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(平18.11.16、裁決事例集No.72 41頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続税の申告において、相続財産である被相続人名義の投資信託を相続財産であると認識していたにもかかわらず、申告しなかった行為が隠ぺい、仮装の行為に基づくものであるとして原処分庁が行った重加算税の賦課決定処分に対し、請求人が、当該投資信託が申告漏れとなったのは税理士への残高証明書の渡し漏れという単純なミスにより発生したものであり、隠ぺい、仮装の行為をした事実はないとして、その処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年2月○日に死亡したG(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書(以下「本件当初申告書」という。)に、別表1の「当初申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した(以下、この申告を「本件当初申告」という。)。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当者」という。)の調査に基づき、調査担当者から本件被相続人名義の投資信託等が申告されていないとして修正申告のしょうようを受け、平成17年6月13日、本件相続に係る相続税について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、平成17年7月8日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、この重加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として平成17年9月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月29日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、平成17年12月22日、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合(同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
ロ 税理士法第1条《税理士の使命》は、税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする旨規定し、同法第2条《税理士の業務》第1項第2号は、税理士の業務として、税務官公署に対する申告等に係る申告書等の税務書類の作成を規定し、同法第41条の3《助言義務》は、税理士は、税理士業務を行うに当たって、委嘱者が不正に国税の計算の基礎となるべき事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、若しくは仮装している事実があることを知ったときは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない旨規定している。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人、H、J、K及びLの5名(以下「本件共同相続人ら」という。)は、本件相続により、それぞれ本件被相続人の財産を取得した。
 なお、Lは、未成年者であることから、請求人の妻であるMが未成年後見人となっている。
ロ 本件共同相続人らは、本件相続に係る相続税の申告書の作成をN税理士に依頼した。
ハ 請求人は、T銀行X支店(以下「本件金融機関」という。)から、平成15年4月21日付で、預金に係る残高証明書とともに、別表2のとおり記載された投資信託受益証券(ファンド名「Rファンド」及び「Sファンド」をいい、これらの投資信託受益証券を併せて、以下「本件投資信託」という。)に係る残高証明書(以下「本件残高証明書」という。)を入手していたが、N税理士に対し、本件残高証明書を渡しておらず、本件投資信託の存在を知らせていなかったため、本件投資信託が漏れたまま本件当初申告書が作成され、申告漏れに至った。
ニ 本件当初申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」には、要旨次の内容が記載されており、その内訳に本件投資信託の記載はない。

(イ)「土地」の計○○○○円
(ロ)「家屋」の計○○○○円
(ハ)「現金・預貯金等」の計4億4,914万3,114円
(ニ)「その他の財産」の計3,651万8,791円
(ホ)合計○○○○円

