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(平19.1.18、裁決事例集No.73 168頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、弁護士業を営む夫から青色事業専従者給与の支給を受けており、当該給与所得から医療費控除をして所得税の還付を受けるため還付請求申告書を提出していたところ、原処分庁が、請求人は夫の事業に係る所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第1項に規定する青色事業専従者に当たらないとして、同法第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》の規定により、夫について請求人に対する給与の必要経費算入を否認すると同時に、当該給与として支払われた金額は、請求人の各種所得の金額の計算上ないものとされるとして、請求人の給与所得を零円とし、医療費控除の適用は受けることができないとして更正処分を行ったのに対し、請求人が、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年分、平成15年分及び平成16年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成18年1月31日付で別表1の「更正処分」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件各更正処分を不服として、平成18年3月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月21日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成18年7月14日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人の夫Cは、P市p町○○番地のD法律事務所(以下「所属事務所」という。)に所属する弁護士である。
ロ 請求人は、夫Cが所属する法律事務所には勤務していない。
ハ 夫Cは、昭和48年分以後の所得税について青色申告の承認を受け、同人と生計を一にする配偶者である請求人を青色事業専従者として、昭和55年1月18日付で次のとおり記載した青色専従者給与に関する変更届出書を提出している。

支給期間等 仕事の内容程度 給料(月額) 賞与 昇給の基準
昭和55年1月以降 経理・秘書・事務(運転を含む)毎日4〜5時間 ○○○○円 年間

8月

以内
年率20%以内で一般の昇給水準及び業績に応じ昇給を行う

ニ 各年分において請求人に支払われた給与の額は、青色専従者給与に関する変更届出書に記載の範囲内であり、年間の合計支給額は、平成14年○○○○円、平成15年○○○○円及び平成16年○○○○円である(以下、これらの金員を「本件給与」という。)。
ホ 夫Cは、各年分の確定申告において、事業所得の金額の計算上、本件給与の額を青色事業専従者給与として必要経費に算入している。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、別表2に記載の夫Cの業務に従事している(その詳細は、別紙2−1及び別紙2−2の「請求人の主張」欄のとおりである。)が、各業務のうち、夫Cの法律事務に附帯関連する業務は、別表2の項番56及び8ないし16であり、所得税法に定める居住者の義務の履行のために行う業務は、同表の項番1ないし4及び7であって、いずれも夫Cの営む弁護士業に包含される業務であるから、同法第57条に規定する「居住者の営む事業に従事するもの」に当たる。
ロ 所得税法施行令第165条は、専ら事業に従事するかどうかの判定について、「その年を通じて6月を超えるかどうかによる」としているが、ここにいう「6月を超える」とは、通常の労働日数、労働時間で考えるべきである。
 請求人の場合、所属事務所の従業員の年間就労日数が220日、年間所定の労働時間が1,540時間であるところ、請求人が平成14年1月から従事日を記録した「出勤簿」によれば、各年分において、請求人が夫Cの事業に従事した日数は、平成14年が143日、平成15年が171日、平成16年が146日であること、また、請求人の年間従事時間は、少なくとも1,455時間と考えられることから、いずれも所属事務所の従業員の年間就労日数及び年間所定労働時間の2分の1をはるかに超えており、当然に「6月を超える」こととなるから、請求人は、所得税法施行令第165条に規定する「専ら夫Cの事業に従事する者」と判定される。
ハ 請求人が従事する各業務を「夫婦間の相互扶助の範囲内のもの」とすることは、青色事業専従者給与を規定する所得税法第57条の法沿革にも、労働には当然報酬が支払われるべきだとする現今の社会常識にも、はたまた憲法感覚にも馴染まない、違法で誤った考え方である。
 そして、このことは、女性である請求人にただ働きを強制してこれを差別し、個人として尊重しないものであり、請求人の幸福追求権、勤労の権利、基本的人権を侵害するものであって、日本国憲法(以下「憲法」という。)第11条、第13条、第14条及び第27条に反し違法である。
ニ 以上述べたとおり、請求人は、夫Cの青色事業専従者であり、請求人に支払われた本件給与が所得税法第57条第1項に規定する青色事業専従者給与に該当することは当然であるから、これを、原処分庁が、同法第56条の規定により、請求人の各種所得の金額の計算上ないものとみなされるとした本件各更正処分は、事実誤認、法令の解釈を誤った違法があり、その全部が取り消されるべきである。

