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(平18.6.26裁決、裁決事例集No.71 626頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、共同相続人の一人に係る滞納相続税を徴収するため、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)に連帯納付義務があるとして督促処分をしたのに対し、請求人が、相続により受けた利益は存在しないから、連帯納付義務はないとして、その全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、別表1のA(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成17年10月21日付で、請求人に対し、相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項の規定に基づく連帯納付義務があるとして「連帯納付責任のお知らせ」と題する書面を送付した。
ロ 原処分庁は、本件滞納国税が完納されていないとして、国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項の規定に基づき、平成17年11月4日付で、請求人に対し、上記イの相続税の連帯納付義務に係る納付限度額を○○○○円と記載した督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした。
ハ 請求人は、平成17年12月26日、本件督促処分を不服として審査請求をした。

(3)関係法令等の要旨

イ 相続税法第34条第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる旨規定している。
ロ 相続税法基本通達34−1《「相続又は遺贈により受けた利益の価額」の意義》は、相続税法第34条第1項に規定する「相続又は遺贈により受けた利益の価額」とは、相続又は遺贈により取得した財産の価額から同法第13条の規定による債務控除の額並びに相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税額及び登録免許税額を控除した後の金額をいう旨定めている。
ハ 相続税法第13条《債務控除》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が同法第1条の3第1号又は第2号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定している。
(イ)被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの
(ロ)被相続人に係る葬式費用
ニ 相続税法第14条《控除すべき債務》第1項は、同法第13条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の父B(以下「本件被相続人」という。)は、平成9年○月○日に死亡し、相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
ロ 本件滞納者は、本件被相続人の財産のすべてを本件滞納者が相続する旨の遺言公正証書に基づき、相続財産である別表2の番号1ないし5の土地及び区分所有建物(以下「本件土地建物」という。)について、本件相続を原因として平成9年11月7日に所有権移転登記手続を行った。
ハ 請求人は、本件滞納者に対し、平成9年12月17日到達の内容証明郵便により遺留分減殺の意思表示をし、また、これに基づく登記手続を請求した。
ニ 請求人は、本件滞納者に対し、本件相続に係る遺留分減殺請求のための訴訟を提起し、○○裁判所平成14年○月○日判決(平成○年(○)第○号○○事件、以下「平成14年判決」という。)で次のとおり判示され、平成14年○月○日に確定した。
 「〔1〕本件滞納者は請求人に対し、別表2の番号1ないし4の土地建物について、平成9年12月17日遺留分減殺を原因とする各12分の1の持分移転登記手続をせよ、〔2〕本件滞納者は請求人に対し、本件滞納者が請求人に対して民法第1041条所定の遺贈の目的の価額の弁償として○○○○円を支払わなかったときは、別表2の番号5の区分所有建物について、平成9年12月17日遺留分減殺を原因とする12分の1の持分移転登記手続をせよ。」
ホ 本件滞納者は、本件土地建物について、別表2のとおり、平成9年12月17日遺留分減殺を原因として請求人へ持分12分の1の所有権移転登記手続を行った。
ヘ 請求人は、本件相続に係る相続税の申告をしていない。

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2 主張

(1)請求人

 本件督促処分は、違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 相続税の連帯納付義務について
 次の理由から、本件相続によって請求人が受ける利益は確定しておらず、請求人には本件滞納国税に係る連帯納付義務はまだ発生していない。
(イ)請求人は、確かに本件土地建物の共有持分12分の1について所有権移転登記をしているが、この登記は、平成14年判決に基づいて、請求人が遺留分の権利保全を行ったにすぎず、具体的な遺留分額はいまだ確定していない。
(ロ)このことは、平成14年判決においても「少なくとも本件土地建物については12分の1の遺留分を有することは明らかである」と判示していることから、少なくとも、その12分の1の共有持分を認めてよいとしているにすぎないもので、請求人の遺留分が確定したものでないことは明らかである。
ロ 本件相続によって得た利益の額について
 仮に、本件土地建物の共有持分12分の1について、請求人名義に所有権移転登記をしたことが直ちに「相続等によって得た利益」であり、本件土地建物の価額○○○○円の12分の1に当たる○○○○円が受けた利益の価額であるとしても、いまだ具体的遺留分額の最終確定と清算処理がなされていない現時点においては、少なくとも本件土地建物に設定された根抵当権に係る本件被相続人関連の債務のうち請求人の法定相続分である6分の1は請求人の負担として債務控除がなされなければならず、さらにいえば本件土地建物に設定された根抵当権の被担保債務以外のおよそ本件被相続人の全相続債務についても、その6分の1は、請求人の負担として債務控除されなければならないのである。しかるに本件督促処分は、かかる債務控除を一切行わないまま、単純に本件土地建物の持分価額をもって請求人の得た利益と即断してなされたものであるから、この点においても違法というべきである。

