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(平18.12.22、裁決事例集No.72 517頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、E税務署長が、審査請求人が所有する土地には被相続人が有していた借地権が存在しており、当該借地権は同人からの相続財産であるとして相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、審査請求人らが、その借地権は既に消滅しているとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 審査請求人F(以下「請求人F」という。)及び同G(以下、この両名を併せて「請求人ら」という。)は、平成15年2月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したH(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続に係る相続税について、別表の「申告」欄のとおり記載した申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに共同で提出した。
ロ E税務署長は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成17年7月29日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人らは、平成17年8月26日、これらの処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月22日付で棄却の異議決定をしたので、同年12月21日、審査請求をした。
 請求人らは、請求人Fを総代として選任し、平成17年12月21日、その旨届け出た。

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(3) 関係法令等

イ 相続税法第9条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合−その他の利益の享受》は、同法第4条から同法第8条までに規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。
ロ 相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》第1項は、相続により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、同法第15条から同法第18条までの規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とする旨規定している。
ハ 使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和48年11月1日付直資2−189ほか国税庁長官通達。以下「本件通達」という。)は、建物又は構築物(以下「建物等」という。)の所有を目的とする使用貸借に係る土地に関する相続税及び贈与税の取扱いについて、要旨次のとおり定めている。
(イ) 使用貸借による借地権の転借があった場合(本件通達2)
 借地権者からその借地権の目的となっている土地の全部又は一部を使用貸借により借り受けてその土地の上に建物等を建築した場合又は借地権の目的となっている土地の上に存する建物等を取得し、その借地権者からその建物等の敷地を使用貸借により借り受けることとなった場合においては、借地権の慣行のある地域においても、その借地権の使用貸借に係る使用権の価額は、零として取り扱う。
 この場合において、その貸借が使用貸借に該当するものであることについては、使用貸借に係る借受者、借地権者及び土地の所有者についてその事実を確認するものとし、その確認に当たっては、「借地権の使用貸借に関する確認書」(以下「確認書」という。)を用いることとし、確認の結果、その貸借が使用貸借に該当しないものであるときは、その実態に応じ、借地権又は転借権の贈与として贈与税の課税関係を生ずる場合がある。
(ロ) 借地権の目的となっている土地を借地権者以外の者が取得し地代の授受が行われないこととなった場合(本件通達5)
 借地権の目的となっている土地を借地権者以外の者が取得し、その土地の取得者と借地権者との間に土地の使用の対価としての地代の授受が行われないこととなった場合においては、その土地の取得者は、借地権者から土地に係る借地権の贈与を受けたものとして取り扱う。
 ただし、土地の使用の対価としての地代の授受が行われないこととなった理由が使用貸借に基づくものでないとして、その土地の取得者からその者の住所地の所轄税務署長に対し、借地権者との連署による「借地権者は従前の土地の所有者との間の土地の賃貸借契約に基づく借地権者としての地位を放棄していない」旨の申出書(以下、この申出書を「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」という。)が提出されたときは、この限りではない。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件被相続人は、昭和26年3月20日、P市Q町a番所在の土地327.27平方メートル(平成12年1月17日の分筆前のもの)及び同所b番所在の土地500.29平方メートル(平成7年1月27日の分筆前のものをいい、同所a番所在の土地327.27平方メートルと併せて「本件分筆前土地」という。)の上に存した木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建ての建物(閉鎖登記簿記載の家屋番号○番の建物をいい、以下「本件建物A」という。)を売買により取得し、また、昭和26年3月24日、本件分筆前土地の上に存した木造瓦葺2階建ての建物(閉鎖登記簿記載の家屋番号○番の建物をいい、以下「本件建物B」という。)を贈与により取得し、それぞれ所有権移転登記手続を行った。
 これにより、本件被相続人は、本件分筆前土地に係る借地権を取得した。
ロ 請求人Fは、平成3年6月5日、Jとの間で、本件分筆前土地(底地)を95,000,000円で取得する不動産売買契約を締結し、同月28日、売買を原因として所有権移転登記手続を行った。
 なお、本件分筆前土地の不動産登記の全部事項証明書等によると、本件分筆前土地は、次のとおり分筆されている。
(イ) P市Q町a番所在の土地327.27平方メートルは、平成12年1月17日、同所a番所在の土地314.66平方メートル及び同所c番所在の土地12.60平方メートルに分筆された。
(ロ) P市Q町b番所在の土地500.29平方メートルは、平成7年1月27日、同所b番所在の土地434.11平方メートル及び同所d番所在の土地66.18平方メートルに分筆された。
