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(平19.12.21、裁決事例集No.74 465頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、P市p町○番地所在の納税者A社(以下「本件滞納法人」という。)の滞納国税を徴収するため、本件滞納法人の株主らが本件滞納法人から金員の交付を受けたことは、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第34条《清算人等の第二次納税義務》に規定する法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたときに当たるとして、本件滞納法人の清算人である審査請求人(以下「請求人」という。)に第二次納税義務の納付告知処分をしたのに対し、請求人が同処分の違法を理由としてその全部の取消しを求めた事案である。

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(2)  審査請求に至る経緯

イ 本件滞納法人は、平成18年7月7日現在、別表1記載の国税(以下「本件滞納国税」という。)を滞納していた。
ロ 原処分庁は、本件滞納法人の株主のうち別表2記載の11名(以下「Bら個人株主」という。)が、本件滞納法人から総額○○○○円の金員(以下「本件金員」という。)の交付を受けたことは、法人が解散をした場合において、その法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたときに当たるとして、請求人に対し、平成18年7月7日付で徴収法第34条の規定に基づいて、○○○○円を限度とする第二次納税義務の納付通知書による告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件納付告知処分を不服として、平成18年8月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月28日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件納付告知処分に不服があるとして、平成18年12月27日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 徴収法第34条は、法人が解散した場合において、その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配又は引渡しをしたときは、その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合に限り、清算人及び残余財産の分配又は引渡しを受けた者は、その滞納に係る国税につき第二次納税義務を負う旨規定し、ただし書において、清算人は分配又は引渡しをした財産の価額の限度において、残余財産の分配又は引渡しを受けた者はその受けた財産の価額の限度において、それぞれその責に任ずる旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 本件滞納法人は、平成8年10月○日、主に呉服の卸販売を目的として設立された資本金50,000,000円(発行済株式数1,000株)の法人であり、平成16年5月19日以前の株主は、別表3のとおりである。
ロ 本件滞納法人の営業所(以下「本件営業所」という。)は、P市q町○番地に所在する建物の一室(以下「本件貸室」という。)に設けられていた。
ハ 本件滞納法人の筆頭株主であるC社は、請求人及び請求人の親族がすべての株式を所有している同族法人で、本件貸室の賃貸人である。
ニ 本件滞納法人は、平成16年5月20日(以下「本件営業譲渡日」という。)、臨時株主総会において、同法人の営業権をR市r町○番地に所在するD社に対して譲渡することを決定した。
ホ 本件滞納法人は、本件営業譲渡日にD社との間で、本件滞納法人の営業権を譲渡する(以下、この譲渡を「本件営業譲渡」という。)旨の契約を締結し、要旨別紙のとおりの契約書(1「営業譲渡に関する契約書」、2「営業譲渡に関する契約書(その2)」及び3「特約条項」と題する書面から成り、以下、これらを併せて「本件営業譲渡契約書」という。)を作成した。
ヘ Bら個人株主は、本件営業譲渡日現在、本件滞納法人における請求人の親族以外の出資者であり社員であった。
ト 平成16年12月○日に開催された本件滞納法人の株主総会は、同法人の解散及び請求人の清算人選任について承認決議した(以下、このうち解散についての承認決議を「本件解散決議」という。)。
チ 本件滞納法人の履歴事項全部証明書によれば、請求人は、平成15年6月29日に代表取締役に就任したとして、平成16年12月○日に清算人として登記され、また、本件滞納法人は同日解散している。

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2 争点

 本件解散決議前にBら個人株主が本件金員の交付を受けたことは、徴収法第34条に規定する法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたときに当たるか否か。

3 主張

原処分庁 請求人
 Bら個人株主が本件金員の交付を受けたことは、次のことから徴収法第34条に規定する法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたときに当たる。  Bら個人株主が本件金員の交付を受けたことは、次のことから徴収法第34条に規定する法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたときに当たらない。
(1) 本件滞納法人は、そのすべての財産を譲渡した対価としてD社から25,900,000円を受領しており、本件金員はその一部であるから、本件滞納法人の残余財産の一部であると認められる。 (1) 本件金員は、Bら個人株主が所有していた本件滞納法人の株式をD社へ譲渡したことによる譲渡代金であり、本件営業譲渡の対価ではない。
(2) 徴収法第34条は「解散を予定していた場合の残余財産の分配」も含むと解され、本件営業譲渡契約書によれば、本件営業譲渡により本件滞納法人の債権・債務及び従業員がD社へと引き継がれ、本件滞納法人はその実質的営業拠点である本件営業所を閉鎖し、本件営業所内の商品のすべてをD社に譲渡することとされており、事実、本件滞納法人は、本件解散決議に至るまでの間に事業を再開することはなく、また、定款の事業目的を変更したり、新たに事業用資産を取得したり、従業員を募集することもなかったのであるから、本件営業譲渡の時点で解散を予定していたと認められる。 (2) 本件滞納法人は、平成16年12月○日の本件解散決議により解散したものであり、それ以前には解散していない。

