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(平20.6.30、裁決事例集No.75 105頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が主として野菜S及び果物Uの栽培を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対してした所得税に係る青色申告の承認の取消処分及び更正処分等について、請求人が同処分の違法、不当を理由としてその全部の取消しを求めた事案である。
 争点は、次の6点である。

争点1  青色申告の承認の取消処分が不当か否か。
争点2  調査手続が不当か否か。
争点3  推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。
争点4  推計の方法による課税の合理性が認められるか否か。
争点5  課税標準の計算の基礎となるべき事実に仮装又は隠ぺいの行為が存在するか否か。
争点6  税額を免れるために、偽り又は不正の行為が存在するか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成19年8月13日)に至る経緯は、別表1のとおりである(以下、平成12年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分を「本件青色申告承認取消処分」、平成12年分ないし平成17年分を「各年分」、各年分の各更正処分を「本件各更正処分」という。)。

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2 主張及び判断

(1) 争点1(青色申告の承認の取消処分が不当か否か)について

イ 主張

原処分庁 請求人
(イ) 所得税の青色申告の承認の取消し通知書(以下「本件青色申告承認取消通知書」という。)に記載されている内容に事実と相違する点はなく、本件青色申告承認取消処分に不当な点はない。
 なお、原処分の調査(以下「本件調査」という。)においては、次の事実が認められる。
(イ) 本件青色申告承認取消通知書には、以下のとおり事実と相違することが記載されており、理由附記に誤りがあり、また、個別具体的な理由の記載がないことから本件青色申告承認取消処分は不当である。
A 本件調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)が平成18年9月25日に請求人の住所地に臨場し、請求人に対し、青色申告に係る帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は「帳簿はつけていない。領収書により計算している。」及び「正しく申告しており、どこが間違っているのか言ってくれれば領収書を見せる。」と述べるのみで書類を提示しなかった。 A 調査着手日である平成18年9月25日に調査担当職員が事前通知をすることなく請求人宅に訪れたが、請求人は調査担当職員に対し業界の会合がある旨の説明をしたところ、その際、調査担当職員から帳簿書類等の提示を求められたことはなく、5分程度で終了した。また、帳簿書類について記帳していない旨発言したこともない。
B 調査担当職員は、平成18年10月5日に請求人の代理人であるH税理士を通じて売上げ等を記載したノート及び平成15年分ないし平成17年分の経費に関する領収書綴り(以下、売上げ等を記載したノートと併せて「本件帳簿等」という。)の提示を受けた。
 売上げ等を記載したノートには出荷先別の売上金額の合計額及び経費の一部について金額のみが記載されているだけであり、また、経費の領収書についてもすべてのものが保存されておらず、加えて、青色申告者が備え付けていなければならない現金出納帳その他の帳簿等については、提示がなかった。
 これらの事実は、所得税法第150条《青色申告の承認の取消し》第1項第1号に規定する、青色申告者がその業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存(以下「帳簿書類の備付け等」という。)が同法第148条《青色申告者の帳簿書類》に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないことに該当し、本件青色申告承認取消通知書にはその旨を理由附記しており、何ら不当な点はない。
B 本件帳簿等は、平成18年10月5日にH税理士から調査担当職員に対して任意に提示したものであり、帳簿書類の提示を拒んでいるものではなく、仮に原処分庁が本件青色申告承認取消処分の理由を帳簿の作成、保存がないと判断したとしても、理由附記として具体的な取引内容等の記載がなく、その手続に不当がある。
(ロ) 青色申告の承認を取り消すに当たって、帳簿の不提示の場合には注意書を交付しなければならないとの法令上の規定はなく、請求人の主張には理由がない。 (ロ) 帳簿の不提示を理由に青色申告の承認を取り消す場合は、事前に請求人に対して注意書の交付を行うべきであり、それを行わずになされた本件青色申告承認取消処分は、手続に不当がある。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によると、次の事実が認められる。
A 調査担当職員が作成した調査経過事績書によると、平成18年9月25日、調査担当職員は、所得税の調査のために請求人宅に事前通知を行わず臨場したが、請求人は業界の会合があることを理由に調査を断っている。
 上記調査経過事績書には、請求人が調査担当職員からの「青色申告をしているが、帳簿はどのようになっているか。」という質問に対し、「帳面はつけていない。領収書より正しく計算している。」と回答した旨及び「その領収書を見せてもらえないか。」という質問に対し、「どこが違っているか言ってもらえば見せる。」と回答し、その後もその回答を繰り返していることが記載され、調査担当職員と請求人がやりとりしている時間は25分間である旨が記載されている。
B H税理士は、平成18年9月27日に原処分庁に対し、関与税理士として税務代理行為の委任を受けた旨を電話で連絡し、同年10月5日に調査担当職員に本件帳簿等を提示している。
C 本件帳簿等のうち売上げ等を記載したノートには、各年分の売上金額については出荷先別の年間の合計額のみが記帳されており、経費については、一部の取引とみられる金額のみが記帳されている。
D 本件帳簿等のうち平成15年分ないし平成17年分の経費に係る領収書綴りは、請求人が必要経費としている金額の一部についてのものであり、当該年分の所得税青色申告決算書に計上した経費に係る領収書の全部については提示がない。また、平成12年分ないし平成14年分の経費に係る領収書については提示が全くない。
E 請求人は、その後も本件帳簿等以外の帳簿書類は原処分庁に提出していない。
