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(平19.11.20、裁決事例集No.74 125頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、破産者○○社(以下「破産会社」という。)の平成16年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、収入金額の計上漏れを理由として更正処分を行ったことに対し、破産会社の破産管財人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、上記計上漏れについては争わないものの、別途損金の額に算入すべき費用があるなどと主張して、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は、A社が、法人格否認の法理に基づき、破産会社を被告として、B社に対して有していた貸金債権の履行を求める訴訟を提起し、その請求を全部認容する判決が確定した場合において、本件事業年度内に発生した遅延損害金を本件事業年度の損金の額に算入することができるか否かである。

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(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ C地方裁判所(以下「C地裁」という。)は、A社が、D社から譲り受けたB社に対する貸金債権について、破産会社が、法人格否認の法理によって、これを弁済する責任があるとして、平成10年○月○日付で、A社を債権者、破産会社を債務者として、賃貸物件である同社名義の建物8棟の仮差押命令及び同建物8棟のうち1棟のテナントに対する賃料債権の仮差押命令を発した。また、上記建物8棟のうち一部の仮差押命令の執行として、C地裁が平成10年○月○日付で上記建物8棟のうち3棟につき、E地方裁判所(以下「E地裁」という。)が同年○月○日付で上記建物8棟のうち1棟につき、それぞれ強制管理開始決定をした。
ロ A社は、C地裁に対し、B社を被告として、上記イの貸金債権(元本13口及びこれに対する利息・損害金債権。以下、併せて「本件貸金債権」という。)の履行を求める民事訴訟を提起し、平成13年○月○日付でA社全部勝訴の判決が言い渡され、これが同年○月○日に確定した。
ハ A社は、C地裁に対し、破産会社を被告として、法人格否認の法理により、本件貸金債権の履行を求める民事訴訟を提起し、平成15年○月○日付でA社全部勝訴の仮執行宣言付判決が言い渡され、破産会社が控訴した。
ニ A社は、平成15年○月○日に破産会社に対する別の債権者の申立てに係る二重開始決定に基づく強制執行手続において、上記ハの仮執行宣言付判決正本に基づき、配当要求をした。
ホ F高等裁判所(以下「F高裁」という。)は、平成16年○月○日に上記ハの控訴を棄却するとともに、A社が第1審判決後B社の動産執行により一部弁済を受けたことを理由として控訴審で請求額を○○○○円減縮したことに基づき、原判決を一部変更し、貸金残元金○○○○円、請求未払利息及び請求確定損害金並びに上記貸金残元金に対する完済まで年14%の割合による約定遅延損害金の支払を命ずる判決(以下「本件判決」という。)を言い渡した。
ヘ その後、破産会社は、上告及び上告受理申立てをしたが、F高裁裁判長は、平成16年○月○日に上告状及び上告受理申立書を却下し、本件判決は確定した。
ト A社は、平成16年○月○日にE地裁から、○○○○円の配当を受けるとともに、同年○月○日には強制管理人から○○○○円の配当を受け(以下、これらの配当金を「本件配当金」という。)、これらの全額を本件貸金債権の元本に充当した。
チ B社は、平成16年○月○日に株主総会において解散決議をした。
リ 破産会社は、平成17年○月○日午前10時にC地裁により破産手続開始決定を受け、請求人が破産管財人に選任された。
ヌ 本件判決に従い、破産会社がA社に対して支払義務を負う遅延損害金のうち本件事業年度内に発生したもの(以下「本件遅延損害金」という。)は○○○○円である。
ル 本件事業年度において、上記イの強制管理の対象となっていた不動産の賃料収入及び仮差押えを受けていた賃料収入として、破産会社が取得した本件事業年度における賃料収入は○○○○円であった。
ヲ 破産会社は、平成17年2月28日に本件事業年度の法人税について欠損金額○○○○円、翌期へ繰り越す欠損金額○○○○円とする青色の確定申告書を提出したが、その際、上記ルの賃料収入を益金の額に計上せず、また、本件遅延損害金を損金の額に算入しなかった。さらに、破産会社は、本件事業年度の決算において、本件配当金相当額を貸倒損失として損金経理していなかった。
ワ 破産会社の平成14年1月1日から同年12月31日まで及び平成15年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、それぞれ「平成14年12月期」及び「平成15年12月期」という。)の法人税の翌期へ繰り越す欠損金の額は、平成17年7月8日付の原処分庁の更正処分により、平成14年12月期(平成18年○月○日付裁決(○裁(法)平○第○号)により取り消された後のもの)は確定申告による○○○○円から○○○○円に、平成15年12月期は確定申告による○○○○円から○○○○円にそれぞれ減額された。
カ 原処分庁は、平成18年9月29日に破産会社の本件事業年度の法人税について、上記ルの賃料収入の計上漏れ等を理由として、欠損金額○○○○円、翌期へ繰り越す欠損金の額○○○○円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ヨ 請求人は、この処分を不服として、平成18年11月29日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする旨規定している。
イ 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額(第1号)
ロ 上記イに掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(第2号)
ハ 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(第3号)

