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(平19.7.23、裁決事例集No.74 197頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が親会社との間で取り組んだ劣後ローンについて、原処分庁が、請求人には劣後ローンを取り組む合理的な理由はなく、当該劣後ローンに係る支払利息は法人税法第37条第7項に規定する寄附金に当たるとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該劣後ローンについては合理的な理由があるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年4月1日から平成15年3月31日まで及び平成15年4月1日から平成16年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成15年3月期」及び「平成16年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ 請求人は、平成15年3月期の法人税について、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づいて、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を、平成15年10月9日に提出した。
ハ D税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成18年6月28日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び平成15年3月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、上記ハの各処分を不服として平成18年8月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第10号は、同族会社とは、会社の株主等の3人以下並びにこれらと特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50を超える数の株式又は出資の金額を有する場合におけるその会社をいう旨規定している。
ロ 法人税法第132条《同族会社等の行為又は計算の否認》第1項は、税務署長は、内国法人である同族会社等に係る法人税につき更正をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨規定している。
ハ 法人税法第37条《寄附金の損金不算入》関係
(イ) 第3項は、内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額の合計額のうち、その内国法人の資本等の金額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
(ロ) 第7項は、寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨規定している。
(ハ) 第8項は、内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、第7項の寄附金の額に含まれるものとする旨規定している。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和○年○月○日に設立された法人(平成○年○月○日に○○社から商号変更。)で、請求人の直営店において○○等の小売業を営み、また、請求人のフランチャイズ加盟店に対して店舗営業のノウハウの提供及び商品の供給等を行っている。また、請求人は、○○のメーカー・卸業者のいずれからも仕入れを行っておらず、請求人が発行済株式の総数を保有するE社が仕入業務を行っている。
 なお、○○の卸業を営んでいるのはE社であり、○○のメーカー・卸業者からの保証金の差し入れ要求の当事者となるのはE社である。
ロ F社(平成○年○月○日に○○社から商号変更。)は、G社が組成したファンドである○○LPが、平成○年○月に請求人のグループの持株会社として取得した法人である。
ハ F社は、平成○年○月○日に株式の公開買付(TOB)により、請求人の発行済株式の約97%を取得し、平成○年○月○日に株式交換により約3%を取得して、請求人を完全子会社とした。
ニ F社の請求人株式の取得原資について
(イ) F社は、請求人株式の取得原資として、平成12年9月19日にH銀行から92億円(これはつなぎ融資で、以下「本件ブリッジローン」という。)を借り入れた。
(ロ) F社が、本件ブリッジローン92億円の元本、利息の支払及びその他の費用の資金とするため、平成13年5月11日に行った、H銀行からの借入れ(優先貸出契約)並びにJ社及びK社からの借入れ(劣後貸出契約で、以下、H銀行からの借入れと併せて「本件借換え」という。)の内容は、別表2のとおりである。
(ハ) 本件借換えの実行に当たっては、次の契約が前提条件とされており、これらの内容は、別表3のとおりである。
A 債務者を請求人、債権者をF社とする劣後特約付金銭消費貸借契約(平成13年6月26日に締結されており、以下「本件借入れ」といい、本件借入れに係る支払利息を「本件支払利息」という。)
B コミットメントライン契約
C 2つのマネジメント・コンサルティング業務委託契約(以下、上記Bの契約と併せて「その他の前提条件契約」という。)
ホ 請求人は、平成13年3月30日に取引銀行7行からの借入金49億円を返済した。
ヘ 本件借換え及びその他の前提条件契約は、平成13年4月27日のF社の取締役会において承認された。
ト 本件借換え及びその他の前提条件契約は、平成13年4月27日の請求人の取締役会において承認され、また、平成13年6月26日の請求人の株主総会において、請求人の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の期末配当25億円(以下「本件配当」という。)は、別途積立金(53億円)を取り崩して行うことが承認された。
チ 請求人は、平成13年6月26日に源泉徴収による所得税5億円を控除した後の本件配当(20億円)をF社名義の預金口座に振込送金し、当該振込金20億円を請求人名義の預金口座に自動振替することにより、同日本件借入れを行った。
リ F社から請求人に平成13年4月27日に提示された「貴社の資本構成および資金調達についての意見書」と題する書面(以下「本件意見書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 請求人には自己資本が約87億円あり、資本効率の観点から株主への利益還元を行った上、一定額の負債を導入することが適当と考えられる。
(ロ) 資本構成の変更により、安定性の高い財務状況が損なわれれば、取引先から保証金の差し入れ要求がされるおそれがあり、その額は100億円規模と考えられる。
(ハ) 負債の戦略的導入の手段として20億円程度の劣後債務を導入することを勧める。この劣後債務は、取引先との関係において直接的な悪影響を及ぼさず、むしろ金融機関において広義の自己資本として取り扱われており、新しい手段で財務の安定性を増すことができる特徴がある。
(ニ) 劣後債務は、その性格上、資金の供給者にとっては通常の貸出しよりもリスクが高く、したがって借手企業にとっても調達コストの高い調達手段であるが、結果としてROE(株主資本利益率)の向上につながる範囲内での表面的な調達コストの上昇にとらわれるべきではない。劣後債務に対し、15%程度の利回り水準となるような条件を設定することが妥当と考える。
ヌ F社は、平成15年8月29日に請求人からの借入金で本件借換えに係る借入金を弁済し、請求人は、同日本件借入れに係る借入金を清算した。
ル 請求人は、平成15年3月期には、平成14年9月25日に151,232,876円及び平成15年3月25日に148,767,123円、合計299,999,999円を本件支払利息として支出し、同期の損金の額に算入した。
 また、平成16年3月期には、同様に平成15年8月29日に129,041,094円を本件支払利息として支出し、同期の損金の額に算入した。
ヲ 原処分庁は、上記ルに記載の本件支払利息(平成15年3月期分299,999,999円及び平成16年3月期分129,041,094円)は法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に当たるとして、本件各事業年度の所得の金額を計算している。

