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(平18.7.12、裁決事例集No.72 132頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がした平成16年分の所得税の更正の請求に対して、平成17年5月27日付でされた更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)について、違法を理由にその取消しを求めた事案であり、争点は、A厚生年金基金(現A企業年金基金、以下「本件基金」という。)から受け取った一時金○○○○円(以下「本件一時金」という。)は、平成16年分の退職所得であるとして、同年分の所得税の更正の請求により、当該一時金から徴収された源泉徴収税額の還付を受けることができるか否かである。

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(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成17年9月8日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 厚生年金基金制度の概要
(イ) 厚生年金基金制度の目的は、国の年金事務を代行し、独自に上積みした老後の所得保障を行うことにあり、同基金は、制度上は公的年金を補完し、同基金を持つ企業の被用者が受け取る年金水準を引き上げる役割を付与されている。
 そして、厚生年金基金が支給する年金には、1国の老齢厚生年金制度の代行部分で、原則として老齢厚生年金と同じ設計が要求される基本年金と、2企業の退職金制度としての役割を果たす部分で、一定の要件に従う限り、独自の設計が可能な加算年金とがあり、加算年金については、年金給付を原則とするものの、一時金として受給することも認められている。
(ロ) そして、厚生年金保険法第115条《規約》第1項は、厚生年金基金は、その規約において「年金たる給付及び一時金たる給付に関する事項」(第8号)等を定めなければならない旨規定しており、第2項は、この規約の変更は、厚生労働大臣の認可を受けなければその効力を生じない旨規定している。
 この規約の変更の認可は、昭和41年9月27日付厚生省(現厚生労働省)年金局長通知における「厚生年金基金設立認可基準」の定めるところによるものとされており、それによると、受給者保護の観点から、給付水準が下がらないことを原則としているが、やむを得ず給付水準が下がる場合は、一定の要件のもとで給付水準の減額が認められることになっている。そして、年金受給者が、その希望により、当該者に係る最低積立基準額に相当する額(以下「経過措置一時金」という。)を一時金として受給できることが、その要件の1つとされている。
ロ 請求人は、B社に勤務していたが、平成7年6月30日に通算35年3か月間勤務した同社を退職し、同社から○○○○円の退職一時金が支給された。その際、源泉徴収税額として○○○○円、特別徴収税額として市町村民税○○○○円及び道府県民税○○○○円が徴収された。
ハ 請求人は、平成13年8月に請求人が加入していたB社を母体企業とする厚生年金基金であるB厚生年金基金からの年金支給が開始され、同年10月から年金を受け取っていたが、B社が平成15年○月○日にC社と合併し、A社となったことから、B厚生年金基金は、その名称を本件基金に変更した。
 なお、本件基金は、平成17年10月1日にその名称をA企業年金基金に変更した。
ニ 本件基金は、請求人に対し、平成16年7月に「経過措置のご請求について」と題する文書を送付し、経過措置の利用希望者に対し、所定の方法で請求手続を行うことを求めた。
なお、本件基金が請求人あてに発行した「給付設計の変更に伴う加算年金額のご案内」と題する文書には、請求人の受領すべき経過措置一時金は総額○○○○円になる旨記載されている。
ホ 請求人は、平成16年7月20日付で本件基金に対し、所得税法第203条に規定する「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」を、また、同日付で本件基金理事長あてに「経過措置一時金給付請求書」をそれぞれ提出した。
 なお、「経過措置一時金給付請求書」の冒頭部分には、経過措置一時金の受領により加算年金の受給権が消滅することを確認する旨の記載がある。
ヘ 本件基金は、平成16年8月25日に請求人に対し、本件一時金から源泉徴収税額○○○○円及び特別徴収税額として市町村民税○○○○円、道府県民税○○○○円を差し引いた残額○○○○円を、○○銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座に送金し、請求人は、当該金額を受領した。
