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(平20.3.11、裁決事例集No.75 183頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事件の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、使用人兼務役員として勤務する会社の適格退職年金制度が廃止され、年金信託契約が解除されたことに伴い、同契約の受託者から受領した一時金(以下「本件一時金」という。)は、所得税法第31条《退職手当等とみなす一時金》に規定する退職手当等とみなす一時金(以下「みなし退職所得」という。)に該当し、かつ、本件一時金を受領した平成17年分の所得であるとして、平成17年分の所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、本件一時金は、退職により支払われたものではないから、みなし退職所得ではなく一時所得に該当し、かつ、年金信託契約が解除された平成16年分の所得であるとして、平成16年分の所得税の決定処分等を行ったのに対し、請求人がこれらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件一時金は、平成17年分の退職所得に該当するとして、平成16年分の所得税の確定申告書を提出せず、平成17年分の所得税の確定申告書に総所得金額(給与所得の金額)を○○○○円、退職所得の金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、本件一時金は平成16年分の一時所得であるとして、平成18年11月28日付で平成16年分の所得税について、総所得金額を○○○○円(内訳、給与所得の金額○○○○円及び一時所得の金額(所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定による2分の1に相当する金額)○○○○円)及び納付すべき税額を○○○○円とする決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。
ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として平成18年12月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成19年3月7日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年3月30日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙に記載したとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 制度改正前の適格退職年金制度について
 D社(以下「本件会社」という。)は、退職年金規程(昭和40年9月1日施行、平成16年10月1日最終改正のもの。以下「本件旧年金規程」という。)により法人税法附則第20条第3項に規定する適格退職年金制度を設けていた。本件会社は、E信託銀行との間で適格退職年金契約に係る信託契約(以下「本件年金信託契約」という。)を締結し、E信託銀行に年金資産の管理・運用及び年金支給等を委託していた(本件旧年金規程第20条)。
 本件旧年金規程は、嘱託及び顧問を除く全従業員に適用された(同規程第3条)。ただし、平成12年4月1日の改正前の規程では使用人兼務役員には加入資格はなく、同改正により加入資格を与えられた。
 本件旧年金規程では、勤続15年以上で定年退職したときは原則として退職年金を支給し(同規程第12条)、重大な傷病、住宅購入を必要とする場合などの一定の事由がある場合には、年金受給資格者の申出により、年金給付に代えて一時金が支給できるものとされていた(同規程第13条)。ただし、使用人兼務役員は、使用人の定年年齢に達したときにおける退職年金又は退職一時金の給付を退任時まで繰り延べ、その給付額は、使用人兼務役員が使用人の定年年齢に達したときまでの勤続期間に応じて計算される金額とするとされていた(同規程第9条第5項)。
 本件旧年金規程では、制度廃止の場合には、給付を繰り延べている者は、既に年金受給中の者に次いで、廃止日において退職したとみなして計算される退職年金現価相当額等を限度とし、退職年金現価相当額等の割合により計算された信託財産が分配され(同規程第24条第2項)、なお信託財産に残余が有るときは、劣後する勤続期間1年以上の加入者等へ分配されることとされていた(同条第3項ないし第5項)。
ロ 請求人の雇用関係及び本件旧年金規程上の地位
(イ) 請求人は、昭和43年4月1日付で本件会社に入社してから平成10年6月30日に取締役○○部長に就任するまで使用人として、同日から平成16年9月30日まで使用人兼務役員として同社に勤務していた。