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2 主張

(1) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件借入れは本件借換えの前提条件であり、また、請求人は、別表2の「担保等」欄に記載された保証を実行していることからすると、請求人は、F社の資金計画に深く関与したものと認められる。
 このことは、F社は経常的収入が請求人からの業務受託報酬以外になく、本件支払利息の入金がなければ資金不足になることからも明らかである。
ロ 本件借入れは、次の理由により保証金差し入れ要求回避を目的としたものではない。
(イ) 請求人及びE社は、取引量の大きさや支払遅延が一度も生じたことがないことなどから過去に一度も保証金の差し入れに応じたことがない。
(ロ) E社の仕入先は、E社からの保証金の差し入れには消極的な上、請求人に対して連帯保証を求めても保証金の差し入れの強要までできない旨申述している。
(ハ) F社の取締役であったL氏は、保証金の差し入れ要求をしてきた取引先との取引を見せしめのため停止したと申述している。
(ニ) 請求人は、保証金の差し入れ要求を受ける当事者ではない。
(ホ) 本件借入れにおいては、弁済期限を平成20年5月15日としながら、業績が悪化しているにもかかわらず、実行を受けた時から約2年後に一括返済している。
ハ 請求人は、本件借入れ直前(平成13年3月30日)に49億円の借入金の返済をしていること、本件意見書を理解しないまま本件借入れをしたこと及び本件借換えに際し、本件借入れの額を上回る43億円の預金担保を設定していることから、新たな資金需要があったとは認められない。
 また、本件借換えにおいて、請求人の年間設備投資金額について原則として2,000万円を超えないものとされており、請求人が本件借入れによる資金により設備投資を行う計画及び行った事実は認められない。
 したがって、本件借入れは、請求人の信用力や財務体力を維持するために行われたものとは認められない。
ニ 請求人がF社に経営支配され、F社の債務保証をしていることからすれば、請求人は本件借入れにより受け入れた資金を自由に使用できる状況にはなかった。
ホ したがって、本件借入れは、請求人が深く関与したF社の資金計画に基づいて、本件借換えに係る利息支払のための資金をF社に供与するために実行されたものであり、本件借入れには経済的合理性がないと認められる。
 そうすると、本件借入れに基づいて利息を支払う行為は、F社が経営支配する請求人でなければ行い得ない不自然な行為であって、結果として請求人の法人税の負担を不当に減少させたと認められるから、法人税法第132条第1項の規定が適用されることとなり、本件支払利息は同法第37条第7項の規定によりF社に対する寄附金と認められる。

