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(平18.10.19、裁決事例集No.72 346頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、リース業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、同じくリース業を営むJ社から、J社が顧客との間でリース取引中のリース物件をいったん買い取り、直ちにJ社にリースバックした一連の取引及び試薬品販売業を営むK社(以下、J社と併せて「J社等」という。)が、学校法人L大学(以下「L大学」という。)との間でリース取引中のリース物件をいったんK社から買い取り、直ちにK社にリースバックした一連の取引を、原処分庁が、実質的には請求人とJ社等との間の金銭の貸借取引に当たるとして行った法人税並びに消費税及び地方消費税の更正処分等に対し、請求人が、それぞれの一連の取引は賃貸借を目的としたリース取引に当たるから、同処分等のうち、それぞれの一連の取引を金銭の貸借取引とした部分は不当であるとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年4月1日から平成15年3月31日まで及び平成15年4月1日から平成16年3月31日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ 請求人は、平成14年4月1日から平成14年6月30日まで、平成14年7月1日から平成14年9月30日まで、平成14年10月1日から平成14年12月31日まで、平成15年1月1日から平成15年3月31日まで、平成15年4月1日から平成15年6月30日まで、平成15年7月1日から平成15年9月30日まで、平成15年10月1日から平成15年12月31日まで及び平成16年1月1日から平成16年3月31日までの各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、別表2の「申告」欄のとおり記載した確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出した。
ハ これらに対し、○○税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成15年4月28日付で、平成14年4月1日から平成14年6月30日まで及び平成14年7月1日から平成14年9月30日までの各課税期間の消費税等について、別表2の「当初更正処分等」欄に記載したとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ その後さらに、○○税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成17年6月29日付で、本件各事業年度の法人税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)をした。また、同日付で、本件法人税各更正処分に係る本件各課税期間の消費税等についても、別表2の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」といい、本件消費税等各更正処分と併せて「本件消費税等各更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人は、本件法人税各更正処分及び本件消費税等各更正処分等を不服として、平成17年8月25日に一部の取消しを求める異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月25日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月29日に送達した。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年12月27日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおり

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ J社とのリースバック取引について
(イ) 請求人はJ社に、J社がJ社の顧客(以下「エンドユーザー」という。)との間で行っているリース取引(以下「原リース取引」という。)の中から、原リース取引に係るリース物件の取得価額が請求人とJ社との間で事前に合意している金額に見合うまでの原リース取引を、当該原リース取引を開始した日の属する月の末日までに抽出してもらい、その抽出された原リース取引(以下「本件原リース取引」といい、この取引に係るエンドユーザーを「本件エンドユーザー」という。)に係るリース物件(以下「本件リース物件」という。)を、いったんJ社から買い取り、直ちにJ社にリースバックする取引(以下「本件リースバック取引」という。)を行っている。
(ロ) 本件リースバック取引におけるリース取引及び原リース取引は、いずれも法人税法施行令第136条の3第3項に規定する要件を満たすリース取引である。
(ハ) 請求人は、J社との間で、本件リースバック取引を行うに当たり、平成6年9月30日付の基本業務協定(以下「本件基本協定」という。)を締結した。また、本件基本協定に関し、請求人は、J社との間において別途平成11年9月1日付の覚書(以下、本件基本協定と併せて「本件基本協定等」という。)を取り交わした。
(ニ) 本件基本協定の定めは、要旨次のとおりである。
A 本件基本協定第1条(協定の目的)
 本件基本協定は、本件リースバック取引により本件原リース取引を転リース先とするリース取引(以下、本件リースバック取引と本件原リース取引を併せて「本件リースバック転リース取引」という。)を推進し、請求人・J社相互の営業活動に資することを目的とする協定である。
B 本件基本協定第2条(リース方式)
 上記Aの目的を達成するため、請求人とJ社の双方が、J社を売主、請求人を買主とするリース物件売買契約、請求人を賃貸人、J社を賃借人とするリース契約を締結する。