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4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件滞納法人の定款は、同法人の株式を他人に譲渡する場合には取締役会の承認を受けなければならない旨定めているが、本件営業譲渡に際して、定款の定めにある株式譲渡の際に必要な取締役会の承認を受けていない。
ロ D社は、本件営業譲渡日に25,900,000円を支払い、同額を営業権として資産計上した。
ハ D社の代表取締役であるEは、平成18年6月21日に原処分庁所属の徴収担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ) 本件営業譲渡の代金は25,900,000円であり、本件滞納法人への支払は、本件営業譲渡日に総額○○○○円の小切手及び銀行振込○○○○円によりなされた。
(ロ) 本件営業譲渡の代金のうち○○○○円分の金員を、Bら個人株主あてに支払ったのは、請求人とD社の会長であるF両者の承諾の下であった。
ニ Bら個人株主は、本件営業譲渡日に、別表2の「交付金額(円)」欄記載の金員をそれぞれ受領し(総額○○○○円)、あて名として「D社様」と記載した領収証をそれぞれ発行した。
ホ 本件滞納法人の財務状況は、次のとおりである。
(イ) 本件滞納法人は、平成16年3月31日に、C社から200,000,000円の債務免除を受けた結果、平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下「平成16年3月期」という。)の期末におけるC社からの借入金は246,000,000円となった。
(ロ) 上記債務免除を受けても、平成16年3月期の次期繰越損失は51,733,613円であった。
(ハ) 本件営業譲渡後の本件滞納法人の資産・負債は、C社からの借入金のみである。
ヘ 本件営業所は、本件滞納法人の唯一の営業所であった。
ト 本件滞納法人、D社及びC社の三者は、平成16年11月19日に、本件営業譲渡によりD社が賃借人となった本件貸室の賃貸借契約が、同月20日の期間満了により終了したことを確認する旨の「確認書」と題する書面を取り交わした。
チ 本件営業所が設けられていた建物の閉鎖事項証明書によれば、当該建物は、平成16年12月10日にC社から第三者に売却されている。
リ 本件滞納法人は、設立以後、本件解散決議に至るまで、定款の事業目的の変更を行っていない。
ヌ 本件滞納法人は、本件営業譲渡日以後、新たに従業員の募集や事業用財産の取得を行っていない。
ル 請求人は、平成18年11月21日に異議審理庁所属の異議担当職員(以下「異議担当職員」という。)に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ) D社からBら個人株主に支払われた○○○○円の金員は、もともと株式の譲渡代金との認識はなかったが、我々Z家の債務を残し、D社に仕事も従業員も面倒をみてもらうということから、結果的に株式の譲渡代金という形になっただけである。
(ロ) 本件営業譲渡を選択した理由は、譲渡する相手が現れたからで、いずれにしてもZ家の責任は逃れられず、従業員、取引先に迷惑を掛けたくなかった。
(ハ) 本件滞納法人を清算する場合は、加入厚生年金基金であるH基金へ約1億円を支払う必要があるという問題があり、その支払をしない方法として、自分一人が本件営業譲渡後も本件滞納法人に残り、本件滞納法人を存続させる形をとった。
ヲ H基金の事務長は、当審判所に対し、平成16年6月ごろ請求人から、本件滞納法人及びC社がH基金を脱退する場合の措置について聞かれ、それぞれの法人が、事業の廃止、解散等によりH基金を脱退した場合には、数千万円単位の高額な脱退時特別掛金を支払う必要があることを説明した旨答述している。
ワ 本件滞納法人の取締役であったJは、平成18年11月22日に異議担当職員に対し、本件営業譲渡に際し、請求人並びに本件滞納法人の取締役であったB、K及びJのほか数名が本件営業所の設けられていたビルの7階会議室に集まり、メーカー、お客様及び社員に迷惑を掛けないという話合いが行われた旨申述している。

