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(平19.10.4、裁決事例集No.74 255頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、平成16年2月○日に死亡したJ(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、原処分庁が、被相続人の妻及び子の名義となっている預貯金等の一部を相続財産と認定して相続税の更正処分等を行ったのに対し、審査請求人K及びL(以下、それぞれ「子K」、「妻L」といい、両名を併せて「請求人ら」という。)が当該預貯金等は名義人固有の財産であるとして原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 審査請求(平成19年1月4日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 なお、請求人らは、子Kを総代として選任し、その旨を平成19年1月4日に届け出た。
ロ 子Kは平成19年2月1日に、住所をP市Q町○○番から肩書地へ移動した。

(3) 基礎事実

イ 本件相続についての共同相続人は、被相続人の妻である妻L及び被相続人の子である子Kの2名である。
 なお、子Kは、昭和58年7月に被相続人がP市R町からS市へ転居して以降、本件相続開始時まで、被相続人及び妻Lとは同居していない。
ロ 請求人ら名義の有価証券及び預貯金のうち、原処分庁が相続財産であるとして加算した財産は、別表2のとおりである(以下、別表2の請求人ら名義の有価証券及び預貯金を「本件預貯金等」という。)。
ハ 被相続人は、郵便局から被相続人に係る郵便貯金の残高が預入限度額(1,000万円)を超過している旨の指摘を受け、限度額超過に係る減額の手続として、平成8年2月24日付の「郵便貯金名義書換請求書」を郵便局に提出し、被相続人名義の郵便貯金のうち1,200万円(3口)について、350万円(1口)を子K名義に、850万円(700万円と150万円の2口)を妻L名義にそれぞれ名義変更した。
ニ 別表3の「郵便貯金」と題するメモ(以下「郵便貯金メモ」という。)は、上記ハの郵便局からの指摘があった後、家族全員分の郵便貯金の残高が書き出されたものである。

