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(平18.9.4、裁決事例集No.72 424頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、E国法人である○○○(平成15年3月31日F社に商号変更。以下「F社」という。)からの仕入れについて、第三者間取引と認識し申告したところ、原処分庁が、この取引は、移転価格税制を定める租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》第1項に規定する国外関連取引であり、請求人から独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等が遅滞なく提示又は提出されなかったとして、同条第7項の推定規定を適用して更正処分等を行ったのに対し、請求人が、調査の過程において守秘義務違反等があったこと、推定規定の要件を充足していないこと及び独立企業間価格の算定方法に合理性がないとして更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年1月1日から平成11年12月31日まで、平成12年1月1日から平成12年12月31日まで、平成13年1月1日から平成13年12月31日まで、平成14年1月1日から平成14年12月31日まで及び平成15年1月1日から平成15年12月31日までの各事業年度(以下、順次「平成11年12月期」、「平成12年12月期」、「平成13年12月期」、「平成14年12月期」及び「平成15年12月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、○○税務署の調査担当職員の調査を受け、平成12年12月期及び平成13年12月期について別表1の「修正申告等」欄のとおり記載した修正申告書を平成14年8月26日に提出した。これに対し、○○税務署長は、平成14年8月30日付で別表1の「修正申告等」欄のとおり、平成11年12月期については更正処分、平成12年12月期については重加算税の賦課決定処分及び平成13年12月期については過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 原処分庁は、平成15年1月16日付の調査課所管法人指定の通知書を国税通則法第12条《書類の送達》第4項に規定する交付送達の方法により、平成15年1月20日に請求人に送達した。
ニ 次いで、○○税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、請求人がF社からDCモーターを輸入した取引が措置法第66条の4第1項に規定する国外関連取引(以下「本件国外関連取引」という。)に該当し、本件国外関連取引の対価の額が独立企業間価格を超える部分の金額(以下「国外移転所得金額」という。)を別表2の「国外移転所得金額」欄のとおり算出して、平成17年3月25日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人は、本件各更正処分等を不服として平成17年5月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月9日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年9月6日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1に記載のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人及びF社の株主構成は、本件各事業年度とも請求人の代表取締役であるGを中心とする同族関係者で占められており、F社は、租税特別措置法施行令(平成16年政令第105号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)第39条の12《国外関連者との取引に係る課税の特例》第1項第2号に規定する請求人と特殊の関係がある外国法人であり、措置法第66条の4第1項に規定する請求人の国外関連者に該当する。
ロ F社は、平成10年6月5日にE国で設立された法人である。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分について
(イ) 更正処分の手続
A 本件調査担当職員は、本件調査に当たり、次のとおり守秘義務違反等を行ったので、本件各更正処分は違法である。
(A) 請求人の販売先を他社に漏らしたこと
a 請求人は、○○用モーターの販売を平成6年7月に開始後、H社からモーターを仕入れ、ギアドモーターに加工の上、○○メーカーに製品を納入してきた。
 しかし、H社の都合により、請求人は、J国所在の○○社(通称、H社J国工場。以下「H社J国工場」という。)から仕入れることになった。○○業界では、納期及び品質管理が非常に厳しいにもかかわらず、H社J国工場では、納期及び品質管理が不十分であり、請求人は、○○メーカーとの取引を維持できる納期及び品質を達成できなかった。その状況を改善し、○○業界において商権を維持することを目的として、H社J国工場の納期遅延改善及び品質改善の直接指導を行うために、Gの子であるKがF社を設立した。
 F社設立後、請求人は、H社J国工場が製造したモーター部品をF社経由で仕入れることとなった。
b 請求人は、平成9年3月からL社経由でM社にモーターを販売する取引を開始した。
 この取引開始に当たり、M社側から同社がH社J国工場のモーター部品を仕入れていることをH社には知られないようにすることが取引の条件である旨の口頭指示があった。本件調査の際には、このことを本件調査担当職員に説明するとともに、機密保持に万全を期すよう要請し、承諾を受けて調査に協力してきた。
 しかしながら、本件調査担当職員は、H社に対して平成16年6月に送付した質問状(以下「本件質問状」という。)に、製品の型番のみを特定すれば十分に情報を収集できる状況にありながら、その製品に係る請求人の販売先まで記載したほか、H社に本件調査担当職員が聞き取り調査を実施した後の平成16年4月2日付で作成した確認書(以下「本件確認書」という。)にも請求人の販売先を記載したことにより販売先を漏らした。
 このことにより、M社との取引が停止となる可能性があることから、その損害は重大である。