ホ 本件当初申告書には、別表3のとおり記載された平成15年11月30日付の遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)の写しのほか、別表4のとおり記載された各種証明書の写しが添付されており、本件残高証明書の写しは添付されていない。
ヘ 請求人が平成17年5月26日付で原処分庁に提出した「(理由書)」と題する書面には、要旨次の内容が記載されている。
(イ) 本件被相続人は、生前、自分自身で財産を管理しており、請求人にはどのような財産があるか知らされていなかった。また、本件被相続人の財産のほとんどが土地であろうと予想していたが、預金が意外にも多かったので驚いた。
(ロ) 本件被相続人の生前から土地活用として換地宅地に住宅建設を進めており、第1期工事は終了していたが、第2期工事、第3期工事と複数の工事が連続して提案されていたので、その検討に相当の時間を費やし、それらの建設工事の打合せにより非常に多忙になった。
(ハ) 請求人は、平成15年6月までサラリーマンとして勤務していたので、建設業者や不動産業者との打合せは週末になることが多く、心身ともに疲労する毎日の中で書類の整理が十分でなかった。
(ニ) この多忙な毎日の中で、土地の評価と時価との比較やどの土地を売却するかどうかの判断をしながら、遺産分割協議を複数回に分けて行い、ついには土地の売却には時間がかかることが分かり、納税のために借入金の調達を行った。
(ホ) この遺産分割と相続税申告を行う過程の中で、本件金融機関から入手した残高証明書の中に本件残高証明書もあったが、預金に係る残高証明書とは別に作成されていたため、他の残高証明書はすべてN税理士に渡したものの、本件残高証明書だけ渡し忘れてしまった。
(ヘ) 本件遺産分割協議書には本件投資信託の記載がないが、請求人は記載されているものと思い込んでおり、また、本件投資信託の名義変更は、銀行指定の用紙に署名及び押印して行ったため、本件遺産分割協議書に本件投資信託が漏れているとは気付かなかった。
ト 本件修正申告書には、上記ハの本件残高証明書の記載内容と同一内容の記載がある本件残高証明書の控えの写しが添付されている。
 本件投資信託の申告漏れの金額の合計は、1億2,167万1,184円である。
チ 異議申立書には、平成15年11月10日付の「G様相続財産計算書」と題する書面(以下「本件相続財産計算書」という。)のほか、本件残高証明書の写しが添付されている。本件相続財産計算書には、本件投資信託の記載はない。
リ 請求人から本件金融機関にあてた平成15年11月6日付の「重要事項およびお客さま確認書」(以下「本件確認書」という。)には、要旨次の内容が記載されている。
(イ) ファンド名は、Rファンド及びSファンドである。
(ロ) 「おところ」(住所)及び「おなまえ」(氏名)欄には請求人の住所(住居表示変更前)である「P市Q町a番地」の記載と請求人の署名があり、お届け印欄及び上記(イ)に記載した各ファンドについて説明を受けた旨の確認印欄には、請求人の押印がある。
ヌ 本件投資信託は、平成15年11月6日、本件被相続人名義の投資信託口座から請求人名義の投資信託口座へ出入庫(名義変更)されている。
ル 本件共同相続人らが平成15年11月7日付で本件金融機関にあてた「依頼書」と題する書面(以下「本件相続依頼書」という。)には、要旨次の内容が記載されており、預金及び投資信託の明細欄には、本件投資信託の記載はない。
(イ) 本件被相続人の遺産のうち預金(及び投資信託)は、請求人が相続することに本件共同相続人らの協議が整ったので、本件共同相続人らは本件金融機関に対し、預金(及び投資信託)を請求人に支払う(又は名義書換を行う)よう依頼する。
(ロ) 相続人の欄には、Lを除く本件共同相続人らの署名及び実印の押印があり、また、Lについては、Lの未成年後見人であるMの署名及び実印の押印がある。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件賦課決定処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 上記1の(4)のリないしルの各事実からすると、請求人は、本件当初申告書を提出する以前から本件投資信託が本件被相続人の財産であると認識し、請求人自ら当該財産の管理を行っていたことが明らかであるとともに、上記1の(4)のハの事実からすると、本件当初申告書に課税財産として計上されている本件金融機関の預金に係る平成15年4月21日付の残高証明書と同日付で本件残高証明書の交付を受けていることから、本件投資信託が相続税の課税財産であるとの認識を有していたこともまた明らかである。
 そして、N税理士により本件相続財産計算書が平成15年11月10日付で作成され、遺産分割協議が複数回にわたり行われ、本件遺産分割協議書が同月30日付で作成された後、同年12月○日に本件当初申告書が提出されたことからすると、これらの事実と近接した時期である同年11月6日に本件被相続人名義の投資信託口座から請求人名義の投資信託口座へ出入庫された本件投資信託についてのみ、書類の渡し漏れという単純な手続ミスをしたとか、申告書に記載されているという思い込みがあったものと認めることは困難である。
ロ 請求人は、本件当初申告書の提出により納付すべき相続税額が○○○○円(別表1の「当初申告」の「うち請求人」の「納付すべき税額」欄に記載した金額)と多額であり、本件被相続人の生前からの土地活用に係る工事が複数連続し、当該工事に係る資金も必要としていたことからすると、本件被相続人の財産のうち、これらの支払に充てることが可能な資金となる金融資産等の合計額6億733万3,089円(上記1の(4)のニの(ハ)及び(ニ)の合計金額4億8,566万1,905円に本件投資信託の金額1億2,167万1,184円を加算した金額)に占める割合がおよそ2割を超える本件投資信託について、共同相続人にも知らせることなく、書類の渡し漏れという単純な手続ミスをしたとか、申告書に記載されているという思い込みがあったとする主張は、極めて不自然なものである。
 本件相続に係る相続税についてN税理士に依頼していた状況からすると、本件金融機関の預金に係る残高証明書についてはN税理士に渡し、それぞれ基準価額が記載されている本件残高証明書によりおよその価額について認識を得ることが可能であったにもかかわらず、あえて当該残高証明書をN税理士に渡さなかった行為は不自然であり、また、本件投資信託の価額について明らかでないと認識していたとすると、N税理士に相談することなくその存在までも知らせなかった行為は、あまりにも不自然なものであり、書類の渡し漏れという単純なミスをしたという主張の根拠となるものと認めることはできない。
ハ 以上のとおり、請求人は本件投資信託が本件相続に係る課税財産であると知りながら、本件残高証明書をN税理士に交付せず、本件当初申告において本件投資信託の申告をしなかったのであるから、重加算税の規定を適用するべきである。

