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(平19.11.14、裁決事例集No.74 78頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の所有する土地について、同一の法人と2件の売買契約を締結し、そのうちの一契約分の土地について平成17年分の譲渡所得として申告したところ、原処分庁が、両契約に係る土地はすべて平成17年に引渡しが完了しているから、残りの一契約分の土地についても平成17年分の譲渡所得であるとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、残りの一契約分の土地については引渡しは完了していないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成19年5月27日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。

(3) 基礎事実

イ 請求人は、平成17年3月29日に、A社との間で、別表2記載の土地(以下「本件土地」という。)を309,593,106円で売却する旨の売買契約を締結した(以下、この契約を「本件契約」という。)。
ロ 請求人は、平成17年3月29日に、A社との間で、別表3記載の土地(以下「別件土地」という。)を57,746,472円で売却する旨の売買契約を締結した(以下、この契約を「別件契約」という。)。
ハ 請求人は、平成17年3月29日に、本件契約に係る内金61,918,621円を受領し、本件土地は、同日付でA社への条件付所有権移転仮登記がされた。
ニ 請求人は、平成17年3月29日に、別件契約に係る売買代金57,746,472円を一括で受領し、別件土地は、同日付でA社への所有権移転登記がされた。
ホ 本件契約に係る契約書の各条項には、要旨次の内容が記載されている。
(イ) 第4条(売買代金の支払い) 買主は、契約締結時に内金として61,918,621円を支払い、平成19年3月31日までに残金247,674,485円を支払うものとする。
(ロ) 第5条(仮登記) 売主は買主に対し、第4条の内金の受領と同時に所有権移転請求権仮登記に応じるものとし、仮登記に必要な一切の書類を交付する。
(ハ) 第6条(所有権の移転) 本件土地の所有権は、第4条による売買代金全額の支払と同時に売主から買主に移転するものとする。
(ニ) 第7条(本物件の引渡し) 売主は、その責任と負担において本件土地を売買代金全額を受領すると同時に買主に引渡すものとする。
(ホ) 第8条(所有権移転登記手続) 売主は買主に対し、売買代金全額の受領と同時に、本件土地についての所有権移転登記に応ずるものとし登記申請に必要な一切の書類を交付する。
(ヘ) 第13条(開発行為の施行等) 1売主は買主が本件契約後、宅地開発事業計画に沿って買主の所有地及び本件土地を開発することを承諾し、全面的に買主に協力する。2売主は開発行為施行同意書を作成し、これを買主に交付する。
(ト) 第14条(公租公課の負担) 本件土地について公租公課、その他の負担金については、第5条の仮登記をもって区分し、その前日までの分は売主の負担、その日以降の分は買主の負担とし後日精算する。
(チ) 第15条(危険負担) 仮登記以後の天災地変その他の不可抗力により本件土地の全部又は一部が滅失、毀損したときは、買主がこれを負担する。
(リ) 第16条(契約の解除) 買主又は売主は、その相手方が本件契約の条項に違背し、期限を定めた履行の催告に応じない場合は、本件契約を解除することができる。
ヘ 請求人は、平成18年3月15日提出の平成17年分の所得税の確定申告において、分離長期譲渡所得として別件土地の譲渡のみを申告した。