F 平成18年12月12日、調査担当職員は、H税理士に対し、いまだ提示していない帳簿及び経費の領収書はないか請求人と直接面接して確認したい旨電話で伝えたが、H税理士は、請求人に確認した後、帳簿は提示したものがすべてであり、提出していない経費の領収書はなく、面接する必要はない旨申し立てた。それに対し、調査担当職員は、帳簿書類等の記帳及び提示がない場合には、青色申告の承認は取消しとなる旨をH税理士に伝えている。
G 本件青色申告承認取消通知書には、要旨以下のとおりの記載がされている。
(A) 平成18年9月25日に調査担当職員が請求人に対し帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は調査担当職員に帳簿はつけていない旨申し立てた。
(B) 平成18年10月5日にH税理士は調査担当職員に本件帳簿等を提示したが、青色申告者が備え付けていなければならない現金出納帳をはじめとするその他の帳簿等については記帳していない旨を申し立て提示しなかった。
(C) 上記のことは、所得税法第148条第1項に規定するところに従っていないこととなり、これらの事実は所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するので、平成12年分以降の青色申告の承認を取り消す。
(ロ) 法令解釈等
 所得税法第148条第1項は、青色申告の承認を受けている者は、財務省令で定めるところにより一定の帳簿書類の備付け等を義務付ける旨規定しており、所得税法施行規則第58条《取引に関する帳簿及び記載事項》は、昭和42年8月31日大蔵省告示第112号に規定する現金出納等に関する事項、売上げに関する事項及び費用に関する事項を記載する帳簿書類を備え、これに記載しなければならない旨規定している。
 また、所得税法第150条第1項第1号は、青色申告者が帳簿書類の備付け等を同法第148条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていない事実がある場合には、税務署長は青色申告の承認を取り消すことができる旨規定している。
 なお、所得税法第150条第2項は、青色申告の承認の取消処分をする場合には、その処分の通知書に、その取消処分の基因となった事実が同条第1項各号のいずれに該当するかの理由を附記しなければならない旨規定しており、当該規定の趣旨は、青色申告の承認の取消処分は納税者に対する制裁処分として青色申告制度の特典をはく奪するものであり、処分庁の判断の慎重と公平妥当を担保して処分庁の恣意を抑制するとともに、取消処分の起因たる事実を相手方に知らせることによって、納税者に対し不服申立ての便宜を与えるところにあると解するのが相当である。そして、理由附記の内容及び程度については、処分の相手方においてその記載自体から、取消処分がいかなる事実に基づき、また、いかなる法規を適用してなされたものであるかが了知できるものでなければならないと解されている。
(ハ) 本件青色申告承認取消処分の適否
A 帳簿書類等の備付け等が行われているか否か。
 請求人が提示した本件帳簿等は、上記(イ)のCないしEのとおり、自己の業務に関する取引の一部を記載した書類で、かつ、経費等の領収書等の保存も一部のみであり、その後の調査時においても、請求人は、本件帳簿等以外の帳簿書類を原処分庁に提出していない。加えて、H税理士は、上記(イ)のFのとおり、請求人の帳簿は本件帳簿等がすべてである旨申述していることが認められる。
 そうすると、請求人は、所得税法施行規則第58条に規定する現金出納等に関する事項、売上げに関する事項及び費用に関する事項を記載する帳簿書類を備え付け、記載しているとは認められず、所得税法第148条第1項に規定する帳簿書類の備付け等を行っていないものと認められる。
B 青色申告の承認の取消しに係る手続に不当があるか否か。
 請求人は、本件青色申告承認取消通知書の記載内容は、事実とは相違しており理由附記に誤りがあること、また、仮に原処分庁が本件青色申告承認取消処分の理由を帳簿の作成、保存がないと判断したとしても、理由附記として具体的な取引内容等の記載がないことから本件青色申告承認取消処分は不当である旨主張する。
 しかしながら、原処分庁の調査経過事績書には、上記(イ)のAのとおり、平成18年9月25日に請求人が帳面はつけていないとの発言を行った旨が記載されているところ、上記(イ)のBのとおり、その2日後である同月27日に、請求人は、H税理士に税務代理行為を委任し、同税理士は、同年10月5日に各年分の出荷先別売上げの年間合計金額及び必要経費の金額の一部を証するものとして本件帳簿等を調査担当職員に提示していることからすれば、同年9月25日における調査担当職員と請求人とのやりとりは、5分程度の簡易なものではなく、帳簿書類に関して調査経過事績書に記載された内容に近いやりとりがあったであろうと推認することができ、なお、仮に請求人の主張のとおり、調査担当職員が調査着手日において、帳簿書類の提示を求めていなかったとしても、上記(イ)のFのとおり、調査担当職員は、調査過程において実額で所得金額を把握するため、請求人に対し協力を依頼し、調査を通して所得税法第148条第1項に規定する帳簿書類の提示を求めていることが認められ、これに対し、請求人は、同項に規定する帳簿書類を作成していないとして提示しなかったのであるから同項に規定する帳簿書類の備付け等を行っていないとする取消事由に該当することとなり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、上記(イ)のGの本件青色申告承認取消通知書に記載されている取消理由の内容は、原処分庁は請求人の帳簿をつけていない旨の発言及びH税理士の現金出納帳その他の帳簿等は記帳していない旨の発言並びに当該現金出納帳等の提示がない事実をもって所得税法第148条第1項に規定する帳簿書類の備付け等をしていないとし、そのことが同法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するというものであり、また、本件の場合、同法第148条第1項に規定する帳簿書類の備付け等を行っていないことが同法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するということを十分に了知できるものであるから、取引内容等の記載に不当な点はない。
 さらに、請求人は、本件青色申告承認取消処分を受けるに当たって、原処分庁から事前に注意書の交付がなかったことから、不当である旨主張する。
 しかしながら、帳簿不提示に係る注意書の交付は、法令上規定されたものではなく、上記(イ)のFのとおり、本件帳簿等以外の帳簿の提出がない場合には青色申告の承認が取消しになる旨通告していることも認められ、注意書の交付がないことをもって本件青色申告承認取消処分が不当であるとはいえない。
C 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、また、請求人は所得税法第148条第1項に規定する帳簿書類の備付け等を行っておらず、同法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当することから本件青色申告承認取消処分は適法であり、当該処分に何ら不当な点はない。