(4)  争点

 本件預貯金等は、相続財産であるか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
 本件預貯金等は、次のことからすれば相続財産である。  本件預貯金等は、次のことからすれば相続財産ではなく、請求人ら固有の財産である。
(1) 郵便貯金メモは被相続人が記載したものであり、名義人ごとの郵便貯金残高及び合計額が記載され、その金額は、平成8年2月19日時点における請求人ら名義及び被相続人名義の郵便貯金残高の合計額にほぼ一致しているから、請求人ら名義の貯金を含め、被相続人がこれらの郵便貯金全体を掌握し、支配下に置いていたと判断するのが相当である。
 有価証券については、被相続人が昭和60年8月8日にM社を退職し、同日、受給した退職手当(以下「本件退職手当」という。)を原資として300万円の妻L名義の国債を購入したと認めるのが相当であり、有価証券の取引は被相続人が主体的に行っていたと認められるので、相続開始時点において預けられていた有価証券はいずれも被相続人に帰属する。
 なお、請求人らは、妻Lの収入から形成された預貯金等の主張については、具体的証拠を明らかにしていない。
 以上のとおり、預貯金等の資金の出所、目的、管理・運用状況等を総合して判断すると、本件預貯金等のうち妻L名義のものは被相続人に帰属すると認められる。
(1) 妻Lは、婚姻前から預貯金を所有し、婚姻後は、被相続人了解のもと生活費をやりくりして自らの能力で貯めたヘソクリと一緒に預貯金運用等を行った。
 また、妻Lは自らの○○手当や国民年金も預貯金運用していた。
 郵便貯金メモの内容については、郵便貯金の総額規制を守るために、郵便局が被相続人と妻Lに家族全員の貯金残高を知らせ、それを被相続人と妻Lの二人で書いたものである。
 妻L名義の預貯金通帳及び証書は、妻Lの寝室にあるたんすの中で妻Lが管理していた。一方、被相続人名義の預貯金通帳等は、被相続人の書斎兼寝室にある引出しに鍵を掛けて、被相続人が管理していた。
 被相続人と妻Lとでは預貯金の解約時の端数の入金手続き等に違いがあり、その動きから見ても別々に管理・運用されていた。
 有価証券については、N証券の妻L名義の顧客管理口座で管理されて、妻L自身で運用されているので妻Lに帰属する財産である。
(2) 本件預貯金等のうち子K名義の郵便貯金には、被相続人の本件退職手当を原資として形成されたと考えられる定額貯金や被相続人の筆跡により預け入れられた定額貯金がある。
 また、上記(1)のとおり、郵便貯金メモには、子K名義の郵便貯金を含んだところで記載されており、被相続人の郵便貯金と子Kの郵便貯金相互間で名義書換や同一日に取引している事実もある。
 以上のことからすれば、被相続人は子K名義の郵便貯金を管理していたものと認められる。
(2) 子K名義の郵便貯金は、子供のころのお年玉や親戚からのお祝い金等と、子Kが社会人となった後の両親とのP市での同居時(昭和53年から昭和58年までの間)に、毎月、生活費として家計に入れていた、3万円から3万5千円くらいの金員が原資であり、貯金の開設、入金及びその後の管理・運用も妻Lにおいてなされており、被相続人の管理下にあったとはいえない。
 したがって、子Kに帰属する財産である。
(3) 請求人らが主張する被相続人から妻Lに対する贈与については、贈与の意思表示がなされたかどうかは明らかでなく、贈与税の申告書を提出した事実はない。
 妻Lが贈与を受けたと主張する預貯金等は妻Lが独立して管理・運用し、処分方法を決定していたとは認められず、妻L固有の財産として夫婦間で認識されていたことを認めるに足りる資料もない。
 よって、被相続人から妻Lへの贈与の履行は終了しておらず、被相続人に帰属すると認められる。
(3) 国債の300万円については、本件退職手当が支給された翌日(昭和60年8月9日)に現金300万円の贈与を被相続人から妻Lが受け、これを原資として300万円の国債を購入した。
 定額貯金証書の700万円については、平成8年2月24日ころ被相続人名義の定額貯金700万円を妻L名義に名義書換の方法により贈与を受けたものである。
 以上のとおり、妻Lが被相続人から生前贈与を受け、以後、妻Lが管理していたものである。