(2) 原処分庁

 原処分は、次のとおりいずれも適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
 青色事業専従者給与については、生計を一にする親族が青色申告者の営む事業に専ら従事している場合に限り必要経費に算入することができるところ、請求人の労務の内容、所要時間ないし頻度からすれば、社会通念上、請求人の労務の提供は、夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環として行われている行為というべきであり、請求人は夫Cの事業に専ら従事する者に当たらないから、本件給与の額は、青色事業専従者給与に該当しないこととなるから、所得税法第56条の規定により、請求人の各種所得の金額の計算上ないものとみなされる。
 なお、請求人が従事する各業務及び「出勤簿」に関する原処分庁の主張は、別紙2−1及び別紙2−2の「原処分庁の主張」欄のとおりである。

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3 判断

(1) 本件各更正処分について

イ 法令解釈について
 事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例について所得税法第57条第1項は別紙1の2のとおり規定し、また、親族が事業に専ら従事するかどうかの判定基準について同法施行令第165条は、別紙1の3のとおり、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月を超えるかどうかによる旨規定しているところ、その生計を一にする配偶者等の親族が青色事業専従者に該当するか否かの判定に当たっては、青色申告者の営む事業の内容ないし態様、配偶者等の親族が従事する労務の内容ないし態様、要する期間ないし時間及び頻度等の諸要素を勘案して、当該事業の遂行上必要な労務であり、かつ、事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月を超えるかどうかを判断すべきであると解される。
ロ この点について、請求人は、原処分庁が、請求人の従事する各業務について「夫婦間の相互扶助の範囲内のもの」とすることは、所得税法第57条の法沿革、労働には当然に報酬が支払われるべきであるという現今の社会常識及び憲法感覚にも馴染まない、違法で誤った考え方であり、また、請求人の幸福追求権、勤労の権利、基本的人権を侵害するものであって、憲法第11条、第13条、第14条及び第27条に反し違法である旨主張する。
 しかしながら、原処分庁の主張は、請求人は夫Cの業務に従事しているが、それは「夫婦間の相互扶助の範囲内のもの」であるから無償であるべきであるという趣旨ではなく、所得税法第57条第1項及び同法施行令第165条に基づいて、「専らその居住者の営む事業に従事」したか否かを判定するに際して、請求人の労務の提供は、労務の内容、所要時間ないし頻度からすれば、社会通念上、夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環としての行為であり、夫Cの事業に専ら従事するものではないとするものであるから、請求人の主張は前提を誤るものである。仮に、請求人の主張が、そのような法令の規定自体が憲法に違反するという趣旨であるとすれば、その判断は当審判所の権限外のことであり、審理の限りではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ そこで、請求人が従事する労務の内容ないし態様、要する期間ないし時間及び頻度等をみると、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下のとおりである。
(イ) 総勘定新元帳、試算表の作成等
A 夫Cは、別表2の項番1及び別紙2−1の1欄に記載のとおり、請求人が毎年の新しい総勘定元帳を作成した旨主張し、請求人は、当審判所に対して、毎年の新しい総勘定元帳を作成する業務を行っており、期首及び期末の繰越残高欄の数字は、夫Cの筆跡と似ているが、請求人が記載したものである旨答述する。
 しかしながら、夫Cは、当審判所に対して、各年分の総勘定元帳は夫Cが記帳している旨答述していること、当該総勘定元帳の現金勘定、普通預金勘定等には、12月末の月末差引残高の額の記載はあるものの、期末繰越残高の額の記載はないこと、12月末繰越残高欄及び翌期首繰越残高欄に記載された金額の筆跡は酷似していることを併せ考えると、新しい総勘定元帳を作成する業務のうち、期首、期末繰越残高の突合及び記載については、請求人が行っているとは認められず、請求人が毎年の新しい総勘定元帳を作成したとの請求人の答述は信用できず、したがって、請求人の主張には理由がない。
B また、請求人は、別表2の項番2及び別紙2−1の2欄に記載のとおり、請求人は試算表を作成するなどし、これに多大な時間を要している旨主張する。