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(2) 請求人

 次の理由から、本件賦課決定処分のうち過少申告加算税に相当する金額を超える部分の取消しを求める。
イ 本件においては、過少申告行為とは別に、特別の「仮装、隠ぺい」と評価すべき行為が存在しなければ重加算税の賦課要件は満たされないが、そのような行為は存在しない。
 すなわち、本件投資信託が申告漏れとなったのは、次のような特殊な状況の下で相続税の申告をしなければならなかったことから、N税理士へ本件残高証明書を渡し漏れたという単純なミスと、本件残高証明書はN税理士に渡し、かつ、本件投資信託は申告書に記載されているという思い込みとにより発生したものであり、隠ぺい又は仮装の行為はない。
(イ) 相続財産のほとんどが土地区画整理事業中の土地であったこと。
(ロ) 土地の換地処分が完了していないにもかかわらず、土地の評価を換地後の宅地評価で行わなければならなかったこと。
(ハ) 換地処分により、土地の地目が山林から宅地へ変更され、評価額が巨額となることにより相続税額も多額となったこと。
(ニ) 土地区画整理事業が終了しても、使用収益が開始された土地と使用収益が開始されていない土地が混在する中で、多額の納税資金の確保のために土地の売却を検討しなければならなかったこと。
(ホ) 使用収益を開始した土地には、収益事業として大規模な住宅建設が進行中で土地販売、建設事業、資金調達等の様々な業務があり、請求人は、連日、関係者との打合せがあるなど多忙を極めた状態であったこと。
ロ 金融資産、特に投資信託を過去に運用したことのない人が「基準価額」が何を意味するか理解できないし、税理士であっても「基準価額」が時価なのか、また、相続税法上の評価は単純に「基準価額」でいいのか迷うところである。
 そして、本件投資信託の評価額の算定に当たっては、米ドルの為替レートを調べる必要があったことから、本件金融機関に確認していたところ、N税理士に本件残高証明書を渡すタイミングを逸したというのが本当のところである。
ハ 本件投資信託を共同相続人に知らせずに名義変更したのは、決して本件投資信託を隠そうとしたものではなく、共同相続人のうち2人は請求人の妹であり、残りの2人は請求人の息子であったことから、本件被相続人の財産は長男が継承するという日本の伝統的な「嫡子相続」に従ったものである。
 仮に、本件投資信託のことを共同相続人に話したところで、そのときの遺産分割方針に異議はなかったし、本件遺産分割協議書にも、他の財産があった場合は請求人が相続する旨記載されていたことから、共同相続人に本件投資信託のことを告げる必要もなかったものである。
ニ 本件相続財産計算書、本件遺産分割協議書及び本件当初申告書のいずれにも本件投資信託が記載されていないが、それぞれの書類は互いに整合しているので本件投資信託についてのみの書類の渡し漏れと申告書に記載されているという思い込みという出来事があったとしても何ら不自然であるなどの問題もない。また、平成15年11月6日に本件投資信託の名義変更をしているのにこれらの書類に本件投資信託が記載されているか否かの確認をしなかったことは、単にミスであるから、このことを理由として本件投資信託を故意に申告しなかったということはできない。

