ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.73 >> (平19.2.7、裁決事例集No.73 326頁)

(平19.2.7、裁決事例集No.73 326頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が譲渡をした居住用家屋及びその敷地の用に供する土地に係る譲渡所得について、居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例を適用して確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人が譲渡した居住用家屋は二の家屋であり、一構えの一の家屋とは認められないことから、これらの家屋のうち一の家屋及びその敷地の用に供する土地は当該特例の適用対象とはならないとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年分の所得税の長期譲渡所得について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項に規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用し、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成17年12月26日付で、別表1の「更正処分等」欄に記載のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成18年2月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月22日付で、いずれも棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月24日に送達した。
ニ 請求人は、平成18年6月23日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。

トップに戻る

(3) 関係法令等の要旨

イ 措置法第35条第1項は、個人が、その居住の用に供している家屋の譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地若しくは当該土地の上に存する権利(以下、土地又は土地の上に存する権利を併せて「土地等」という。)の譲渡をした場合又は当該家屋で当該個人の居住の用に供さなくなったものの譲渡若しくはその敷地の用に供されている土地等の譲渡を当該個人の居住の用に供さなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした場合には、課税長期(短期)譲渡所得金額の計算上、3,000万円と当該資産の譲渡に係る長期(短期)譲渡所得の金額とのいずれか低い金額を控除する旨規定している。
ロ 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第23条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項は、第20条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第2項の規定を準用し、個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、措置法第35条第1項の規定の適用がある旨規定している。
ハ 「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」(昭和46年8月26日付直資4−5ほか国税庁長官通達)35−5《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱いの準用》において準用する31の3−9《「主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」の判定時期》は、その譲渡した家屋がその譲渡の時においてその者の居住の用に供されている場合のその家屋が「主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」に該当するかどうかは、その譲渡の時の現況により判定する旨定めている。
ニ 所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達)33−11《譲渡資産のうちに短期保有資産と長期保有資産とがある場合の収入金額等の区分》は、一の契約により譲渡した資産のうちに短期保有資産と長期保有資産とがある場合には、それぞれの譲渡資産の収入金額は、当該譲渡に係る収入金額の合計額をそれぞれの譲渡資産の当該譲渡の時の価額の比によりあん分して計算する旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人及び請求人の母D並びに請求人の父Eは、昭和47年に、共同で別表2に記載の家屋(以下「本件X家屋」という。)及びその敷地の用に供する別表3に記載の各土地(以下、これらの土地を併せて「本件X土地」という。)を取得した。本件X家屋の閉鎖登記簿の謄本及び本件X土地の各登記簿の謄本には、取得時の各人の持分は、本件X家屋及び本件X土地ともそれぞれ請求人5分の1、D5分の3、E5分の1との記載、また、昭和○年○月○日相続を原因として、Eの各持分は請求人に移転した旨の記載がある。
ロ 請求人は、平成8年に別表4に記載の家屋(以下「本件Y家屋」といい、本件X家屋と併せて「本件各家屋」という。)及び本件Y家屋の敷地の用に供する別表5に記載の各土地(以下、これらの土地を併せて「本件Y土地」といい、本件X土地と併せて「本件各土地」という。)を取得した。
ハ 請求人及びDは、平成16年3月21日、F社との間で、別表6に記載の本件X土地及び本件Y土地の各一部並びに本件各家屋を54,947,000円で譲渡する内容の不動産売買契約を締結し、同年5月28日にこれらの土地及び家屋を引き渡した。
ニ 請求人及びDは、平成16年3月21日、G及びH(以下「Gら」という。)との間で、別表7に記載の本件X土地及び本件Y土地の各一部を4,200,000円で譲渡する内容の土地売買契約を締結し、同年5月28日にこれらの土地を引き渡した(以下、この譲渡と上記ハの譲渡とを併せて「本件譲渡」という。)。