ト 請求人が平成17年3月18日に原処分庁に提出した平成16年分所得税の更正の請求書に添付されている「平成7年分退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」によれば、平成7年分の請求人の退職所得に係る収入金額は○○○○円、当該所得に係る源泉徴収税額は○○○○円、当該所得に係る特別徴収税額である市町村民税は○○○○円、道府県民税は○○○○円であった。なお、当該源泉徴収票には、請求人が平成7年6月30日に退職していること及び退職所得控除額が○○○○円である旨の記載がある。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 法令解釈

イ 退職所得について
(イ) ある金員が、所得税法第30条第1項に規定する退職手当等に該当するというためには、それが、1退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、2従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、3一時金として支払われること、の各要件を備えることが必要であり、同項にいう「これらの性質を有する給与」に該当するというためには、形式的には当該要件すべてを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解される。
(ロ) そして、所得税法第31条が、同条に規定する一時金等を退職手当等とみなす旨規定している趣旨は、同法第30条に規定する退職手当等が、退職したことに基因してその退職した勤務先から一時に支給されるものであるのに対し、同法第31条に規定する各種の社会保険等の制度に基づく一時金等は、退職した勤務先以外の者から支給される点では異なるものの、給与所得者であった者が過去の勤務に基づいて支給される点や、その給付の原資も元の雇用主が払い込んだ掛金、保険料が大部分を占めていることなど、その実質が元の雇用主から支給される退職一時金と異ならないことから、同条により、各種の社会保険等の制度に基づく一時金等を退職手当等とみなし、税法上、退職所得として取り扱うことを規定しているものと解される。
なお、厚生年金保険法の規定に基づく一時金のうち、厚生年金基金等の企業年金制度等からの一時金については、すべてが退職手当等とみなされるものではなく、所得税法第31条第2号の規定により厚生年金保険法第9章の規定に基づく一時金で、加入員の退職に基因して支払われるものに限り、退職手当等とみなすこととしている。これは、厚生年金基金制度をはじめとするいわゆる企業年金等の制度においては、厚生年金基金の解散の場合等のように、退職の事実がない場合であっても一時金が支払われることがあるなど、退職所得として取り扱うことが適当ではないと考えられる一時金が含まれていることから、厚生年金基金等から受ける一時金については、加入員の退職に基因して支払われるものに限り退職所得とするものである。
(ハ) したがって、上記(イ)及び(ロ)における所得税法第30条及び同法第31条の立法趣旨等を踏まえれば、厚生年金保険法第9章の規定により定められた厚生年金基金規約に基づき、厚生年金基金から受ける一時金のうち、退職金としての性質を有している一時金、すなわち、1元の雇用主が払い込んだ掛金、保険料が給付の原資の大部分を占めているもので、かつ、2退職金規程に定められた退職金に含まれる年金制度からの一時金であるなど、給与所得者であった者が退職日以後に過去の勤務に基づいて支給される一時金で加入員の退職に基因して支払われたと認められるものは、所得税法第31条第2号に規定する上記一時金で「加入員の退職に基因して支払われるもの」に該当し、税法上、退職所得として取り扱うと解するのが相当である。
(ニ) ところで、厚生年金基金から支払われる年金のうち、上記(ハ)に該当する一時金に相当する部分(以下「一時金相当部分」という。)は、加入員、雇用主及び厚生年金基金の合意の下、一定年齢に達した際に、加入員の老後の生活の糧とするために、厚生年金基金に委託することにより、退職金の性質を持つ金員を年金という形式で雇用者であった加入員に分割して支払われるものとみることができる。そうすると、一時金相当部分については、原則、退職時において退職所得としての権利が確定しているとして課税を行うべきものとみることもできるが、所得税法は、当事者の意思及び分割され年金として支払われる支払実態などにかんがみ、同法第35条《雑所得》第2項及び第3項の規定において、同法第31条第2号に規定する法律に基づく年金は公的年金等として雑所得である旨規定し、一時金相当部分は、それが分割され年金として支払われている限りは退職所得として課税せず、年金として支払われた年分において雑所得として課税するという、年金としての課税を行うものであると解される。