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(2) 争点2(調査手続が不当か否か)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 調査担当職員は、請求人に対し請求人の帳簿等を総合的に検討した結果、本件帳簿等には信ぴょう性がない旨を説明しており、また、原処分庁が請求人に対して、修正申告書の提出を強要した事実及び懲罰的な税金を課した事実はなく、本件調査は所得税法第234条《当該職員の質問検査権》の規定に基づき適正に行われており、調査手続に不当性は存在しない。
 なお、更正処分を行うに当たり、調査途中で請求人に説明した金額とその後の調査により最終的な更正処分の金額が相違することとなったとしても、何ら違法、不当ではない。
 請求人は、本件調査に全面的に協力しており、調査担当職員も、請求人が提示した本件帳簿等を基に調査を進め、実額にて調査額を算定し、その調査額に基づき修正申告をしょうようしておきながら、その後、具体的にどこに信ぴょう性がないかの合理的な説明もなく、また、総合的に判断したとする具体的な説明もないまま、実額計算で算定した税額の1.8倍という税額で、修正申告書の提出を強要するのは、請求人に対して懲罰的な税金を賦課しようとする調査担当職員の誤った考え方に起因するものであり、調査担当職員は著しく不当な調査を行った。

ロ 判断
(イ) 法令解釈等
 国税通則法(以下「通則法」という。)第24条《更正》は、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。
 また、当該調査において行使する所得税法第234条に規定する質問検査権について、その行使の時期、範囲、程度、方法、手続等は、これを行使する税務職員の合理的な判断にゆだねられていると解されている。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 平成18年10月27日、調査担当職員は、H税理士に対し請求人の屋号「Jの1」以外の屋号による取引を記載したメモ(以下「本件売上メモ」という。記載内容の要旨は別表2のとおり。)をH税理士に提示し、当該取引は請求人の取引であると認められるとして、当該取引金額を所得金額に加算した額で各年分の修正申告のしょうようをした。
B 平成18年10月31日、H税理士は、本件売上メモのうち、「K」及び「L」の屋号による取引は、請求人の記憶にないとして出荷伝票の提示を調査担当職員に求めた。
C 平成18年11月1日、調査担当職員は、H税理士に同人から依頼された上記Bの取引の出荷伝票をP税務署内の事務室で同税理士に提示した。
D 平成18年11月17日、調査担当職員は、請求人及びH税理士に対して本件売上メモを提示し、筆跡等からみても当該取引は請求人の取引であるとして、当該取引金額を所得金額に加算した額で修正申告のしょうようをした。それに対し請求人は回答を留保した。
E 平成18年11月22日、H税理士は、経費についても計上もれを認めるべきであるとして費用科目と合計金額のみを記載した各年分の経費の計上もれ額の明細書を調査担当職員に提出した。それに対し調査担当職員は、当該経費の支払の事実が判る領収書等を提出するよう同税理士に依頼したが、同税理士は、あくまでも本人の申出によるものであり証拠書類はないので、署の調査に基づいて更正してもらえばよい旨を調査担当職員に申述している。
F 調査担当職員は、当審判所に対し、請求人が仕入れたダンボール箱の数量から請求人の売上高を検討したところ、上記Aの屋号取引以外にも売上げの計上もれが想定された旨答述している。
G 平成19年3月5日、調査担当職員は、請求人及びH税理士に対し、青色申告の承認を取り消す旨説明した上で、推計の方法による調査額を説明し、修正申告のしょうようをしている。
(ハ) 調査手続の適否
 請求人は、本件調査に全面的に協力したにもかかわらず、原処分庁が実額計算で一旦修正申告のしょうようをした税額の1.8倍以上の税額で修正申告書の提出を強要することは、請求人に対する懲罰的な行為である旨主張する。
 しかしながら、修正申告のしょうようは、調査担当職員のその時点での一定の意見の表明を行ったものであり調査担当職員及び納税者に対して何ら拘束力を持つものではなく、その後の調査によって把握された事実を基に納税者の所得金額を再度算定し更正処分を行い、結果として更正処分後の税額が修正申告のしょうようの税額よりも多額となったとしても当該更正処分が違法となるものではない。本件においては、上記(ロ)のAのとおり平成18年10月27日に調査担当職員は修正申告のしょうようを行っているが、請求人は応じず、調査担当職員は、その後の調査において、後述(3)のロの(ロ)のとおり推計の方法による課税の必要性を認め、後述(4)のロの(イ)のとおり合理的な推計の方法により算定した所得金額をもって本件各更正処分を行ったものであり、本件各更正処分が請求人に対して懲罰的な行為を行ったものとは認められない。
 さらに、本件調査は、上記(ロ)のAないしGに掲げる各事実から総合して判断すると、所得税法第234条第1項に規定する質問検査権に基づき適正に行われたものと認められる。
 したがって、本件調査の手続に何ら違法、不当な点は認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3) 争点3(推計の方法による課税の必要性が認められるか否か)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 調査担当職員が、本件帳簿等を確認したところ、1売上げ等を記載したノートには、出荷先別の売上金額の合計額及び経費の一部についてのみが記載されていたこと、また、2領収書綴りの原始記録についても平成15年分ないし平成17年分の一部が保存されているのみであった。
 以上のことから、本件帳簿等から、請求人の所得金額を取引実態額に基づいて算定することができなかったので、やむを得ず推計により所得金額を算定したものであり、推計の必要性は認められる。
 調査担当職員は、本件帳簿等を詳細に念査し、取引先に対する調査を繰り返し行い実額で調査額を算定した。
 また、その調査額に基づき請求人及びH税理士に修正申告のしょうようを実施している。
 したがって、原処分庁が実額計算により算定することはできないとの主張は失当である。

