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(平20.4.25、裁決事例集No.75 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続税の申告を行った後、申告した相続財産の一部は被相続人の遺産ではないこと及び請求人以外の相続人に対する死因贈与契約の有効性が、遺産に関する訴訟に基づく判決により確定したとして、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号に基づく更正の請求をしたところ、原処分庁がこれに対して更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人がその処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成19年5月1日)に至る経緯は、次表のとおりである。

区分 当初申告 更正の請求 通知処分 異議申立て 異議決定
年月日 平成11年5月○日 平成18年7月6日 平成18年12月25日 平成19年1月11日 平成19年4月6日
取得財産の価額
○○○○

○○○○
更正をすべき理由がない旨の通知 全部取消し 棄却
請求人の取得財産 ○○○○ ○○○○
課税価格 ○○○○ ○○○○
納付すべき税額 ○○○○ ○○○○

(3) 関係法令

 通則法第23条第2項において、納税申告書を提出した者は、同項各号の一に該当する場合には、同条第1項の規定にかかわらず、当該各号に掲げる期間において、その該当することを理由として同条第1項の規定による更正の請求をすることができる旨規定している。そして、同条第2項第1号は、その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 昭和52年1月○日に死亡したGに係る相続について
(イ) Gの共同相続人は、妻のH、GとHの二男である請求人、同長女のJ、同三男のK及びGが認知した嫡出でない子のLの5名である。
(ロ) Gの共同相続人5名が昭和52年7月○日に原処分庁に提出したGに係る相続税の申告書には、相続財産として土地が○○○○円、建物が○○○○円、有価証券が○○○○円、預金が○○○○円、家庭用財産が○○○○円及びその他財産が○○○○円計上されており、当該共同相続人の間においてそのすべての財産が未分割であるとして、相続税法(昭和55年法律第51号による改正前のもの。)第55条《未分割遺産に対する課税》を適用して提出されている。
(ハ) Gの共同相続人5名が昭和55年4月18日に原処分庁に提出したGに係る相続税の修正申告書には、上記(ロ)の申告時に預金等が申告漏れとなっていたとして新たに相続財産が計上されており、上記(ロ)の財産と併せた相続財産のうち、財産の価額○○○○円をLが取得し、それ以外の財産は請求人、H、J及びKの4名の間で未分割であるとして計上されている。
ロ 平成10年7月○日に死亡したH(以下「本件被相続人」という。)に係る相続について
(イ) 本件被相続人の共同相続人は、請求人、J及びKの3名である(以下、この3名を併せて「本件共同相続人」という。)。
(ロ) 請求人は、平成11年5月○日に本件被相続人の遺産は未分割であるとして、Jと共同で相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第55条を適用の上、別表1及び別表3の「申告額」欄のとおり法定相続分である3分の1を取得したものとして本件被相続人に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を提出した。
(ハ) 請求人は、平成12年(○)第M3号、平成○年(○)第M4号及び平成○年(○)第M5号の各事件に対する平成18年○月○日のN地方裁判所の判決(以下「本件判決」という。)に基づき本件申告書に記載した課税標準等及び税額が過大であったとして、同年7月6日に更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 本件判決に至る経緯について
 本件判決に至る経緯は、別紙1のとおりである。

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2 争点

 争点は、次の2点である。
 争点1 本件判決は本件被相続人の遺産の権利関係の帰属についての確定判決と認められるか否か。
 争点2 本件死因贈与契約公正証書が有効との確定判決は通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当するか否か。

