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(平18.3.27裁決、裁決事例集No.71 459頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が特定の資産の買換えの場合の課税の特例による圧縮損を法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入したことについて、原処分庁が、同特例の適用は認められないとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、その認定に違法があるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 平成13年6月1日から平成14年5月31日まで及び平成14年6月1日から平成15年5月31日までの各事業年度(以下「平成14年5月期」及び「平成15年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成17年12月9日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3)関係法令

  本件における関係法令の要旨は、別紙1に記載のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、措置法第65条の7第1項に規定する特定の資産の買換えの場合の課税の特例(以下「本件特例」という。)の適用を受けるため、本件各事業年度の法人税確定申告書に、法人税法施行規則第34条第2項に規定する別表十三(五)『特定の資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書』(22号該当)を添付の上、圧縮限度額を計算している。
ロ 原処分庁は、上記イのうち、譲渡資産を建物、買換資産を土地とする買換えについては、本件特例の適用は認められないとして、本件各事業年度の法人税について各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をしている。
ハ 上記イの圧縮限度額の計算に当たり、譲渡資産の所有期間及び譲渡時期、買換資産を事業の用に供した時期並びに損金経理の状況については、いずれも本件特例の適用要件を満たしている。

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2 主張

 請求人及び原処分庁の主張は、別紙2「当事者の主張」のとおりである。

3 判断

 本件は、建物を譲渡し土地を取得した買換えの場合、措置法第65条の7に該当するとして、本件特例による圧縮損を法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入することができるか否かに争いがあるので、審理したところ次のとおりである。

(1)更正処分について

イ 法令解釈及び本件への適用
 措置法第65条の7第1項の表の各号は、本件特例の対象となる資産を組合せの区分ごとに、上欄に譲渡資産、下欄に買換資産の範囲をそれぞれ具体的に規定したものであり、本件特例の対象となる譲渡資産及び買換資産は、同表の区分ごとにそれぞれ各欄に掲げる資産に限ると解される。
 また、措置法第65条の7第2項は、同条第1項の規定を適用する場合の条件を加重的に別の項として規定したものであり、同条第1項を適用するためには、次のとおり同条第2項の規定の制約を受けると解される。
(イ)「当該事業年度において譲渡をした当該(1項の表)各号の上欄に掲げる土地等に係る面積を基礎として政令で定めるところにより計算した面積」(以下「譲渡面積」という。)について
 譲渡面積については、規定の文言上、譲渡をした土地等の面積を基礎として計算することは至当であるところ、本件の場合、「譲渡をした当該各号の上欄に掲げる土地等」が存在しないため、計算の基礎となる「譲渡をした当該各号の上欄に掲げる土地等の面積」は「零」であることから、譲渡面積は、政令で定めるところにより計算するまでもなく「零」となる。
(ロ)「当該区分ごとに計算した当該土地等(買換資産)に係る面積が、譲渡面積を超えるときは、」について
 当該土地等(買換資産)に係る面積と譲渡面積を比較すると、本件の場合、上記(イ)のとおり、譲渡面積は零であるため、当該土地等(買換資産)に係る面積のすべてが計算の結果導き出される「超える」部分となることから、「超えるとき」に該当する。
(ハ)「買換資産である土地等のうちその超える部分の面積に対応するもの」について
 買換資産である土地等のうち、上記(ロ)の計算により導き出された、抽象的な理論値である土地等の面積をいうと解されるところ、本件の場合、買換資産である土地の面積のすべてが「買換資産である土地等のうちその超える部分の面積に対応するもの」となる。
(ニ)「買換資産である土地等のうちその超える部分の面積に対応するものは、同項(措置法第65条の7第1項)の買換資産に該当しないものとする。」について
 措置法第65条の7第2項の規定は、同条第1項に規定する買換資産の範囲に関して、条件を加重的に規定したものであり、その内容は、買換資産である土地等のうちその超える部分の面積に対応するものは、譲渡資産との関係において同条第1項の規定に該当する買換資産となるものではない旨規定したものであるところ、本件の場合、上記(ハ)のとおり、買換資産である土地の面積のすべてが、「買換資産である土地等のうちその超える部分の面積に対応するもの」となることから、同条第1項に規定する買換資産に該当しないものとなる。
ロ 措置法第65条の7第2項の立法趣旨
 措置法第65条の7は、昭和44年度の税制改正により創設されたもので、土地政策及び国土政策に合致する買換えに限って、その課税の特例を認めることとされたものである。
 その際、土地等の供給を増やすという土地政策及び国土政策に反する不要不急の土地の取得や仮需要の抑制を図り、不要の土地取得を制度上認めないという趣旨から面積制限を行うこととし、措置法第65条の7第2項が規定されたと認められる。
 したがって、本件特例を適用するに当たり、土地の譲渡がない場合に土地を買換資産とすることができないことは、その立法趣旨に沿うものである。
ハ 以上のことから、本件のように建物を譲渡し土地を取得した買換えの場合の土地は、措置法第65条の7第1項の表の第22号にいう買換資産に該当しないから、譲渡資産が建物で買換資産が土地である買換えの場合についても本件特例の適用を認めるべきとの請求人の主張は、法令の解釈を誤ったものであるといわざるを得ないから採用することはできない。
 そうすると、本件特例による圧縮損を損金の額に算入することはできないから、請求人の本件各事業年度の所得金額は、別表2の「審判所認定額」欄の「所得金額」欄のとおり、本件各更正処分の金額と同額となり、したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