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3 判断

(1) はじめに

 相続財産である預貯金等の帰属については、一般的にはその名義人に帰属するのが通常であるが、預貯金等は、現金化や別の名義の預貯金等への預け替えが容易にでき、親が子供の名前を使用して預金することや形式上の名義を家族に移転する等のことが世上行われることも稀ではないことから、単に名義人が誰であるかという形式的事実のみにより判断するのではなく、その原資となった金員の出捐者、その管理・運用の状況、贈与の事実の有無等を総合的に勘案して預貯金等の帰属を判断するのが相当である。
 そして、その帰属の判断に当たり特に重要な要素となる、原資となった金員の出捐者の判断は、その預貯金等の設定当時における、名義人及び出捐者たり得る者の収入並びに資産の取得・保有状況等を総合的に勘案するのが合理的である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 郵便貯金メモ
(イ) 郵便貯金メモの筆跡は、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の際に確認された、被相続人が記載していた日記帳(平成元年分から平成9年分までのものをいい、以下「本件日記帳」という。)の筆跡と同一であり、妻Lの筆跡とも異なることから、郵便貯金メモは被相続人が単独で作成したものである。
(ロ) 被相続人及び請求人ら名義の平成8年2月19日現在の郵便貯金残高は、別表4の「平成8年2月19日現在郵便貯金残高」のとおりであり、同表に記載された各金額と郵便貯金メモに記載された各金額はほぼ一致している。
 なお、1郵便貯金メモの「別口(定額通帳)」欄に記載された金額4,700,000円と別表4の番号32から36までの小計4,701,000円(差額1,000円)及び2郵便貯金メモの同欄に記載された金額6,404,000円と別表4の番号41から47までの小計4,602,000円(差額1,802,000円)が相違しているが、1の差額については単純な誤記と認められ、2の差額については、平成7年8月8日に記号番号○○-○○○-3の定額貯金1,302,000円が分割され、同日、500,000円の支払を受け、差引後802,000円の定額貯金となった際、被相続人は、郵便貯金メモの記載に当たり、上記の定額貯金に記載された分割前の定額貯金1,302,000円と、分割して支払いを受けた500,000円の印字について、そのまま両方の金額(計1,802,000円)の貯金残高があるものと誤認して集計したものと認められる。
(ハ) 以上のことからすると、別表4の郵便貯金については被相続人が郵便貯金メモにすべて記載しているといえるのであるから、被相続人がすべて管理していたと認めるのが合理的である。
ロ 本件預貯金等の出捐者たり得る者の収入状況等
(イ) 被相続人の状況
A 被相続人は、昭和○年3月の高校卒業後、M社に就職し、昭和60年8月8日に退職した。本件退職手当の金額は、○○○○円(貸付弁済等を控除した後の差引現金支給額は、17,795,795円)である。
B 被相続人は、昭和60年9月から平成12年4月までの間、U社に勤務し、月額約40万円の給与を銀行振込により受領していた。
 また、被相続人は、監査役退任の際に退職慰労金として平成8年6月28日に5,650,462円を銀行振込により受領していた。
 なお、被相続人は、平成12年5月ころに倒れた後はほとんど外出せず、平成15年11月、V病院に入院した。
(ロ) 妻Lの状況
