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(平20.3.10、裁決事例集No.75 37頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成18年分の所得税第3期分が振替納税されなかったことにより生じた延滞税について、原処分庁が督促処分を行ったのに対し、請求人が延滞税は課されるべきでないから、同処分は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分の所得税の確定申告について、第3期分の税額「納める税金」欄に○○○○円(以下「本件税額」という。)と記載した申告書(以下「本件申告書」という。)を平成19年3月13日に原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、本件税額が、その振替日までに振替納税されず、請求人が平成19年5月1日に自ら納付したことにより納付すべきこととなった延滞税○○○○円(以下「本件延滞税」という。)について、請求人に対し、平成19年5月24日付の督促状をもってその納付を督促(以下「本件督促処分」という。)した。
ハ 請求人は、本件延滞税の課税及び本件督促処分を不服として、平成19年5月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成19年8月30日付で本件延滞税の課税については却下、本件督促処分については棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件督促処分に不服があるとして、平成19年9月13日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成17年2月1日以降納期限が到来する申告所得税(1期分、2期分、3期分(期限内申告分)、延納分)並びに消費税及び地方消費税(中間申告分、確定申告分(期限内申告分))についてA銀行B支店(現在のC支店。以下「本件振替金融機関」という。)の請求人名義普通預金(口座番号○○○○)から口座振替により納付したい旨の「納付書送付依頼書」兼「預貯金口座振替依頼書」(以下「振替依頼書等」という。)を原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、上記イの請求人から提出された振替依頼書等に基づき、本件税額について、平成19年4月20日を振替納付期日(以下「本件振替納付期日」という。)として口座振替の手続を行ったが、本件振替納付期日に請求人が指定した預金からの口座振替による納付はされなかった。
ハ 請求人は、上記ロの口座振替による納付がされなかった本件税額について、平成19年5月1日にA銀行C支店において納付した。

(5) 争点

 本件督促処分は、適法か否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
イ D税務署の職員(以下「署職員」という。)が、請求人から振替納税の依頼を受けている本件税額について、自主納付してよいかとの照会を受けた事実は確認できない。
ロ 署職員が、請求人から振替納税の口座番号についての照会を受けた事実は確認できない。
ハ 原処分庁は、平成19年4月23日に本件振替金融機関から請求人が振替納税の口座として指定した預金口座の預金残高が不足しているために、口座振替による納付ができない旨の連絡を受けた。
ニ 請求人は、本件延滞税を平成19年5月24日現在納付していない。

