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(平20.6.26、裁決事例集No.75 314頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、○○製品製造業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)が売掛債権の全額回収ができなくなったとして損金の額に算入した貸倒損失の金額及び消費税の課税標準額に対する消費税額から控除した貸倒れに係る消費税額について、原処分庁が、当該売掛債権の全額回収ができないことが明らかになったのは当事業年度前の事業年度であるから、当事業年度の損金の額には算入できないなどとして行った法人税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税と併せて「消費税等」という。)の更正処分等に対し、請求人は、当該売掛債権の全額回収ができないことが明らかとなったのは当事業年度であるとして同処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 法人税関係
(イ) 請求人は、平成17年10月1日から平成18年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、所得金額を○○○○円及び納付すべき金額を○○○○円と記載した法人税の青色の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
(ロ) 原処分庁は、これに対し、平成19年12月25日付で所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円とする法人税の更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件法人税賦課決定処分」という。)をした。
(ハ) 請求人は、これらの処分を不服として国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成20年2月15日に審査請求をした。
ロ 消費税関係
(イ) 請求人は、平成17年10月1日から平成18年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、消費税の課税標準額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円及び地方消費税の納付すべき譲渡割額を○○○○円と記載した消費税等の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
(ロ) 原処分庁は、これに対し、平成19年12月25日付で消費税の課税標準額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円及び地方消費税の納付すべき譲渡割額を○○○○円とする消費税等の更正処分(以下「本件消費税等更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分」という。)をした。
(ハ) 請求人は、これらの処分を不服として平成20年2月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、当該異議申立てについて、通則法第89条《合意によるみなす審査請求》第1項の規定により審査請求として取り扱うことが適当であると認め、平成20年3月3日付で請求人に同意を求めたところ、請求人は同月6日に同意したので、同日に審査請求がされたものとみなされた。
 そこで、上記イの(ロ)の処分と上記(ロ)の処分に対する審査請求を併合審理する。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成9年5月○日付で○○地方裁判所○○支部から平成9年(○)第○号破産事件(以下「本件破産事件」という。)としてF社が破産宣告を受けたことの通知書を受領したことから、請求人のF社に対する売掛債権を破産債権届出書に一般債権17,288,710円及び劣後債権74,716円と記載して同支部に提出した。
ロ 請求人は、本件破産事件の最後配当として平成11年2月16日に644,869円を受領している。
ハ 本件破産事件に係る破産管財人の任務終了による計算報告のための債権者集会は、平成11年6月○日○○地方裁判所○○支部において開催されている。
ニ F社の閉鎖登記簿の謄本によると、平成11年6月○日付の破産終結により平成11年6月○日に同法人の登記簿が閉鎖された旨登記されている。
ホ 上記ハの債権者集会を受けて、平成11年○月○日付官報において、平成11年6月○日付で本件破産事件の破産を終結する旨公告されている。
ヘ 請求人の平成18年9月15日付取締役会議事録によると、同日にF社に対する売掛債権16,231,609円(税抜き金額。以下「本件売掛債権」という。)が回収不能となったとして、本件事業年度において貸倒処理することが承認されている。
ト 請求人は、本件売掛債権を本件事業年度において貸倒損失として損金の額に算入するとともに、当該売掛債権に係る消費税相当額を本件課税期間の貸倒れに係る消費税額として税額控除をしている。