(4) 争点

 本件土地の譲渡の時期

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2 主張

原処分庁 請求人
 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、資産の引渡しの時により判定すべきであり、引渡しのあった日とは、引渡しの日として合理的と認められる日をいい、この場合、必ずしも売買契約書における引渡しの時期に関する文言にとらわれることなく、売買契約の内容、土地の物理的状況や利用状況、決済状況、その他取引に関する諸事情を総合勘案し、その土地の現実の支配がいつ移転したかにより判断すべきである。
 本件土地は以下のことからすれば、平成17年に引渡しがあったと認められる。
 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、その資産の支配の移転の事実に基づいて判定をした当該資産の引渡しの時により判定すべきところ、本件土地の支配の移転の事実があった日は、所有権移転登記に必要な書類を交付した日とすべきであり、以下のとおり、本件土地の引渡しは未済であるから、譲渡の時期は平成17年ではない。
(1) A社は、本件土地及び別件土地を含む開発区域の、一団の土地を造成することを予定しており、本件土地の譲渡と別件土地の譲渡はもともと一括の取引である。
 また、A社は、平成17年10月の工事着手により使用収益を開始しており、原状回復も不可能であることから、本件土地及び別件土地の引渡しがあったものと認められ、取得目的どおり使用収益を開始している。
 別契約となっているのは、買主側の資金繰りの関係であり、仮登記により買主の権利保全が図られており、権利面からも買主の支配管理に影響を与えている。
(1) 本件土地と別件土地は、売買契約が別契約であり、本件土地については仮登記の状態で、平成17年には、所有権移転登記に必要な書類は引き渡していない。
(2) 本件契約に係る契約書の、開発の承諾や危険負担の条項等からすると、本件契約の成立した平成17年3月29日に本件土地の支配に関する合意があったものと認められる。
 また、当該契約書の引渡し等の各条項は、売買契約書の文言上のものにすぎず、また、解除の可能性が引渡しの時期を決定するものではない。
(2) 本件契約に係る契約書では、売買代金の全額支払と同時に、所有権移転及び引渡しを行うこととなっており、また、違約条項があることから、契約破棄が理論上可能である。
(3) 開発行為施行同意書は、P市が、同意を得るべき土地所有者を登記でしか判断できないため、形式的に必要になるものであり、当該同意書の提出が、土地の引渡しの時期を証明するものではない。 (3) 請求人は平成17年3月31日付で、本件土地に関する開発行為施行同意書を提出しており、このことは、同日現在、本件土地が、請求人の所有であることを証明するものであり、その後、同年10月から工事の一部が行われているとしても、請求人の土地に関する権利関係に異動はない。
  (4) 買主から請求人に、優良住宅地等のための土地等の買取り等証明書が交付されているが、当該証明書には別件土地は記載されているものの、本件土地については記載がない。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ A社は、「B街区開発」と称する土地開発行為について、P市に対し、「開発行為許可申請書」及び「宅地造成に関する工事の許可申請書」を提出し、P市は、これらの許可申請書を平成17年8月1日に受け付けた。
 なお、上記の開発行為許可申請書には、開発区域に含まれる所在地及び地番が記載されており(以下、この許可申請書に記載された開発区域を「本件開発区域」という。)、本件開発区域には本件土地及び別件土地が含まれている。
ロ P市は、A社に対し、平成17年9月22日付の「開発行為許可通知書」及び同日付の宅地造成に関する工事を許可する旨を記載した書面を交付し、本件開発区域におけるA社の開発行為の施行及び宅地造成工事の実施を許可した。
ハ A社は、P市に対し、上記ロで許可を受けた開発行為に関する工事について、平成17年10月1日に着手した旨を記載した「工事着手届出書」及び「宅地造成工事着手届出書」を提出し、P市は、これらの届出書を平成17年10月11日に受理した。
ニ 上記ハの宅地造成工事着手届出書に添付された工事工程表によれば、本件開発区域は4工区に区分されており、造成工事は全工区について、伐採工事、防災工事、切盛土工事、発破工事及び法面工事が平成17年10月から12月までの間に着手されることとされ、当該造成工事は当該工程表どおり平成17年10月初旬から始められた。
ホ 平成17年3月31日付の開発行為施行同意書によれば、請求人は、本件土地及び別件土地に関して、A社が、都市計画法、宅地造成等規制法並びに森林法の規定による許可を受けて開発行為を施行し、又は開発行為に関する工事を実施することについて同意し、A社に当該同意書を、平成17年3月31日ころに提出した。
ヘ A社の○○部長の答述によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の本件土地及び別件土地は、もともと開発区域に入っていなかったが、P市からの要望があったため開発することとなった。
(ロ) 本件開発区域の工区については、P市が工区分けを行い、2工区に別件土地が、4工区に本件土地が含まれていた。
(ハ) P市の要請により、2工区の道路部分を先に工事する必要があり、請求人の土地を2工区の部分と4工区の部分に分筆した。
(ニ) 本件契約と別件契約に分かれたのは、A社が、平成18年3月以降に販売を始める1工区の宅地販売代金を、請求人への支払いに充てたいという資金繰りの事情によるものである。
(ホ) 本件開発区域の造成工事が始まってからは、危険なので当該工事区域に立ち入らないよう、請求人を含む地権者に連絡していた。
ト P市の都市整備局の担当者の答述によれば、開発行為施行同意書は、都市計画法において、開発区域内の土地等について、工事の実施の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意が必要とされているため、登記簿上の名義人を権利を有する者と推定して提出させる書類である。

