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(平18.11.29、裁決事例集No.72 169頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が所有していた預託金会員制ゴルフ会員権(以下「本件旧会員権」という。)に係るゴルフ場の経営会社の民事再生法に基づく再生計画に従い、請求人に預託金債権のないゴルフ場施設の優先的施設利用権のみのゴルフ会員権(以下「本件新会員権」という。)が付与されるとともに、本件旧会員権に係る預託金債権の全額が切り捨てられたことから、その後、本件新会員権を譲渡したことによる譲渡所得の金額の計算において、本件旧会員権の取得に要した金額を所得税法第33条《譲渡所得》第3項に規定する総収入金額から控除される「取得費」に該当するとして申告したところ、原処分庁が、本件旧会員権の取得に要した費用は、本件新会員権の譲渡所得の計算上、同項に規定する「取得費」に該当しないとして所得税の更正処分を行ったのに対し、請求人が、本件旧会員権の取得に要した金額から再生計画により切り捨てられた預託金相当額を差し引いた価額を本件新会員権の取得に要した費用として譲渡所得の金額を計算すべきであるとして同処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年分の所得税の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この申告に係る申告書を「本件申告書」という。)。

項目 確定申告 更正処分等
総所得金額 ○○○○円 ○○○○円
内訳 給与所得の金額 ○○○○円 ○○○○円
雑所得の金額 ○○○○円 ○○○○円
譲渡所得の金額 ○○○○円 ○○○○円
分離株式譲渡所得金額 ○○○○円 ○○○○円
納付すべき税額 ○○○○円 ○○○○円
過少申告加算税の額   ○○○○円

ロ 原処分庁は、これに対し、平成17年6月29日付で上記イの表の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、本件更正処分及び当該賦課決定処分を不服として、平成17年8月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月10日付で本件更正処分については棄却の異議決定をし、当該賦課決定処分についてはその全部を取り消す異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分に不服があるとして、平成17年12月8日に審査請求をした。

