ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.72 >> (平18.7.6、裁決事例集No.72 1頁)

(平18.7.6、裁決事例集No.72 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人C、D及びE(以下、3名を併せて「請求人ら」という。)が、相続回復請求訴訟における訴訟上の和解により、相続税の課税標準等に異動があったとして更正の請求をしたところ、原処分庁がこれに対して更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人らが、違法、不当を理由にその全部の取消しを求めた事案であり、争点は次のとおりである。
争点1 相続回復請求訴訟における和解で相続税の課税標準等に異動が生じたとして、更正の請求をすることができるか否か。
争点2 原処分庁の申告指導に不当があったか否か。

トップに戻る

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人らの審査請求(平成17年8月3日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、請求人らは、平成17年8月30日に当審判所に対し、Cを総代とする旨の選任届出書を提出した。

(3) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人らと被相続人F(以下「被相続人」という。)及びGとの関係は、別紙のとおりである。
ロ 被相続人とGとの間の養子縁組の届出が平成12年4月27日にP県Q市長に対し、された。
ハ 被相続人は、平成12年9月○日に死亡した。その当時、Gは、被相続人の唯一の相続人であったことから、平成13年7月5日に相続財産が別表2のとおりであるとする相続税の申告書を原処分庁に提出した。
ニ 請求人らは、Gに対し、上記イの養子縁組が無効であることの確認を求める訴えをH地方裁判所に提起した(同裁判所平成○年(○)第○号養子縁組無効確認請求事件)ところ、同裁判所は、平成15年3月○日に請求人らの請求を棄却する旨の判決をした。
 請求人らは、これを不服として○○高等裁判所に控訴した(同裁判所平成○年(○)第○号養子縁組無効確認請求控訴事件)ところ、同裁判所は、同年8月○日に原判決を取り消し、養子縁組は無効であることを確認する旨の判決をした(以下、この判決を「本件判決」という。)。
 Gは、本件判決を不服として最高裁判所に上告した(同裁判所平成○年(○)第○号、同年(受)第○号)が、同裁判所は、同年12月○日に上告棄却及び上告不受理の決定をしたため、本件判決が確定した。
ホ 請求人らは、平成16年6月○日にGに対し、相続回復請求の訴えをH地方裁判所へ提起した(同裁判所同年(○)第○号相続回復請求事件。以下「本件相続回復請求訴訟」という。)。なお、請求人らが当該訴え及び訴訟物の価額の根拠とした被相続人の遺産は、別表3のとおりである。
ヘ 請求人らは、平成16年8月○日付で上記ホの訴状の請求の趣旨と請求原因を訂正、補充するため、訴状訂正申立書をH地方裁判所に提出した。なお、訴訟物の価額の総額及びその根拠とした被相続人の遺産には変更はない。
ト 請求人らは、本件判決の確定を受け、平成16年10月18日(法定申告期限内)に相続税の申告書を共同で原処分庁に提出した。
チ 請求人らとGは、平成16年11月22日の本件相続回復請求訴訟の和解期日において、要旨、1Gは、請求人らに対し和解金として31,000,000円の金員の支払義務があることを認め、これを上記和解の席上で請求人らに支払う、2請求人らは、上記31,000,000円を受領した、3請求人らは、その余の請求を放棄する等を内容とする訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)をした。
リ 異議審理庁は、平成17年7月8日付の異議決定書において、相続開始日における被相続人の相続財産は、別表4のとおりであり、相続税法上の取得財産の総額は、○○○○円(小規模宅地等の課税の特例(9,504,000円)の適用後の金額)である旨認定した。