(2) 延滞税について

イ 通則法第34条の2第1項は、税務署長は、一定の要件の下、口座振替による納付の依頼を受けることができる旨、また、同条第2項は、申告期限内に提出された納税申告書により納付すべき税額が確定した国税で、その提出期限と同時に法定納期限の到来するものが、口座振替による納付が振替納付期日に行われるならば、その納付の日が法定納期限後であってもその納付は法定納期限においてされたものとみなして延滞税を徴収しない旨それぞれ規定している。
ロ 通則法第60条第1項第1号は、納税者は、納付すべき国税を法定納期限までに完納しないときは、本税に併せて延滞税を納付しなければならない旨、また、同条第2項は、その延滞税の額は、納付すべき国税の法定納期限の翌日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じ、その未納の税額に年14.6パーセントの割合(ただし、納期限から2月を経過する日までの期間については、年7.3パーセントの割合)を乗じて計算した額とする旨それぞれ規定している。なお、措置法第94条第1項は、上記年7.3パーセントの割合は、通則法第60条第2項の規定にかかわらず、各年の特例基準割合が年7.3パーセントの割合に満たない場合には、その年中においては、特例基準割合とする旨規定している。
 この延滞税は、私法上の遅延利息ないしは遅延損害金の性質を有するものと解され、法定期限内に納付すべき国税が完納されなかった場合に、その納税者にこれを負わせることにより、法定納期限までに国税を完納した者との権衡を図るとともに、もって国税の期限内における適正な納付を担保しようとするものであると解され、納付遅延行為に対する制裁的意味合いが認められるとしても、そのことのみによって延滞税の制度が設けられていると解することはできない。
ハ これを本件についてみると、上記1の(4)のイ及びロ、並びに上記(1)のハのとおり、本件税額は、口座振替の手続が行われたものの、請求人が指定した預金口座の預金残高が本件税額に不足していたことから振替納税がされなかったため、上記1の(4)のハのとおり、後日、請求人が自ら納付したものである。そして、上記イのとおり、口座振替を選択している者において振替納付期日に口座振替による納付が行われなかった場合には、法定納期限後に自ら納付したとしても、法定納期限に納付されたとみなされないことから、請求人は、法定納期限の翌日である平成19年3月16日から自ら納付した同年5月1日までの期間に応じた本件延滞税を納付しなければならないこととなる。
ニ 請求人は、便利な振替納税を利用すると、たった1回のミスで1か月以上さかのぼって延滞税が取られるという誠に理不尽・不可解であり、納得できない旨述べている。
 しかしながら、口座振替納付の方法は、納税者が預貯金先に出向いてその払戻しを受け、その金銭を再び国税として金融機関に提出するという二重の手数を省略するという便利な方法ではあるが、納付する国税の納期限が申告期限と同一日である場合は、税務署長による金融機関への納付書の送付、金融機関における振替手続等に要する日時を考慮すれば、実際問題として期限内に口座振替納付ができないことになるので、このような国税について口座振替期日に口座振替納付がされた場合には、口座振替期日が納期限後であっても、特に期限内納付とみなすこととしているものと解される。したがって、納税者の事情で預金不足等により振替不能となったときは、この特例の適用はなく、原則どおり期限内納付した者との権衡を図るため、本来の納期限から完納される日までの間、延滞税が課されることになるものと解するのが相当である。
ホ 請求人は、1署職員から振替納税を利用している者は自主納付できないと言われたこと、2署職員は、振替納税口座番号の問い合わせに対して、金融機関の支店名しか教えてくれなかったこと、及び3個人事業用と家計用の預金口座を区別していたが、引き落とされる口座を勘違いし、納税に備えて、あらかじめ入金する口座を間違えてしまったことなどがあいまって振替不能となってしまったものであり、延滞税が課されるのは納得できない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイ及びロのとおり、当審判所の調査においても、署職員が請求人から振替納税の依頼をしている本件税額について自主納付してよいかとの照会及び振替納税の口座番号についての照会を受けた事実は確認できない。
 なお、個人情報の保護を図る観点からすれば、仮に振替納税の預金口座についての問い合わせがされたとしても、本人確認ができない限り、署職員が回答することは相当でないと考えられる。
 また、原処分庁及び本件振替金融機関が、請求人から提出された振替依頼書等により指定された預金口座以外からは振替して納付することができないことは、当該振替依頼書等による依頼内容からして当然のことである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ヘ 請求人は、原処分庁から送付されている「振替納税をご利用の方へ」という文書には、振替日(納期限)に振替にならなかった場合は、延滞税が加算されますと書いてあり、振替日が納期限であることは国税庁が証明していることから、仮に本件延滞税が課されるとしても、振替納付日である平成19年4月20日の翌日である同年4月21日を計算の起算日とすべきである旨主張する。
 しかしながら、上記の「振替納税をご利用の方へ」という文書に記載されている「振替日(納期限)に振替にならなかった場合は、延滞税が加算されます」との説明部分は、振替日と納期限とが同一日となる申告所得税予定納税(第1期分及び第2期分)についての説明文であって、本件のように振替日が納期限より遅くならざるを得ない国税について口座振替納付がされた場合について述べたものではない。
 したがって、この点に関しても請求人の主張は採用できない。
ト さらに、請求人は、延滞税は制裁的意味合いがあり、納付の意思があるにもかかわらず、引落口座の勘違いだけで延滞税が課されるのは納得できない旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、延滞税は納付遅延に対する制裁的意味合いのみによってその制度が設けられているものではなく、併せて期限内に完納した者との間の権衡を図り、期限内納付を担保しようとするものであるから、納付遅延の事実があった場合に、納付の意思の有無や引落口座の勘違いの有無によって、延滞税の負担が左右されるものと解することはできない。
 したがって、この点についても請求人の主張は採用できない。
 なお、請求人は本件税額を完納したのは、平成19年5月1日であり、法定納期限から2月以内に完納されているから、同日までの延滞税の割合は、措置法第94条第1項の規定により、年4.4パーセントとなる。
チ 以上により、本件延滞税を課すことは、適法であり、また、本件延滞税は、その計算期間を平成18年分所得税の法定納期限の翌日である平成19年3月16日から本件税額が完納となった平成19年5月1日までとし、措置法第94条第1項の規定の割合により適正に計算されていることから、本件延滞税について違法は認められない。

(3) 本件督促処分について

イ 通則法第37条第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、納税者に対して督促状によりその納付を督促しなければならないことを規定している。
ロ これを本件についてみると、本件延滞税は、上記(2)のチのとおり、適法に計算されており、かつ、本件延滞税の納期限は、本件申告書の提出期限である平成19年3月15日であるところ、上記(1)のニのとおり、平成19年5月24日現在において本件延滞税が完納されていないことから、本件督促処分は、通則法第37条第1項の規定に基づく適法な処分であって、これに関する違法な点はない。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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