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(平18.11.27、裁決事例集No.72 410頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、債権を放棄し、その放棄した債権額を貸倒損失の額として損金の額に算入して法人税の申告をしたところ、原処分庁が、同放棄に係る債権額は寄附金の額に当たるとして行った原処分に対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等(以下「争いのない事実等」という。)

イ 請求人は、平成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、建築・土木工事の請負等を業とする法人であった。
ロ 請求人のCに対する損害賠償債権の放棄に関する事実
(イ) 請求人は、Cから、平成15年3月24日、別表1「土地」欄記載の土地(以下「本件土地」という。)上の建物(二階建て三世帯住宅、以下「本件建物」という。)の建築を代金63,210,000円で請け負い(以下「本件請負契約」という。)、契約金として10,000,000円を受領した。
 なお、本件請負契約に係る工事請負契約約款第18条(甲の解除権)には、「甲(C)は、工事中必要によって契約を解除することができるものとし、これによって生ずる乙(請求人)の損害を賠償する。(中略)契約解除の時は、工事の出来形部分は甲の所有とし、甲乙協議の上精算することとする。」と定められている。
(ロ) 請求人は、本件請負契約に係る工事(以下「本件請負工事」という。)に着工し、Cから、本件建物の上棟時に、中間金として10,000,000円を受領した。
(ハ) Cは、請求人に対し、平成15年7月ころ、上記(イ)の契約に基づき、本件請負契約を解除した。
 請求人は、同解除を受け、本件請負工事を未完成のまま中止するとともに、Cに対し、同年10月10日、「御請求書(出来高分)」と題する書面により、合計21,677,282円(内訳は別表2記載のとおり、以下「本件債権」という。)の支払を請求したが、同人からその支払がなかったため、同年11月20日、内容証明郵便により、再度本件債権の支払を督促したが、同人からその支払はなかった。
(ニ) 請求人は、Cに対し、平成15年12月26日、内容証明郵便により、本件債権を放棄した(以下「本件債権放棄」という。)。
ハ Cの本件債権放棄時における資産状況等
(イ) Cは、本件債権放棄の当時、本件建物及び本件土地を含む別表1記載の各不動産(以下「本件土地等」という。)を所有していた。
(ロ) Cは、本件請負契約締結の当時、D社の○○部長であったが、同社から約○○○○円の損害賠償請求を受け、その担保のため、D社との間で、本件土地等につき代物弁済予約契約を締結し、平成15年6月30日付で、本件土地等に同契約を原因とする所有権移転請求権仮登記(以下「本件仮登記」という。)を設定した。また、Cは、同年○月ころ、D社を懲戒解雇された。
ニ 審査請求に至る経緯
(イ) 請求人は、本件事業年度の法人税について、本件債権放棄による貸倒損失の額として20,656,173円を損金の額に算入して、別表3「確定申告」欄記載のとおり確定申告をした。なお、貸倒損失の額20,656,173円は、別表2「工事代金1」から「消費税5%3」欄各記載の金額の合計41,443,282円から同表「既収代金5」欄記載の20,000,000円を控除した残額21,443,282円を売掛金とし、同売掛金に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の額1,021,109円を控除した20,422,173円に、同表「立替金(水道分担金)4」欄記載の234,000円を合計した金額であった。
 また、請求人は、平成15年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、上記消費税等の額1,021,109円を仮受消費税等と経理処理し、そのうち消費税額816,886円を貸倒れに係る税額とし、本件課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除して、別表4「確定申告」欄記載のとおり確定申告をした。
(ロ) これに対し、原処分庁は、本件債権放棄に係る債権額21,677,282円を「寄附金の額」(法人税法第37条第7項)と認定し、別表3及び別表4の各「更正処分等」欄記載のとおり各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした(以下、別表3の「更正処分等」欄記載の更正処分を「本件法人税更正処分」、別表4の「更正処分等」欄記載の更正処分を「本件消費税等更正処分」といい、別表3及び別表4の同各欄記載の過少申告加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。
(ハ) 請求人は、平成17年11月30日に審査請求をしたところ、本件法人税更正処分、本件消費税等更正処分及び本件各賦課決定処分に対する異議申立て及び異議決定の経緯は別表3及び別表4の「異議申立て」欄及び「異議決定」欄各記載のとおりである。

(3) 関係法令等(要旨)

 別紙のとおり。

(4) 争点

 本件債権放棄に係る債権額は「寄附金の額」(法人税法第37条第7項)に当たるか。
 なお、その具体的な争点は、請求人が本件債権放棄により貸倒損失とした本件債権が、同放棄の当時回収不能であったか否かである。

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2 主張

(1) 原処分庁

 Cは、本件債権放棄の当時、本件土地等及び本件建物を所有していたのであり、それらの資産全部を換価してもなお、本件債権について弁済する能力が全くなくなったことが客観的に確認されてはいない以上、本件債権は客観的に回収不能であったとはいえないから、本件債権放棄は、Cに対する経済的利益の無償供与であり、同放棄に係る債権額は「寄附金の額」に当たる。

(2) 請求人

 Cは、本件債権放棄の当時、債務超過の状態にあり、継続的な収入を得る見込みはなかったし、その資産である本件土地等及び本件建物には担保価値がなく、本件建物は、三世帯住宅という特殊な構造のため売却が困難であったし、仮に売却が可能であったとしても、未完成のため、完成させるまでに要する費用を考慮すると、費用倒れになることは明らかであった。逆に、取り壊してもその資材に資産価値はなく、仮に資産価値があったとしても、取壊費用を考慮すると、費用倒れになることが明らかであった。したがって、本件債権は、本件債権放棄の当時、回収不能であったから、本件債権放棄に係る債権額は貸倒損失の額に該当し、「寄附金の額」には当たらない。

