別紙2

当事者の主張
請求人 原処分庁
 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 なお、原処分のその他の部分については争わない。
 原処分は、次の理由から本件貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当しないとしたものであるから適法である。
1 本件貸付けが、措置法に規定する不動産所得を生ずべき事業に当たるか否かについては、最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決(昭和52年(行ツ)第12号所得税更正処分取消請求上告事件、以下「昭和56年最高裁判決」という。)及び平成11年10月15日裁決(名裁(所)平11第18号)で示された「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、1営利性・有償性の有無、2継続性・反復性の有無、3自己の危険と計算における事業遂行性の有無、4その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、5人的・物的設備の有無、6その取引の目的、7その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断する。」との判断基準によるべきであるが、不動産所得の特殊性(不動産所得を生ずべき資産の存在)にかんがみ、上記基準のうち、3の基準の派生基準として不動産所得を生ずべき資産の現在価値(時価)及び資産の取得に係る投資額(借入金)の多寡を重要視すべきである。 1 所得税法上、事業所得の「事業」の意義について直接定めた規定は存せず、結局、法の趣旨及び社会通念に照らして解するほかはなく、事業所得の「事業」とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうものと解されている。(昭和56年最高裁判決)
 そうすると、租税法の解釈の統一性、法的安定性の確保の要請から、事業所得における「事業」と不動産所得における「事業」は同じ意義に解すべきで、その判断手法については、上記で述べたとおりの法の趣旨及び社会通念に照らして解するほかはない。
 したがって、不動産貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かの判断は、事業所得における事業性と同様に1営利性・有償性の有無、2継続性・反復性の有無、3自己の危険と計算における事業遂行性の有無、4その取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、5人的・物的設備の有無、6その取引の目的、7その者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断することが相当である。
2 本件貸付け等については、次のとおりである。 2 本件貸付け等については、次の事実が認められる。
(1) 営利性・有償性
 請求人は、本件貸付けにより、平成6年以降13年間、年間950万円の収入を得、青色申告特別控除前の所得は約300万円程度であるが、借入金の返済を行えば、他に収入がなくても最低年間600万円以上の所得になり十分生活できる所得である。
(1) 営利性・有償性
 請求人は、本件各年分において、本件貸付けにより年間約900万円の賃貸料収入を得ているが、青色申告特別控除前の不動産所得の金額は、200万円から300万円程度であると申告している。
(2) 継続性・反復性
 本件建物等は、平成6年の建築当時からH社と賃貸契約を結び、請求人の税理士事務所も平成14年まで自己使用し、E会計事務所と税理士法人設立の平成15年1月1日に賃貸借契約を結び、平成15年1月にJと本件駐車場の賃貸借契約を結んだ以後は継続して貸し付けている。
(2) 継続性・反復性
 請求人は、本件建物等については本件同族会社2社と賃貸借契約を平成15年1月1日に結び、また、本件駐車場のうち2台分についてはJと賃貸借契約を平成15年11月に結んだ以後は、継続して貸し付けている。
(3) 自己の危険と計算における事業遂行性
