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(平19.11.15、裁決事例集No.74 146頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、○○業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告において、1元取締役及び従業員2名に対する退職給与並びに2請求人の前代表者及びその夫である元取締役に対する役員退職給与を損金の額に算入したのに対し、原処分庁が、上記1についてはいずれも架空であり、上記2についてはいずれも過大であるとして、法人税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を行ったことについて、請求人がその一部の取消しを求めた事案であり、争点は次の3点である。
 争点1 元取締役及び従業員2名に対する退職給与の支給事実はあったか。
 争点2 請求人の前代表者及びその夫である元取締役に対する役員退職給与の額は過大か。
 争点3 元取締役及び従業員2名に対する退職給与を支給したとしてこれらを損金の額に算入したことについて、事実の仮装があったか。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成18年9月7日請求)に至るまでの経緯及び内容は、別表1のとおりである(以下、同表の「更正処分等」欄の更正処分を「本件更正処分」といい、同欄の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分と併せて「本件更正処分等」という。)。

(3) 関係法令

 関係法令は、別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 当事者等
(イ) 請求人は、昭和62年6月○日に○○の販売業等を目的とし、Fの従弟(母の妹の子)である○○○○を代表取締役として、資本金10,000,000円で設立され、平成○年○月○日に本店所在地をP市p町○−○からQ市q町○○番地に変更した。また、請求人の設立当初の商号は○○社であったが、平成○年○月○日に現商号に商号変更するとともに、事業目的に○○業を加えた。
(ロ) G社は、昭和48年4月○日に資本金10,000,000円で設立され、設立時の商号は○○社であったが、昭和○年○月○日に現商号に商号変更された。G社は、平成14年12月3日に商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)第406条の3《休眠会社の整理》第1項により解散したものとみなされた。
(ハ) Fは、昭和53年3月7日にG社の代表取締役に就任し、昭和55年3月31日にいったん退任したが、その後、昭和59年8月30日から昭和60年12月31日まで代表取締役を務め、平成4年7月27日に改めて代表取締役に就任した。
 また、Fは、平成5年5月29日に請求人の代表取締役に就任し、同年7月10日に辞任した。その後、平成15年5月31日に請求人の取締役に就任したが、同年9月○日に死亡し、請求人の取締役を退任した。請求人におけるFの最終報酬月額は、○○○○円であった。
(ニ) Hは、Fの妻であり、昭和53年3月7日にG社の取締役に就任し、昭和55年3月31日にこれを退任した後、昭和59年8月30日に同社の監査役に就任した。その後、Hは、昭和60年12月31日にG社の監査役を退任したが、平成4年7月27日に再度同社の監査役に就任した。
 また、Hは、請求人の設立時に請求人の監査役に就任したが、平成5年7月10日にこれを辞任(なお、平成4年5月30日から平成5年5月28日までは、商法第280条《取締役に関する規定の準用》第1項(平成13年法律第149号による改正前のもの。)、第258条《欠員の場合の処置》第1項により監査役の権利義務を有していた。)するとともに、同日に請求人の代表取締役に就任し、平成16年1月31日にこれを辞任した。請求人におけるHの最終報酬月額は、○○○○円であった。
(ホ) J及びKは、F及びHの子であり、平成16年1月31日にJが請求人の代表取締役に、Kが請求人の取締役にそれぞれ就任した。
(ヘ) Lは、平成3年1月5日に請求人の取締役に就任したが、平成14年○月○日に死亡し、取締役を退任した。なお、Lは、平成4年5月30日から平成5年5月28日までは、商法第258条第1項により取締役の権利義務を有していた。請求人におけるLの最終報酬月額は、○○○○円であった。
(ト) M社は、平成○年○月○日に食品卸売業等を目的とし、資本金を3,000,000円、本店所在地をR市r町○−○とし、Lの妻であるNが代表取締役に、請求人の仕入業者の担当者であったTが取締役に、Uが監査役にそれぞれ就任して設立された会社で、請求人の材料仕入先の一つであった。M社の株主は、設立時から平成17年11月30日まではN1名であった。N、T及びUは、いずれも平成17年4月1日に役員を辞任し、Hの弟であるVが代表取締役に、Wが取締役にそれぞれ就任したが、V及びWは、いずれも平成17年7月1日に役員を辞任し、同日にHが代表取締役に、J及びKが取締役にそれぞれ就任した。また、M社の経理事務は、平成16年1月ころから請求人の従業員となったXがその経理事務等と併せて担当していた。
(チ) Y(昭和○年○月○日生)及びZ(昭和○年○月○日生)は、いずれも請求人の従業員であった者(ただし、Zは時間給制)であり、請求人に対する税務調査が開始された平成17年9月8日(以下「本件調査開始日」という。)当時、P市q町○−○で同居していた。
ロ 保険金の取得
 請求人は、Fの死亡に伴う死亡保険金等として、平成15年○月○日に○○生命保険相互会社から○○○○円、平成15年○月○日に○○生命保険相互会社から○○○○円を受領した(以下、これらの保険金を併せて「本件保険金」という。)。