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3 判断

 本件の争点は、請求人が本件投資信託を申告しなかったことについて、請求人に隠ぺい又は仮装の行為があったか否かであるので、審理したところ、次のとおりである。

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が本件金融機関にあてた平成15年4月7日付の「残高証明発行依頼書兼預金口座振替依頼書」には、要旨次の記載がある。
(イ) 平成15年2月○日現在における本件被相続人名義の預金及び投資信託の残高証明書の発行を依頼する。発行依頼通数は1通、交付方法は郵送である。
(ロ) 依頼者の欄には、相続人代表として請求人の署名及び実印の押印がある。
ロ 本件共同相続人らは、土地区画整理事業が終了するごとに遺産分割協議を行い、平成15年4月7日付、同年7月4日付、同年10月12日付の各遺産分割協議書及び本件遺産分割協議書をそれぞれ作成した。これらの遺産分割協議書には、Lを除く本件共同相続人らの署名及び実印の押印があり、また、Lについては、Lの未成年後見人であるMの署名及び実印の押印がある。
 さらに、それぞれの遺産分割協議書の記載内容は、別表3の欄外に表示したとおりであり、いずれの遺産分割協議書にも本件投資信託の記載はない。
ハ 平成15年7月4日付の遺産分割協議書には、預貯金のすべてを請求人が取得することが記載された。また、「上記以外の財産はすべて請求人が相続する。」旨の記載がされたのは、本件遺産分割協議書の段階である。
ニ 請求人は、本件金融機関にあてた平成13年7月18日付の「証券投資信託総合取引に係る申込書(兼証券投資信託保護預り口座開設に係る申込書)」により投資信託の取引を開始して、本件相続開始以前から「○○○○ファンド(円建て投資信託)」及び「○○○○ファンド(外貨建て投資信託)」を保有していた。
ホ 請求人は、平成15年11月14日、本件投資信託のうち「Rファンド」を解約し、同月18日、「Uファンド」を購入した。
ヘ 本件金融機関の担当者は、平成13年5月から平成15年7月までの間に、請求人名義及び本件被相続人名義の投資信託の運用報告等のために、多数回請求人宅を訪問している。
 また、T銀行から請求人あてに、四半期ごと(3月、6月、9月及び12月)の投資信託の取引内容が記載された取引残高報告書が送付されている。

