びDからすれば、本件請求書に記載されている外国人漁船員別の給与・概算賞与や賞与差額、各手当が外国人漁船員の本件船舶における労務提供の対価と認められ、また、このことを請求人は了知していたものと認めるのが相当であるから、これと上記(1)のイの(ホ)及び同ロの(ロ)のJの答述を併せみれば、請求人は本件対価を、国内においてH社を通じて支払ったものと認めるのが相当である。
(ロ)また、請求人は、上記2の(2)のイの(ハ)のBのとおり主張する。
 ところで、外国人漁船員が居住者に該当するか否かについてみると、上記1の(3)のイのとおり、居住者に該当するか否かは、国内に住所又は1年以上の居所を有するかどうかにより判定することとなる。
 そして、船舶の乗組員が国内に住所を有するかどうかの判定は、上記1の(3)のへのとおり、所得税基本通達3−1において、その者の配偶者その他生計を一にする親族の居住している地又はその者の勤務外の期間中通常滞在する地が国内にあるかどうかによって判定すると定められているところ、これは同通達2−1《住所の意義》で明らかにしている所得税法上の住所は客観主義によることと同じ考え方によるものと認められ、当審判所においてもこれらの取扱いは相当であると認められる。
 そうすると、外国人漁船員が請求人の運航する本件船舶に1年以上の期間にわたり乗船していたとしても、本件船舶は当該外国人漁船員にとって勤務地であって、住所や居所には該当するものではないと認められる。
 さらに、上記(1)のロの(ヘ)の外国人漁船員は日本以外の地において乗下船し日本には上陸しない旨のJの答述からみても、外国人漁船員は国内に住所又は居所を有していないと認めるのが相当であり、ほかに国内に住所又は居所を有していることを客観的に認めるに足りる事実はない。
 したがって、当該外国人漁船員は居住者に該当せず、所得税法第2条第1項第5号の規定により非居住者に該当し、また、居住者であることを前提とする非永住者にも該当しない。
(ハ)以上のことからすると、請求人は非居住者に対して国内において所得税法第161条第8号イに掲げる国内源泉所得に該当する本件対価の支払をしていると認められるから、上記1の(3)のハのとおり、所得税法第212条第1項の規定に基づき、本件対価の支払の際に所得税を徴収しなければならず、請求人に源泉徴収義務がある。
 したがって、この点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。
ハ 外国人漁船員の受入方式について
 請求人は、上記2の(2)のイの(ロ)のとおり主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件対価については、請求人に所得税法第212条第1項の規定に基づく源泉徴収義務があるから、外国人漁船員の受入方式による取扱いの相違について判断するまでもなく、請求人の主張には理由がない。
ニ 関係団体等の指導について
 請求人は、上記2の(2)のイの(ニ)のとおり主張する。
 しかしながら、関係団体等からの指導がなかったことは、本件各月分に係る各納税告知処分を違法とする理由となるものではない。
 また、通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》第1項は、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって時効により消滅する旨規定しているところ、本件各月分に係る各納税告知処分が法定納期限から5年以内にされていることは明らかであるから、過去にさかのぼったことをもって本件各月分に係る各納税告知処分を違法とすることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 本件各納税告知処分の額等について
(イ)原処分庁は、給与・概算賞与及び賞与差額の1か月分の額が本件対価の額であると認定している。
 しかしながら、上記ロの(イ)で認定したことからすれば、本件請求書に記載されている給与・概算賞与、賞与差額及び各手当の金額等をもって本件対価の額とするのが相当である。
(ロ)原処分庁は、請求人がH社に対する支払を未払金に計上した日をもって本件対価の支払日と認定している。
 しかしながら、上記1の(3)のハのとおり、所得税法第212条第1項は「その支払の際」と規定し、支払の事実があることをその要件としているのであるから、未払金に計上したことをもって、支払の事実があったとすることはできない。
 ところで、所得税基本通達181〜223共−1《支払の意義》は、所得税法第212条第1項に規定する「支払の際」の支払には、現実に金銭を交付する行為のほか、支払債務が消滅する一切の行為が含まれる旨定めており、当審判所においてもこの取扱いは相当と認められる。
 そうすると、本件は、請求人がH社に対して本件対価を現実に支払った日が支払債務の消滅した日とするのが相当と認められる。
 また、本件請求書をみると、外国人漁船員に対する給与等を請求人の外国人漁船員に対する前渡金と相殺する内容のものもあるが、この場合の相殺も請求人の支払債務が消滅する行為であるから、上記(1)のイの(ハ)の本件請求書に記載された請求年月日をもって支払日とするのが相当と認められる。
 なお、外国人漁船員が本件船舶から下船した際に、概算賞与の金額が確定した賞与の額を上回った場合にその部分が返戻される場合があるが、請求人の場合、現実に金銭での返戻がされずに本件請求書において他の債務と相殺されていることから、その返戻額に対する還付すべき税額の発生日は、本件請求書に記載された請求年月日とするのが相当と認められる。
(ハ)原処分庁は、本件対価に係る本件各月分の源泉所得税の法定納期限を翌月末日としている。しかしながら、上記ロの(イ)及び上記(ロ)のとおり、請求人は、本件対価を国内の金融機関からH社の預金口座へ振り込む方法や相殺により、いずれも国内で支払っているので、本件各月分の源泉所得税の法定納期限は、所得税法第212条第1項の規定により翌月10日となる。
(ニ)以上のことから、本件各納税告知処分には、本件対価に係る本件各月分の納付すべき源泉所得税の額及び法定納期限の認定に誤りがあることが認められる。
 ところで、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項及び第3項の規定からすれば、源泉所得税は、給与等の支払の時に納税義務が成立し税額が自動的に確定するものである。
 したがって、源泉所得税の納税告知処分は、このように既に納税義務が成立し税額が自動的に確定している国税債権の請求行為であるから、当該処分が違法とされるのは、納税告知書に記載された所得の種類、法定納期限、各年月の本税額等の事項から、客観的にこれに包含されると認められる範囲を超える場合と解されている。
 そうすると、本件各納税告知処分における法定納期限の認定の誤りは、国内源泉所得の支払地が国内か国外かによるものにすぎず、既に自動的に確定している本件各月分における源泉所得税に係る国税債権に影響するものとは認められず、また、正当な法定納期限後の日付をもって本件各納税告知処分をしたことが請求人の利益侵害とも認められないから、当該誤りをもって、本件各納税告知処分を取り消すことは相当ではないと認められるが、本件各納税告知処分の額のうち、正当に計算した本件対価の支払に係る本件各月分の納付すべき源泉所得税の額を超える部分は違法となり取り消すべきである。
ヘ 納付すべき源泉所得税の額について
(イ)上記ホのことから、本件対価の支払に係る本件各月分の納付すべき源泉所得税の額を所得税法第213条第1項に基づき正当に計算すると、別表3の「審判所認定額」欄の非居住者に係る部分のとおりの額となり、その内訳は別表4の1から別表4の12のとおりとなる。
(ロ)ところで、請求人は、本件各納税告知処分のうち、平成12年12月分、平成13年12月分及び平成14年12月分の給与に係る部分については争わないところ、当審判所の調査の結果によっても、当該部分の額に誤りがあるとは認められず、別表3の「審判所認定額」欄の給与に係る部分のとおりの額となる。
(ハ)そうすると、平成12年1月分、平成12年3月分、平成12年5月分、平成13年3月分、平成13年8月分、平成14年6月分及び平成14年9月から平成14年11月までの各月分の納税告知処分については、いずれも納付すべき源泉所得税の額が生じないことから、その全部を取り消すべきであり、平成12年2月分、平成12年4月分、平成12年8月分、平成12年10月分、平成12年12月から平成13年2月までの各月分、平成13年6月分、平成13年7月分、平成14年2月分、平成14年4月分及び平成14年12月分の納税告知処分については、いずれも本件各納税告知処分の額を下回ることとなるから、その一部を取り消すべきである。
 また、その他の各月分の納税告知処分については、いずれも本件各納税告知処分の額を上回ることとなるから、適法である。