ハ 退職給与等の支給決議等
(イ) 請求人は、平成16年2月28日午前9時10分から開催した臨時株主総会において、要旨次の内容の決議をした。
A 平成15年9月○日に死亡した前取締役Fに対して、創業以来の功績に報いるため退職金及び功労金並びに弔慰金を支給する。
B 平成16年1月31日付で辞任した前代表取締役Hに対して、創業以来の功績に報いるため退職金及び功労金を支給する。
C 支払資金として、Fの死亡により請求人が受け取った死亡保険金の一部を○○○○円の範囲内で充て、支給額の詳細、支給時期及び支給方法については、取締役会の決議に一任する。
D 平成14年11月○日に死亡したLと、平成16年2月末日をもって退職するZ及びYに対して、その功績に報いるため、退職金及び功労金を支給する。
(ロ) 請求人は、平成16年2月28日午前10時10分から開催した取締役会において、要旨次の内容の決議(以下「本件取締役会決議」といい、これと上記(イ)の株主総会決議と併せて「本件各決議」という。)をした。
A Fに対する退職金及び功労金の額を○○○○円とし、別に弔慰金として最終報酬月額の6か月分を支給することとし、これらを平成16年3月16日に銀行振込により、配偶者Hに支払う。
B Hに対する退職金及び功労金の額を○○○○円とし、平成16年3月16日に源泉徴収後の手取額を銀行振込により支払う。
C Lに対する退職金及び功労金○○○○円を、平成16年3月16日に銀行振込により、配偶者Nに支払う。
D Zに対して退職金及び功労金○○○○円を支給することとし、平成16年3月16日に源泉徴収後の手取額を銀行振込により支払う。
E Yに対して退職金及び功労金○○○○円を支給することとし、平成16年3月16日に源泉徴収後の手取額を銀行振込により支払う。
(ハ) 上記(ロ)の各退職金及び功労金の額について具体的な算定根拠はない。
(ニ) 請求人は、平成15年5月31日に定時株主総会を開催し、平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度の決算報告書等を承認したが、そこで平成14年11月○日に死亡した取締役Lに対する役員退職給与の支給決議は行わなかった。
ニ F及びHに対する役員退職給与等の支給
 請求人は、平成16年3月16日にHに対して、Fの役員退職給与等○○○○円及びHの役員退職給与の額○○○○円から源泉徴収税額○○○○円を差し引いた○○○○円の合計○○○○円を支給した。
ホ N、Y及びZ名義の預金口座への入金
(イ) 請求人は、平成16年3月16日に本件取締役会決議においてLに対する退職金及び功労金とされた○○○○円を、P市r町○−○に所在するe銀行○○支店のN名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「N当初入金口座」という。)に振り込んだ。
(ロ) 請求人は、平成16年3月16日に本件取締役会決議においてYに対する退職金及び功労金とされた額○○○○円から源泉徴収税額○○○○円を差し引いた○○○○円を、P市s町○−○に所在するf銀行○○支店のY名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「Y当初入金口座」という。)に振り込んだ。
(ハ) 請求人は、平成16年3月16日に本件取締役会決議においてZに対する退職金及び功労金とされた額○○○○円から源泉徴収税額○○○○円を差し引いた○○○○円を、P市P町○−○に所在するg銀行○○支店のZ名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「Z当初入金口座」といい、これとY当初入金口座とを併せて「Y・Z当初入金口座」という。)に振り込んだ。
ヘ 本件事業年度の確定申告
 請求人は、平成16年5月31日にF、H、L、Y及びZに対する退職給与として、それぞれ○○○○円、○○○○円、○○○○円、○○○○円及び○○○○円を損金の額に算入した本件事業年度の法人税の確定申告書を提出した。
ト N当初入金口座及びY・Z当初入金口座からの金員の移動状況
(イ) 平成16年3月25日にN当初入金口座から○○○○円が振替出金され、同月26日にP市Q町○−○に所在するh銀行○○支店のN名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「N振替先口座」という。)に○○○○円が振り込まれた。
(ロ) 平成16年5月14日にY当初入金口座から○○○○円ずつ3回合計○○○○円が出金された上で同口座は解約され、同日に同口座の残高○○○○円から振込料○○○○円が差し引かれた後の○○○○円がQ市r町○−○に所在するj銀行k支店のY名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「Y振替先口座」という。)に振り込まれた。
(ハ) 平成16年5月14日にZ当初入金口座から○○○○円ずつ3回合計○○○○円が出金された上で同口座は解約され、同日に同口座の残高○○○○円がj銀行k支店のZ名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「Z振替先口座」といい、これとY振替先口座とを併せて「Y・Z振替先口座」という。)に振り込まれた。
チ 本件更正処分等