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(2) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人の取引先からの仕入業務を担当している会社はE社となっており、取引先からの保証金の差し入れ要求の当事者はE社となるが、E社は、請求人が100%出資している完全子会社である上、請求人の社長がE社の社長も兼ねている。日々の決済資金は、請求人からの借入金により調達しており、請求人がE社の業務及び財務について管理運営している。保証金の差し入れ要求があった場合においても、E社は差し入れる資力がないことから、それに実質的に対応するのは請求人である。
 結果として、E社は保証金の差し入れは実際には行わなかったが、E社に対してその要求があったのは事実であり、請求人としては、その要求に備えるという経営上の判断をしたのである。
 したがって、本件借入れの実行は、保証金の差し入れ要求を回避するためではないとの原処分庁の主張は、結果後の状況判断でしかない。
 また、企業においては必要でない資金はありえず、請求人は平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度及び平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度において設備投資(リース)をし、また、新店舗の展開も行っており、保証金の差し入れ要求に備えるほかにも資金の需要はあった。
ロ 取引先からの保証金の差し入れ要求に対して慎重な配慮が必要な状況下で、本件借入れは、本件意見書のとおり、取引先との関係において悪影響を及ぼすことが直接的にはなく、むしろ金融機関において広義の自己資本として取り扱われており、新しい手段で財務の安定性を増すことができる特徴がある。
 したがって、本件借入れにおける劣後特約(以下「本件劣後特約」という。)は、あくまで請求人の信用力及び財務体力の維持を同時に実現するために妥当な手段であり、必要であった。
ハ 本件借入れが実行されている以上、利息の支払は当然であり、本件意見書のとおり、劣後債の場合、表面利率のみで15%程度の利回りが妥当である。
ニ したがって、本件借入れをしたことには経済的合理性があり、本件支払利息はF社に対する資金供与に当たらない。
 また、本件支払利息に法人税法第37条第7項の規定を適用する余地はない。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が平成19年4月6日に当審判所に提出した「取引保証金要求に対しM社との取引停止の経緯について」と題する書面には、請求人が株式の公開買付けをされた時点において、投資ファンド(○○LP)が出資した買収であることから、取引不安が生じM社から取引保証金差し入れ要求を受けた旨が記載されている。
ロ 本件ブリッジローンに係る融資契約書には、F社は、請求人との間で契約締結日から1年後の応答日の前日までに請求人との吸収合併を完了するものと記載されている。
ハ 本件ブリッジローンに係る融資契約の変更契約に当たってH銀行において作成された協議書(2001年2月19日起案)によれば、上記ロの吸収合併の予定は、請求人側(F社を含む。以下同じ。)の次の事情により、株式交換によるF社が完全親会社として請求人の株式を100%保有(完全子会社化)することになった旨の記載がある。
 F社の借入金と請求人の借入金の合算に伴い、吸収合併前の請求人に比して、吸収合併後の会社の外部負債が増加することに伴う仕入先からの保証金差し入れ要求の増加を回避する。
ニ 本件借換えに係るF社とH銀行との間の優先貸出契約書には、誓約事項として、要旨次の記載がある。
(イ) 請求人の年間設備投資額は、書面による事前のH銀行の承諾を得ない限り、2,000万円を超えないものとする。
(ロ) 請求人が新規に契約するリース契約額の最大金額は、書面による事前のH銀行の承諾を得ない限り、会計年度により4億5,000万円から5億4,000万円までとする。
(ハ) 請求人は、H銀行h支店に金10億円以上の普通預金口座(予備積立金口、口座番号は○○○○)を開設し、払出しの前に書面で資金使途をH銀行に通知することによってのみ、当該口座から現金の払出しを行うことができる。
ホ 請求人の各勘定科目に係る「試算表平成13年6月度」には、「現金預金」勘定の当月末残高として8,845,501,212円の記載がある。
ヘ 本件借換えに当たってH銀行において作成された平成13年4月11日付の「貸出案件の概要」と題する書面には、本件借換えの償還原資として、次の4種類が記載されている。
(イ) 本件借入れに基づく15%の金利収入
(ロ) 請求人とF社との間の業務委託契約によるマネジメントフィー収入
(ハ) 請求人からの配当金
(ニ) 請求人とF社との間のコミットメントライン契約による引出し
ト 本件劣後特約とは、F社の本件借入れに係る債権の支払請求権の効力が、請求人の破産、会社更生、民事再生、特別清算、会社整理(以下、これらの事由を「劣後事由」という。)に際して、すべての取引上の債権額につき全額精算されたことを停止条件として発生するという契約条項並びにそれに随伴する1元本の一括弁済、2債務の弁済の順序、時期及び方法は債権者の任意、3無担保、4債権者は債務者の期限の利益を喪失させることができないこと及び5債務者の任意弁済はH銀行の同意を要することを内容とする契約条項である。
チ F社の平成12年8月10日から平成13年3月31日までの事業年度の貸借対照表及び損益計算書には、要旨次の記載がある。
(イ) 資産の部の合計額約113億円のうち子会社株式の金額が約112億円であり、負債の部の合計額が約94億円である。
(ロ) 売上高は、200万円である。
リ F社が所有する子会社株式は、請求人発行の株式であり、請求人は、平成13年3月23日に当該株式の店頭登録の取消しを申請した。
ヌ 本件借入れ当時における、請求人の取引銀行からの平均調達金利は、別表4のとおりである。