 ところで、請求人は、当審判所に対して、毎月の月末残高試算表を作成する目的は、夫Cが記帳する総勘定元帳の各勘定科目の貸借が一致するかどうかを確認するためであること、作業の内容は、各勘定科目の月末残高をパソコンに入力し、その貸借が一致しない場合には、請求人の入力誤りか、あるいは各勘定科目の計算誤りかなどの原因を探究し、その結果を夫Cに報告する旨答述し、また、夫Cは、総勘定元帳の記載は2、3月をまとめて行う旨答述している。
 そうすると、請求人及び夫Cの答述を前提としても、請求人の試算表の作成等に係る作業の内容及び程度が、請求人が主張するように、多大な時間を要するものであるとは認められず、仮にそれが行われていたとしても(請求人が試算表の作成等に係る作業を行っていることについては、請求人及び夫Cの答述以外にこれを裏付ける証拠資料はない。)、一時的ないし臨時的なものというのが相当である。
(ロ) 確定申告書の作成準備及び税務署への申告書等の提出
 請求人は、別表2の項番34及び別紙2−1の3、4欄に記載のとおり、確定申告書の作成準備及び税務署への申告書等の提出を行っている旨主張する。
 しかしながら、夫Cの各年分の確定申告書の内容は、事業所得のほか不動産所得、給与所得、雑所得、一時所得及び株式等の譲渡所得を含むものであること、確定申告書は、納税者が業務を行っているか否かにかかわらず作成して提出すべきものであること、夫Cが営む事業は弁護士業であること、請求人は夫Cの所属事務所に勤務せずに自宅においてその労務に従事していることからすれば、その申告書の作成準備及び提出は、夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環として行われている行為ないしはこれと不可分な行為であるというべきであり、それによって、夫Cの事業に従事しているとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ハ) 銀行に出向いて各種の手続を行うこと
 請求人は、別表2の項番5及び別紙2−1の5欄に記載のとおり、銀行に出向いて各種の手続を行っている旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、夫Cの所属事務所に近いR市r町所在のF支店の本件口座は、同人の顧問先からの報酬等の振込み、預金引き出し、振込送金、同人の別口座への振替及び税金の支払等がなされていることからみて、同人の弁護士業のために開設管理されている預金口座であり、本件通帳の記帳を除く本件銀行業務は、そのほとんどがF支店において行われている(同支店以外では、別表3のとおり、平成14年にG支店で5回、平成15年にE銀行V支店で1回、同銀行M支店で1回及びG支店で2回、平成16年にG支店で1回及びE銀行N支店で2回、それぞれ行われている。)ことが認められるところ、請求人は、当審判所に対して、本件銀行業務の大部分をG支店(請求人及び夫Cの住所地に近いQ市q町所在)で実行しており、F支店へは年1回税金の支払のため出かける程度であり、H銀行J支店に不動産賃貸料の入金確認のため、通帳の記帳に出かけるが、それ以外の銀行に出かけることはない旨答述している。
 そうすると、本件通帳の記帳を除いて夫Cの事業に関する本件銀行業務のほとんどは、同人自身がF支店において行っていると考えるのが自然であり、これを請求人が行っていると認めるに足る証拠資料はない。
 なお、夫Cは、T市t町に所在する同人所有の建物をS社に貸し付けている(同人の各年分の所得税青色申告決算書(不動産所得用))が、同人の不動産賃貸業は、その所有する建物1棟(4室)を貸し付けているだけであり、事業的規模で行われているとは認められないから、当該賃貸料の入金を確認するためのH銀行J支店の通帳の記帳をもって、請求人が夫Cの事業に従事しているということはできない。
 そうすると、請求人が本件通帳の記帳のためにG支店に出向くことがあったとしても(請求人が行ったことを裏付ける証拠資料はない。)、夫Cの主張によると本件通帳の記帳は月4回程度であるから、その労務は一時的なもの(これに要する時間も短時間である。)というのが相当である。
(ニ) 現金の出納業務及び伝票・元帳等の整理
A 請求人は、別表2の項番6及び別紙2−1の6欄に記載のとおり、現金の出納業務を行っている旨主張し、当審判所に対して、夫Cから指示を受けて、G支店の本件口座から事業用資金及び生活費として毎月○○○○円程度の現金を引き出し、いったん現金箱に入れた後、夫Cが出金伝票を起票して、生活費及び専従者給与の支払などに充てていること、請求人あるいは夫Cがそれぞれ手持ちの現金から事業用資金として出金した場合は、その後に夫Cが伝票を起票して総勘定元帳に記帳していること、請求人が現金箱から現金を出し入れする行為1回につき5分を要するとし、各年分の総勘定元帳の現金勘定に記載された入出金件数の平均値をとると、請求人が行う現金の出納業務は年平均390回、従事時間33時間であることを答述する。
 しかしながら、夫Cが実際に行っている現金の入出金、出金伝票の起票、総勘定元帳の現金勘定への記載の方法では、各年分の総勘定元帳の現金勘定に記載された入出金件数は、現実の現金の入出金を正しく表記したものとはいえない。また、そもそも請求人が主張する現金の出納業務は、事業用と家事用が明確に区分されていない現金箱の現金の出し入れをいうものであり、それを業務というのは、請求人らが所持する財布から現金を出し入れする行為を業務というに等しいものである。