 さらに、同所b番所在の土地434.11平方メートルは、平成12年1月17日、同所b番所在の土地240.64平方メートル、同所e番所在の土地13.99平方メートル及び同所f番所在の土地179.47平方メートルに分筆された。
 また、同所d番所在の土地66.18平方メートルは、平成12年1月17日、同所d番所在の土地61.61平方メートル及び同所g番所在の土地4.57平方メートルに分筆された。
ハ 本件被相続人及び請求人Fは、連署で、平成4年2月12日、E税務署長に対し、また、同月15日、K税務署長に対し、それぞれ借地権者の地位に変更がない旨の申出書を提出した(以下、K税務署長に提出されたこの申出書を「本件申出書」という。)。
 本件申出書には、要旨次の記載がある。
(イ) 請求人Fは、平成3年6月28日に借地権の目的となっている本件分筆前土地の所有権を取得し、以後本件分筆前土地を本件被相続人に無償で貸し付けることとなったが、借地権者である本件被相続人は、従前の本件分筆前土地の所有者との間の土地の貸借契約に基づく借地権者の地位を放棄しておらず、借地権者としての地位には何らの変更をきたすものではない。
(ロ) 「借地権者」欄には、本件被相続人の住所及び氏名の記載並びに押印があり、また、「土地の所有者」欄には、請求人Fの住所及び氏名の記載並びに押印がある。
ニ 本件建物Aの不動産登記簿は、平成6年12月15日、同年11月30日取壊しを原因として閉鎖された。
 請求人Fは、本件建物Aを取り壊した後、P市Q町a番地及び同所d番地所在の軽量鉄骨造スレート葺2階建ての建物(当該建物の現在事項証明書記載の家屋番号○番○の建物をいい、以下「本件建物C」という。)を建築し、平成7年4月20日、同年3月31日新築を原因として所有権保存登記手続を行った。
ホ 本件建物Bの不動産登記簿は、平成12年4月24日、同年3月10日取壊しを原因として閉鎖された。
ヘ 請求人Fは、平成12年5月24日、L社との間で、P市Q町e番所在の土地13.99平方メートルのうち持分2分の1及び同所f番所在の土地179.47平方メートル(以下、これらの土地を併せて「本件譲渡土地」、本件分筆前土地から本件譲渡土地を除いた土地を「本件土地」、本件土地に係る本件被相続人の借地権を「本件借地権」とそれぞれいう。)を売買する土地売買契約を締結し、同社に本件譲渡土地を譲渡した。
 なお、本件譲渡土地には、本件被相続人所有の未登記の建物(以下「本件建物D」という。)があったが、請求人Fが、本件譲渡土地を譲渡する前に、本件建物Dを取り壊している。
ト 請求人FがK税務署長に対し、平成12年分の所得税の確定申告書に添付し提出した「譲渡所得の内訳書(計算明細書)土地・建物用」及びその附属書類には、要旨次の記載がある。
(イ) 譲渡した物件は「本件譲渡土地」、土地の種類は「宅地(底地)」、利用状況は「自己の居住用」、譲渡先は「L社」である。
(ロ) 譲渡価額は、○○○○円(固定資産税精算金50,100円を含む)である。
 なお、「譲渡価額」欄には「○○○○円中○○○○円、借地権者分除外」と記載がある。
(ハ) 譲渡した理由は、居住用敷地を整理するためである。
(ニ) その他、「本件被相続人の借地の底地を取得し、平成4年2月12日E税務署に借地権者の地位に変更がない旨の届出書を提出」した旨の記載がある。
チ 本件被相続人がE税務署長に対し、平成12年分の所得税の確定申告書に添付し提出した「譲渡所得の内訳書(計算明細書)土地・建物用」及びその附属書類には、要旨次の記載がある。
(イ) 譲渡した物件は「本件譲渡土地」、土地の種類は「宅地(借地権)」、利用状況は「長男(請求人F)居住用敷地」、譲渡先は「L社」である。
(ロ) 譲渡価額は、○○○○円である。
 なお、「譲渡価額」欄には「○○○○円中○○○○円、底地所有者分除外」と記載がある。
(ハ) 譲渡した理由は、長男(請求人F)居住用敷地を整理するためである。
(ニ) その他、「長男Fが私の借地の底地を取得し、平成4年2月12日E税務署に借地権者の地位に変更がない旨の届出書を提出」した旨の記載がある。
リ 本件土地のうち、P市Q町a番所在の土地314.66平方メートルのうち21.18平方メートル、同所c番所在の土地12.60平方メートル、同所g番所在の土地4.57平方メートル及び同所e番所在の土地13.99平方メートル(持分2分の1)については、本件相続開始日現在、公衆用道路として使用されている。
ヌ 本件借地権の本件相続開始日の価額を財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。平成15年5月15日付課評2−6による改正前のものをいう。)に基づき算出すると、○○○○円となる。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件相続開始日において、本件借地権が存在していたことから、本件各更正処分等は適法である。
イ 本件借地権の存在について
(イ) 本件被相続人と請求人Fは連署で本件申出書を提出していることから、本件被相続人は従来からの賃貸借契約における借地権者としての地位を放棄していない。
 そして、本件被相続人は、本件建物A及び本件建物Bの取得時から本件分筆前土地に借地権を有しており、さらに、1本件土地は、本件分筆前土地の一部であること及び2請求人Fには、本件申出書を提出してから本件相続開始日までの間に本件土地の所有者としての地位に変更があったことを示す事実はないことから、本件申出書の効力は維持されている。
 したがって、本件借地権は、本件相続開始日において存在していたと認められる。
(ロ) また、本件借地権が存在していることについて、1本件被相続人及び請求人Fは、それぞれの平成12年分の所得税の確定申告において、本件譲渡土地に借地権があるとして、譲渡所得の計算をしていること、2本件申告書には、本件借地権に関して、相続税法第19条第1項に規定する贈与により取得した旨の記載がないこと及び3請求人Fは、本件被相続人から本件借地権の贈与があったとする積極的な行動をしていないことからも、請求人F及び本件被相続人のいずれも本件借地権の贈与がなかったことを自認していたものと認められる。
(ハ) 請求人Fは、本件建物Cを建築した際には本件通達2に定める確認書をK税務署長に提出していないものの、本件被相続人と請求人Fとの間には地代の授受がなく、また、請求人Fは贈与税の申告をしていないことから、本件被相続人から請求人Fへ本件借地権を移転したとは認められず、本件借地権は使用貸借されていたと認められることから、本件借地権は本件相続開始日においても存在していたと認められる。
ロ 本件各更正処分等について
 上記イのとおり、本件相続開始日において本件借地権は存在することから、本件各更正処分は適法であり、請求人らには国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する事由がないことから、本件各賦課決定処分は適法である。

