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(平18.12.13、裁決事例集No.72 203頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得区分に誤りがあるとして、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項に基づき、更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対して、請求人がその取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成17年12月21日に審査請求をしたが、それに至る経緯は別表記載のとおりである。

(3) 関係法令等(要旨)

 別紙記載のとおりである。

(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等(以下「争いのない事実等」という。)

イ 平成14年6月30日現在、請求人は、A社に籍を有する従業員であり、勤務先は、C社であった。
ロ 平成14年7月1日付で、A社は、B社と合併し、B社が存続会社となった。
ハ 平成15年1月1日付で、請求人は、B社から勤務先であるC社に転籍した。
ニ 平成16年6月1日より、C社が新たな確定拠出年金制度を施行するにあたり、請求人は「DC・前払い選択申請書」という表題の書面(以下「本件選択申請書」という。)を平成16年5月21日ころC社に提出し、適格退職年金制度から移行する際の持分を確定拠出年金制度へ移換せずに現金で受け取ることを選択した。
ホ 請求人は、C社から平成16年7月15日付の「新退職金制度移行にともなう持分分配額確定のお知らせ」という表題の書面(以下「本件お知らせ」という。)を受け取った。本件お知らせには、請求人の持分額は○○○○円(以下「本件分配確定額」という。)で、適格退職年金からの分配額が○○○○円(以下「本件一時金」という。)、C社からの支給額が○○○○円(以下「本件持分差額」という。)となり、本件持分差額については7月給与支給時に一時金として支給する旨記載されている。
ヘ 平成16年7月20日、請求人は、D信託銀行に対し「年金信託財産最終計算承認書」という表題の書面を提出し、平成16年7月22日、本件一時金○○○○円が、D信託銀行から請求人名義の銀行口座へ振り込まれた。
ト 平成16年7月23日、請求人に対する7月給与支給時に、本件持分差額○○○○円が、C社から請求人に支払われた。
チ 平成17年3月3日、請求人は、本件分配確定額○○○○円を一時所得に係る総収入金額、一時所得の金額は、所得税法第22条《課税標準》第2項第2号に規定する2分の1に相当する○○○○円とする平成16年分の所得税の確定申告を行った。
リ 平成17年4月13日、請求人は、本件分配確定額が退職手当等の収入金額に当たるとして、一時所得及び退職所得の金額をそれぞれ零円として平成16年分の所得税の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたが、原処分庁は、これに対し、平成17年8月8日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
請求人は、この処分を不服として、平成17年9月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成17年11月22日付で異議申立てを棄却する旨の異議決定(以下「本件異議決定」という。)をした。
なお、異議決定書において、本件持分差額については、給与所得となる旨の記載がある。

(5) 争点

イ D信託銀行から請求人に支払われた本件一時金は退職所得に当たるか。
ロ C社から請求人に支払われた本件持分差額は一時所得に当たるか。

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2 主張

(1) 争点イ(本件一時金の所得区分)

イ 請求人
次のとおり、本件一時金は退職所得に当たる。
(イ) 所得税基本通達30−2《引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの》の(1)の定めは、内部積立方式による退職一時金制度を改廃した場合とは示されておらず、適格退職年金制度を改廃したことによって引き続き勤務する従業員に対して支払われた本件一時金の取扱いにも同通達を適用すべきである。
 したがって、本件一時金は、所得税法第30条《退職所得》第1項の規定及び所得税基本通達30−2の(1)の定めから、退職所得に当たる。
(ロ) 転籍とは、請求人がB社との雇用関係を解消し、C社との新たな雇用契約を結ぶということである。そして、A社の適格退職年金はC社へ継続されず、本件一時金は、B社からの退職に基因して支払われたものである。
したがって、本件一時金は、所得税法第31条《退職手当等とみなす一時金》第3号の規定から、退職所得に当たる。
(ハ) また、過去の勤務期間が継続できない退職金前払い制度の選択は、勤務期間の通算の優遇措置を代償するものであり、以後、優遇措置はなくなることから本件一時金の受給は、退職所得に当たる。
ロ 原処分庁
次のとおり、本件一時金は退職所得に当たらない。
(イ) 本件一時金は、C社に勤務する請求人が、退職金制度移行に際しC社より示された支給制度のうち退職金前払い制度を選択したことにより、移行前の適格退職年金制度に基づき、適格退職年金契約に係る信託業務を行うD信託銀行から持分の分配として支給されたものであり、使用者であるC社から支給されたものではなく、給与としての性質を有していない。
 したがって、所得税法第30条第1項の規定及び所得税基本通達30−2の定めの適用は認められない。
(ロ) 所得税法第31条第3号及び所得税法施行令第72条《退職手当等とみなす一時金》第2項第4号は、適格退職年金契約に基づく一時金については、勤務をした者の退職に基因して支払われたものを退職手当等とみなし、所得税基本通達31−1《厚生年金基金等から支払われる一時金》は、加入者の退職により支払われるものその他これに類する一時金として政令で定めるものとして同通達の(3)において、適格退職年金契約に基づいて支払われる退職一時金のうち適格退職年金契約の加入員に対し別紙「関係法令等(要旨)」の9(1)から(4)に掲げる退職に準じた事実が発生した場合に退職所得とみなす一時金と定めているところ、本件一時金の支払に当たって退職に準じた事実の発生はなかった。
(ハ) 請求人は、C社への転籍後も適格退職年金制度を継続しており、C社が適格退職年金制度から新たな確定拠出年金制度へ移行するに当たり、退職金前払い制度又は確定拠出年金制度のいずれかの選択が認められた状況において、法令上も資金の引継ぎや退職所得控除の計算に当たっての勤務期間の通算等所要の措置が講じられた確定拠出年金制度への移行を選択せず、退職金前払い制度を選択したことにより支払われた本件一時金までも「勤務をした者の退職により支払われるもの」と解することはできない。
したがって、所得税法第31条第3号、同法施行令第72条第2項第4号及び所得税基本通達31−1の(3)の適用は認められない。