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(2)賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、請求人には更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行われた本件各事業年度の法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定をした原処分はいずれも適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 関係法令

イ  租税特別措置法(平成14年5月期については平成15年法律第8号による改正前のもの、平成15年5月期については平成16年法律第14号による改正前のもの、以下「措置法」という。)第65条の7《特定の資産の買換えの場合の課税の特例》第1項は、法人が、昭和45年4月1日から平成18年3月31日までの期間内に、その有する資産で同項の表の各号の上欄に掲げるものの譲渡をした場合において、当該譲渡の日を含む事業年度において、当該各号の下欄に掲げる資産の取得をし、かつ、当該取得の日から一年以内に、当該取得をした資産を当該各号の下欄に規定する地域内にある当該法人の事業の用に供したとき又は供する見込みであるときは、当該買換資産につき当該事業年度終了の時において、その圧縮基礎取得価額に差益割合を乗じて計算した金額の100分の80に相当する金額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又はその帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額を損金経理により引当金勘定に繰り入れる方法により経理したときに限り、その減額し、又は経理した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。
ロ  措置法第65条の7第1項の表の第22号には、上欄において、国内にある土地等、建物又は構築物で、当該法人により取得された日から引き続き所有されていたこれらの資産のうち所有期間が10年を超えるものを、下欄において、国内にある土地等、建物、構築物若しくは機械及び装置又は国内にある鉄道事業の用に供される車両及び運搬具のうち政令で定めるものと規定している。
ハ  措置法第65条の7第2項は、同条第1項の規定を適用する場合において、当該事業年度の買換資産のうちに土地等があり、かつ、当該土地等をそれぞれ同条第1項の表の各号の下欄ごとに区分し、当該区分ごとに計算した当該土地等に係る面積が、当該事業年度において譲渡をした当該各号の上欄に掲げる土地等に係る面積を基礎として政令で定めるところにより計算した面積を超えるときは、同項の規定にかかわらず、当該買換資産である土地等のうちその超える部分の面積に対応するものは、同項の買換資産に該当しないものとする旨規定している。

