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(平18.11.29、裁決事例集No.72 25頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、給与所得者である審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の母親が所得税法第2条《定義》第1項第34号に規定する扶養親族に該当するとして、同法第194条《給与所得者の扶養控除等申告書》に規定する扶養控除等申告書を給与等の支払者へ提出し、同法第84条《扶養控除》の規定の適用を受けていたところ、原処分庁が、母親は扶養親族に該当しないとして、請求人に対して平成13年分、平成14年分、平成15年分及び平成16年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税の各決定処分等を行ったのに対し、請求人が違法を理由として同処分等の全部の取り消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の各年分の所得税の各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)について、審査請求(平成18年10月6日)に至る経緯は別表のとおりである。

(3) 基礎事実

イ 請求人は、○○○○(以下「母親」という。)の長男であり、各年分の期間においてA社に勤務し、平成17年2月23日に同社を退職した。
ロ 請求人の各年分の総所得金額は、A社からの給与所得のみであり、給与所得の収入金額は、平成13年分が○○○○円、平成14年分が○○○○円、平成15年分が○○○○円及び平成16年分が○○○○円である。
ハ 請求人の各年分の給与所得に対する所得税は、所得税法第183条《源泉徴収義務》及び同法第190条《年末調整》の規定によりA社が源泉徴収を行い、国に納付されている。

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2 主張

(1) 請求人の主張

イ 本件各決定処分について
(イ) 母親はP市Q町○○番地に所在する請求人名義の住宅(以下「本件住宅」という。)に居住している。
(ロ) 請求人は、本件住宅に係る住宅ローンを支払っていたし、固定資産税や火災保険料の支払については、現在も請求人が行っている
(ハ) 請求人は母親とは同居をしていないが、上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人が母親に本件住宅を提供し、費用を負担していることは、請求人が母親に対して月額約10万円程度の家賃相当分を援助していることになり、母親は、請求人の扶養親族として認められてしかるべきである。
(ニ) 以上のとおり、請求人には所得税法第84条の規定が適用されることから、これを認めずになされた本件各決定処分は違法であり、いずれもその全部が取り消されるべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各決定処分はいずれもその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件各賦課決定処分はいずれもその全部が取り消されるべきである。

(2) 原処分庁の主張

イ 本件各決定処分について
(イ) 請求人は、本件住宅に係る固定資産税及び火災保険料の負担はしているものの、生活費の送金は行っていないことから、請求人と母親は、所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30、国税庁長官通達。以下「基本通達」という。)2−47《生計を一にするの意義》に定める生計を一にするものとは認められず、母親は請求人の扶養親族には該当しない。
 なお、請求人は、母親が居住している本件住宅に係る固定資産税等を支払っているから母親は自己の扶養親族に該当する旨主張するが、これらは自己が所有する家屋について所有者として負担すべきものを支払っているのであって、その事実だけをもって扶養親族に該当するとする請求人の主張には理由がない。
(ロ) 年末調整により納付すべき税額が計算されている場合で扶養控除に誤りがあったことが判明したような場合には、基本通達194〜198共−1《申告書の記載事項に誤りがあったため徴収不足税額を生じた場合の支払者の措置》に定めるとおり、給与等の支払者が徴収不足税額を徴収し、納付することとされているが、請求人は平成17年2月にA社を退職しており、各年分の扶養控除の誤りを給与等の支払者において是正し、徴収不足税額を徴収することができないことから、基本通達194〜198共−2《申告書の記載事項に誤りがあったことによる徴収不足税額の強制徴収》のただし書きに該当し、給与等の支払者からの徴収を強いて追求しないものと考えられる。
 そうすると、請求人は、国税通則法(以下「通則法」という。)第25条《決定》に規定する「納税申告書を提出する義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかった場合」に該当することから、本件各決定処分は適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各決定処分は適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて通則法第66条《無申告加算税》第1項のただし書きに規定する正当な理由があるとは認められない。また、無申告加算税の額は通則法第66条第1項の規定に基づき算出されており、本件各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 本件各決定処分について

イ 通則法第25条には、税務署長は納税申告書を提出する義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかった場合には、当該申告書に係る課税標準等及び税額等を決定する旨規定されている。
 そして、納税申告書を提出する義務について、所得税法第120条《確定所得申告》第1項には、居住者は、その年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が所得控除の合計額を超える場合において、当該総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額から所得控除の額の合計額を控除した額に対する税額が配当控除の額を超えるときは、確定申告書を提出しなければならない旨規定されている。
 しかし、所得税法第121条《確定所得申告を要しない場合》第1項には、その年中に支払を受けるべき給与等の額が2,000万円以下である給与所得を有する居住者で、一の給与等の支払者から給与等の支払を受け、かつ、当該給与等の全部について同法第183条又は同法第190条の規定による所得税を徴収された又はされるべき場合において、給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下であるときは、同法第120条第1項の規定にかかわらず同項の規定による申告書を提出することを要しない旨規定されている。
ロ また、源泉所得税と申告所得税との各租税債権の間には同一性がなく、源泉所得税の納税に関しては、国と法律関係を有するのは支払者であって、国と受給者との間には直接の法律関係は生じないものとされている(最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決、民集46巻2号77頁参照)。
 したがって、源泉所得税の徴収、納付に不足がある場合には、税務署長は、所得税法第221条《源泉徴収に係る所得税の徴収》の規定に基づき源泉徴収義務者たる支払者からその不足分を徴収することになる。
ハ なお、基本通達194〜198共−2のただし書の取扱いにおいて、「給与等の支払者に当該徴収不足税額を生じたことについて過失がないと認められ、かつ、当該徴収不足税額を徴収して納付することができないことについて正当な事由があると認められる場合には、強いて追求しないものとする。」とされているが、この取扱いは、あくまでも扶養控除等申告書等の記載事項に誤りがあったことによる徴収不足額の強制徴収に関するものであって、同取扱いの適用を受けることをもって、上記イの給与所得者について確定所得申告を要しない場合の規定が排除され、所得税法第120条の規定が代替的に適用されるものではない。
 したがって、もともと所得税法第121条第1項の規定の適用を受ける者について通則法第25条を適用する余地はない。
ニ これを本件についてみると、原処分庁は本件各決定処分は通則法第25条の規定に基づき行った旨主張するが、請求人の所得の状況及び当該所得に係る所得税の徴収の状況は、上記1の(3)のとおりであり、請求人の各年分における所得税については、所得税法第121条第1項に規定する確定申告書の提出を要しない場合に該当することから、請求人につき通則法第25条に規定する納税申告書を提出する義務があるとは認められず、原処分庁は同条を根拠とする決定処分を行うことはできない。
ホ 以上のことから、請求人の母親が請求人の扶養親族に該当するか否かについて判断するまでもなく、本件各決定処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。

(2) 本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各決定処分はいずれも全部を取り消すべきであり、これに伴い、本件各賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

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