 原処分庁は、平成18年3月28日に請求人の本件事業年度の法人税について、1L、Y及びZに対する退職給与として支給したとする合計額○○○○円からLに係る○○○○円のうち上記トの(イ)の○○○○円を除いた○○○○円は支給事実がない、2F及びHに対する役員退職給与として相当であると認められる金額(以下「適正役員退職給与の額」という。)は、いずれも○○○○円(請求人と類似する法人が役員に支給した退職給与の額を当該役員の退職時における最終報酬月額に勤続年数を乗じた金額で除した数値(以下「功績倍率」という。)の平均値2.2を求め、F及びHの各最終報酬月額○○○○円に役員としてのそれぞれの勤続年数17年及び当該功績倍率の平均値を乗じた額)と認定し、当該金額を超えるFの○○○○円及びHの○○○○円の合計○○○○円は、法人税法第36条に規定する不相当に高額な部分の金額に当たるから、所得金額の計算上損金の額に算入できないとして、本件更正処分等をした。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 争点1 元取締役及び従業員2名に対する退職給与の支給事実があったか。

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 請求人が○○業を始めるに至った経緯等
 請求人は、○○の製造販売業を行っていたG社の仕入れを担当する会社としてFによって設立されたが、平成○年○月○日に本店所在地をQ市に移転した後の同年11月ころから○○業を始めた。
(ロ) L、Y及びZの在職中の職務内容等
A Lは、昭和○年代後半からG社の従業員であったが、請求人の本店所在地がQ市に移転した後は、取締役営業部長として営業全般を担当していた。同人は、Nとともに、P市R町○−○に所在するマンションのHが所有する○号室を室料無料で使用し、居住していた。
B Y及びZは、昭和○年代後半からG社の従業員であったが、平成3年7月ころから請求人の従業員となった。また、上記両名の請求人退職時の職務内容は、Yが配送主任、Zがパート従業員の取りまとめの担当というものであり、上記両名の退職時の月給額はYが約○○○○円、Z(時間給制)が約○○○○円であった。なお、上記両名は、内縁関係にあり、退職後の収入は、Yの年金収入が2月ごとに約130,000円あるだけであった。
(ハ) Y・Z当初入金口座及びY・Z振替先口座の開設及び解約並びに入出金等の手続の状況
A 上記1の(4)のトの(ロ)及び(ハ)のY・Z当初入金口座からの各出金及び当該各口座の解約手続に関する書類並びにY・Z振替先口座の開設票及び印鑑票の筆跡は、いずれもXのものであり、当該印鑑票には、請求人が購入してY及びZに贈与したとする印章が使用されているほか、連絡先として請求人の電話番号の記載がある。
B Y・Z振替先口座からの、本件調査開始日前における出金に係る払戻請求書の筆跡は、いずれもX又はJのものであった。
(ニ) Y・Z振替先口座の入出金の状況等
A Y・Z振替先口座の各入出金の状況は別表2及び別表3のとおりであり、平成19年3月26日時点の残高は、Y振替先口座が○○○○円、Z振替先口座が○○○○円であった。
B Y振替先口座の平成17年3月28日の○○○○円の出金及び同年7月7日の○○○○円の入金は、それぞれYから請求人への貸付金及びその貸付金の返済との名目であった。また、平成17年6月30日の○○○○円の出金及び平成18年3月31日の○○○○円の入金は、それぞれYからM社への貸付金及びその貸付金の返済との名目であった。
C Y及びZは、本件調査開始日前の平成17年6月28日に、それぞれ、契約者及び被保険者並びに入院保険金の受取人を本人とし、死亡保険金の受取人を法定相続人とする○○保険契約をm保険株式会社との間で締結した。その後、Yの月額保険料○○○○円は、平成17年7月26日以降毎月Y振替先口座から、Zの月額保険料○○○○円は、平成17年8月26日以降毎月Z振替先口座からそれぞれ振替により支払われている。
(ホ) N当初入金口座及びN振替先口座の開設や入出金等の手続等の状況
A Nは、平成16年1月20日にN当初入金口座を開設したが、その際、銀行担当者に対し、本人確認書類として国民健康保険退職被保険者証を提示し、同日にHから譲り受けた印章を届出印とした。また、N当初入金口座のキャッシュカードの発行を受けるに当たっての手続書類の筆跡は、Xのものである。そして、Nは、銀行から自宅に送付されたN当初入金口座のキャッシュカードをXに預けた後、平成17年10月13日時点において、同キャッシュカードをだれが持っているか及びその暗証番号も知らなかった。
B N当初入金口座から平成16年3月25日に振替出金された○○○○円及び同金員のN振替先口座への振込手続並びに本件調査開始日前のN当初入金口座からの各出金に際してそれぞれ作成された書類の筆跡は、いずれも請求人の従業員であるX又はnのものであった。
(ヘ) N当初入金口座及びN振替先口座の入出金等の状況
A N当初入金口座の入出金の状況は、別表4のとおりであり、同口座の平成19年2月13日時点の残高は○○○○円であった。また、N振替先口座の平成19年3月28日時点の残高は○○○○円であった。
B N当初入金口座の入出金のうち、平成16年6月29日の○○○○円の出金は、M社に対する貸付金との名目であった。また、平成16年7月29日の○○○○円、平成17年3月16日の○○○○円並びに平成18年4月10日、同月28日及び同年5月31日の各○○○○円の各入金は、いずれもM社に対する貸付金の返済との名目であった。なお、NのM社に対する貸付金の残高は、平成19年2月末時点で○○○○円であった。
C N振替先口座は、Nに対する国民厚生年金が振り込まれており、また、t証券株式会社(以下「t証券」という。)との証券投資取引に係る決済等に利用されている。
(ト) 本件事業年度及びその前事業年度における請求人の負債の状況
 請求人の長期借入金の額は、平成16年3月31日時点が○○○○円、平成15年3月31日時点が○○○○円であり、また、請求人は、平成15年3月31日時点においては○○○○円の負債額があり、○○○○円の債務超過の状態であった。
(チ) 本件保険金について
 本件保険金に係る保険契約は、請求人の借入金を返済する目的で締結したものであった。
ロ 判断
(イ) Y・Z当初入金口座に振り込まれた金員が退職給与であったかについて