 請求人は、本件建物及び土地等の取得に際し1億1,500万円を、また、本件駐車場の取得に際し1,400万円を借り入れており、当該借入金額からみても、本件貸付けは十分自己の危険を持ちうる事業といえる。投資額(借入金)の多寡を重要視すべき理由は、まず融資を受けるには、取得資産が担保価値(時価)を有しているかどうかが考慮される。多額の借入金の存在は、長期返済計画と長期安定収入の確保を必要とする。つまり将来にわたった継続的な事業運営と、長期事業計画が必要とされるため、原処分庁のいう借入金が多額であったとしても事業遂行上企画性が乏しいという指摘は現状と異なる。また、現在の建物等帳簿価額8,800万円、土地時価4,200万円という資産価値は、融資、又は今後の事業運営においても、十分な担保価値を有するため、その資産を継続して維持管理し、運用していくという事業について、危険負担が少ないとする原処分庁の判断には誤りがあるといえる。
 本件の投資額は、個人の投資額としては極めて多額であり、請求人の年収からしても多額の投資といわざるを得ない。当該不動産の貸付先や収入確保の確実性、22台駐車可能の1階駐車場付きの利用環境と貸付先の利便性を考慮した貸付先の選定など、本件投資に係る危険負担は単なる投資としては過大ともいえる。4階部分屋上階に貸付住宅を建築し、当該不動産の貸付先を募集などにより選定するよりも、4階部分屋上階の貸付住宅の建築を取りやめ、貸事務所3階建としての不動産事業として安定収入を得られる方法を選択したことは、不動産賃貸業を営む者としては、当然取るであろう安定策である。このことは、事業所得の事業性と比較してもそん色のないものである。
(3) 自己の危険と計算における事業遂行性
イ 請求人は、本件建物を平成6年6月に設備費用を含めて約9,000万円で取得し、本件建物等は、1階は駐車場、2階は事務所、3階は会議室及び休憩室等として、すべて本件同族会社2社に貸し付けている。
ロ 請求人は、本件駐車場を平成12年5月17日にK銀行L支店より資金を調達して取得した。また、本件駐車場は、6台の乗用車の駐車が可能であり、Jへの賃貸部分以外の部分については、賃借人の募集は行っていない。
ハ なお、請求人は、不動産所得を生ずべき資産の現在価値及び資産の取得に係る投資額(借入金)の多寡を重要視すべきである旨主張するが、本件貸付物件の賃貸先は、請求人が役員を務める本件同族会社2社及び親族に限られており、資産の取得に係る投資額(借入金)が多額であったとしても、事業遂行上その企画性は乏しく、危険負担も少ないと認められる。
(4) 精神的・肉体的労力の程度
 莫大な借入金を投資した本件貸付物件については、風水害、地震、盗難、漏水、車両管理、定期的修繕計画など請求人の心労は絶えない状況である。なお、会計事務所のように人的資源により運営される事業体と不動産貸付業などの資産資源により運営される事業体とは、事業遂行に当たり人的役務提供の度合いは大きく異なることを前提に判断すべきである。
 原処分庁の主張する事業性の判定要件としては、現代の賃貸契約ではありえない行為であり、次の17の事由より個々に示すとおり賃貸契約上若しくは慣習上責任範囲が明確になっているため、精神的・肉体的労力の負担は、所有者及び使用者責任も相互に分担されておりそれぞれに存在するものである。
1 原処分庁は、空調・ゴミ捨て場・貯水槽の清掃、点検等のメンテナンスを行っていない旨主張する。
 賃貸物件については、所有者が毎日自己の管理により点検処理している。異常があれば直ちに修理を業者に依頼し、建物本体に係る修繕以外は使用者の負担となっている。
2 原処分庁は、清掃業務は賃借人が行っている旨主張する。
 賃貸物件の清掃業務は当然使用者が行う。使用者が通常の清掃管理を行わない場合は清掃管理の注意を行い、無視する場合は退去を命ずる。
3 原処分庁は、警報装置の契約者は請求人であるが、費用は賃借人が負担することになっている旨主張する。
 賃貸先である使用者の会計事務所等は、主に顧問先の会計データ情報保護のため、また、火災等によるデータ焼失や侵入者による放火など危険防止のため、別途セキュリティ契約を結んでいるが、セキュリティ契約は使用者の必要性から結んでいるものであり、費用も使用者が負担している。火災保険などの各種保険契約については、消防法で所有者が直接契約を行う義務が定められている関係から所有者が管理負担している。
