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(平18.12.26、裁決事例集No.72 78頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、滞納者A(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税を徴収するため、審査請求人(以下「請求人」という。)の譲渡担保となっていた不動産の公売公告処分を行ったのに対し、請求人が、当該不動産は資力を喪失した本件滞納者の住居であることを考慮して任意売却し、売却代金は所有権登記権利者である請求人が優先的弁済を受けるべきであるとして、公売公告処分の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納者の別表1に記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、本件滞納者が請求人に譲渡した別表2記載の不動産(以下「本件不動産」という。)が、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》第1項に規定された譲渡担保財産に当たるとして、平成16年5月○日付で、請求人に対し、同条第2項の規定により告知書を送付した(以下、この処分を「本件告知処分」という。)。
ロ 原処分庁は、本件告知処分により徴収しようとする金額が完納されていないため、平成16年6月○日付で、請求人に対し、徴収法第24条第3項の規定に基づき、同法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》第1項の規定による手続により本件不動産について差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ハ 原処分庁は、平成17年○月○日付で、本件不動産について、徴収法第95条《公売公告》の規定に基づき公売公告処分(以下「本件公売公告処分」という。)を行い、同法第96条《公売の通知》の規定に基づき請求人及び本件滞納者に対して公売の通知をした。
ニ 請求人は、平成17年10月31日、本件公売公告処分について異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成18年1月26日付で棄却の異議決定をし、同月28日、その決定書謄本を請求人に送達した。
ホ 請求人は、平成18年2月27日、異議決定を経た後の本件公売公告処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件滞納者は、本件公売公告処分時において、本件不動産に居住している。
ロ 本件不動産の不動産登記簿には、平成14年3月○日付で、譲渡担保を原因として、本件滞納者から請求人へ所有権移転の登記がされた。
ハ 請求人は、平成16年7月○日、本件告知処分を不服として、また、同年8月○日、本件差押処分を不服としてそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月○日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、平成16年11月○日、異議決定を経た後の本件告知処分及び本件差押処分に不服があるとして審査請求をし、当審判所は、平成17年4月○日付で、いずれも棄却の裁決をした。
ホ 本件公売公告処分に係る「公売公告兼見積価額公告」には、次の事項の記載がある。
(イ) 売却区分番号 ○○−○
(ロ) 公売財産の表示 別表2に記載のとおり
(ハ) 公売の方法 入札
(ニ) 公売の日時及び場所 平成17年○月○日○時○分B国税局
(ホ) 売却決定の日時及び場所 平成17年○月○日○時○分B国税局
(ヘ) 公売保証金 ○○○○円
(ト) 買受代金の納付期限 平成17年○月○日○時○分

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2 主張

(1) 請求人

 原処分について、次の理由により取消しを求める。
イ 本件告知処分及び本件差押処分の誤った説明
 原処分庁所属の徴収担当職員は、請求人が本件告知処分及び本件差押処分の後に求めたそれらの処分の説明において、本件不動産について換価処分を行った場合に請求人の譲渡担保に係る債権が国税に優先する旨誤った説明をしたから、本件公売公告処分は違法又は不当である。
ロ 本件滞納者に係る事情の考慮
 本件滞納者は、資力を喪失し生活維持も容易ではなく、幾多の病歴と持病を抱え通院と緊急事態が予想されるような事情にあって、これらの事情に不知な者が本件滞納者の住居である本件不動産を取得した場合には、本件滞納者の生死に関わる問題ともなりかねないから、本件不動産の売却は公売の方法によるべきではないので、本件公売公告処分を取り消して、所有権登記名義を有する権利者である請求人が任意に売却すべきである。
ハ 本件不動産の換価代金に係る請求人の優先弁済権
 請求人は、本件公売公告処分の前提となる本件告知処分及び本件差押処分に係る不服申立てにおいて主張したとおり、本件不動産を本件滞納者に対する○○○○円の債権に係る代物弁済として確定的に取得できたところ、上記ロのような本件滞納者の事情を考慮して、当該代物弁済による所有権移転の登記を留保していたにすぎないのであるから、本件不動産の売却代金は、一部を本件滞納国税の納付に充てるとしても、請求人が優先的に弁済を受けるべきである。