(ホ) 本件リースバック取引の対象とする原リース取引は、J社が本件リースバック取引の組成月と同じ月に契約された原リース取引の中から抽出する。
(ヘ) 本件リースバック取引に係るリース契約書は、請求人がJ社から受領する磁気テープ媒体(以下「MT」という。)の登録情報に基づき、毎月、請求人所定のリース契約書様式により本件原リース取引一件ごとの取引内容の明細を添付して本件原リース取引のリース期間別に作成されている。
 なお、本件リースバック取引に係るリース契約書には、次の定めが記載されている。
A J社は、請求人から要求があった場合には、本件リース物件が請求人の所有である旨の表示を本件リース物件にしなければならない。
B 請求人が、本件リース物件に係る固定資産税の申告納付を行う。
C J社が、本件リース物件に係る動産総合保険契約を締結し、その保険料を支払う。
D 請求人は、J社が請求人に売却したリース物件を直ちにJ社に賃貸するとともに、J社がさらに当該リース物件をJ社の顧客に賃貸することを認める。
(ト) 本件リースバック取引の開始日は、本件原リース取引の開始日の属する月の末日とし、毎回のリース料は、本件リース物件の金額に月額リース料率(請求人とJ社の間で本件原リース取引とは別途に定める。)を乗じた額とする。
(チ) 本件原リース取引がリース期間中に解約された場合、J社はその解約事実を請求人にMTで通知し、解約された本件原リース取引とリンクする本件リースバック取引も解約される。
(リ) 本件基本協定等に基づく本件リースバック取引の手続の概要は、要旨次のとおりである。
A 請求人は、毎前月末日に、翌月J社から購入したい本件リース物件の概算購入額と月額リース料率をJ社に提示し、協議の上それぞれを決定する。
B J社は、その決定に基づき、本件リース物件の合計額が請求人の概算購入額に達するように、当月中に開始した原リース取引の中から、本件原リース取引を抽出する。
C J社は、本件リースバック取引を行うため、本件原リース取引に係る取引情報をデータ処理し、請求人は、本件原リース取引開始月の翌月第二営業日にそのMTをJ社から受領する。
D 請求人は、上記CのMTを受領すると、その当日又は翌日にはMTから本件原リース取引に係るデータを取り込み、本件リースバック取引に係る契約書、物件受領書、請求書を出力し、本件原リース取引が開始された日の属する月の末日を契約日とする本件リースバック取引に係る契約を本件原リース取引が開始された月の翌月半ばから月末の間に、J社との間で締結する。
E J社は、請求人に本件リースバック取引に係る1回目のリース料を本件原リース取引が開始する月の翌月15日に支払う。
F 請求人は、J社にJ社から購入した本件リース物件の代金を本件原リース取引が開始された月の翌月末日に支払う。
(ヌ) 請求人は、平成14年4月1日から平成16年3月31日までの間に行った本件リースバック取引における契約内容、計算の基礎となる価額等の内訳を示した「確認書 J社と当社の取引関係について」と題する書面を平成17年5月11日に原処分庁へ提出している。
 なお、本件法人税各更正処分及び本件消費税等各更正処分は「確認書 J社と当社の取引関係について」と題する書面に基づいて計算されている。
ロ K社とのリースバック取引について
(イ) 請求人がK社から、既にK社とL大学との間で行っているリース取引(以下「本件賃貸借取引」という。)に係る別表3の「物件名等」欄に記載の各物件等(以下「本件賃貸物件」という。)を買い受け、直ちにK社にリースバックした取引(以下「本件K社とのリースバック取引」という。)に係る売買契約書及びリース契約書に記載された契約日付は、いずれも平成15年1月2日である。
(ロ) 本件K社とのリースバック取引に係るリース取引は、法人税法施行令第136条の3第3項に規定する要件を満たすリース取引である。
(ハ) K社は、試薬品及び検査機器の販売を行っているところ、そのユーザーに対する販売価格よりも低い価格でメーカーから本件賃貸物件を購入し、請求人へ○○○○円(消費税抜きの額)で譲渡した。
(ニ) 本件賃貸物件には、L大学の付属病院(以下「L大学病院」という。)が使用する機器のほか、これら機器に係る保守費用や工事費なども含まれている。
ハ 更正の理由付記について
 本件法人税各更正処分に係る通知書に付記された更正の理由は、要旨次のとおりである。
(イ) 本件リースバック取引について
A 本件リースバック取引は、J社がリース物件を購入しエンドユーザーとの間でリース契約を締結してリース期間が開始した後に、請求人がJ社から当該リース物件を購入し、直ちにJ社にリースバックしている取引で、この一連の取引は、リース物件の売買及びリースをすることを目的として行われた取引ではなく、請求人がJ社に対し金銭を融通する目的で行われた取引であり、実質的に請求人からJ社に対して行われた金銭の消費貸借取引であると認められる。
B 本件リースバック取引の内訳として、「契約日・検収日」ごとに、その「リース期間」ごとに、「契約件数」、「物件代金支払日」、「物件価額(税抜)」、「月額リース料(税抜)」が記載され、更に所得金額に加算する金額の計算として、「契約件数」、「リース収入」、「減価償却費」、「計上利益(損失)」、「金融利益」、「差引金額」が記載されている。
(ロ) 本件K社とのリースバック取引について
A 本件K社とのリースバック取引は、K社がリース物件を購入し事業の用に供した後に、請求人がK社に対する賃貸を条件にK社からリース物件を購入し、直ちにK社にリースバックする取引で、この一連の取引における請求人からK社に対するリース取引は、請求人とK社との間でリース物件の売買及びリースをすることを目的とした取引ではなく、請求人がK社に対して金銭を融通する目的で行われた取引であり、実質的に請求人からK社に対する金銭の消費貸借取引であると認められる。
