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(平18.6.19裁決、裁決事例集No.71 593頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続により取得した貸付農地について、原処分庁が賃借権の設定について農地法第3条の許可を受けていないから自用農地として評価すべきとして相続税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、耕作権の目的となっている農地と実質的に異なるところはないから耕作権相当額を控除して評価すべきとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年11月○日に死亡したC(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、別表1の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成16年12月24日に提出し、これに対し、原処分庁は、平成17年4月12日付で別表1の「修正申告等」欄の「過少申告加算税の額」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 原処分庁は、平成17年4月12日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成17年6月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月2日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年10月3日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ロ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付国税庁長官通達、以下「評価基本通達」という。)41《貸し付けられている農地の評価》の(1)は、耕作権の目的となっている農地の価額は、その農地の自用地としての価額から、評価基本通達42《耕作権の評価》の定めにより評価した耕作権の価額を控除した金額によって評価することとし、同通達42の(1)は、純農地及び中間農地に係る耕作権の価額は、農地の価額に耕作権割合を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
ハ 上記ロの耕作権について、評価基本通達9《土地の上に存する権利の評価上の区分》の(7)は、農地法第2条《定義》第1項に規定する農地又は採草放牧地の上に存する賃借権(同法第20条《農地又は採草放牧地の賃貸借の解約等の制限》第1項本文の規定の適用がある賃借権に限る。)をいう旨定めている。
ニ 農地法第3条《農地又は採草放牧地の権利移動の制限》第1項は、農地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権もしくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、もしくは移転する場合には、当事者が農業委員会又は都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定し、同条第4項は、第1項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない旨規定している。
ホ 農地法第19条《農地又は採草放牧地の賃貸借の更新》は、農地の賃貸借について期間の定めがある場合において、その当事者が、その期間の満了の1年前から6月前までの間に、相手方に対して更新をしない旨の通知をしないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとみなす旨規定している。
ヘ 農地法第20条第1項は、農地の賃貸借の当事者は、都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解除をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならない旨規定し、同条第5項は、第1項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない旨規定している。

(4)基礎事実

イ 請求人は、本件相続により、P市Q町a番地の田252平方メートル、同市Q町b番地の田437平方メートル、同市Q町c番地の田3,630平方メートル、同市Q町d番地の田780平方メートル、同市Q町e番地の田520平方メートル、同市Q町f番地の田506平方メートル及び同市Q町g番地の田2,266平方メートルの農地(以下、これら7筆の農地を併せて「本件農地」という。)を取得した。
ロ 本件農地の本件相続開始時における賃貸借の状況は次のとおりである。
(イ)P市Q町a番地の田252平方メートルについては、同市Q町○番地に居住するDが賃借し耕作している。
(ロ)P市Q町b番地の田437平方メートルについては、同市Q町○番地に居住するEが賃借し耕作している。
(ハ)P市Q町c番地の田3,630平方メートル、同d番地の田780平方メートル及び同g番地の田2,266平方メートルについては、同市Q町○番地に居住するFが賃借し耕作している。
(ニ)P市Q町e番地の田520平方メートル及び同f番地の田506平方メートルについては、同市Q町○番地に居住するGが賃借し耕作している。
(ホ)なお、上記(イ)ないし(ニ)の賃貸借に係る契約書等の書面はいずれも作成されていない。
ハ 本件農地の賃料は、毎年12月頃に各賃借人からの申出によりその金額が決定され、いわゆる年貢として、被相続人生存中は被相続人が、被相続人死亡後は請求人がこれを受領している。
ニ 被相続人及び請求人は、その受領した金額を後に確認できるように昭和15年以降、「小作米納入印章押切帳」に記帳してこれを保管している。
ホ 本件農地については、農地法第3条の賃借権の設定等に関する許可(以下「農地法第3条の許可」という。)の申請が行われていない。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は次の理由により違法である。
イ 本件更正処分について
 相続税法第22条に規定する時価は客観的な評価価値をいうものであり、農地の相続税評価額の算定に当たり、農地の価額から耕作権相当額を控除できるか否かは、単に農地法第3条の許可の有無により判断するのではなく、その農地が実質的に耕作権の目的となっている農地か否かにより判断すべきである。
 本件農地の賃貸状況等は、次のとおり、耕作権の目的となっている農地と実質的に何ら異なるところがないことなどから、本件農地の相続税評価額の算定に当たっては、本件農地の自用地としての価額から耕作権相当額を控除すべきである。
(イ)農地法の制定は昭和27年7月15日であり、それ以前から被相続人は本件農地を賃貸に付し、賃借料を受領している。
(ロ)米の供出者は各賃借人であり、農業所得の申告も各賃借人が行っており、また、本件農地の減反等についても、各賃借人自らの責任において行っている。
(ハ)被相続人、各賃借人とも実質的な耕作権が存在することについては異議がない。
 したがって、本件農地の相続税評価額は、別表2のとおり、自用地としての価額から耕作権相当額を控除した6,434,216円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
 相続税法第22条は、上記1の(3)のイのとおり規定し、課税実務上、特別の事情がある場合を除き、相続財産の評価の一般的基準として、評価基本通達の定めに基づく画一的な評価方法によって相続財産の評価を行うこととされている。
 そして、評価基本通達は、貸し付けられている農地の評価に関し、上記1の(3)のロ及びハのとおり定め、また、農地法第3条第1項は、上記1の(3)のニのとおり、農地について賃借権を設定する場合など一定の場合には、農地法第3条の許可を受けなければならない旨規定している。
 本件農地についてみると、被相続人は、農地法第3条の許可を受けるための同法施行令第1条の2《農地又は採草放牧地の権利移動についての許可手続》第1項に規定する賃借権設定の許可申請を行っていないから、請求人が主張する「実質的な耕作権」は、評価基本通達に定める耕作権として評価上控除の対象となるものには当たらない。
 したがって、本件農地の相続税評価額は、別表3のとおり、自用地としての価額10,723,698円となる。
 以上のとおり、本件農地の評価額を自用地として計算すると、別表1の「更正処分等」欄のとおりとなり、請求人の課税価格及び納付すべき税額は、○○○○円及び○○○○円となり、これらの金額は本件更正処分といずれも同額になる。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
 なお、本件賦課決定処分は、通則法第65条第1項の規定に従って正しく計算されている。