別紙2 当事者の主張

争点 建物を譲渡資産、土地を買換資産とする買換えの場合、措置法第65条の7に規定する、圧縮損の損金算入が認められるか否か

審査請求人

 原処分は、以下の理由から本件特例の適用を誤った違法なものであり、全部の取消しを求める。
(1)法令解釈及び本件への適用
イ 措置法第65条の7第1項の表の第22号には、上欄(譲渡資産)に「建物」、下欄(買換資産)に「土地等」を掲げており、「国内にある建物で、当該法人により取得をされた日から引き続き10年を超える期間所有されていたもの」から「国内にある土地等」に買い換えできる旨規定している。
ロ 措置法第65条の7第2項及び租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第39条の7《特定の資産の買換えの場合等の課税の特例》第19項第4号は、買換資産のうちに土地等がある場合には、買換資産である土地等のうち、譲渡資産である土地等に係る面積に5を乗じて計算した面積を超える部分の面積に対応するものは、措置法第65条の7第1項の買換資産に該当しないものとする旨規定しており、文面から当然のごとく譲渡資産に土地等がある場合の規定であるから、本件のように譲渡資産に土地等が存在しない場合には、条文に合致しないため同条第2項の適用はない。譲渡資産が土地と面積的な同一性の存在しない建物の場合に、措置法第65条の7第2項の適用がないことは自明のことである。
 仮に措置法第65条の7第2項に該当するとしても、本件の場合は譲渡資産に土地等がないため、措置法施行令第39条の7第19項には該当しないことから、措置法第65条の7第2項に規定する「超える部分の面積に対応するもの」はなく、したがって、「同項(措置法第65条の7第1項)の買換資産に該当しないものとする」部分もない。
ハ 「譲渡資産を建物のみとし、買換資産を土地とした買換え」には、本件特例は適用されないと解するためには、措置法第65条の7第1項で買換資産が土地等の場合に譲渡資産は土地等以外に建物や構築物の場合もあり得ることを明記している以上、同条第2項で譲渡資産が建物の場合にはどのような制限があるかを具体的に明示しなければならず、そのような文面が無い以上、買換資産が土地等で譲渡資産が建物の場合には、特に制限はないと解釈される。
ニ 措置法第65条の7第2項は、同条第1項を受けての条文であって、その目的は買換資産の面積制限であり、同条第2項が建物や構築物から土地等への買換えを禁止する条項であると解釈するならば、同条第1項で買換えを容認し、同条第2項で禁止することとなり、この2つの条項は全く矛盾した解釈を強制することとなる。
(2)措置法第65条の7第2項の立法趣旨
 措置法第65条の7第2項は、我が国の過去の経済情勢の中で土地の買換えが土地価格の高騰をあおったことにより、不要不急の土地等の取得を税制面が促進することになってはいけないとの土地政策上の観点から設けられた規定であり、建物や構築物から土地等への買換えまでを想定している規定とは到底考えられず、まさしく土地等から土地等への買換面積の制限がその目的である。

原処分庁

 原処分は、以下の理由から適法であり、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
(1)法令解釈及び本件への適用
イ 措置法第65条の7第1項の表の第22号には、上欄において、国内にある土地等、建物又は構築物で、当該法人により取得をされた日から引き続き所有されていたこれらの資産のうち所有期間が10年を超えるもの を、下欄において、国内にある土地等、建物、構築物若しくは機械及び装置又は国内にある鉄道事業の用に供される車両及び運搬具のうち政令で定めるものと規定している。
ロ 措置法第65条の7第2項の規定は、買換資産のうちに土地等がある場合の規定であり、同条第1項の表の各号の買換資産の区分ごとに区分した土地等の面積と、これに対応する譲渡をした土地等の面積を基礎に、本件特例を適用する旨規定していることから、買換資産に対応する同号の譲渡資産に土地等が存在していることを前提としているものと解され、このことは、「譲渡をした当該各号の上欄に掲げる土地等」の記載からも明らかである。
 したがって、措置法第65条の7第1項の表の各号の下欄に区分した買換資産である土地等に対応する上欄に掲げる土地等が存在しない場合、同条第2項は適用され、同条第1項の表の各号の下欄に区分した買換資産の土地等の面積は、すべて同条第2項に規定する当該各号(同条第1項の表の各号)の上欄に掲げる土地等に係る面積を基礎として計算した面積を超える部分に対応するものになり、同条第1項に規定する買換資産に該当しない。
 なお、措置法施行令第39条の7第19項第4号は、本件特例を適用する場合において、措置法第65条の7第2項の委任を受けて、買換資産のうちに土地等がある場合の面積制限の基準を算出するための手続の細目を規定したものである。
ハ 上記ロで述べたとおりである。
 ニ 上記ロで述べたとおり、措置法第65条の7第1項の表の各号の下欄に区分した買換資産である土地等に対応する上欄に掲げる土地等が存在しない場合は、買換資産である土地等の面積のすべてに対応する部分が同項の買換資産に該当しないのであって、同条第2項が同条第1項の規定を禁止したものであるという解釈はしていない。
(2)措置法第65条の7第2項の立法趣旨
 措置法第65条の7第2項を設けたのは、土地等の供給を増やすという土地政策及び国土政策に反する不要不急の土地の取得や仮需要の抑制を図り、不要の土地取得を制度上認めないという包括的立法趣旨であり、土地から土地への買換えに限って面積制限を行うものではないと解される。

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