(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件公売公告処分の適法性
 本件公売公告処分による公売の手続は、徴収法第5章《滞納処分》第3節《財産の換価》の規定に基づき適法に行われている。
ロ 請求人の主張について
 請求人の主張することは、本件公売公告処分の違法性を主張するものではなく、本件公売公告処分による公売処分を中止し、請求人が本件不動産を優先的に任意売却できるよう、原処分庁が協議に移ることを請願するものであるが、これらの主張を理由に本件公売公告処分の取消しを求めることはできない。

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3 判断

(1) 本件公売公告処分について

 本件公売公告処分は、本件滞納国税を徴収するため、上記1の(2)のイのとおり、徴収法第24条の規定に基づいて適法になされた本件告知処分を前提として、徴収法第68条に規定する手続に従ってなされた本件差押処分に係る本件不動産を換価するための処分であり、徴収法第95条第1項は、公売の方法を規定しているところ、原処分庁は、同項に規定された公告すべき事項につき、上記1の(4)のホのとおり、「公売公告兼見積価額公告」に記載して公告をしているのであるから、その手続は法令の規定に従って適法に行われているといえる。

(2) 請求人の主張について

イ 説明の過誤を理由とした主張について
 請求人は、本件告知処分及び本件差押処分後のこれらの処分に係る原処分庁所属の徴収担当職員の説明に誤りがあったとし、これを理由として本件公売公告処分が違法である旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張するような説明の誤りがあったとしても、既になされた滞納処分についての説明行為の過誤によって、後続の滞納処分が違法となることはないし、また、請求人が誤った説明を前提として行動した結果、何らかの経済的な不利益を被ったということはないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件滞納者に係る事情を理由とした主張について
 請求人は、本件滞納者の生活に係る事情を考慮すべきことを理由として本件不動産の売却は公売によるべきでない旨主張している。
 ところで、審査請求は、違法又は不当な処分によって侵害された不服申立人の権利利益の救済を図るものであることから、自己の法律上の利益に関係のない違法を審査請求の理由とすることはできないと解するのが相当である。
 そして、請求人にとって本件滞納者の生活に係る事情は、請求人に何ら直接的な影響をもたらす事柄ではないから、請求人が当該事情の考慮を求めることは、自己の法律上の利益に関係のない違法を主張するものにほかならず、審査請求の理由とすることのできない理由を主張するものである。また、仮に請求人に何らかの影響があるとしても、当該事情は、本件公売公告処分の法令上の要件とは関係がないから違法性の理由とはならず、さらに、金銭債権の実現一般においても滞納処分の制度上も考慮されるべき事柄ではないから滞納処分の不当性の理由ともならないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 本件不動産の換価代金に係る優先弁済権を理由とした主張について
 請求人は、本件不動産は本来、代物弁済により請求人が確定的に取得できたものであるから、本件不動産の売却代金は、請求人が優先的に弁済を受けるべきである旨主張している。
(イ) ところで、国税と譲渡担保に係る債権の優先劣後については、徴収法第24条の各規定によって調整が図られており、本件では、同条の規定に基づき、本件滞納国税を請求人が本件滞納者に対して有する譲渡担保に係る債権よりも優先して徴収するものとして本件告知処分がされている。
(ロ) そうすると、請求人の当該主張は本件告知処分が違法又は不当であることをいうものであるが、請求人の有する譲渡担保に係る債権は、上記1の(4)のロのとおり本件滞納国税の法定納期限等後にその登記がなされた譲渡担保に係る債権であり、本件告知処分は、上記1の(2)のイのとおり適法になされていると認められるから、本件告知処分を違法とする理由はないし、譲渡担保権者に本件告知処分をすること自体に不当性もない。
(ハ) また、請求人の主張は、譲渡担保権者である請求人に優先弁済すべきことを理由として本件公売公告処分を違法又は不当であるというものであるが、上記(1)のとおり違法性はなく、不当性についても、本件公売公告処分は、徴収法第24条の規定によって調整を図った結果行われたものであって、請求人が優先弁済を受けられないとしても、それが法の趣旨又は目的に反するものでもないので、不当性も見当たらない。
したがって、請求人に優先弁済すべきことを理由とする請求人の主張には理由がない。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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