B 本件K社とのリースバック取引の内訳として、「契約番号」、「契約日」、「リース期間」、「物件代金支払日」、「物件価額(税抜)」、「月額リース料(税抜)」が記載され、更に所得金額に加算する金額の計算として、「リース収入」、「減価償却費」、「計上利益(損失)」、「金融利益」、「差引金額」が記載されている。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分庁が、本件リースバック取引及び本件K社とのリースバック取引(以下、併せて「本件リースバック取引等」という。)を金銭の貸借取引に当たると認定した部分に係る処分(以下「本件リースバック取引等に係る法人税更正処分」という。)については、次の理由により、その認定が誤っており、しかも更正通知書に付記された更正の理由も要件を満たしていない不適法なもので、さらに本件リースバック取引に係る法人税更正処分は、信義則にも反しているから、本件法人税各更正処分及び本件消費税等各更正処分等の一部の取消しを求める。
イ 本件リースバック取引について
(イ) 本件原リース取引と本件リースバック取引はそれぞれ独立して存在し、本件原リース取引に係る貸主の地位の請求人への変更は、本件リースバック取引の成立により法的にも実質的にも成立している。この点については、原リース取引に係る契約書でも「リース物件の所有者を第三者に譲渡することができる」と記されているとおりであるから、リース物件の貸主の地位がJ社から請求人に譲渡された事実をエンドユーザーに知らせていないとしても譲渡の有効性に影響を及ぼすものではない。
 なお、請求人とJ社との間では転貸借を前提としたリース契約が交わされており、当該リース契約上、請求人とエンドユーザーとの関係は、民法第613条の規定により明確である。
(ロ) 請求人は、本件リース物件の所有者として設置場所等を個別に帳簿に記載・管理し、その異動も記録して実務を運用し、J社又は本件エンドユーザーに不測の事態が発生した場合にも個別に即応できるだけの管理体制をとっているので、会計帳簿による本件リース物件ごとの個別管理や減価償却経理を含む会計処理の実施は、所有者の物件管理の要件としては十分である。
(ハ) 多種多様の資産を導入する必要があるため、J社が、本件リース物件を購入することにより、取引全体の事務の合理化が図られ、結果としてリース料を低く抑えることができ、J社にとっては本件エンドユーザーからの受取リース料と請求人に対する支払リース料を経理するだけでよいことから、予算管理、決算事務、資産負債管理の効率化に大きく貢献し、さらにオフバランス処理により、バランスシートのスリム化が図られることになるなど、請求人、J社の双方にとって本件リースバック取引を行うことに合理的な理由が存在する。
 なお、J社は、本件リース物件をJ社が購入した価額と同額で請求人に譲渡し、経理処理も月末に対象資産を計上し、同日付で資産を消滅させる実質的な仮勘定処理をしている。
ロ 本件K社とのリースバック取引について
 次の事実から、本件K社とのリースバック取引は、本件通達の(1)に照らし、金銭の貸借取引には当たらない取引といえる。
(イ) K社は、本件賃貸物件に係る機器と同じ機器の販売を行っているため、本件賃貸物件をK社が仕入れた方が効率的で仕入価額も安く抑えることができる。
(ロ) K社から請求人へ譲渡した本件賃貸物件の価額がK社の仕入価額を上回るとしても、請求人は通常の取引価額でK社から本件賃貸物件を取得したにすぎないから、価格の違いを持って金融取引の認定根拠とすることは当を得ていないといえる。
(ハ) 本件賃貸物件は、すべてL大学病院へ転リースされており、K社にとっては本件賃貸物件の管理事務が省略化できる。
ハ 本件リースバック取引に係る原処分が信義則に反していることについて
 過年度の税務調査で本件リースバック取引につき指摘も指導もしなかった原処分庁の本件リースバック取引に係る法人税更正処分は、次の理由により信義則に反し不当である。
(イ) 本件リースバック取引は、リース業界に相当規模の金額・範囲ですでに定着している取引であるから、本件リースバック取引に係る法人税更正処分は法的安定性・予測可能性を著しく損なうものである。
(ロ) 過去の税務調査において何らの指導等がなかったにもかかわらず、本件リースバック取引に係る法人税更正処分により突如、否認に転じるというのであれば、原処分庁の法律の執行はあまりに恣意的である。
ニ 更正の理由付記について
 更正通知書に付記されるべき更正の理由は、原処分庁の判断過程について省略することなく、具体的に記載する必要があると解するのが相当であり、少なくとも「更正の原因となる事実」、「当該事実に対する法の適用とそれに基づく法的評価の理由」、「結論」は明確に記載されなければならないと考えるが、本件リースバック取引等に係る法人税更正処分に係る更正の理由には、「更正の原因となる事実」についての記載が不十分であり、「当該事実に対する法の適用とそれに基づく法的評価の理由」の記載もない。したがって、本件法人税各更正処分は、法人税法第130条《青色申告書等に係る更正》第2項に規定する更正の理由を付記する要件を満たしていない不適法な処分といえる。また、平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「平成16年3月期」という。)の更正通知書に付記された更正の理由の中で、金融取引と認定された本件リースバック取引のうち平成16年2月28日検収日・リース期間84ヶ月の物件価額及び月額リース料の欄に誤った金額が記載されており、更正処分の対象となった取引を特定することができない。このように更正の理由付記に不備が認められるから、原処分は取消されるべきである。

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(2) 原処分庁

 本件リースバック取引等に係る法人税更正処分は、次の理由により、本件リースバック取引等を法人税法施行令第136条の3第2項に規定する「一連の取引が実質的に金銭の貸借と認められる」取引に当たるとして行った適法な処分であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件リースバック取引について
(イ) 請求人は、事前にJ社から買い取る本件リース物件の購入額(規模)と月額リース料率を、J社に示し、協議して決定しているから、請求人とJ社の意図は金銭の貸借にあることが窺われる。