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(3)本件各賦課決定処分について

イ 平成12年1月分、平成12年3月分、平成12年5月分、平成13年3月分、平成13年8月分、平成14年6月分及び平成14年9月から平成14年11月までの各月分の賦課決定処分は、上記(2)のへの(ハ)のとおり、当該各月分の納税告知処分の全部が取り消されることに伴い、その全部を取り消すべきである。
ロ 上記イの月分以外の各月分の賦課決定処分は、これらの納税告知処分に係る源泉所得税が各法定納期限までに納付されなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書きに規定する正当な理由があるとは認められない。
 そこで、上記(2)のへの(ハ)に基づき、上記イの各月分以外の各月分の不納付加算税の額を計算すると別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなる。ただし、平成12年12月分及び平成14年12月分の非居住者に係る部分は通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、その全部が切り捨てられることとなる。
 そうすると、平成12年4月分、平成12年10月分、平成12年12月分、平成13年2月分、平成13年7月分、平成14年2月分、平成14年4月分及び平成14年12月分の賦課決定処分については、いずれも本件各賦課決定処分の額を下回ることとなるから、その一部を取り消すべきである。
 また、その他の各月分の賦課決定処分は、いずれも本件各賦課決定処分の額と同額となることから、適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表4の2(平成12年4〜6月分)〜別表4の12(平成14年12月分) 省略

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