別紙

審査請求人 原処分庁
 本件告知処分は、次の理由により違法であるから、そのすべてが取り消されるべきである。  本件告知処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
(1) 本件告知処分に係る手続等の違法性の存否について (1) 本件告知処分に係る手続等の違法性の存否について
イ 不服申立中に行われた本件告知処分の瑕疵
 本件更正処分等は、本件告知処分に係る告知書の到達日現在においては不服申立中であり、まだその結論が出ておらず、具体的に確定していないのであるから、本件更正処分等を基に行われた本件告知処分には行政手続上の瑕疵がある。
イ 不服申立中に行われた本件告知処分の瑕疵
 通則法第105条《不服申立てと国税の徴収との関係》第1項の規定によれば、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げないこととされており、本件更正処分等について不服申立中であっても、それにより本件告知処分が妨げられるものではない。
ロ 第二次納税義務者が有する催告の抗弁権及び検索の抗弁権の侵害
 第二次納税義務は、主たる納税義務が確定したことを前提に、その確定した税額につき、本来の納税義務者に滞納処分を執行しても徴収すべき額に不足すると認められる場合、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税責任を負わせて公平を失しないような特別な関係にある者に対して補充的に課される義務とされている(最高裁昭和50年8月27日判決、「国税徴収法精解(平成14年版)」大蔵財務協会)。
 一方、通則法第8条《国税の連帯納付義務についての民法の準用》においては、共有物等に係る国税の連帯納付義務などの国税に関する法律の規定による連帯納付義務については、民法第433条《一債務者についての無効・取消し》以下の連帯債務に関する規定を準用するものの、相続税法34条《連帯納付の義務》による連帯納付義務については、納付責任に類似するものとして通則法第8条の規定をそのまま適用することは妥当といえず(「国税通則法精解(平成16年版)」大蔵財務協会)、補充性についても制限されるものとされているから(大阪地裁平成14年10月7日判決)、少なくとも、第二次納税義務が附従性、補充性の性格を有する範囲において、民法第446条《保証人の責任》の保証債務等に係る催告の抗弁権(民法第452条)及び検索の抗弁権(民法第453条)が認められているものと解するのが相当である。
 したがって、本件告知処分については、事前にこの権利が尊重されてしかるべきところ、原処分庁は、滞納法人の資産調査を行っていないのであるから、本件告知処分には第二次納税義務者が有するこれらの権利を侵害した行政手続上の瑕疵がある。
ロ 第二次納税義務者が有する催告の抗弁権及び検索の抗弁権の侵害
 請求人が引用する国税徴収法精解(平成14年改定版)には、むしろ「主たる納税者の納税義務と第二次納税義務者の納税義務とは法律的に別個の義務であるから、附従性、補充性からくる制約を除けば、その一方に生じた理由は他に影響を及ぼさない。」との記載はあるものの、第二次納税義務者に催告の抗弁権及び検索の抗弁権があるとの記載はない。
 そして、徴収法には第二次納税義務者に催告の抗弁権及び検索の抗弁権を認める旨の規定はないのであるから、この点の請求人の主張には理由がない。
ハ 財産調査及び滞納処分のけ怠に伴う第二次納税義務の免責
 原処分庁は、本件告知処分に先立って行うべき財産調査及び滞納処分の執行を怠っているのであるから、その結果、本件告知処分日以降に損なわれた滞納法人の財産については第二次納税義務が免責されるべきである。
 また、滞納法人は、原処分庁が滞納法人の収益に計上すべきとした本件譲渡代金についてはその帰属を否認しているのであるから、滞納法人の未収債権については、原処分庁が適切に滞納処分を執行すべきものである。これを怠って徴収不能となった場合には、不能となった金額を限度として第二次納税義務は免責されるべきである。
ハ 財産調査及び滞納処分のけ怠に伴う第二次納税義務の免責
 主たる納税者の納税義務と第二次納税義務者の納税義務とは別個独立したものであり、本件告知処分時に徴収法第39条の要件を充足しており、その後の主たる納税者の財産が、何らかの原因において国税の納付に充てられないまま処分されたとしても、このことが第二次納税義務者の納税義務に影響を及ぼすものではない。