A 妻Lの申述及び答述によれば、妻Lは婚姻時の持参金及び先代からの相続財産はなく、被相続人と昭和29年8月に婚姻した後は、生活費に充てるため内職をしたことはあったが、定職に就いたことはなかった。
 また、妻Lは、被相続人の給与収入の全部又は一部を家庭生活のために受け取っていた。
B 妻L自身の○○手当及び国民年金は、昭和61年4月に開設されたW銀行X支店の妻L名義の普通預金に振り込まれている。
 当該口座は、○○手当及び国民年金の入金が主体となっている口座で、出金された金額の使途は、妻Lのクレジットの支払や保険料の支払が大半である。
C 原処分庁は、W銀行X支店における妻L名義の預金のうち、妻Lの寝室に保管されていた9口合計○○○○円について、妻L固有の収入により形成された財産として、課税財産に含めていない。
 また、原処分庁は、別表4の番号52の定額貯金につき、その原資が、上記Bの妻L固有の収入であるとして、当該定額貯金の解約金の被相続人口座への入金額(1,693,000円)を、相続財産から減額している。
D 妻Lは、被相続人と妻Lとの間における贈与税の申告書を提出していない。
(ハ) 子Kの状況
A 子Kは大学卒業後、昭和53年に就職した。
B 子Kの答述によれば、子Kは、上記2の主張の「請求人ら」欄の(2)記載の金員以外を原資とする子K名義の本件預貯金等はない。
C 子Kは、被相続人と子Kとの間における贈与税の申告書を提出していない。
ハ 本件預貯金等のうち妻L名義の有価証券の状況
(イ) 妻LのN証券Y支店の口座開設日は昭和60年8月9日であり、被相続人の同証券会社における口座開設日と同一日である。
(ロ) 別表2の番号1の国債(額面300万円)は、上記(イ)の口座開設日に、被相続人名義の国債(額面300万円)と同時に購入され、その後、平成7年7月20日に満期の代金を充当し、買い換えられたものである。
(ハ) 上記(ロ)の国債2口の原資は本件退職手当である。
(ニ) 平成7年7月20日、N証券に妻L名義口座の印鑑変更届が提出されているがその筆跡は被相続人のものであり、また、同日、併せて提出された妻L及び被相続人名義の国債の特別非課税貯蓄申込書の筆跡も被相続人のものである。
 なお、これらの書類のお客様控えは、いずれも本件調査の際に、被相続人宅の同人の書斎兼寝室にある、被相続人の管理していた鍵のかかる引出し(以下「本件引出し」という。)の中で保管されていた。
(ホ) 本件日記帳の平成7年7月20日の欄には、「L改印届 N証券 300万+300万 計600万 国債申込」と記載されている。
(ヘ) 本件日記帳には、上記(ロ)の国債2口分の利子の受領と認められる内容が、平成4年7月から平成9年3月までの間に5回記載されており、そのうち2回は、2口分の利子に相当する金額が被相続人名義の通常貯金に入金されている。
ニ 本件預貯金等のうち妻L名義の預貯金の状況
(イ) 妻L名義の郵便貯金について
A 別表2の番号4の通常貯金は、平成4年9月7日に口座開設されており、本件日記帳の同日の欄には、「郵便貯金総合通帳 入金¥300,000 L」と記載されている。
 また、別表4の番号49及び50の定額貯金が、平成13年6月28日に解約され、その解約金が当該口座に入金されているが、それ以外の高額入金はない。
B 上記Aの通常貯金口座は、保険契約者が被相続人である郵便局の簡易保険(番号○○-○-○○○)の保険料の引落し口座であり、当該保険の権利については、相続財産として申告されている。
C 別表2の番号5の定額貯金は、上記1の(3)の基礎事実のハのとおり、別表4の番号20の被相続人名義の定額貯金が平成8年2月24日ころ被相続人名義から妻L名義に名義書換されたものである。