 仮に、H社での調査の際に、同社の担当者が憶測で請求人の販売先の話をしたとしても、本件調査担当職員が作成した本件質問状の送付を受けて、同社の○○部長N(以下「N」という。)が請求人の販売先を知ることとなったほか、憶測で話した担当者も初めて確証したのであるから、秘密を漏らしたことに該当する。
 なお、この件に関し、本件調査の過程において原処分庁に抗議をしたところ、原処分庁は、事実関係の調査を行い回答するとしたが、その回答は、本件質問状は出していない及び特定情報は開示していないとするものであり、請求人のその後の調査で、本件質問状及び本件確認書が存在した事実と異なり、その対応は誠実さに欠ける。
c また、本件調査担当職員は、平成16年6月ころ、H社に公的な文書を送付して、請求人の販売先がL社であることを漏らした。
 請求人は、平成16年6月ころ、H社には請求人の販売先がL社であるという事実は一切知らせていなかったため、本件調査担当職員が公的な文書に請求人の販売先を記載したことは、秘密を漏らしたことに該当する。
(B) 他社間の取引情報を請求人に漏らしたこと
 請求人は、平成17年1月14日に原処分庁に対して「モーターの販売単価比較」と題する書類で、販売先であるL社のM社に対する販売単価が○○円から○○円の間ではないかと推測して資料を提出したが、本件調査担当職員との議論の過程で販売単価が○○円であるとの確証をもった。
 このことは、秘密を漏らしたことに該当する。
(C) 他社の売上総利益率を更正の理由附記において請求人に開示したこと
 原処分庁は、F社を検証対象法人とし独立企業間価格を算定したことから、更正の理由附記において独立企業間価格の計算の根拠を示したとしているが、請求人とF社は資本関係がないため、F社は請求人に財務諸表を報告する義務がないことから、F社の売上総利益率は、請求人が知らなかった情報であり、秘密を漏らしたことに該当する。
(D) 質問検査権の範囲を逸脱した調査を行ったこと
 本件調査担当職員は、次のような法人税法第153条《当該職員の質問検査権》第1項の質問検査権の範囲を逸脱した調査を行った。
a 請求人の代表者に対し、指をさして高飛車に発言するなどのどうかつ及び脅迫に近い言動を行い、本件調査は、人権を無視した調査というより、「高圧的な取調べ」との印象をもつものであった。
b 請求人から予定する回答が得られないと、同じことを何度も質問し、税務当局に有利になる回答が得られるように誘導しようとした。
c 税務当局には、推定規定を適用して更正する権利があるといって、プレッシャーをかけた。
d 調査期間の引き延ばしによって、原処分庁に有利な状況を作ろうとしたほか、調査が余りにも長期すぎたため、請求人は業務上支障を来し、また、精神的に苦痛を受け、業績にも影響した。
e 請求人が書面で質問したものに対し、本件調査担当職員は答える必要がないという回答に終始したほか、最終的な陳述の機会が与えられず、機密保持の件を確認すると、一方的に更正処分を受けた。
f 反面調査等を行う際には、請求人の了解を得てから行うという約束を無視した。
g 本件調査担当職員から、名刺交換しかしていないのに、Gほかの自宅の住所、年齢など、話もしていない情報が入っている調査内容をまとめた書類に署名押印するよう要請された。
B 本件各更正処分の理由附記には、次の重大な瑕疵があるので、本件各更正処分は違法である。
 原処分庁は、独立企業間価格の算定に当たり、措置法施行令第39条の12第11項の規定に基づいて通常の利益率を算定した旨主張するが、更正の理由附記においては、その点が明示されていない。
(ロ) 独立企業間価格の推定の必要性
 次の理由により、独立企業間価格の推定の必要性は認められないので、推定規定を適用した本件各更正処分は違法である。
A 再販売価格基準法による反論
 請求人とM社は、モーターを仕入れてギアモーターを製造していること及びF社とL社は、確実な納期と品質をもって○○メーカーにモーターを納入しているという機能の観点から、DC001モーターに関するL社とM社間の取引が、DC002モーター等に関するF社と請求人間の取引の比較対象取引として適切であり、再販売価格基準法により独立企業間価格を算定することが合理的である。
 なお、別紙2の1の「取引フロー」のとおり、DC001モーターの取引は、F社から請求人を経由してL社にモーターが転売され、M社に販売されているため、この取引のL社とDC002モーター等の取引におけるF社とでは、取引段階に違いが生じているが、これは、H社に納入先を特定されないようにするためであり、F社とL社はどちらも卸売業者であり、その機能において相違点はなく、経済的な取引段階の差異はない。
 また、製品の納入先も日本であるから、取引市場も日本国内の市場で同じである。
 DC001モーターの取引におけるL社からM社への販売単価は、原処分庁の情報では○○円であり、L社は請求人から○○円で仕入れていることから、この取引における売上総利益率は○%となる。納期遅れによる損害賠償責任は第一義的に製造業者(M社)に部品を納入する業者(L社)にあるため、納期管理及び品質管理の対価もこの売上総利益率に含まれることになる。
 なお、請求人はモーターをM社に直送しているので、L社は請求書発行業務を行っているにすぎず、販売費及び一般管理費をほとんど使っていないので、F社の販売費及び一般管理費相当分について売上総利益率に対して調整する必要がある。さらに、L社では負担していない返品リスクの差異を調整するため、請求人がF社から購入した製品に対するF社への返品金額を調整する必要がある。
 以上の算定方法に基づいてF社の差異調整後の推定売上総利益率を計算すると、別紙2の2「F社の差異調整後の推定損益計算書」のとおり、その平均は○%となり、L社の比較対象取引に関する売上総利益率の○%を下回っていることから、F社と請求人の取引は、独立企業間価格で行われたことを示しているといえる。
B 取引単位営業利益法による反論
 請求人が競合他社(○○機器用モーター部品メーカー)として認識している会社のうち、売上規模が異なる企業や不動産賃貸のように異なる事業に従事している企業を除いた2社の平均営業利益率によるレンジは、−○%から○%である。
 一方、請求人の国内関連企業を含む3社の平均連結営業利益率は○%と、これをはるかに超えている。