 なお、H社は、滞納法人の未収債権については反対債権と相殺済みであり、債務がないと回答しており、今後の回収見込みはない。
ニ 課税権の濫用
 滞納法人に対する本件更正処分等に伴い、請求人らに対して所要の所得税の更正処分が行われた者とそうでない者が存在するなど、恣意的な行政処分というべき課税権の濫用があり、このような状況で行われた本件告知処分は行政手続として瑕疵がある。
ニ 課税権の濫用
 請求人らの所得税の更正処分と滞納法人の滞納国税の徴収手続である本件告知処分とは全く別個の処分であるから、請求人以外の者に対する所得税の更正処分の有無が本件告知処分の効力に影響を及ぼすものではない。
ホ 納付期限前の督促
 原処分庁所属の徴収担当職員は、請求人らの中の1名に対し、本件告知処分に係る納付期限前であるにもかかわらず一方的な電話による納付督促及び金額未記入の納付書の送付を行っているが、これは第二次納税義務者の期限の利益を侵害するものにとどまらず、滞納法人及び請求人らに対する恫喝行為であり、事実上、第二次納税義務に対する不服申立ての機会を簒奪するものであるから、このような違法行為の基となった本件告知処分はそのすべてが取り消されるべきである。
ホ 納付期限前の督促
 請求人が主張するような期限前納付指導が行われたとしても、何ら違法な行為ではなく、また、本件告知処分が取り消されるべき瑕疵にも当たらない。
   
(2) 徴収法第39条の適用要件の具備について (2) 徴収法第39条の適用要件の具備について
イ 徴収不足か否かの財産調査
 原処分庁が、徴収法第39条の適用要件である「徴収すべき額に不足する」という事実を、明らかに財産調査とはいえない不十分な手続に基づいて「不足する状況であろう」という推測の下で行った本件告知処分は同条の適用要件に反した違法がある。
イ 徴収不足か否かの財産調査
本件告知処分時までに、滞納法人の貸借対照表等から同社に帰属する財産調査を行い、名目資産額が240,950,360円しかなく、本件滞納国税に不足すると判断したものである。
ロ 徴収不足の判定の時期
 滞納法人の平成14年12月期末の財産総額は約436百万円(うち主なもの:現金預金約277百万円)及び本件告知処分日現在の財産総額は約424百万円(うち主なもの:貸付金約382百万円)と両時点においてほとんど変化がなく、その財産構成に変化があるのみである。徴収不足が無償譲渡等に基因するか否かは、無償譲渡等があったとされる平成14年12月期末の状況から判断すべきであり、この場合において徴収不足は存在しない。
ロ 徴収不足の判定の時期
 徴収不足の判定の時期については、国税徴収法基本通達第39条関係1《不足と認められる場合》により納付通知書を発する時の現況によるものとする旨定められているから、これを平成14年12月期末で判断すべきとする請求人の主張には理由がない。
ハ 徴収不足か否かの判定
 原処分庁は、昭和55年6月5日付「公売財産の評価事務提要の制定について(通達)」(以下「本件評価通達」という。)に基づき、滞納法人の主たる財産である本件貸付金の評価額を約78百万円と算定しているが、当該算定額は、年賦により年々逓減していく貸付金残額を度外視して複利現価率を適用するという誤ったものであり、また、本件評価通達には「法定利息を参考とする」とあるにもかかわらず、当該複利現価率として法定利息の6%を採用しているのも合理的でなく、同率は、現在のように日本銀行がゼロ金利政策を採用している状況下においては、長期金利の指標である10年物長期国債の利率(1%の前半)等を斟酌して2%とすべきである。
 加えて、原処分庁は、本件覚書による最終一括弁済を弁済期が確定していないものとして本件貸付金の評価を行っているが、最終一括弁済額については、期日一括弁済を原則とし、それ以外の場合は本件原契約に戻るという両社の合意があるのであるから、この点についても事実認定を誤っている。
 そこで、本件評価通達に基づき、請求人が算定した本件貸付金の評価額は別添1「貸付金評価額(総括表)」のとおり、本件原契約に基づく評価額は328,891,820円、また、本件覚書に基づく評価額は347,085,895円となる。