A 請求人は、上記イの(ト)のとおり、平成15年3月31日時点で合計○○○○円以上の多額の借入金を抱えて債務超過の状態にあり、本件事業年度末時点でも合計○○○○円以上の借入金を抱える財務状況にあったところ、上記イの(チ)のとおり、本件保険金に係る保険契約が請求人の借入金を返済する目的で締結されたものであったにもかかわらず、これを全額借入金の返済に充てて財務状況の改善を図ることをせず、かえって、上記イの(ロ)のBのとおり、○○配送の主任で退職時の月給額が約○○○○円にすぎなかったY及びパート従業員の取りまとめを担当し、時間給制で退職時の月給額が約○○○○円にすぎなかったZに対し、上記1の(4)のハのとおり、具体的な算定根拠もなく本件各決議をし、合計○○○○円もの多額の金員を退職給与として支給するというのは、純経済人たる会社が通常執るべき経済的、合理的な行為ということはできず、社会通念に照らして不自然といわざるを得ない。
 また、上記1の(4)のトの(ロ)及び(ハ)のとおり、Y・Z当初入金口座に金員が振り込まれた後、わずか2か月足らずで同口座の解約手続が取られ、連絡先を請求人とするY・Z振替先口座が開設された上で、上記退職金名目で入金された金員の大半が、同口座に振替入金されており、上記イの(ハ)のAのとおり、これら一連の手続に必要な関係書類は、請求人の従業員が作成しており、その際に使用された印章も請求人が購入して用意したのであり、その後も、同Bのとおり、請求人の従業員だけでなく、請求人の代表者も、Y・Z振替先口座からの出金手続を行っていたものである。さらに、上記1の(4)のイの(イ)及び(チ)、ホの(ロ)及び(ハ)並びにトの(ロ)及び(ハ)のとおり、Y・Z当初入金口座は、Y及びZの居住地であるP市内に所在の金融機関の支店の口座であるのに対し、Y・Z振替先入金口座は請求人の本店所在地であるQ市内に所在する銀行の支店の口座となっている。これらの事情を総合的にみれば、Y・Z振替先口座を管理していたのは請求人であり、上記一連の解約・開設手続は、請求人が、Y・Z振替先口座に預けられている金員の入出金を容易にする目的で行われたものと推認されるのであって、実際にも、上記イの(ニ)のBのとおり、Y振替先口座から請求人及び上記1の(4)のイの(ト)のとおり、役員の構成や経理事務の担当者から請求人の関連会社であることが明らかなM社との間で貸付金やその返済名目で多額の金員が移動しており、正に請求人自身のために当該預金口座の金員が使用されているとみることができるのであって、上記推認を裏付けているところである。
 以上の諸点に加え、Y及びZの本件調査開始日付の各質問てん末書には、退職金はもらっていないとの部分があること、原処分関係資料によれば、請求人は、上記両名に対し、退職金に係る支給明細や源泉徴収票等の書類を何ら交付していないことが認められること、さらに、後記(ロ)のとおり、N当初入金口座に振り込まれた金員が役員退職給与であることについても不自然な点が多々存在するほか、後記(2)のとおり、F及びHに対する役員退職給与が過大であることをも総合すると、Y・Z当初入金口座に入金された金員は退職給与ではなく、むしろ、請求人が多額の保険金を取得したことによって生じる利益の調整を図り、自己の運転資金等として利用する目的で、単にY及びZ名義の預金口座を借用し振り込んだにすぎないものと推認するのが相当である。
B これに対し、Y及びZはいずれも退職金を受領した旨、H及び請求人の代表者はいずれも上記両名に対する退職金を支給した旨上記Aの認定に反する答述をするが、以下のとおり、信用することができない。
(A) Y及びZは、平成17年9月8日の本件調査開始日付の各質問てん末書において、上記Aで指摘したとおり、いずれも退職金を受領した事実を否定する申述をするほか、Fから、世話になったから退職金もやらなあかんと言われていたが、いくらもらえるという話はなかった、Hからは退職金の話はなかった旨を申述しているところ、原処分関係資料によれば、上記各質問てん末書は、Y及びZが、本件調査開始日に本件調査担当者に対して、退職金を会社に預けてある、後輩や会社のために使ってもらったらいい、先々でその内のいくらかでももらえたらよいくらいに思っている、収入もないし生活保護を受けようと思っている、実際に現金などでもらったものはない、書類には退職金はもらってないことにしておいてほしい旨を申述し、その結果作成されたものであると認められる。これらの申述によれば、上記両名が、本件調査開始日に退職給与の支給を受けた事実を明確に否定する申述をしていたとまではいえないものの、退職金の額や実際に受領できる時期など具体的な内容について話はなかったというのであり、先々でその内のいくらかでももらえたらよいなどと退職給与についての関心がないことを示す申述もしていたのであって、これらの申述内容や態度は、上記イの(ロ)のBのとおり、請求人を退職後の収入が2か月ごとに約130,000円しかなかった上記両名が実際に受領した退職金について話す内容としては不自然であり、退職給与が真に支払われたのか疑わしいといわざるを得ない。そして、Y及びZは、平成17年10月12日に本件調査担当者に対して退職金を受領した事実や退職金の額について明確に申述し、本件調査開始日における申述を変遷させ、その後も同内容の申述を続け、当審判所に対しても、退職金を受領した旨を答述するとともに、平成16年2月ころ、Hから退職金の話があったと答述しているが、上記両名は、ともに請求人の従業員であった者であり、請求人に不利な内容の虚偽申述をするとは考え難い上、時期が後になって申述内容が明確になるというのも不自然であることからすると、本件調査開始日の申述の信用性は高いというべきであり、他方、平成17年10月12日以降の申述及び答述は、上記両名と税務調査を受けた請求人の関係者との間で口裏合わせをしたことが疑われる。Yは、本件調査開始日に退職金を受領していないと申述した理由について、平成17年10月12日に本件調査担当者に対し、Hから退職金を受領した事実を言わないよう口止めされていた旨申述し、Hの答述にもこれに沿う部分があるが、上記のとおり、本件調査開始日に本件調査担当者に対して退職金は預けているなどと退職金を受領したものとも受け取れる申述をしていたのであるから、上記申述及び答述を、直ちに採用することはできない。