(2) 請求人ら

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件各更正処分等の全部の取消しを求める。
イ 本件借地権の存在について
(イ) 本件申出書を提出した後において、土地の所有関係が変更された場合には、その所有関係の実態に応じた課税がなされるべきであると解されるにもかかわらず、本件借地権はその後においても消滅せず、本件相続開始日において本件借地権が存在しているとする原処分庁の見解には事実誤認がある。
(ロ) 本件においては、本件被相続人が所有していた本件建物A及び本件建物Bを老朽化のため取り壊した後の土地は、請求人Fが自由に使用収益してよいとする合意の下で、これらの建物が取り壊されたことに伴い、本件借地権が本件被相続人から請求人Fに無償で返還されたものであり、当該返還により、請求人Fは、本件土地を使用・収益・処分することのできる完全な所有権者として、本件土地に請求人F所有の本件建物Cを新築し、また、本件土地を庭として使用しているものである。このように、本件建物A及び本件建物Bが取り壊された後においては、実態はもちろんのこと借地借家法上においても本件借地権は存在しない。
(ハ) また、本件被相続人は請求人Fに対して本件借地権を返還したので、賃借権たる債権が債務者たる土地の所有者である請求人Fに帰属したことになり、民法第520条に規定する混同により本件借地権は消滅したことになる。
 したがって、このことからも、本件相続開始日において、本件借地権は存在しない。
ロ 本件各更正処分等について
 上記イのとおり、本件相続開始日において、本件借地権は存在しないことから、本件各更正処分は違法な課税処分であり、また、違法な本件各更正処分に基づいて行われた本件各賦課決定処分も違法であるのでその全部を取り消すべきである。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人Fが、上記1の(4)のロのとおり、平成3年6月5日、Jとの間の売買により、本件分筆前土地を底地として取得したこと及び上記1の(4)のハのとおり、本件被相続人及び請求人Fが本件分筆前土地の利用関係につき本件申出書を提出して、これが使用貸借ではないことを表明していることから、請求人Fと本件被相続人との本件分筆前土地の利用関係は、請求人Fの取得時点においては、賃貸借であり、本件被相続人は、本件分筆前土地全体の借地権を有し、また、この借地権は資産性を有していたことが認められる。
ロ 請求人Fは、本件分筆前土地に係る借地権の全部又は一部の贈与があったとする贈与税の申告を一切していない。