 したがって、これに滞納法人の未収債権98,600,596円及び売掛金等その他の資産約43百万円を加えると約468百万円又は約488百万円となるから、本件滞納国税約260百万円に不足する状態ではない。
 また、原処分庁は、本件貸付金が回収困難であるかのような主張をしているが、滞納法人が属するSグループは、グループ全体で資金運用を行っており、滞納法人以外のSグループには、当座資産以外にも生命保険積立金等の余剰資金の運用資産が約348百万円あるなど、弁済に危険はない。
 なお、徴収すべき国税の額は、本件滞納国税に請求人の所得税還付金○○○○円(以下「本件還付金」という。)を充当(平成17年5月27日通知)した後の額○○○○円とすべきである。
ハ 徴収不足か否かの判定
 徴収不足の判定を行う場合、期限未到来の貸付金に係る債権については、これを換価するものとしてその債権の現在の価額を算定することとされている。
 また、その算定方法については、本件評価通達第7章《その他の財産の評価》「5.債権」により、一定利率の下で複利計算して一定期間後に一定額を受け取るために現在要する額を算出することにより行い、その算出に当たっては、法定利息を参考とすることとされている。
 本件貸付金は、その一部につき平成29年までの年賦返済が認められるものの、残額については、本件覚書により平成30年の期限到来時に別途弁済方法を協議することとされており、弁済期日すら確定していないものであることが認められる。
 そこで、弁済期の定めのある部分について、上記の算定方法により現在価値を算定すると別添2「貸付金評価額計算書」の4の(1)のとおり46,900,000円となるものの、担保権が付されていないこと及びL社及びM社の資産負債状況等からみて年賦弁済が継続されるか否か危惧されるものであることなどのリスクを考慮すれば、その実際の評価額は、更に低額なものになると認められる。
 また、弁済期の確定していない残額部分について、引き続きその後も年賦返済が継続されると仮定した場合に、上記の算定方法により現在価値を算定すると別添2「貸付金評価額計算書」の4の(2)のとおり30,644,310円となるものの、上記弁済期の定めのある貸付金と同様、担保権が付されていないこと及びL社及びM社の返済資力等から、同年以降の年賦弁済が継続されるか否か危惧されるものであることなどのリスクを考慮すれば、その実際の評価額は、更に低額なものになると認められる。
 したがって、本件貸付金の現在価値は、上記評価額の合計額、すなわち別添2「貸付金評価額計算書」の4の(3)の合計額77,544,310円を超えることはなく、この評価額と滞納法人の未収債権98,600,596円との合計額に滞納法人の売掛金等その他の資産約43百万円を加えたとしても、本件滞納国税に不足することは明らかである。
 なお、本件還付金は、本件告知処分により請求人に第二次納税義務が生じたことから、請求人が第二次納税義務者として納付すべき滞納税額に充当したものであり、本件告知処分に係る徴収すべき額は本件還付金を充当した後の金額とすべきであるという請求人の主張には理由がない。
ニ 無償譲渡等か否か
 請求人らは滞納法人からの要請に基づき○○国を本店所在地とする外国法人T(以下「T社」という。)に株式の譲渡を行ったものであり、不服申立てを行っている本件更正処分等の結論如何にかかわらず、無償の利益を滞納法人から受けたものではない。
ニ 無償譲渡等か否か
 H社から滞納法人に支払われた本件譲渡代金は、平成13年3月19日付の「○○契約書」(以下「本件資産購入契約書」という。)に基づいて営業資産等の譲渡の対価として支払われたものであり、このことは、本件資産購入契約書に、譲渡した資産として、固定資産、賃借権、すべての取引先リスト、雇用契約、著作権、営業秘密、商標、同商標に関連する営業のれん、関連する許諾及び非許諾のあらゆるライセンスに基づく権利並びに過去・現在・将来のすべての権利侵害について損害賠償訴訟を起こす権利などを含むものとされ、また、その譲渡価額が394,402,385円と明示されていることからも明らかである。
 したがって、本件譲渡代金は、滞納法人に帰属するものと認められるから、請求人がその対価の一部○○○○円を取得していることは、滞納法人から無償の利益を受けていたと認められるものである。

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