トップに戻る

2 主張

(1) 争点1 本件和解で相続税の課税標準等に異動が生じたとして、更正の請求をすることができるか否か

請求人ら 原処分庁
 相続税法第11条《相続税の課税》及び同法第11条の2《相続税の課税価格》は、相続税の課税は「相続又は遺贈により取得した財産」を基礎にすべき旨規定し、同法第16条《相続税の総額》は、相続税の総額は同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に相当する金額の合計額を課税標準とすべき旨規定しているから、相続人が把握し、管理可能な財産を相続税の課税対象とすべきである(いわゆる遺産取得課税方式)。
 相続回復請求権とは、真正相続人が僭称相続人に対し、被相続人の財産を維持すべく自己の相続権を主張してその侵害を排除し、相続財産の占有・支配を回復するための制度であり、相続人となって初めて行使できる権利であるから相続財産である。
 請求人らは、Gから返還を受けることができなかった160,730,559円の支払を求め、Gに対して本件相続回復請求訴訟を提起したところ、訴訟の過程においてGには約31,000,000円の返済能力しかないことが判明したため、本件和解をした。このような経緯からすれば、相続回復請求権は実質的にみて被相続人の遺産であるところ、請求人らが本件和解の成立時に現に取得した相続回復請求権の範囲内で課税すべきであって、本件和解の結果回復できなかった相続回復請求権に相当する額について、相続税の課税標準等に異動が生じたといえるので、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号による更正の請求を認めるべきである。
 本件の相続開始日における相続財産は別表4のとおりであり、請求人らは、本件判決によって被相続人とGとの間の養子縁組の無効が確定し、被相続人の相続に係る共同相続人となっているため、相続開始の時にこれらの財産を取得したものと認められる。
 請求人らが相続財産として計上している相続回復請求権は、Gが被相続人の財産のうち相続開始後に費消等して返還しなかったことについて、その返還を受けることができなかった財産に相当する額の金員の支払を求める権利であるから、相続回復請求権は相続財産とは認められない。
 そうすると、本件和解により相続回復請求権が減額されることとなったとしても、請求人らが被相続人の相続により被相続人の財産を取得する権利関係や被相続人の財産の帰属に異動をきたすものではない。したがって、本件和解によって相続税の課税標準等に異動が生ずることはないから、通則法第23条第1項第1号に該当しない。

(2) 争点2 原処分庁の申告指導に不当があったか否か。

請求人ら 原処分庁
 請求人らは、現実に取得できていない遺産について相続回復請求権で申告することの是非について、事前に質問書を提出するなどして確認したにもかかわらず、J税務署の担当職員(以下「本件担当職員」という。)は、分からないとの回答しかしなかった。また、本件担当職員は、死亡時の財産全額で申告しなければ、加算税を課す旨及び取得していない財産についても遺産分割協議書を作成して申告すべきであると回答した。
 請求人らは、このような対応をされたため、やむを得ず、相続回復請求権を相続財産として申告せざるを得なかった。
 さらに、原処分庁は、このような対応をしておきながら、審査請求においては「相続回復請求権は遺産ではない。」という、本来請求人らが相談した際に説明すべき内容を今になって主張している。
 このように、原処分庁は、納税者が分からない内容について質問しているにもかかわらず、それについて何ら回答もしなかったのであり、納税者に対する対応に不当がある。
 申告相談は、行政サービスの一環として行われるものであり、申告をどのように行うかは、最終的には納税者の判断にゆだねられているのであって、原処分庁は、未回収財産を相続回復請求権として申告することの是非等の個別具体的な内容についてまで説明、教示する義務を負うものではない。
 また、本件担当職員は、請求人らに対し、相続開始日における遺産の価額で申告すべきである旨指導したものであり、遺産分割協議書の作成の必要性についてまで言及していない。

