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(平19.1.23、裁決事例集No.73 16頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、その相続に係る不動産売買代金債権の存否に関する判決により相続税の課税標準等に異動があったとして更正の請求をしたところ、原処分庁がこれに対して更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を行ったことから、違法を理由にその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該判決が国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号に規定する判決に当たるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成18年2月2日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。

(3) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 相続人等について
(イ) A(以下「被相続人」という。)は、昭和62年4月○日に死亡した。
なお、被相続人を中心とする親族関係は、別紙1のとおりである。
(ロ) 被相続人の死亡時点における相続人は、妻であるB並びに子であるC、D、E、F、G、H及び請求人である。
(ハ) Cは、昭和62年○月○日に死亡し、妻であるJ並びに子であるK、L及びMの4名(以下「Jら」という。)がその権利義務を相続した。
(ニ) Eは、平成7年○月○日に死亡し、妻であるN並びに子であるR及びSがその権利義務を相続した。
(ホ) Fは、平成8年○月○日に死亡し、夫であるT及び子であるUがその権利義務を相続した。
(ヘ) Bは、平成10年○月○日に死亡し、子であるD、G、H及び請求人並びに孫であるK、L、M、R、S及びUがその権利義務を相続した。
ロ 相続税の申告等について
(イ) B、F、H及び請求人の4名(以下「請求人ら」という。)は、相続財産は○○○○円である等とする被相続人の相続に係る相続税の申告書を昭和62年10月1日に原処分庁に提出した。なお、当該申告に係る相続財産には、相続時点における被相続人のV社に対する未収入金として289,124,746円が含まれている。
(ロ) 請求人らとは別に、D、E及びGの3名(以下「Dら」という。)並びにCは、相続財産は○○○○円である等とする被相続人の相続に係る相続税の申告書を昭和62年10月1日に原処分庁に提出した。なお、当該申告に係る相続財産には、相続時点における被相続人のV社に対する未収入金として243,066,487円が含まれている。
(ハ) Dら及びCの相続人であるJは、平成2年8月28日に、相続財産は○○○○円である等とする被相続人の相続に係る相続税の修正申告書を原処分庁に提出した。なお、当該申告に係る相続財産には、相続時点における被相続人のV社に対する未収入金として263,066,487円が含まれている。