 そうすると、請求人が行っていると主張する「現金出納業務」をもって、請求人が夫Cの事業に従事しているということはできないから、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、別表2の項番7及び別紙2−1の7欄に記載のとおり、伝票及び総勘定元帳の整理を行っている旨主張する。
 しかしながら、夫Cは、当審判所に対して、総勘定元帳については、同人が2、3月まとめて記載することもあること、入出金伝票等の起票は同人が行っていることを答述し、他に請求人が伝票及び総勘定元帳の整理を行っていることを認めるに足る証拠資料がないことからすれば、請求人の主張には理由がない。
(ホ) 住所録の管理、挨拶状等の返信、年賀状に関連する業務及び贈答品の送付等
 請求人は、別表2の項番8ないし13及び別紙2−1の8ないし13欄に記載のとおり、住所録の管理、挨拶状等への返信、年賀状に関連する業務及び贈答品の送付等(以下「書信交換等」という。)を行っている旨主張する。
 この点について、当審判所の調査の結果によれば、書信交換等の相手方約900名のすべてが夫Cの事業に関連する顧客等であるとは限らないことが認められ、また、請求人及び夫Cは、書信交換等を行うことによって顧問先を紹介されたという認識はなく、挨拶状等に対する返信は、夫Cが指示して請求人が週に1回程度行い、夫C自らが返信することもあった旨答述している。
 そうすると、請求人の主張する書信交換等の内容及び頻度、夫Cが営む事業は弁護士業であること、請求人は夫Cの所属事務所に勤務せずに自宅においてその労務に従事していることからすれば、その書信交換等は、夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環として行われている行為ないしはこれと不可分な行為であるというべきであり、それによって、請求人が夫Cの事業に従事しているとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ヘ) 本件研究室における業務
 請求人は、別表2の項番14及び別紙2−1の14欄に記載のとおり、請求人が本件研究室において、夫Cの法律業務を補助するための、本件研究室の清掃、来訪者の接遇、書類のコピー作成、夫Cに対するお茶出し等を行った旨主張し、当審判所に対して、夫Cは、本件研究室は、同人が休日や帰宅後に仕事をする時、仕事上の来客がある時などに利用し、請求人は、夫Cが本件研究室で執務する際にお茶出しなどの接遇をしている旨、請求人は、夫C及び来訪者の接遇のほか、その接遇のための茶道具、本件研究室において使用する書類及び備品等を運ぶため、あるいは業者の荷物搬入及び設備点検の立会いのために、月5、6回本件研究室に出向いている旨答述する。
 しかしながら、本件研究室は、請求人及び夫Cの自宅と同じQ市q町に所在し、また、請求人及び夫Cは、当審判所に対して、請求人は来訪者のため、あるいは夫Cが執務する際にお茶出しなどの接遇を行っているが、必ずしもその都度本件研究室に来ているわけではない旨答述する。
 そして、請求人が本件研究室において行っていたことは、その内容及び頻度、夫Cが営む事業は弁護士業であること、請求人は夫Cの所属事務所に勤務せずに自宅に近い本件研究室においてその労務に従事していることからすれば、夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環として行われている行為ないしはこれと不可分な行為であるというべきであり、それによって、請求人が夫Cの事業に従事しているとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ト) 自動車の運転業務
 請求人は、別表2の項番15及び別紙2−1の15欄に記載のとおり自動車の運転業務を行っていた旨主張する。
 しかしながら、夫Cは、当審判所に対して、請求人が自動車を運転できない場合はタクシー又は地下鉄を利用して所属事務所に出勤している旨、請求人は、必要な日常の家事、友人との交際、趣味で行う各種教室への参加、病院への通院など、他に用事がある場合は、自動車の運転業務を行っていない旨、それぞれ答述していることからみて、請求人が自動車を運転し、夫Cがこれに乗車したことがあったとしても、その内容及び頻度、夫Cが営む事業は弁護士業であること、請求人は夫Cの所属事務所に勤務せずに自宅においてその労務に従事していることからすれば、それは、夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環として行われている行為ないしはこれと不可分な行為であるというべきであり、それによって、請求人が夫Cの事業に従事しているとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(チ) スケジュール管理等の秘書的業務