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(2) 関係者の答述

イ 平成18年4月4日、請求人は、当審判所に対し、本件相続について、要旨次のとおり答述した。
(イ) N税理士には、本件相続開始直後から相続税の申告に関する依頼をしており、N税理士から資料を収集しておくよう言われた。
(ロ) 本件金融機関へ預金の残高証明書の発行を依頼した際に、本件金融機関の担当者から本件被相続人名義の投資信託の取引があることを知らされた。
(ハ) 本件残高証明書には、口数及び基準価額は記載されているが、基準価額が時価なのかどうか分からなかったことから、本件金融機関に問い合わせをした上でN税理士に渡そうと思っていたが、渡すのを忘れてしまった。
(ニ) 本件金融機関へ本件残高証明書に記載された本件投資信託の相場や為替レートの調査を依頼したのは、平成15年5月以降だったと記憶しているが、依頼したこと自体も忘れていた。平成17年5月12日の原処分調査の時に申告漏れに気付き、再度本件金融機関の当時の担当者であったV(以下「V行員」という。)に連絡して調査を依頼した。その回答書をもらったのは、同月24日前後だと思う(平成18年4月12日付回答書)。
(ホ) 本件相続財産計算書は、N税理士が資料を整理し、平成15年11月10日付で作成した。
(ヘ) 本件投資信託が申告漏れとなっていることは、調査担当者に指摘されて初めて知った。
(ト) 4回作成した遺産分割協議書は、W司法書士にそれぞれ相続人用5通及び予備1通の計6通作成してもらった。また、遺産分割協議書を作成した都度、請求人宅に共同相続人全員が集合して、新たに作成した遺産分割協議書に目を通してもらい、直前の遺産分割協議書と比較して追加となった部分を請求人から説明した上で、各自に署名及び押印してもらった。
ロ 平成18年4月27日、調査担当者は、当審判所に対し、平成17年5月12日の請求人宅での原処分調査の状況について、要旨次のとおり答述した。
(イ) 遺産分割協議について請求人に聴取したところ、「分割協議は4、5回行い、本件遺産分割協議書を作成した。」旨及び「土地については司法書士と請求人が図面を、預金については請求人が残高証明書をそれぞれ照合し、確認した後に、これらの資料をN税理士に渡した。」旨の回答があった。
(ロ) 本件金融機関での本件被相続人名義の投資信託の取引の有無について請求人に聴取したところ、1最初に「預金以外に取引はない。」旨の回答があり、2その後、少し考えてから「投資信託の取引はあったと思う。」旨の回答があった。
(ハ) 次に、本件投資信託の残高について請求人に聴取したところ、1最初に「大した金額ではなかった。」旨の回答があり、2その後、少ししてから「はっきり幾らあったかは覚えていない。」旨の回答があったので、更に質問したところ、3「投資信託の残高は、7,000万円から8,000万円ぐらいあったかもしれない。」旨の回答があった。
(ニ) また、本件投資信託の残高に関する資料の有無について請求人に聴取したところ、「預金の残高証明書と一緒に本件投資信託の残高証明書も銀行からもらっており、その残高証明書は、N税理士に渡していると思っていた。」旨の回答があった後、請求人は「書類を探してみる。」と言って、席を外し、いったん、1階のキッチンにいたMと話をしてから、2階へ上がって行った。
 その後、5分から10分程度経ってから、請求人は席に戻り、「探したが書類はどこにもなかった。」との説明があり、書類の提出はなかった。
(ホ) 本件投資信託の名義変更の手続について、請求人は、「名義変更は、どうやったかはっきり覚えていない。」、「他の共同相続人が行ったということはないと思う。」旨の回答をした。
(ヘ) 本件投資信託の存在について、同席していたKに聴取したところ、「本件投資信託については、全く知らなかった。遺産分割の時も話に出なかった。」旨の回答をした。
 また、本件投資信託の存在をK及び他の共同相続人に対して知らせたか否かについて、請求人に聴取したところ、「Kにも他の相続人に対しても言っていないと思う。」旨の回答があった。
ハ 平成18年6月20日、請求人は、当審判所に対し、本件相続について、要旨次のとおり答述した。
(イ) 投資信託の名義変更は、手続上の関係ですぐにはできず、事前に書類を出すよう言われたので、V行員を自宅に呼び、書類にサインをして手続をした。
 なお、預金の名義変更手続とは、一緒ではない。
(ロ) 上記イの(ニ)の平成15年5月以降の本件残高証明書の内容に関する調査については、V行員に依頼したが、回答があったかどうか覚えていない。回答はもらっていないのではないか。
(ハ) 上記ロの(ロ)及び(ハ)の原処分調査での申述内容に間違いはない。
(ニ) 原処分調査の時に本件残高証明書を探したが見つからなかったので、本件金融機関に対し、再度、残高証明書を出してもらった。
(ホ) 上記1の(4)のチの異議申立書にその写しを添付した本件残高証明書は、原処分調査の時に見つからなかったものが出てきたのだと思うが、いつ見つかったのかは記憶にない。
ニ 請求人は、当審判所に対し、請求人自身の投資信託の取引について、要旨次のとおり答述した。
(イ) 平成18年4月4日の答述
 本件投資信託を本件相続により取得するまで、自分自身で投資信託の取引をしたことはない。
(ロ) 平成18年6月20日の答述
A 最初に、1本件相続開始以前は投資信託の取引をしたことはない、次に、2銀行株を少しやっていただけである、そして、3どのくらいかは通帳を見ないと分からない。
B 本件相続開始以前から、Mが本件金融機関の担当者から投資信託の運用報告の説明を聞いていたが、Mに投資信託の取引を任せていたわけではない。
ホ 平成18年7月28日、T銀行Y支店の従業員V行員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 平成14年12月から平成18年4月まで請求人宅の担当をしていた。
 また、請求人宅へは、請求人から連絡を受け、月1、2回程度訪問しており、その時は、請求人又はMが応対した。
(ロ) 本件被相続人が存命中は、本件被相続人が2、3回応対したことがあり、その時は、請求人は会社員だったのでMが同席し、話を聞いていた。本件被相続人へ投資信託の運用報告をしたこともあり、その時もMが同席していた。
(ハ) 本件投資信託及び預金の名義変更については、日付ははっきり覚えていないが、請求人から遺産分割協議が整い、必要書類が準備できたとの連絡を受けたので、請求人宅を訪問し、必要書類を預かった。
 なお、システムの制約により、預金と融資は平成15年11月7日にセンターにおいて処理することが決まっていたが、処理する量が非常に多いため、投資信託、預金及び融資すべての手続を1日ではできないことから、やむを得ず本件投資信託の手続を前日の同月6日に行い、同月7日に預金及び融資の手続ができるようにした。
(ニ) 本件相続依頼書に本件投資信託の記載はなかったが、請求人が本件被相続人名義の預金をすべて相続する旨の説明を受けていたので、預金と同様に相続手続をした。
(ホ) 本件当初申告までに、請求人から本件残高証明書の内容についての問い合わせはなかったと思う。