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2 主張

 原処分庁及び請求人の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 関係法令等

 通則法第23条第2項第1号は、納税申告書を提出した者は、その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる旨規定している。
 この規定は、納税者において、申告時には予測し得なかった事態が後発的に生じたため、課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更をきたし、税額の減額をすべき場合に、法定申告期限から1年を経過していることを理由に更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果となることから、例外的に更正の請求を認めて納税者の保護を拡充しようとしたものであると解される。
 上記規定の趣旨及び通則法第23条第2項各号の列挙事由の内容にかんがみれば、同項第1号の「判決」に基づいた更正の請求が認められるためには、判決を得るための訴訟が申告等に係る課税標準又は税額等の基礎となった事実の存否、効力等を直接審判の対象とし、判決により課税標準等の基礎となった事実と異なることが確定されるとともに、納税者が申告時において、課税標準等の基礎となった事実と異なることを知らなかったことが必要であると解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は、文末括弧内に記載したものである)。
イ V社に関する不動産売買等について
(イ) V社は、被相続人を代表取締役として昭和26年5月○日に設立された(同社の履歴事項全部証明書、後記移転登記請求事件におけるDの陳述書の写し)。
(ロ) Wは、P市p町f番○○の山林(面積15町8反4畝12歩、以下「本件山林」という。)を所有していたが、自己の名義で所有権移転登記をすることができないとして、Xを登記名義人として登記していた(Dの答述、同山林の閉鎖登記用紙の謄本)。
(ハ) 本件山林について、売主であるW及びXが買主であるYに47,532,000円で売り渡す内容の昭和39年9月8日付売買契約書が作成された。当該契約書には、売主は、買主の請求があったときは、買主の指定する第三者の名義に所有権移転登記手続をすることについて、何ら異議なく応じなければならない旨の条項が規定されていた。同契約書には、売主としてW及びXの署名押印があり、買主としてYの署名押印がある。なお、Yは、V社の顧問公認会計士である(同契約書の写し、後記移転登記請求事件におけるDの陳述書の写し)。
(ニ) 本件山林について、Xが、被相続人、B、F、H、請求人、C、D、E、G、a、b及びdの12名(以下「被相続人ほか11名」という。)に対し、本件山林を売り渡し、代金を領収した旨の昭和39年12月14日付の売渡証書が作成された。当該売渡証書には、売主としてXの署名押印がある(同売渡証書の写し)。
(ホ) 本件山林について、昭和39年12月○日に同月14日付売買を原因として、被相続人ほか11名の持分を各々12分の1とする所有権移転登記が経由された(本件山林の閉鎖登記用紙の謄本)。
(ヘ) 本件土地は、昭和40年12月15日から昭和45年1月19日までの間に本件山林から分筆された(同土地の全部事項証明書)。
(ト) 本件土地について、売主である被相続人ほか11名が買主であるV社に対し、坪当たり15,000円の実測により約1,350,000,000円で売り渡す内容の昭和46年9月25日付売買契約書が作成された。そして、当該契約書には、売買代金は、昭和47年5月25日を第1回として以後毎年同日に10分の1ずつ10回の分割で支払う旨の条項が規定されていた。
 なお、当該契約書には、売主として被相続人の署名押印があり、買主としてV社の代表者印の押印がある(同契約書の写し)。
(チ) 本件土地について、売主として署名押印した被相続人ほか11名が、買主としてV社に対し本件土地を売り渡し、代金を領収した旨の昭和46年9月25日付の売渡証書が作成された(同証書の写し)。
(リ) V社は、本件土地について、昭和46年12月○日に同年9月25日付売買を原因として、所有権移転登記を経由した(本件土地の閉鎖登記用紙の謄本)。
(ヌ) V社は、上記(ト)及び(チ)に係る売買代金を被相続人に支払うことなく、昭和47年5月25日に、本件売買代金債権112,500,000円を同社の被相続人に対する未払金とする会計処理を行った(Dの答述、本件一覧表の写し)。
(ル) P市q町○番○○、同所同番○○、同所同番○○、同所同番○○、同所同番○○、同所同番○○及び同所同番○○の山林(合計面積7,074平方メートル、以下、これらの山林を併せて「本件7筆の山林」という。)は、昭和40年9月3日から昭和43年3月26日までの間に本件山林から分筆された(同山林の全部事項証明書)。
ロ 請求人らとDら及びCとの間並びにV社と請求人らとの間の訴訟等について
(イ) 請求人らは、Dら及びCとの間で被相続人の遺産の範囲に関して争いがあったことから、平成元年○月○日にg家庭裁判所に対し、被相続人の遺産に係る遺産分割調停を申し立てた(同庁同年(○)第○号)ところ、平成3年○月○日に請求人ら、Dら及びJらの間で、被相続人の相続財産が○○○○円である等を確認する旨の遺産の範囲に関する調停が成立した(同調停の申立書及び調書(成立)の写し)。
(ロ) 請求人は、平成3年6月14日に原処分庁に対し、上記(イ)の調停の成立に伴い、相続財産の額が減少した等として更正の請求を行ったところ、原処分庁は、同年7月1日に請求人に対し、被相続人の相続財産は○○○○円である等とする税額を減少させる旨の更正処分をした(原処分庁関係資料の写し)。
(ハ) V社は、本件山林は同社が昭和39年9月8日にWから買い受けたものであるとして、平成13年○月○日に本件7筆の山林の持分12分の1の登記名義を有するBの相続人であるD、G、H及び請求人並びにK、L、M、R、S及びUの10名(以下「被告ら」という。)に対し、真正な登記名義の回復を求める訴えを、f地裁に提起した(同庁同年(○)第○号所有権移転登記手続請求事件、同請求事件訴状の写し)。
(ニ) f地裁は、平成14年○月○日にD及びK(請求の認諾)並びにU(調書判決)を除く被告らに対し、本件7筆の山林の持分12分の1について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記を命ずる旨の判決をした。同判決では、被相続人、D、C及びEは、昭和39年にV社他数社の裏金を使って、同社名義で本件山林を購入することを決定したが、同社名義で購入すると、その取得資金について税務当局に把握される危険があることから、同年9月8日付で本件山林の実質的所有者であるWとの間で、買主をYとし、買主の指定する第三者の名義に所有権を移転することを内容とする売買契約を締結し、その後同年12月14日付で、被相続人ほか11名の名義を借り、本件山林の登記名義人であるXと被相続人ほか11名との間の売渡証書を作成し、これに基づき、被相続人ほか11名の名義で所有権移転登記がされたことが認められるとの判断がされた(同判決の写し)。
(ホ) 上記(ニ)の判決は、請求人が控訴しなかったため、平成14年○月○日の経過により、請求人とV社との間で確定した(f地裁からの回答書)。
(ヘ) H、G、L及びMは、上記(ニ)の判決を不服としてh高等裁判所(以下「h高裁」という。)に控訴した(同庁平成○年(○)第○号所有権移転登記手続請求控訴事件、同事件の控訴状の写し)。
(ト) h高裁は、平成15年○月○日に、上記f地裁の判断の理由に加え、本件山林は、V社がその事業目的に供するために購入し、その意図するところに沿って運用されてきたものであるから、同社が簿外資産である裏金で被相続人ほか11名の名義を借用して本件山林を買い入れたものと推認するのが相当であるとして、控訴人らの控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、同年○月○日の経過により、同判決が確定した(同事件の判決の写し、f地裁からの回答書)。
(チ) 請求人は、平成16年○月○日にV社に対し、本件売買代金債権112,500,000円のうち、請求人が被相続人から相続した8,035,714円の支払を求める訴え(以下「本件訴訟」という。)をf地裁に提起した(同庁同年(○)第○号未払売買代金請求事件、同事件の訴状の写し)。
(リ) f地裁は、本件判決において、本件売買契約は、本来、V社が購入し、被相続人ほか11名の所有名義にしていた本件土地を、改めてV社が被相続人ほか11名から高額の代金で買い直した形を取るために、売渡証書を形式的に作成したものにすぎず、虚偽表示によって無効であるとの判断をした。そして、本件判決は、平成17年1月○日の経過により確定した(同事件判決、同判決確定証明書の各写し)。
ハ V社の被相続人に係る未払金勘定の推移について(本件一覧表の写し)
(イ) 下記(ロ)計上直前の未払金残高は、452,000,000円である。
(ロ) 昭和47年5月25日に、本件土地の購入代1,350,000,000円の12分の1として112,500,000円が計上され、未払金が同額増加している。
(ハ) 昭和47年5月25日から昭和56年5月25日までの間、上記イの(ト)の契約書に規定された支払日である毎年5月25日に、本件売買代金債権112,500,000円の10分の1相当額11,250,000円を支払ったことによる未払金の減少はない。
(ニ) 被相続人に対する未払金は、昭和47年5月25日から昭和62年5月25日までの間、112,500,000円を下回っていない。
(ホ) 昭和61年3月15日現在の未払金残高は、289,124,746円である。
(ヘ) 昭和62年5月25日現在の未払金残高は、263,066,487円である。
ニ その他
(イ) 被相続人の相続人のうち、被相続人が亡くなるまで、V社の経営に従事していたのは、Bを除き、男性の相続人であった(Dの答述)。
(ロ) 被相続人、C、E及びDは、V社の役員として、本件売買契約が会社の節税のために行ったものであるという事情を知っていたが、F、G、H及び請求人は、そのような事情を知らずに、被相続人に印鑑を預けていた(Dの答述)。
(ハ) V社は、本件土地は、実質的に所有しているにもかかわらず、取得費を高くするという税金対策のために、事実とは異なる契約書等を作成したものであると認識していた(Dの答述)。
(ニ) 昭和46年9月25日付の売渡証書に売主として署名されている被相続人ほか11名の署名は、全て同一の筆跡である(昭和46年9月25日付の不動産売渡証書の写し)。

