別紙2

当事者双方の主張

審査請求人 原処分庁
 次の理由から、本件払戻金は、死亡退職金と同様、所得税を課税せずに相続税のみを課税すべき相続財産として取り扱われるべきであるから、本件各納税告知処分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める。
(1) 相続税法及び相続税法基本通達において、被相続人の死亡後3年以内に支払われる死亡退職金、死亡後に支払われる賞与、死亡後に支給期の到来する給与は、すべて所得税を課税せず相続税のみを課税することとしている。
 この取扱いの趣旨は、死亡後に支払われる財産については、所得税と相続税の二重課税を避け、税法体系に理論性を与えるという根拠に基づく。
 しかるに、組合法に基づき、死亡した組合員が死亡後に支払を受ける事業協同組合の組合員持分払戻金(以下「持分払戻金」という。)について、所得税と相続税の双方の課税を受けることは、税法体系の上から理論性に欠ける取扱いであるから、持分払戻金についても所得税を課税せず、みなし相続財産ないし本来の相続財産として取り扱うべきである。
(2) 事業協同組合の組合員は、組合法の規定に基づき、死亡によって組合を脱退し、その持分払戻金は、脱退した日の属する事業年度終了の日における組合財産を基に定款の定めるところにより計算され、その事業年度の決算承認を行う通常総会において決定される。
 一方、死亡した組合員の死亡した年分に係る所得税の確定申告(以下「準確定申告」という。)は、所得税法第125条第1項の規定により、その相続人が、その相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに行わなければならないとされているが、一般に、持分払戻金の額は、準確定申告の申告期限までに決定されない。したがって、準確定申告においては、持分払戻金の額を見積額により計上し、確定時に修正することになるが、このような準確定申告は、所得税が課税される範囲と本来の相続財産の範囲を区分した相続税法の趣旨から肯定できない。
 また、原処分庁は、組合員の死亡後1年を経過した日において、持分払戻金の支払があったものとみなされ、この日に源泉徴収義務が成立するとしているが、通常の場合、死亡後1年を経過した時点では決算承認を行う通常総会が終了せず、持分払戻金の額も決定していないため源泉所得税の計算をすることができず、実務的に対応できる論理ではない。被相続人の死亡前に確定する所得は所得税の課税対象であるが、死亡後、しかも、準確定申告期限が過ぎた後に確定する財産に対してまでも所得税を課し、その残余財産にさらに相続税を課税するという課税体系は、納税者にとって納得できる課税体系ではない。
(3) 原処分の根拠となった神戸地裁平成4年12月25日判決(平成3年(行ウ)第14号。以下、この判決を「本件判決」という。)は、合資会社におけるみなし配当の支払に関する判決である。
 死亡組合員の持分払戻金の払戻しと、本件判決に示される合資会社における社員持分の払戻しとは、次の点で性格を異にする。
 すなわち、合資会社における社員持分は何時にても配分可能な財産であるのに対し、死亡組合員の持分払戻金は、組合法に基づき法定脱退事由である死亡により、脱退した事業年度末における組合財産により計算される。さらに、本件判決の判決文において、死亡退職金は退職金支給規程により「受給者固有の財産」であり「直接相続人に帰属する財産である」から、所得税は課税しないのであると論じているが、これは退職金支給規程が確実に存在し、しかもその規程に死亡退職金の受給者の指定があることを前提とする意見であって、到底一般に肯定できる理論ではない。それならば、「被相続人の死亡後に確定する賞与」及び「相続開始時において支給期の到来しない給与」についても、所得税を課税せず、本来の相続財産とする取扱いはいかなる理由によるのであるか。死亡退職金を所得税の対象としないのは、あくまで二重課税を排除し、税法体系の明瞭性を確保するための措置にほかならない。死亡組合員の持分払戻金も死亡退職金と全く同列の財産である。死亡組合員の持分払戻金のみ、相続税の通達上にその明文がないとの理由により、所得税と相続税の二重課税を受けることは、税法理論の上から矛盾する取扱いであると言わざるを得ない。
 また、死亡退職金は、所得税の課税を受けないことに加えて、さらに相続税の課税においても、相続人一人当たり500万円の非課税限度額が認められることを勘案すると、死亡後に確定する同列の財産であるにもかかわらず、その取扱いの落差があまりにも大きく、課税衡平の理念を逸脱している。
(4) 事業協同組合の組合員は、出資者であると同時に組合の収益を支える取引先でもあることから、組合財産は出資者である組合員が永年にわたって積み上げてきた財産であり、剰余金的性格は薄く、組合員が生前において組合活動に貢献してきた代償としての死亡退職金に類似する性格を持つ。このような観点からも、持分払戻金は死亡時に不確定に発生し、総会決議を条件とする払戻請求権であり、死亡後相当の期間を経て確定する相続財産であって、死亡退職金に類似する性格を持つものであるから、死亡退職金と同様に相続税のみの対象として、所得税を課税すべきではない。
 次のとおり請求人の主張には理由がなく、原処分は適法に行われているから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
(1) 本件金額に係る源泉徴収義務の存否