3 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 第1事件(供託金還付承諾請求事件)の訴状には、請求の趣旨が次のとおり記載されている。
 請求人及びJは、Kがする供託者T銀行の供託金(供託番号第f1号)83,663,352円、供託者T銀行の供託金(供託番号第f2号)45,617,054円及び供託者W銀行の供託金(供託番号第f3号)2,444,392円の還付請求に同意せよ。
ロ 第2事件(死因贈与契約公正証書無効確認請求事件)の訴状には、要旨次のとおり記載されている。
 本件死因贈与契約公正証書は、本件被相続人の真意に基づくものではなく心裡留保又は虚偽表示として無効であり、また、仮に有効なものであったとしても取り消されたか又は合意解約されたものであることを確認する。
ハ 第3事件(遺産確認請求事件)の訴状には、次の各遺産がGの遺産であることを確認する旨が記載されている。
(イ) 本件H名義土地
(ロ) 供託者T銀行の供託金(供託番号第f1号)83,663,352円のうち19,128,401円
(ハ) 供託者T銀行の供託金(供託番号第f2号)45,617,054円
(ニ) 供託者W銀行の供託金(供託番号第f3号)2,444,392円
(ホ) 供託者Y銀行の供託金(供託番号第f4号)19,419,560円のうち2,136,943円
ニ 本件判決には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 本件判決は、次の事実等から、本件H名義資産はGの遺産であることを確認する。
A 昭和51年、Gが法律事務所職員g証人に作成を依頼したGの遺言公正証書案において、本件H名義土地のうちP市p1町○○番地、同市p4町○○番、同市p2町○○番の土地は、Gの遺産として記載されている。
B 昭和52年12月12日、Kが本件被相続人の立会いの下でGの遺産につき整理を行った上でその内容をまとめた書類を作成しており、当該書類によると、G名義、本件被相続人名義、請求人名義、J名義、K名義及びその他の親族名義の預金(以下、これらの預金を併せて「G名義の預金等」という。)の合計額は59,055,008円であった。
C 昭和52年8月当時、Gの預金の管理を行っていた請求人は、Y銀行のG名義の定期預金7口計8,018,000円を本件被相続人名義に書き換えており、また、昭和53年5月以降におけるGの預金の管理は、請求人に代わりKが本件被相続人と相談して行っていたところ、本件被相続人及びKは、請求人が管理していた当時のG名義の預金等について、T銀行U支店のG名義の普通預金を除き本件被相続人名義に変更しており、その後もKによって管理されていた。
(ロ) 本件死因贈与契約公正証書は有効であり、T銀行、W銀行及びY銀行が供託した預金及び預金利息(以下「本件供託金」という。)のうち、上記(イ)のGの遺産と確認された預金債権以外の預金債権が本件被相続人の遺産であるとして、下表のとおり、Kは当該遺産の6分の4、請求人及びJはそれぞれ当該遺産の6分の1に相当する金額の還付を受ける権利があることを確認する。

項目 T銀行 W銀行 Y銀行 合計
供託金
129,280,406

2,444,392

19,419,560

151,144,358
供託金のうちGの遺産に係る預金債権 59,055,008 0 0 59,055,008
供託金のうち本件被相続人の遺産に係る預金債権 70,225,398 2,444,392 19,419,560 92,089,350
本件被相続人の預金債権の帰属 請求人 11,704,233 407,399 3,236,593 15,348,225
J 11,704,233 407,399 3,236,593 15,348,225
K 46,816,932 1,629,594 12,946,374 61,392,900

(ハ) 請求人は、平成11年4月16日付で本件被相続人の遺産に係る遺留分の減殺請求をKに対して行った。
(ニ) Kは、平成15年3月10日に上記(イ)のBのK作成の書類などを証拠としてN地方裁判所に提出している。
(ホ) 本件被相続人の名義の土地及び預金について、請求人は、本件H名義土地はいずれもGの遺産であり、本件被相続人の名義の預金についてはそのうち70,555,008円はGの遺産である旨主張したのに対し、Kは、本件被相続人の名義の土地及び預金はいずれも名義のとおり本件被相続人の遺産である旨主張している。
 また、本件死因贈与契約公正証書の効力について、請求人は、本件死因贈与契約公正証書は心裡留保又は虚偽表示として無効である旨主張したのに対して、Kは、有効に本件死因贈与契約公正証書を締結したものである旨主張している。
ホ 請求人は、原処分に係る調査担当職員に対し、本件H名義資産を本件申告書に計上した理由について、申告当時は名義どおりに申告するのが当たり前であると思っており、また、その当時、本件判決のような結果は予測もしていなかった旨申述している。
ヘ 請求人は、当審判所に対し、本件被相続人名義の遺産の一部がGの遺産であるとの認識をいつごろ持ったかについては、一概には決することはできないが、強いて言えば、次のとおりである旨答述している。
(イ) 土地については、本件判決が言い渡されたときである。
(ロ) 預金については、金融機関に対する調査嘱託の結果や上記ニの(ニ)のK作成の証拠書類がN地方裁判所に提出されるに至ったころである。
ト Gの遺産については、本件更正の請求をした時点において、本件判決により確定した遺産を含めすべて未分割である。
チ 本件申告書には、本件判決においてGの遺産であると確認された本件被相続人名義の財産がすべて本件被相続人の遺産として計上されている。
リ Kは、本件死因贈与契約公正証書が有効であることを前提として、本件被相続人に係る相続税の申告書を提出している。
ヌ 本件被相続人の遺産のうち本件判決により本件被相続人の遺産であると判示された預金債権以外の財産については、本件共同相続人の間において具体的な帰属は確定していない。
ル 上記ニの(イ)のCのT銀行U支店のG名義の普通預金の平成11年5月○日の時点における残高は1,542,178円であった。