 請求人は、満60歳に達した月の末日である平成16年9月30日に定年に達したが、これに先立つ同月27日、本件会社との間で、契約期間を同年10月1日から平成17年3月31日までの6か月とする労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し、以後本件労働契約を更新しながら、使用人兼務役員として引き続き同社に勤務している。
(ロ) 請求人は、本件会社に入社した後、本件旧年金規程に加入し、平成16年9月30日の定年により加入資格を喪失するまで加入者であった(ただし、平成10年6月30日の使用人兼務役員就任から平成12年4月1日の本件旧年金規程改正で加入資格が付与されるまでの期間を除く。)。請求人は、定年により加入資格を喪失した後、退任時まで年金の支給が繰り延べられることとされていたが、年金の給付額は、使用人兼務役員が使用人の定年年齢に達したときまでの勤続期間に応じて計算される金額とされていたので、加入資格喪失時点で年金の給付額は計算できた。
ハ 制度改正による確定拠出年金(企業型年金)制度への移行について
 本件会社は、平成13年法律第50号による法人税法改正により、平成24年4月1日以降は法人税法上の優遇措置が認められないこととされたこと、平成13年制定の確定拠出年金法により確定拠出年金制度が創設されたこと、企業会計制度の変更により適格退職年金の積立不足が会社の業績に大きな影響を与えることとなったことから、適格退職年金制度を改正する必要があると判断した。そこで、本件会社は、平成16年6月の取締役会において、外部拠出された掛金が各人の指図により区分運営され、掛金及び運用収益に基づき年金等の給付額が決定される確定拠出年金(企業型年金)制度に移行することを決議し、同年10月に同制度の移行に必要な本件会社の従業員の過半数の同意を得た。さらに、本件会社は、平成16年○月○日、F厚生局長に対し、確定拠出年金法第3条《規約の承認》に基づき、確定拠出年金(企業型年金)に係る規約(以下「本件新年金規約」という。)の承認申請をし 、F厚生局長は、同年○月○日、本件新年金規約を承認し、同規約は同年○月○日から施行された。
 本件新年金規約では、加入者は、本件会社の事業所で使用される60歳未満の厚生年金保険の被保険者で、嘱託やパートタイマーなど加入者とならない者の範囲に定められた者は、除外された(本件新年金規約第6条)。
 本件会社は、確定拠出年金運営管理機関となるE信託銀行との間で、確定拠出年金特定金銭信託契約を締結して、資産管理を委託し(本件新年金規約第4条、第5条)、本件旧年金規程に係る本件年金信託契約の解除により本件会社に返還される資産は、平成17年1月28日をもって、資産管理機関であるE信託銀行に移換され、加入者の希望により、各加入者の個人別管理資産に充てられることとなった(本件新年金規約附則第3条)。
 本件会社は、確定拠出年金(企業型年金)制度に移行するため、平成16年10月29日、「年金信託契約解除申出書」により、E信託銀行に対し、年金制度の廃止基準日又は契約の移行基準日を同年12月1日とする本件年金信託契約の解除申出をした。
ニ 本件年金信託契約の解除に伴う請求人への給付
 請求人は、確定拠出年金(企業型年金)制度への移行時点で既に60歳を超えており、本件新年金規約第6条に規定する同規約への加入資格がなかったことから、請求人に係る本件年金信託契約の信託財産は、本件新年金規約附則第3条に基づき、資産管理機関であるE信託銀行に移換できなかった。そこで、本件会社は、本件旧年金規程第24条第2項による分配額を計算し、請求人から計算額の承認を受けた上で、適格年金分配金給付支払指図書(以下「本件指図書」という。)により、E信託銀行に対し、信託財産の分配金を請求人に支払うよう指図した。本件指図書には、委託者(会社)記入欄の「12分配金給付額」欄には○○○○円、「15制度廃止(脱退)年月日」欄には平成16年12月1日、「17分配金決定のための基準給与」欄には○○○○円、「19入社年月日」欄には昭和43年4月1日、「20勤続期間」欄には36年6か月、「25期間計算から除外する期間」欄には1年9か月と記載され、「16退職年月日」欄及び「18退職と仮定した場合の給付額」欄はいずれも空欄となっており、受益者(受取人)記入欄の「6受益者氏名」欄にはG(請求人)、「7受益者届出印鑑」欄には請求人の印鑑が押印されている。
 請求人は、平成17年1月28日、E信託銀行から本件一時金○○○○円の支払を受けた。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 本件一時金の所得区分について