 他社からモーターを仕入れている請求人と異なり、自社でモーターを製造している法人でさえ、このような低い利益率になっていることから、レンジの上限をはるかに超える営業利益率を計上している請求人グループ3社は、独立企業間価格に基づいた利益を十分に得ており、F社のリスク負担分以上の所得を国外に移転しているとは考えられない。
C 独立企業間価格の算定に必要な帳簿書類等の提示又は提出
(A) F社は、税法上、請求人にとっての国外関連者に該当する。このため、請求人は、原処分庁から、F社の財務諸表、F社が行っている納期及び品質管理指導の判明する資料について提示又は提出を求められた際、F社に対し情報提供を依頼し、措置法第66条の4第8項にいう入手努力義務は果たした。
 なお、F社は、請求人と資本関係のある子会社ではなく、請求人に財務諸表等を開示する義務を負っていない。
 また、F社は、Gの子であるKが設立したものであり、株主としてG、Gの子で請求人の専務取締役であるS、Gの妻で請求人の元取締役であったT(平成14年11月○日死亡)が登記されているが、これらの株式は名義株であり、Kが実質的に所有していること、また、現地での登記手続上からG及びSの両名が取締役として登記されているが、両名は単なる名義上の取締役にすぎず、同社の経営には一切関与していないことから、代表者等も情報を入手できなかったものである。
(B) 措置法第66条の4第7項で規定する提示又は提出する帳簿書類又はその写し(帳簿書類又はその写しを、以下「帳簿書類等」という。)は、我が国の納税者が作成・保管しているものをいい、その帳簿書類等を提示又は提出しない場合に推定規定が適用できるのである。
 しかしながら、本件調査において提示又は提出を求められた帳簿書類等は、請求人が法令に基づき作成・保管を要求されていない、措置法第66条の4第8項で規定している外国で作成されているものであり、あくまでも入手努力義務があるにすぎない。
(C) また、本件調査担当職員からF社との取引価格算定に関する資料の提示又は提出を求められたが、上記(A)のことから、F社との取引は、独立した第三者間取引と認識していたため、このような場合には、見積書を提示して取引することが通常の商慣習であり、見積価格の算定根拠資料を作成して提示することはないので、これらの資料の提示又は提出を求められても提示又は提出できない。
したがって、措置法第66条の4第7項の要件を満たしていない。
(ハ) 独立企業間価格の推定方法
 次の理由により、原処分庁が行った独立企業間価格の推定方法に合理性は認められない。
A 推定規定における、国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む法人で事業規模その他の事業の内容が類似するもの(以下「比較対象法人」という。)の選定に当たっては、業種の類似性が重要であり、請求人の取扱製品が○○業界で使用されていることから、このような特殊な業界にあっては、業態の類似性の検討も極めて重要であり、業態も類似していない法人を選定したことには合理性がない。
B 原処分庁が選定した比較対象法人は、我が国の親会社と国外関連取引を行っている法人であり、独立企業間価格で取引されているという保証はないので、独立企業間価格算定の基礎に用いるのは不適切である。そもそも、移転価格税制の趣旨からみて、関係会社間の取引価格は独立企業間価格ではないことから、関係会社間の取引価格に基づいて独立企業間価格を推定したことは矛盾している。
C F社は、短納期対策及び品質管理機能をもち、H社J国工場に対する具体的対策の策定及び生産工程に関する改善指示については、請求人の指示なく自己判断で行っており、請求人は、具体的な指示内容は情報として有していないが、重要な機能を果たしていると認識している。また、F社は、請求人又は請求人の販売先の都合による不良在庫(過剰在庫)の引取り義務(返品リスク)、空輸コストの負担及び市場でのクレーム保証等を負った非常にリスクの高い販売業者である。
 なお、原処分庁がいう1F社は在庫保有がないということについては、請求人からの不良在庫引取りの事実があること、2「取引条件」(契約書)が二種類存在するのは、ドラフト版、最終版にすぎないことから事実誤認がある。
 これに対し、比較対象法人は、在庫リスク、短納期対応等を負わない商社であり、かつ、関連者に販売又は関連者から仕入れるという非常に限定された機能及びリスクしか負っていないので、比較可能性がない。
 仮に、比較可能性があったとしても、原処分においては、返品リスクに関する比較対象法人との機能とリスクの差異の調整が全くなされていないので、独立企業間価格の算定方法に合理性はない。
以上のことから、原処分庁の比較対象法人の選定及び独立企業間価格の算定方法には合理性がなく、また、再販売価格基準法あるいは取引単位営業利益法によっても請求人の利益を国外に移転しているとは認められない。
(ニ) 所得金額及び納付すべき税額
 以上のことから、本件各更正処分はいずれも違法であり、本件各事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、平成11年12月期、平成12年12月期及び平成13年12月期は、別表1の「修正申告等」欄並びに平成14年12月期及び平成15年12月期は、同表の「確定申告」欄のとおりとなるから、本件各更正処分は、その全部を取り消すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 本件各更正処分は、上記イのとおり、いずれも違法であるから、本件各賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分について
(イ) 更正処分の手続
A 次のとおり、守秘義務違反等の事実は認められないので、本件各更正処分は適法である。
(A) 請求人の販売先を他社に漏らしたこと
a 本件質問状は、本件調査担当職員が、それまでのH社に対する調査における同社の担当者の申述内容を踏まえて作成したものである。
 また、請求人は、Nが平成16年6月の本件質問状で初めて請求人の販売先を知った旨主張しているが、それまでの調査の際には、Nも立ち会っていること及び調査での申述内容をまとめた本件確認書には請求人の販売先が記載されており、Nは本件確認書の内容について確認し署名押印していることが認められる。
 そうすると、本件質問状及び本件確認書は、あくまでも、H社側が申述した内容を基に作成したものにすぎず、これらに販売先を記載した行為は、秘密を漏らしたことには該当しない。