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(2) 法令解釈

 通則法第23条第2項第1号は、上記1の(3)のとおり、納税申告書を提出した者は、その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる旨規定している。
 通則法第23条第2項の規定は、納税者において、申告時には予測し得なかった事由が後発的に生じたため、課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更をきたし、税額の減額をすべき場合に、法定申告期限から1年を経過していることを理由に更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果となることから、例外的に更正の請求を認めて納税者の保護を拡充しようとしたものであると解される。
 そして、通則法第23条第2項各号は、納税者が後発的事由により更正の請求をすることができる場合を列挙しているところ、上記規定の趣旨及び各列挙事由の内容に照らすと、同項第1号の「判決」に基づいた更正の請求をするためには、判決を得るための訴訟が申告等に係る課税標準等又は税額等の基礎となった事実の存否、効力等を直接審判の対象とし、判決により課税標準等又は税額等の基礎となった事実と異なることが確定されることが必要であると解される。
 なお、申告後に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について判決がされた場合であっても、当該判決が、当事者が専ら納税を免れる目的で、馴れ合いによってこれを得たものであるなど、その確定判決として有する効力にかかわらず、その実質において客観的、合理的根拠を欠くものであるときには、通則法第23条第2項第1号にいう判決には当たらないと解すべきである。

(3) これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 争点1(本件判決は本件被相続人の遺産の権利関係の帰属についての確定判決と認められるか否か)について
(イ) 当事者間の争いの有無
 原処分庁は、上記3の(1)のイのとおり、請求人及びJは、本件申告書において本件H名義資産を本件被相続人の遺産として申告しており、Kの本件被相続人に係る相続税の申告内容からも、本件H名義資産が本件被相続人の遺産であることについては、本件共同相続人の間で争いがなかったものと認められる旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記(1)のニの(ホ)のとおり、第3事件の訴訟において、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金のうち70,555,008円はGの遺産であると主張し、Kは、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金はすべて本件被相続人の遺産であると主張している。
 請求人及びKがこのような主張を行うのは、請求人にとっては、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金が本件被相続人の遺産であると認められると、本件死因贈与契約公正証書が有効であるとの前提にたてば当該土地及び当該預金はすべてKに死因贈与され、請求人の相続分がなくなることとなり、また、Kにとっては、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金がGの遺産であると認められると、当該遺産はGの共同相続人5名の間で分割することになるため、Kは一人ですべての本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金を取得することができないこととなるからである。
 そうすると、本件被相続人名義の遺産の帰属について本件共同相続人の間で争いがあったと認めるのが相当であり、本件判決は、馴れ合いによる判決ではないことは明らかであるので、その実質において客観的、合理的根拠を欠くような判決ではないことが認められる。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ロ) 後発的事由の有無
 原処分庁は、上記3の(1)のハのとおり、通則法第23条第1項の規定による更正の請求が可能であったのであるから、同条第2項による申告時に予想し得なかったような後発的事由が生じた場合の更正の請求をすることはできない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、別紙1「本件判決に至る経緯」のとおり、平成11年3月○日に本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金を本件被相続人の遺産であるとの前提で本件調停を申し立てており、上記(1)のニの(イ)のAのとおり昭和51年にGがgに作成を依頼したGの遺言公正証書案には本件H名義土地の一部が含まれていること、また、上記(1)のトのとおりGの遺産は未分割であるにもかかわらず、G名義の預金等は、上記(1)のニの(イ)のCのとおり預金名義が本件被相続人の名義に変更され、上記(1)のルのとおりG名義の預金残高が1,542,178円になっていたことなどからすると、請求人は、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金にはGの遺産が含まれている可能性があると考える余地はあったものの、請求人が具体的にその確証を有していたとは認められない。
 また、請求人は、本件H名義資産がGの遺産であるとの確証を得た時期について、上記(1)のヘのとおり、土地については本件判決が言い渡されたときであり、預金についてはK作成の証拠書類が裁判所に提出されるに至ったころである旨答述している。
 そうすると、請求人は、本件申告書の作成当時において、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金について、Gの遺産となるものか、本件被相続人の遺産となるものかを具体的に確証を得るまでの判断ができず、請求人が本件H名義資産をその名義のとおり本件被相続人の遺産として、本件申告書を提出したとしても何ら不自然なものではないとするのが相当である。
 このように、本件申告書の提出当時には、請求人において、本件H名義資産がGの遺産であるとの確たる認識は存在していないと認められ、さらに、その後、本件判決に至る訴訟の過程において、事実関係が次第に明らかになり、上記(1)のニの(ホ)のとおり本件H名義資産はGの遺産であるとの主張に至ったことが認められる。
 したがって、請求人において、本件申告書の提出前に本件H名義資産をGの遺産であると認識し、本件被相続人の遺産に含めずに提出することが可能であったとは認められず、申告時には予測し得なかった事由が後発的に生じたと認めるのが相当であり、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ハ) 権利関係の帰属についての判決か否か