トップに戻る

3 判断

(1) 争点1 本件和解で、相続税の課税標準等に異動が生じたか否か。

イ 関係法令及び法令解釈等
(イ) 通則法第23条第2項第1号は、申告、更正又は決定後の判決又はこれと同一の効力を有する和解等により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係にさかのぼって異動を来すことが確定し、その結果税額を減額すべき場合には、これを課税庁の更正処分のみにゆだねることなく、納税者からもその更正を請求し得ることとして、納税者の権利救済の途を拡充したものであると解される。
 もっとも、上記の立法趣旨に照らすと、判決と同一の効力を有する和解により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係にさかのぼって異動を来した場合には、当該和解は、通則法第23条第2項第1号に規定する「和解」に該当することになるが、和解の内容が、将来に向かって新たな権利関係等を創設する趣旨のものであり、従前の事実関係に異動を来すものでないと認められるときは、当該和解は、同号に規定する「和解」には該当しないというべきである。
 また、同条第2項が、同項による更正の請求のできる期間の満了する日が同条第1項の更正の請求のできる期間の満了する日よりも後でなければ、同条第2項による更正の請求を認めないとしたのは、同条第1項の期間内であれば同項による更正の請求によるべきものと解するのが相当であるから、同項に規定する更正の請求の要件のうち同項第1号の「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき」のうちには、同条第2項が規定する場合も含まれていると解するが、訴訟上の和解をしたことを理由とする同条第1項に基づく更正の請求が認められるためには、当該和解の内容が、同条第2項第1号の「和解」に該当する必要があると解するのが相当である。
(ロ) 通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第4号によれば、相続税の納税義務は、相続又は遺贈による財産の取得のときに成立することになる。
 また、民法第882条及び同法第896条によれば、相続は、被相続人の死亡によって開始し、相続人は相続開始のときから、被相続人の一身に専属したものを除き、被相続人の一切の権利義務を相続するとされる。
 そして、相続税法にいう相続は、同法独自の観念ではなく、民法に定めるそれと同じであること、また、相続税法の各規定は、長期間にわたって遺産分割が行われていないことなどにより現実に相続により取得した財産が確定していないことなどを理由に、相続税の納付義務を免れるというような不都合を防止するためばかりでなく、国家の財源を迅速、確実に確保するという国家的要請にも基づいて規定されていると解されるから、相続税の納税義務は、被相続人がこのことを知っているかどうか又は相続財産を事実的に占有取得したかどうかを問わず、相続の開始によって一律に発生するものと解される。
 ところで、養子縁組無効確認訴訟は、養子縁組が無効であること(民法第802条)を理由に、当該養子縁組の届出に係る身分関係が存在しないことを対世的に確認することを目的とする訴訟であり、これが認容され、養子縁組の無効が確認された場合には、縁組当事者間に相続、扶養その他の身分的権利義務が最初から生じていなかったこととなるから、相続税の納税義務は、相続開始後に養子縁組無効確認訴訟の結果、新たな相続人となった場合であっても、通常の相続の時と同様に、相続の開始によって発生すると解される。
(ハ) 相続税法第11条、同法第15条《遺産に係る基礎控除》、同法第16条及び同法第17条《各相続人等の相続税額》の規定によれば、相続税については、民法上の法定相続人が法定相続分に従って相続財産を分割取得したものとして相続税の総額を計算し、この相続税の総額を、実際に相続財産を取得した者が、その取得分に応じて相続税として納付することとなる(法定相続分課税方式による遺産取得税方式)。
 また、民法上、相続開始時に権利義務が承継されること並びに相続税法第11条の2第1項及び同法第22条《評価の原則》の規定によれば、各相続人が相続により取得した財産の価額の合計額が相続税の課税価格となり、相続により取得した財産の価額は、原則として相続開始時の時価により算定される。
 そして、相続税法上は、相続開始後、相続人間又は相続人及び第三者との間において、遺産の取得に紛争が生じ、当該紛争に係る訴訟の判決又は和解等により紛争が解決された場合において、当該紛争が解決された時点における当該遺産の時価の総額を相続により取得した財産の価額とするような例外規定は設けられていないから、法はこのような場合についても、更正の請求の要件を充足しない限り、原則に従い、各相続人が相続により取得した財産の相続開始時における時価を相続税の課税価格とする趣旨であると解される。