トップに戻る

2 主張

(1) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ) 本件X家屋は延べ床面積が57.02平方メートル、本件Y家屋は延べ床面積が60.72平方メートルの居宅であり、本件各家屋とも4つの和室又は洋室のほか、台所、風呂及び便所を有しており、更に本件各家屋のそれぞれの敷地は隣接していたものの、その間はブロック塀で仕切られていた。
 本件各家屋の規模、構造、間取り、設備並びに本件各家屋の規模、構造等から通常考えられる用法及び機能等を総合考慮すれば、たとえ生計を一にする請求人及びその家族が、本件X家屋の増築部分としての機能として利用することを本件Y家屋への入居目的とし、本件各家屋を併せて居住の用に供していたとしても、本件各家屋はその構造及び機能からみて、それぞれ別個の独立した居住用の家屋であることは紛れもない事実である。
 これらのことからして、本件各家屋は、併せて一構えの一の家屋ではなく、それぞれが別個の独立した居住用家屋に該当すると認められるから、請求人の場合、措置法施行令第20条の3第2項に規定する「その居住の用に供している家屋を二以上有する場合」に該当する。
 そして、本件譲渡時においては、請求人及び請求人の家族は主として本件X家屋を拠点として日常生活を営んでいたものと認められるから、措置法施行令第20条の3第2項に規定する「その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」は、本件X家屋であると認められる。
(ロ) 措置法第35条第1項は、居住用財産の譲渡の場合にはその担税力が弱いことを考慮し、住宅施策の一環として特別控除を認めることによって、新たな居住用財産を購入できるように保障する趣旨で立法された例外規定であるところ、同項は、租税負担公平の原則から、その不公平が拡大しないように適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、措置法施行令第23条第1項はこれを受けて、一定の制限を付することでこの特例の施行による不公平の拡大を防止している。
 このように、特例の施行による不公平の拡大を防止する趣旨で規定されている措置法施行令第23条第1項について、安易な拡張解釈をすることは、規定の趣旨に反するものである。
(ハ) 本件各土地は、それぞれその区分されたままの状態で譲渡されたのではなく、これら両方の土地が一体として売りに出され、その結果、それぞれの土地の一部ずつが、F社及びGらにそれぞれ譲渡されている。
 このように、請求人は、本件各土地を一体として売却すべくJ社に対し、総額65,800,000円で売却するために専属専任媒介契約を締結してその売却を依頼し、その結果、複数の者に本件各土地の一部を別々に区分してそれぞれ譲渡しているのであるから、本件各土地は、どの部分の価値も同一であるということとなる。
 したがって、本件各土地の譲渡価額の計算は、本件各土地の面積の比によりあん分することが合理的である。
(ニ) 以上のことから、請求人の譲渡所得の金額を計算すると、本件X土地に係る譲渡益は○○○○円となり、また、本件Y土地に係る譲渡益は○○○○円となる。そして、措置法第35条第1項の特別控除を適用した後の請求人の譲渡所得の金額は、○○○○円となる。
 したがって、納付すべき税額は○○○○円となり、本件更正処分の額を上回るので、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」に該当する事由は認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