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(3) 関係法令等

イ 所得税法第33条第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定し、同条第3項及び第4項は、譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額500,000円(譲渡益が500,000円に満たない場合には、当該譲渡益)を控除した金額とする旨規定している。また、所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めのあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
ロ 所得税法第69条《損益通算》第1項は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、所得税法施行令第198条《損益通算の順序》で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する旨規定している。
ハ 「個人所有の預託金制ゴルフ会員権を巡る課税上の問題について(情報)」(平成15年7月4日付国税庁資産課税課情報第13号。以下「本件情報」という。)には、民事再生法による再生計画により、預託金債権が切り捨てられた場合について、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 個人所有の預託金制ゴルフ会員権(以下「預託金会員制ゴルフ会員権」という。)が移転した場合、その損失は損益通算の対象となるのか、等の問題があり、これまで事例の発生に応じて整理してきたが、ゴルフ場の再建の観点から新たな方策が採られていることから、改めて全体を整理しておく必要がある。
(ロ) 預託金会員制ゴルフ会員権とは、契約上の地位であり、優先的施設利用権と預託金返還請求権をその内容とする譲渡所得の基因となる資産である。このため、預託金会員制ゴルフ会員権を巡る種々の方策の判定に当たってのメルクマールは、そのゴルフ会員権は預託金会員制ゴルフ会員権としての性質を有しているのか(維持しているのか)、という点を基本として行う。
(ハ) 民事再生法、会社更生法及び商法の会社整理(以下「民事再生法等」という。)による再生計画、更生計画及び整理計画(以下「再生計画等」という。)に基づき、預託金債権を切り捨てた上、ゴルフ場経営会社は経営を存続するという再建型処理では、従来の契約の解除・新契約の締結という認識を行わないと整理し、単に契約内容の変更があったにすぎないとして、預託金会員制ゴルフ会員権としての性質を維持するというものであり、切り捨てられたゴルフ会員権の損失の金額は認識せず、取得価額も減額(付け替え)しない。
 ただし、再生計画等の中で預託金債権を100%切り捨てた上、優先的施設利用権だけが継続するという再建型処理については、預託金債権を100%切り捨てることによって、その後そのゴルフクラブを退会した場合でも、もはや預託金返還請求権を行使することができないことから、切捨て後のゴルフ会員権は、優先的施設利用権と預託金返還請求権を内容とする契約上の地位という性質を維持しているとはいえない。このため、その預託金会員制ゴルフ会員権の取得価額と優先的施設利用権だけのゴルフ会員権の時価相当額との差額は、家事上の損失として切り捨てられ、その損失は各種所得の金額の計算上考慮されないことになる。なお、優先的施設利用権だけのゴルフ会員権の時価相当額については、事実認定の問題である。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成元年6月19日に、A社(以下「本件債務者」という。)が経営するBカントリークラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)の本件旧会員権をC社から3,213,000円(この金額には預託金1,000,000円が含まれている。以下、この預託金を「本件預託金」という。)で購入した。
 なお、その際に、請求人は、本件債務者に対し、名義書換料として412,000円を支払った。
ロ 請求人は、平成16年7月20日付でD社に請求人の所有する本件新会員権を譲渡した(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)。同社が発行したゴルフ会員権取引計算書には、要旨次の記載がある。
コース名Bカントリークラブ個人会員権平日会員
(イ)○○○○円
(ロ)取引手数料−30,000円
(ハ)年会費平成16年08月〜平成17年01月       6,830円
(ニ) 合計                    ○○○○円
ハ 請求人が原処分庁に本件申告書と併せて提出した譲渡所得の内訳書(計算明細書:ゴルフ会員権用)には、要旨次の記載がある。
(イ) 譲渡したゴルフ会員権 Bカントリークラブ
(ロ) 会員権の形態     預り金形態
(ハ) 会員権の種類     個人平日会員
(ニ) 譲渡先        D社
(ホ) 譲渡年月日      平成16年7月20日
(ヘ) 譲渡価額        ○○○○円
(ト) 仲介手数料        30,000円
(チ) 取得時期       平成元年6月19日
(リ) 取得先        C社
(ヌ) 取得価額       3,625,000円
(ル) (ヌ)のうち名義書換料  412,000円
(ヲ) (ヌ)のうち仲介手数料   63,000円
(ワ) 譲渡所得金額      ○○○○円

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件更正処分は、次の理由により適法に行われているから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 預託金会員制のゴルフクラブの会員権は、会員契約に基づく契約上の地位であり、優先的施設利用権と預託金返還請求権をその本質的内容とする資産であると解されるところ、本件新会員権は本件ゴルフ場に係る優先的施設利用権は有するものの、預託金返還請求権は有しないことからすれば、本件旧会員権の性質を維持しているということはできない。
 したがって、本件譲渡に係る取得費の金額の計算上、本件旧会員権の取得価額と本件新会員権の時価相当額との差額は、本件譲渡に係る取得費とは認められない。
 なお、所得税法上、上記の差額は、いわゆる家事上の損失に当たるものと解されるから、他の所得の金額の計算上、当該損失を控除することもできない。

(2) 請求人

 以下の理由により、本件旧会員権の取得費3,625,000円から本件債務者の民事再生法に基づく再生計画により切り捨てられた本件預託金1,000,000円を減額した金額2,625,000円を取得費として認め、損益通算すべきであるから、本件更正処分の一部の取消しを求める。
イ 預託金会員制のゴルフクラブの預託金債権が99%切り捨てられた場合と、100%切り捨てられた場合とで不条理な差が生じ、課税の公平を損なっている。
ロ 請求人が、再生計画において預託金債権を100%切り捨てることに合意したとしても、それは会員権取得時の契約内容が変更されたものであり、当初の契約が消滅したものではない。
ハ 本件更正処分の基となった本件情報の全体を通してみれば、預託金債権が一部カットされた場合、当初の取得価額をそのまま引き継ぐ取扱いとされており、その取扱いは売却時の資産に含まれていなかった部分(カットされた部分)まで取得費を認めるという瑕疵があり、上記イで述べた不公平さが増幅されている。

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3 判断

 請求人が本件新会員権の譲渡による譲渡所得の金額を算出するに当たって、本件旧会員権を取得するために要した金額から本件預託金相当額を減額した金額が所得税法第33条第3項に規定する総収入金額から控除される「取得費」に該当するか否かに争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1) 認定事実