(2) 請求人Fは、当審判所に対し、書面により要旨次のとおり回答した。

イ 本件被相続人が昭和42年1月にR市S町に住宅を取得し転居するに際し、請求人Fは、本件被相続人から、本件建物A及び本件建物Bは本件被相続人にとっては不用の建物になるので、これらの建物を取り壊した後は、請求人Fが建物を建築する等請求人Fの自由に使用するよう言われた。
ロ 本件被相続人が昭和42年にR市へ転居した後は、請求人Fとその家族が本件建物A及び本件建物Bを居住の用に供し、また、本件建物Cの建築後は、本件建物Bを物置として使用していた。
ハ 請求人Fは、本件建物Aを取り壊した後に本件建物Cを建築する際には本件被相続人に貸していた土地が戻ってきたにすぎないと認識しており、本件被相続人に貸していた土地が無償で返還されることが贈与税の課税の対象になるとは思ってもいなかったので、贈与税の申告をしなかった。
 なお、請求人Fは、上記のような場合に借地権の贈与を受けたことになるということを、今回の調査において初めて知った。

(3) 関係法令等の解釈(本件通達5について)

イ 借地権の目的となっている土地をその借地権者以外の者が取得した場合において、その土地の所有者(借地権者以外の者)とその借地権者との間で地代の授受が行われない貸借関係になったときにおけるその貸借関係は、地代の支払がないという外見からみても、また、借地権者と土地の所有者との関係が通常、夫婦、親子間等の特殊関係者間であるという貸借当事者の関係からみても、使用貸借とみるべきであるのが一般的である。このため、本件通達5は、このような場合には原則として、その土地所有者がその借地権者からその土地に係る借地権の贈与を受けたものとして取り扱うこととしたものと解される。ただし、貸借当事者間において、その土地の使用の対価としての地代の授受が行われないこととなった理由が使用貸借に基づくものではないとして、借地権者の地位に変更がない旨の申出書の提出があった場合には贈与税を課税しないこととされている。これは、理論上、将来の全賃料債権の放棄や免除がなされたとしてもそれによって賃貸借が使用貸借となるわけではないとされていることを前提として、貸借当事者間の法律関係はいまだ賃貸借であるということをその貸借当事者が積極的に税務署長に表明した場合には、その当事者の意思に従って課税関係を判断し、贈与税の課税要件を充足していないとして贈与税を課税しないこととされたものと解され、当審判所もこれを合理的な取扱いと認めるところである。
ロ ところで、本件通達5のただし書きは、借地権者の地位に変更がない旨の申出書の提出時点での当事者間の意思に従ってその時点における贈与税課税の有無が定められたものであるが、外部からはその意思が窺い知れない夫婦、親子間等といった特殊関係者間が一般的である貸借当事者からのその意思の積極的な表明を前提とした以上、その提出時点後その借地権者に相続が開始したときには、その借地権は相続財産として相続税の課税対象とされることが当然に予定されていると解すべきであるし、同申出書を提出した貸借当事者の意思の積極的な表明は、この点につき当然に了承し、こうした将来の予定を前提として申し出られたものと解すべきである。そうすると、貸借当事者において、借地権者の地位に変更がない旨の申出書の提出時点後、その借地権はその土地所有者に返還されたなどその借地権が存在しないとの主張が認められるのは、同申出書の提出時点において貸借当事者間の意思を尊重した課税庁(税務署長)との関係を考慮すれば、同申出書の提出後における借地権の消滅につき贈与税の申告をする、又は、借地権の消滅の対価を土地所有者が借地権者に支払った事実が存するなど、借地権が存在しないことを外形上明確に示す特段の行為の存在が立証されることが必要であると解するのが相当である。