(2) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ) 本件各家屋は、次に述べるとおり、一体として居住の用に供していたのであるから、一構えの一の家屋として、それらの敷地とともに本件特例が適用されるべきである。
A 本件Y家屋は、もともと1棟の家屋であったことから、玄関、居間、居室、風呂、台所及び便所等の設備を形式上は有していたが、建築後約40年を経過して、著しい老朽化のため、台所や風呂などの設備は使用できる状態ではなかった。
 つまり、本件Y家屋は、独立して1棟の居住用家屋としての機能を持ったものとはいえず、本件X家屋と一体となって初めて機能する家屋であった。
B 請求人は、子供の成長に伴い手狭となった本件X家屋の増築部分として本件Y家屋を利用する目的であったことから、当初から本件Y家屋の台所及び風呂を利用する目的を持っておらず、また、使用もできなかった。
C 本件Y家屋の敷地は、本件X家屋の敷地と地続きであり、その設備状況からして、独立した1棟の居住用家屋としての機能を有していなかった上、請求人は本件Y家屋を主として居室としての用途で利用していたものであるから、本件各家屋は併せて一構えの一の家屋となるものである。
 なお、請求人が本件Y家屋を居室としての用途で利用していたことは、請求人の家族の生活状況を示す上での客観的な指標となる電気、ガス及び水道の各使用量を見れば明らかである。また、本件各家屋の間はブロック塀で仕切られていたが、これらの家屋の間の往来はブロック塀の東側を利用して通行できたので、本件各家屋を一体として利用する上で全く支障はなかった。
(ロ) 措置法施行令第20条の3第2項は、本件特例が適用される「居住用家屋」の意義につき、「その者が居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主として居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする」と規定しているが、それは一の家屋を譲渡しても、新たな居住用財産を取得する必要に迫られない者にまで本件特例の規定を適用することのないようにするためである。
 したがって、新たな居住用財産の取得を迫られ、マンションの買換えにより担税力のない請求人にまで課税することは、本件特例の立法趣旨からいっても到底容認できない。
(ハ) 仮に、本件各家屋が別個独立した家屋であるとしても、本件各土地は一体として譲渡したものであるとはいえ、本件X土地には本件特例の適用があり、本件Y土地にはその適用がないとする以上、課税上の取扱いを異にする別個の資産としてそれぞれの譲渡益を算定すべきである。
 本件の場合、本件各土地は別個に取得しているもので、立地条件も異なり、本件Y土地の評価額は本件X土地に比べて明らかに低くなるから、本件各土地の譲渡価額は、本件譲渡に係る収入金額を、本件各土地の面積比によりあん分して算出するのではなく、所得税基本通達33−11の考え方を準用し、例えば本件各土地の相続税評価額の比によるなどして、本件各土地の時価の比によりあん分して算出すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