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(3) 判断

イ 上記1の(3)の基礎事実及び上記(2)で認定した事実、特に本件土地に係る昭和46年9月25日付の売買契約書を作成した目的、実際の権利関係、取引関係等からすると、本件売買契約は仮装取引であり、V社及び被相続人も本件売買契約が仮装取引であることを知っていたのであるから、少なくとも被相続人が死亡するまでの間に、本件土地に係る売買代金がV社から被相続人に支払われることはないと推認されるところ、現に、V社は、本件土地に係る昭和46年9月25日付の売買契約書の記載内容にかかわらず、本件売買代金債権を同社の被相続人名義の未払金勘定に計上しただけで、V社から被相続人に対し、本件土地に係る売買代金のやりとりがなされていた事実は認められない。そして、V社が、本件土地に係る売買代金の12分の1相当額である本件売買代金債権112,500,000円を被相続人に対する未払金として、同社の被相続人名義の未払金勘定に計上してから本件相続開始までの間、被相続人に対する未払金は、同金額を下回っていない。これらを総合すれば、本件売買代金債権として、昭和47年5月25日にV社の未払金勘定に計上された112,500,000円は、同日から昭和62年5月25日までの間に、支払がなかったと認めるのが相当である。
 そうすると、本件売買代金債権112,500,000円は、請求人の申告等に係る被相続人の相続財産のうち、同人のV社に対する未収金263,066,487円の中に含まれていると認めるのが相当である。
ロ 次に、上記(2)のロの(チ)のとおり、本件訴訟は、本件売買代金債権112,500,000円のうち、請求人が被相続人から相続した8,035,714円の支払を求める旨の訴えであり、上記(2)のロの(リ)のとおり、本件判決において、本件売買契約は、虚偽表示によって無効であるとの判断がされたことが認められる。そして、当該判決が確定したことにより、本件売買契約に基づくV社の被相続人ほか11名に対する売買代金債権は、実際には存在しなかったこととなる。
 そうすると、本件訴訟は、本件売買代金債権112,500,000円が存在するとの請求人の申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実について、その存否を直接審判の対象としたものであり、本件判決により請求人の申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なることが確定されたと認めるのが相当である。
ハ また、上記(2)のニによれば、請求人は、被相続人が死亡するまで、V社の経営に全く関与しておらず、本件売買契約にも全く関与していなかったものと認められる。他に請求人が申告時までに本件土地の売買の目的や経緯、ないしは本件売買契約が仮装であること等を知っていたと認めるに足りる証拠はない。そうすると、請求人は申告時において本件売買代金債権が存在しなかったことを知っていたとは認められない。
ニ 以上によれば、本件判決は、通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当する。
ホ 以上の結果、本件判決が通則法第23条第2項第1号に規定する判決に当たらないとしてされた本件通知処分は違法であるから、同処分は、その全部を取り消すべきである。

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