(イ) 所得税法第31条第3号及び所得税法施行令第72条第2項第4号は、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金で、その一時金が支給される基因となった勤務をした者の退職により支払われるものについては、所得税法第30条第1項に規定する退職手当等とみなす旨規定しているが、本件一時金は、1請求人の退職により支払われたものではなく、適格退職年金契約の解除を理由として支払われたものであり、2基本通達31-1の(3)に掲げる退職に準じた事実等に伴い支払われたものでもないことから、みなし退職所得には該当しない。
(ロ) また、本件一時金を退職給付制度の改変によりやむを得ず受領したという事情や、本件一時金が請求人の本件会社における使用人としての勤務期間に係る退職金に相当する金額であるということをもってしても、本件一時金がみなし退職所得には当たらない以上、退職所得には該当しない。
(ハ) そして、本件一時金は、引き続き勤務する請求人に対し本件年金信託契約の解除を理由として支払われた一時金であることから、所得税法第34条第1項及び所得税法施行令第183条第3項第3号の各規定並びに基本通達34-1の(4)の定めに基づき、「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」に当たると認められることから、一時所得に該当する。
ロ 本件一時金の収入すべき時期について
 上記イの(ハ)のとおり、本件一時金は一時所得に該当し、基本通達36-13のとおり、本件一時金のような生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の収入すべき時期は、その支払を受けるべき事実が生じた日によることとなる。そして、本件一時金の支払を受けるべき事実が生じた日とは、本件年金信託契約の解除の日である平成16年12月1日であるから、その日が本件一時金の収入すべき時期となる。
 したがって、本件一時金は平成16年分の一時所得となる。

(2) 請求人

イ 本件一時金の所得区分について
 以下の理由により、本件一時金の所得区分は、退職所得であり、一時所得には該当しない。
(イ) 退職所得は、退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(退職手当等)に係る所得として所得税法に規定され、他の所得に比して大幅に税負担が軽減されているが、その理由は、退職手当等は賃金の後払として支払われるものであり、退職後の生活を保障する等の性格を有するからであると解されているところ、本件会社の使用人としての請求人の退職金規程は本件旧年金規程のみであり、定年後嘱託として勤務しても使用人としての退職金の支給はないこと、本件一時金の額は、本件旧年金規程に従って計算した定年時の年金現価の全額であり、その他に会社から支給される一時金の支払はないことから、本件一時金については、退職手当等とみなす規定が適用されるべきであって、年金制度の実態をみないで、文理解釈のみにより行われた本件決定処分は、法の趣旨から大きくかけ離れたものである。
(ロ) 本件一時金は、請求人の勤務先である本件会社の退職金支給制度が適格退職年金制度から確定拠出年金制度に移行した際に、請求人が60歳を超えているということで同社拠出の請求人の年金資産が移換されなかったものであるから、加入員としての資格を喪失したことを給付事由として支払われた一時金であり、かつ、本件会社の就業規則では定年は60歳と定められており、本件一時金の額は、本件旧年金規程に従って計算した定年時の給付額である。したがって、基本通達30-2の(4)に掲げる退職に準じた事実等が生じたことに伴い支払われたものであるから、本件一時金は基本通達31-1の(3)に定める一時金に該当する。
(ハ) 以上のとおり、本件一時金は、所得税法第31条第3号及び所得税法施行令第72条第2項第4号に規定するみなし退職所得であり、同法第30条第1項に規定する退職所得にほかならない。
ロ 本件一時金の収入すべき時期について
(イ) 本件一時金は、確定拠出年金制度への加入資格のない請求人に対し強制的に支払われたものであって、請求人は定年時に何らの手続もできなかったのであり、請求人の選択により支払われたものではないから、基本通達36-10《退職所得の収入金額の収入すべき時期》の(4)のイを援用し、その支給を受けた日を収入すべき時期とするのが相当である。
(ロ) 原処分庁は、本件一時金は、本件年金信託契約の解除の日である平成16年12月1日の属する年分、すなわち平成16年分の所得であるとしているが、同日は確定拠出年金契約への移行基準日であり、E信託銀行から本件会社への通知により個人別分配額及び確定拠出年金移換額が確定したのは平成17年1月13日、本件一時金が移換拒否され、請求人に振り込まれたのは同月28日である。また、E信託銀行が発行した支払調書には平成17年分と記載されている。
(ハ) したがって、本件一時金は平成17年分の所得である。

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3 判断

(1) 本件決定処分について