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(3) 法令解釈

 重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決)。

(4) 請求人の場合の重加算税の賦課要件

 上記1の(4)の基礎事実並びに上記(1)の認定事実及び上記(2)の関係者の答述によれば、次のとおりである。
イ 請求人が過少申告に至った経緯
(イ) N税理士との関係
請求人は、本件被相続人の死亡直後に相続税の申告に関してN税理士に依頼し、資料を集めておくよう指示されていた。
(ロ) 本件当初申告書の提出の経緯
A 請求人は、上記(1)のニのとおり、本件相続開始前から自己の投資信託の取引を行って外貨建て投資信託を保有していた。
B 上記(2)のホのとおり、本件被相続人の生前、本件金融機関の担当者による本件被相続人の投資信託の運用報告は、請求人の妻が同席して行われていた。
C 上記1の(4)のとおり、本件相続開始後、請求人が相続財産を示す資料を自ら収集し、預金に係る残高証明書とは別個の文書として作成された本件残高証明書も平成15年4月21日付で入手し、また、上記(1)のヘのとおり、その後も四半期ごとに取引残高報告書の送付を受けていた。
D 請求人は、本件相続の開始後本件当初申告まで、N税理士に本件投資信託の存在を知らせたことはなく、上記Cの収集資料のうち、本件残高証明書をN税理士に渡さなかった。上記1の(4)のリ及びヌ並びに上記(1)のホによれば、請求人は、本件確認書を本件金融機関に提出し、平成15年11月6日に本件投資信託を自己の投資信託口座へ入庫して名義変更手続をとった上、同月14日、一部を解約した。N税理士は、本件投資信託が含まれない同月10日付本件相続財産計算書を作成した。本件投資信託の存在を請求人が他の共同相続人に知らせないまま、少なくとも4回にわたる遺産分割協議が行われた。
E N税理士は、本件投資信託が漏れた状態で本件当初申告書を作成した。
 請求人は、平成15年12月○日、本件投資信託が漏れた状態で作成されていた本件当初申告書を原処分庁へ提出した。
F N税理士が請求人に対し、資料を集めておくように指示していたこと及び請求人がN税理士に対し、本件残高証明書を渡していなかったところN税理士が作成した本件当初申告書から本件投資信託が漏れていたことからは、N税理士は請求人が提供した資料に基づいて本件当初申告書を作成したことが認められる。
ロ 重加算税の賦課要件の充足
上記(3)の重加算税の賦課要件に照らしてみれば、請求人が「当初から財産を過少に申告することを意図したこと」があるか、「その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」をしたか、及び「その意図に基づく過少申告をした」かが争点となる。
(イ) 請求人は、N税理士に対し、本件投資信託の存在を殊更秘匿した。
 すなわち、請求人は、上記イの(イ)のとおり相続税申告書の作成依頼先であるN税理士から資料の提出を指示されていたのであるから、N税理士に相続財産を示す適切な資料を提供するべき立場にあった。また、請求人が本件被相続人の相続財産として本件投資信託が存在したのを確実に認識していたと認められることに加えて上記イの経緯が認められることからは、たとえ仮に一時的に本件投資信託につきN税理士に資料を渡したかどうか意識しないことがあったとしても、請求人は、四半期ごとの取引残高報告書の送付、投資信託の出入庫等の取引、遺産分割協議及び遺産分割協議書の作成という各出来事のたびに、本件投資信託の存在及びN税理士に本件投資信託についての資料を渡していないのを意識していたこと並びに本件残高証明書を渡すことができる機会があったことが認められる。こうした意識及び機会の下で、相続税申告書の作成依頼先であるN税理士に相続財産を示すすべての資料を提供するべき立場にあった請求人が、本件残高証明書をN税理士に渡さなかったのは、本件投資信託の存在を隠すため、本件残高証明書を秘匿したものというべきである。
 請求人がこのようにN税理士に申告書の作成を依頼しておきながら本件投資信託の存在を隠したのは、提出した資料に係る財産が相続財産のすべてであり他にはないかのように装うことによって、N税理士をして本件投資信託を漏らして過少な相続税額が記載された本件当初申告書を作成させるためと認められる。
(ロ) そして、納税者が申告に際し、自己が依頼した税理士に対して必要資料等を秘匿した場合も、「当初から財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合」に当たると解される。なぜならば、税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであり(税理士法第1条)、納税者が課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装していることを知ったときは、その是正をするよう助言する義務を負うものであって(同法第41条の3)、履行補助者ではない。税理士に対する相続財産の秘匿行為を税務官公署に対するそれと同視することはできないが、税務書類作成(同法第2条第1項2号)の依頼を受けた税理士は、納税者から適切に資料が提供されたならばそれに従って上記のとおりの独立した公正な立場から正しく申告書を作成したはずである。納税者がこのような職責を負う税理士に提出すべき資料を提出しないことは、税理士による是正の機会を喪失させ、かつ、過少な相続税額を記載した申告書を作成させる行為であって、これによる過少な申告は、悪質な納税義務違反として、重加算税という行政上の制裁をもって抑止されるべきだからである。
(ハ) したがって、請求人は、当初から財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものというべきであって、重加算税の賦課要件は充足されている。