 原処分庁は、上記3の(1)のロのとおり、第3事件については、土地の購入資金及び預金の一部の原資の出えん者がだれであるかを争ったものであり、本件判決は、これが示されたものであるから、本件H名義資産の権利関係の帰属を明確にするためのものではない旨主張する。
 しかしながら、第3事件の訴えは、請求人が、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金の一部について、Gの遺産であることの確認を求める訴えであるが、上記(1)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、本件判決により、本件H名義資産はGの遺産であることが確認され、さらに本件被相続人の遺産としての預金債権の帰属についても併せて判示されているのであるから、本件判決は、本件被相続人の遺産の範囲を確認するための権利関係の帰属に関する判決であり、本件判決により確定した内容は、申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なるものであることが認められる。
 したがって、本件判決の趣旨は、原処分庁が主張するような土地購入資金及び預金の一部の原資の出えん者がだれであるかについて判示しただけではなく、本件H名義資産はGの遺産であることまで判示したものであり、本件H名義土地並びに本件被相続人名義の預金及びe名義の預金の権利関係の帰属を明確にしたものであると認められることから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
 また、原処分庁は、本件H名義土地はその取得時にその財産又は取得資金をGが本件被相続人に贈与したものであり、また、本件H名義預金はGの共同相続人5名の間の合意により本件被相続人が分割取得したものとみるのが相当であると主張する。
 しかしながら、本件判決において、本件H名義土地はGが本人名義では取得できなかったため、Gが被相続人名義で購入したものであると認定し、Gの遺産であると確認されていること及び本件供託金のうち本件H名義預金についてはGの遺産であると確認されていること、また、原処分庁からそれを覆すだけの証拠の提出がないことから、原処分庁の本件被相続人が当該土地を贈与等により取得したとする主張及び本件被相続人が本件H名義預金をGの共同相続人5名の間の合意により分割取得したとする主張は、いずれも採用することができない。
(ニ) したがって、本件判決は、本件H名義資産がGの遺産であるとの確定判決であり、通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当する。
ロ 争点2(本件死因贈与契約公正証書が有効との確定判決は通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当するか否か)について
(イ) 当事者間の争いの有無
 原処分庁は、上記3の(2)のとおり、本件判決が、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金の一部がGの遺産であることを確認する請求の一部を認めるものであるとともに、本件被相続人の遺産についてはKへの死因贈与契約を認めるという内容であることから、本件共同相続人の間における遺産分割争いに関するものであり、本件死因贈与契約公正証書の有効性について真に争ったものとは認められない旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のロの(ロ)及び上記(1)のリのとおり、請求人及びJは、本件死因贈与契約公正証書は無効であり本件被相続人の遺産は未分割であるとして申告したのに対し、Kは、当該公正証書を有効であるとしてその内容に沿って申告しており、また、上記(1)のニの(ホ)のとおり、訴訟においても本件死因贈与契約公正証書の有効性について請求人とKの主張は全く対立していることから、本件共同相続人の間で当該公正証書の有効性について争いがあったことは明らかであり、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ロ) 後発的事由の有無
 本件死因贈与契約公正証書が存在することについては、別紙1「本件判決に至る経緯」のとおり、本件申告書提出前である第1回調停期日(平成11年5月○日)において請求人はKから聞かされてはいたものの、Kから当該公正証書が提出されたのは、その後の同年6月10日であり、そして、請求人が平成○年○月○日に当該公正証書の有効性を争って第2事件の提訴に至ったことからすると、請求人は当該公正証書が有効であったとして本件申告書を提出することが可能であったとは認められず、申告時には予想できなかった後発的事由が生じたものと認めるのが相当である。
(ハ) 権利関係の帰属についての判決か否か
 原処分庁は、本件判決において、本件死因贈与契約公正証書は有効であるとしていることにつき、本件H名義預金を除いた本件被相続人名義の預金のみを分割したにすぎず、請求人の本来納付すべき相続税額よりも過大な相続税額を負担していたかどうかは本件判決だけでは不明であり、請求人の権利関係の帰属についての判決であるとは認められない旨主張する。
 しかしながら、本件判決において、本件被相続人からKへの死因贈与契約は有効であると判示したことにより預金債権以外の遺産についても本件死因贈与契約公正証書の有効性が認められたのであるから、本件被相続人の遺産は本件判決で具体的な帰属が判示された預金債権以外の遺産もすべてKに死因贈与されたこととなる。
 そうすると、本件被相続人の遺産は、本件判決により、Kに死因贈与されたことが確定したことによって、未分割の状態ではなかったことになるのであるから、本件判決は、請求人の本件被相続人の遺産に関する権利の帰属に係る判決であると認められ、請求人にとって、請求人が未分割であるとして相続税の申告をしたことには誤りがあり、本来納付すべき相続税額よりも過大な相続税を納付していたことになる。したがって、預金債権以外の遺産について請求人の遺留分減殺請求による具体的な帰属が確定していないことのみをもって、請求人の権利関係の帰属についての判決ではないとの原処分庁の主張を採用することはできない。
(ニ) 以上のことから、本件死因贈与契約公正証書が有効との確定判決は、通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当する。
ハ 上記イ及びロのいずれにおいても、本件判決は通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当し、請求人は、本件判決が確定した平成18年○月○日から2月以内である同年7月6日に本件更正の請求を行っていることから、本件更正の請求は、同号に規定する提出期限内にされた適法なものであると認められる。

