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(平19.2.28、裁決事例集No.73 56頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、会社役員である審査請求人(以下「請求人」という。)が平成17年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限後に提出したとして、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行ったことに対し、請求人が法定申告期限までに提出できなかったことについて正当な理由があるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

審査請求(平成18年9月29日)に至る経緯及び内容は、次表のとおりである。

区分 確定申告 賦課決定 異議申立て 異議決定
年月日 平成18年3月23日 平成18年4月28日 平成18年6月23日 平成18年9月5日
総所得金額
○○○○
     
内訳 給与所得の金額 ○○○○
雑所得の金額 ○○○○
配当所得の金額 ○○○○
納付すべき税額 ○○○○
無申告加算税の額 円 ○○○○ 全部取消し 棄却

(注)上記の雑所得の金額は、公的年金に係るものである。

(3) 関係法令

イ  国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該申告に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、また、同法第66条第1項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は無申告加算税を課さない旨規定している。
ロ  通則法第66条第3項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、同条第1項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 本件確定申告書は、調査があったことにより決定があるべきことを予知して提出されたものでなく、請求人から平成18年3月23日に郵送され、同月24日に原処分庁が収受した。
ロ 請求人は、平成18年3月9日から同月18日まで、P市Q町○番に所在する医療法人A病院に入院していた。

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2 主張

(1) 請求人

 本件賦課決定処分は、次のとおり違法である。
イ 請求人は、上記1の(4)のロのとおり入院しており、入院中は、極度の不安で精神状態が異常に不安定で、外部との接触を断ち検査治療等に専念していた。
ロ 本件確定申告書は、請求人が作成を依頼した税理士法人B会計事務所(以下「本件会計事務所」という。)において法定申告期限内に作成済みであったが、個人の確定申告については、自らの判断で行わなければならないところ、入院中は、外部との接触を断たなければならない判断能力に欠ける状況にあり、判断を下すことができる状態でなかったことから、法定申告期限内に提出できなかったものである。
 また、請求人は、本件確定申告書について、退院後、最大限迅速に確認を行った上で、平成18年3月23日に提出している。
ハ 以上のことから、請求人が本件確定申告書を法定申告期限までに提出できなかったことには、やむを得ない事情があると認めるべきであり、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するので、本件賦課決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

(2) 原処分庁

 本件賦課決定処分は、次のとおり適法である。
イ 通則法第17条《期限内申告》は、申告納税方式による国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならない旨規定している。
 また、通則法第66条第1項は、法定申告期限後に納税申告書が提出された場合には、正当な理由があると認められる場合を除き、無申告加算税を課する旨規定している。
ロ ところで、無申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があると認められる場合とは、災害、交通・通信の途絶など、納税者の責めに帰せられない外的事情により期限内申告書の提出を不可能にする場合のように、期限内申告書を提出できなかったことが真にやむを得ない事情がある場合をいうとされ、また、納税者が、申告時に重患その他の事由により意識又は身体の自由を失っていたため、確定申告書を作成できず、かつ、税理士等に作成や提出をさせることができない特別の事情があった場合には該当し得る。
 しかしながら、本件確定申告書は、請求人から依頼された本件会計事務所が法定申告期限内に既に作成しており、請求人は、法定申告期限内において本件確定申告書を確認できないほどの病状であり、税理士等に提出を依頼するなどの意思表示すらできない状態にあったとも認められない。
 したがって、本件確定申告書を法定申告期限内に提出できなかったことは、確定申告期間中に入院していたことをもって、納税者の責めに帰せられない真にやむを得ない事情があるとはいえず、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するとは認められない。
ハ 以上のことから、請求人の主張には理由がなく、通則法第66条第1項及び第3項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 本件確定申告書が提出されるまでの経緯について