イ 本件旧会員権は、預託金会員制ゴルフ会員権である。
ロ 本件債務者の商業登記簿に記録されている閉鎖事項全部証明書の「民事再生」欄には、次の記載がある。
(イ) 平成13年6月○日午後○時E地方裁判所の再生手続開始
 平成13年7月2日登記
(ロ) 平成14年4月○日E地方裁判所の再生計画認可決定確定
平成14年4月12日登記
ハ 本件債務者は、E地方裁判所に対し、平成13年12月○日付で民事再生法に基づく再生計画案を提出し、同裁判所は、平成14年3月○日、当該再生計画案の認可決定をした(以下、この認可決定された再生計画を「本件再生計画」という。)。本件再生計画には、要旨次の記載がある。
(イ) 本件債務者は、自力再建を目指していたが、必ずしも法律的に確実な資金の注入方法が見いだせない状況の下、中期的には、運転資金の確保についても、確実な見通しが得られない状態に至った。本件債務者の株主兼代表者であったGは、本件ゴルフ場の会員のプレー権保護が最重要課題であることから、自力再生を断念し、平成13年10月○日、F社との間で、1Gらはその所有する本件債務者の株式をF社の指定するH社に全株譲渡すること、2GらはF社に本件債務者及び本件債務者の会員保護を完全に委ねること、3F社は本件ゴルフ場の維持・管理、会員のプレー権の保全を約束することの内容で合意し、履行された。
(ロ) 再生計画案の認可決定が確定した後は、現在発行されている株式を100%減資し、第三者割当て増資をF社の指定するJ社が引き受ける。その結果、J社が本件債務者の100%の株式を保有することになる。
 また、本件ゴルフ場の運営は、本件債務者とF社が100%出資するゴルフ場運営会社であるK社との間で業務委託契約を締結し、同社が行う。
(ハ) 本件ゴルフ場の会員資格の保有者は、本件債務者に対し、退会の意思表示を再生計画案の認可決定の日から60日以内(以下「本件退会意思表示期間」という。)に行うことにより退会することができる。また、上記期間内に退会の意思表示を行わないことにより、会員資格を維持することができる。
 退会する会員は、再生計画案の認可決定確定の日から3か月以内に預託金債権の元本の5%の配当を受ける。
 退会の意思表示を行わない会員は、預託金債権を100%カットさせていただくが、本件ゴルフ場でのプレー権を保証すると同時に、市場での売買が可能な権利として、本件旧会員権の会員券と引換えに本件退会意思表示期間の経過後可及的速やかに預託金額面のない会員券を発行する。ただし、未払の年会費が存在する場合には、その支払とも同時履行関係とする。
(ニ) 本件退会意思表示期間に本件債務者に対し退会する旨の意思表示を行わなかった預託金返還請求権を有する債権者(会員)については、元本の全額の免除を受ける。
ニ 請求人は、退会の意思表示を行わず、引き続き会員となることを選択した。
ホ 原処分庁は、本件更正処分に当たり、本件譲渡について、譲渡価額を○○○○円、取得費を60,000円、譲渡費用を30,000円とし、譲渡損失の金額を○○○○円と算出した。
 なお、原処分庁は、平成14年4月から同年6月の間における本件ゴルフ場の会員権(個人・正会員及び個人・平日会員)の取引価額のうち最も高額な60,000円を本件新会員権の取得価額と認定した。