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(4) 相続税の課税標準及び税額について

イ 関係法令等
(イ) 相続税法第13条《債務控除》第1項は、相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下同じ。)により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次の金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定している。
A 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
B 被相続人に係る葬式費用
(ロ) 相続税法基本通達13-3《「その者の負担に属する部分の金額」の意義》は、相続税法第13条第1項に規定する「その者の負担に属する部分の金額」とは、相続又は遺贈によって財産を取得した者が実際に負担する金額をいうのであるが、この場合において、これらの者の実際に負担する金額が確定していないときは民法第900条《法定相続分》から第902条《遺言による相続分の指定》までの規定による相続分又は包括遺贈の割合に応じて負担する金額をいうものとして取り扱う旨定めている。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件被相続人の遺産について
A 土地について
 請求人が本件申告書において土地に係る遺産として記載しているのは本件H名義土地のみであるところ、本件H名義土地は、上記(1)のニの(イ)のとおり、本件判決によりGの遺産であると確認されており、本件被相続人の遺産とは認められない。
B 預金債権について
(A) 本件供託金の内容は、下表の「供託金」欄のとおりであり、供託された預金の相続開始日における残高は、同表の「相続開始日における残高」欄のとおりである。

金融機関名 預金名義 供託金 相続開始日における残高
金額 年月日
T銀行 本件被相続人
129,280,406
平成12年5月○日
128,823,716
W銀行 本件被相続人 2,444,392 平成12年6月○日 2,091,633
Y銀行 本件被相続人 2,136,943 平成13年10月○日 2,109,518
e 17,282,617 平成13年10月○日 17,163,795
合計 151,144,358   150,188,662

(注) 「供託金」欄の金額には、供託日までの預金利息が含まれているが、「相続開始日における残高」欄の金額には、預金に係る相続開始の日直前の利払期から相続開始日までの期間の利息(以下「未収預金利息」という。)は含まれていない。
(B) 上記(A)の供託金及び相続開始日における残高のうち、本件判決により、本件被相続人の遺産であると確認されたのは、次表のとおりである。