イ 本件各組合員の死亡脱退による本件払戻金の請求権について
 事業協同組合の組合員が死亡した場合、組合法の規定に基づき法定脱退の原因となり、組合員が死亡したときはその相続人が組合員の地位を承継することができる旨組合の定款において定めている場合を除き、相続人が組合員として被相続人の地位を承継することはできないものと解される。
 請求人の場合、Dは平成12年3月○日に、Eは平成14年12月○日に死亡しているので、それぞれ同日において請求人を脱退したこととなり、本件各組合員の相続人は、請求人に対し、請求人の定款において定める相続加入の手続を行った事実はないので、本件各組合員の本件払戻金の請求権(以下「本件払戻請求権」という。)は、本件各組合員の出資持分が本件各組合員の死亡によって本件払戻請求権に転化し、いったん本件各組合員に帰属した後に、本件各組合員の遺産として相続人により相続されたものと認められる。
ロ みなし配当について
 事業協同組合の組合員は、その死亡が脱退原因の一つとされているが、所得税法第25条第1項第6号に規定する「脱退」の意味については特に定義がなく、脱退原因の中から特に死亡による脱退を除いていないので、事業協同組合の組合員が死亡によって脱退する場合であっても、脱退組合員持分払戻金のうち出資金の額を超える部分の金額は、みなし配当に該当すると認められる。
 したがって、請求人の場合、本件各組合員が死亡によって請求人を脱退したことに伴い、本件各組合員の出資持分を払い戻しているので、本件金額は、みなし配当に該当する。
ハ 源泉徴収義務の成立
 上記ロのとおり、本件金額は、みなし配当に該当すると認められるところ、配当等の支払をする者は、その支払の際、配当等について所得税を徴収する義務があり、また、その支払の確定した日から1年を経過した日までにその支払がされない場合には、その1年を経過した日においてその支払があったものとみなされる。
 この場合の「支払の確定した日」とは、所得税基本通達36−4及び同通達181−5の定めにより、組合員の脱退による場合は、その事実があった日とされ、組合法の規定により、組合員は死亡により脱退することとなるので、本件金額の支払の確定した日は本件各組合員の死亡の日となる。
 したがって、Dに係る配当等の支払確定日は、死亡の日である平成12年3月○日であり、同日から1年を経過した日となる平成13年3月○日までにその支払がされていないので、同日に支払があったものとみなされ、この日に源泉徴収義務が成立することとなる。
 同様に、Eに係る配当等の支払確定日は、死亡日である平成14年12月○日であり、請求人は平成15年7月31日にEの本件払戻金の一部として○○○○円を支払っているので、同日に源泉徴収義務が成立することとなる。また、残りの金額○○○○円は、死亡日である平成14年12月○日から1年を経過した日である平成15年12月○日までにその支払がされていないので、同日に支払があったものとみなされ、この日に源泉徴収義務が成立することとなる。
(2) 請求人の主張について
イ 請求人の主張(1)について
 一般的に、死亡退職金は、その給付が退職金の支給規程に基づいて支給されるもので、相続人以外の者も受給者となり得ること、退職金の支給規程で定めた給付事由である被相続人の死亡という事実が発生したときに初めて支払われるものであることから、いったん被相続人に帰属した後に相続人に相続されるというものではなく、直接受給者に帰属する財産であると解されるところ、請求人の場合、本件各組合員の相続人が、請求人に対して相続加入の手続を行った事実はないので、本件払戻請求権は、本件各組合員の出資持分が本件各組合員の死亡によって本件払戻請求権に転化し、いったん本件各組合員に帰属した後に、本件各組合員の遺産として相続人に承継されたものと認められ、死亡退職金の場合と同様に直接相続人に帰属すると解することはできないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人の主張(2)について
 上記(1)のロのとおり、請求人は本件各組合員が死亡によって組合を脱退したことに伴い、本件各組合員の出資持分を払い戻しているので、本件金額は、みなし配当に該当すると認められるところ、上記(1)のハのとおり、みなし配当は、組合員の死亡のときに支払が確定するものであることから、準確定申告の申告期限後にその金額が確定する財産であったとしても、本件金額は、いったん被相続人に帰属するものであって、被相続人の所得として所得税の準確定申告をしなければならないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人の主張(3)について
 上記イのとおり、本件払戻金と死亡退職金は同列の財産とは認められず、また、上記(1)のとおり、原処分は持分払戻金について、相続税法基本通達に定めがないことを理由に行われたものではないことは明らかであるので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人の主張(4)について
 上記イのとおり、本件払戻金は、死亡退職金と類似した性格を持つものとは認められず、上記(1)のロのとおり、請求人は本件各組合員が死亡によって組合を脱退したことに伴い、本件各組合員の出資持分を払い戻していることから、本件金額は、みなし配当に該当すると認められるので、この点に関する請求人の主張には理由がない。

トップに戻る