(ホ) そうすると、現に厚生年金基金から、上記(ハ)に該当する一時金の一部を年金として支払を受けていた者が、自らの意思に基づき、今後年金として支払を受ける権利に代えて一時金として受け取ることを選択した場合にあっては、前述した老後の生活の糧とするために分割して受け取るという当事者の意思及び分割して年金として支払われる支払実態など、上記(ニ)に記載した年金として課税すべき考慮要素が消滅するから、当該一時金の本来の性質に基づき、退職所得として課税することが相当であると解される。
したがって、所得税法第31条第2号に規定する「加入員の退職に基因して支払われるもの」とは、上記(ハ)に該当する一時金が退職時に支払われた場合のみならず、この一時金の一部を年金として厚生年金基金から支払を受けていた年金受給者が、自らの意思により、今後年金として支払を受ける権利に代えて一時金として受け取った場合も含まれると解するのが相当である。
(ヘ) 所得税法施行令第77条の趣旨は、一の勤務先を退職することにより異なった年分に二以上の退職手当等の支払を受ける権利を有することとなる場合、これら複数の退職手当等の権利は、同一の勤務先における過去の勤務(退職)という同一の根拠に基づいて支給されるものであることにかんがみ、退職所得における税負担の軽減措置である退職所得控除の重複適用を回避し、税負担の均衡を図るという観点から、複数の退職手当等のうち最初に支払を受けるべきものの支払を受けるべき日の属する年における収入金額として同法第30条の規定を適用することにあると解される。このような同法施行令第77条の趣旨にかんがみれば、「一の勤務先を退職することにより二以上の法第30条第1項に規定する退職手当等の支払を受ける権利を有することとなる場合」には、一の勤務先から二以上の退職手当等の支払を受ける場合のほか、給与所得者であった者が、同法第30条に該当する退職手当等と同法第31条に該当する一時金との支給を受けた場合など、異なる支払者から二以上の退職手当等が支払われる場合であっても、給与所得者であった者が同一の勤務先における過去の勤務に基づいて支給されるという、一の支払者から二以上の退職手当等の支払を受けるのと同様の事情と認められる場合も含むものと解するのが相当である。
ロ 源泉徴収制度等について
(イ) 税法は、源泉徴収による所得税について、徴収・納付の義務を負う者は源泉徴収の対象となるべき所得の支払者とし(通則法第2条及び第15条)、源泉徴収による所得税の徴収・納付に不足がある場合には、税務署長は不足分を源泉徴収義務者から徴収し(所得税法第221条)、これにより不足分を徴収された源泉徴収義務者は、受給者に対し求償すべきものとしており(同法第222条)、他方、受給者は、支払者が本来、源泉徴収すべき税額を超える金額を源泉徴収した場合には、何ら特別の手続を経ることを要せず、直ちに支払者に対し、本来の債務の一部不履行を理由として、誤って徴収された金額の支払を直接に請求することができると解される。そして、源泉徴収による所得税に関し、国と法律関係を有するのは支払者のみであり、受給者と国との間に直接の法律関係が存在することは予定されていない。
 したがって、所得税法第120条《確定所得申告》第1項第5号が、所得税の確定申告において、同項第3号に掲げる算出所得税額から控除するとする「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」とは、同法の源泉徴収の規定(第四編)に基づき正当に徴収された又はされるべき所得税の額を意味するのであり、支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、受給者が、所得税の確定申告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し又は当該誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできないと解される。