(ニ) 相続回復請求権(民法第884条)とは、相続権を有しないのに、相続人と称して遺産を占有・管理し、真正な相続人の相続権を侵害している者がある場合に、真正な相続人からその者に対し、遺産に対する侵害の回復を請求する権利であると解される。
ロ 判断
(イ) 上記イの(ロ)のとおり、請求人らは、本件判決が確定したことにより、相続開始時点にさかのぼり、被相続人の相続財産に属する権利義務一切を相続したこととなる。
 そして、相続回復請求権の趣旨、本件相続回復請求訴訟の内容、特に、請求人らが回復を求めている財産の内訳からすれば、当該訴訟は、僣称相続人となったGが占有・管理している被相続人の相続財産全部を請求人らに返還するよう求めたもので、相続財産の帰属について争われているものではなく、本件和解は、Gの資力等にかんがみ、相続回復請求権に基づき31,000,000円を和解の席上受領するものの、これを超える請求権については、これを放棄する趣旨のものであり、請求人らが相続開始時点に取得した相続財産そのものを増減させるものでなく、単に、和解期日以降請求人らの相続回復請求権の一部を放棄したにすぎない。
 そうすると、本件和解は、新たな権利関係等を創設する趣旨でされた訴訟上の和解と解するのが相当であるから、本件和解により、請求人らが原処分庁に提出した相続税の申告書に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実関係にさかのぼって異動を来すものではないと認めるのが相当である。
 したがって、本件和解は、通則法第23条第2項第1号に規定する「和解」には該当しないというべきである。
(ロ) 請求人らは、相続税法第11条及び同法第11条の2は、相続税の課税は「相続又は遺贈により取得した財産」を基礎にすべき旨規定し、同法第16条は、「相続税の総額は同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に相当する金額の合計額」を課税標準とすべき旨規定しているから、相続人が把握し、管理可能な財産を相続税の課税対象とすべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)及び(ハ)で示したとおり、相続税法の趣旨及び相続税法第11条等の規定等からすれば、相続開始時点において相続財産が現実に存在する限り、相続人が現実に相続財産を取得していない場合であっても、相続人が当該相続財産を相続したものとして、当該相続財産の相続開始時、すなわち被相続人の死亡時における時価で課税されるべきものである。
 したがって、請求人らの上記主張は採用できない。
(ハ) 請求人らは、相続回復請求権の法的性質及び本件和解の経緯からすれば、相続回復請求権は実質的にみて被相続人の遺産であるところ、請求人らが本件和解の成立時に現に取得した相続回復請求権の範囲内で課税すべきであって、本件和解の結果回復できなかった相続回復請求権に相当する額について、相続税の課税標準等に異動が生じたといえるので、通則法第23条第1項第1号による更正の請求を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ハ)及び(ニ)で示したとおり、相続回復請求権は、真正な相続人が、相続開始と同時に真正な相続人に移転している相続財産に関する権利の侵害に対し、それを元に戻すよう請求できる権利のことであり、相続財産に基づく請求権ではあるものの、相続財産そのものを指すものではなく、相続税法は、相続開始時点における、真正な各相続人が相続により取得した財産に対して課税されるものであるから、相続回復請求権が相続財産ではないことは明らかである。
 また、上記イの(ロ)及び(ハ)で示したとおり、相続開始と同時に相続財産に属する権利義務一切は、相続開始後に養子縁組無効確認訴訟の結果、新たな相続人となった場合であっても、その知、不知又は事実的占有取得の有無を問わず、当然かつ包括的に当該相続人に移転承継するから、相続税の納税義務は、通常の相続の時と同様に、相続の開始によって発生し、相続開始時点における、真正な各相続人が相続により取得した財産に対して相続税が課税されるものである。さらに、上記(イ)の判断で示したとおり、本件和解は、Gの資力等にかんがみ、31,000,000円を超える部分につき、相続回復請求権を和解期日以降放棄する趣旨のものであり、請求人らが相続開始時点に取得した相続財産を増減させるものでない。
 以上によれば、本件和解により、請求人らがした相続税の申告の課税標準等に異動が生じたとは認められないから、請求人らの上記主張は採用できない。