(B) Y・Z当初入金口座及びY・Z振替先口座から出金された金員の使途について、Yは、Y当初入金口座から平成16年5月14日に引き出された○○○○円は、母に渡したり、競馬の資金とした、Y振替先口座から引き出された金員のうち、平成17年1月17日の○○○○円については、母親の世話をしている兄弟に渡したり、母の入院費用に充てたりし、その他は、いずれも生活費及び母への仕送りのため自分で引き出した旨を答述し、Zは、Z当初入金口座から平成16年5月14日に引き出された○○○○円は、生活資金にしたほか、子や孫に贈与し、Z振替先口座からの引き出された金員は、いずれも生活費及び子のために使ったり、子に渡した旨を答述する。
 しかしながら、Y及びZの上記使途に関する答述内容はあいまいなものである上、何ら客観的な裏付けがない。また、仮に、Y・Z振替先口座から引き出された金員を生活費として費消したのであれば、毎月定期的に一定額が引き出されるというのが自然であるといえるが、別表2及び別表3のとおり、平成16年6月から同年9月までは毎月合計○○○○円が引き出されているものの、その後の出金は不定期になされており不自然である。しかも、平成17年1月、同年2月及び同年4月の各出金額は○○○○円ないし○○○○円に上っているところ、Y及びZは、内縁関係にあり、いずれも毎月の生活費を120,000円ないし130,000円と答述していること、上記イの(ロ)のBのとおり、Yに2か月ごとに約130,000円の収入があったことに照らすと、上記平成17年1月、同年2月及び同年4月の各出金額については生活費としては明らかに過大であり、上記平成16年6月から同年9月までの定期的に出金された額についても、やはり生活費としては過大ということができる。さらに、仮に生活費というのであれば、Y・Z振替先口座から1か月分をまとめて引き出すのが自然といえるが、別表2及び別表3のとおり、上記定期的に出金された分については、Y・Z振替先口座の2口座からわざわざ同額ずつを引き出しており、不自然である。もっとも、上記イの(ニ)のCのとおり、Y・Z振替先口座からは、請求人の個人的な使途であるといえる損害保険料が引き落とされているが、その額は1か月当たり合計○○○○円余りであることからすると、上記両名が請求人に協力したことに対する謝礼として損害保険料を請求人が負担することで合意したと考えることもできるから、損害保険料が引き落とされていることは、上記両名の退職金として受領したとする金員の費消状況に関する答述を直ちに裏付けるものではない。仮に、一部生活費として費消された金員があったとしても、上記損害保険料の負担と同様の理由により、又は請求人が、退職給与の架空計上が発覚することを恐れて、一定限度までの金員の費消を認めたことによるものと考えることもできる。以上の諸点に照らすと、Y・Z振替先口座から引き出された金員を生活費に費消したとするY及びZの答述を採用することはできない。
(C) 原処分関係資料によれば、Y及びZは、平成17年10月12日に本件調査担当者に対し、Y・Z振替先口座の預金通帳や届出印を示した上で、これらを自ら保管しており、出金の都度請求人の従業員に手渡し、出金後返却を受けている旨を申述したこと、その際、上記両名は、いずれも届出印を自分で購入した旨を申述したことが認められるところ、確かに、上記両名は、本件調査開始日において上記預金通帳や届出印を所持していなかったことを裏付ける客観的な証拠はないものの、上記イの(ハ)のAのとおり、上記両名の届出印は、請求人が購入してこれを上記両名に贈与したというのであって、上記両名は、届出印の入手について虚偽の申述をしていたものと認められる。そして、通常、嘘をつくべき事情があるとは思われない届出印の入手についてあえて虚偽の申述をしていることからすると、上記両名は、上記預金通帳や届出印の保管状況についても、本件調査開始日以降に請求人の関係者と口裏合わせを行った上で請求人に有利になるように虚偽の申述をしたものと疑われ、上記両名の申述によって、当初から上記両名がY・Z振替先口座の預金通帳や届出印を管理していた事実を認めることはできない。
(D) Y及びZは、審査請求書において、平成15年7月に退職している旨主張し、さらに、本件調査開始日に本件調査担当者に対し、請求人を退職した時期について、平成15年7月5日で雨の降る日に退職し、その後、平成16年2月までは請求人の社長宅の庭の掃除や手入れに行ったがお金はもらっていないなどと、上記1の(4)のハの(イ)の臨時株主総会の決議で上記両名の退職日とされている平成16年2月末日の7か月以上も前に退職していた旨を申述していたものであり、請求人の代表者も、平成19年3月27日に当審判所に対し、上記両名の退職時期は平成15年7月ころである旨答述しており、これによれば、上記両名が平成16年2月末日に退職した事実はなかったことになる。これに対し、上記両名は、平成19年4月12日に当審判所に対し、退職日が平成15年7月5日であったというのは記憶違いであり、Yはそのころに体調を崩して休職して療養しており、ZもYが療養する上、自分は車の運転ができないため会社に行くことができないから休職し、その後Yの体調回復のため、いずれも平成15年末に復職したが、年齢やHから退職金の話があったこともあり、平成16年2月に退職した旨答述しており、上記申述とは答述内容を変遷させている。確かに、上記両名の源泉徴収簿によれば、平成15年12月、平成16年1月及び2月にそれぞれ給与の支給実績があったことになっているが、そもそも、退職日を忘れること自体不自然であって、単なる記憶違いというだけでは上記答述内容の変遷の理由を首肯することはできず、また、上記源泉徴収簿の記載も、請求人が上記両名を復職させて、勤務しているとの外形を作出しようとしたものと疑われるから、上記答述を裏付けるものとはいえない。そして、本件調査開始日における上記申述によれば、既に退職した従業員に対し、その7か月以上後に退職給与の支給が決定されるというのはおよそ不自然である。