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2 主張

 当事者の主張は、次のとおりである。

原処分庁 審査請求人
 本件売掛債権が全額回収できないことが明らかとなった日は、以下のことから本件事業年度前の平成11年○月○日である。
 したがって、本件事業年度において本件売掛債権の貸倒損失の計上は認められない。また、本件課税期間において当該売掛債権に係る消費税相当額を課税標準額に対する消費税額から貸倒れに係る消費税額として控除することはできない。
 本件売掛債権が全額回収できないことが明らかになった日は、以下のことから本件事業年度の平成18年9月15日である。
 したがって、本件事業年度において本件売掛債権の貸倒損失の計上は認められるべきである。また、本件課税期間において当該売掛債権に係る消費税相当額を課税標準額に対する消費税額から貸倒れに係る消費税額として控除すべきである。
イ 破産終結となった事実がすべての債権者に明らかとなるのは、最後配当が終了し破産管財人の任務終了による債権者集会が終結し、裁判所が破産手続終結の決定を行い、これを官報に公告した日であることから、本件売掛債権は、官報に公告した日である平成11年○月○日をもって、法人税基本通達9-6-2にいう、その金銭債権の全額が回収できないことが明らかになったと認めるのが相当である。
 なお、請求人は、F社の最後配当があったとする平成11年1月29日以降Gの動向に注意していた旨主張するが、平成18年3月7日の○○税務署の法人税の担当職員からの本件売掛債権に対する質問を受けて、請求人は改めて調査をして回収不能と判断しており、請求人は、同債権の回収を安易に放置していたと考えざるを得ない。
イ 請求人は、F社の破産について強い疑義を持ち、最後配当を受領した以後も本件売掛債権の回収を図る意図で経理上も同債権を計上してきたものである。そして、平成18年9月に至って、F社の代表取締役であったGが所在不明で本件売掛債権の回収は困難であると判断し、平成18年9月15日に取締役会を開催し、本件売掛債権は全額回収不能であると認識し、本件事業年度において貸倒処理をしたことから、同日をもってその金銭債権の全額が回収できないことが明らかになったと認めるのが相当である。
ロ 法人税基本通達9-6-2の定めによる貸倒損失の計上に当たっては、回収不能が明確になった限りにおいて、直ちに貸倒処理を行うというのが商法ないし企業会計上の考え方であり、いやしくもこれを利益操作に利用することは、公正妥当な会計処理とは認められないというべきであるから、請求人が資金繰り等大変な経営危機の状態であったからといって貸倒損失の計上を見送ることは企業会計上認められず、法人税法上においても、法人税法第22条第4項に規定する一般に公正妥当と認められる会計処理の規準に従って計算していないこととなる。
 また、消費税法第39条では、貸倒れに係る消費税額の控除は債権に係る債務者の財産の状況、支払能力等からみて当該債務者が債務の全額を弁済することができないことが明らかである場合は、その明らかになった日を含む課税期間において貸倒れに係る消費税額の控除ができる旨規定しているから、請求人が資金繰り等大変な経営危機の状態であったからといって貸倒れに係る消費税額の控除の時期を見送ることは消費税法上認められない。
ロ F社が破産申立てを行った当時は、請求人の年間売上げは100,000,000円前後で、F社に対する届出債権が17,000,000円余りであり請求人の経営状態からもできる限りの債権回収を行うことが必要不可欠であり債権回収をその時点で放棄することはできなかった。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件売掛債権は、平成9年2月24日までにF社との間でされた取引であり、F社が振り出し不渡りとなった約束手形13通額面金額17,285,352円及び売掛金78,074円の合計額である。
ロ 請求人が当審判所に対し、平成20年3月25日に提出した「F社・G破産に関する事」との表題の文書には要旨次のことが記載されている。
(イ) F社が経営破綻した平成9年3月初旬に請求人の代表者とGが面接した際、請求人の代表者が少しは返済してほしい旨の要請をGに行ったのに対し、Gは、法的な措置に入ろうと思っているので何ともいえない旨の回答があった。
 請求人の代表者は、F社及びGが保有していた高額な資産がなくなっていることからGが同人の妻の実家に高額な資産を隠しているのではないかという疑念が生じた。
(ロ) 請求人に対する破産手続きが開始された前後に請求人の代表者とGが面接したが、雑談のみであった。
(ハ) その後数年間は、様子見に徹しており、そろそろ借金の話をGに話してみようかと考えていたおり、Gが同人の自宅に訪ねてきた人間と借金のことで口論となり、暴行を受けたことが新聞記事に載り、請求人の代表者も財産を隠し、裁判所を騙すことで借金を踏み倒す行為を行うほどGは、卑劣な人間と思えなかったため、もう少し様子を見ることにした。
(ニ) その後数年間経過し、ほぼ忘れかけていた平成18年ころになって、請求人の税務代理行為を委任しているH税理士からF社に対する売掛債権の問い合わせがあり、確認したところ、Gは所在不明となっており、個人的にも返済が受けることができなくなったため、平成18年9月15日に取締役会を開催し、貸倒処理することを決定した。