3 判断

 本件は、本件各家屋が併せて一構えの一の家屋として、それらの敷地である本件各土地の譲渡に本件特例の適用があるか否か、また、本件特例の適用がないとした場合における本件各土地の譲渡に係る譲渡価額の算出方法に争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各家屋の閉鎖登記簿の謄本には、要旨次の記載がある。
(イ) 本件X家屋は、種類は居宅、構造は木造瓦葺2階建て、床面積は1階37.19平方メートル、2階19.83平方メートル(延べ57.02平方メートル)であり、所有権保存の登記の日付は、昭和41年5月○日である。
(ロ) 本件Y家屋は、種類は居宅、構造は木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺2階建て、床面積は1階37.58平方メートル、2階23.14平方メートル(延べ60.72平方メートル)であり、所有権保存の登記の日付は、昭和41年7月○日である。
(ハ) 本件各家屋の登記簿が閉鎖されたのは、いずれも平成16年6月○日であり、原因はいずれも同月○日取壊しである。
ロ 請求人の二男であるKは、平成18年4月25日、異議審理庁所属の異議申立てに係る調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ) 自分が小さいころは、本件X家屋に家族全員で暮らしていた。長男が結婚して家を出た後、父が本件Y家屋を購入したので、三男と共にそこに住み始めた。寝るだけの家で、食事と入浴は本件X家屋でしていた。
(ロ) 本件Y家屋の風呂は水漏れがするため、使っていなかった。台所は水とガスは使えたが、使っていなかった。洗面所もあったが、本件X家屋のものを使っていた。トイレは使用していた。電話はコンセントがあったが、携帯電話を使用していた。
(ハ) 本件Y家屋の1階の4.5畳の洋間は自分の趣味のサーフボード置き場として、6畳の部屋は物置として使用していた。2階の2部屋に自分と三男が寝ていた。三男が結婚のため平成11年8月に家を出た後は、2階全部を自分が使っていた。
ハ 請求人は、平成18年10月31日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 本件各家屋の構造等は、次のとおりである。
A 本件X家屋の1階には、玄関、風呂、台所、便所及び6畳と4.5畳の和室があり、2階には、4.5畳の和室2室があった。
B 本件Y家屋の1階には、玄関、風呂、台所、便所、6畳の和室及び4.5畳の洋室があり、2階には、4.5畳の和室2室があった。
(ロ) 本件各家屋は、いずれも電気、ガス及び水道の設備を有していた。
(ハ) 本件各家屋の間には約3メートルの距離があり、間にはブロック塀があった。
(ニ) 本件各家屋の取得の経緯及び使用状況は、次のとおりである。
A 請求人は、昭和47年に本件X家屋を取得し、請求人、請求人の妻、両親、長男及び二男の6人で暮らし始めた(請求人の三男は、昭和48年○月○日に誕生している。)。
 子供の成長に伴い、本件X家屋が手狭になったころ、隣接する本件Y家屋に居住していたLさんが亡くなられ、しばらく空き家になっていたが、Lさんの相続人から買ってくれないかと話を持ちかけられて、本件Y家屋を平成8年に購入した。本件Y家屋を購入したときは、本件X家屋には、請求人、請求人の妻、D、二男及び三男の5名が居住していた。
B 本件Y家屋の居室については小規模の修繕を行い、二男及び三男の居住用として使用したが、老朽化が著しく風呂や台所は使用できる状態ではなかったので、使用していなかった。あくまで、居室として使用していたので、二男及び三男の食事及び入浴は、請求人の住む本件X家屋で済ませていた。
(ホ) 本件譲渡時には、本件X家屋には請求人、請求人の妻及びDの3人が居住しており、本件Y家屋には二男が居住していた。
(ヘ) 本件譲渡に係る譲渡代金は、当時の評価額を参考に決めたと思う。当初は、F社とGらに同一の単価で売却する予定だったが、Gらは、資金があまりなく、隣人だったこともあり、単価が安くなった。
ニ 請求人及びDとJ社との間で作成された平成16年2月7日付の専属専任媒介契約書には、請求人及びDは、本件各土地の価額を65,800,000円として、本件各土地に関する売買の媒介を同社に依頼する旨の記載がある。
ホ 請求人及びDとF社との間で作成された平成16年3月21日付の上記1の(4)のハの不動産売買契約に係る不動産売買契約書には、特約条項として、売買土地の契約面積は私道部分及び建築基準法第42条第1項第5号道路部分(以下「位置指定道路部分」といい、私道部分と併せて「道路部分」という。)を除く157.96平方メートルとし、実測面積と契約面積が異なる場合には、1平方メートル当たり347,853円で売買代金を精算する旨の記載がある。
ヘ 請求人及びDとGらとの間で作成された平成16年3月21日付の上記1の(4)のニの土地売買契約に係る土地売買契約書(以下、上記ホの不動産売買契約書と併せて「本件各売買契約書」という。)には、特約条項として、売買土地の契約面積は道路部分を除く15.92平方メートルとし、実測面積と契約面積が異なる場合には、1平方メートル当たり263,819円で売買代金を精算する旨の記載がある。
ト 上記ホの不動産売買契約書に基づく平成16年5月28日付の実測精算確認書には、売買土地の面積を実測した結果、実測面積は159.21平方メートルであり、契約面積より1.25平方メートル増加しているので、増加した面積1.25平方メートルに347,853円を乗じた金額434,816円を増額精算する旨の記載がある(以下、この精算金を「本件実測面積精算金」という。)。
 なお、請求人及びDとGらとの間では、実測面積による精算は行われていない。
チ 請求人及びDは、本件譲渡に係る平成16年度固定資産税及び都市計画税の精算金(以下「本件固定資産税等精算金」という。)として、F社から57,046円及びGらから1,252円を受領している。
リ 本件各土地は、別表8のとおりの分筆を経た後、平成16年5月28日売買を原因として、同日、F社又はGらへ所有権移転の登記が行われた。
ヌ 平成16年5月28日付でM土地家屋調査士が作製した本件各土地の測量に係る「三斜求積表」と題する書面には、別表8のとおりの分筆後の本件各土地に係る実測面積の記載があり、また、位置指定道路部分が、P市Q町R番b、R番c及びS番bである旨の記載がある。
ル F社及びGらに売却した土地の道路部分を除く各実測面積とそのうち本件X土地部分及び本件Y土地部分の各実測面積並びにそれらの割合等は別表9のとおりである。