 なお、請求人の抗議に対しては、本件調査担当職員の合理的な判断のもとに適正に対応しているから、対応に関して違法はない。
b 請求人は、本件調査担当職員が、請求人の販売先がL社であることを公的な文書によりH社に漏らしたと主張するが、当該文書は、本件調査の過程において、本件調査担当職員とH社の担当者との質問応答の内容の要旨について整理したものであり、本件調査担当職員から個別の販売先を先に話したという事実は認められないので、秘密を漏らしたことには該当しない。
(B) 他社間の取引情報を請求人に漏らしたこと
 L社がM社へ販売する単価については、請求人が作成し、平成17年1月14日に原処分庁に提出した「モーターの販売単価比較」と題する資料に記載されていたものであり、本件調査担当職員が秘密を漏らした事実は認められない。
(C) 他社の売上総利益率を更正の理由附記において請求人に開示したこと
 更正の理由附記制度の趣旨は、1更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制すること、及び2処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与えることにある。
 この趣旨を踏まえ、更正の理由附記において、独立企業間価格の算定過程を示したものであり、F社が有する秘密を開示したものとは認められない。
(D) 質問検査権の範囲を逸脱した調査を行ったこと
 本件調査担当職員が、請求人の主張するような質問検査権の範囲を逸脱した調査を行った事実は認められないので、調査手続に違法はない。
B 本件各更正処分の更正の理由には、措置法第66条の4第2項第1号に掲げる方法により独立企業間価格を算定することができなかったこと及び同条第7項を適用したことを明示しており、同項で規定している売上総利益率又はこれに準ずる割合については、措置法施行令第39条の12第11項に規定されていることが明らかであるから、更正の理由附記に不備はない。
(ロ) 独立企業間価格の推定の必要性
A 再販売価格基準法による反論
(A) DC002モーター等のF社と請求人間の取引とDC001モーターのL社とM社間の取引を比較すると、1前者の取引では、F社はメーカーから仕入れる一次卸売業者であるが、後者の取引では、L社は二次卸売業者(請求人)から仕入れる三次卸売業者であり、両者の取引段階が異なっていること、及び2前者の取引では、F社の請求人への売上げは輸出取引であるが、後者の取引では、L社のM社への売上げは国内取引であり、両者の取引形態及び取引市場は異なっていると認められる。
 さらに、L社は、自ら価格交渉を行い、自己の責任において受注予測を立てその結果に基づき発注の手配を行っている者であり、その業務形態において大きく異なると認められ、F社と比較することは適切でない。
(B) 再販売価格基準法において採用されるべき比較対象利益率は売上総利益率であるところ、F社の推定売上総利益率は売上総利益から販売管理費相当額を減算した金額、すなわち営業利益を基に計算されている。
 請求人は、上記減算について、L社との比較可能性を高めるための差異調整である旨主張するが、売上総利益から減算しているF社の推定販売費及び一般管理費の算出の基になっているF社の売上高販管費率○%の算定根拠が不明であること、また、当該販売管理費の調整を加えるに当たり、比較対象法人であるL社の販売管理費を一切考慮していないことの根拠が不明である。
 さらに、返品リスクの差異を調整しているが、調整すべき返品リスクの事実が認められない。
以上のことから、請求人の主張する再販売価格基準法により独立企業間価格を算定することは合理的でない。
B 取引単位営業利益法による反論
 取引単位営業利益法における営業利益率の比較に際しては、比較対象法人が営業規模、営業形態、取引市場等において類似性を有している必要があるが、請求人が主張する取引単位営業利益法による分析は、これらの営業規模等の相違点を考慮していないので合理的でない。
C 独立企業間価格の算定に必要な帳簿書類等の提示又は提出
(A) 請求人に対する税務調査(○○税務署の調査担当職員の調査を含む)の過程において、○○税務署の調査担当職員は、平成14年4月及び同年6月の2回、並びに本件調査担当職員は、平成15年1月から平成16年9月までに9回にわたり、独立企業間価格を算定するために必要と認められるF社の財務諸表及び取引価格算定に関する資料を提示又は提出するよう、口頭又は文書により請求人に依頼した。しかし、請求人からこれらの書類が提示又は提出されなかったので、措置法第66条の4第7項の要件を満たすとして、同項の規定を用いて独立企業間価格を推定したものである。
(B) なお、推定規定の適用に当たっては、原処分庁が措置法第66条の4第8項の規定により帳簿書類等の提示又は提出を要請した場合、その要請した資料の内容が法人と国外関連者との取引に係る独立企業間価格の算定に必要な資料であって、請求人がそれをも含め独立企業間価格を算定するために必要となる資料を提示又は提出しなかった場合には、同条第7項に規定する独立企業間価格の算定に必要と認められる帳簿書類等の提示又は提出がなかったとして、同項に規定する一定の条件を満たす同業者の利益率を用いて算定した価格を独立企業間価格と推定して更正又は決定をすることができることとされている。
(C) また、請求人は、価格設定については、F社と口頭での価格交渉の結果合意したもので、価格算定の検討資料は作成していないこと及び同社からの「Quotation」があるだけである旨の回答であり、具体的な価格算定根拠等に関する資料の提示又は提出及び説明を行っていない。
以上のことから、原処分庁が、措置法第66条の4第7項の推定規定の要件を充足すると判断し、同項の規定に基づき独立企業間価格を推定したことは適法である。
(ハ) 独立企業間価格の推定方法
 次の理由により、独立企業間価格の推定方法には、合理性がある。
A 本件各更正処分においては、F社がE国で行う国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む法人で、事業規模その他の事業の内容が類似するものの当該事業に係る通常の利益率(売上総利益の額の原価合計額に対する割合)を基礎として措置法第66条の4第2項第1号ハに規定する原価基準法と同等の方法により算定した金額を独立企業間価格と推定したものである。