ロ 判断
(イ) 法令解釈等
 所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、所得金額を推計して課税することを認めているところ、これは、税務調査に対する納税者の非協力や帳簿書類の不備等によって納税者の所得金額を直接資料によって把握することができない場合に、課税を放棄することは租税の公平負担の見地から許されないため、税務署長が入手し及び簡単に入手し得る推計のための基礎事実並びに統計資料等の間接的な資料を用いて、所得金額に近似した額を推計し、これをもって課税することを是認する趣旨と解される。
(ロ) 推計の必要性
 請求人は、原処分庁は実額計算に基づき修正申告のしょうようをしていることから、推計計算の必要性がない旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、原処分庁が実額計算に基づき修正申告のしょうようを行った金額は、請求人の帳簿に不備があり、また、請求人及びH税理士から全面的な調査協力が得られない中において、調査協力が得られた範囲内において実額計算による所得金額を算定すべく、本件売上メモに係る取引については請求人の取引であるとして当該金額を請求人の確定申告書における収入金額に加算し、請求人の各年分の所得金額を算定したものと認められるが、この金額に対し、請求人は、上記(2)のロの(ロ)のD及びEのとおり、経費についても計上もれを認めるべきであるとして当該修正申告のしょうように応じず、原処分庁は、請求人は必要経費に係る領収書等の原始記録を一部しか保存していなかったため必要経費を実額により把握することは不可能であることから、更に調査を進めた結果、1請求人の提出した所得税青色申告決算書における収入金額は、本件帳簿等の売上げ等を記載したノートを基礎としているが、当該ノートには収入金額だけの記載があり、当該収入金額に係る個々の売上先、取引日及び取引金額等がすべて明確となっているものではないこと、2原処分庁の調査によっても庭先売上げ等の現金売上げが把握できない金額があること、3請求人屋号による取引及び本件調査において把握した請求人以外の屋号による取引に使用していると認められるダンボール箱の合計数量が請求人の仕入れたダンボール箱の数量を大きく下回り、他の売上の存在が想定されたことから、実額計算により所得金額を計算することが不可能であると判断したことが認められ、原処分庁がやむを得ず推計により課税する方法を選択したことに不合理な点はなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、当審判所に対しても、実額計算による所得金額を主張しないことから、当審判所においても、推計の方法により所得金額を算定せざるを得ない。

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(4) 争点4(推計の方法による課税の合理性が認められるか否か)について

イ 主張

原処分庁 請求人
(イ) 類似同業者の選定
 原処分庁が選定した類似同業者にはハウス野菜S、ハウス果物Tを生産している者はいないものの、当該類似同業者は露地野菜S及び露地果物Uの両方を生産している者であり、また、請求人の所得金額の計算に当たっては、ハウス野菜S、ハウス果物Tに係る収入金額は考慮していないことから、請求人と選定した類似同業者の業種、業態は同一である。
(イ) 類似同業者の選定
 原処分庁が選定した類似同業者は、露地野菜S及び露地果物Uを生産している農家であるが、請求人は、平成15年までハウス野菜S、露地野菜S、ハウス果物T及び露地果物Uを生産しており、類似同業者と請求人の業種、業態が類似しているとはいえない。
 また、ハウス野菜S及びハウス果物Tの同業者は、請求人の生産地区では平成15年分までは赤字経営である。
(ロ) 類似同業者の適格性
 請求人の事業所得の金額を推計するに当たって採用した類似同業者は、請求人と業種、業態が類似する同業者で、各年分の総収入金額が請求人のそれの0.5倍以上2倍以下の者であり、その抽出方法も合理的であることから類似同業者として適格性がある。
(ロ) 類似同業者の適格性
 原処分庁が選定した類似同業者は、1所得税法第36条《収入金額》及び同法第41条《農産物の収穫の場合の総収入金額算入》の規定に沿って収入を計上しているか明確にされていない、2委託販売を採っている生産者において、生産物の棚卸しが適正に計算されているかが明確にされていない、3選定された同業者間の所得率に、あまりにもかけ離れた格差があることから、類似同業者として適格性がない。
  (ハ) ダンボール箱の仕入数量
 原処分庁が売上金額の推計の基礎としたダンボール箱の仕入数量の認定には、以下のとおり誤りがある。
A サンプル及び贈答用の5キログラム用ダンボール箱を10キログラム用ダンボール箱として計算している。
B アテの仕入れを10キログラム用ダンボール箱として計算している。
  (ニ) ダンボール箱1箱当たりの売上金額
 原処分庁は、ダンボール箱1箱当たりの売上金額を、請求人の屋号で取引された金額を使用ダンボール箱数で除して算出しているが、原処分庁が請求人の取引であると認定した本件売上メモの取引金額及びそれに対応する使用ダンボール箱数をそれぞれ当該計算に加えて算出すべきである。