トップに戻る

(2) 争点2 原処分庁の申告指導に不当があったか否か。

イ 法令解釈
 一般に申告相談を含めた税務相談は、申告納税が国民の義務である一方で、税法が必ずしも分かりやすいものであるとはいえないことなどにかんがみ、納税申告をする際の参考とするために、相談者の一方的な申立てに基づきその申立ての範囲内で、行政サービスとして税に関する情報を提供し、又は税務署の一応の判断を示すものであるが、最終的にいかなる納税申告をすべきかは、あくまでも納税者の判断と責任に任されているものである。また、税務相談については、その内容、程度を規律し、税務職員の教示義務を定めた明文の規定は存在しない。
 これらに照らせば、納税者からの相談に対し、文書で回答するかどうか及びどの程度の内容を教示するかなどは、基本的には、当該税務職員の裁量にゆだねられていると解すべきである。
ロ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は、文末括弧内に記載したものである。)。
(イ) 平成16年4月26日の電話相談(原処分庁の調査関係資料の写し)
A 請求人らの代理人であるK税理士は、J税務署の担当者に電話をし、要旨、「詳しい内容は来署したときに相談するが、当初養子縁組をしていたGが相続財産のほとんどを処分してしまっており、相続人はGを相手に相続財産を返還するよう訴訟提起することとなるが、このような状況であっても、当初申告していた財産内容で申告すべきか否かを相談したい。」旨の相談をした。
B 上記Aの相談に対し、本件担当職員は、「そのような状況を踏まえると、署としては民民に介入することになるから、コメントできない。当初申告に基づき、適正に申告してくださいとしかいいようがない。」旨電話で回答した。
(ロ) K税理士及び請求人らの代理人であるL弁護士は、平成16年6月1日にJ税務署を訪れ、要旨「相続税の申告は実際に取得可能な財産で申告したい」旨の相談を行った。これに対し、本件担当職員は、「相続税の申告は、相続開始日をもって判断すべきである。」旨の回答をした(原処分庁の調査関係資料の写し)。
(ハ) K税理士及びL弁護士は、平成16年9月28日にJ税務署を訪れ、相続税の申告期限である同年10月○日が近づいてきたことから、要旨以下の質問について回答を求める旨の「質問書」と題する書面を提出した(同質問書、原処分庁の調査関係資料の各写し)。
A 相続税の課税価額に算入する取得財産は、真正相続人がGから取得した相続財産とGに対する相続回復請求訴訟の相続回復請求額160,730,559円としてよいか。
B Gに対する上記訴訟の判決が、請求額に満たない場合の税務処理について
(ニ) 本件担当職員は、上記(ハ)の質問書に対し、平成16年10月6日にK税理士に対し、電話で要旨以下のとおり回答した(原処分庁の調査関係資料の写し)。
A 財産の明細までについてはいい悪いはいえないが、課税価額については、相続開始現在での遺産の価額で申告していただくべきである。
B 相続開始日現在では、相続財産があり、相続開始後の相続人間の財産請求の争いであるので、更正の請求はできない。
(ホ) K税理士は、平成16年10月6日に上記(ニ)の対応に関して本件担当職員に対し、「先程の回答を書面でいただきたい」旨を電話で伝えたところ、同職員は、「後日連絡する。」旨回答した(原処分庁の調査関係資料の写し)。
(ヘ) 本件担当職員は、上記(ハ)の質問書の回答に関し、平成16年10月8日にK税理士に対し、電話で、要旨「文書での回答はできない」旨回答した(原処分庁の調査関係資料の写し)。
ハ 判断
(イ) 上記ロによれば、本件担当職員は、納税者の代理人からの課税に関する個別具体的な数回の相談に対し、一般論ではあるものの、課税に関する原則的な考え方を口頭によって示すことにより、一応の回答を示したことが認められる。これによれば、本件では、納税者などからの相談に対し、担当者が裁量の範囲を逸脱した不適切な対応をしたとは認められず、また、当審判所の調査によっても、請求人らからの相談に対する本件担当職員の対応が、不適切であることを裏付けるに足りる具体的な事実は認められない。
 したがって、原処分庁の税務相談ないし申告指導に不当はなく、この点に関する請求人らの上記主張は採用できない。
(ロ) 請求人らは、本件担当職員が、死亡時の財産全額で申告しなければ、加算税を課す旨及び取得していない財産についても遺産分割協議書を作成して申告すべきであると回答した旨主張する。
 しかしながら、上記ロの事実関係からすれば、本件担当職員は、課税に関する原則的な考え方を示し、相続開始日における遺産の価額で申告すべきである旨指導したものの、請求人らの主張する内容の回答をしたとは認められない。
 したがって、請求人らの上記主張は採用できない。

