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(平18.10.16、裁決事例集No.72 70頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、弁護士A(以下「A弁護士」という。)に第三者名義で預けられた金員の返還請求権について請求人に帰属するとして差押処分を行ったのに対し、請求人が、当該返還請求権は第三者に帰属する債権であるとして、当該差押処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ B税務署長は、請求人に係る別表1記載の各滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)のうち番号1ないし5及び7ないし11の各滞納国税について、請求人にそれぞれ督促状を発付し、原処分庁は、B税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ C税務署長は、本件滞納国税のうち番号6の滞納国税について、請求人に督促状を発付し、原処分庁は、C税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ハ 原処分庁は、平成17年9月14日付で、本件滞納国税を徴収するため、別表2記載の各債権(以下「本件被差押債権」という。)についてそれぞれ差押処分(以下「本件各差押処分」という。)をした。
 なお、原処分庁は、本件各差押処分に係る債権差押通知書をA弁護士に、差押調書謄本を請求人に、それぞれ送達している。
ニ 請求人は、平成17年11月11日、本件各差押処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成18年2月2日付で却下の異議決定をした。
 なお、異議決定書謄本は、平成18年2月7日、請求人の異議申立ての代理人事務所に配達証明郵便により送達された。
ホ 請求人は、平成18年3月3日、異議決定を経た後の本件各差押処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、不服申立てをすることができる旨規定している。また、同条第3項は、異議申立てについての決定があった場合において、当該異議申立てをした者が当該決定を経た後の処分になお不服があるときは、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨規定している。
ロ 国税徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号は、徴収職員は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ハ 国税徴収法第62条《差押えの手続及び効力発生時期》第1項は、債権の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う旨、同条第2項は、徴収職員は、債権を差し押さえるときは、債務者に対しその履行を、滞納者に対し債権の取立てその他の処分を禁じなければならない旨、同条第3項は、第1項の差押えの効力は、債権差押通知書が第三債務者に送達された時に生ずる旨それぞれ規定している。

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2 主張

(1) 原処分庁

 次のとおり、本件審査請求は請求の利益を欠く不適法なものであるから、いずれも却下されるべきである。
イ 国税通則法第75条は、国税に関する法律に基づく処分に対して不服申立てができる場合を規定しているところ、同条によって不服申立てができるのは、その処分が不服申立てをする者の権利又は法律上の利益を侵害する場合に限られると解される。
ロ これを本件についてみると、請求人は、本件被差押債権が請求人に帰属するものでないことを理由として、本件各差押処分の取消しを求めているが、請求人に帰属しない債権につき差押処分がなされたとしても、これによって権利又は法律上の利益が侵害されるのは当該債権の真正な帰属者である第三者であり、請求人が権利又は法律上の利益の侵害を受けるものではない。
 したがって、本件審査請求は、いずれも請求の利益を欠く不適法なものである。

(2) 請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、全部の取消しを求める。
イ 不服申立ての利益について
 債権について差押処分がされた場合、その取立てにより租税債権が満足されれば、当該租税債権に係る滞納者は、当該債権の真正な帰属者である第三者から租税債権相当額を不当利得として返還請求されることが明らかであり、その法律上の利益が侵害されているといえる。
 また、被差押債権の真正な帰属者である第三者は、処分の名あて人ではなく、不服申立て等についての教示も受けないのであるから、差押処分の効力を不服申立ての手続で争うことができない。したがって、滞納者に不服申立ての利益を認めなければ、だれも差押処分の効力を不服申立ての手続で争うことが現実にはできないという事態を招くこととなり、国税通則法が行政訴訟とは別に、不服申立手続を定めた趣旨を没却することとなる。
 したがって、本件においては、滞納者である請求人に本件各差押処分についての不服申立ての利益が認められるべきである。
ロ 本件被差押債権の帰属及び反対債権の存在
(イ) 差押えの対象となる財産は、差押えが滞納者から国税を強制的に徴収することを目的とするものである以上、滞納者に帰属するものでなければならない。
 差押えの対象である財産が滞納者の所有に属するか否かを判定するためには、法の一般原則によるべきである。
(ロ) 本件被差押債権は、いずれもD社に帰属するものであり、請求人に帰属するものではない。
 また、A弁護士は、D社に対し反対債権○○○○円(消費税相当額を含む。)を有している。
(ハ) D社は、請求人とは別の法人格であり、同社に帰属する債権を請求人に帰属する債権として差し押さえるためには、法人格否認の法理(民法第1条《基本原則》第3項)によらなければならないが、原処分庁は、本件において、D社に法人格否認の法理を適用する根拠について主張及び立証をすべきであるにもかかわらず、何らしていない。

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3 判断

(1) 国税通則法第75条に規定する、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者とは、その処分によって直接自己の権利又は法律上の利益を侵害された者であることを要すると解される。
 この点、請求人は、本件各差押処分の名あて人であり、本件各差押処分により、その法律上の効果を受ける者であるから、本件各差押処分の取消しを求めることができることは明らかである。
(2) しかしながら、審査請求が違法又は不当な処分によって侵害された不服申立人の権利利益の救済を図るものであることから、差押処分を違法とする理由が自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とするものである場合は、かかる違法理由を審査請求の理由とすることはできないと解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、請求人は、本件被差押債権が請求人でなく第三者であるD社に帰属するものであるから本件各差押処分は違法であると主張するが、仮にそのような事実があったとしても、本件各差押処分によって不利益を受けるのは当該債権の真正な帰属者であるとされる第三者であって請求人ではなく、請求人は本件各差押処分によって何らの影響も受けないのであるから、結局、請求人がかかる事実を違法であると指摘することは自己の法律上の利益に関係のない違法を主張するものにほかならない。
 したがって、請求人の主張は、審査請求の理由とすることのできない理由を主張するものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4) そして、本件各差押処分は、本件滞納国税を徴収するために国税徴収法第47条第1項第1号に基づき、同法第62条に規定された手続に従っていずれも適法に行われていることが認められ、かつ、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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