ロ 判断
(イ) 推計の合理性
 原処分庁は、市場等を経由した露地果物Uの収入金額について、M社に対する取引先調査により把握した同社からのダンボール箱の仕入数量に露地果物Uのダンボール箱1個当たりの売上金額を乗じて当該収入金額を推計により算定し、当該金額にN農協へ出荷された露地野菜S及び露地果物Uの実額による取引金額並びにN農協等からの雑収入を加えた金額を各年分の総収入金額としていること、そして、当該各年分の総収入金額に類似同業者の総収入金額に対する青色申告特典控除前の所得金額の割合の平均値(以下「平均特前所得率」という。)を乗じる方法により、請求人の各年分の事業所得の所得金額を推計の方法により算定していることが認められる。
 ところで、請求人が露地果物Uを市場等に出荷する際にはM社から仕入れたダンボール箱を使用しており、当該ダンボール箱の使用数量と市場等へ出荷した露地果物Uの収入金額は比例する関係にあると認められることから、原処分庁が、当該露地果物Uの収入金額を当該収入金額と比例関係にある当該ダンボール箱の使用数量から算出し、更にN農協等で確認した実額の露地野菜S、露地果物U及び雑収入の金額を加算した金額を推計の基礎となる数値とし、これに平均特前所得率を乗じて算出したことは、請求人の事業所得を算出するに当たり適切な推計方法が選択されたものと認められ、また、その基礎数値も一部計算誤りが認められるものの調査によって確認されたものと認められる。
 また、原処分庁は、類似同業者の選定において、P税務署管内にハウス野菜S、露地野菜S、ハウス果物T及び露地果物Uのすべてを生産している農家がいないことから、各年分において、1P税務署管内で露地野菜S及び露地果物Uを生産している者の中から、2青色申告者又は青色申告に準ずる者であること、3他に兼業していないこと、4年間を通じて事業を営んでいること、5いわゆる倍半基準に該当すること、6対象年分の所得税について不服申立て又は訴訟が係争中でないこと(以下、1から6までの基準を「同業者選定の一般基準」という。)という条件に該当する5名の同業者を選定していることが認められる。この同業者選定の一般基準は、推計による課税自体が具体的に請求人の真実の所得にできるだけ近似した数値が算出され得るよう、請求人と立地条件、業種業態、事業規模が類似し、帳簿書類に基づき正確な所得を申告しているであろうと認められる者を類似同業者としたものである。さらに、業種、業態に類似性のある同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の収入に対し同程度の経費を支出することが通例であり、事業所得の金額を平均特前所得率により推計する場合には、当該同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は、当該平均値に捨象されることとなり、これは、請求人の営む事業にあっても例外でない。
 したがって、原処分庁が採った推計方法には、一定の合理性が認められるが、当審判所においては、後述(ロ)及び(ハ)のとおりの推計方法により算定するのがより合理的であると認められることから、当該方法により事業所得の総収入金額及び所得金額を推計する。
(ロ) 事業所得の総収入金額
A N農協への農産物の出荷高
 各年分のN農協に出荷した露地野菜S、露地果物U、ハウス野菜S及びハウス果物Tの収入金額について、原処分庁はN農協から提出された出荷証明書に基づき算定しているが、当審判所の調査によれば、平成14年分ないし平成17年分に係るN農協の出荷証明書に一部誤りが認められ、各年分のN農協への農産物の出荷高は別表4のとおりとなる。
B 雑収入の金額
 雑収入の金額は、N農協から受け取った農産物に係る払戻金等及び露地野菜SのN農協以外の売上金額であり、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
C Q市場等へ出荷された露地果物Uの収入金額の推計額
(A) 露地果物Uに係るダンボール箱の使用数量
 原処分庁は、露地果物Uに係るダンボール箱の使用数量を、M社からの仕入数量から算定しているが、その算定した使用数量の中には1サンプル用ダンボール箱と認められるもの、25キログラム用ダンボール箱を10キログラム用ダンボール箱としているもの、3ダンボール箱の仕入数量にダンボール箱ではない「アテ」の仕入数量と認められるものが含まれているため、サンプル用及び「アテ」の仕入数量を除き、5キログラム用ダンボール箱は0.5個として当審判所において各年分の露地果物Uに係るダンボール箱の使用数量を算定すると、別表6の「審判所認定数量」欄のとおりとなる。
 なお、ダンボール箱の各年分の期首、期末における未使用数は、確認できる方法がないが、請求人に各年分においてダンボール箱の未使用数が大幅に変動する特段の事情も認められず、請求人からダンボール箱の未使用数に関する証拠も提出されていないことから各年分とも大きな変動はないと判断し同数とした。
(B) 露地果物Uの10キログラム用ダンボール箱1個当たりの売上金額
 原処分庁は、露地果物Uの10キログラム用ダンボール箱1個当たりの売上金額を、請求人が、「Jの1」の屋号(以下「請求人屋号」という。)でQ市場に出荷した取引金額及びダンボール箱の使用数量を基に算出しているが、後述(5)で認定しているとおり別表8の本件売上メモに係る取引は、請求人の取引であると認められることから、当該取引金額及びダンボール箱の使用数量を含めて露地果物Uの10キログラム用ダンボール箱1個当たりの売上金額を算定すべきであり、各年分のQ市場等へ出荷された露地果物Uの10キログラム用ダンボール箱1個当たりの売上金額は別表9の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
(C) Q市場等へ出荷された露地果物Uの収入金額
 N農協への露地果物Uの出荷に際しては、M社から仕入れたダンボール箱は使用していないことから、Q市場等へ出荷された露地果物Uの収入金額の推計額は、上記(A)の露地果物Uに係るダンボール箱の使用数量に、上記(B)の露地果物Uの10キログラム用ダンボール箱1個当たりの売上金額を乗じた金額であり、別表10の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
(D) 露地野菜Sに係る期首棚卸高及び期末棚卸高
 露地野菜Sに係る期首棚卸高及び期末棚卸高は、請求人の所得税青色申告決算書の計上額が露地野菜Sにおける年初に発生した収入金額等からみても妥当な金額であると認められることから、当該金額とした。
(E) 事業所得の総収入金額
 以上のことから、請求人の各年分における事業所得の総収入金額は、上記AのN農協への農産物の出荷高、上記Bの雑収入の金額及び上記CのQ市場等へ出荷された露地果物Uの収入金額の推計額の合計額に、上記Dの露地野菜Sに係る期首棚卸高を減算し、期末棚卸高を加算した金額であり、別表11のとおりとなる。
(ハ) 類似同業者の平均特前所得率
 原処分庁は、上記(イ)のとおり、請求人の類似同業者の選定を行っているが、請求人の生産物は、平成12年分ないし平成15年分がハウス野菜S、露地野菜S、ハウス果物T及び露地果物Uであり、平成16年分及び平成17年分はハウス野菜S、露地野菜S及び露地果物Uであることからすると、類似同業者の選定においては、各年分においてこれらのすべての収入金額の合計額を基礎として同業者選定の一般基準に当てはめるのがより合理的であると認められる。
 そこで、当審判所において、請求人が生産しているハウス野菜S、露地野菜S、ハウス果物T(平成15年分まで)及び露地果物Uのいずれかを生産している者の中から、請求人のハウス野菜S、露地野菜S、ハウス果物T(平成15年分まで)及び露地果物Uの収入金額の合計額を基礎として同業者選定の一般基準の条件に該当する者を選定したところ、原処分庁の選定した類似同業者5名のうち青色申告者2名を含み平成12年分が15名、平成13年分が12名、平成14年分が17名、平成15年分が17名、平成16年分が12名及び平成17年分が9名類似同業者と認められた。
 なお、原処分庁が選定した類似同業者5名のうち3名については白色申告者であるが、平成17年分までの調査を実施し実額で所得金額を把握した者であり同業者選定の一般基準に反するものではないが、他に類似同業者に該当する者が存在することから、当該白色申告者を加えなければならない特段の理由はないため類似同業者から除外している。
 以上のことから、請求人の各年分の類似同業者の平均特前所得率は、それぞれ別表3の「審判所認定率」欄の「平均」欄のとおりとなる。
 なお、原処分庁は、選定した類似同業者の総収入金額を露地野菜S及び露地果物Uの販売金額及び雑収入の合計額で算定しているところ、所得税法第41条において農産物の収穫の場合の総収入金額は期末棚卸高を加える旨規定されていることから、当審判所においては、類似同業者の期首及び期末の農産物の棚卸高を加味したところの総収入金額に基づき類似同業者の平均特前所得率を算定した。