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2 主張

請求人 原処分庁
(1) 本件判決の確定により、破産会社が本件遅延損害金の支払義務を負うことが確定したのであるから、法人税法第22条第3項第2号に基づき、このうち、少なくとも本件更正処分による欠損金の減少額相当額を損金の額に算入すべきである。
 仮に、破産会社がA社に本件遅延損害金を弁済した場合、形式的にはB社に対する求償債権が発生するといえるかもしれないが、本件判決は、法人格否認の法理によってB社と破産会社が同一会社であると判断し、破産会社が本件貸金債権の履行義務を負うとしたのであるから、実体としては求償債権は存在せず、そのような求償債権が存在することを理由に、本件遅延損害金を損金の額に算入することが許されないとすることは税法上の根拠を欠く。
(1) 本件判決の確定により、破産会社が本件遅延損害金の支払義務を負うことが確定したとしても、仮に破産会社がA社に本件遅延損害金を弁済すると、破産会社はB社に対して求償債権を取得するから、最終的な破産会社の負担額は確定していない。
(2) 仮に、破産会社に、B社に対する求償債権が発生するとしても、同社は、本件事業年度内である平成16年○月○日に解散しているから、求償債権を行使してもこれを回収できないことは明らかである。よって、本件遅延損害金を貸倒損失として損金の額に算入すべきである。 (2) 仮に、B社に対する求償債権が事実上貸倒れにあり、回収することができない状態にあったとしても、貸倒損失を損金の額に算入するためには損金経理をしておく必要がある(法人税基本通達9−6−2)が、破産会社は、本件遅延損害金につき損金経理をしていないから、貸倒損失を計上することができない。

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3 判断

(1) 本件判決の確定によって、本件遅延損害金を本件事業年度の損金の額に算入できるか否かについて

イ 法人税法第22条第3項第2号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額につき、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く額とする旨規定する。
 ところで、法人格否認の法理によって認められる旧会社と新会社とが別法人であることを否認する効力は、債権者との間で当該債権に関する限りでのみ生じる相対的効力にとどまり、新会社が一応独立の法人として実体を有している以上は、新旧両会社間の関係では、両者は別個独立の法人として存在し、その間で行われた法律行為にも法人格否認の効力は何ら影響を及ぼさないと解される。
ロ そこで本件について検討すると、上記1の(2)のホのとおり、本件判決は、法人格否認の法理によって、破産会社に対して本件貸金債権の履行を命じたものであるところ、同イのとおり、新会社である破産会社は、不動産の所有名義人となったり、不動産の貸主となっていたことからすると、破産会社はある程度実体を有していたと認められるから、法人格否認の法理に基づいてB社と破産会社が別法人であることを否認する旨の本件判決は、その確定によっても、B社と破産会社の間に何ら影響を及ぼさず、依然として両社は別個独立の法人として存在し、その間で行われた法律行為に対しても法人格否認の効力は何ら影響を及ぼさないことになる。
 そうすると、破産会社が本件遅延損害金の一部を弁済したとしても、B社との関係では、破産会社は第三者であるB社の債務を弁済したにすぎず、その支払った全部又は一部について、B社に対する求償債権が発生し、これを回収することができる関係にあることになる。そうである以上、本件判決が確定しただけでは、破産会社が本件遅延損害金の全額を負担することが確定したということはできないから、本件判決の確定のみをもって、本件遅延損害金を、法人税法第22条第3項第2号の費用として、本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

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(2) 本件配当金による一部弁済について

 もっとも、上記1の(2)のトのとおり、本件事業年度内において、A社は、E地裁等から強制管理に係る本件配当金を受領してこれを全額本件貸金債権の元本に充当しているところ、上記(1)で述べたところを前提とすると、その時点で破産会社はB社に対して本件配当金相当額の求償債権を有するに至ったことになる。
 しかしながら、上記1の(2)の事実、1すなわちD社がB社に対して多額の貸金債権を有していたが、これがA社に譲渡されたこと、2A社は、法人格否認の法理に基づいて、破産会社に本件貸金債権の履行を求め、これを認容する本件判決が確定したこと、3A社は、B社を債務者とする動産執行の申立てをしたものの、本件貸金債権に比してごく少額の債権の回収にとどまったこと、4B社は、平成16年○月○日に解散決議をしたことなどが認められる。
 さらに、当審判所の調査によれば、B社の平成16年○月○日から同年○月○日までの事業年度の法人税の確定申告書及び平成16年○月○日から平成17年○月○日までの清算中の事業年度の法人税の清算事業年度予納申告書に添付された各事業年度の貸借対照表に、多額の資産が計上されていることが認められるが、そのうち不動産についてはその価値を上回る担保権が設定されており、動産や債権についても存在しないか実体がないと認められ、その他B社にめぼしい財産が存在したと認めるに足りる証拠はない。
 加えて、破産会社は、本件判決において、法人格否認の法理によりB社と同一法人とみなされたこと及び本件配当金相当額の賃料収入を現実に手にしておらず、強制執行手続によってA社に配当されたことに照らすと、本件事業年度末の時点で、破産会社がB社から本件配当金相当額の求償債権を回収することは、その一部ですら事実上不可能であって、当該求償債権は、もはや、その全額につき行使できない状況にあり、破産会社が本件配当金相当額の最終的な負担者となることは明らかであったと認められる。
 以上の諸点からすれば、そのような求償債権を、形式上、資産として計上しなければならないとすることは相当でなく、破産会社は、本件配当金相当額を、法人税法第22条第3項第3号の損失として、本件事業年度の損金の額に算入することが許されるというべきである。

(3) そうすると、本件配当金相当額については、請求人がその取消しを求める本件更正処分における欠損金額の減少額○○○○円の限度で、本件事業年度の損金の額に算入すべきことになり、翌期へ繰り越す欠損金額は○○○○円(平成15年12月期の翌期へ繰り越す欠損金の額○○○○円に本件事業年度の欠損金額○○○○円を加算した額)となるから、本件更正処分はその全部が違法というべきである。

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