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(平20.5.30、裁決事例集No.75 327頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が傷害保険契約に基づき従業員の死亡により受け取った保険金を仮受金に計上していたところ、原処分庁が当該受取保険金は益金の額に算入すべきであるとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が当該保険契約時において受取保険金の50%以上の金額を遺族補償金として遺族に支払う旨の被保険者との合意があるから、当該合意に基づく遺族補償金は損金の額に算入すべきであり、また、仮払金に計上した弁護士費用も損金の額に算入されるべきであるとして、同処分の一部の取消しを求めた事案である。
 争点は、次の2点である。

 争点1  遺族補償金及び弁護士費用が損金の額に算入できるか否か。
 争点2  受取保険金を益金の額に算入しなかったことにつき、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由が認められるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年10月1日から平成17年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円とする青色の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、J保険会社から平成17年9月16日に振り込まれた保険金10,000,000円(以下「本件保険金」という。)は益金の額に算入すべきであるとして、平成19年7月6日付で本件事業年度に係る法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、原処分に不服があるとしてその一部の取消しを求めて、平成19年7月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実 

イ 請求人は、平成19年○月○日にK社からL社に商号変更をするとともに、本店所在地をP市p町○-○からQ市q町○-○に移転した。
ロ 請求人は、平成17年4月22日に、保険契約者を請求人、被保険者を役員及び従業員全員(パート、アルバイト及び臨時雇等を含む。)とし、死亡保険金受取人を請求人とするグループ傷害保険契約(以下「本件傷害保険契約」という。)を、J保険会社と締結した。
ハ 本件傷害保険契約の被保険者である従業員のMは、平成17年7月21日に請求人所有の車両を運転して産業廃棄物等を運搬中に発生した交通事故(以下「本件交通事故」という。)により同日死亡した。
ニ 請求人は、本件交通事故の発生により、平成17年9月5日に本件傷害保険契約に基づきJ保険会社に保険金の支払を請求し、J保険会社から同月16日に本件保険金がS銀行○○支店の請求人名義の口座番号○○○○の普通預金口座に振り込まれた。
ホ Mの法定相続人である長男のN、次男のT、三男のU並びにN、T及びUの親権者のV(以下、これら4名を併せて「Nら」という。)は、本件交通事故による損害賠償請求に係る調停(以下「本件調停」という。)を平成17年12月○日付で○○簡易裁判所へ申し立てた。
ヘ Nらは、平成18年4月○日に、請求人を被告として、本件交通事故は請求人が自動車の修繕点検を怠っていたために発生したとして、「労働安全衛生法違反に基づく損害賠償請求事件(逸失利益及び慰謝料等の損害賠償金60,000,000円)」を○○地方裁判所○○支部へ提訴した(以下、当該訴訟を「本件訴訟」という。)。