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(5) 争点5(課税標準の計算の基礎となるべき事実に仮装又は隠ぺい行為が存在するか否か)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 以下の事実関係を総合すると、請求人は請求人屋号による取引金額だけで確定申告を行うとする確定的な意図の下、Q市場との間で請求人屋号以外の屋号で取引を行い、当該取引に係る売上金額を除外していたと認めるのが相当である。  各年分の重加算税の賦課決定処分については、以下のとおり、平成12年7月3日付「申告所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」に違反しており、その全部を取り消すべきである。
(イ) 請求人は、請求人屋号を使用してQ市場に露地果物Uを出荷しているところ、請求人が各年分の確定申告において売上げとしているのは、当該請求人屋号を使用した取引だけである。  
(ロ) Q市場は、次のことから、請求人との間で「○○」、「○○○」、「K」、「○○」、「○○○」、「○○○○」、「L」、「○○○」及び「Jの2」の屋号(以下「K等の屋号」という。)で露地果物Uの取引を行っていると認められる。
A 調査担当職員がQ市場において、露地果物Uの出荷伝票及び判取帳に記載されている文字の筆跡を念査したところ、請求人屋号とK等の屋号の筆跡が同一である。
B 本件調査において、調査担当職員が、K等の屋号による取引について請求人に確認したところ、請求人は、そのすべての取引が請求人の取引であることを認めていること。
(ハ) 請求人が各年分において購入しているダンボール箱の数量と請求人が請求人屋号で取引している露地果物Uのダンボール箱の使用数量には、大きな開差がある。
(イ) 請求人は、K等の屋号による取引を自らの取引であるとは認めていない。
  (ロ) 原処分庁は、露地果物Uの出荷に使用するダンボール箱の仕入口座を2つに分け、一方の取引に係る原始記録を破棄して、青色決算書のダンボール箱の仕入金額から除外していると認定しているが、一方の取引を売上除外に使用したとの認定は事実と相違している。
(ハ) 原処分庁は、請求人に対して、K等の屋号による取引は請求人の取引であると主張する金額について、すべての取引に係る証拠を示して説明をしていない。