(2) 貸倒損失が発生した日

イ 上記1の(3)のイの(イ)のとおり、法人税法第22条第3項第3号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものと規定し、また、同条第4項は、同条第3項第3号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
 また、法人の有する金銭債権について貸倒れが発生した場合には、その貸倒れによる損失はその法人の損金の額に算入されることとなるが、これは、その貸倒れによって金銭債権の資産価額が消滅すること、つまり、貸倒れによる金銭債権全体の滅失損を意味する。
 したがって、法人が所有する金銭債権が貸倒れとなったか否かは、第一次的には、その金銭債権全体が滅失したか否かによって判定され、その債権が滅失している場合には、法人がこれを貸倒れとして損金経理しているか否かにかかわらず、税務上はその債権が滅失した時点において損金の額に算入することとなる。
 ところで、法人の破産手続においては、配当されなかった部分の破産債権を法的に消滅させる免責手続はなく、裁判所が破産法人の財産がないことを公証の上、出すところの廃止決定又は終結決定があり、当該法人の登記が閉鎖されることとされており、この決定がなされた時点で当該破産法人は消滅することからすると、この時点において、当然、破産法人に分配可能な財産はないのであり、当該決定等により法人が破産法人に対して有する金銭債権もその全額が滅失したとするのが相当であると解され、この時点が破産債権者にとって貸倒れの時点と考えられる。
 なお、破産の手続の終結前であっても破産管財人から配当金額が零円であることの証明がある場合や、その証明が受けられない場合であっても債務者の資産の処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま破産終結までに相当な期間がかかるときは、破産終結決定前であっても配当がないことが明らかな場合は、法人税基本通達9-6-2を適用し、貸倒損失として損金経理を行い、損金の額に算入することも認められる。
ロ これを本件についてみると、以下のとおりである。
 請求人は、F社に係る破産手続に関して、上記1の(4)のイのとおり、破産法(平成16年6月2日法律第75号附則第2条の規定による廃止前のもの。以下同じ。)第101条《破産債権の届出》の規定に基づき、本件売掛債権を破産債権届出書に記載し○○地方裁判所○○支部に届出をし、また、上記1の(4)のロのとおり、同法第195条《最後配当》の規定に基づき平成11年2月16日に最後配当を受領している。そして、上記1の(4)のハのとおり、同法第88条《破産管財人の任務終了の場合の報告義務等》第4項に規定する本件破産事件の債権者集会が同支部において開催され、上記1の(4)のホのとおり、同法第220条《破産手続終結の決定》の規定に基づき、本件破産事件が平成11年6月○日に終結したとして同年○月○日付の官報に公告されており、これら手続はすべて破産法に基づき適法に行われている。
 この破産法における債権者集会が有する権限は、破産手続上の問題につき破産管財人に同意を与えること、破産の経過、計算等につき報告を受けることとされており、破産の手続によって債権の額が法律的に切り捨てられるものではないとされており、請求人が有するF社に対する売掛債権は、F社が破産した後も引き続き存在しているとも考えられる。
 しかしながら、上記イのとおり、法人の破産手続においては、自然人の破産手続とは異なり、配当されなかった部分の破産債権を法的に消滅させる免責手続はないが、裁判所が破産法人の財産がないことを公証の上、出すところの廃止決定又は終結決定がなされた時点で当該破産法人は消滅することとなり、当該破産法人が消滅することにより、法人が破産法人に対して有する金銭債権も滅失することとなる。したがって、F社の破産手続終結の決定がされた時点において貸倒損失が発生したとするのが相当である。
ハ 請求人は、F社が破産申立てを行った当時は請求人の経営状態から本件売掛債権の回収を放棄することはできず、最後配当を受領した以後も本件売掛債権の回収を図ろうとし、平成18年9月に至って、F社の代表取締役であったGが所在不明で本件売掛債権の回収は困難であると判断し、平成18年9月15日に取締役会を開催し、本件売掛債権は全額回収不能であると認識したことから、同日をもって本件売掛債権の全額が回収できないことが明らかになったと認めるのが相当である旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記(1)のロのとおり、債権者集会が開催され法人の破産手続が終結した日(平成11年6月○日)以後、何らGに対して法的な回収手続を講じていないことからすれば、G個人が請求人が有するF社に対する売掛債権の法的な弁済義務を負っていたとは認められず、また、本件売掛債権は、上記ロのとおり、当該破産手続終結の決定があった日に滅失したと認められるから、仮に請求人が本件破産事件の終結以後もF社の破産について疑念を持ち、G個人から同債権を回収しようとする意思が存在していたとしても、個人保証等により法的にG個人が弁済義務を負わない以上、当該売掛債権は、F社が消滅した時点で滅失するのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3) 本件法人税更正処分について

 上記(2)のとおり、本件売掛債権の全額が回収できないことが明らかとなった日は、F社の破産手続終結の決定がされた平成11年6月○日であるから、原処分庁が本件売掛債権の貸倒損失について本件事業年度の損金の額に算入できないとして行った本件法人税更正処分は適法である。

(4) 本件法人税賦課決定処分について

 本件法人税更正処分は、上記(3)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が同更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定処分をした本件法人税賦課決定処分は適法である。

(5) 本件消費税等更正処分について

イ 消費税法第39条第1項は、課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権について貸倒れの事実が生じたため、その課税資産の譲渡等の税込価額の全部又は一部の領収をすることができなくなった場合は、その領収をすることができないこととなった日の属する課税期間の課税標準に対する消費税額から、その領収をすることができなくなった課税資産の譲渡等の税込価額に係る消費税額の合計額を控除する旨規定し、消費税法施行令第59条では、債務に係る債務者の財産の状況、支払能力等からみると当該債務者が債務の全額を弁済できないことが明らかである場合には消費税法第39条第1項に規定する貸倒れの事実が生じたことに該当する旨規定している。
ロ これを本件売掛債権についてみると、上記(2)のロのとおり、F社は、破産手続終結の決定があった日に消滅し、請求人が有する同社に対する売掛債権も滅失したと認められるのであるから、同日、F社が当該債務の全額について弁済することができないことが明らかになったと認められる。
 そうすると、本件課税期間においては、課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権について貸倒れの事実が生じてはいないことから、本件売掛債権に係る消費税相当額を本件課税期間の課税標準額に対する消費税額から貸倒れに係る消費税額として控除できないとして行った本件消費税等更正処分は適法である。

(6) 本件消費税等賦課決定処分について

 本件消費税等更正処分は、上記(5)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が同更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定処分をした本件消費税等賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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