3 判断

(1) 争点について

イ 法人がその有する債権を放棄した場合、同債権は消滅し、同法人には、同債権額の「損失」(法人税法第22条第3項第3号)が生ずることになる。
 一方、債権放棄は、債務者に無償の経済的利益を与えるものであるから、それによって債務者に供与された利益の額は原則として「寄附金の額」に該当し、損金算入限度額を超える部分の金額は、所得金額の計算上、損金の額に算入されないことになる(同法第37条第1項)。
 もっとも、当該債権放棄が、その債権の回収不能に基づき行われた場合には、その債権の放棄をもって経済的利益の供与があったということはできないから、同債権放棄に係る債権額は「寄附金の額」に当たらず、貸倒損失の額に当たると解される。
 そうすると、その債権が回収不能でない場合にはその債権額が「寄附金の額」に該当し、回収不能である場合にはその債権額が貸倒損失の額に該当するところ、その債権が回収不能であったといえるためには、債務者の資産負債の状況、信用状況及び事業の性質並びに債権者による回収努力及びこれに対する債務者の対応等の諸事情に照らし、その回収不能の事態が客観的に明らかであったことを要すると解するのが相当である。
 法人税基本通達9−6−1は、上記趣旨を踏まえ、金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れについて定めたもので、その取扱いについては当審判所としても相当と解する。
ロ これを本件についてみると、上記1(2)争いのない事実等記載の各事実に加え、原処分関係資料(特にD社の○○部長であったE、同○○部次長であったF及び請求人の○○部長であったGの原処分庁及び異議審理庁に対する各申述)及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 本件土地等について
 本件土地等の平成15年度の固定資産評価額は、それぞれ別表1「固定資産評価額」欄記載のとおりであった。
(ロ) 本件建物について
A 本件建物は、本件債権放棄の当時、内装工事はほとんど残されていたが、外壁はほぼ完成しており、本件請負工事で予定された工程の約70%が完成した状態であった。
B 本件債権放棄の当時、本件建物を担保とする、本件債権に優先する権利はなかった。
(ハ) 本件土地及び本件建物の処分について
 D社と請求人とは、平成15年7月25日以降、本件土地及び本件建物の処分方法等について協議し、その結果、Cが、株式会社○○○に対し、平成16年10月29日、現状有姿の状態で本件土地及び本件建物を代金27,000,000円で売却し、請求人は、同日、同売却代金のうち13,113,253円を本件債権に対する支払の一部として受領した。
ハ 上記1(2)争いのない事実等ロ(ニ)の事実から、本件債権が法人税基本通達9−6−1(1)から(3)に定める法律的に消滅した債権に当たらないことは明らかである。そうすると、本件債権放棄に係る債権額が貸倒損失の額に当たるというためには同通達(4)に当たること、すなわち本件債権の回収不能の事態が客観的に明らかであったことを要することになる。
ニ 上記1(2)争いのない事実等及び上記ロの事実からすると、本件債権放棄の当時、Cは債務超過の状態にあり、継続した収入の見込みもなく、また、本件土地等及び本件建物のほかに資産を有しておらず、本件土地等にはその担保価値を明らかに上回る本件仮登記が設定されていた。加えて、本件建物は三世帯住宅という構造を有し、未完成であったということができる。
 しかしながら、本件建物は、約70%程度完成していて既に建物として成立し、何らの担保も設定されておらず、本件債権放棄の前後を通じ、その処分についての協議が請求人を交えて継続されていたということからすると、本件債権放棄の当時において、本件建物自体に資産価値がないことが最終的に明らかとはなっていなかったものということができる。
 したがって、本件債権放棄の当時、本件債権の回収不能の事態が客観的に明らかであったということはできないから、本件債権放棄に係る債権額は貸倒損失の額に当たらず、本件債権放棄はCに対する経済的利益の無償供与であり、同放棄に係る債権額は「寄附金の額」に当たる。

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(2) 結論

イ 本件法人税更正処分
(イ) 上記(1)より、本件債権放棄に係る債権額のうち寄附金の損金算入限度額を超える20,962,055円については、本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入することはできない。
(ロ) 本件法人税更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠によってもこれを不相当とする理由はない。
 以上より、本件事業年度における請求人の納付すべき税額は、本件法人税更正処分の納付すべき税額と同額となるので、本件法人税更正処分には、これを取り消すべき理由はない。
ロ 本件消費税等更正処分
(イ) 上記1(2)争いのない事実等ロ(イ)及び(ハ)記載の各事実からすると、本件債権は、本件請負契約の解除に基づくCに対する損害賠償請求に係る未収金であるが、その実質からすれば、課税資産の譲渡等の対価に該当し、上記(1)より、本件債権について「当該課税資産の譲渡等の税込価額の全部又は一部の領収をすることができなくなった」(消費税法第39条第1項)とはいえないから、本件債権のうち請求人が売掛金として計上した21,443,282円に係る消費税額816,886円について、貸倒れに係る税額として本件課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除することはできない(消費税法第39条第1項、同法施行令第59条第6号、同法施行規則第18条第3号)。
(ロ) 本件消費税等更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠によってもこれを不相当とする理由はない。
 以上より、本件課税期間における請求人の消費税等の各納付すべき税額は、本件消費税等更正処分の各納付すべき税額と同額となるから、本件消費税等更正処分には、これを取り消すべき理由はない。
ハ 本件各賦課決定処分
 上記イ及びロのとおり、本件法人税更正処分及び本件消費税等更正処分にはいずれも取り消すべき理由はなく、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠によっても、これを不相当とする理由はないから、本件各賦課決定処分には、いずれもこれらを取り消すべき理由はない。

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