 請求人は、別表2の項番16及び別紙2−1の16欄に記載のとおり夫Cのスケジュール管理等の秘書的業務を行っていた旨主張する。
 しかしながら、請求人は、当審判所に対して、毎朝、夫Cの1日のスケジュールを同人の手帳を見て注意喚起している旨答述していること、同人自らがスケジュール等を記載した手帳を管理、所有していることからすれば、請求人が、毎朝、夫Cのその日のスケジュール等について注意喚起を行うことは、その内容及び頻度、夫Cが営む事業は弁護士業であること、請求人は夫Cの所属事務所に勤務せずに自宅においてその労務に従事していることからすれば、夫婦の相互扶助の範囲内の行為あるいは日常生活の一環として行われている行為ないしはこれと不可分な行為であるというべきであり、それによって、請求人が夫Cの事業に従事しているとはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(リ) なお、請求人は、上記2の(1)のロ及び別紙2−2記載のとおり、請求人の主張する各業務に従事した日(ただし、別表2の項番16「スケジュール管理等の秘書的業務」を除く。)は「出勤簿」に「○○(請求人の姓)」の印を押なつしていると主張し、当審判所に対して、「出勤簿」は請求人の自宅に備え付けてあり、夫Cの事業に関する業務に従事した日は必ず「出勤簿」に押印しているが、スケジュール管理等の秘書的業務は、毎日のことであるため押印しておらず、また、夫Cの指示により、本件研究室において業務に従事した日には、「○○(請求人の姓)」の押印をしたほかに「ケ」と表示した旨答述している。
 しかしながら、上記のとおり、請求人は、夫Cの所属事務所には出勤しておらず、また、請求人が「出勤簿」と主張する書面は請求人の自宅に備え付けられ、夫Cの事業に関する業務に従事した日に押印するものであるというのであるから、それは、一般社会通念上の出勤簿とは明らかに異なるものであり、請求人又は夫Cが、請求人が夫Cの事業に関する業務に従事したと認識した日にその「出勤簿」に押印するというものにすぎない。
 また、当審判所の調査の結果によれば、各年分において、「出勤簿」の押印の上に×印が付された日があること、銀行に出向く業務として、F支店及びG支店に出向いて本件銀行業務を行ったとする年月日に出勤簿に押印がない日が多数ある一方、夫Cが当審判所に対して、亡母の墓参、不動産の管理委託先であるU社への挨拶及び夫Cが実質的に経営するS社の顧問税理士との申告打合せなどのため、請求人と泊まり掛けでT市t町に出かけた旨答述する平成14年7月25日、同年12月27日、平成16年1月8日及び同年7月17日にも押印され、また、平成14年7月25日及び平成16年1月8日を除き、いずれも本件研究室で従事したことを示す「ヶ」印も併せて付されているなど、請求人が夫Cの業務に従事したと主張する日と「出勤簿」に押印された日との間には、多数の符合しない日が存在することから、「出勤簿」が、請求人が夫Cの事業に従事した日を正確に表しているとは認められない。
 したがって、請求人が「出勤簿」と主張する書面をもって、請求人が専ら夫Cの事業に従事しているか否かを判断することはできない。
ニ 以上によれば、請求人が主張する別表2記載の各業務のうち、試算表の作成等及び銀行に出向いて各種の手続を行うこと以外の業務については、これに従事しているとは認められないか又はそれに従事することが夫Cの事業に従事するとはいえないものであり、また、試算表の作成等及び銀行に出向いて各種の手続を行うことについては、請求人がこれらを行っていたとしても、その労務は一時的ないし臨時的なものであって、請求人が夫Cの事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月を超えるとは認められない。
 この点について、請求人は、別表2記載の請求人が従事する各業務は、いずれも夫Cの営む事業に包含される業務であり、請求人は、所得税法第57条第1項に規定する「居住者の営む事業に従事するもの」である旨、また、請求人の年間従事日数及び年間従事時間は、所属事務所従業員のそれらの2分の1をはるかに超えているから、同法施行令第165条に規定する「その年を通じて6月を超える」こととなり、請求人は「専ら夫Cの事業に従事する者」と判定される旨主張するが、上記のとおりであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 以上のとおり、請求人は夫Cの青色事業専従者とは認められず、本件給与は、所得税法第57条第1項に規定する青色事業専従者給与に該当しないこととなるから、同法第56条の規定により、本件給与は、請求人の各種所得の金額の計算上ないものとみなされることになる。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(2) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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