請求人 原処分庁 供託金のうち本件被相続人の遺産の金額 相続開始日における残高
T銀行 本件被相続人
70,225,398

69,768,708
W銀行 本件被相続人 2,444,392 2,091,633
Y銀行 本件被相続人 2,136,943 2,109,518
e 17,282,617 17,163,795
合計 92,089,350 91,133,654

C その他
 本件判決により、本件被相続人の遺産についての遺留分の減殺請求により請求人の還付請求権が確認されたのは、上記Bの供託金のうち本件被相続人の遺産と認められた預金債権についてであり、それ以外の本件被相続人の遺産については、上記(1)のヌのとおり具体的な帰属は確定していない。
(ロ) 相続分なきことの証明書について
A 本件判決によれば、本件被相続人は、Gの遺産につき受けるべき相続分がないことを証明した平成10年6月9日付「相続分なきことの証明書」を作成している。なお、当該証明書は、Kの勧めにより本件被相続人が作成し、Kによって保管されていた。
B Kの本件被相続人の相続に係る相続税の申告に係る関与税理士であるh税理士は、当審判所に対し、当該相続税の申告書の作成に当たり、「相続分がなきことの証明書」がある旨の申出をKより受け、それに従い当該申告書を作成した旨答述している。
C Kは、当審判所に対し、「相続分なきことの証明書」はj税理士から相続税対策として作成するよう指導を受け、Kが本件被相続人に形式的に作成させたものであり、これは、相続放棄をしたものではないと考えている旨答述している。
D 請求人及びJは、当審判所に対し、「相続分なきことの証明書」により、Gの遺産に係る本件被相続人の相続分についてはないものと考えている旨答述している。
E 請求人及びJが共同で提出した本件申告書は、本件被相続人はGの遺産を相続しないものとして作成されている。
F 現時点においては、「相続分なきことの証明書」の効力の有無については、本件共同相続人から裁判外において主張されているにすぎず、訴え等の提起はされていない。
(ハ) 本件共同相続人は、それぞれ当審判所に対し、本件被相続人の債務及び葬式費用については、各人が実際に負担する金額がいまだ確定していない旨答述している。
ハ 取得財産価額の合計額
(イ) 土地について
 請求人が本件申告書において記載した土地に係る遺産は、本件判決において、上記ロの(イ)のAのとおりそのすべてが減額されたのであるから、請求人の主張のとおり別表1の「審判所認定額」欄の「取得財産の価額」欄の零円となる。
(ロ) 預金について
 請求人は、預金に係る遺産の価額は、別表1の「請求人主張額」欄の「取得財産の価額」欄のとおり、92,089,350円である旨主張する。
 しかしながら、請求人主張額92,089,350円は、上記ロの(イ)のBのとおり、それぞれの供託日までの預金利息の額を含む預金債権の額であるところ、本件被相続人の遺産として計上すべき金額は、その相続開始日における評価額によるべきであることから、上記ロの(イ)のBの(A)の本件被相続人の死亡に係る相続開始日における預金の残高150,188,662円から、Gの遺産であると確認された本件H名義預金の金額59,055,008円を減額した別表1の「審判所認定額」欄の「取得財産の価額」欄の91,133,654円となる。
(ハ) 有価証券について
 請求人は、有価証券について別表1の「請求人主張額」欄の「取得財産の価額」欄のとおり、S社出資金○○○○円及びS社立替金○○○○円である旨主張する。
 しかしながら、Kの本件被相続人に係る相続税の修正申告書には、上記出資金等のほかに○○債券等が存在し、当該○○債券等を同人が取得した(請求人及びJには遺留分相当額を別途代償する。)としてその価額を解約時の価額である○○○○円と記載しており、当審判所の調査においても当該○○債券等は本件被相続人の遺産と認められ、その価額は解約時の金額ではなく、相続開始時の評価額である○○○○円が相当であると認められる。
 そうすると、有価証券の金額は、S社出資金、S社立替金及び○○債券等の合計額である○○○○円となる。
(ニ) 現金について
 Kの本件被相続人に係る相続税の申告書によると現金○○○○円が存在し、当該現金を同人が取得した(請求人及びJには遺留分相当額を別途代償する。)と記載しており、当審判所の調査によっても当該現金が存在しなかったとする証拠は見当たらず、当該現金は本件被相続人の遺産として存在したとするのが相当である。
(ホ) その他の財産について