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(2) 法令解釈等

 イ 譲渡所得について、所得税法第33条第1項は、上記1の(3)のイのとおり、資産の譲渡による所得をいう旨規定しており、ここでいう「資産の譲渡による所得」に対する課税は、資産の値上がりにより当該資産の所有者に帰属する増加益を所得として、当該資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであると解される。また、譲渡所得の金額について、所得税法第33条第3項は、上記1の(3)のイのとおり、譲渡所得の収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費等を控除する旨規定している。
 これらの規定の内容及び趣旨からすれば、資産の譲渡による譲渡所得の計算に当たっては、その譲渡時点と取得時点で資産の同質性が維持されている必要があり、譲渡所得の金額の計算上控除されるべき取得費、すなわち当該所得の基因となった資産の取得に要した金額とは、特段の定めがない限り、譲渡資産と同質性が維持された資産の取得に要した金額をいうものと解される。
ロ 預託金会員制ゴルフ会員権は、当該ゴルフクラブの会員となる者が当該ゴルフ場の経営会社に入会保証金を預託し、かつ、当該ゴルフクラブと入会契約を締結することによって生ずるもので、1当該ゴルフ場施設を一般の利用者に比し有利な条件で継続的に利用できる権利である優先的施設利用権、2預託金返還請求権及び3年会費納入等の義務からなる契約上の地位を総称するものと解される。
ハ したがって、預託金会員制ゴルフ会員権の取得に要した金額が、その後のゴルフ会員権の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上取得費として控除されるには、取得時点における預託金会員制ゴルフ会員権としての契約上の地位の性質が、譲渡時点において維持されている必要があると解される。
ニ ところで、本件情報は、上記1の(3)のハのとおり、民事再生法等による再生計画等により、預託金債権の一部が切り捨てられた場合には、従来の契約の解除・新契約の締結という認識を行わず、単に契約内容の変更があったにすぎないとして整理し、切り捨てられた損失の金額は認識せず、取得価額も減額(付け替え)しないとしている。これは、預託金債権の一部が切り捨てられたにとどまる場合には、預託金会員制ゴルフ会員権としての性質(優先的施設利用権と預託金返還請求権を内容とする契約上の地位)を維持していることから、預託金会員制ゴルフ会員権としての性質は変容していないとした上で、その切り捨てられた損失は家事上の損失であって、その損失の金額を当該預託金会員制ゴルフ会員権の取得価額において調整する所得税法上の規定はないことから、取得価額を減額(付け替え)しないこととしたものと解される。
 また、本件情報は、預託金債権の全額が切り捨てられた場合には、その切捨て後のゴルフ会員権は、優先的施設利用権と預託金返還請求権を内容とする契約上の地位という性質を維持しているとはいえないため、その預託金会員制ゴルフ会員権の取得価額と預託金債権を切捨て後の優先的施設利用権だけのゴルフ会員権の時価相当額との差額は、家事上の損失として各種所得の金額の計算上考慮されないとしている。これは、預託金債権の全額が切り捨てられた後も従来と同様の優先的施設利用権が認められる場合でも、譲渡所得の課税上、預託金会員制ゴルフ会員権の内容の一つである預託金返還請求権が消滅することにより、契約上の地位(資産)としての性質に変容があったもの、すなわち、「優先的施設利用権及び預託金返還請求権」で構成される契約上の地位が、「優先的施設利用権」で構成される新たな契約上の地位に変更されたものと解される。そうすると、取得価額に関しては、契約上の地位としての性質の変容により、「優先的施設利用権」を内容とする新たな契約上の地位を取得することになるから、その新たな契約上の地位の取得価額はその時点での価額(時価)となると解される。一方、変更前の契約上の地位の取得価額を新たな契約上の地位に引き継ぐ旨の所得税法上の規定はないことから、その新たな契約上の地位の取得価額相当額まで、家事上の損失として切り捨てられることとなると解される。
 そうすると、本件情報の内容は、譲渡所得課税及び取得費等の控除の趣旨並びに預託金会員制ゴルフ会員権の預託金の切捨ての法的効果に照らして合理性があり、当審判所においても相当と認められる。

