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(平20.3.25、裁決事例集No.75 243頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、被相続人が、宗教法人が設置する寺院に通じる市道(階段)の改修工事の費用を負担したのは地方公共団体に対する寄付であり、特定寄付金に当たるとして寄付金控除を適用して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、被相続人の権利義務を承継した相続人である審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、当該費用負担は宗教法人が支払うべき支出を代わりに支払ったものであり、地方公共団体に対する寄付とはいえず、また、確定申告の際に特定寄付金を証する書類を添付等しなかったから、寄付金控除の適用は認められないとする更正処分等を行ったので、請求人が同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 被相続人Fは、平成17年分の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ申告した。
ロ 被相続人が平成18年9月○日死亡し、同人の養子である請求人が相続したので、原処分庁は、被相続人の平成17年分の所得税について、請求人に対し、平成19年2月27日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成19年3月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月27日付で、棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、平成19年7月27日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおり。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によって認められる事実、又は、各事実末尾記載の証拠により認定できる事実である。
イ P市Q町○丁目○-○先に所在する市道○-○線(以下「本件市道」という。)は、宗教法人D寺(以下「D寺」という。)の寺院境内に接続する階段である(道路工事施行承認申請書)。
ロ D寺は、P市長に対して、平成17年○月○日、次のとおり、道路法第24条の規定による道路工事施行承認の申請をした(以下「本件承認申請」という。)。
(イ) 施工目的及び工事概要 階段改修石工事(以下「本件工事」という。)
(ロ) 施工場所 本件市道
(ハ) 工事期間 平成17年○月○日から平成17年○月○日まで
(ニ) 施工業者 G社
ハ P市長は、D寺に対し、道路敷に設けた工作物及び施設は、工事完了検査後、市に帰属するものとする旨の条件を付した上で、平成17年○月○日、本件承認申請について、施工目的、施工場所、工事概要及び工事期間を申請内容のとおりで承認した(以下「本件決定」という。)。
ニ 本件工事の施工業者であったG社が、被相続人の甥であるH税理士にあてた平成17年○月○日付の本件工事に係る請求書には、要旨次のとおり記載がある。
(イ) 請求額を○○○○円(税込)とする。
(ロ) 工事内容の内訳は次のとおりとする。
A 石工事:○○産御影石の材料使用
B 寺標一対:○○産御影石の材料使用
C 基礎工事全般
ホ 上記ニの(イ)の金額○○○○円は、平成17年○月○日にJ銀行(現K銀行)○○支店の被相続人名義の口座から、被相続人後見人が、L銀行○○支店のG社名義の口座に振り込んだ(以下「本件振込」という。)。
ヘ 被相続人は、平成17年分の所得税の確定申告書に、寄付先の名称をP市と、寄付金の額を○○○○円(本件振込の額のうち○○○○円に相当する支出を、以下「本件支出」という。)とそれぞれ記載し、かつ、本件決定に係る通知書、本件振込に係る請求書及び「工事及び道路面積表及び寄付金算出根拠」と題する書面等を添付の上、申告している。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 次のとおり、本件工事は寄付金控除の対象となる。
(イ) 本件工事は、D寺の観光客の安全確保のため、被相続人がP市に寄付することを目的としてなされたものであるが、1同市職員の指導誤りにより、本件承認申請の名義がD寺となったものであること、2本件決定に係る通知書には、「道路敷に設けた工作物及び施設は、工事完了検査後市に帰属する。」旨明記されていること、3本来、P市が費用を負担して改修すべきものを、被相続人個人が市に代わり費用負担したもので、同人名義の預金から支出し、領収書も同人あてであること及び4本件決定に係る通知書等一式を被相続人の平成17年分の所得税の確定申告書に添付していることからも、P市に対する寄付であることは明らかである。
(ロ) さらに、D寺境内に所在する被相続人の両親その他親族の墓所以外の「M家」の墓は、すべて被相続人とは関係のない他人の墓であることから、被相続人及び請求人は、本件工事を行ったことにより何ら特別の利益を受けていない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその全部が取り消されるべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分も、その全部が取り消されるべきである。

(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ) 別紙の3のとおり、寄付金控除の適用を受けるに当たっては、国等に対する寄付金の場合、確定申告をする際、特定寄付金を受領した者の受領した旨、特定寄付金の額及びその受領した年月日を証する書類の添付又は提示が必要なところ、被相続人からは、P市が特定寄付金を受領した旨及び受領した年月日(本件振込がG社あてに行われたのが平成17年○月○日であっても、被相続人がP市に寄付したとする日付が不明である。)を証する書類の添付又は提示はなかったことから、被相続人は法令の要件を満たしておらず、寄付金控除の対象とはならない。
(ロ) また、本件振込は、D寺が支払うべき支出をD寺に代わって支払ったものにすぎないから、所得税法第78条第2項第1号に規定する国等に対する寄付金に該当せず、また、仮に本件振込の額がD寺に対する寄付金だとしても、当該寄付金は同項第2号又は第3号に規定する寄付金のいずれにも該当しない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、被相続人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由は認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1) 本件更正処分