トップに戻る

(2) 法令解釈

 本件特例は、個人が居住用財産を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得しなければならないのが通常で、一般の資産の譲渡に比し特殊な事情にあり、その担税力が弱いことを考慮し、住宅政策上の見地から、居住用財産の譲渡所得につき、3,000万円を限度とする特別控除を認め、新たな居住用財産を購入できるように保障する趣旨で立法された特則、例外規定である。
 また、本件特例の適用対象となる家屋については、措置法施行令第23条第1項の規定により、個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものと限定している。これは、租税負担公平の原則から本件特例の適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、本件特例の濫用による不公平の拡大を防止しようとするもので、特則、例外規定である同条項の解釈に当たっては、狭義性、厳格性が要請されているものと解される。
 そして、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるか否かについては、まず、それぞれの家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離等客観的状況によって判断すべきであり、個人及びその家族の使用状況等主観的事情は二次的に参酌すべき要素にすぎないものと解するのが相当である。したがって、単にこれらの家屋がその者及びその者と同居することが通常である親族等によって機能的に一体として居住の用に供されているのみでは不十分であり、家屋の構造、規模、設備等の状況から判断していずれか又はそれぞれが独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない。そうすると、これらの家屋がそれぞれ独立の家屋としての機能を有する場合には、これらの家屋を併せて一構えの一の家屋であるとは認められず、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、本件特例の適用対象となるというべきである。