(ロ) 本件リースバック取引は、瑕疵なくJ社と本件エンドユーザーとの間で成立した原リース取引のリース物件をいったん請求人が当該原リース取引のリース事業者であるJ社から買い取り、直ちにJ社にリースバックする取引であって、本件エンドユーザーには本件リース物件の所有者の変更が知らされておらず、本件リース物件の管理は引き続きJ社が行っており、債務不履行のリスクもJ社が負っていることから、本件リースバック転リース取引においても本件エンドユーザーからみて本件リース物件の実質的な貸主はJ社であると認められ、本件リースバック取引が行われても従前どおりの原リース取引(本件原リース取引)の実態はそのまま継続している。
ロ 本件K社とのリースバック取引について
(イ) 本件賃貸物件には、法人税法施行令136条の3第3項に規定する資産には該当しない保守費、工事費等が含まれている。
(ロ) 本件K社とのリースバック取引は、K社がリース物件を取得した時期と請求人とK社との売買契約を締結した時期からすれば、中古資産のリースバック取引と認められ、しかも、K社から請求人への売買価格は、譲渡人であるK社の購入価格を上回っている。
ハ 信義則に反していることについて
 原処分庁が過去の調査で本件リースバック取引を資産の賃貸借取引であると認めた事実も、金銭の貸借取引に当たると指摘した事実もない。しかし、そのことが、以後の調査で本件リースバック取引を金銭の貸借取引に当たるとする税務処理を妨げる理由となるものではない。
ニ 更正の理由付記について
 本件法人税各更正処分に係る更正通知書に付記された更正の理由には、本件リースバック取引等のいずれについても、原処分庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度にその理由が明示されており、理由付記の不備を理由として更正処分を取り消すほどの違法性は認められない。また、本件リースバック取引に係る請求人の指摘する一部の記載誤りについては、原処分に係る法的評価及び所得金額に加算する金額が正当に記載されているから、更正の理由付記の不備に当たるとはいえない。

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3 判断

(1) 本件リースバック取引等に係る法人税更正処分について

 本件審査請求は、本件リースバック取引等が法人税法施行令第136条の3第2項の規定に照らし、「一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められる取引」に当たるか否か、本件リースバック取引等に係る法人税更正処分に係る更正の理由付記は不備といえるか否か、さらに本件リースバック取引に係る法人税更正処分は信義則に反しているか否かを主な争点としているので、審理したところ、以下のとおりである。
イ 認定事実
(イ) 本件リースバック取引について
 J社の財務部所属の担当者は、J社の取引関係資料に基づき、当審判所に対して要旨次のとおり答述しているところ、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、答述どおりの事実が認められる。
A 原リース取引について
(A) J社は、主にリース物件の金額が数十万から2百万円程度の小口の情報関連機器を取り扱っている。
(B) J社は、J社とのリース取引を希望する顧客をJ社に紹介してもらうための取扱店(以下「本件取扱店」という。)を自ら開拓し、本件取扱店との間でリース取引に係る業務提携を結んでいる。
(C) J社は、あらかじめ本件取扱店にJ社が行うリース取引条件を通知し、併せてリース契約書などのリース取引関係書類も交付している。
(D) 本件取扱店は、J社が行うリース取引条件で本件取扱店が取り扱う商品をリース取引したいと希望する顧客が現れると、顧客に代わって上記(C)の書面により、リース取引の申込みをJ社に行う。
(E) J社は、顧客の信用調査を行い、リース取引可能と判断すると、自ら作成した「リース契約書兼リース物件借受証」と題する書面を用いて顧客とリース契約を締結する。
(F) J社は、本件取扱店から購入するリース物件の購入代金支払方法について、個々の本件取扱店との間で月3回程度の締め日を設け、その締後1、2週間以内に本件取扱店に購入代金を支払うこととしている。
(G) J社は、こうしてエンドユーザーとの間で成立した原リース取引に係る事務管理、債権管理等を取引が終了するまですべて自ら行っており、本件原リース取引についても全く同様である。
(H) J社は、エンドユーザーとの間で原リース取引の契約を締結すると、取引条件と取引状況をコンピューターに入力し、必要に応じてモニター画面から取引実態を把握できるようにシステム開発しており、本件原リース取引についても全く同様である。しかし、モニター画面は、J社独自のものであって、請求人とは共有も共用もしていない。
(I) J社は、原リース取引に係るリース物件がエンドユーザーに納入される際、本件取扱店に、リース物件の所有者がJ社であることを示すステッカーをリース物件に貼付するように依頼し、J社あてのリース物件借受証をエンドユーザーから受領している。
B 本件原リース取引について
(A) 本件原リース取引は、J社が請求人との間で本件リースバック取引を行うために原リース取引の中から抽出したリース取引というだけであって、本件リース物件が請求人に譲渡され、直ちにリースバックされてはいるが、本件原リース取引と原リース取引との間で取引そのものに何ら変わるところはない。
(B) 本件原リース取引は、本件リースバック取引が行われる以前に、J社とエンドユーザーとの間で既に契約が成立し、リース取引が開始されている取引である。
(C) J社は、本件リースバック取引が契約された時と本件原リース取引が中途解約、あるいは契約満了により消滅した時に、本件原リース取引に係る取引データを請求人に提供している。
(D) 請求人は、本件リースバック取引期間中の本件原リース取引の取引状況について自ら直接把握することはない。
(E) 請求人及びJ社は、本件リースバック取引が行われたことにより本件リース物件の所有者がJ社から請求人に移転したことを本件エンドユーザーにも本件取扱店にも通知せず、本件リース物件に請求人が所有者であることを示すステッカーの貼付や、本件エンドユーザーから請求人へのリース物件受領書の取直しもしていないなど、J社から請求人へ所有権が移転されたことを示す行為は一切行っていない。