(E) H及び請求人の代表者は、平成19年3月27日に当審判所に対し、いずれもY及びZに退職給与を支払うこととした理由について、上記両名は長年苦労を共にしてきたことを答述するが、そのような理由のみで多額の退職給与を支給することが不自然であることは上記Aで指摘したとおりである。しかも、Y及びZ以外の従業員に対する退職給与の支払の有無について、Hは、退職金の名目で支払ったことはなく、退職するに際して2人の従業員に少額の金員を支払ったことはあるが、1人は1,000,000円程度であり、他の1人は少額の支給だった旨を答述し、請求人の代表者は、Y及びZ以外の従業員に対して退職金を支払ったことはない旨を答述しており、請求人においては、従業員に対して本件のような多額の退職給与を支払った前例はなかったことに照らすと、Y及びZにだけ特別に多額の退職給与を支給するのは不自然であり、上記両名に対する退職金を支給した旨の各答述はいずれも採用することができない。
C 以上のとおり、Y及びZの退職金を受領した旨の各答述並びにH及び請求人の代表者の上記両名に対する退職金を支給した旨の各答述はいずれも採用することはできず、ほかに、Y・Z当初入金口座に振り込まれた金員は退職給与ではなく、請求人が、自己の運転資金等として利用する目的で、Y及びZ名義の預金口座を借用し振り込んだものであるとの上記推認を覆すに足りる証拠はないから、上記両名に対する退職給与の支給事実はなかったと認められる。
(ロ) N当初入金口座に入金された金員がLに対する役員退職給与であったかについて
A 上記(イ)のAで指摘した請求人の経営状況や負債の状況からすると、○○○○円もの多額の役員退職給与を支払うことはやはり考え難い。しかも、上記1の(4)のイの(ヘ)及びハの(ハ)並びに上記イの(ロ)のAのとおり、Lは、長年にわたって請求人の従業員として勤務し、また、仮に取締役営業部長に就任していたとしても、取締役退任時における報酬月額が○○○○円にすぎない同人に対して、具体的な算定根拠もなく○○○○円もの多額の役員退職給与を支給するのはやはり不自然といわざるを得ない。
 また、上記イの(ホ)のとおり、退職金名目での金員が振り込まれたN当初入金口座の開設に際して、Hから譲り受けた印章を届出印としている上、平成16年3月16日になされたN当初入金口座からN振替先口座への○○○○円の振替入金についての手続書類を請求人の従業員が作成し、その後も本件調査開始日前のN当初入金口座からの出金についての手続書類を請求人の従業員が作成しているほか、同口座のキャッシュカードの発行に際しての手続書類も請求人の従業員が作成し、Nは同カードを請求人の従業員に預けていて、暗証番号も知らなかったのであって、これらの事情によれば、N当初入金口座を管理していたのは正に請求人であると推認される。
 さらに、N当初入金口座の入出金の状況についてみても、上記イの(ヘ)のBのとおり、請求人の関連会社であるM社名義の預金口座との間で多額の金員が移動しているのであり、当該預金口座の金員が請求人のために使用されているとみることができる。
 しかも、上記1の(4)のイの(ヘ)のとおり、Lが死亡したのは平成14年11月○日であるところ、請求人においては、本件各決議をするまでに、上記1の(4)のハの(ニ)のとおり、平成15年5月31日に同年3月31日までの事業年度の決算報告書を承認した定時株主総会が開催されたにもかかわらず、そこで役員退職給与の支給決議をせず、死亡による退任の日から1年以上も経過した時点で役員退職給与の支給を決議したというのもやはり不自然というべきである。
 以上の諸点に加え、上記(イ)で認定したとおり、Y及びZに対する退職給与の支給事実はなかったこと及び後記(2)のとおり、F及びHに対する役員退職給与が過大であることをも総合すると、少なくとも、N当初入金口座に入金された○○○○円のうち、上記イの(ヘ)のCから、Nの生活口座と認められるN振替先口座に平成16年3月25日に振替入金された○○○○円を除く○○○○円については役員退職給与ではなく、むしろ、Y及びZに対する退職金名目での金員と同様の目的で、請求人がN名義の預金口座に振り込んだにすぎないものと推認するのが相当である。
B これに対し、Nは、Lに対する退職金として○○○○円を受領した旨、H及び請求人の代表者は、いずれもLに対する退職金を支給した旨上記Aの認定に反する答述をするが、以下のとおり、信用することができない。
(A) 原処分関係資料によれば、Nは、本件調査担当者に対して、本件調査開始日には退職金として受領したとする金額を明らかにすることを拒否し、退職金はすべて使ってしまったと申述したこと、平成17年10月13日には退職金として受領したとする金額が約○○○○円であると申述したことが認められるところ、当審判所の調査によれば、Nは、平成18年7月27日に異議審理庁の調査担当者に対し、本件調査開始日に退職金として受領したとする金額を明らかにしなかった理由について、言いたくなかったと説明したことが認められるが、合理的な説明であるとは言い難く、その1か月後に退職金として受領したとする金額を明らかにした理由も不明である上、退職金として受領したとする金員の費消状況に関する申述は、別表4のN当初入金口座からの出金状況に照らして明らかに虚偽である。むしろ、Nは、N当初入金口座へ入金された金員の少なくとも一部は退職金として支給されたものでなく請求人のものであることを認識していたがゆえに、本件調査開始日においてはその金額を明らかにせず、同日以降に請求人の関係者との間で税務調査における説明内容について口裏合わせを行った上で退職金として受領したとする金額を明らかにしたものと疑われる。