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3 判断

(1)認定事実

 当審判所の調査及び上記1の(4)のニの小作米納入印章押切帳によれば、次の事実が認められる。
イ P市農業委員会の農家台帳には、本件農地について、所有者及び耕作者は請求人である旨記載されているが、農地法第3条第1項の規定による賃借権が設定されている旨の記載はない。
ロ 上記1の(4)のロの(ハ)の農地については、本件相続開始時の賃借人はFであるが、昭和15年から本件相続開始時まで継続して賃貸借され、昭和27年に同人の祖父から父へ、そして昭和59年に父から同人へと賃借権が相続され、同人らにより耕作が続けられている。
ハ 上記1の(4)のロの(ニ)の農地については、本件相続開始時の賃借人はGであるが、昭和16年から本件相続開始時まで継続して賃貸借され、昭和56年に同人の父から同人へと賃借権が相続され、同人らにより耕作が続けられている。
ニ なお、本件農地の所在する地域では土地改良事業により、昭和57年○月○日に換地処分が行われているが、上記ロ及びハの農地については、被相続人と当時の各賃借人の協議により、従前の農地の各賃借人がその耕作面積に応じて換地後の農地を耕作することとなった。
ホ 上記1の(4)のロの(イ)の農地については、Dが昭和59年から賃借し耕作を続けており、また、同(ロ)の農地については、Eが平成11年から賃借し耕作を続けている。
ヘ 本件農地は、評価基本通達34《農地の分類》の(2)の中間農地に分類される。