イ 本件一時金の所得区分について
(イ) 関係法令等の解釈
A 適格退職年金などの企業年金から給付される一時金等は、使用者から支給されるものではないから、加入者の退職により支払われるものであったとしても本来は退職所得となるものではない。しかし、これらの一時金は、継続した雇用関係に基づいて退職時に支給されるものであり、長期間の勤務に対する報償及び就労の対価の累積に類する性質を有し、かつ、受給者の退職後の生活の糧となるもので担税力が低いことでも退職所得に類似する。そこで、所得税法第31条は、一定の企業年金からの一時金等を同法第30条第1項に規定する退職手当等とみなし、退職所得と同様に累進課税に係る負担の軽減を図ったものである。
 ただし、企業年金の廃止等により支払われる一時金のように、退職の事実がなく、類型的に担税力が低下していると認められる事実がない一時金まで、退職所得と同様の取扱いをすることは適当でないことから、所得税法第31条第3号は、みなし退職所得となる企業年金等から支給される一時金を「加入者の退職により支払われるものその他これに類する一時金として政令に定めるもの」に限定しており、例えば、これを受けた所得税法施行令第72条第2項第4号は、適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金のうち所得税法第31条第3号に該当するものを、「その一時金が支給される基因となった勤務をした者の退職により支払われるもの」に限定している。
 すなわち、所得税法第31条第3号は、退職の事実があり、かつ、これにより支給されるもののみをみなし退職所得としているのであり、この点において、形式的には退職の事実がなくても、退職により一時に受ける給与と同様の性質を有する給与であれば退職所得とする同法第30条第1項とは異なるものである。
B もっとも、所得税法第31条の規定につき、基本通達31-1の(3)は、適格退職年金契約に基づいて支払われる退職一時金等のうち、基本通達30-2の(2)及び(4)から(6)までに掲げる役員に就任したこと、定年に達したことなどの退職に準じた事実等が生じたことに伴い加入員としての資格を喪失したことを給付事由として支払われる一時金もみなし退職所得とする旨定めている。
 したがって、基本通達31-1の(3)は退職の事実がないにもかかわらず支給される一時金を退職により支給される一時金に含めていることとなるが、同通達は、基本通達30-2の(2)及び(4)から(6)までに掲げる退職に準じた事実が生じ、かつ、退職に準じた事実が生じたことに伴い加入員としての資格を喪失したことを給付事由として一時金が支払われることを要件としているので、この限りにおいて、所得税法第31条の趣旨及び文言から許される解釈として合理性を有するというべきである。
(ロ) 本件一時金は退職所得に該当するか否か
A これを本件についてみると、請求人は、本件一時金の支給後も本件労働契約に基づき使用人兼務役員として本件会社に勤務しており、退職の事実はないことから、本件一時金は、所得税法第31条第3号及び所得税法施行令第72条第2項第4号に規定する「退職により支払われるもの」には該当しない。
 次に、請求人は、定年に達した後も引き続き使用人兼務役員として勤務を続けており、基本通達30-2の(4)に定める定年に達した後引き続き勤務する使用人に該当し、定年に達したことにより適格退職年金の加入資格を喪失したということができる。したがって、その時点で当該加入資格の喪失を給付事由として、その者の選択により支給される、本件旧年金規程第13条に基づく一時金を受給することができれば、当該一時金は基本通達31-1の(3)に該当することとなったと考えられる。しかし、請求人は、本件旧年金規程第9条第5項により退職年金又は退職一時金の給付を退任時まで繰り延べられており、同規程第13条に基づく一時金を受給できなかったところ、本件年金信託契約が解除されたことを原因として、同規程第24条に基づき信託財産の残余金が分配されたものであって、本件一時金は加入者としての資格を喪失したことを給付事由として支払われたものと認定することはできないから、基本通達31-1の(3)にも該当しない。
B この点につき、請求人は、本件会社の使用人としての退職金規程は本件旧年金規程のみであり、定年後嘱託として勤務しても使用人としての退職金の支給はないこと、本件一時金の額は、本件旧年金規程に従って計算した定年時の年金現価の全額であることから、退職所得に関する法の趣旨及び性格に照らせば、本件一時金は退職手当等とみなすべきである旨主張する。