4 原処分庁は、電気、ガス、水道等の公共料金は賃借人が負担することになっている旨主張する。
 契約に従い賃借人である使用者が負担している。
5 原処分庁は、警報装置及び公共料金等は賃借人から業者に直接支払われている旨主張する。
 契約により賃借人である使用者が負担している。
6 原処分庁は、賃貸料は請求人名義の口座に振り込まれていると主張する。
 現代の企業経営の実態では、代金の授受は金融機関の現金引出しが10万円以下はできなくなった背景もあり、集金使い込みの防止、支払者トラブルのためや集金又は支払のコスト削減のために銀行口座の引落しや自動振替制度を利用している。国税、地方税など公共料金、営業取引を含めサラリーマン、零細企業を問わず90%以上が口座振込み、引落し制度を利用している。
7 原処分庁は、固定資産税等は自動引落しであることから、請求人の精神的・肉体的労力の程度は相当低いと認められると主張する。
 近代企業経営の実態では6に述べた理由で、自動振替をしているため、預金残高管理や入金の確認などインターネットバンキングなどの利用による新時代のパソコン環境への対応を迫られている。その反面、国を挙げての電子申告はもとより手続管理には知識習得のため、従前とは違った相当の精神的肉体的労力は発生している。
 請求人は所得税法施行規則第57条《取引記録等》、第58条《取引に関する帳簿及び記載事項》、第61条《貸借対照表及び損益計算書》の規定に定めるところにより複式簿記による会計帳簿を作成している。商法に義務付けられている会計帳簿を作成することは専門的な知識と労力を要する。原処分庁は、この会計帳簿の作成の労力の有無についても加味していない。所得税法等で要求されている会計業務は高度の判断基準が必要であり、事業性をもつ者以外は正規の簿記の原則に基づく帳簿は必要としない。
 以上の17に関しては電子申告、IT時代を迎えた現在において、原処分庁の主張は肉体的労力のみをかんがみており、時代背景とのずれが存在すると考える。原処分庁が主張する肉体的労力以外の各種管理労力(コンピュータ管理を含む。)を勘案すべきと考える。
 上記により原処分庁が主張する精神的・肉体的労力の相当低いという根拠及び判断基準が不明確であり、原処分庁の主張には理由がない。
(4) 精神的・肉体的労力の程度
 本件建物等において、1請求人は、空調・ゴミ捨て場・貯水槽の清掃、点検等のメンテナンスを行っていない、2清掃業務は賃借人が行っている、3警報装置の契約者は請求人であるが、費用は賃借人が負担することとなっている、4電気、ガス、水道等の公共料金は賃借人が負担している、5警報装置及び公共料金等は賃借人から業者に直接支払われる、6賃貸料は請求人名義の口座に振り込まれている、7固定資産税等は自動引落としである。
(5) 人的・物的設備の有無
 本件建物は、1棟3階建の貸事務所であり、1階は駐車場スペース22台を保有しており、賃貸マンション10室以上、貸家5棟程度の規模は十分あると認識している。
(5) 人的・物的設備の有無
 各年分における貸付物件は、本件建物等1棟及び本件駐車場のうち2台分のみである。
(6) 本件貸付けの目的
 本件建物等は、当初は請求人の税理士事務所として使用するとともにH社に賃貸していたが、税理士事務所にしか使えないものではなく、利用者の需要に合った者が使える構造になっている。
(6) 本件貸付けの目的
 本件建物は、請求人の税理士業務及び請求人が代表取締役を務めるH社への貸付けを目的として建設され、現在も引き続き本件同族会社2社への貸付けが継続している。
 また、本件駐車場は、Jの自宅が同地に建設されるまでは、請求人の実弟及び近隣者等に無償で貸し付けられていた。
(7) 請求人の職歴・社会的地位・生活状況等
 原処分庁は、請求人の総収入金額の約半分が本件同族会社2社等からの給与であるため、本件貸付けは副次的なもので事業規模に該当しない旨主張する。これは、他に収入があるため不動産業を副次的にしており、労力を費やしてはいないとして、原処分庁は事業性がないと判断しているものであるが、どの程度の規模を事業性があると判断しているか不明瞭である。
 また、副次的収入とは、全体の収入に対して付随的な収入を意味する二次的な収入のことで、一般的には収入の概ね10%から20%程度未満をいうものであり、50%を占めるものは副次的収入とはいえない。