 請求人は、その他の財産については、別表1の「請求人主張額」欄の「取得財産の価額」欄のとおり、家財○○○○円、電話加入権○○○○円、未収預金利息○○○○円及び国税還付金○○○○円である旨主張する。
 しかしながら、電話加入権については、m国税局長が定めた平成10年分財産評価基準書によると電話加入権の標準価額は○○○○円であり、当該価額により評価するのが相当と認められ、その他の相続財産である家財、未収預金利息及び国税還付金については、請求人は争わず当審判所の調査によってもいずれも相当と認められる。
(ヘ) Gの遺産について
 Gの遺産は、上記(1)のトのとおり未分割であるものの、本件被相続人は、上記ロの(ロ)のAのとおり「相続分なきことの証明書」を作成しており、請求人及びJは、上記ロの(ロ)のD及びEのとおり、当該証明書は有効であるとして本件被相続人はGの遺産を相続していないことを前提に本件申告書を作成の上、原処分庁に提出し、Kも、上記ロの(ロ)のBのとおり、当該証明書に基づく相続税の申告を行っている。
 また、Gの遺産に係る本件被相続人の相続権について、請求人及びJは、上記ロの(ロ)のDのとおり、「相続分なきことの証明書」により本件被相続人には相続権がないと考えている旨答述し、Kは、上記ロの(ロ)のCのとおり、当該証明書は相続税対策で作成したものであるが、相続放棄したものではないと考えている旨答述しているものの、上記ロの(ロ)のFのとおり訴え等の提起はしていないことが認められる。
 このように、現時点においては、本件共同相続人全員が本件被相続人が作成した「相続分なきことの証明書」の内容に沿った行動をとっていることからGの遺産に係る本件被相続人の相続権はないものとして取得財産の価額を計算するのが相当である。
(ト) 取得財産の価額の合計額
 したがって、別表1の「審判所認定額」欄の「取得財産の価額」欄のとおり、土地が零円、預金が91,133,654円、有価証券が○○○○円、現金が○○○○円、家財が○○○○円、電話加入権が○○○○円、未収預金利息が○○○○円及び国税還付金が○○○○円となり、取得財産の価額の合計額は○○○○円となる。
ニ 債務及び葬式費用の額
 債務及び葬式費用の額については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても当該債務及び葬式費用の額は相当と認められる。
 したがって、債務及び葬式費用の額は、別表2の「審判所認定額」欄の「債務控除の合計額」欄のとおり○○○○円(以下「本件債務等の金額」という。)となる。
ホ 請求人の取得財産の価額
(イ) 預金について
 請求人は、請求人が取得した預金の金額は、別表1の「請求人主張額」欄の「請求人取得財産の価額」欄のとおり、本件判決により本件被相続人の遺産であると確定した合計金額92,089,350円のうち、請求人の預金債権であると確定した金額の合計額15,348,225円である旨主張する。
 しかしながら、本件被相続人の遺産として計上すべき金額は、上記ハの(ロ)の相続開始日における評価額91,133,654円となることから、請求人が本件被相続人に係る相続により取得した預金に係る財産の価額は、当該相続開始日における評価額91,133,654円のうち、本件判決において請求人が還付を受ける権利を有すると認められた6分の1に相当する金額とすべきである。
 したがって、請求人が本件被相続人に係る相続により取得した預金に係る財産の価額は、別表1の「審判所認定額」欄の「請求人取得財産の価額」欄のとおり15,188,942円となる。
(ロ) 未収預金利息について
 請求人は、請求人が取得した未収預金利息の金額は、別表1の「請求人主張額」欄の「請求人取得財産の価額」欄のとおり、当該未収預金利息○○○○円に対する遺留分の減殺請求による還付請求権の割合6分の1に相当する金額○○○○円である旨主張する。
 ところで、未収預金利息については、上記ロの(イ)のBの本件判決により本件供託金のうち本件被相続人の遺産であると確認された預金債権に含まれ、また、当該預金債権のうち請求人の相続分であると確定した金額に含まれていることから、上記(イ)の預金と同様に本件判決により帰属が確定している。
 したがって、請求人が本件被相続人に係る相続により取得した預金に係る未収預金利息の価額は、別表1の「審判所認定額」欄の「請求人取得財産の価額」欄のとおり、○○○○円に対する遺留分の減殺請求による還付請求権の割合6分の1に相当する金額○○○○円となり、請求人主張額と同額となる。
(ハ) 預金及び未収預金利息以外について