(2)本件更正処分について

イ 貸し付けられている農地の評価について
 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時の時価による旨規定している。この場合の時価とは、相続開始時におけるそれぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかし、相続税の課税対象となる財産の客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価すれば、評価方法等により異なる評価額が生じたり、また、納税者及び課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあるため、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達により定められ、同通達に定められた評価方法によって画一的な財産の評価が行われているところである。
 そして、評価基本通達41の(1)は、耕作権の目的となっている農地については、その農地の自用地としての価額から、同通達42の定めにより評価した耕作権の価額を控除した金額によって評価することとしている。
 これは、農地法の規定に基づく農地の賃貸借に係る賃借権いわゆる耕作権は、同法第19条本文の賃貸借の法定更新及び同法第20条第1項本文の賃貸借の解約等の制限の規定によって強い保護を受け、また、一定の価額で取引され、賃貸借の解除の際には離作料が支払われ、あるいは公共用地の買収の際には補償の対象とされていることから、その自用地としての価額から耕作権の価額を控除することとしたものであり、かかる評価方法は当審判所においても相当であると解される。
 一方、農地の賃貸借が農地法の規定に基づかない場合、その賃貸借の効力は生じないものとされ(同法第3条第4項)、上記のような事情はないから、その農地は、自用地としての価額によって評価するのが相当であると解される。
ロ 農地法施行前から貸し付けられている農地の評価について
 前記耕作権については、評価基本通達9の(7)にも示すとおり、農地法第20条第1項の規定の適用がある賃借権に限られるところ、本件農地の一部については、農地法施行(昭和27年10月21日)前から引き続き賃貸されていることが認められる。
 農地法施行前における農地の賃借権の設定等に関しては、農地法の前身である農地調整法第5条及び第6条が昭和20年12月29日に改正(昭和21年2月1日施行)され、同法第5条は「農地ノ所有権、賃借権、地上権其ノ他ノ権利ノ設定又ハ移転ハ命令ノ定ムル所ニ依リ当事者ニ於テ地方長官又ハ市町村長ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ」と規定され、同法第6条第3号において、「農地ヲ耕作ノ目的ニ供スル為前条ニ掲グル権利ヲ取得スル場合」は前条の規定は適用しないとされた。次いで、農地調整法第5条及び第6条が、昭和21年10月21日に改正(昭和21年11月22日施行)され、同法第5条の「認可」が許可(地方長官)又は承認(市町村農地委員会)に改められ、同法第6条第3号が削除されたことによって、以後、賃借権の設定等については許可又は承認が必要とされることとなったが、その施行前に開始された賃貸借は、同法上、この許可又は承認を要することなく有効に成立しているものと解されている。
 そして、賃借権の設定等について許可又は承認が必要とされることとなった昭和21年11月22日前に賃貸借に付された農地の賃借人は、農地法施行後に改めて農地の賃借権の設定等に係る許可を要することはなく、また、その後賃借人に相続が開始した場合には、その相続人は、その賃借権を適法に承継したものと扱われることから、かかる賃借権は、その解約等を行う場合、農地法第20条第1項の規定により都道府県知事の許可が必要であることから、同法の保護を受ける賃借権、つまり、評価基本通達9の(7)の耕作権に該当することになる。
 したがって、昭和21年11月22日前に賃貸借が開始された農地については、自用地としての価額から評価基本通達に定める耕作権の価額を控除して評価するのが相当と認められる。
ハ 本件農地の評価について
(イ)耕作権相当額の控除の可否について
A 本件農地のうち、上記1の(4)のロの(ハ)及び(ニ)の農地については、賃借権の設定等の許可又は承認が必要となった昭和21年11月22日前から賃貸借が開始されており、当該各農地にかかる賃借権は、農地法施行後も農地の賃借権の設定等に係る許可を要することなく、相続により適法に本件相続開始時まで承継されたものと認められるから、当該各農地の価額は、その農地の自用地としての価額から耕作権の価額を控除した金額によって評価するのが相当と認められる。
B 一方、本件農地のうち上記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)の農地については、農地法施行後に賃貸借を開始しており、その際、農地法第3条の許可を受けていないから、これらの農地の各賃借人の賃借権は、農地法第20条第1項の規定の適用がある賃借権には該当しないこととなり、また、当該各農地について、評価基本通達により評価することが不相当と認められるような特段の事情は認められないから、同通達に基づき、自用地として評価するのが相当と認められる。
(ロ)まとめ
 本件農地のうち上記1の(4)のロの(ハ)及び(ニ)の農地については、評価基本通達41の(1)及び42の(1)に基づき、その農地の自用地としての価額から、同価額に同通達別表1に定める中間農地の耕作権割合100分の50を乗じて計算した耕作権の価額を控除した金額によって評価するのが相当であり、また、上記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)の農地については、自用地としての価額によって評価するのが相当である。
 以上により、本件農地の評価額を計算すると、別表4のとおり、合計で5,802,120円となる。そして、請求人の課税価格は○○○○円、納付すべき税額は○○○○円となり、これらの金額は、請求人の修正申告額を下回るから、本件更正処分は、その全部を取り消すべきである。

(3)本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件更正処分は、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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