 請求人は、当審判所に対し、上記の経緯について要旨次のとおり答述した。
イ 本件確定申告書の作成を本件会計事務所に依頼したのは、平成18年2月中旬ころだった。
ロ 平成6年1月ころから、手術後検査を毎年定期的に受けており、平成18年の検査については、P市Q町のA病院で同年3月9日から行うことになった。また、入院予定期間は、一週間ないし10日程度であった。
 入院中は、定期的に、血液、肝機能をはじめ、身体全般にわたる検査を受けていた。
ハ 平成18年3月10日ころ、本件会計事務所の職員から本件確定申告書が出来上がったので確認してもらいたい旨の連絡を、請求人が代表取締役を務めるC社の経理課のD課長から電話で知らされた。その際、D課長から本件確定申告書の法定申告期限が平成18年3月15日であることを知らされた。
 入院中、精神的な不安から外部との接触を断ち何も考えないようにしている状態で、本件確定申告書を確認する余裕がなく、申告期限にこだわらず、退院後に提出する意思だった。
ニ 上記ハの連絡に対し、入院中で検査治療に専念している状態で、細かい数字のことを考える状況になかったので、本件確定申告書の確認は、退院後にしてもらいたい旨をD課長に電話で指示し、同人を通じて本件会計事務所にその旨を連絡した。
ホ 本件確定申告書については、退院直後の平成18年3月22日に本件会計事務所の職員から話を聞いてその内容を確認の上押印した。
 その確認の内容は、本件会計事務所に作成を依頼していたので、計算過程などの細かい点は任せて、納税額の確認を行うというものであった。

(2) 本件賦課決定処分について

イ 通則法第66条第1項に規定する無申告加算税は、申告納税制度の秩序を維持するためには、納税者により期限内に適正な申告が自主的にされることが不可欠であることにかんがみて、申告書の提出が期限内にされなかった場合の行政上の措置として課されるものであるから、同項ただし書の「正当な理由」とは、例えば、災害、交通・通信の途絶など、期限内に申告できなかったことについて納税者に責められる事由がなく、このような行政上の制裁を課することが不当又は酷となるような真にやむを得ない事情をいうものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、上記1の(4)の各事実及び上記(1)の答述を総合すると、請求人が本件会計事務所に本件確定申告書の作成を依頼したのは平成18年2月中旬ころであり、そして、入院の翌日である同年3月10日ころには、本件確定申告書が出来上がっていたこと、請求人の入院は、突発的な事態によるものでなく、毎年定期的に受けていた術後検査を受けるためのものであり、実際にも、入院中は、定期的に血液、肝機能等の身体全般の検査を受けるという状況にあったこと、入院期間は予め一週間ないし10日程度と見込まれていたもので、同月19日に退院していること、請求人は、本件確定申告書の作成を本件会計事務所に依頼していたことから、計算過程などについては確認することなく、納税額を確認したところで本件確定申告書に押印していること、請求人は、D課長から、法定申告期限が平成18年3月15日であることを知らされた際、申告期限にはこだわらず、本件確定申告書を退院後に提出する意思を有していたことが認められる。
 これらのことからすると、請求人が本件確定申告書の期限内提出の必要性ないし重要性を十分に認識していたとすれば、請求人は、平成18年3月9日から入院することになるという事情を本件会計事務所に説明して本件確定申告書の作成を早め、入院する前に本件確定申告書の内容を確認することに支障はなかったということができ、さらには、入院中においても、請求人は「納税額」の確認をできないほどの病状下にはなかったもので、D課長から電話があった際(同月10日ころ)、請求人が確認を要すると考えていた納税額を同人に尋ね、それを確認することは容易なことであったと認めるのが相当であって、この認定に反する請求人の答述及び主張は採用できない。
 したがって、請求人が本件確定申告書を法定申告期限までに提出できなかったことについて通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があったとは認められない。
 なお、請求人は、上記2の(1)のロのとおり、本件確定申告書を平成18年3月23日に提出していることからも正当な理由がある旨主張するが、そのことが法定申告期限内に本件確定申告書を提出できなかった事情となり得ないことは明らかであるから、請求人の主張には理由がない。
ハ したがって、請求人の主張には理由がなく、通則法第66条第3項の規定を適用し、同条第1項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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