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(2) 判断

イ 所得税法第36条《収入金額》第1項の規定によれば、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、その年において収入すべき金額とされているところ、譲渡者による資産の引渡しがあれば、通常、所有権も移転しているものと考えられ、かつ、譲渡者が資産を引き渡した時には、相手方に対してその譲渡代金を請求できることが確定的となり、譲渡代金相当額を収入すべき金額として認識しうる状態とみることができるから、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、その所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものと解するのが相当である。
 そして、その引渡しがあった日の判定に当たっては、必ずしも売買契約書上の引渡しの時期に関する文言にとらわれることなく、本件契約と別件契約はもともと一括の契約であるか否かなどの取引諸事情、契約内容及び買主がその資産の使用を開始した時期などを総合的にみて、実質的にその資産に対する支配管理の変動があった時期がいつかという観点から判断するのが相当である。
ロ 上記(1)の認定事実のイ及びへより、A社は、本件土地及び別件土地を一括して買い受け、本件開発区域の一団の土地の一部として、宅地造成することを予定していたと認められる。
 また、上記1の(3)の基礎事実のホの(ヘ)より、請求人は、A社の開発行為に全面的に協力する旨を約した上で契約し、上記(1)の認定事実のホのとおり、本件契約の直後に同社に開発行為施行同意書を提出していること及び上記1の(3)の基礎事実のホの(ト)及び(チ)より、仮登記以後の本件土地の危険負担等は、同社が負うこととなっていることからすると、請求人とA社の間では、本件契約の締結時に本件土地の支配管理が請求人からA社に移転する旨の合意があり、A社は本件土地の使用収益が可能となったものと認められる。
 そして、上記(1)の認定事実のロ、ハ、ニ及びヘの(ホ)より、本件開発区域の造成工事は、平成17年10月初旬に着工された上、請求人ら地権者の立ち入りもできなかったことから、A社が現実に使用収益を開始し、実質的に支配管理の移転があったと認められる。
 以上のことからすると本件土地の譲渡の時期は平成17年10月初旬とするのが相当である。
ハ これに対し、請求人は、本件契約と別件契約は別契約であり、本件土地については所有権移転登記に必要な書類は引き渡しておらず、また、契約条項に、売買代金の全額支払と同時に土地を引き渡し、土地の所有権が移転するとの記載があり、契約の解除も可能であるから、引渡しは未済である旨主張する。
 しかしながら、上記(1)の認定事実のヘの(イ)から(ニ)までのとおり、本件契約及び別件契約はP市の事情及びA社の資金繰りの関係から形式的に別契約になったものと認められる上、引渡しがあった日の判定に当たっては、必ずしも売買契約書上の引渡しの時期に関する文言にとらわれることなく、実質的にその資産に対する支配管理の変動があった時期がいつかという観点から判断するのが相当であり、その判断は上記ロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。
 また、契約残代金の支払いが履行されていない状況では、解除権が留保されてしかるべきであり、契約解除の可能性の有無が引渡しの時期に影響を与えるものではないから、この点に関する請求人の主張にも理由がない。
 さらに、請求人は、平成17年3月31日付で本件土地に関する開発行為施行同意書を提出しており、このことは、同日現在、本件土地が請求人の所有であることを証明するものである旨主張する。
 しかしながら、上記(1)の認定事実のトのとおり、開発行為施行同意書は、土地所有者の同意を確認するため、登記簿上の名義人を権利を有するものと推定して提出させるものであり、引渡しの時期を証明するものではないから、請求人の主張には理由がない。
 加えて、請求人は、A社から交付された優良住宅地等のための土地等の買取り等証明書に本件土地については記載がないことから、引渡しが未済である旨主張する。
 しかしながら、当該証明書は、課税の特例を受けるために申告書に添付して提出する書類であり、引渡しの時期を証明するものではないから、請求人の主張には理由がない。

(3) 更正処分

 以上から、本件土地の譲渡の時期が平成17年であるとしてされた、平成17年分の所得税の更正処分は適法である。

(4) その他

 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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