(2)原処分庁

 本件督促処分は、適法であることから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 相続税の連帯納付義務について
 相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、同項に規定する要件を満たすことにより、法律上当然に発生するものであるから、固有の相続税の納税義務が確定すれば、格別の確定手続を要することなく連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことができると解されている。
 平成14年判決は、「請求人の遺留分減殺請求を原因とする相続財産である本件土地建物の各12分の1の持分の移転登記手続をせよ」と判示して確定しており、本件土地建物は、当該判決に基づいて遺留分減殺を原因として、請求人へ持分の移転登記がなされている。
 そうすると、請求人は、本件土地建物の各12分の1の持分を取得していることは事実であり、請求人が本件被相続人の相続債務を負担したとする事実は認められないことから、当該取得した持分により受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務が生じることになる。
ロ 原処分庁は、平成17年11月4日現在、本件滞納国税の納付がないことから、請求人に対して本件督促処分をしたのであり、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務及び通則法第37条第1項に規定する督促の要件を満たしている。
 なお、本件督促処分に係る督促状には、連帯納付責任の限度額が○○○○円と記載されているが、本件相続による本件土地建物の価額は平成14年判決において○○○○円とされていることから、請求人が受けた利益の価額は、当該土地建物の価額の12分の1である○○○○円とすべきである。
 したがって、本件督促処分において、連帯納付責任の限度額を○○○○円とした本件督促処分は、受けた利益の価額である○○○○円を超えていないことから、適法である。

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3 判断

 本件は、請求人に相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務が発生しているか否かについて争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人及び本件滞納者が、本件土地建物の賃料等の帰属について争った事件の○○裁判所平成15年○月○日判決(平成○年(○)第○号○○事件、以下「平成15年判決」という。)では、要旨次のとおり判示している。
「請求人が遺留分減殺の意思表示をしたのは、平成9年12月17日であるから、本件滞納者が請求人に返還すべき減殺の日以降の賃料等の果実は、平成9年12月17日以降の各賃料合計に相殺処理された賃料部分の合計を合算した金額の12分の1に当たる金額となる。」
ロ 本件土地建物の全部事項証明書によると、請求人は、本件土地建物について、別表2のとおり、売買を原因として、請求人が代表者に就任しているC社及び請求人の子であるDへの持分移転登記手続を行っている。また、本件土地建物にはすべて金融機関の抵当権等が付されているところ、いずれも請求人を債務者とするものではない。
ハ 平成14年判決に係る判決書の財産目録(以下「本件財産目録」という。)には、本件土地建物の合計額として○○○○円の記載がある。
ニ 請求人は、当審判所に対し、本件財産目録は、本件滞納者が作成したものであり、本件財産目録に記載された金額は本件相続に係る相続税の申告額を記載しているものと思われる旨答述している。
ホ 平成14年判決では、要旨次のとおり判示している。
「本件滞納者は、本件相続開始後に負担した相続債務等の支払について、本来これらは法定相続人らにおいて法定相続分に応じて負担すべきものであり、請求人に対しては○○○○円の清算金請求権を有し、これと別表2の番号5の区分所有建物についての弁償金とを対当額において相殺する旨主張する。しかしながら、(中略)請求人が本件滞納者に対して負担すべき清算金の額が○○○○円となる根拠が明らかでない。したがって、当該清算金の発生原因事実について、その主張が明らかといえない以上、相殺の主張は失当というほかない。」