イ 寄付金控除適用の可否について
(イ) 別紙の1のとおり、所得税法第78条第1項は、居住者が、特定寄付金を支出した場合に、寄付金控除が適用できる旨規定しており、同条第2項は、寄付金控除の対象となる特定寄付金に国等に対する寄付金を掲げているから、被相続人が寄付金控除の適用を受けるためには、被相続人がP市に対して寄付をし、かつ、別紙の3のとおり、所得税法施行令第262条第1項第7号、所得税法施行規則第47条の2第3項第1号に規定する書類を添付又は提示して申告したことが必要となる。
(ロ) 本件工事の費用を被相続人が負担したことは、上記1の(4)のニのとおり、本件工事を施工したG社の請求書がH税理士あてとなっていること、上記1の(4)のホのとおり、本件振込が、被相続人名義の口座から、被相続人後見人名でG社の銀行口座あてにされていること、当審判所の現地調査の結果によれば、本件市道脇に設置されたD寺の寺標に、本件市道は被相続人が寄進した旨彫刻されていると認められることから明らかである。
(ハ) 上記1の(4)のイのとおり、本件市道はD寺に通じる階段であったところ、H税理士の答述によれば、本件市道は基礎が劣化し、石が磨り減っていたので、D寺は、かねてから改修工事を希望し、P市に要望していたが実施してもらえなかったところ、被相続人から費用負担をする旨の申出を受け、総代会に諮りその賛同を得て、改修工事の実施を決定したことが認められる。そして、P市に対して道路法第24条の規定に基づく本件承認申請を行ったのは、D寺であったのであり、その費用は、同法第57条の規定により、道路管理者(P市)の承認を受けた者(D寺)が負担しなければならないとされるのであるから、本件工事の費用を負担すべき者は、飽くまでもD寺と認められる。
(ニ) そうすると、本件支出は、本件工事の費用を負担すべきD寺に代わって、被相続人が行ったものと認められるから、P市に対する寄付ではなく、D寺に対する寄付とみるのが相当である。
 したがって、本件支出は、国等に対する寄付金には該当しない。
 なお、D寺に対する寄付は、別紙の2に掲げる特定寄付金のいずれにも該当しない。
(ホ) 請求人は、P市職員の指導誤りにより本件承認申請の名義がD寺になったこと、本件決定に係る通知書には本件工事で設置された工作物等が、市に帰属する旨明記されていること、本来、工事費用はP市が負担すべきであること等から、特定寄付金に該当するのは明らかである旨主張する。
 しかしながら、道路法第24条は、私人などが自らの必要に基づいて道路に関する工事又は維持を行う必要が生じた場合、道路管理上支障がなければそれを許可することができるようにするために設けられた規定であり、このように道路管理者の積極的な意思に基づかず、第三者が自己の利便のために行う工事等であるから、道路法第57条は、承認を受ける第三者にその費用負担を義務付けたものである。
 そして、上記1の(4)のハのとおり、本件決定の承認条件として、道路敷に設けた工作物及び施設が工事完了検査後、市に帰属する旨定められた理由について、P市○○部○○課課長は、当審判所の照会に対し、本件工事後の工作物等は道路の従物であり、工事費用を負担した者の所有のままにしておくと、その後の道路管理に支障を来たすため市に帰属させる必要があることから条件としたもので、この「市に帰属する」という表現は寄付を受けるとの意味ではないから、市が寄付を受けた旨の書類を交付することはない旨回答している。すなわち、工作物等が市に帰属する旨の本件決定の条件も、道路管理の支障が生じないように、D寺に義務として課したものであるということができる。
 したがって、本件工事の費用負担、本件工事により設けられた工作物及び施設をP市に帰属させることのいずれもが、本件決定で承認を受けた者に課せられた義務であるから、それを履行したことが、国等に対する寄付に該当するとはいえない。このことは、仮に被相続人が本件承認申請をしたとしても同様である。
 よって、請求人の主張には理由がない。
(ヘ) さらに、別紙の3のとおり、寄付金控除の適用を受けるに当たっては、国等に対する寄付金の場合、特定寄付金を受領した者の受領した旨、その額及びその受領した年月日を証する書類を確定申告書に添付し又は当該申告書の提出の際提示しなければならない旨規定されているところ、被相続人の平成17年分の所得税の確定申告に際して、上記書類が添付又は提示された事実は認められない。
ロ 以上のとおり、被相続人は、特定寄付金を支出したとは認められず、かつ、寄付金控除の適用を受けるために必要な書類を、平成17年分の所得税の確定申告書に添付していなかったから、寄付金控除の適用を受けることはできない。
 したがって、上記2の(1)のイの(ロ)において請求人が主張する、別紙の2の(1)の所得税法第78条第2項第1号かっこ書に規定する、本件工事に伴う特別の利益が被相続人に及んだか否かを検討するまでもなく、本件更正処分は適法である。

(2) 本件賦課決定処分

 本件更正処分は、上記(1)のとおり適法に行われており、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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