 請求人は、請求人が取得した預金及び未収預金利息以外の財産の金額は、別表1の「請求人主張額」欄の「請求人取得財産の価額」欄のとおり、有価証券、家財、電話加入権及び国税還付金のそれぞれの財産について、遺留分の減殺請求による還付請求権の割合6分の1に相当する金額である旨主張する。
 ところで、遺留分を侵害する遺贈があった場合、その侵害を受けた相続人は、民法第1031条《遺贈又は贈与の減殺請求》の規定により遺留分減殺請求をすることができるが、この遺留分減殺請求権は形成権であって、その行使は受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による必要はなく、いったんその意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力が生じ、その遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、遺留分権利者に帰属すると解されている。
 しかしながら、遺留分の減殺請求があっても、遺留分の減殺請求を行った時点では価額弁済の額が未確定であるのが通例であることから、相続税法においては、遺留分の減殺請求後の現実の給付が異なること及び遺留分の減殺請求後の具体的な帰属が確定するまで長時間を要することが多いことを考慮し、遺留分の減殺請求があることのみで課税関係に変動を生じたと考えるのは適当でなく、その具体的な帰属が確定した時点で課税関係に変動を生じることとするのが相当であるとして、遺留分の減殺請求により返還すべき、又は弁償すべき額が確定したときに通則法第23条第1項の規定による更正の請求をすることができる旨を相続税法第32条《更正の請求の特例》第3号において規定している。
 そうすると、請求人は、上記(1)のニの(ハ)のとおり遺留分の減殺請求を行っているものの、上記(1)のヌのとおり、預金及び未収預金利息以外の遺産については本件共同相続人の間で具体的な帰属は確定していないのであるから、これらの遺産については、各人の取得財産の範囲が確定するまでは、遺留分減殺請求にかかわらず、Kが本件死因贈与契約公正証書により本件被相続人の遺産のすべてを取得したものとして、各人の取得財産の価額を計算することが相当である。
 したがって、預金及び未収預金利息以外に係る請求人の取得財産の価額は、別表1の「審判所認定額」欄の「請求人取得財産の価額」欄のとおりいずれも○○○○円となる。
(ニ) 請求人の取得財産の価額の合計額
 請求人の取得財産の価額の合計額は、上記(イ)ないし(ハ)により、別表1の「審判所認定額」欄の「請求人取得財産の価額」欄のとおり○○○○円となる。
ヘ 請求人の負担する債務及び葬式費用の額
 請求人は、請求人が負担する債務及び葬式費用の額は、別表3の「請求人主張額」欄の「債務控除額」欄のとおり、本件債務等の金額に対する遺留分の減殺請求による還付請求権の割合6分の1に相当する金額○○○○円である旨主張する。
 しかしながら、債務及び葬式費用の額については、上記イの(イ)のとおり、本件共同相続人の間において実際に各人の負担する金額を相続財産の価額から控除することとされているが、上記ロの(ハ)のとおり、実際に各人の負担する金額がいまだ確定していないところ、財産を取得する者の実際に負担する金額が確定していない場合には、上記イの(ロ)のとおり、相続税法基本通達13-3において「その者の負担に属する部分の金額」は民法第900条から第902条までの規定により相続分又は包括遺贈の割合に応じて負担する金額をいう旨が定められており、この取扱いについては、当審判所においても相当と認められ、当該金額を控除することとなる。
 そうすると、請求人の負担する債務及び葬式費用の額は、請求人の法定相続分の割合である3分の1を請求人が負担するものとして計算するのが相当であり、別表3の「審判所認定額」欄の「債務控除額」欄のとおり○○○○円となる。
ト 課税価格の合計額及び請求人の課税価格
 課税価格の合計額は、別表2の「審判所認定額」欄の「課税価格の合計額」欄のとおり○○○○円となり、請求人の課税価格は、別表3の「審判所認定額」欄の「課税価格」欄のとおり○○○○円となる。
チ 納付すべき税額
 納付すべき税額は、別表2及び別表3の「審判所認定額」欄のとおり、課税価格の合計額○○○○円に対する請求人の課税価格○○○○円の割合で相続税の総額○○○○円をあん分して算出した○○○○円となる。

(5) 以上の結果、請求人の納付すべき税額は本件更正の請求の金額を上回り本件申告書の金額を下回ることから、同処分は、その一部を取り消すべきである。

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