(2)相続税の連帯納付義務について

イ 請求人は、本件土地建物に係る請求人の持分登記は、請求人の遺留分の権利保全のためのもので、このことで請求人が本件相続により受ける利益の価額が確定するものではなく、請求人には本件滞納国税に係る連帯納付義務はまだ発生していない旨主張する。
ロ ところで、民法上の遺留分制度は、被相続人の死亡後における相続人の生活を保障し、相続人間の公平を図るために認められた制度であり、一定の相続人(遺留分権利者)に相続分を保障した制度であるとされている。
 これは、遺留分を侵害する被相続人の贈与、遺贈、相続分の指定等の処分行為を減殺請求で減殺することにより、遺留分権利者が、これらの処分行為がなければ相続財産となるものの一部を受け取るものであって、遺留分減殺請求権の行使により、相続時にさかのぼって取得するものと解される。
 そして、遺留分減殺請求権の行使は、受贈者又は受遺者に対する裁判外の一方的な意思表示で可能であり、また、その意思表示がいったんなされた以上、法律上当然に減殺の効力が生ずるものと解される。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)平成14年判決では、上記1の(4)のニのとおり、本件滞納者に対し、本件土地建物について、平成9年12月17日遺留分減殺を原因とする各12分の1の持分移転登記手続をするよう命じている。
 これは、請求人が遺留分減殺請求権を行使したことにより、本件相続開始時にさかのぼって、本件土地建物の各12分の1の持分を当然に取得することとされたものである。また、遺留分の減殺請求の効力については、上記ロのとおりであることからすると、請求人は、本件相続時にさかのぼって本件土地建物を取得したものと認められる。このことは、当審判所の調査において判明した事実、すなわち請求人が平成14年判決に基づいて、本件土地建物の持分移転登記手続を行い、その後、上記(1)のロのとおり、売買等を行った事実とも矛盾しない。したがって、本件土地建物の各12分の1の持分については、単なる権利保全でなく、取得することが確定した相続財産であり、請求人が本件相続時に取得したものと認められる。
(ロ)また、平成15年判決は、上記(1)のイのとおり判示しており、これは、平成9年12月17日に遺留分減殺の意思表示をした際に、当該意思表示をした本件土地建物の各12分の1の持分を取得していることを前提にして、遺留分減殺の意思表示をした日以降の果実である賃料についても、当該持分の割合に応じてその権利を取得することを認めたものと解され、請求人の本件相続に係る連帯納付義務は同日の意思表示によって発生したことが認められる。
(ハ)したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3)本件相続により受けた利益について

イ 請求人は、仮に本件相続によって受けた利益の価額が○○○○円であるとしても、本件督促処分による請求人が負うべき限度額から、本件被相続人の債務のうち請求人の負担分としての債務控除がなされるべきである旨主張する。
ロ ところで、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、同法が相続税の徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であり、その義務履行の前提条件となる連帯納付義務は、各相続人等の固有の相続税の納付義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものであるから、連帯納付義務の確定につき格別の手続を要するものではないと解される。
 また、各相続人の納付義務が確定すれば、直ちに連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことができると解されており、各相続人の一部にその相続税額を滞納した者がある場合には、その他の相続人に対して、その相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務の履行を求めることとなる。
 そして、ここでいう「相続により受けた利益の価額」とは、相続税法第34条第1項が相続税の徴収の確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であるという趣旨に照らせば、当審判所においても上記1の(3)のロのとおり解するのが相当と認められる。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、上記(2)のハの(イ)のとおり、本件土地建物の各12分の1について、本件相続により取得したものと認められ、また、上記(1)のハのとおり、本件土地建物の本件相続開始時の価額は○○○○円であると認められる。
 したがって、この価額に請求人の持分である12分の1を乗じて算出した金額○○○○円が、請求人が本件相続により取得した財産の価額と認められる。
(ロ)また、債務控除がなされていないとの請求人の主張については、相続税法第13条第1項において、債務控除の額についてはその者の負担に属する部分の金額である旨規定し、さらに、同法第14条第1項は、その控除すべき債務は確実と認められるものに限る旨規定していることから、相続財産の分割後においては各相続人が実際に負担する金額を相続財産から控除すべきであると解される。したがって、請求人が本件相続により取得した財産の価額から控除する債務の額は、実際に負担することが確定した金額とするのが相当である。
 そうすると、請求人には、実際に請求人の負担に属する部分の債務の金額があるとする証拠はなく、また、上記(1)のホのとおり、平成14年判決において、本件相続開始後に請求人が負担すべき相続債務等が明らかにされていないことからも、相続税法第13条の規定による確定した債務控除の額はないものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4)本件督促処分について

イ 原処分庁は、本件督促処分の督促状に、本件相続により請求人の受けた利益の価額に相当する金額を○○○○円と記載しているが、当審判所の調査によれば、上記(3)のハの(イ)のとおり、請求人が本件相続により取得した財産の価額は○○○○円であり、上記(3)のハの(ロ)のとおり相続税法第13条の規定による債務控除の額はなく、また、請求人は、上記1の(4)のヘのとおり、本件相続に係る相続税の申告をしておらず、本件相続により取得した財産に係る相続税額もないから、請求人が本件相続により受けた利益の価額に相当する金額は○○○○円となり、当該金額から本件相続に伴う登録免許税を考慮したとしても、請求人が本件相続により受けた利益が存することは明らかである。
ロ 以上のとおり、請求人が、相続税法第34条第1項に規定する相続により受けた利益の価額に相当する金額は○○○○円を上回ることが明らかであり、原処分庁が、連帯納付責任の限度額を○○○○円として行った本件督促処分は適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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