(ロ) 通則法第70条は、納付すべき税額を確定するため特別の手続を要する国税、すなわち、申告納税方式による国税及び賦課決定方式による国税について、通常、税務署長等が行う租税債権の確定に係る処分、すなわち更正、決定又は賦課決定することができる権限に関する期間制限として除斥期間を定めたものであり、納付すべき税額の確定のために特別の手続を要しない国税である源泉所得税にあっては、同条の期間制限は適用されないものと解される。

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(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は、文末括弧内に記載したものである。)。
イ 本件基金は、国が行う厚生年金保険事業のうち、老齢厚生年金給付の一部の支給を代行するほか、独自の給付部分として加算年金を給付することを目的として、平成15年○月○日に設立された(平成16年10月の本件基金規約及び加算年金制度の見直しに関するご提案の各写し、平成18年2月20日のA企業年金基金の調査報告書)。
ロ 本件基金は、加入員が減少する一方で平均寿命の伸び等により受給権者が増加するなど、基金の不足金が恒常的に発生、拡大する傾向にあったことから、年金制度を維持、存続していくためには、加算年金制度の見直し(給付設計の変更)が必要となり、平成16年7月28日付で、同年8月1日からの見直しについて厚生労働大臣の認可を受けた。なお、制度見直しに当たり、年金受給者は、その希望により、経過措置一時金を受給することができる(厚生年金基金規約の一部変更の認可について、加算年金制度の見直しに関するご提案及び経過措置のご請求についての各写し)。
ハ 本件基金は、経過措置一時金について、本件基金規約の附則(平成16年8月1日施行)において、要旨次のような定めをしている(同規約の写し)。
(イ) 平成16年8月1日において、変更前の本件基金規約(以下「旧規約」という。)による年金給付の受給権を有している者のうち、加算年金に相当する部分の給付を受けている者で、平成16年8月1日現在、加算年金に相当する部分の保証期間を経過していない者等が、同月31日までに申し出た場合は、改定後の加算年金に代えて経過措置一時金の支給を受けることができる(第○条第1項)。
(ロ) 支給を申し出た場合に当該者に支給されることとなる経過措置一時金の額は、旧規約による加算部分に係る最低積立基準額とする(第○条第2項)。
ニ 本件基金は、平成15年○月○日施行の本件基金規約の附則で、同日において、現にB厚生年金基金規約による給付を受ける権利を有する者に係る給付については、同規約の定めによる(第○条第1項)旨の定めをしている(同規約の写し)。
ホ B社は、退職金規程において、要旨次のような定めをしている(同規程の写し)。
(イ) 社員の退職金は、この規程の定めるところによる(第○条)。
(ロ) 退職金は、一時金及び年金とする(第○条)。
(ハ) 年金については、B厚生年金基金規約の定めによるものとする(第○条)。
ヘ B厚生年金基金は、その年金制度について、B厚生年金基金規約において、要旨次のような定めをしている(同規約の写し)。
(イ) この基金が行う給付は、第1種退職年金、第2種退職年金及び遺族一時金とする(第○条)。
(ロ) 基本年金額は、加入員であった全期間の平均標準給与月額に一定率を乗じた額に相当する額に、加入員期間の月数を乗じて得た額とする(第○条第1項)。
(ハ) 加算年金額は、最終加算給与の月額に、加算適用加入員期間に応じ一定率を乗じて得た額に、加算適用加入員でなくなったときの年齢に応じた一定率を乗じて得た額とする(第○条第2項)。
(ニ) 第1種退職年金は、加算適用加入員期間20年以上である者が加算適用加入員でなくなったときに、その者に支給する(第○条)。
(ホ) 第1種退職年金の額は、基本年金額と加算年金額とを合算した額とする(第○条第1項)。
(ヘ) 第1種退職年金を受ける権利は、受給権者が死亡したときは消滅する(第○条)。
(ト) 第1種退職年金のうち加算年金額に相当する部分等に要する費用に充てるため、加算掛金を徴収する(第○条第1項)。
(チ) 加算掛金は、事業主が全額負担する(第○条)。
(リ) 第1種退職年金の受給権者は、当分の間、年金給付に代えて、選択一時金の支給を受けることができる(附則第○条)。
ト 経過措置一時金は、加算年金の受給権者に対して本件基金から支給される加算年金に対応する終身までの年金給付の総額に代えて支払われるものである(加算年金制度の見直しに関するご提案及び経過措置のご請求についての各写し、平成18年2月20日のA企業年金基金の調査報告書)。