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(4) 本件借地権について

 本件においては、本件相続開始日において本件借地権が存在していたか否かについて争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 請求人らは、上記2の(2)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件建物A及び本件建物Bを老朽化のため取り壊した後の土地は、請求人Fが自由に使用収益してよいとする合意の下で、これらの建物が取り壊されたことに伴い、本件借地権が本件被相続人から請求人Fに返還されたものであるから、本件借地権は存在しない旨、また、本件被相続人は、請求人Fに対して本件借地権を返還したので民法第520条により、本件借地権は混同により消滅した旨主張する。
ロ しかしながら、本件被相続人から請求人Fに本件借地権が返還されたとする請求人らの主張は、上記(2)のイのとおり、請求人Fが本件被相続人から本件建物A及び本件建物Bを取り壊した後の土地を自由に使用するよう言われたことに基づくもののみであって、本件借地権が返還されたことが具体的に明らかでなく、そもそも上記発言の内容からは、本件被相続人が本件土地の使用権利者(借地権者)であることを前提として、請求人Fに本件借地権を自由に利用してよい旨述べたものとも解されるから、本件被相続人は請求人Fに本件借地権を使用貸借により転貸する趣旨で発言をしたとも認めることができる。
 また、本件被相続人及び請求人Fは、本件申出書を提出していることからすると、その当時、本件被相続人及び請求人Fは、本件分筆前土地に係る借地権について、当該借地権を移転する意思はなかったものと認められる上、建物が朽廃(借地法(平成3年法律第90号により廃止)第2条第1項に規定する朽廃)していない本件において、借地上の建物を親族間で所有名義を変えて建て替えた場合には、従前の借地権を維持するならばこの借地権を使用貸借により転貸したとみるのが一般的であるし、転貸が使用貸借である場合には、本件通達2によって贈与税の課税も生じないのであるから、このように本件被相続人が請求人Fに本件借地権を使用貸借により転貸する行為は、親族である貸借当事者間での合理的な行為といえる。
 さらに、請求人F及び本件被相続人は、上記1の(4)のト及びチのとおり、本件建物Dの取り壊した後の本件譲渡土地の譲渡に係る譲渡所得の各申告において、本件被相続人に借地権が存在していたとしている。
 そうすると、本件被相続人が、請求人Fに対して本件借地権を「返還」するという意思があったとは認められず、また、本件借地権が返還されずに存在していたことを推認させる事実はあるが、本件被相続人が請求人Fに対して本件借地権を返還したとみるべき事実は見当たらない。
ハ そして、請求人F及び本件被相続人は、上記1の(4)のハのとおり、連署で本件申出書を提出しているが、こうして借地権者の地位に変更がない旨の申出書が提出された場合には、上記(3)のロのとおり、貸借当事者間でその借地権がその土地所有者に返還されたなどその借地権が存在しないとの主張が認められるのは、贈与税の申告又は借地権の消滅の対価をその土地所有者がその借地権者に支払った事実が存在するなど、当該借地権が存在しないことを外形上明確に示す特段の行為の存在が立証されることが必要であると解すべきところ、請求人Fは、上記(1)のロのとおり、本件借地権に関し、本件建物A及び本件建物Bの取壊し又は本件建物Cの建築を理由とした贈与税の申告をしておらず、その他本件借地権が存在しないことを外形上明確に示す特段の行為の存在を認定できる証拠もない。
ニ 以上のことからすると、本件被相続人は、本件建物A及び本件建物Bの取壊し又は本件建物Cの建築のいずれの時点においても、本件分筆前土地に係る借地権を有していたと認めるのが相当であり、その後本件相続開始日までの間においても、請求人F及び本件被相続人の間で本件借地権を返還しそれが存在しなくなったことを外形上明確に示す特段の行為の存在を認定できる証拠もないから、本件相続開始日において、本件被相続人に係る相続財産として本件借地権が存在していたと認めるのが相当である。
ホ したがって、これらの点に関する請求人らの主張には理由がない。

(5) 本件各更正処分について

 上記(4)のとおり、本件土地には、本件相続開始日現在、本件借地権が存在していると認められるから、本件借地権を本件被相続人の相続に係る財産であるとして、その価額を、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所においても相当と認められる○○○○円で行った本件各更正処分は適法である。

(6) その他

 本件各賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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