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(3) 本件更正処分について

 イ 本件旧会員権と本件新会員権
(イ) 本件旧会員権は、上記1の(4)のイ及び上記(1)のイのとおり、優先的施設利用権及び預託金1,000,000円の返還請求権を有する預託金会員制ゴルフ会員権であり、一方、本件新会員権は、上記(1)のハの(ハ)及びニのとおり、請求人が本件再生計画に基づき、本件債務者に退会の意思表示をしなかったことにより、預託金返還請求権の元本全額を切り捨てられて取得したものであることから、その内容はゴルフ場施設の優先的施設利用権のみで預託金返還請求権のないゴルフ会員権である。
(ロ) そうすると、本件新会員権における契約上の地位(資産)は、本件旧会員権における預託金返還請求権を失ったことにより、これを要素とする契約上の地位(資産)としての同一性を失っているので、本件旧会員権と本件新会員権は、契約上の地位としての性質が変容した別個の資産というべきである。
ロ 本件新会員権の取得費
(イ) 上記イのとおり、本件新会員権と本件旧会員権は別個の資産である。
 そうすると、上記(2)のとおり、譲渡所得の金額の計算上控除されるべき取得費は、取得時点での性質が譲渡時点まで維持された資産に係る取得に要した金額をいうところ、本件譲渡に係る本件新会員権と本件旧会員権は同一性がないから、本件新会員権の譲渡所得の金額の計算上、本件旧会員権の取得費を引き継いで計算することはできない。
(ロ) また、本件新会員権の取得に当たって支払った費用等もないことから、本件新会員権の取得価額は、その取得時の時価相当額とするのが相当である。
 原処分庁は、本件新会員権の取得価額を60,000円と認定しているが、この価額は、上記(1)のホのとおり、正会員及び平日会員の種別を考慮せずに平成14年4月から同年6月の間における取引価額の中で最も高額な価額を採ったものであり、本件新会員権の時価相当額の算定方法としては適切ではない。そこで、当審判所が調査を行ったところ、本件退会意思表示期間の経過後の日から平成14年12月までの間における本件ゴルフ場の個人・平日会員のゴルフ会員権の売買事例が8件認められ、その売買価額が10,000円(5件)、20,000円(2件)及び30,000円(1件)であることから、本件新会員権の時価相当額は、その平均価額である15,000円とするのが相当である。
(ハ) したがって、本件新会員権の譲渡所得の計算上、総収入金額から控除される取得費は、15,000円が相当と認められる。
ハ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、預託金会員制のゴルフクラブの経営会社の再生計画時に、預託金債権が99%切り捨てられた場合と、100%切り捨てられた場合とで不条理な差が生じ、課税の公平を損なっている旨、また、本件情報の全体を通してみれば、預託金債権が一部カットされた場合、当初の取得価額をそのまま引き継ぐ取扱いとされており、その取扱いは売却時の資産に含まれていなかった部分(カットされた部分)についてまで取得費を認めるという瑕疵があり、上記の不公平さが増幅されている旨主張する。
 しかしながら、譲渡所得の課税の趣旨及び預託金会員制ゴルフ会員権の法的性質は上記(2)のイないしハのとおりであり、また、本件情報の内容は上記(2)のニのとおり相当と解されるから、本件と課税上の取扱いが異なることとなったとしてもそれは法形式の差異から生じたやむを得ないことである。請求人が主張するのは、本件のように預託金返還請求権を失っている事例と預託金返還請求権を行使しても得られる金額が僅少で事実上零に近い事例との取扱いの差異であるが、預託金返還請求権が零か僅少であるという事実上の類似点を理由として同一に扱わなければならないというものではなく、法形式の違いに応じて異なった取扱いをしても公平を損なうものとはいえない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、本件再生計画時に預託金債権を100%切り捨てることに合意したとしても、それは本件旧会員権の取得時の契約内容が変更されたものであり、当初の契約が消滅したものではない旨主張する。
 しかしながら、本件旧会員権に係る契約が消滅した又は変更したのかを判断するまでもなく、上記イのとおり、預託金債権の全額が切り捨てられた場合、本件新会員権の「優先的施設利用権」を要素とする契約上の地位は、本件旧会員権における「預託金返還請求権」を失っており、これをも要素としていた本件旧会員権の契約上の地位とは同一性が認められないことから、本件新会員権と本件旧会員権は譲渡所得の課税上別個の資産と解するほかない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ニ 所得金額等について
 本件新会員権の取得費を15,000円として、本件譲渡に係る譲渡所得の金額を計算すると、当該金額は○○○○円となり、原処分庁の本件更正処分による本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額○○○○円は、当審判所が認定した譲渡所得の金額を下回ることから、本件更正処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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