(2) 争点ロ(本件持分差額の所得区分)

イ 請求人
請求人が、C社から支給された本件持分差額については、支給時にC社から一時所得として申告するよう指導があり、また、平成16年分の所得税確定申告の際にも税務署から給与所得に当たる旨の指摘がなかったにもかかわらず、本件異議決定において給与所得と判断されたことは納得がいかない。
ロ 原処分庁
本件持分差額は、C社が適格退職年金制度の廃止に伴い年金資産について生じた不足額(過去勤務債務)を一括拠出した後に算出された適格退職年金制度の分配額と、新たに採用する確定拠出年金制度へ移行することを前提に制度移行時に算出された各人持分との差額を労使協議に基づいて支給したものである。
したがって、請求人が受領した本件持分差額は、退職所得とは認められず、更に、その支給は労使協議に基づき支払われたものであり、支払者のC社と請求人との間には雇用関係が存在し過去の勤務の調整として対価性が認められるため、給与所得である。
 また、原処分において、本件持分差額を給与所得としてはおらず、異議決定に不服がある場合は、異議決定を経た後の原処分について審査請求をするのであって、異議決定に対して審査請求をすることはできない。

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3 判断

(1) 争点イ(本件一時金の所得区分)

イ 退職所得
退職所得とは、所得税法第30条第1項の規定により、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいうものとされる。この退職手当等とは、退職したことに基因して一時に支払われることになった給与等をいうものとされているから、退職に際し又は退職後に使用者から支払われる給与等と解するのが相当である。
 また、各種社会保障に基づく年金制度等において、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金で、勤務した者の退職により支払われるものは、その原資は使用者である企業等からの拠出金によって賄われていることから、所得税法第31条第3号の規定により、退職手当等とみなすこととされている。
 そして、退職金制度には、1所得税法第30条第1項に規定する内部積立方式による退職一時金制度及び2同法第31条第3号に規定する外部拠出方式による厚生年金基金制度や適格退職年金制度等がある。
ロ 適格退職年金制度
適格退職年金制度は、厚生年金基金制度と並ぶ企業年金制度で、年金原資を金融機関等の外部機関に積み立てるなど、法人税法施行令附則第16条《適格退職年金契約の要件等》の規定に基づき実施する年金制度である。当該年金制度は、退職年金の支給を目的としているが、退職年金に代えて退職一時金等により給付することも認められている。
 なお、所得税第31条第3号に規定する退職手当等とみなす一時金については、昭和62年の税法改正で、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金は、「その一時金が支給される基因となった勤務をした者の退職により支払われるもの」に限り、退職所得とする旨の改定が行われ、それ以外の一時金は、同法第34条《一時所得》並びに同法施行令第183条《生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》第2項及び第3項第3号の規定により一時所得に該当することになった。
ハ そこで、これを本件についてみるに、上記1(4)争いのない事実等に加え、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 平成14年12月13日付のB社、C社及びA労働組合との協定書(C社への転籍に関する協定)には、転籍者の労働条件のうち、退職金制度は、C社として新制度導入までの間、旧A社の退職金制度を継続し、平成15年中を目処にB社の新退職年金制度に遜色のない新制度の導入を目指す旨の記載があり、また、C社への転籍に関する同意書によると、同月16日付で、請求人は、平成15年1月1日付でC社へ転籍することの転籍条件等の確認を行い、転籍することに同意した。
(ロ) 平成15年1月1日施行のC社の退職慰労金規定には、B社より移籍した従業員については、移籍前の会社での勤務年数を通算する旨、また、同日施行のC社の退職年金規約(B社から転籍した者に係るもの)には、C社は、適格退職年金契約(以下「本件年金契約」という。)をD信託銀行との間で締結し、年金信託を設定すること、同施行日付で、B社からC社に転籍し、引続きC社社員となった者のうち転籍前にB社の適格退職年金制度の加入者であった者については、C社の適格退職年金制度へ加入し、関連会社B社の勤続年数を通算すること、C社は、B社から転籍者に係る受管額の交付を受け、これを退職年金制度の過去勤務債務等の掛金として直ちに払込む旨の定めがある。C社は、同退職年金規約の定めに基づき本件年金契約を締結し、適格退職年金の承認を受けるとともに、転籍者に係る適格退職年金制度の年金資産をD信託銀行に移換した。
