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(平19.1.31、裁決事例集No.73 363頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が租税特別措置法(平成17年法律第21号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第68条の2《中小企業者等に対する同族会社の特別税率の不適用》の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用して法人税の申告をしたところ、原処分庁が本件特例は適用されないとして更正処分等を行ったことに対し、請求人が、同処分等は違法であるとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成18年7月20日)に至る経緯は、別表のとおりである。

2 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

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3 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

(1) 請求人の平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「前事業年度」という。)の確定した決算に基づく決算報告書には、「2貸借対照表注記」として、「受取手形割引高14,273,588円」(以下「本件割引高」という。)との記載がある。

(2) 本件割引高は、請求人が、平成15年12月25日、平成16年1月27日、平成16年2月24日及び平成16年3月26日に、「商業手形割引依頼書」を添付の上、裏書してA銀行に持ち込んだ受取手形のうち、前事業年度末に満期日が到来していない手形(以下「本件手形」といい、請求人とA銀行との本件手形に係る取引を「本件手形取引」という。)の額面金額の合計額である。

(3) 請求人の前事業年度の確定した決算に基づく貸借対照表に計上されている資産の部の合計額は194,030,969円(以下「本件資産の部合計額」という。)であり、金銭債権から控除する方法により当該貸借対照表に計上されている貸倒引当金の額は553,600円である。

 なお、本件割引高は本件資産の部合計額には含まれていない。

(4) 請求人は、平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度の法人税について、確定申告書の別表三(一)「同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書」の付表の21「自己資本比率」を、前事業年度末の自己資本の額97,715,523円を分子に、本件資産の部合計額に本件割引高を加算した金額208,304,557円を分母にして、47%と算定し、本件特例を適用して確定申告書を法定申告期限までに提出した。

4 主張

請求人 原処分庁
 措置法第68条の2に規定する請求人の前事業年度終了の時における総資産の額に対する当該事業年度終了の時における自己資本の額の割合(以下「本件自己資本比率」という。)は、次のとおり50%以下であるから、本件特例の適用がある。  本件自己資本比率は、次のとおり50%を超えるから、本件特例は適用されない。
(1) 現在の会計基準は、手形割引は手形を売買したものとして取り扱っており、また、判例、学説の多数は、「現在の会計基準が手形割引は手形を譲渡したものとして処理している」という裁判例を主たる根拠として、手形割引を消費貸借ではなく手形の売買と捉えている。
しかしながら、銀行は手形割引を貸付金と認識し、貸借対照表上も貸付金として表示しており、また、割引依頼人である請求人においては借入金すなわち消費貸借と認識している。
会計処理において重要視されるべきは、当事者の認識いかんであり、割引依頼人が手形割引を消費貸借と認識して申告している場合はそれを認めるべきである。
また、銀行での手形割引取引の実態は、丸1手形の買戻し(割引依頼人が割引銀行から手形を取り戻すこと)の際には、期日未経過分の利息が戻されること、丸2割引手形の買戻請求権(買戻し特約)は、銀行の証書貸付、手形貸付において生じる貸金返還請求権と同様なものであること、丸3買戻請求権は、手形法に規定する満期前遡及権を超える権利を割引銀行に帰属させるものであることから、手形割引は消費貸借であると解するのが自然であり、したがって、本件割引高を資産として認識すべきである。
(1) 「金融商品に係る会計基準」(平成11年1月22日企業会計審議会)によれば、金融資産である受取手形がその消滅の認識要件を満たした場合には、当該手形の消滅を認識するとともに、帳簿価額とその対価としての受払額との差額を当期の損益として処理するものとされている。
また、「金融商品会計に関する実務指針(中間報告)」(平成12年1月31日(一部改正平成13年3月30日)会計制度委員会報告第14号)によれば、受取手形を割り引く際には、その割引時に手形の消滅を認識し、従来、支払割引料という科目で会計処理していた手形の券面額と割引による入金額との差額を手形売却損として計上することとされている。
したがって、手形割引は消費貸借ではなく手形の売買であり、本件割引高は請求人の資産に該当しない。
(2) 本件特例の適用に当たっては、前記(1)の理由から、請求人の前事業年度終了の時における総資産の額は、本件資産の部合計額に本件割引高を加算した額とすべきであり、この結果、請求人の前事業年度終了の時における総資産の額は208,304,557円となり、本件自己資本比率は100分の50以下となる。 (2) 請求人の前事業年度の確定申告書に添付されている貸借対照表は、「金融商品に係る会計基準」及び「金融商品会計に関する実務指針(中間報告)」に基づいて適切に処理されている。
 また、措置法第68条の2に規定する前事業年度終了の時における総資産の額は、租税特別措置法施行令(平成17年政令第103号による改正前のもの。以下同じ。)第39条の34の2《中小企業者等に対する同族会社の特別税率の不適用》第8項において、前事業年度の確定した決算に基づく貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額の合計額と規定されているところ、本件割引高は、本件資産の部合計額に含まれていない。
 そうすると、請求人の前事業年度終了の時における総資産の額は、本件資産の部合計額に、租税特別措置法関係通達68の2−8《総資産の帳簿価額の計算》の定めに基づき、前事業年度の貸借対照表で金銭債権から控除する方法により計上している貸倒引当金の額553,600円を加算した金額194,584,569円となり、これに基づき本件自己資本比率を計算すると100分の50を超える。