(3) 本件更正処分について

イ 本件各家屋について
(イ) 請求人は、本件各家屋は併せて一構えの一の家屋である旨主張するので、上記1の(4)及び上記(1)の事実を上記(2)に照らし判断すると、次のとおりである。
A 請求人は、上記(1)のハの(ニ)のとおり、昭和47年に本件X家屋を取得した後、請求人の家族と共に本件X家屋を居住の用に供してきており、その後本件Y家屋を取得してからは、本件Y家屋を二男及び三男の居室として使用していた事実(三男については、平成11年8月まで)が認められることから、本件各家屋は、共に請求人の居住の用に供している家屋に該当することが認められる。
B 次に、本件各家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるか否かについてであるが、1本件X家屋は、木造瓦葺二階建てで、延べ床面積が57.02平方メートルの居住用家屋であり、本件Y家屋も木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺二階建てで、延べ床面積が60.72平方メートルの居住用家屋であること、2本件各家屋は、いずれも玄関、居室、台所、風呂及び便所並びに電気、ガス並びに水道の設備を有していたこと、並びに3本件各家屋間の距離は約3メートルでそれらの敷地は隣接しているものの、本件各家屋間はブロック塀で仕切られていたことから、これらの本件各家屋の規模、構造、間取り、設備、両家屋間の距離並びに通常考えられる用法及び機能等を考慮すれば、本件各家屋は、それぞれ独立して居住の用に供し得る機能を有する居住用家屋であることは明らかであり、本件各家屋を併せて一構えの一の家屋であると認めることはできない。
C 請求人は、本件Y家屋は玄関、居間、居室、風呂、台所及び便所等の設備を形式上は有していたが、老朽化により台所や風呂は使用できず、居室としてのみ機能し、本件X家屋と一体となって居住の用に供されていたのであるから、本件各家屋は併せて一構えの一の家屋である旨主張する。
 しかしながら、本件Y家屋には、電気、ガス及び水道が引かれており、居室、台所、風呂及び便所等の設備があった上、本件Y家屋の規模、間取り及び建築されてからの経過年数が本件X家屋のそれとほとんど差異がないことや、本件Y家屋の居室及び便所は本件譲渡の時まで使用されていたことからすれば、本件Y家屋の風呂や台所を修繕し使用することも可能であったと認められる。
 そうすると、請求人が本件Y家屋の台所や風呂を老朽化を理由として使用せず、一方、居室については修繕を行って使用していたのは、そもそも請求人の本件Y家屋の使用目的が、居室としてのみ利用することにあったためであり、請求人の主観的事情にすぎないというべきである。
 上記(2)のとおり、請求人の主観的事情は二次的に参酌すべき要素にすぎず、本件各家屋を機能的に一体として利用していたことをもって、本件各家屋が併せて一構えの一の家屋であると認めることはできないことから、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 請求人は、本件の場合のように担税力のない者にまで課税することは、本件特例の立法趣旨からいっても到底容認できない旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、本件特例は、住宅政策上の見地から居住用財産の譲渡所得につき、3,000万円を限度とする特別控除を認め、新たな居住用財産を購入できるように保障する趣旨で課税要件規定とは異なる政策的配慮から立法された特則、例外的規定であり、その解釈、適用に当たっては租税負担の公平の原則から狭義性、厳格性が要請されており、個別事情を考慮して安易にこれを拡張して解釈することは許されないというべきであるから、請求人が本件各家屋を同時に譲渡したため、代わりの居住用財産を求めなくてはならない必然性があったとしても、上記(イ)のとおり、本件各家屋は一構えの一の家屋でない以上、本件特例の趣旨に基づき、本件各家屋を一構えの一の家屋として認めるべきである旨の請求人の主張は採用することができない。
(ハ) 以上により、本件各家屋はそれぞれ独立して居住の用に供し得る機能を有する居住用家屋であるから、これらを併せて一構えの一の家屋であると認めることはできず、措置法施行令第23条第1項の規定により、本件特例の適用対象となる家屋は、その者が主として居住の用に供していると認められる一の家屋に限られるところ、請求人の二男の申述及び請求人の答述によれば、請求人が本件X家屋を拠点として日常生活を営んでいたことは明らかであり、主として居住の用に供していた家屋は、本件X家屋と認められることから、本件特例の適用対象となるのは、本件X家屋及びその敷地である本件X土地に限られる。
ロ 本件各土地の譲渡価額の算定方法について
 請求人は、上記2の(2)のイの(ハ)のとおり、仮に、本件各家屋が別個独立した家屋であるとしても、本件各土地の譲渡価額は、所得税基本通達33−11の考え方を準用し、本件各土地の面積比ではなく、時価の比によりあん分して算定すべきである旨主張する。
 ところで、本件譲渡は、本件各家屋及び本件各土地を対象とするもので、本件各家屋の全部並びに本件各土地の大部分がF社に譲渡され、本件各土地のうちF社に譲渡した残りの部分がGらに譲渡されている。