(ハ) 新制度を導入した平成16年6月1日施行のC社の退職金規定には、社員は、本人の希望に基づき退職金前払い制度の適用者又は確定拠出年金制度(企業型)の加入者となることを選択することとし、退職金前払い制度を選択した者は、適格退職年金制度の年金資産については、個人別持分で按分して分配金を算出し、D信託銀行が同分配金を個人宛に分配する旨、また、同日に施行のC社の企業型年金規約には、D信託銀行及び○○信託銀行は、C社の適格退職年金契約の全部を解除することによりC社に返還される資産の移換を受けるものとし、資産の移換を受けた場合は、移換対象者のC社が実施する適格退職年金の受益者等であった期間を、通算加入者等期間に算入するものとする旨の定めがある。
ニ 以上の各事実に基づき、本件一時金の所得区分について判断する。
(イ) 請求人が本件一時金を受領するまでの経過は、上記1(4)争いのない事実等のイからヘのとおりであるが、C社が設けた適格退職年金制度から確定拠出年金制度への移換規定によると、適格退職年金契約の解約による分配金について、退職金前払い制度を選択した場合、各被保険者には、同人の適格退職年金制度の個人別年金資産から分配されることになっており、本件一時金を含む分配金(以下「本件分配金」という。)が個人別持分割合に応じて各従業員に支払われたことが認められる。このことは、C社作成の各種書類の記載内容及び本件分配金が本件選択申請書を提出した各従業員に支払われていることからも明らかである。
 この点について、請求人は、上記2(1)イ(イ)のとおり、所得税基本通達30−2の(1)の定めの適用を主張するが、本件一時金は外部拠出型の退職金制度から支払われたものであるため給与としての性質を有しておらず、所得税法第30条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」に当たらないので、同通達の適用はなく、退職所得とは取り扱われないと解されることから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、上記2(1)イ(ロ)のとおり、本件一時金は、B社からの退職に基因して支払われたものであるから退職所得に当たる旨主張する。
 この点について、C社は、上記ハ(ロ)のとおり、転籍前にB社の適格退職年金制度の加入者であった者については、関連会社B社の勤続年数を通算すると定め、転籍者に係る同制度の年金資産をD信託銀行に移換していることから、請求人には、転籍によるB社との雇用関係の解消は認められるが、B社の同制度に基づいて支給を受ける一時金の受給権は発生せず、転籍後は、転籍先のC社の同制度が適用されることとなったことが認められる。
 したがって、本件一時金は、C社の退職年金規約(B社から転籍した者に係るもの)に基づく本件年金契約の解約により支払われたものであり、転籍によるB社との雇用関係の解消に基因して支払われたものではないから、退職所得には当たらない。
(ハ) さらに、請求人は、上記2(1)イ(ハ)のとおり、退職金前払い制度の選択により、過去の勤務期間の通算の優遇措置はなくなることから退職所得に当たる旨主張する。
 しかしながら、本件一時金は、本件年金契約の解約に基づく分配金が退職金前払い制度を選択したことにより支払われたものであり、退職所得に当たらないから、請求人の主張には理由がない。
(ニ) 以上のとおり、本件分配金のうち、請求人に支給された本件一時金は、請求人の退職により支給された分配金ではないから、所得税法第30条第1項及び同法第31条第3号の規定には当たらず、本件年金契約の解約に伴い、D信託銀行から支払を受けたものであるから、同法第34条並びに同法施行令第183条第2項及び第3項第3号の規定により一時所得に当たる。

(2) 争点ロ(本件持分差額の所得区分)

 審査請求は、異議決定を経た後の原処分についてなお不服がある場合になされるものであって、通則法第76条《不服申立てができない処分》第1号の規定により、異議決定に対し審査請求をすることはできない。

(3) 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分は適法である。

また、上記(2)のとおり、異議決定に対する審査請求は不適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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