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(平18.12.14、裁決事例集No.72 382頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が親会社に金銭を交付し、これに対して利息を徴していないことは、同社に対する経済的利益の無償の供与であり寄附金に当たるとして原処分庁が行った原処分に対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、当審判所に対し、平成13年8月1日から平成14年7月31日まで、平成14年8月1日から平成15年7月31日まで及び平成15年8月1日から平成16年7月31日までの各事業年度(以下、順次「平成14年7月期」、「平成15年7月期」及び「平成16年7月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、平成17年12月27日にいずれも審査請求をしたところ、それらに至る経緯は別表1記載のとおりである。
 なお、別表1「更正及び賦課決定処分」欄記載の各更正処分を併せて「本件各更正処分」といい、同欄記載の過少申告加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等(要旨)

 別紙記載のとおり。

(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等(以下「争いのない事実等」という。)

イ 請求人は、株式会社D(以下「D社」という。)が発行済株式の100%(平成15年7月期までは66.6%)を所有している貸切バス事業を営む同族会社(法人税法第2条《定義》第10号)である。
ロ 請求人は、D社に対し金銭を交付しており(以下、この交付した金銭を「本件債権」という。)、別表2−1から2−3記載のとおり、その発生及び消滅を短期貸付金勘定で経理し、その残高(以下「本件債権残高」という。)を、本件各事業年度末現在の貸借対照表上、短期貸付金としていた。
 なお、本件債権が発生及び消滅した際の相手勘定は、すべて当座預金勘定又は普通及び通知勘定となっていた。
ハ 請求人とD社との間では、本件債権について、金銭消費貸借契約書は作成されておらず、本件債権に係る利息の授受もなかった。

(5) 争点

イ 本件債権は、D社に対する貸付金に当たるか。
ロ 本件債権に係る利息を徴していないことは、経済的利益の無償の供与に当たるか。
ハ 収受すべき利息相当額の算定に当たり、原処分庁が適用した利率は相当か。

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2 主張

(1) 争点イ(本件債権は貸付金に当たるか)について

イ 原処分庁
 本件債権は、請求人がD社に金銭を交付したことにより発生したものである。そして、その発生と消滅は、短期貸付金勘定で経理され、本件各事業年度末現在の貸借対照表において、その残高が短期貸付金とされているから、本件債権は、D社に対する貸付金というべきである。
ロ 請求人
 本件債権は、D社が請求人に支払った運行料の一部をD社に戻すことにより生じたものであり、それを経理上、短期貸付金という勘定を使用したにすぎず、実態は売掛金が回収遅滞となっていたものである。

(2) 争点ロ(経済的利益の無償の供与に当たるか)について

イ 原処分庁
 上記(1)イのとおり、本件債権は、D社に対する貸付金であり、利息を徴していないことについて合理的な理由は認められないから、本件債権について利息を徴していないことは、D社に対する経済的利益の無償の供与に当たる。
ロ 請求人
 上記(1)ロのとおり、本件債権は、売掛金が回収遅滞となっているものであり、同債権に対して利息を徴していないことは、D社に対する経済的利益の無償の供与には当たらない。
 仮に、本件債権が貸付金に当たるとしても、同債権はD社の資金繰りの事情から融通しているものであり、請求人とD社は一心同体の会社であるため、同債権に対して利息を徴していないことに合理的な理由がある。

(3) 争点ハ(原処分庁が適用した利率は相当か)について

イ 原処分庁
 所得税基本通達36−49は、個人の経済的利益を評価する際の定めであるから、法人の経済的利益を評価する際に直接適用することはできないが、当事者間で通常収受すべき利息相当額を計算するという目的からすれば、特段の事情のない限り、法人の経済的利益の評価に準用するのが相当である。
 本件において、当事者間で適用すべき利率は、所得税基本通達36−49の定めにより、平成13年8月1日から同年12月31日までの期間については4.5%、平成14年1月1日から平成16年7月31日までの期間については4.1%とすることが相当である。
ロ 請求人
 仮に、本件債権に対して利息を徴していないことが、D社に対する経済的利益の無償の供与に当たるとしても、原処分庁が適用した利率は実態にそぐわない高率なものである。