(7) 請求人の職歴・社会的地位・生活状況
 請求人は、E会計事務所の代表社員及びH社の代表取締役の職に就いており、また、請求人の給与所得等に係る定期的収入の金額は、各年分の総収入金額の約5割を占めていることから、本件貸付けは副次的なものと認められる。
3 以上、(1)〜(7)を個別的にみても不動産事業としての要件はすべて満たされている。
 請求人は1億円を超える資金を借入金により調達し、本件建物等の建設に投下しており、このことは単なる賃貸不動産を保有するという領域を超えた危険負担を考慮に入れ、事業活動を念頭にした意思決定を行ったものである。
 この危険負担は個人の危険負担能力により相対的に決定されるものであるが、請求人にとっては、本件建物等の建設資金は限界に近い危険負担を負って調達したものである。
 また、税理士法人創設の趣旨として納税者ニーズヘの対応、継続性・安定性の確保及び損害賠償能力の強化が求められるという時代背景の中で、本件建物の設計計画に当たり、2階に税理士事務所及びコンサルティング法人、3階に弁護士事務所ほか総合事務所をイメージして各階入口は北側上り階段で各階独立した入口で計画し、金融機関へは税理士事務所とコンサルティング法人・弁護士事務所・司法書士事務所等の総合事務所として融資を申し込み実行にこぎつけている。
 このように、請求人は本件建物等の建設資金を限界に近い危険負担を負って調達していること及び請求人が総合ビジネスを視野に置いた事業を行うという計画を基に建築、事業経営を行っているという現状にかんがみると、本件貸付けは、昭和56年最高裁判決で判示されている「事業所得とは自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう。」に該当している。
 なお、事業性については、不動産所得特有の事業性の明文規定はなく、事業としての事業性の判断をすべきであるが、その判断基準としては「事業所得を生じる事業の意義」から実態と照らし判断すべきである。原処分庁は、租税法の解釈の統一性、法的安定性の確保の要請からも、事業所得における「事業」と不動産所得における「事業」は同じ意義に解すべきであると主張しているように、名古屋高等裁判所金沢支部昭和43年2月28日判決(昭和40年(行コ)第2号所得税更正処分取消請求控訴事件)でも、所得税法上の事業所得の発生の基因となる「事業」とは、対価を得て継続的に行う事業としているが、この「事業」とは、営利を目的とする継続的行為であり、社会通念に照らして事業と認められるものすべてを含み、特に事業所を設置したり、人的物的要素を結合した経済的組織によるものであることを必ずしも必要とせず、また、その者の本来の業務あるいは職業としてなされる場合であると副業的になされる場合であるとを問わないものと解するのが相当であるとしており、原処分庁の主張には理由がない。
 また、事業規模の判断基準として、東京高等裁判所平成13年7月11日判決(平成11年(ネ)第5850号損害賠償請求控訴事件、以下「平成13年東京高裁判決」という。)があげられる。不動産業の事業規模の判断として東京国税局管内には賃料収入1,500万円ないし床面積500平方メートル基準があったため、この判決の事件が東京の四谷であることをかんがみても、P市に所在する当該不動産業は金額的形式的基準に照らし合わせた場合、収入、床面積においても事業的規模に該当するものと思われる。
3 以上のとおり、本件貸付物件は、1棟及び駐車場2台分のみで、その賃貸先は請求人が役員を務める本件同族会社2社及び親族のみに限られており、また、本件駐車場については賃借人の募集を行っていないことから、事業遂行上その企画性は乏しく、危険負担も少ないと認められる。
 さらに、請求人が貸主として行った維持管理等に係る労務の程度は相当低いと認められ、また、請求人は、E会計事務所の代表社員及びH社の代表取締役の職にあり、その労力のかなりを傾注しており、各年分において総収入金額の約5割を給与所得等で得ていることからすると、本件貸付けは副次的なものと認められる。
 これらの諸点を総合して勘案すると、請求人は、不動産所得を生ずべき事業を営むものとは認められないと判断するのが相当である。

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