(B) Nは、平成19年4月12日に当審判所に対し、N当初入金口座からの出金のうち、平成16年9月9日の○○○○円についてはt証券での投資信託等の投資や買い物の支払に充てたと答述し、平成17年3月16日の○○○○円及び同年6月7日の○○○○円については、いったんいずれもt証券での投資信託等に充てたと答述したものの、その後、前者については弟に対して貸し付けた旨答述を変遷させ、後者については一部をt証券での投資に使い、一部は何に使ったか覚えていないと答述を変遷させたものであるところ、当審判所の調査によっても、t証券のN名義の取引口座には上記各出金に対応する入金は認められず、ほかに上記各出金の使途に関する答述を裏付けるに足りる証拠はない。
(C) Nは、平成17年10月13日付質問てん末書において、平成16年3月25日にN当初入金口座の預金通帳及び届出印を請求人の従業員に預けてその管理を任せていたが、現在は、同口座の預金通帳及び届出印を所持している旨申述し、平成18年7月27日付質問てん末書において、本件調査開始日においても預金通帳を所持していたと申述していたものであり、これらの申述は同口座をN自身が管理している旨をいうものと解されるが、同人は、上記平成17年10月13日付質問てん末書において、預金通帳等を他人に預けたことは不自然であると思うとも申述しており、預けた理由について合理的な説明をしていないことから、上記各申述を直ちに採用することはできない。
(D) H及び請求人の代表者は、いずれもLに役員退職給与を支払うこととした理由について、Y及びZに対する退職金と同様の理由を挙げるが、そのような理由のみで特別に多額の役員退職給与を支給することが不自然であることは上記Aで指摘したとおりであり、Lに対する退職金を支給した旨の各答述はいずれも採用することができない。
C 以上のとおり、Nの退職金を受領した旨の答述並びにH及び請求人の代表者のLに対する退職金を支給した旨の各答述はいずれも採用することはできず、ほかに、N当初入金口座に振り込まれた金員のうち、○○○○円は役員退職給与ではなく、請求人が、N名義の預金口座を借用し振り込んだものとの上記推認を覆すに足りる証拠はないから、Lに対する役員退職給与とされた額○○○○円のうち○○○○円に係る支給事実はなかったと認められる。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)によれば、請求人は、Y及びZに対する退職給与とされた○○○○円並びにLに対する役員退職給与とされた額○○○○円のうち○○○○円の合計○○○○円を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。

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(2) 争点2 請求人の前代表者及びその夫である元取締役に対する役員退職給与の額は過大か。

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
(イ) Fは、Hが請求人の代表取締役に就任していた期間を含めて、請求人の設立当初からの実質的な経営者であり、請求人の発行済株式総数200株の5割に相当する100株を保有しており、対外的にも社長として呼ばれていた。
(ロ) 原処分庁は、本件更正処分等において、功績倍率を求めるため、次の基準により、請求人の類似比較法人として4社(以下「本件比較法人」という。)を選定した上で、別表5−1「類似比較法人の功績倍率(原処分)」のとおり、本件比較法人の5事例による功績倍率の平均値2.2を採用して、上記1の(4)のチのとおり、適正役員退職給与の額を算出した。
A ○○国税局管内で請求人と同業種(○○業)を営む青色申告法人であること。
B 役員が退職した事業年度における売上金額が、請求人の本件事業年度の売上金額○○○○円を基礎として、その0.5倍以上2倍以内の法人であること。
C 平成14年1月ないし平成16年12月までの間に事業年度が終了する期間において役員退職給与の支給事績のある法人であること。
D 退職事由が業務上の死亡でないこと。
(ハ) 本件比較法人のうち、a法人は、役員退職慰労金規程において、代表取締役の役位係数(功績倍率)を3.2、取締役の役位係数(功績倍率)を2.2としており、これによれば役員退職給与の額は、代表取締役が○○○○円、取締役が○○○○円となるが、実際には資金繰りのために上記規程に従わず、支給した金額は、代表取締役が○○○○円、取締役が○○○○円であり、各功績倍率は、代表取締役が1.1、取締役が1.2となる。
ロ 判断
(イ) 法令解釈
 法人税法第36条及び法人税法施行令第72条に規定する適正役員退職給与の額の具体的な判断基準としていわゆる功績倍率法を用いることについては、請求人及び原処分庁の間に争いはなく、当審判所においても上記各法令の趣旨に合致する合理的な取扱いであると認められる。
(ロ) 功績倍率
 原処分庁は、上記イの(ロ)のAないしDの基準に従って本件比較法人を抽出しているところ、その抽出基準は請求人の事業内容や事業規模等を反映させたものであって合理的なものと認められ、実際に本件比較法人を抽出するに当たって、し意的に抽出した等の事情は認められない。
 もっとも、本件比較法人のうち、a法人については、上記イの(ハ)のとおり、資金繰りのために役員退職給与規程に定められた功績倍率より大幅に低率の功績倍率に基づいて退職給与を算定したとの特殊な事情があり、実際に支給された金額も他の3社に比べて大幅に低いものであることに照らすと、本件比較法人からa法人を除外した3社を比較法人として、功績倍率を算定するのが相当である。そうすると、当該3社の平均功績倍率は、別表5−2「類似比較法人の功績倍率(審判所認定分)」の当該3社のそれぞれの功績倍率1.7、1.9及び2.0の平均値である1.9(小数点第2位四捨五入)となる。