トップに戻る

(3) 原処分のその他の部分

イ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は、文末括弧内に記載したものである。)。
(イ) 請求人らが相続開始日に被相続人から相続により取得した財産の価額は、別表5「審判所が認定した相続開始日における被相続人の財産内訳」のとおりであり、相続税法上の取得財産の総額は○○○○円(小規模宅地等の課税の特例(9,504,000円)の適用後の金額)である(Gが原処分庁に提出した相続税の申告書及び請求人らが原処分庁に提出した相続税の申告書、原処分庁調査関係資料の各写し)。
(ロ) 債務について
 相続開始日(平成12年9月○日)現在において、被相続人に係る固定資産税364,000円は、未払いであった。(平成18年4月6日の電話聴取書)
(ハ) 葬式費用について
A 被相続人の葬儀の喪主は、Gである(平成18年5月26日付の当審判所に対する回答書)。
B 葬儀を依頼したM社に対する葬儀費用754,715円は、Gが支払った(同社の領収証写し)。
ロ 判断
(イ) 上記1の(3)のリ及び上記イの(イ)のとおり、請求人らが相続開始日に被相続人から相続により取得した相続税法上の取得財産の総額は○○○○円であり、異議決定時において異議審理庁が認定した相続開始日における相続税法上の被相続人の相続財産の総額と一致する。
(ロ) 上記イの(ロ)のとおり、被相続人は、相続開始時点で固定資産税364,000円が未払いであったことが認められるところ、当該未払固定資産税については、1被相続人の債務として存在しており、かつ、2その債務は「確実な債務」と認められることから、相続税法第13条《債務控除》に規定する債務控除の対象となり、請求人らの相続税額の計算上、これを認めるべきである。
 なお、この未払固定資産税は、請求人ら共同相続人間で負担する金額が確定していないことが認められるから、民法第900条から第902条までの規定による相続分の割合により債務控除することとなる。
(ハ) Cは、平成18年5月26日付の当審判所に対する回答書において、自分が葬式費用を負担した旨回答している。
 しかしながら、上記イの(ハ)のAのとおり、被相続人の葬儀の喪主はGであり、また、上記イの(ハ)のBのとおり、葬儀を依頼したM社に対する葬儀費用は、Gが支払ったことが認められる。さらに、請求人らは、当審判所に対し、葬式費用を負担したことを証する証拠を提出せず、当審判所の調査によっても、葬儀費用を請求人らが負担したと認める証拠はない。
 したがって、請求人らの相続税額の計算上、控除すべき葬式費用があるとは認められない。
(ニ) 以上のとおり、請求人らの相続税額等は別表6「審判所認定額」のとおりとなり、Cについては、申告額を上回るので原処分に違法はなく、D及びEについては、原処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

トップに戻る