 そして、F社への譲渡代金54,947,000円は、上記(1)のホの不動産売買契約書における1平方メートル当たりの売買代金を精算する場合の土地の単価347,853円にF社に譲渡する宅地の地積157.96平方メートルを乗じて算出され、また、Gらへの譲渡代金4,200,000円は、上記(1)のヘの土地売買契約書における1平方メートル当たりの売買代金を精算する場合の土地の単価263,819円にGらに譲渡する宅地の地積15.92平方メートルを乗じて算出されていることから、これらの譲渡代金はすべて本件各土地に係るものということになる。
 そこで、本件各土地の譲渡価額の算定方法についてであるが、上記(1)のニのとおり、請求人が本件各土地を一体として売却するためにJ社と専属専任媒介契約を締結していること、及び本件各売買契約書においても、本件X土地部分と本件Y土地部分とを区分することなく、それぞれ一律に1平方メートル当たりの土地の単価に譲渡する土地の地積を乗じて譲渡価額を算出していることからすれば、本件Y土地の取得の時期や立地条件が本件X土地と異なっているとしても、本件譲渡に係る譲渡代金の設定が本件各土地を区分してされたものでないことは明らかであるから、本件各土地の譲渡価額を、譲渡先ごとの売買代金の額をそれぞれ本件X土地部分と本件Y土地部分の上記(1)のルの実測面積の割合によりあん分して算定することには合理性があり、相当であると認められる。
 また、所得税基本通達33−11の定めは、適用税率が異なる長期保有資産と短期保有資産のそれぞれの譲渡益をより正確に算定するために、契約当事者の認識にかかわらず価格あん分をするという限定的な取扱いであると解されるところ、本件各土地は、いずれも長期保有資産であり、かつ、本件特例の特別控除は、譲渡益を算定した後に適用されるものであって、上記通達を準用することは相当ではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ 本件各土地の譲渡益について
(イ) 譲渡価額
 請求人の本件各土地の譲渡価額は、上記ロのとおり、譲渡先ごとの売買代金の額をそれぞれ本件X土地部分と本件Y土地部分の上記(1)のルの実測面積の割合によりあん分した上、本件X土地部分については、請求人の持分5分の2を乗じて算定することとなる。
 なお、請求人及びDは、上記(1)のチのとおり、F社及びGらから、本件固定資産税等精算金を受領している。固定資産税及び都市計画税の精算金については、不動産の譲渡に際してその構成要素の一部として約定されるのが一般的であることから、譲渡所得の収入金額及び取得費を構成する。したがって、本件固定資産税等精算金については、上記の売買代金に含めて算定することとなる。
 上記1の(4)のハ及びニの契約上の売買代金に、本件実測面積精算金及び本件固定資産税等精算金を加えた本件各土地の売買代金の額は、別表10のとおりである。
 以上により、本件各土地の譲渡価額を算定すると、別表11の「譲渡価額」欄に記載のとおりであり、本件各土地ごとの譲渡価額は、別表12及び別表13の「審判所認定額」の「譲渡価額」欄に記載のとおりである。
(ロ) 取得費
 本件X土地の取得費のうち、請求人の持分に相当する金額
○○○○円(固定資産税の支払精算金を含む。)及び本件Y土地の取得費の金額○○○○円については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもこれらの金額は相当であると認められる。これらの金額をそれぞれ別表9の「F社への譲渡分」と「Gらへの譲渡分」の実測面積の割合によりあん分して算定すると、別表11の「取得費」欄に記載のとおりであり、本件各土地ごとの取得費は、別表12及び別表13の「審判所認定額」の「取得費」欄に記載のとおりである。
(ハ) 譲渡費用
 本件譲渡に係る譲渡費用の金額○○○○円については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても当該金額は相当と認められ、別表11の各譲渡価額に対応する譲渡費用は、別表14のとおり、当該各譲渡価額の割合によりあん分した上、本件X土地部分については、請求人の持分5分の2を乗じて算定するのが相当である。
 したがって、請求人の本件譲渡に係る譲渡費用は、別表11の「譲渡費用」欄に記載のとおりであり、本件各土地ごとの譲渡費用は、別表12及び別表13の「審判所認定額」の「譲渡費用」欄に記載のとおりである。
(ニ) 以上により、本件各土地ごとの譲渡益は、別表12及び別表13の「審判所認定額」の「譲渡益」欄に記載のとおりとなる。
ニ 譲渡所得の金額及び納付すべき税額について
 上記ハの(ニ)の本件各土地ごとの譲渡益に基づき、請求人の譲渡所得の金額を計算すると、別表15の「審判所認定額」の「長期譲渡所得の金額」欄に記載のとおりとなる。
 また、請求人の納付すべき税額については、原処分庁が主張する雑所得の計算には争いがなく、当審判所においても相当と認められることから、別表16の「審判所認定額」の「納付すべき税額」欄に記載のとおり○○○○円となり、本件更正処分の納付すべき税額○○○○円を上回るので、本件更正処分は適法である。

トップに戻る

(4) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(3)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきされた本件賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする事由は認められない。

トップに戻る