B また、本件各更正処分における比較対象法人は、いずれも本件国外関連取引の対象資産と同様のモーターの販売業者であり、その事業規模、取引段階及び取引形態においても本件国外関連取引と類似していることから、比較対象法人の選定は合理的に行われている。
 なお、推定規定を定めた措置法第66条の4第7項及び措置法施行令第39条の12第11項では、比較対象法人の事業が非関連者間で構成されていなければならないという要件は付されていない。
C 本件調査によると、F社は在庫保有の事実が認められないほか、F社がH社J国工場に対して行った納期及び品質管理指導の具体的内容を請求人が把握していないことが認められる。
 さらに、F社が負うとするリスクについても、1請求人とF社の取引に関する「取引条件」(契約書)が二種類存在する上、作成経緯等が明らかでないこと、2平成15年1月にF社がH社に対し発行した注文書の注書きには、H社の責任に基づく不良在庫の引取り等の損害はH社が負うとの記載があり、F社がすべてのリスクを負うものではないこと、及び3納期遅延・品質不良に対する補償は、実際の発生態様に応じて損害賠償等の措置がとられるのが通常であり、補償リスクをあらかじめ仕入価格に含めるとすれば、当該リスクの発生の確実性・金額の合理性が担保されていなければならないが、F社からの仕入価格の算定根拠等について具体的な説明がないこと等から、同社は非常にリスクが高い販売業者であるとの主張には理由がない。
 以上のことから、F社は在庫を保有しない卸売業者であると認められ、その機能は比較対象法人と同等のものと考えられることから、独立企業間価格の算定に当たって差異の調整の必要性はない。
D 加えて、本件各更正処分は、措置法第66条の4第7項の規定に基づき独立企業間価格を算定したものであり、措置法施行令第39条の12第11項では、措置法第66条の4第2項を受けた措置法施行令第39条の12第7項で規定している「通常の利益率」のように差異の調整が必要である旨の条件は付されていない。
以上のことから、原処分における比較対象法人の選定及び独立企業間価格の算定方法には合理性があり、請求人が主張する再販売価格基準法及び取引単位営業利益法には理由がない。
(ニ) 所得金額及び納付すべき税額
 以上のことから、本件各事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、別表1の「更正処分等」欄のとおりとなり、本件各更正処分はいずれも適法である。
ロ 本件各賦課決定処分について
 本件各更正処分は、上記イのとおり、いずれも適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件調査担当職員が平成15年4月18日に実施したH社に対する反面調査の内容をまとめた書類には、請求人から受注しているモーターの一部はM社向けのものである旨のH社の担当者の申述が記載されている。
 なお、反面調査には、Nも立ち会っている。
ロ 本件確認書は、本件調査担当職員がH社に対して行ったそれまでの調査において同社の担当者の申述内容について、平成16年4月2日付で本件調査担当職員とH社の応答担当者が確認した内容をまとめたものであり、請求人から受注しているモーターの一部はM社向けである旨の記載があるほか、Nの署名押印もある。
ハ 本件質問状は、本件調査担当職員が、平成16年6月4日のH社に対する反面調査に先立ち、それまでのH社の担当者の申述内容を踏まえ質問事項を作成して、事前に送付したものであり、モーターの品番とともにM社向けの記載がされている。
ニ 請求人は、平成16年7月5日付で本件調査の過程において機密情報が漏洩された旨の抗議文を本件調査担当職員あてに提出している。
 これを受けて、平成16年8月18日に○○国税局の会議室において、本件調査担当職員の上司である○○課長は、Gほかに対し、本件調査担当職員から特定の販売先名を先に話した事実はない旨の回答をしたほか、更に事実関係を調べて回答する旨発言したことが、本件調査担当職員が作成した会議録と題する書面に記載されている。
 また、その後の調査結果について、平成16年8月20日に本件調査担当職員は、電話によりSに対し、H社にM社等の納入先を特定した質問状及び照会文書を出したことはない旨回答している。
ホ 本件調査担当職員が、平成16年6月4日にH社で行った調査の応答内容の要旨をまとめた書類には、L社の名前が記載されている。
ヘ 請求人は、平成17年1月14日に原処分庁に対し「モーターの販売単価比較」と題する資料を提出しており、その中でL社がM社へ販売する際の単価を「○○〜○○?」と表示している。
ト 原処分庁は、請求人に対し、平成15年1月31日付の文書で本件調査の開始日(同年2月17日)に、F社の財務諸表及びF社との取引価格の算定資料を提示するよう依頼したが、提示がなかったので、その後平成16年9月2日までの間、次のとおり6回にわたり、当該資料等の提示又は提出を求めたが、請求人は、原処分庁に対し、提示又は提出していない。
1平成15年4月10日
2平成15年6月9日
3平成16年4月9日
4平成16年6月2日
5平成16年8月18日
6平成16年9月2日
チ 本件調査担当職員は、平成15年4月10日の調査の際、請求人に対し、F社の財務諸表等が提示又は提出されない場合には、措置法第66条の4第7項の規定の適用もあることを説明している。

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(2) 本件各更正処分について

イ 更正処分の手続
(イ) 請求人の販売先を他社に漏らしたこと
A 請求人は、本件調査担当職員が、H社に対して平成16年6月に本件質問状を送付した際、製品の型番のみを特定すれば十分に情報を収集できる状況にありながら、その製品に係る請求人の販売先(M社)も記載するほか、本件確認書にも請求人の販売先(M社)を記載することにより販売先(M社)を他社に漏らした旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイからハのとおり、1平成15年4月18日に実施したH社での調査の際に、同社の担当者は、請求人から受注しているモーターの一部はM社向けのものである旨を申述していること、2本件質問状は、平成16年6月のH社への調査に先立ち、それまでの同社の調査での申述内容を踏まえて作成し、送付したものであると認められること、及び3本件確認書は、H社の調査での申述内容をまとめたものであり、調査に立ち会ったNも署名押印していることから、あくまでも、H社側の申述内容をH社に示したものにすぎず、本件調査担当職員の行為に守秘義務違反があったとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、本件調査の過程において、守秘義務違反に関し、原処分庁に抗議した際の対応は不誠実である旨の主張をする。