D 上記Cの名義書換時に使用された印鑑は、その印影が、被相続人の「平成8年分の所得税の確定申告書(控)」の印影及び被相続人がM社を退職する際の退職日の発令通知の「印」欄の印影と同一であり、妻L固有の取引には使用されておらず、被相続人が専ら使用していた印鑑である。
E 別表2の番号4の通常貯金は、本件調査の際に、本件引出しの中に保管されていた。
(ロ) 妻L名義の銀行預金について
A 別表2の番号15から18までのZ銀行a支店の普通預金及び定期預金は、別表4の番号9、13及び14の定額貯金が平成9年12月1日に解約され、同日、Z銀行b支店の妻L名義の普通預金に入金された後、a支店に移管され作成されたものである。
 なお、別表4の番号14の定額貯金の原資は、本件退職手当である。
B 上記Aの移管手続は、被相続人が行っており、移管された口座開設時の印鑑届の筆跡も被相続人のものである。
C 別表2の番号16から18までの定期預金は通帳式であり、いずれも預入後、自動継続となっている。
D 別表2の番号15から18までの預金通帳は、本件調査の際に、本件引出しの中に保管されていた。
E 別表2の番号19の定期預金は、別表4の番号10、11及び15の定額貯金を平成8年11月1日に解約し新たに作成された定額貯金2口と、別表4の番号24(上記1の(3)の基礎事実のハのとおり平成8年2月24日ころ妻L名義に名義書換されたうちの1口)、40から48まで、53及び54の定額貯金を平成9年9月16日に解約し、その翌日に作成されたものである。
 なお、同日、被相続人名義のW銀行X支店の定期預金も併せて作成されている。
F 別表4の番号15の被相続人名義の定額貯金並びに同表の番号43及び44の妻L名義の定額貯金の原資は、本件退職手当である。
G 別表2の番号21の定期預金の原資は、本件退職手当である。
H 別表2の番号20及び21の定期預金は、預入後、自動継続されており、その通帳は本件調査の際に、本件引出しの中に保管されていた。
I 別表2の番号22のc銀行d支店の普通預金については、平成4年4月17日にc銀行e支店で開設され、平成11年5月にc銀行e支店から同銀行d支店への引継ぎを経て、本件相続開始時に現存した預金である。
 その原資については不明であるが、口座開設時の印鑑届の筆跡は妻Lのものである。
ホ 本件預貯金等のうち子K名義の郵便貯金の状況
(イ) 別表2の番号6から14までの定額貯金について、その預け入れの取扱局はすべてf郵便局であり、届出住所はすべて被相続人及び妻Lの住所地であるS市T町○○番であり、相続開始日まで住所変更の手続はされていない。
 なお、子K名義の郵便貯金の預入日現在の子Kの住所は、貯金の届出住所ではない。
(ロ) 別表2の番号6から10まで及び12から14までの定額貯金は、それぞれ、別表4の32から36まで、30、38及び39が相続開始日まで継続したものである。
(ハ) 別表2の番号6から11までの定額貯金は同一通帳であり、別表2の番号12から14までの定額貯金は、証書式である。
(ニ) 別表2の番号12の定額貯金は、平成4年9月7日に作成され、その預入申込書の筆跡は、被相続人のものであり、その印影は、上記ニの(イ)のDの印影と同一である。
 なお、当該定額貯金証書は、本件調査の際に、本件引出しの中に保管されていた。
(ホ) 本件日記帳の平成4年9月7日の欄には、「郵貯定額¥3,000,000 K名義」と記載されている。
(ヘ) 別表2の番号13及び14の定額貯金に使用された印鑑は、本件調査時に、被相続人宅で保管されていたものである。
(ト) 子K名義の郵便貯金の通帳及び証書は、本件相続前はすべて被相続人宅において保管され、本件相続後にすべて子Kに引き渡された。