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(2) 本件借入れの必要性について

イ 投資ファンドによる請求人の株式の公開買付けの際に、上記(1)のイのとおり、取引の先行不安によるものと認められる仕入先からの保証金の差し入れ要求があったことから、請求人及びF社は、保証金の差し入れ要求を回避するためには、上記(1)のハのとおり、投資ファンドによる請求人の買収後、本件ブリッジローンの契約変更を行ってまで、請求人を吸収合併することに代え、完全子会社化する方法を選択したものであり、このことは、たとえ劣後特約を付した本件借入れを導入することになろうとも、信用不安を回避するためには請求人を完全子会社化せざるを得なかったものであり、それほど保証金の差し入れ要求は、請求人にとって予想外かつ深刻な出来事であったと認められる。
 すなわち、吸収合併後の会社がF社の多額の負債を引き継いで背負うことになれば、更なる取引先の先行不安が想定され、取引先からの保証金の差し入れ要求を増加させる懸念が請求人側に生じたため、急遽、請求人を完全子会社化することとしたものと認められるところ、このような状況からすれば、完全子会社化を選択したにもかかわらず、劣後特約が付されているとはいえ、本件借入れを行うことは、表面的には請求人が多額の長期負債を負うこととなるから、逆に、先行不安を起こさせる要因となり得るとも認められることに加え、上記1の(4)のト及びチのとおり、請求人の別途積立金53億円のうち25億円を取り崩して、完全親会社であるF社に同額の配当を行い、これを原資とする本件借入れが本件劣後特約により年利15%という高金利を支払うことは、取引先としては納得し得ない経済行為であり、更に先行不安を起こさせる要因となることは十分に予測し得るところである。
 なお、請求人が行った本件配当は、上記1の(4)のトのとおり、当期未処分利益からの配当ではなく剰余金である自己資本別途積立金を減少させる配当であり、信用力、財務体力の強化が目的ならば、そもそもこのような配当を行う必要性はなかったと認められる。
ロ また、請求人が実際に設備投資(リース)及び新店舗の展開を行っていたとしても、上記(1)のニのとおり、本件借換え時においては、本件借換えの誓約事項として、請求人の年間設備投資金額を原則として2,000万円、新規のリース契約については年間約5億円を超えないものとされているのであるから、本件借入れの際においては、新たな資金を必要としていなかったものと認められ、更に、H銀行の請求人名義の普通預金口座の残高のうち10億円は、拘束性預金とされており、預金残高が常に10億円になるよう厳しくチェックされていた。
ハ 以上のとおり、本件借入れの時点において、請求人には特段の資金需要は認められず、上記(1)のホのとおり、本件借入れ直後である平成13年6月末日においては、請求人は約88億円の現預金を有していたことからすれば、他から20億円の借入れを導入する必要性があったとは認め難い。