(F) J社は、本件原リース取引の中途で、本件エンドユーザーから残リース期間に対応するリース料相当額を一括して支払いたいとの申出を受けると、請求人の承諾を得ることなく独自の判断で本件原リース取引を中途解約し、本件リース物件の所有権を本件エンドユーザーに移転させる(売却)処理を行っている。
(G) 上記(F)により、あるいは他の理由により本件原リース取引が解約処理されると、J社から請求人に、解約された本件原リース取引の解約情報が送られ、請求人は当該情報に基づいて「リース契約中途解約協定書」と題する書面を作成してJ社に送付し、J社は当該協定書に基づいて請求人に解約金を支払っている。
(H) J社は、上記(F)以外の解約あるいはリース期間満了による本件原リース取引の終了により、本件エンドユーザーから本件リース物件の返還を受ける際、自ら本件リース物件の価値を評価し、価値が無いと判断すると、その結果を請求人にMTで連絡するとともに廃棄業者に委託して本件リース物件を廃棄しているが、請求人は、その連絡に基づいて形式的に廃棄の承認をJ社に行うだけで、本件リース物件の価値の評価にかかわることも、廃棄の現場に立ち会うこともない。
 また、上記(F)のとおりの本件リース物件の所有権が本件エンドユーザーに移転したことに伴う解約であっても、本件リース物件は廃棄相当であるとしてJ社からMTで請求人に通知され、これを受けて請求人からJ社に本件リース物件の廃棄の手続が同様の方法でとられている。
(ロ) 本件K社とのリースバック取引について
 K社の管理本部所属の担当者は、K社の取引関係資料に基づき、当審判所に対して要旨次のとおり答述しているところ、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、答述どおりの事実が認められる。
A 本件賃貸借取引は、平成14年7月22日付でK社とL大学との間で交わされた「機器リースシステム販売契約書」(以下「本件契約書」という。)により成立し、K社からL大学に平成15年1月1日から平成19年12月31日までの5年間にわたり本件賃貸物件を賃貸借するための取引で、本件賃貸物件はすべてL大学病院に納入されている。
B 本件賃貸借取引は、法人税法施行令第136条の3第3項の規定の要件を満たすリース取引であって、L大学病院からのリース取引の申し込みを受けたK社の営業がこの取引を成立させ、K社が単独で行っているリース取引であって、請求人が本件K社とのリースバック取引期間中に本件賃貸借取引の取引状況について自ら把握することも、K社から請求人に取引状況を報告することもない。
C K社における本件K社とのリースバック取引の目的は、メーカーから安い価格で購入した本件賃貸物件をいったん請求人に売却することにより売買益を確定させることにあり、本件K社とのリースバック取引の商談は、K社から請求人に持ちかけたものである。
D 本件K社とのリースバック取引に係る売買契約書及びリース契約書に記載されている日付は平成15年1月2日であるが、実際に各契約書が作成された日や取引の開始日は平成15年3月以降の日である。
E 本件賃貸物件の内容は、別表3のとおりである。
ロ 法令等の解釈について
(イ) 税務上のリース取引について
 法人税法施行令第136条の3第3項が規定するところのリース取引は、いわゆるファイナンス・リース取引の税務上の取扱いを定めたものといえる。
 このことは、リース取引に関する意見書が別紙の4の(2)で示したファイナンス・リース取引の定義と一致することからも、また、法人税法施行令第136条の3第3項のリース取引の定義が基本的にリース取引に関する意見書の定義を法制化した経緯からも首肯できる。
(ロ) ファイナンス・リース取引の税務上の取扱いについて 
A ところで、実質的に売買と認められるファイナンス・リース取引については、まず、法人税法施行令第136条の3第1項の規定でその取扱いを明らかにしている。
 続いて、借手が所有する資産をいったん借手から貸手に譲渡し、直ちに貸手から借手に当該資産をファイナンス・リース取引によりリースバックさせる一連の取引を行うと、借手が当該資産から受ける経済的な利益を損ねることなく、いわば当該資産を担保に供したと同様の効果を持たせて実質的な金銭の貸借取引が行えることから、同一資産を対象とした一連の売買とファイナンス・リースの取引については、法人税法施行令第136条の3第2項の規定で、「内国法人が譲受人から譲渡人に対する賃貸(リース取引に該当するものに限る。)を条件に資産の売買を行った場合において、当該資産の種類、当該売買及び賃貸に至るまでの事情その他の状況に照らし、これら一連の取引が実質的に金銭の貸借取引であると認められるときは、当該資産の売買はなかったものとし、かつ、当該譲受人から当該譲渡人に対する金銭の貸付けがあったものとして内国法人の所得金額の計算を行う」ことを明らかにしている。
B そして、別紙の3のとおり、本件通達は、「これら一連の取引が実質的に金銭の貸借に当たらない」例として、1貸手が業者から直接資産を購入するよりも、借手が業者から当該資産を購入することに経済的合理性等の相当の理由があると認められる場合、及び2貸手の持つノウハウをファイナンス・リース取引を通じて活用することにより借手の管理事務の省力化等を図ろうとする場合の2つの例を示しており、これらの取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
ハ 上記ロの法令等の解釈に照らし、本件リースバック取引等についてみると、以下のとおりである。
(イ) 本件リースバック取引について
A 本件リースバック取引に係る本件リース物件の所有者について
 請求人は、上記2の(1)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、本件原リース取引に係る貸主の地位が法的にも実質的にも請求人へ変更されており、しかも本件リース物件の所有者としての物件管理の要件も十分満たしていると主張する。