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(5) 請求人の主張について

イ 請求人は、本件においては、過少申告行為とは別の特別の「仮装、隠ぺい」と評価すべき行為が存在しないのであるから、重加算税の賦課要件を満たしていないこと及び本件投資信託が申告漏れとなったのは、上記2の(2)のイに記載のとおり多忙を極めた特殊な状況の下でN税理士に本件残高証明書を渡し忘れたという単純なミスと、本件残高証明書はN税理士に渡し、かつ、本件投資信託は申告書に記載されているという思い込みとにより発生したものであり、隠ぺい又は仮装の行為はないことを主張する。
(イ) 確かに、相続財産の大半が土地区画整理事業中の土地であり、また、大規模な住宅建設が進行中であった事実は認められる。しかしながら、上記(4)のとおり、請求人には当初から財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をし、その意図に基づく過少申告をしたことが認められるものであって、N税理士に本件残高証明書を提示しなかったのは単純なミスによるものではなく、重加算税の賦課要件を充足するものである。
 このことは、請求人が主張するような特殊な状況を前提としても同様に認定される。すなわち、請求人が相続人代表として収集した資料である本件残高証明書には別表2のとおりの残高(口数)及び基準価額が記載され、また、上記(2)のイの(ト)、ロの(イ)及び(ヘ)から、本件共同相続人らで遺産分割協議を少なくとも4回重ね、その都度遺産分割協議書が作成され、請求人が各預金について残高証明書をそれぞれ照合し、確認して自らその内容を他の共同相続人に説明したが、本件投資信託のことは説明しなかったことが認められる。請求人は、こうして本件相続の開始後、相続財産の全容を知る立場にあったと認められるところ、請求人が主張するとおり多額の納税資金の確保を図っていたならば、むしろ流動性の高い本件投資信託に関することを失念するはずはない。これらのことからも、請求人が本件残高証明書をN税理士に秘匿したものと認められるのである。
 こうした行動は、上記(4)のロのとおり、「当初から財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合」に当たるというべきであって、重加算税の賦課要件を充足する。
(ロ) 請求人は、請求人としては本件当初申告書に本件投資信託の記載がないまま提出されたとは思っていなかった旨主張し、「本件投資信託が申告漏れとなっていることは、調査担当者に指摘されて初めて知った。」旨答述している。
A しかし、その主張の根拠は請求人の答述以外に見当たらない上、請求人は、上記(2)のロの(ロ)のとおり、調査担当者に対して「預金以外に取引はない」旨応答をしていたこともある。請求人は本件投資信託の存在を知っていたのであるから、仮に、本件投資信託が申告漏れとなっていることを真実知らなかったならば、「預金以外に投資信託の取引があり、かつ、申告している」旨応答するのが自然である。それにもかかわらずこうしてあえてこれと異なる応答をしたことからは、本件投資信託の申告漏れを認識していたために、調査担当者に対し虚偽の応答をすることにより、本件投資信託の存在を秘匿することによってこれを根本から隠したかったという動機がうかがわれる。こうした動機は、請求人自身が本件相続開始前から外貨建て投資信託の取引を行っていたにもかかわらず、上記(2)のニのとおり、取引歴を隠す応答をしたことからもうかがわれるところである。
B また、請求人は、上記(2)のロの(ニ)のとおり、調査担当者に対し、本件残高証明書を探したが見つからなかった旨の申述をし、また、上記(2)のハの(ホ)のとおり、当審判所に対し、異議申立書にその写しを添付した本件残高証明書がいつ見つかったか記憶にない旨答述しているが、原処分調査に際しいったん探したものの「どこにもなかった」として提示しなかった本件残高証明書がその後発見されたというのであれば、この発見は請求人にとって極めて特別な出来事であったはずであり、記憶にないという上記の答述は信用し難く、むしろ、原処分調査時から本件残高証明書を提示可能であったのにあえて秘匿したと疑われるところである。
C さらに、上記(2)のイの(ニ)及びハの(ロ)のとおり、請求人が本件投資信託の内容についてV行員に調査を依頼した旨答述するものの、「平成15年5月以降だったと記憶しているが、依頼したこと自体忘れていた。平成17年5月12日の原処分調査の時に申告漏れに気付き、再度本件金融機関の当時の担当者であったVに連絡して調査を依頼した。その回答書をもらったのは、同月24日前後だと思う。」旨述べていたのを「回答があったかどうか覚えていない。回答はもらっていないのではないか。」などと答述内容を変遷させており、本件投資信託について率直に語りたくないという心情がうかがわれる。
D こうした態度ないし応答の内容及び経過からみれば「本件投資信託が申告漏れとなっていることは、調査担当者に指摘されて初めて知った。」旨の請求人の答述は、これを信用することができないから、上記請求人の主張には根拠がない。
したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、本件相続財産計算書、本件遺産分割協議書及び本件当初申告書のいずれにも本件投資信託が記載されていないが、それぞれの書類は互いに整合しているので本件投資信託についてのみの書類の渡し漏れと本件投資信託が申告書に記載されているという思い込みという出来事があったとしてもなんら不自然であるなどの問題はない旨、また、平成15年11月6日に本件投資信託の名義変更をしているのにこれらの書類に本件投資信託が記載されているか否かの確認をしなかったことは、単にミスであるから、本件投資信託を故意に申告しなかったとの理由とはならない旨主張する。
 しかしながら、本件相続財産計算書、本件遺産分割協議書及び本件当初申告書の作成の経緯は上記(4)のイの(ロ)のとおりと認められ、本件投資信託が漏れているのは上記(4)のロのとおり請求人が本件残高証明書の存在をN税理士に秘匿することによってN税理士をして過少な相続税額が記載された本件当初申告書を作成させるためであって、単なるミスではないから、請求人のこの主張には理由がない。
ハ 請求人は、本件投資信託の評価額の算定に当たっては、米ドルの為替レートを調べる必要があったことから、本件金融機関に確認していたところ、N税理士に本件残高証明書を渡すタイミングを逸した旨主張する。
 しかし、本件当初申告までに、請求人から本件残高証明書の内容について問い合わせはなかった旨のV行員の答述に加え、請求人の答述によっても本件金融機関への平成15年5月以降の調査依頼の時期は明確にならず、また、請求人はこれに対する回答があったか否かについてすら答述を変遷させており、真実、調査を依頼して回答を待っていたか否か疑わしいと言わざるを得ない。また、税務書類の作成を税理士に依頼している以上、為替レートの調査中であったとしても、調査中の事項があればむしろその旨依頼先税理士に知らせるのが自然な行動であって、申告書の作成依頼先である税理士に対して投資信託の存在自体を知らせないのは不自然であり、請求人の主張に係る事実経過はこれを認めることができない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、本件投資信託の存在を共同相続人に知らせなかったことについて、本件遺産分割協議書に、他の財産があった場合は請求人が相続する旨記載されており請求人が継承することになっていたから他の共同相続人に知らせる必要がなかった旨主張するが、上記(1)のハによれば、上記の記載は本件遺産分割協議書の段階で初めてされたものであるから、それより前の段階の少なくともすべての預貯金が遺産分割された平成15年7月4日には、まだ請求人が本件投資信託を継承することになるとは決まってはいなかったと認められる。そうすると、本件投資信託の存在を知っていた請求人の立場からすれば、適切に遺産分割協議を行うためには、これを他の共同相続人に知らせる必要があったはずであるから、これをあえて知らせなかったのは、本件投資信託を相続財産から除外したいという動機があったからと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(6) 本件賦課決定処分について

イ 上記(4)で述べたとおり、1請求人は、相続税の申告をするに当たり、本件投資信託を相続財産として申告すべきことを確実に認識していながら、あえて本件投資信託を記載していない本件当初申告書を提出したのみならず、2本件共同相続人らで遺産分割協議を少なくとも4回行い、その都度遺産分割協議書を作成し、その内容を請求人が共同相続人に説明し、本件投資信託の漏れを是正する機会が再三あったにもかかわらずこれを是正することなく、3預金に係る残高証明書とともに本件残高証明書を入手していたにもかかわらず、当初から財産を過少に申告することを意図し、本件当初申告書の作成を依頼したN税理士に本件残高証明書を渡さずに、本件投資信託の存在をN税理士に対して秘匿し、N税理士をして過少な相続税額を記載した本件当初申告書を作成させていたものと認められる。
 これは、請求人が、当初から財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、その意図に基づいて請求人のした過少申告行為は、通則法第68条第1項所定の「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」という重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。
ロ 当審判所において、請求人の重加算税の額を計算すると、別表1の「賦課決定処分」欄の重加算税の額と同額となるから、通則法第68条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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