 しかしながら、上記(1)のニのとおり、本件調査担当職員の上司である○○課長及び本件調査担当職員が、守秘義務違反の有無について確認した結果、その事実はない旨の回答を行っており、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B さらに、請求人は、本件調査担当職員がH社に対して公的な文書を送付したことにより、請求人の販売先がL社であることを漏らした旨主張するが、請求人のいう公的な文書とは、上記(1)のホのとおり、本件調査担当職員とH社の担当者の応答内容の要旨を取りまとめたものであり、本件調査担当職員が個別の販売先を漏らしたとする事実は認められないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 他社間の取引情報を請求人に漏らしたこと
 請求人は、請求人の販売先であるL社がM社へ販売する際の単価が○○円から○○円ではないかとの推測をもって、原処分庁に対して平成17年1月14日に「モーターの販売単価比較」と題する資料を提出したところ、本件調査担当職員との議論の中で当該販売単価は○○円であるとの確証を得たので、秘密を漏らしたことに該当する旨主張するが、上記(1)のへのとおり、当該販売単価は、請求人が提出した資料に記載されていた単価であり、本件調査担当職員が請求人に情報を漏らした事実は認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 他社の売上総利益率を更正の理由附記において請求人に開示したこと
A 法人税法第130条《青色申告書等に係る更正》第2項は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。
 青色申告制度においては、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障しているところであり、法人税法第130条第2項の規定は、このような青色申告制度の趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨によるものと解されている。
 したがって、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示する必要があると解するのが相当である。
B これを本件についてみると、本件各更正処分の更正通知書には、1F社は、措置法施行令第39条の12第1項第2号に規定する国外関連者に該当すること、2更正の対象とした国外関連取引は、DCモーターをF社から輸入する取引とし、当該取引に係る請求人の売上原価の額を本件国外関連取引の対価の額としたこと、3請求人から独立企業間価格算定に必要な書類等が遅滞なく提示又は提出されなかったことから、措置法第66条の4第2項第1号に掲げる方法により独立企業間価格を算定することができなかったので、同条第7項の規定を用いて、F社がE国で行う本件国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む法人で、事業規模その他の事業の内容が類似するものの当該事業に係る通常の利益率(売上総利益の額の原価合計額に対する割合)を基礎として同条第2項第1号ハに規定する原価基準法により算定した金額を独立企業間価格と推定したこと、4本件国外関連取引に係る対価の額から独立企業間価格を差し引いて国外移転所得金額を算出したこと、5独立企業間価格の算定の基礎となる同業他社の通常の利益率は、本件各事業年度別に採用したa社のA事業、b社のB事業及びc社のC事業(以下、これらの事業を「A事業等」という。)の通常の利益率を平均した数値としたこと、6A事業等は、E国において、OA機器用及び車載用モーターを含む電子部品等に係る輸入又は輸出をしている卸売業であり、本件国外関連取引に係る事業と同種と認められること、及び7A事業等の売上高は、F社の事業の売上規模に類似しており、また、A事業等に係る取扱製品、取扱製品の取引形態は、本件国外関連取引に係る事業と類似していると認められる旨の理由が附記されている。
 そうすると、本件各更正処分の更正の理由は、原処分庁がどの事実に対してどのような過程で国外移転所得金額を算定して本件各更正処分を行ったかについて、その根拠及び判断過程が理解できるよう理由附記制度の趣旨目的に則して記載されたものであると認められる。
C 請求人は、更正の理由附記において、他社の売上総利益率を記載したことは、守秘義務違反に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件各更正処分の更正の理由に、国外関連者であるF社の取得原価の額及び本件国外関連取引の対価の額が記載されているのは、F社を検証対象法人とし、比較対象法人の通常の利益率(売上総利益の額の総原価の額に対する割合)を基に原価基準法により算定した金額を独立企業間価格と推定して更正したから、検証対象法人であるF社の総原価の額の記載のない理由附記は、上記Aの更正の理由附記制度の趣旨目的からみて、記載不備になるものと解されることから記載したものであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ) 質問検査権の範囲を逸脱した調査を行ったこと
 請求人は、質問検査権の範囲を逸脱した調査が行われたので、それに基づく課税処分が違法である旨主張する。
 しかしながら、質問検査の方法、程度等については、質問検査の必然性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、これを行使する調査担当職員の合理的な判断にゆだねられていると解するのが相当であり、本件調査担当職員が、本件調査において、法人税法の規定に反し、上記の合理的な判断にゆだねられた範囲を超えた違法、不当な方法で調査を行ったと認めるに足る証拠はなく、本件調査は、法人税法第153条第1項に規定する質問検査権に基づき適正に行われたものと認められるから、本件調査に請求人が主張するような違法は認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ) 更正の理由附記