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(2) 法令解釈

イ 第二次納税義務の制度は、形式的には第三者に財産が帰属している場合であっても、実質的には納税者にその財産が帰属していると認めても公平を失しない場合に、形式的な権利の帰属を否認することにより私法秩序を乱すことを避けつつ、その形式的に権利が帰属している者に対して補充的に納税義務を負担させることにより、徴税手続の合理化を図ることを目的とし、本来の納税義務者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められる場合に限り、その者と一定の関係がある者に対し第二次納税義務を負わせようとする制度である。
ロ 徴収法第34条の規定は、このような趣旨の制度の一つとして設けられており、解散した法人が国税を納付せずに残余財産の分配等を行ったときには、清算人及び残余財産の分配等を受けた者は、その悪意等を要件とせず、第二次納税義務を負うこととして、租税債権の迅速かつ適切な確保に資することとしており、徴収法第34条にいう「残余財産」とは、一般的用法のように、法人解散の場合の現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済をした後に残った積極財産をいうのではなく、同条の規定の趣旨にかんがみ、法人が、納付すべき国税を完納することなく、その有する財産の分配をした場合における積極財産をいうものと解され、残余財産の分配が、法人の解散決議前であっても、当該法人が、解散を前提として、納付すべき国税を完納することなくその有する財産の分配をした後、解散した場合には、当該分配は、同条にいう法人が解散した場合の残余財産の分配に当たると解される。

(3) 判断

 これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 本件金員の性質について
(イ) 1上記(1)のロのとおり、D社は、本件営業譲渡日に総額25,900,000円を支払い、同額を営業権として資産計上していること、2上記(1)のハの(イ)のとおり、Eも営業権の取得額は25,900,000円である旨申述していること及び3上記(1)のホによれば、本件滞納法人の株式に経済的価値はなく、D社があえて本件滞納法人の株式を取得する経済的合理性及び必要性は認められないことからすると、D社は、本件金員を、株式の取得代金として支払ったのではなく本件営業譲渡の代金の一部として支払ったと認めるのが相当である。
(ロ) また、1上記(1)のイのとおり、本件滞納法人は、本件営業譲渡に際して、定款で株式譲渡の際に必要とされている取締役会の承認をしていないこと、2上記(1)のホによれば、本件滞納法人は債務超過の状態と認められることのほか3上記(1)のハの(ロ)のEの申述内容、上記(1)のルの請求人の申述内容、上記(1)のワのJの申述内容並びに前記1の(4)のイ及びハの本件滞納法人の株主の状況を併せ考えると、本件金員は、本件滞納法人の代表取締役である請求人が、親族以外の出資者であり社員でもあるBら個人株主に対して迷惑を掛けたくないとの道義的責任からその交付を決定し、本件滞納法人がBら個人株主に対して各人の出資相当額を返還したものと認められる。
(ハ) そうすると、本件金員は、たとい、本件営業譲渡契約書に「一部株券買上金」と記載され、上記(1)のニのとおり、Bら個人株主が発行した本件金員に係る領収証のあて名がD社となっていたとしても、これらは形式的なものに過ぎず、その実体は、本件滞納法人が有していた積極財産をBら個人株主へ分配したものと認めるのが相当である。
ロ 本件営業譲渡は、本件滞納法人の解散を前提としてされたか否かについて
(イ) 本件滞納法人は、本件営業譲渡契約書の記載のとおり、本件営業譲渡により、C社からの借入金を除くすべての資産・負債を譲渡し、従業員全員及び取引先をD社が引き継ぎ、本件営業譲渡契約書の記載及び上記(1)のヘのとおり、唯一の営業所である本件営業所を閉鎖し、上記(1)のリのとおり、本件営業譲渡日以後、本件滞納法人の定款の事業目的の変更をせず、上記(1)のヌのとおり、新たな従業員の募集や事業用財産の取得をせず、上記(1)のトのとおり、同日以後本件貸室は、D社がC社から平成16年11月20日まで賃借し、上記(1)のチのとおり、同年12月10日には本件貸室のある建物が第三者に売却されていることからすると、本件営業譲渡日以後、何ら事業活動を行わなかったものと認められる。
(ロ) さらに、請求人の上記(1)のルの申述内容、上記(1)のヲのH基金の事務長の答述内容及び上記(1)のホの本件滞納法人の財務状況からすると、本件滞納法人は、H基金への脱退時特別掛金の支払を避けることを目的として、本件営業譲渡後も形式的に存続していたと認められる。
(ハ) したがって、本件営業譲渡は、本件滞納法人の解散を前提としてされたものと判断するのが相当である。
ハ 上記イ及びロのとおり、本件滞納法人は、解散を前提として、納付すべき国税を納付することなくその有する積極財産を分配し、平成16年12月○日に解散したのであるから、Bら個人株主が本件金員の交付を受けたことは、徴収法第34条に規定する法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたときに該当し、本件納付告知処分の日である平成18年7月7日現在、本件滞納法人には資産もなく、滞納処分してもなおその徴収すべき額に不足していることから、同条の規定により、請求人は清算人として、残余財産の分配額と認められる本件金員の額を限度として、本件滞納国税に係る第二次納税義務を負うこととなる。

(4) 以上のとおり、請求人に対し○○○○円を限度として第二次納税義務の履行を求めた本件納付告知処分は適法である。

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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