 ところで、本件一時金は、上記Aのとおり、本件旧年金規程第24条に定める信託財産の分配順位に従って残余金額が分配されたものであり、請求人は、給付を繰り延べられていた者であったことから、同条第2項に従って、信託財産を年金受給中の者に分配した後の残余金額を基に分配金の額を計算したところ、結果として年金現価の全額と同額になったものである。したがって、当該信託財産の分配金は、本件年金信託契約の解除を給付事由としており、財産の残余金額や分配順位により異なる給付がされ得るものであるから、年金信託契約の存続中に、定年による資格喪失等を給付事由として本件旧年金規程第13条に従って年金に代えて支給される一時金とは性質を異にするものである。そうすると、請求人が主張する事由があるとしても、両者はその性質を異にし、給付事由も別個の給付であるといわざるを得ないから、本件一時金は基本通達31-3の(3)に該当するために必要な給付事由を欠き、所得税法第31条第3号に規定するみなし退職所得とはなり得ない。よって、請求人の主張は採用することができない。
C また、請求人は、本件一時金は、1請求人が60歳を超えているということで本件新年金規約の加入者としての資格を喪失したことを給付事由として支払われた一時金であり、かつ、2その金額は、本件旧年金規程に従って計算した定年時の給付額であり、基本通達30-2の(4)に掲げる退職に準じた事実等が生じたことに伴い支払われたものであるから、基本通達31-1の(3)に定める一時金に該当する旨主張する。
 しかしながら、確定拠出年金(企業型年金)制度への移行時点で本件新年金規約の加入資格を有していなかった請求人は、もともと本件新年金規約に加入できなかったのであり、本件一時金は、同規約の加入者としての資格を喪失したことにより支払われたものには当たらないから、本件新年金規約の加入者としての資格を喪失したことを給付事由として支払われた一時金であるという請求人の主張には理由がない。
(ハ) 本件一時金の所得区分
 以上のとおり、本件一時金は、みなし退職所得には該当しないから、退職所得には当たらず、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当せず、かつ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであるから、一時所得に該当する。なお、このことは、所得税法施行令第183条第2項及び第3項第3号において、退職年金に関する信託契約に基づく一時金(所得税法第31条各号に掲げるみなし退職所得を除く。)に係る一時所得の金額の計算について規定しているが、当該規定がみなし退職所得に該当しない信託契約に基づく一時金は一時所得に該当することを前提としていることに照らしても、相当であると認められる。
ロ 本件一時金の収入すべき時期について
(イ) 所得税法第36条第1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前、すなわち権利確定主義を採用したものと解されるから、同項に規定する「収入すべき金額」とは、収入すべき権利が確定した金額であると解される。基本通達36-13のただし書が、所得税法施行令第183条第2項に規定する生命保険契約等に基づく一時金については、その支払を受けるべき事実が生じた日に所得として計上すべきものと定めているのは、これらの一時金についてはその支払を受けるべき事実が生じた日に権利が確定することを明らかにしたものと解され、当審判所においても、この通達の取扱いは相当であると認められる。
 そうすると、本件一時金は、本件年金信託契約が解除されたことにより支払われたものであり、その解除の日は、請求人の「平成17年分適格退職年金・退職によらない一時金等の支払調書」の「支払事由発生日」欄に記載のとおり、平成16年12月1日であるから、同日が支払を受けるべき事実が生じた日と認められる。
 したがって、本件一時金の収入金額の計上すべき時期は、本件一時金の支払を受けるべき事実が生じた日の属する平成16年となる。
(ロ) この点について、請求人は、本件一時金は、本件新年金規約の加入資格のない請求人に対し強制的に支払われたものであって、本人の選択により支払われたものではないから、基本通達36-10の(4)のイを援用し、その支給を受けた日が収入すべき時期である旨主張する。
 しかしながら、本件一時金がみなし退職所得に該当しないことは上記イの(ロ)のとおりであるから、退職所得に関して定めた基本通達36-10の(4)の場合と同様に取り扱うべき理由はない。
ハ 以上によれば、本件一時金は一時所得に該当し、かつ、その収入すべき時期は平成16年分となるから、本件決定処分は適法である。

(2) 本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件決定処分は適法であり、また、請求人の場合、平成16年分の所得税について期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、本件賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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