チ 本件基金は、本件一時金を所得税法第30条第1項に規定する退職手当等とみなし、同法施行令第77条により、最初に退職手当等の支払を受けた平成7年の退職所得の収入金額とし、請求人から本件一時金に関し退職所得の受給に関する申告書が本件基金に提出されていたことから、既に支払済みの退職金と合算し、同年の所得税法に基づいて源泉徴収税額を再計算した上、既に源泉徴収済みの所得税との差額分○○○○円を、平成7年分の退職所得に係る源泉徴収税額であるとして、本件一時金の支払に際し、請求人から徴収した(平成18年2月20日のA企業年金基金の調査報告書、平成7年分の退職所得の源泉徴収票の写し、本件一時金に係る退職所得の受給に関する申告書の写し)。

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(3) 判断

イ 上記(2)のイないしハ及びトによれば、本件一時金は、本件基金規約に基づいて本件基金から支給される加算年金に対応する、終身までの年金給付の総額に代えて支払われたものと認められ、上記(2)のニないしヘによれば、B社の退職金は一時金及び年金とされているところ、加算年金に相当する部分の掛金は事業主であるB社がすべて負担していると認められ、さらに、上記(2)のハによれば、本件一時金は、勤務先を退職し、加算年金に相当する部分の給付を受けている者しか受け取ることができず、また、本件一時金は、請求人が自らの選択により一時金として受け取ったものであると認められる。
 そうすると、本件一時金は、所得税法第31条第2号に規定する退職手当等とみなすものとして、退職所得であると認めるのが相当である。
ロ そして、上記1の(4)のロのとおり、請求人は、平成7年6月30日にB社を退職したことに伴い、同社から○○○○円の退職一時金を受け取っており、さらに、上記1の(4)のヘ及び上記イによれば、請求人は、平成16年8月25日に本件基金から送金された所得税法第31条第2号に規定する退職手当等とみなされる本件一時金を受け取っている。
 そうすると、本件一時金は、請求人が平成7年6月30日にB社を退職したことに伴い受け取った退職一時金と同一の勤務先における過去の勤務に基づいて支給されたものであり、一の支払者から二以上の退職手当等の支払を受けるのと同様の事情であると認められるから、同法施行令第77条の規定により、請求人の退職日の属する年分である平成7年分の退職所得と認めるのが相当である。
ハ 請求人は、本件一時金は平成16年分の所得であるとして、同年分の所得税の更正の請求により、本件一時金から徴収された源泉徴収税額の一部を還付するよう求めているが、以下の理由により、更正すべき理由は認められない。
(イ) 上記ロのとおり、本件一時金は、平成7年分の退職所得であると認められ、上記1の(4)のヘによれば、本件一時金は、平成16年8月25日に本件基金から支払われたと認められる。
(ロ) また、上記1の(4)のロ及びホによれば、平成7年6月30日にB社から請求人に対し、○○○○円の退職一時金が支給され、その際、源泉徴収税額として○○○○円が徴収されていること及び請求人は、平成16年7月20日付で本件基金に対し、本件一時金に係る退職所得の受給に関する申告書を提出していることがそれぞれ認められる。
(ハ) そして、通則法第15条、所得税法第199条及び同法第201条第1項第2号の各規定並びに上記(2)のチ、上記(イ)及び(ロ)によれば、本件一時金の支払者である本件基金は、本件一時金の支払日である平成16年8月25日に、本件一時金が平成7年分の退職所得であり、請求人が本件一時金に係る退職所得の受給に関する申告書を本件基金に提出しているとして、既に支払済みの退職金と合算し、同年の所得税法に基づいて源泉徴収税額を再計算した上、既に源泉徴収済みの所得税との差額分○○○○円を平成7年分の退職所得の源泉徴収税額として請求人から徴収したことが認められる。
(ニ) そうすると、同一年分の所得及び源泉徴収税額などに基づいて当該年分の納税額を算出することとしている税法の規定からすれば、平成16年分の所得税の更正の請求により、平成7年分の所得である本件一時金を請求人の平成16年分の他の所得と合算し、本件一時金から徴収された源泉徴収税額を、請求人の同年分の他の所得に係る源泉徴収税額と合算して、同年分の申告納税額を変更することにより本件一時金から徴収された源泉徴収税額の一部の還付を受けることは、年分が異なる以上、行えないのは当然である。
ニ 請求人は、本件一時金は、厚生年金基金の加算年金制度の改正という後発的事由により支給されたもので、退職金としての性格もさることながら、改正により被る不利益に対する解決金として一時所得の性格も併せ持つものであるから、平成7年にさかのぼって課税するのではなく、平成16年分の所得として課税されるべきものである旨主張する。