 請求人は、原処分庁が行った独立企業間価格の算定に当たり、措置法施行令第39条の12第11項の規定に基づいて通常の利益率を算定したことが更正の理由附記に記載されていないため、理由附記に瑕疵がある旨主張する。
 しかしながら、上記(ハ)のBのとおり、本件各更正処分の更正の理由には、請求人から独立企業間価格算定に必要な書類等が遅滞なく提示又は提出されなかったことから、措置法第66条の4第2項第1号に掲げる方法により独立企業間価格を算定することができなかったので、同条第7項の規定を用いて独立企業間価格を算定したことを明示しており、該当する措置法施行令を記載しなかったとしても、具体的な計算過程を示していることから、上記(ハ)のAの更正の理由附記制度の趣旨目的に照らし違法とはいえないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 独立企業間価格の推定の必要性
(イ) 措置法第66条の4第7項は、税務職員が法人に各事業年度における国外関連取引に係る同条第1項に規定する独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等の提示又は提出を求めた場合において、当該法人がこれらを遅滞なく提示し、又は提出しなかったときは、税務署長は、同種の事業を営む法人で、事業規摸その他の事業の内容が類似するものの当該事業に係る売上総利益率又はこれに準ずる割合を用いて算定した金額を国外関連取引に係る独立企業間価格と推定して、更正又は決定をすることができる旨規定しているところ、この規定の趣旨は、1移転価格税制が、海外に所在する関連企業との取引について、多様な要因により決定される取引価格の妥当性を問題とする制度であり、問題となる取引価格の決定根拠や他の通常の取引価格に関する情報について納税者側から資料提供という形で協力が行われることが極めて重要であること、また、2仮に納税者からかかる協力が行われない場合に税務当局が何の手だてもなくこれを放置せざるを得ないことになれば、移転価格税制の適正公平な執行を担保し難いことから設けられたものと解される。
(ロ) さらに、措置法第66条の4第8項は、税務職員は、法人と当該法人に係る国外関連者との間の取引に関する調査について必要があるときは、当該法人に対し、当該国外関連者が保存する帳簿書類等の提示又は提出を求めることができることとされており、この場合において、当該法人は、当該提示又は提出を求められたときは、当該帳簿書類等の入手に努めなければならない旨規定しているところ、この規定の趣旨は、1移転価格税制を適正かつ円滑に運用するためには、国外関連者の有する資料の入手が極めて重要な場合があること、また、2支配・被支配の立場の問題があるにしても、法人とその国外関連者とは密接な関係を有していること等にかんがみ、国外関連者の保存する資料の入手努力規定として設けられたものと解される。
(ハ) そして、独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等とは、国外関連者が保有するものも含め、合理的、客観的に判断してその算定に必要な帳簿書類等であり、その帳簿書類等がなければ独立企業間価格の算定ができないものを意味し、たとえ、法人が自己の独立企業間価格の算定に用いた帳簿書類等を提示又は提出した場合であっても、その用いたデータ等が不適当な場合には、独立企業間価格の算定に必要と認められる帳簿書類等を提示又は提出したことにはならないと解される。
(ニ) また、遅滞なく帳簿書類等を提示又は提出すべき時期については、要求された資料の内容と量の関係から妥当な期間が判定されることになると解される。
 一方、その提示又は提出を求められた場合には、当該帳簿書類等の提示又は提出の準備に通常要する期間を考慮した上、要求後可及的すみやかに行うべきものと解される。
(ホ) これを本件についてみると、次のとおりである。
A 上記(1)のト及びチのとおり、本件調査担当職員は、請求人に対し独立企業間価格の算定に必要があるとして、平成15年1月から平成16年9月までの期間、7回にわたり、F社の財務諸表及び請求人とF社の取引価格の算定資料の提示又は提出を求め、F社の財務諸表等が提示又は提出されない場合には、推定規定の適用もあることを説明しているが、請求人からF社の財務諸表及び請求人とF社の取引価格の算定資料が提示又は提出された事実は認められない。
B 請求人は、独立企業間価格の算定方法として、DC001モーターに関するL社とM社間の取引が、DC002モーター等に関するF社と請求人間の取引の比較対象取引として適切であり、再販売価格基準法により算定することが合理的であると主張するが、1別紙2の1の「取引フロー」にあるように、DC002モーター等の取引において、F社は、メーカーから仕入れる一次卸売業者であるが、DC001モーターの取引において、L社は、二次卸売業者(請求人)から仕入れる三次卸売業者であり、F社とL社の取引段階が異なっていること、及び2DC002モーター等の取引では、F社の請求人への売上げは輸出取引であるが、DC001モーターの取引では、L社とM社は内国法人であると認められ、L社のM社への売上げは国内取引であり、取引市場が異なっていることから、比較対象取引としての類似性を有するものとは認められない。
 また、請求人は、別紙2の2の「F社の差異調整後の推定損益計算書」の作成過程において、推定販売管理費及び返品に係る差異の調整を加えているが、当該差異の調整の算定根拠が不明でその合理性も認められないことから、請求人の主張は採用することはできない。
 さらに、請求人は、独立企業間価格の算定方法として、取引単位営業利益法による主張をしているが、比較可能性を検証する事項についての言及もないまま、単に請求人と国内関連企業2社の計3社の平均連結営業利益率と請求人が競合他社と認識している2社の営業利益率を比較しているものであり、請求人の主張には合理性がなく、これについても採用することはできない。
C 請求人は、1措置法第66条の4第7項に規定する帳簿書類等とは、我が国の納税者が作成・保管することを要求されているものをいうのであり、法令に基づき作成・保管が要求されていない帳簿書類等を請求人が提示又は提出しないということを理由として同項の推定規定を適用したことは違法である旨、及び2我が国の納税者が保有していない外国で作成されている資料は、同条第8項に規定する帳簿書類等をいうのであり、あくまでも入手努力義務があるにすぎない旨主張する。