ロ 判断
(イ) 関係法令
 通則法第68条《重加算税》第1項及び第2項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項又は同法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税又は無申告加算税に代え、重加算税を課す旨規定している。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によると、次の事実が認められる。
A K等の屋号による取引金額は別表8のとおりである。当該取引金額は請求人が提出した本件帳簿等の売上げ等を記載したノートには記載がなく、各年分の所得税の青色申告決算書の収入金額に含まれていない。
B K等の屋号による取引に係る出荷伝票の筆跡は、請求人屋号の出荷伝票の筆跡と同一である。
C 当審判所の「K等の屋号に係る取引が請求人の取引ではないのですか」の質問に対し、請求人は明確な回答はせず「仮名取引がないとは言えません。」と答述している。
D 請求人は、M社からのダンボール箱の仕入れを請求人の子の○○○○名義で行い2口座に分けて取引している。
E 請求人が当審判所に審査請求書の添付書類として提出したM社作成の請求人に対する売上げを記載した帳簿の写し(以下「得意先元帳の写し」という。)には、上記Dの2口座に「A」及び「B」と表示している。
F 平成12年分及び平成14年分の得意先元帳の写しの「B」口座の「品名」欄にK等の屋号の一つである「Jの2」と記載がある。
 なお、「J」の屋号は請求人ら同業者仲間で使用している屋号であるが、「Jの2」を使用している同業者は実在しない。
G 当審判所が請求人に対し、M社からのダンボール箱の仕入れを2口座に分けている理由について質問したところ、請求人は従前からの取引慣行であり意識して区別したものではない旨答述しており、2口座に分けて取引を行った合理的な説明がない。
(ハ) 仮装又は隠ぺい行為の存否
 請求人は、K等の屋号による取引については自分の取引であると認めていない旨主張するが、別表6のダンボール箱の仕入数量と別表7の請求人屋号での使用数量の開差からして請求人が請求人屋号以外で露地果物Uの取引を行っていることは明らかであり、上記(ロ)のBのとおり、請求人屋号による取引に係る出荷伝票とK等の屋号の取引に係る出荷伝票の筆跡は同一であると認められるほか、上記(ロ)のGのとおり、請求人はM社からの仕入口座を2口座に分けて取引を行っている理由について合理的な説明をしないこと及び上記(ロ)のCのとおり、請求人は、当審判所に対して、仮名取引はないとはいえない旨答述していることに加え、上記(ロ)のA、D、E及びFの事実も総合して判断すると、K等の屋号による取引は請求人が行った取引であると認められる。
 そうすると、K等の屋号による取引は請求人が行った仮名による取引と認められ、その売上げを請求人の収入金額とせず、過少に納税申告書を提出していた事実は通則法第68条第1項及び第2項に規定する課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき(同条第2項においては、納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたとき)に該当する。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ) 重加算税の対象となる所得金額
 原処分庁は、請求人がM社からのダンボール箱の仕入れを「A」口座と「B」口座に分けて取引しているところ、「B」口座で取引したダンボール箱を仮名取引に使用したとして、当該ダンボール箱の仕入数量に露地果物U一箱当たりの売上金額を乗じた金額を重加算税の対象所得金額としている。
 しかしながら、請求人の本件帳簿等の売上げ等を記載したノートは、日々取引の都度記帳されるものではなく、M社からの仕入れを「A」口座及び「B」口座の2口座に分けて取引をしている事実はあるものの、原処分庁が公表売上分であると認定した上記「A」口座のダンボール箱の仕入数量と請求人屋号での取引に係るダンボール箱の使用数量とに開差があり、「A」口座は公表売上分に係るものであり「B」口座は公表売上分以外であると明確に分けて計算しているとは認められない。
 一方、上記(ハ)のとおり、請求人がK等の屋号による仮名取引を行い、その売上げを請求人の収入金額とせず、過少に納税申告書を提出していた事実は、通則法第68条第1項及び第2項に規定する事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したことに該当するのであるから、重加算税の対象となる所得金額はK等の屋号による仮名による取引金額を限度とするのが相当である。
 したがって、各年分の重加算税の対象となる所得金額は、下表の「審判所認定額」欄のとおりとなる。

区分
年分
原処分主張額 審判所認定額
B口座仕入箱数1 1箱当たりの売上金額 2 1×2 K等屋号による取引金額
平成12年分 1,520個 ○○○○円 ○○○○円 4,438,396円
平成13年分 2,910個 ○○○○円 ○○○○円 4,235,770円
平成14年分 3,065個 ○○○○円 ○○○○円 3,213,037円
平成15年分 2,590個 ○○○○円 ○○○○円 2,409,914円
平成16年分 2,020個 ○○○○円 ○○○○円 4,168,489円
平成17年分 1,510個 ○○○○円 ○○○○円 3,901,125円

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(6) 争点6(税額を免れるために、偽り又は不正の行為が存在するか否か)について

イ 主張

原処分庁 請求人
 請求人は、各年分において、上記(5)のイのとおりK等の屋号による取引を行い、当該取引に係る売上金額を除外していたものと認められる。
 そうすると、これらの事実は、偽りその他不正の行為によりその国税の全部又は一部を免れた場合に該当する。
 原処分庁が不正な取引と認定した、ダンボール箱の仕入れに不正はないことから、法定申告期限から3年を経過した平成12年分ないし平成15年分の各更正処分は違法である。

ロ 判断
(イ) 関係法令
 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項は、一般的な更正の期間制限を3年、同条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税についての更正決定等については、更正決定等の区分に応じ、7年を経過する日まですることができる旨規定している。
(ロ) 偽り又は不正の行為の存否
 請求人は、原処分庁が不正な取引と認定したダンボール箱の仕入れには不正はないことから、平成12年分ないし平成15年分の各更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(5)のロの(ハ)のとおり、請求人はK等の屋号による仮名取引を行っており、当該取引金額を青色決算書の総収入金額から除外して申告していることから、これらの行為は通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた場合に該当する。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(7) 本件各更正処分について

イ 事業所得の金額
 請求人の各年分における事業所得の金額は、上記(4)のロの(ロ)のEの総収入金額に上記(4)のロの(ハ)の類似同業者の平均特前所得率を乗じた金額であり、別表12の「審判所認定額」欄の「事業所得の金額」欄のとおりとなる。
ロ 不動産所得の金額
 請求人の平成12年分及び平成13年分の不動産所得の金額は、次表のとおりである。