 確かに本件リースバック取引におけるファイナンス・リース取引も契約上は資産の賃貸借取引の形式をとっているが、本件リースバック取引が実質的にも賃貸借を目的としたファイナンス・リース取引であるというためには、J社が本件リース物件を請求人との間で賃貸借を目的としたファイナンス・リース取引を行わなければならない相当な理由があって、それを実現させるために請求人が本件リース物件の所有者として実質的にJ社に本件リース物件を賃貸借していることを主張し得ることが極めて重要な要件といえる。
 しかし、請求人に所有権のあるはずの本件リース物件は、請求人が本件リースバック取引を経てJ社から本件エンドユーザーに転リースされたと主張しているにもかかわらず、上記イの(イ)のBの(E)のとおり、請求人は本件リース物件の所有者になったことを本件エンドユーザーに全く主張していないし、上記イの(イ)のBの(F)及び(H)のとおり、J社は、本件リースバック取引期間中に、本件リース物件の所有者である請求人から何らの承諾も得ることなく自らの判断で本件リース物件を本件エンドユーザーに譲渡したり、本件リースバック取引終了後の本件リース物件の資産価値評価や処分を行っていることからすると、本件リース物件の契約上の所有者は請求人であるとはいえても、本件リース物件の処分等実質的な所有者としての権利を行使している者が請求人であるとは認め難く、本件リース物件に係る所有権の請求人への移転は形式的なものといわざるを得ず、請求人が納税義務者として本件リース物件に係る固定資産税を納付しているとしても、名義上の所有者として賦課された限りにおいて負担しているにとどまり、それのみをもって実質上の所有者として権利を行使しているとはいえないから、請求人の主張は当を得たものとはいえない。
B 本件リースバック取引を行うことの合理性について
 請求人は、上記2の(1)のイの(ハ)のとおり、本件リースバック取引は請求人とJ社の双方にとって合理性のある取引であると主張する。
 しかし、上記イの(イ)のAの(G)のとおり、J社は、本件原リース取引についても原リース取引と同様に取引が終了するまでの間、本件リース物件の貸手として取引上必要となる取引一件ごとの事務管理や債権管理等を行っており、本件リースバック取引を行っても事務の負担は何ら軽減されることはなく、むしろJ社にとっては本件リースバック取引に係る新たな事務が加わったというべきで、会計上の負担についても、貸借対照表上の表記がオフバランスになるかどうかの違いはあるにせよ、本件原リース取引に係る実質的な会計処理は引き続き行われており、本件リースバック取引によりJ社において事務の合理化が図られているとは認められない。また、請求人は、本件リースバック取引を通じて多種多様な資産を対象とした本件原リース取引に加わることができるように主張するが、本件原リース取引は、J社が独自に行っている賃貸借を目的としたファイナンス・リース取引といえ、しかも本件リースバック取引が行われる前に本件原リース取引が既に成立していることからすれば、請求人がJ社と本件リースバック取引を行って本件リース物件の所有者をJ社から請求人に移動させ、間接的に本件原リース取引と本件リースバック取引を関連づけたとしても、J社にとっては請求人との間で資産の賃貸借を目的としたファイナンス・リース取引をことさら行う事情も必要も認められないから、請求人が実質的に本件原リース取引にかかわりを持つ余地は見いだせない。しかも上記Aのとおり、請求人は、本件リースバック取引の期間中、本件リース物件の所有者として本件リース物件の管理・運用・処分に関わっている事実も認められないから、本件リースバック取引が本件原リース取引にかかわりを持ち請求人の事務の合理化に寄与しているとは認められない。
C 本件リースバック取引に係る契約日と取引開始日について
 上記1の(4)のイの(リ)のC及びDのとおり、請求人にとっては、J社からMTで本件原リース取引に係る取引情報を入手するまでは、本件原リース取引に係る取引内容を全く知る手立てがないことから、請求人とJ社との間で締結される本件リースバック取引に係る各契約の日付は、早くとも本件原リース取引が開始した月の翌月の請求人がJ社からMTを入手した日以降の日付となるべきところ、実際には本件リースバック取引に係る契約日付を本件原リース取引が開始した月の末日までデートバックさせている。
 しかしながら、本件リースバック取引に係る契約や検収の日付を本件原リース取引に係る契約や検収の日付と同じ日付にしなければならない相当の理由は本件リースバック取引を行う上で何も見いだせない。
D 以上のとおり、1請求人は、本件リース物件の所有者としての権利を本件リースバック取引上行使していないこと、2本件原リース取引は、本件リースバック取引とはかかわりなくJ社と本件エンドユーザーとの間で行われているから、J社には原リース取引を行う上で本件リースバック取引を必要とする事情が何ら見いだせないこと、3本件リースバック取引は、J社が既に自己のリース事業に供している中古のリース物件を対象として行われていること、また、4本件リースバック取引を通じて明らかなことは、当初に請求人からJ社に金銭の供与が行われ、取引期間にわたり、当該金銭が分割してJ社から請求人に支払われていることからすれば、本件リースバック取引が、請求人とJ社との間で本件リース物件の賃貸借を目的とした相当の理由がある取引であるから、金銭の貸借取引には当たらないとする請求人の主張は当を得たものとは認め難い。さらに、当審判所の調査においても、本件リースバック取引が本件リース物件の賃貸借を行うことを目的に行われた取引であると認識させるに足る新たな事実も、相当な理由も見いだし得なかったことから、本件リースバック取引は、その取引期間にわたる請求人とJ社との金銭の授受だけがその取引の実態を示し得ることになり、金銭の貸借取引に当たるといえることになるから、本件リースバック取引はその一連の取引が金銭の貸借取引に当たるとの原処分庁の判断は、相当といえる。
(ロ) 本件K社とのリースバック取引について
A 請求人は、本件K社とのリースバック取引を行う理由として、安価な仕入、効率の良い仕入、K社にとっての管理事務の省力化を上げ、本件K社とのリースバック取引は賃貸借を目的とした合理性のある取引であるから、金銭の貸借取引には当たらないと主張する。