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3 判断

(1) 争点イ(本件債権は貸付金に当たるか)について

イ 請求人提出資料、原処分関係書類及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、観光ホテルを営むD社の顧客をホテルに送迎し、その対価として、D社から請求人に運行料が支払われていた。
(ロ) 請求人は、上記(イ)のD社から請求人に支払われる運行料を、運行委託契約に基づき、毎月末にD社に請求し、翌月末(一部は翌々月初)に同請求額が全額入金されていた。
(ハ) D社は、本件債権について、短期借入金勘定を用いて経理し、本件各事業年度末現在の貸借対照表上、短期借入金としていた。
ロ 請求人は本件債権の実態を売掛金が回収遅滞となっていたものである旨主張するが、上記イ(ロ)のとおり、運行料は請求した月の翌月末(一部は翌々月初)にはその全額が回収されており、この点に関して請求人の主張するような売掛金が回収遅滞となっていた事実は認められない。
ハ 上記1(4)争いのない事実等及び上記イ(ハ)の事実からすると、請求人とD社との間において本件債権に係る金銭消費貸借契約書は作成されていないものの、本件債権の発生及び消滅においては実際に金銭のやり取りがなされており、加えて、請求人及びD社の双方において、1本件債権の発生及び消滅について、それぞれ短期貸付金勘定、短期借入金勘定を用いて経理し、2本件各事業年度末現在の、それぞれの貸借対照表で短期貸付金、短期借入金としていたことは、請求人とD社との間で、一方において金銭を貸し付け、他方においてこれを借り入れていたと、請求人及びD社双方が認識していたものと認められる。
 以上のことからすると、請求人がD社に対して金銭を貸し付け、後日その返済があったものといえ、本件債権は、請求人のD社に対する貸付金と認められる。

(2) 争点ロ(経済的利益の無償の供与に当たるか)について

イ 法人税法第22条第2項は、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額を益金の額とする旨規定し、法人税法第37条第7項は、寄附金の範囲として、経済的利益の無償の供与が含まれる旨規定している。
 そうすると、法人が金銭を無利息で貸し付けている場合には、借主からこれと対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けているか、あるいは、ほかに当該法人がこれを受けることなく利息相当額を放棄することを相当とする合理的な経済目的その他の事情が存する場合でない限り、その当事者間で適正利率による利息相当額の経済的利益が貸主である当該法人の収益と認識され、当該経済的利益が無償で借主に供与されたものと解される。
ロ これを本件についてみるに、本件債権は上記(1)で判断したとおり貸付金に当たるところ、その貸付けに際し利息等の金銭の授受はなかった。
 そして、親子会社間であっても、それぞれ独立した法人であり、利息等を収受しない経済的合理性はなく、さらに、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず合理的な再建計画に基づき行われるような、その利息等を収受しない合理的な経済目的その他の事情が請求人とD社との間に存していたとも認められない。
ハ したがって、本件債権に係る利息相当額の経済的利益が貸主である請求人から借主であるD社に供与されたものと認められる。
 すなわち、請求人は、収受すべき本件債権に係る利息相当額をいったん収受した後、これをD社へ贈与したものであり、このことは経済的利益の無償の供与に当たり、寄附金に該当する。

(3) 争点ハ(原処分庁が適用した利率は相当か)について

イ 適正利率について
 法人が金銭を貸し付けた場合、当該金銭が他からの借入金をもって貸し付けられたものであることが明らかな場合には、当該借入金の借入利率を適正利率とみるのが相当である。
 一方、法人が借入金をもって貸し付けているが、いずれの借入金をもって貸付けがなされているか特定できず、かつ、借入金の借入利率が同一でないなど一定の事情の下では、法人の借入状況や全国銀行貸出金利などの市中金利の動向等の事情を総合勘案して、適正利率を算定するのが相当である。
ロ これを本件についてみるに、請求人提出資料、原処分関係書類及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の各金融機関からの借入金(以下「本件借入金」という。)の発生は、別表3記載の「本件借入金の明細」欄のとおりであり、本件借入金は、同表記載の「本件当座預金への入金日」欄の日に、E銀行○○支店の請求人名義の当座預金(以下「本件当座預金」という。)に入金されているとともに、本件債権は本件当座預金から出金されていた。
(ロ) 請求人は、本件債権の管理を個別に行っていなかったことから、本件借入金のいずれをもって貸付けがなされていたか特定できない。
ハ 上記認定事実からすると、請求人は本件借入金をもって本件債権に当てているから、本件借入金の借入利率(いずれも同一でない。)を基に求めた平均借入利率(以下「平均借入利率」という。)が、市中金利と比較してこれを上回らないなど合理性がある場合には、平均借入利率を適正利率とすることが相当であるというべきである。
 そうすると、平均借入利率は、別表4記載の「審判所認定」欄のとおり、平成14年7月期が2.033%、平成15年7月期が1.829%、平成16年7月期が2.040%となる。また、本件各事業年度ごとの全国銀行貸出金利による市中金利の平均を算出したところ、別表5記載のとおり、平成14年7月期が2.069%、平成15年7月期が2.252%、平成16年7月期が2.188%となり、平均借入利率はいずれも市中金利を上回らないことになる。
 以上から、本件における適正利率は、平均借入利率ということになる。
ニ 原処分庁は、所得税基本通達36−49の定めにより、本件債権に適用すべき利率を求めているが、請求人は本件借入金をもって貸し付けているのであるから、平均借入利率を適正利率とすることが相当であり、原処分庁の適用した利率は相当ではない。したがって、原処分庁の適用した利率は採用できない。