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(3) 判断

イ 上記1の(3)の基礎事実のハ及びニ並びに上記(2)の認定事実のイから判断すると、被相続人は、別表4に記載された郵便貯金全体を管理した上で、郵便貯金メモを記載し、被相続人名義の郵便貯金の減額を名義書換の方法で行うなど、同メモに記載された郵便貯金の処分権を有していたと認められる。
 また、上記(2)の認定事実のロのとおり、妻Lの固有の収入は、相続財産として課税されていない預金に化体しており、別表4の郵便貯金から形成された本件預貯金等の原資たり得ない。
 子Kについても、上記2の主張の「請求人ら」欄の(2)のとおり、P市で両親と同居していた期間、生活費として月3万円から3万5千円程度の金員を家計に入れていた等との主張はあるが、これらの事実を認めるに足る客観的証拠はなく、同居していたとされる昭和53年から昭和58年は就職直後の数年間であり、仮に当該金額をすべて貯金したとしても約250万円程度であり、1,000万円以上となる子K名義定額貯金の原資たり得ず、不合理な主張といわざるを得ない。
 また、上記(2)の認定事実のロの(ハ)のBのとおり、子Kが上記以外の原資は出捐していないことからすれば、別表4の郵便貯金から形成された本件預貯金等については、すべて被相続人が出捐したものと判断するのが相当である。
ロ 次に、別表4に記載されていない預貯金等から形成された本件預貯金等について検討する。
(イ) 別表2の番号1から3までの有価証券
 上記(2)の認定事実のハに記載のとおり、別表2の番号1から3までの有価証券は、口座開設及び各種手続に被相続人の関与が強くうかがえる上、国債の原資が本件退職手当であること、本件日記帳への記載状況等を総合的に判断すると、被相続人が出捐し管理していたものと判断するのが相当である。
(ロ) 別表2の番号11の定額貯金
 別表2の番号11の定額貯金は、郵便貯金メモの作成日以後に預け入れられたものであるところ、上記(2)の認定事実のホの(イ)、(ハ)及び(ト)に記載のとおり、当該定額貯金は別表2の番号6から10までの定額貯金と同一通帳であり、届出住所も子Kの住所とは異なっている上、本件相続後に子Kに引き渡されていることから、被相続人が出捐したものと判断するのが相当である。
(ハ) 別表2の番号20の定期預金
 別表2の番号20の定期預金は、平成元年8月14日に預け入れされたW銀行g支店の妻L名義定期預金が継続されてきたものと認められるが、原資に、同日解約された被相続人名義の定期預金が含まれている上、N証券及びh銀行の取引開始がそれぞれ昭和60年8月9日及び同月14日と本件退職手当の受給日から近接した日であることからすると、本件退職手当のうち約180万円を運用した金員が原資であると推認でき、本件調査時における保管場所も本件引出しであることから、被相続人が出捐したものと判断するのが相当である。
 さらに、上記(2)の認定事実のロのとおり、妻Lの固有の収入は、相続財産として課税されていない預金に化体しており、当該定期預金の原資たり得ない。
(ニ) 別表2の番号21の定期預金
 上記(2)の認定事実のニの(ロ)のGのとおり、この定期預金の原資は本件退職手当であり、被相続人が出捐したものである。
ハ これに対し、請求人らは、妻Lは婚姻前から預貯金を所有し、被相続人の給与から生活費として費消して残った金額(いわゆるヘソクリ)を蓄え、被相続人了解のもと、預貯金等を形成したと主張する。
 しかしながら、妻Lは婚姻時に持参金がない上、夫婦間において、家庭生活を妻に委任し、その費用を妻に渡すことや一定の預貯金の管理運用を妻に任せることはあり得ることであり、その事実をもって任された妻の財産になるわけでもない。本件預貯金等の原資は被相続人が稼得した所得から賄われていたものであることや、その管理運用の状況等を併せ考えると、本件預貯金等の帰属は、被相続人にあったということができ、他に請求人らの主張を裏付ける証拠はないから請求人らの主張は採用できない。
ニ また、請求人らは別表2の番号1の国債及び番号5の定額貯金は被相続人から贈与されたものである旨主張する。
 しかしながら、妻Lは、被相続人から贈与を受けたことはない旨、原処分庁の調査担当者に申述し、当審判所の調査においても同様の答述をしている上、上記(2)の認定事実のロの(ロ)のDのとおり、贈与税の申告書の提出もしていないのであるから妻Lに受贈の意思があったと認めることはできない。
 さらに、国債については上記(2)の認定事実のハのとおり、贈与があったと主張する日以後にも被相続人が管理していたことがうかがえる上、定額貯金についても、上記(2)の認定事実のニのとおり、限度額超過の関係で名義変更したものと認められ、その届出印も被相続人が専ら使用していた印鑑を用いていることからすれば、被相続人に贈与の意思があったと認めることもできず、請求人らの主張する贈与があったとは認められない。
 したがって、請求人らの主張には理由がない。
ホ 原処分庁は、別表2の番号22のc銀行d支店の普通預金について、相続財産であると認定しているところ、上記(2)の認定事実のニの(ロ)のIのとおり原資が不明であり、これを相続財産と認めるに足る証拠が存しないから、これを被相続人の相続財産であると認めることはできない。
ヘ 以上のことからすると、別表2の番号22のc銀行d支店の普通預金以外の本件預貯金等は、すべて被相続人が原資を出捐し管理していたものであり、請求人らに贈与した事実も認められないのであるから、相続財産である。

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(4) 更正処分

 上記(3)を前提とした本件相続に係る取得財産の価額は、別表5の「総額」欄のとおり合計○○○○円となり、原処分のその額を下回るから、平成18年7月5日付でされた相続税の更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(5) 賦課決定処分

イ 平成18年7月5日付でされた相続税の更正処分は、上記(4)のとおり、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定の基礎となる税額は、子Kについて、○○○○円となる。
 また、当該税額の基礎となった事実については、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、子Kに係る過少申告加算税の額は、○○○○円となり、原処分のその額を下回るから、子Kに係る過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
ロ 妻Lについては、過少申告加算税の賦課決定の基礎となる税額は、○○○○円となり、原処分のその額と同額である。
 また、当該税額の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、妻Lに係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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