 しかし、上記イの(ロ)のA、B及びDのとおり、本件契約書は、本件K社とのリースバック取引を行う以前にK社とL大学との間で本件賃貸物件をファイナンス・リースするために交わされた契約書であって、K社は、本件K社とのリースバック取引が行われる以前に本件賃貸物件をメーカーから購入して本件賃貸借取引の用に供していることからすれば、本件賃貸物件は、本件K社とのリースバック取引を行う時には既に中古の資産であり、請求人が主張する本件賃貸物件の仕入に係る効果は、既にK社が本件賃貸借取引を通じて実現させていることからすると、請求人の主張はこの事実を借用した主張にすぎないといえる。
 また、本件賃貸借取引は、本件K社とのリースバック取引中もなお取引が継続していることからすれば、K社にとっては、本件K社とのリースバック取引を行っても本件賃貸借取引に係るK社の管理事務に変わりはなく、むしろK社にとっては本件K社とのリースバック取引に係る新たな事務量が加わったといえるから、K社にとっての管理事務の省力化に係る請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、本件K社とのリースバック取引を賃貸借を目的とした取引であると主張するが、上記イの(ロ)のCのとおり、本件K社とのリースバック取引を行うK社の目的は、本件賃貸物件の売買益を確定させることにあり、一方の請求人においても、別表3のとおり、本件賃貸物件の中には一部に法人税法施行令第136条の3第3項に規定する「資産」には当たらない、すなわち、ファイナンス・リース取引の対象にはなり得ない「将来の役務提供に係る前払保守費や工事代金」が含まれているにもかかわらず、それを除くことなくすべてをリース物件とした上で行った本件K社とのリースバック取引を賃貸借を目的とした取引と主張していることからすると、請求人の主張は、単に本件K社とのリースバック取引におけるファイナンス・リース取引の契約形式だけを言い当てたにすぎず、当を得た主張とはいえない。
C 以上のとおり、1本件K社とのリースバック取引には、賃貸借取引の対象にはなり得ない長期前払費用等が多額に含まれていること、2本件賃貸借取引は、K社とL大学との間で本件K社とのリースバック取引が行われる以前から本件K社とのリースバック取引とはかかわりなく行われている取引であるから、K社には本件賃貸借取引を行う上で本件K社とのリースバック取引を必要とする事情が何ら見いだせないこと、3本件K社とのリースバック取引は、K社が既に自己のリース事業に供している中古のリース物件を対象として行われていること、4本件K社とのリースバック取引を行うK社の意図が本件賃貸物件の売買利益の確定にあること、また、5本件K社とのリースバック取引を通じて明らかなことは、当初に請求人からK社に金銭の供与が行われ、取引期間にわたり、当該金銭が分割してK社から請求人に支払われていることからすれば、本件K社とのリースバック取引が、請求人とK社との間で本件賃貸物件の賃貸借を目的とした相当の理由がある取引であるから金銭の貸借取引には当たらないとする請求人の主張は、当を得たものとは認め難い。さらに、当審判所の調査においても、本件K社とのリースバック取引が本件賃貸物件の賃貸借を行うことを目的に行われた取引であると認識させるに足る新たな事実も、相当な理由も見いだし得なかったことから、本件K社とのリースバック取引は、その取引期間にわたる請求人とK社との金銭の授受だけがその取引の実態を示し得ることになり、金銭の貸借取引に当たるといえることになるから、本件K社とのリースバック取引はその一連の取引が金銭の貸借取引に当たるとの原処分庁の判断は、相当といえる。

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(2) 本件リースバック取引に係る法人税更正処分が信義則に反しているか否かについて

イ 信義則の法理の適用
 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理が貫かれるべきであり、とりわけ租税法律主義の原則により一段と厳格な法規適合性が要請される租税法律関係においては、信義則の法理の適用がより慎重に行われることが要求され、租税法規の適用によって実現されるべき納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めてその適用の是非を考えるべきものである。
 そして、その特別な事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、1税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を示したことにより、2納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、3後にその表示に反する課税処分が行われ、4そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、5納税者が税務官庁の表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかを考慮して判断することが相当である(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷昭60(行ツ)第125号判決・判例時報1262号91頁参照)。
ロ これを本件についてみると、以下のとおりである。
 請求人は、本件リースバック取引は、従前から行っている取引であるにもかかわらず、過去の税務調査では本件リースバック取引に係る問題点の指摘も指導もなかったのに、今回の税務調査で初めて原処分庁が本件リースバック取引を金銭の貸借取引に当たるとして請求人の税務処理を認めなかったのは信義則に反し不当である旨主張する。
 しかしながら、過去の税務調査において原処分庁所属の調査担当職員が、本件リースバック取引の取扱いについて、ことさら指導を行った事実は認められないことからすると、原処分がされるまでは、原処分庁が請求人に対して本件リースバック取引に係る課税処分を行わなかった状態が継続していたにすぎないものであるから、原処分庁が請求人に対して公的見解を示したとはいえない。