 しかしながら、上記ロに記載したとおり、本件一時金は、平成7年分の退職所得として課税されるべき所得である。また、本件一時金は、本件基金規約に基づき、請求人が今後年金として支払を受ける権利に代えて支払を受けたものであり、本件基金規約等及び当審判所の調査によっても、これが改正により被る不利益に対する解決金の性質を有することを認める証拠はない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。
ホ 請求人は、本件一時金について、平成7年分にさかのぼって課税されることは、課税権の濫用であり、国税の更正、決定等の期間制限を定めた通則法第70条に違反するから、原処分を取り消すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件一時金のような退職手当等が支払われる場合は、その支払の時に源泉徴収による所得税の納税義務が成立し、かつ、当該源泉徴収による所得税は、特別な手続を要しないでその納付すべき税額が確定するところ、上記(1)のロのとおり、このような特別な手続を要しないでその納付すべき税額が確定することとなる国税にあっては、通則法第70条の規定に基づく期間制限の適用はないと解されるから、請求人の主張するような違法はない。また、そもそも平成16年分の所得税の更正の請求により、本件一時金から徴収された源泉徴収税額の一部の還付を受けることができないのは、上記ハの(ニ)のとおりである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
ヘ また、請求人は、法定保存義務年限をはるかに経過したデータに基づき、平成16年に支払われた本件一時金に対して平成7年分の所得税法を適用することは、通則法第70条の立法趣旨からして、適正公平な課税とは言い難く、違法・不当である旨主張する。
 しかしながら、税法の規定に基づく各種書類は、その保存年限を経過すれば、証拠能力が失われるものではなく、通則法第70条の規定及び同条の立法趣旨もこのことを左右するものではない。そうすると、たとえ税法の規定に基づく各種書類の保存年限を経過した書類であっても、税額の計算の基礎となるべき証拠である場合には、当該書類に基づいてした課税は何ら違法・不当ではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
ト さらに、請求人は、本件一時金と同様の一時金を受給された者のうち、現に過去の退職金の支給実績が把握できなかった者に対しては、当該一時金の支払の際に一律に20%の税率が適用されており、この点を踏まえても、本件一時金に関し、所得税法施行令第77条を機械的に適用するのは、公平な課税とは言い難い旨主張する。
しかしながら、上記(1)のイの(ヘ)の所得税法施行令第77条の趣旨からすれば、同条の主たる目的は、一の勤務先を退職することにより異なった年分に二以上の退職手当等の支払を受ける権利を有することとなった場合における税負担の均衡を図るという点にあると考えられる。そして、仮に、本件一時金と同様の一時金を同時期に受給された他者との比較において、当該一時金の受給者の退職した年分が異なることにより、当該一時金から徴収される所得税の額又は所得税の額を算出するために適用される税率が異なったとしても、それは各人ごとの事実関係に基づいて、適正・公平に所得税法第199条、第201条ないし第203条の規定を適用した結果であるにすぎず、このような差異は、法が予定した合理的なものであると解すべきである。
また、このような一時金から徴収される所得税の額又は所得税の額を算出するために適用される税率は、当該一時金の受給者に係る過去の勤務状況、過去に受け取った退職手当等の額及び当該一時金に関して当該一時金の支払日までに退職所得の受給に関する申告書を提出したか否かによっても異なるものである。
このように、前提となる事実が異なる場合などに法律の適用関係が異なる結果となることは、法が想定する範囲内であり、結果自体を取り上げて課税上の不公平であるとはいえないから、請求人の上記主張は採用できない。

(4) 以上のとおり、本件一時金が平成7年分の退職所得であるとして、原処分庁がした平成16年分の所得税の更正の請求に対して平成17年5月27日付でされた、更正をすべき理由がない旨の通知処分に違法・不当はない。

(5) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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