(ハ) 役員の在任期間
 上記1の(4)のイの(ニ)及びハの事実によれば、Hが役員に就任していた期間は16年7か月と認められ、また、Fについては、上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、登記簿上は請求人の役員に就任していた期間は短期間であるものの、上記イの(イ)の事実のとおり、Fは設立当初から請求人の実質的な代表者であり、発行済株式総数の5割を有する株主であったことからすると、設立当初から実質的に役員として職務に従事していたと認めるのが相当であるから、その役員に就任していた期間は16年3か月と認められ、損金の額に算入することができる役員退職給与の額の算定に当たり適用すべき勤続年数は、上記両名について、いずれも17年となる。
(ニ) 損金の額に算入できる役員退職給与の額
 損金の額に算入することができるF及びH両名の役員退職給与の額は、上記両名の最終報酬月額○○○○円(上記1の(4)のイの(ハ)及び(ニ))に上記の功績倍率1.9を乗じ、さらに上記両名の勤続年数17年を乗じた○○○○円となるから、上記両名に対する役員退職給与の額のうち当該金額を超える部分が、不相当に高額な部分の金額となり、請求人は、Fにつき○○○○円、Hにつき○○○○円の合計○○○○円を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
(ホ) 請求人の主張について
A 請求人は、原処分庁が選定した会社は不明であり、数も少ないこと、代表取締役と取締役の功績倍率が同じというのは不自然であり、社会通念上も余りに低率であること、Fは創業以来の代表取締役であること、Hは創業者の妻であり創業以来の取締役であること、裁判事例や裁決事例でも功績倍率が3.3〜3.6倍というのは定着していることなどからすると、Fの功績倍率を3.6、Hの功績倍率を3.3とするのが相当である旨主張する。
 確かに、平均功績倍率を算出するに当たっては、比較法人の数が多いことは望ましいが、その数が少ないことのみをもって、算出された平均功績倍率が相当性を欠くということはできず、上記イの(ロ)及び(ハ)の事情によれば、比較法人を3社として平均功績倍率を算出したことに合理性がないとはいえない。また、功績倍率を定めるに当たっては、代表取締役か取締役か、また、創業以来の役員であるかどうかなどの名目だけではなく、会社への実際の貢献度等の実質も考慮されるべきであるところ、当審判所の調査によっても、上記ロの(ロ)の平均功績倍率を本件に当てはめることが相当性を欠くと認められるほどに、F及びHの請求人への貢献度が高かったことを裏付ける事情は認められない。さらに、本件に関する具体的事情を考慮せず、裁判事例や裁決事例と異なるというだけで、上記ロの(ロ)の平均功績倍率が社会通念上不相当に低率であるということもできない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
B 請求人は、役員在任期間については実質的に判断すべきであるところ、FはG社の代表取締役、Hは同社の取締役に就任していたものであり、請求人は平成○年ころにG社の業務・経営を引き継いだものであるから、F及びHの役員在任期間には、G社が設立された昭和48年4月から請求人に事業を引き継いだ平成○年までの期間を加算すべきである旨主張する。
 しかしながら、法人税法施行令第72条に規定する「法人の業務に従事した期間」については、法人の役員は、個々の会社と委任の関係にあることから、個々の法人間を通算することはできないものと解されるところ、上記1の(4)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人とG社は別法人であると認められ、本件全証拠資料によっても、G社における役員在任期間を請求人における役員在任期間に加算すべき特段の事情は認められない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。

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(3) 本件更正処分

 請求人の本件事業年度の所得金額は、別表1の「修正申告」欄の所得金額○○○○円に、上記(1)のロの(ハ)の○○○○円及び(2)のロの(ニ)の○○○○円を加算した○○○○円となり、この金額は本件更正処分に係る所得金額○○○○円を上回るから、本件更正処分は適法である。

(4) 争点3 元取締役及び従業員2名に対する退職給与を支給したとしてこれらを損金の額に算入したことについて、事実の仮装があったか。

 上記(1)のロの(イ)のC及び(ロ)のCのとおり、Y及びZに対する退職給与並びにLに対する役員退職給与とされた○○○○円のうち○○○○円の支給事実はなかったと認められるところ、請求人は、上記退職給与及び役員退職給与を支給したとして損益計算書上に計上し、これに基づいて本件事業年度の法人税の確定申告を行ったのであり、このような行為は、通則法第68条第1項にいう重加算税の賦課決定要件である「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当するというべきであるから、これらの事実に係る部分の税額を計算の基礎としてなされた重加算税の賦課決定処分に違法はない。

(5) また、過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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