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5 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 全国銀行協会連合会が制定した銀行取引約定書ひな型(昭和52年改正後のものをいい、以下「約定書ひな型」という。)は、第6条に割引手形の買戻し条項を定めており、手形割引が手形の売買であることを前提として作成されている。
ロ 請求人がA銀行との間で昭和63年5月13日に取り交わした銀行取引約定書(以下「本件約定書」という。)は、保証人に関する部分を除き、前記イの約定書ひな型と同一内容のものである。
ハ 請求人は、本件手形の各割引日において、本件手形の額面金額から管理諸費(取立手数料及び仮払消費税)を差し引いた残額を当座預金に受け入れ、その後、当該受入金額から商業手形割引料を差し引かれているところ、請求人は、本件手形の各割引日における「総合仕訳帳」の「摘要(内容)」欄に、いずれも「商業手形割引」と記載し、商業手形割引料については「手形売却損」の勘定科目で会計処理しており、本件手形を借入れの担保としてA銀行に差し入れた事実はない。

(2) 本件手形取引の法的性質及び会計処理

イ 一般に手形割引は、手形を差し入れる者が借主となる趣旨を明示する手形借入れとは異なり、第三者振出の約束手形又は為替手形の所持人が、その手形の満期日の到来前にこれを資金化するため、銀行等に手形を裏書譲渡して、手形金額から譲渡の日以降満期日までの金利相当額及び手数料等を差し引いた金額を受領する取引であり、特別の事情があるときのほかは、手形の売買と解されていることから、割引された受取手形はその企業から銀行等に所有権が移転し、もはや企業の資産を構成するものではない。
 そして、上記解釈に基づき、銀行取引においても、前記(1)のイの約定書ひな型のとおり、手形割引は手形の売買として取り扱われており、また、企業会計においても、金融商品に係る会計基準及び金融商品会計に関する実務指針(中間報告)のとおり、割引された受取手形はその割引時に資産が消滅したと認識する旨定められているところである。
ロ これを本件についてみると、前記3の(2)及び前記(1)の各事実によれば、本件手形取引は、請求人が本件手形を担保としてA銀行に差し入れ同行から借入れをしたものではなく、本件約定書に基づき、請求人が、満期日前にA銀行に本件手形を持ち込み、手形額面金額から管理諸費及び商業手形割引料を差し引かれた残額を当座預金に受け入れていることから、手形割引と認められる。
 そうすると、本件手形取引は、手形割引すなわち手形の売買であり、割引された受取手形は、請求人からA銀行に所有権が移転しており、請求人の資産を構成するものではない。
 したがって、本件手形取引は消費貸借であるから、本件割引高を資産として認識すべきであるとする請求人の主張には理由がない。

(3) 本件特例の適用の可否

 請求人は、本件自己資本比率の計算において、請求人の「前事業年度終了の時における総資産の額」は、本件資産の部合計額に本件割引高を加算した額とすべきであり、この結果、本件自己資本比率は50%以下となるから本件特例の適用がある旨主張する。
しかしながら、租税特別措置法第68条の2第1項第4号及び同法施行令第39条の34の2第8項の規定によれば、前事業年度終了の時における総資産の額すなわち前事業年度の確定した決算に基づく貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額の合計額に対する自己資本の額の割合が100分の50を超える場合には、本件特例は適用されないところ、前記(2)のロのとおり、本件割引高は、貸借対照表の資産の部に計上すべき資産に該当せず、また、前記3の(3)のとおり、請求人の前事業年度の確定した決算に基づく貸借対照表の資産の部にも計上されていない。
 そうすると、本件割引高は本件資産の部合計額に加算することはできず、請求人の前事業年度終了の時における総資産の額は、本件資産の部合計額に前事業年度の貸借対照表で金銭債権から控除する方法により計上している貸倒引当金の額553,600円を加算した金額194,584,569円となり、これに基づき本件自己資本比率を計算すると100分の50を超えることから、本件特例を適用することはできない。

(4) 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件特例の適用がないとした更正処分は適法である。

 また、過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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