 そうすると、原処分庁が請求人に対して信頼の対象となる公的見解を示した事実はないのであるから、租税法規の適用によって実現されるべき納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてまでも納税者の税務官庁に対する信頼を保護しなければ正義に反するとまでいえるような特別の事情があるとは認められず、信義則の法理を適用する理由はない。
 また、原処分庁が、本件リースバック取引について何ら指導を行わなかったとしても、その税務処理について誤りが明らかになった段階で是正を求めることは何ら不当なものとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3) 理由付記について

 請求人は、本件リースバック取引等に係る法人税更正処分に係る更正通知書に付記された更正の理由について「更正の原因となる事実」の記載が不十分で、しかも「当該事実に対する法の適用とそれに基づく法的評価の理由」の記載がないから、本件リースバック取引等に係る法人税更正処分は、法人税法第130条第2項に規定する更正の理由付記の要件を満たしていない不適法なものである旨主張するので、審理したところ、以下のとおりである。
イ 法令の解釈について
(イ) 法人税法第130条第1項は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の更正をする場合には、その申告に係る所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものであれば、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを明らかにしている。また、同条第2項は、青色申告書に係る法人税の更正をする場合には、更正の通知書に更正の理由を付記すべきことを明らかにしているところ、これは青色申告制度の趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、更正の理由を納税者に知らせて不服申立ての便宜を与えるためと解される。
(ロ) ところで、青色申告に係る更正処分の態様は、1帳簿書類の記載自体を認めないで更正処分をする場合、2事実に対する法的評価につき納税者と見解を異にして更正処分をする場合など様々であるが、個々の更正処分につき要求される理由付記の程度は、上記の法人税法第130条の規定の趣旨と当該更正処分の具体的態様に照らし決せられるべきである。そして、上記1の帳簿書類の記載自体を認めないで更正処分をする場合はともかく、2の事実に対する法的評価の相違による更正処分の場合には、それがいかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判別することができる程度に理由が表示されていれば足り、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないと解するのが相当である。
ロ 本件リースバック取引等に係る法人税更正処分に係る更正の理由付記について
(イ) これを本件についてみると、本件リースバック取引等に係る法人税更正処分が上記イの(ロ)の2の更正処分に当たることは明らかであり、また、上記1の(4)のハの(イ)及び(ロ)のとおり、本件法人税各更正処分に係る更正通知書には、更正処分の対象となった事実とともに、本件リースバック取引等が実質的に金銭の貸借取引に当たる旨の法的評価が記載されていることが認められ、これによれば、本件リースバック取引等に係る法人税更正処分に係る更正通知書には、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度には、その理由が明示されていると認められる。
(ロ) また、請求人は、平成16年3月期の更正通知書において、本件リースバック取引を金銭の貸借取引と認定した取引のうち平成16年2月28日検収日のリース期間84か月の物件価額及び月額リース料の金額について誤った金額を記載していることから、更正処分の対象となった取引を特定できないとして、更正の理由付記には不備がある旨主張しているが、原処分の対象となった本件リースバック取引については、上記1の(4)のハの(イ)のBのとおり、「契約日・検収日」、「リース期間」、「契約件数」、「物件代金支払日」、「物件価額」、「月額リース料」を区分して列挙することにより更正処分の対象とした取引が特定されており、そのうちの「物件価額」及び「月額リース料」の金額に記載誤りがあったとしても、請求人とJ社とのリース取引に対する法的評価及び所得金額に加算する金額として記載された金額は正当に記載されていることからすれば、上記の記載誤りを持って更正の理由付記に不備があるとは認められない。
ハ 以上のとおり、本件リースバック取引等に係る法人税更正処分は、更正の理由付記の不備を理由として取り消すほどの違法があるとはいえず、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 本件法人税各更正処分について

 上記(1)のとおり、本件リースバック取引等は、いずれも法人税法施行令第136条の3第2項に規定する実質的に金銭の貸借取引であると判断され、また上記(2)及び(3)のとおり、原処分について信義則に反する事実はなく、更正の理由付記についてもその不備はなかったと判断されるため、本件法人税各更正処分は適法である。

(5) 本件消費税等各更正処分等について

イ 本件消費税等各更正処分
 上記(1)のとおり、本件リースバック取引等は、いずれも法人税法施行令第136条の3第2項に規定する実質的に金銭の貸借取引であると判断されるため、本件消費税等各更正処分は適法である。
ロ 本件消費税等各賦課決定処分
 上記イのとおり、本件消費税等各更正処分は適法であり、また、同処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、同処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきなされた本件消費税等各賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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