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(平19.11.28、裁決事例集No.74 491頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するために不動産の公売公告処分を行ったのに対し、請求人が、任意売却の申出を認めずに居住用財産である当該不動産について行われた同処分は権利の濫用に当たるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、昭和57年10月26日付で、別表1の番号1ないし3の滞納国税を徴収するため、別表2の各土地(以下「本件土地」という。)について差押処分を行い、次いで、昭和58年4月22日付で、別表1の番号4及び5の滞納国税を徴収するため、別表2の建物(以下「本件建物」という。)の請求人の持分○○○○分の○○について差押処分を行った。
ロ 原処分庁は、平成○年○月○日付で、上記イの各差押処分に係る滞納国税を徴収するため、本件土地及び本件建物の請求人の持分を同年○月○日にA国税局において入札の方法により公売する旨の公売公告を行い(以下「本件公売公告処分」という。)、併せて当該公売に係る財産の見積価額を○○○○円とする見積価額公告を行い、同日付の公売通知書により請求人に対して公売の通知を行った。
ハ 請求人は、平成19年2月20日、本件公売公告処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月18日付で、棄却する旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、平成19年5月15日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第94条《公売》第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読み替え後のもの。以下同じ。)は、差押財産を換価するときは、これを公売に付さなければならない旨、また、同条第2項は、公売は入札又はせり売りの方法により行わなければならない旨、それぞれ規定している。
ロ 徴収法第95条《公売公告》第1項は、国税局長は、差押財産を公売に付するときは、公売の日の少なくとも10日前までに、同項第1号ないし第9号に掲げる事項を公告しなければならない旨規定している。

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2 主な主張

(1) 請求人

 請求人は、本件建物に継続して居住するため、見積価額を超える○○○○円で任意売却したい旨申出をしたが、原処分庁は、その申出を拒否して公売を強行した。
 居住用財産を換価するに当たっては、居住者の基本的人権を尊重することが求められており、本件公売公告処分は、社会的に許容される限度を超えるもので、権利の濫用に当たり、違法である。

(2) 原処分庁

 原処分庁は、徴収法の各規定に従い適法に本件公売公告処分を行っており、また、居住用財産が換価する財産から除かれる旨の法令上の規定はない。

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3 判断

(1) 権利の濫用について

 請求人は、原処分庁が任意売却の申出を認めず請求人の居住用財産である本件建物の公売処分を強行したことは、権利の濫用に当たる旨主張する。
 ところで、差押財産を換価するときは、公売によって行うこととされている(徴収法第94条)。そして、納税者の居住用財産を換価する場合に、納税者の事情を考慮した換価手続を行わなければならない又は公売以外の方法により換価しなければならないとする法令上の規定は存在しない。
 また、公売は、差し押さえた財産を換価する方法として、財産の売却を買受希望者の自由競争に付し、その結果形成される最高価額により売却価額及び買受人となる者を決定するための一連の手続であり、強制換価手続である国税滞納処分の手続の公正を維持しながらも、なるべく高価で納税者に有利な売却を行うことをある程度まで制度的に保障しようとする手続であると解される。
 そうすると、本件において、原処分庁が、請求人からの任意売却の申出を認めずに公売を行ったことは、公売についての法令上の規定に従ったものであり、かつ、また、請求人の所論の任意売却に係る買受希望者が、上記公売の制度の趣旨の下において公売に参加し、最高価で入札することもできたのであるし、強制換価手続において納税者の権利、利益も保護しようとする上記の公売の趣旨及び目的に反する事実は見当たらないから、本件公売公告処分が権利の濫用に当たり、違法又は不当ということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 本件土地の一部が請求人に帰属しないことを主張することについて

 請求人は、本件土地は差押処分が行われる前に持分の一部が第三者に譲渡されているから当該部分の公売処分は無効である旨主張している。
 ところで、審査請求は、違法又は不当な処分によって侵害された不服申立人の権利利益の救済を図るものであるから、当該審査請求において、処分を違法と主張するにつき自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とすることはできないと解するのが相当である。
 そして、本件公売公告処分について、当該処分の対象となっている本件土地の一部が請求人に帰属しないと主張することは、当該主張で本件土地の持分を有するとされる第三者の不利益をいうものであって、請求人はその点について本件公売公告処分によって何らの影響も受けないのであるから、請求人がかかる事実を違法であると指摘することは、自己の法律上の利益に関係のない違法を主張するものにほかならない。
 したがって、請求人の当該主張は、審査請求において理由とすることのできないものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件公売公告処分が違法であるとする請求人の主張は、上記(1)及び(2)のとおりいずれも理由がなく、原処分庁は徴収法第95条の規定に基づいて本件公売公告処分を行ったものと認められ、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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