年分
項目
平成12年分 平成13年分 備考
収入金額1 ○○○○円 ○○○○円 R社○○支店から受領した地代の額
必要経費2 ○○○○円 ○○○○円 貸付土地に係る固定資産税の額
所得金額
1-2
○○○○円 ○○○○円  

ハ 一時所得の金額
 請求人の平成14年分の一時所得の金額は、請求人がR社○○支店から受領した倉庫の撤去費用○○○○円から、所得税法第34条《一時所得》第3項に規定する特別控除額500,000円を差し引いた金額○○○○円である。
 なお、総所得金額を算出する場合の一時所得の金額は、所得税法第22条第2項第2号の規定により2分の1に相当する金額○○○○円である。
ニ そうすると、請求人の各年分の総所得金額は、別表12の「審判所認定額」欄のとおり、平成12年分、平成14年分及び平成15年分の総所得金額は、いずれも当該年分の各更正処分に係る総所得金額を上回るので平成12年分、平成14年分及び平成15年分の各更正処分は適法であり、平成13年分、平成16年分及び平成17年分の総所得金額は、いずれも当該年分の各更正処分に係る総所得金額を下回るので、平成13年分、平成16年分及び平成17年分の各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

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(8) 過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分について

 上記(5)のロの(ハ)で認定したとおり、請求人が行ったK等の屋号による取引は仮名による取引と認められ、当該取引が確定申告における収入金額に含まれていないことから、これらの事実は通則法第68条第1項に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当すると認められる。
 一方、各年分の重加算税の額については、上記(5)のロの(ニ)のとおり、各年分とも重加算税の対象となる金額の計算に誤りがあること及び上記(7)のニのとおり、平成13年分、平成16年分及び平成17年分の各更正処分の一部が取り消されることから、平成13年分ないし平成17年分の各賦課決定処分は以下のとおりとなる。
 なお、平成12年分の重加算税の賦課決定処分については、重加算税の対象となる金額が上記(5)のロの(ニ)で認定したとおり原処分の額を上回ることから適法である。
イ 平成13年分及び平成17年分の重加算税の各賦課決定処分
 平成13年分及び平成17年分の重加算税の各賦課決定処分については、上記(7)のニのとおり、平成13年分及び平成17年分の各更正処分が一部取り消されること及び重加算税の対象となる金額についても、上記(5)のロの(ニ)のとおり誤りがあることから、それぞれ正当な重加算税の対象となる金額に基づき請求人の平成13年分及び平成17年分の重加算税の基礎となる税額を計算すると別表13の同年分の「重加算税の基礎となる税額」欄のとおりとなり、これに基づき算出される重加算税の額(別表13の5)は、請求人の平成13年分及び平成17年分の重加算税の賦課決定処分の額に満たないので、いずれもその一部を取り消すべきである。
ロ 平成14年分の重加算税の賦課決定処分
 平成14年分の重加算税の賦課決定処分は、同年分の更正処分が上記(7)のニのとおり適法であるものの、重加算税の対象となる金額については、上記(5)のロの(ニ)のとおり誤りがあることから、正当な重加算税の対象となる金額に基づき請求人の重加算税の基礎となる税額を計算すると別表13の同年分の「重加算税の基礎となる税額」欄のとおりとなり、これに基づき算出される重加算税の額(別表13の5)は、請求人の同年分の重加算税の賦課決定処分の額に満たないので、過少申告加算税相当額を超える部分の金額について取り消すのが相当である。
ハ 平成15年分の重加算税の賦課決定処分
 平成15年分の重加算税の賦課決定処分は、同年分の更正処分が上記(7)のニのとおり適法であるものの、重加算税の対象となる金額については、上記(5)のロの(ニ)のとおり誤りがあることから、正当な重加算税の対象となる金額に基づき請求人の重加算税の基礎となる税額を計算すると別表13の同年分の「重加算税の基礎となる税額」欄のとおりとなり、これに基づき算出される重加算税の額(別表13の5)は、請求人の同年分の重加算税の賦課決定処分の額に満たないので、その一部を取り消すべきである。
ニ 平成16年分の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分
 平成16年分の重加算税の賦課決定処分は、上記(7)のニのとおり、同年分の更正処分の一部取消しに伴い、その一部を取り消すべきであること及び重加算税の対象となる金額については、上記(5)のロの(ニ)のとおり誤りがあることから、正当な重加算税の対象となる金額に基づき請求人の平成16年分の重加算税の基礎となる税額を計算すると別表13の同年分の「重加算税の基礎となる税額」欄のとおりとなり、これに基づき算出される重加算税の額(別表13の5)は、請求人の平成16年分の重加算税の賦課決定処分の額に満たないので、過少申告加算税相当額を超える部分の金額について取り消すのが相当である。
 また、平成16年分の過少申告加算税の賦課決定処分は、上記(7)のニのとおり、同年分の更正処分の一部取消しに伴い、賦課決定処分の基礎となる税額の総額は減少するものの、この税額の計算となった事実については、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。加えて上記(5)のロの(ニ)のとおり原処分庁が認定した重加算税の対象となる金額に誤りがあることから、正当な過少申告加算税の対象となる金額に基づき請求人の平成16年分の過少申告加算税の基礎となる税額を計算すると別表13の同年分の「過少申告加算税の基礎となる税額」欄のとおりとなり、これに基づき算出される平成16年分の過少申告加算税の額は○○○○円となる。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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