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(3) 本件劣後特約の必要性について

イ 本件劣後特約は、上記(1)のトのとおりであるところ、上記(2)のとおり、請求人としては必要のない本件借入れに対して本件劣後特約を付けて高額な金利を支払うことは、通常の経済人を基準とすれば、経済的合理性の認められない不自然・不合理な行為であって、結果的に法人税の負担を不当に減少させるものと認められる。
ロ 本件借換えは、F社が請求人株式の買収資金として調達した借入金の借換えであり、本来であれば、親会社であるF社が返済するものであることは当然であるところ、上記(1)のチ及びリのとおり、F社は請求人の買収目的会社であり、資産のほとんどは市場性がない上、収入も少額であることから、営業実態があり収入、資産もある完全子会社の請求人から、何らかの形で借入金の元利の返済原資を引き出す必要があったものと認められる。
 そこで、F社は、この引出しのために請求人に高額な配当をさせると同時にこれを原資として、請求人にとって全く必要性のない本件借入れを行わせた上、本件劣後特約を付すことにより、請求人の当時の取引銀行からの調達金利を大幅に超える年利15%という高利率を設定したものであると認められる。
ハ また、確かに、本件劣後特約の内容を検証すると、請求人に劣後事由が生じた場合における返済が予定されておらず、劣後事由が生じない場合でも元本は弁済期限まで据え置きとされていることからすれば、これらの点においては、本件借入れは、請求人の主張のとおり、広義の自己資本といい得る面を有しているものと認められる。
 しかし、そうであるならば、請求人の別途積立金を取り崩して本来の自己資本を減少させた上で配当を行い、これを原資に同額の自己資本的な負債を導入すること自体にそもそも経済的合理性が認められず、不自然・不合理な矛盾する行為といわざるを得ない。
 したがって、請求人が本件劣後特約を付してまで本件借入れを行う必要性は認め難く、本件借入れの本質は、F社が本件借換えの返済原資を請求人から引き出すため、あたかも自己資本を請求人にとっては全く必要のない劣後債(本件借入れ)という年利15%もの高金利の負債に置き換えたものであると認めるのが相当である。
ニ 以上のとおり、本件借換えの時点においては、請求人が本件劣後特約を付してまでF社から借入れを行う理由は何ら認められない。

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(4) 法人税法第132条の規定の適用について

イ 法人税法第132条は、上記1の(3)のイ及びロのとおり規定しているところ、その趣旨は、同族会社においては会社の意思決定が少数の株主等の意図により左右されるので、租税回避行為を容易になし得ることから、これを是正し、租税負担の公平を図ろうとするものであると解される。
 すなわち、同族会社等の行為又は計算が、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理、不自然なものと認められ、当該行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算出された税額との間にかい離が存し、同族会社等の法人税に相当程度の減少が認められるときは、右規定を適用し、これを通常あるべき行為又は計算に引き直し、納付すべき税額を計算しようとするものである。
ロ これを本件劣後特約について考えると、上記1の(4)のロ及びハのとおり、F社は、法人税法上の同族会社に該当し、また、請求人もF社に支配されている同族会社である。通常の経済人を基準にすれば、本件劣後特約が経済的合理性の認められない不自然・不合理な行為であることは、上記(3)で述べたとおりである。
ハ ただし、本件借入れが実行され、20億円の資金が移動したことまで否定するものではないので、請求人が借り入れた当該20億円については、通常あるべき行為に引き直してその対価の額(金利)を計算するのが相当と認められる。そうすると、請求人の当時の取引銀行からの平均調達金利は、上記(1)のヌ(別表4)のとおり0.769%と算定され、当審判所としてもこの金利は妥当と認められるので、その超える部分の本件支払利息は、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。

(5) 法人税法第37条第7項及び第8項の規定の適用について

 本件支払利息のうち、上記(4)のハの利率を適用し計算した支払利息相当額を超える部分の金額は、何ら対価性のない金銭の支出と認められ、実質的な贈与又は無償の供与とするのが相当であるから、法人税法第37条第7項及び第8項の規定により寄附金の額に該当すると認められ、本件各事業年度の寄附金の額は別表5のとおりとなる。

(6) 請求人の主張について

 請求人は、次の理由により、本件借入れには経済的合理性があり、また、それが実行されている以上利息の支払は当然であることから、本件支払利息はF社に対する資金供与(寄附金)に当たらない旨主張する。
イ 取引先からの保証金の差し入れ要求を回避すると同時に設備投資(リース)及び新店舗の展開のため、本件借入れの必要性があった。
ロ 本件劣後特約を付すことにより、本件借入れは広義の自己資本となり、財務の安定性を増すこととなるから、信用力及び財務体力の維持のために本件劣後特約は必要であった。
ハ 利率については、劣後債の場合、表面利率のみで15%程度の利回りが妥当である。
 しかしながら、上記(2)及び(3)のとおり、劣後特約を付した本件借入れという請求人の行為は、経済的合理性の認められない不自然、不合理なものであり、結果的に法人税の負担を不当に減少させるものと認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(7) 本件各更正処分について

 上記(2)ないし(6)のとおり、本件各更正処分に係る寄附金の額は別表6の「3過大となる寄附金の額」欄のとおり過大となっており、請求人の本件各事業年度の所得金額は、いずれも原処分の金額を下回ることから、本件各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(8) 本件賦課決定処分について

 上記(7)のとおり、平成15年3月期の法人税の更正処分はその一部を取り消すべきであるから、平成15年3月期の法人税に係る過少申告加算税の額は、原処分の金額を下回ることから、本件賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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