 また、F社との取引価格の算定資料については、同社との取引を独立した第三者間の取引と認識していたため、F社の見積書以外はない旨主張する。
 しかしながら、本件調査担当職員が提示又は提出を求めた資料は、F社の財務諸表及びF社との取引価格の算定資料であるところ、これらは、独立企業間価格の検討を行う上で基本となる資料であると認められ、国外関連者が有する帳簿書類等であっても、措置法第66条の4第7項の帳簿書類等に含まれ、独立企業間価格の算定に不可欠な帳簿書類等が遅滞なく提示又は提出されない場合には、同項の推定規定の要件を充足すると解されるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
D そうすると、請求人が、原処分庁に対し措置法第66条の4第7項に規定する独立企業間価格の算定に必要な帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出したとは認められない。
 また、原処分庁は、請求人から独立企業間価格の算定に必要な帳簿書類等の提示又は提出を受けることができず、他に比較対象取引となり得る取引も見出せなかったことから、本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定に当たって措置法第66条の4第2項第1号イ、ロ、ハ及びニに掲げる方法のいずれも適用することができなかったものであり、当審判所の調査の結果によっても、当該独立企業間価格の算定について当該各方法のいずれも適用することができないと認められる。
 したがって、原処分庁が、本件調査によりF社の総原価の額を把握し、措置法第66条の4第7項の規定により独立企業間価格を推定したことは適法である。
ハ 独立企業間価格の推定方法
(イ) 措置法第66条の4第7項は、国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む法人で、事業規摸その他の事業の内容が類似するものの当該事業に係る売上総利益率又はこれに準ずる割合として政令で定める割合を基礎として再販売価格基準法又は原価基準法により算定した金額を独立企業間価格と推定する旨規定している。また、売上総利益率又はこれに準ずる割合として措置法施行令第39条の12第11項では、1売上総利益の額の総収入金額に対する割合、又は2売上総利益の額の総原価の額に対する割合とする旨規定している。
(ロ) これを本件についてみると、次のとおりである。
A 本件国外関連取引がF社と請求人との間のモーターの売買取引であるという観点から、上記イの(ハ)のBのとおり、本件各更正処分における比較対象法人は、いずれも本件国外関連取引の対象資産と同様のモーターを販売している業者が選定されており、F社と同種の事業を営む法人と認められる。また、比較対象法人は、その事業規摸、取引段階及び取引形態においても本件国外関連取引と同様と認められ、事業規模その他の事業の内容が類似したものが選定されていると認められる。
 さらに、上記イの(ハ)のBのとおり、本件各更正処分においては、措置法第66条の4第7項を適用し、比較対象とした事業に係る売上総利益の額の総原価の額に対する割合を基礎として原価基準法の方法により算定した金額を独立企業間価格とし、請求人がF社に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるとして、国外移転所得金額を算出していると認められる。
 そうすると、本件各更正処分における比較対象法人の選定及び本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法には、合理性があると認められる。
B なお、請求人は、原処分庁が選定した比較対象法人は、在庫リスク、短納期対応等を負わない商社であり、かつ、関連者に販売又は関連者から仕入れるという非常に限定された機能及びリスクしか負っていないので比較可能性がない旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張するF社の短納期対策及び品質管理機能については、1請求人からF社の具体的指示内容についての資料の提出及び説明がないこと、並びに2F社との価格算定に関する資料の提出もなく、具体的に、どの程度のリスクを負っているかは不明であり、請求人の主張は採用できない。
C また、請求人は、1比較対象法人の業態が異なることから、比較可能性がないこと、及び2比較対象法人は、日本の親会社と国外関連者間取引を行っている法人であり、移転価格税制の趣旨から判断して、関係会社間の取引価格は独立企業間価格ではないので、関係会社間取引価格に基づいて独立企業間価格を推定することは矛盾している旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、原処分庁が行った比較対象法人の選定には合理性があると認められ、推定規定の適用に当たって、措置法施行令第39条の12第11項では、独立企業間価格の算定方法を定めた原価基準法に係る同条第7項のように、非関連者間取引で構成されなければならないとの要件はなく、また、独立企業間価格の算定の基礎となる比較対象法人の通常の利益率の算出においても不合理な点は認められないことから、請求人の主張には理由がない。
ニ 所得金額及び納付すべき税額
 以上の結果、本件各事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、別表1の「更正処分等」欄のとおりとなり、原処分の金額と同額であるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(3) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(2)のとおり、いずれも適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により行われた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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