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(4) 結論

イ 本件各更正処分について
 以上の結果に基づいて、本件各事業年度の各所得金額を計算したところ、次のとおりとなる。
(イ) 平成14年7月期
A 受取利息相当額(収受すべき利息相当額)
 受取利息相当額は、別表4記載の平均借入利率2.033%を適用して計算したところ、別表6−1記載のとおり1,267,695円となる。
 なお、平成14年7月期の本件債権残高について、原処分庁は平成14年5月14日から同年7月31日までの間は130,000,000円としているところ、当審判所の調査によると平成14年7月16日から同年7月19日までの間は150,000,000円が本件債権の残高となるため、別表6−1記載のとおりとなる。
B 寄附金の損金不算入額の計算
上記Aで計算した受取利息相当額1,267,695円を収益の額及び寄附金の額と認定し、寄附金の損金不算入額を計算したところ、別表7記載のとおり損金不算入額は零円となる。
C 以上により、平成14年7月期の所得金額及び納付すべき税額は、別表8記載のとおりとなり、平成14年7月期は更正処分の全部を取り消すべきである。
(ロ) 平成15年7月期
A 受取利息相当額(収受すべき利息相当額)
 受取利息相当額は、別表4記載の平均借入利率1.829%を適用して計算したところ、別表6−2記載のとおり2,564,847円となる。
 なお、平成15年7月期の本件債権残高について、原処分庁は平成15年3月20日から同年4月16日までの間は180,000,000円としているところ、当審判所の調査によると平成15年4月11日は195,000,000円が本件債権の残高となるため、別表6−2記載のとおりとなる。
B 寄附金の損金不算入額の計算
 上記Aで計算した受取利息相当額2,564,847円を収益の額及び寄附金の額と認定し、寄附金の損金不算入額を計算したところ、別表7記載のとおり損金不算入額は2,425,347円となる。
C 以上により、平成15年7月期の所得金額及び納付すべき税額は、別表8記載のとおりとなり、平成15年7月期の更正処分の納付すべき税額を下回るから、平成15年7月期はその一部を取り消すべきである。
(ハ) 平成16年7月期
A 受取利息相当額(収受すべき利息相当額)
 受取利息相当額は、別表4記載の平均借入利率2.040%を適用して計算したところ、別表6−3記載のとおり3,660,991円となる。
B 寄附金の損金不算入額の計算
上記Aで計算した受取利息相当額3,660,991円を収益の額及び寄附金の額と認定し、寄附金の損金不算入額を計算したところ、別表7記載のとおり損金不算入額は2,637,559円となる。
C 以上により、平成16年7月期の所得金額及び納付すべき税額は、別表8記載のとおりとなり、平成16年7月期の更正処分の納付すべき税額を下回るから、平成16年7月期はその一部を取り消すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
(イ) 平成14年7月期の更正処分は、上記イ(イ)のとおりその全部が取り消されるため、平成14年7月期の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
(ロ) 平成15年7月期及び平成16年7月期の更正処分は、上記イ(ロ)及び(ハ)のとおりその一部が取り消されるため、平成15年7月期及び平成16年7月期の各賦課決定処分の一部を、それぞれ取り消すべきである。
ハ その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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