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2 主張及び判断

(1) 争点1(遺族補償金及び弁護士費用が損金の額に算入できるか否か)について

イ 主張

請求人 原処分庁
(イ) 本件遺族補償金について
 本件保険金は、本件事業年度の益金に算入すべきであるが、本件傷害保険契約を締結するに当たり、J保険会社に提出した「災害補償プログラムならびに保険金受取人を指定する保険契約締結に関する確認書兼同意書(以下「本件同意書」という。)」には、後述のロの(イ)のAの(E)のとおり、保険契約者は死亡保険金額の50%以上を被保険者の遺族補償に充てるものとする旨が記載されており、本件保険金の50%に相当する5,000,000円(以下「本件遺族補償金」という。)は、遺族補償の金額として債務が確定しているものであるから、本件事業年度の損金の額に算入すべきである。
(イ) 本件遺族補償金について
 本件遺族補償金は、後述のロの(イ)のAの(E)のとおり、本件同意書において、死亡保険金額の50%以上を被保険者の遺族補償に充てると規定されているのみで、具体的な金額は記載されておらず、また、請求人はNらに対し遺族補償の具体的な金額を提示していない。
 そうすると、本件遺族補償金は、遺族補償としての金額が確定したものとはいえず、また、未払金計上もされていないことから、本件事業年度の損金の額には算入できない。
(ロ) 本件弁護士費用について
 請求人は、平成17年9月16日にW弁護士に現金500,000円を支払っており(以下、請求人が支払った当該弁護士費用を「本件弁護士費用」という。)、本件弁護士費用は、労災交渉事件の着手金であり、後日精算されて返還されるものではないことから債務が確定しており、本件事業年度の損金の額に算入すべきである。
(ロ) 本件弁護士費用について
 本件調停及び本件訴訟は、いずれも本件事業年度以降にされたもので、現在も争訟中のものであり、本件事業年度に具体的な給付をすべき原因となる事実は発生しておらず、また、債務として確定していないことから、本件弁護士費用は、本件事業年度の損金の額には算入できない。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び請求人から提出された証拠並びに当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 本件遺族補償金について
(A) 本件傷害保険契約に係るグループ傷害保険普通保険約款(以下「本件約款」という。)及び本件傷害保険契約に係る「死亡保険金支払いに関する特約条項」(以下「本件特約条項」という。)には、要旨次の内容が記載されている。
a 本件傷害保険契約に係る保険金は、被保険者が就業中に急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して保険金を支払う。(本件約款第1条)
b 保険契約者は、被保険者の同意を得て死亡保険金受取人を指定することができる。(本件約款第36条)
c 被保険者からの書面による同意以外の方法により保険契約者等を死亡保険金の受取人にするときは、保険契約者は災害補償規定等を備えなければならない。(本件特約条項第2条)
 なお、本件特約条項第2条でいう災害補償規定等とは、「保険契約者または被保険者が所属する組織もしくは被保険者と雇用関係のある事業主が従業員等の業務中および業務外の災害等に対し、遺族補償を行う旨を定めたものとします。なお、保険金額が被保険者である従業員等に対し弔慰金、退職金の支払いに充当される額を超過する場合には、その超過額が保険契約者等の費用等に充当されることが規定されたものとします。」旨規定されている。(本件特約条項第1条)
(B) J保険会社は、当審判所に対し、同社は、保険契約者に災害補償規定等が存在することを前提にグループ傷害保険契約を締結するが、ほとんどの保険契約者には災害補償規定等が存在しないため、災害補償規定等が存在しない者からは本件同意書を徴し、災害補償規定等を補っている旨、また、本件同意書には、「災害補償プログラム規定」という表題があるが、これは、従業員に対する災害補償規定の性格を有するものである旨答述している。
(C) 請求人の代表取締役Xは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
a 本件同意書には、本件傷害保険の契約に当たり、従業員代表が同意している旨明記されており、従業員へは従業員代表のYが平成17年4月21日に全員を集め口頭で周知している。
b 本件傷害保険契約に加入した動機は、労災保険には加入しているが、労働者災害補償保険法による保険給付金だけではまかないきれない業務上の事故等が発生することも想定されたためである。
c Nらの関係者から多額の金銭を要求するような発言があり、本件遺族補償金の金額ではまとまらない可能性があると考えたため、本件遺族補償金に係る本件同意書の内容は、Nらに対して具体的に話をしていない。
 なお、本件交通事故の発生に伴い労災調停を依頼したW弁護士に対しては本件遺族補償金について伝えているものの、同弁護士はNらには伝えていない。
(D) 請求人は、本件傷害保険契約の締結に当たり、上記(A)のbの同意を得たことを証する書類として、被保険者を代表して請求人の従業員であるYが平成17年4月22日に署名押印した本件同意書を契約申込書と併せてJ保険会社に提出している。
(E) 本件同意書には、要旨次の内容が記載されている。
a 保険契約者は、死亡保険金額の50%以上を被保険者の遺族補償に充てる。
b 死亡保険金の額が遺族補償額を超える場合には、当該超える部分の金額を保険契約者の費用等に充てる。
c 本件同意書は、災害補償プログラム規定を兼ねている。
(F) 請求人が本件傷害保険契約に係る保険金を請求するため平成17年9月5日にJ保険会社に提出した「傷害保険金請求書兼同意書」の「8被保険者または受給者」欄には、保険証券に記載の契約内容・保険金額等の内容を確認し同意したとして、法定相続人Nの住所氏名等を親権者であるVが署名押印している。
(G) 本件申告書に添付された第19期決算報告書の「仮受金(前受金・預り金)の内訳書」には、「仮受金 J保険会社 R市r町○-○ 10,000,000円 保険金」と記載されており、請求人は、本件保険金について、本件事業年度の益金の額に算入していない。
(H) Mが死亡したことに伴う遺族補償金については、上記(G)の決算報告書には記載はなく、請求人は本件事業年度の損金の額には算入していない。
B 本件弁護士費用について
(A) 請求人は、本件弁護士費用を支払い、領収書を受領している。当該領収書のただし書きには「労災交渉事件の着手金及び費用として」と記載されており、本件弁護士費用は本件交通事故に伴う労災調停のために依頼した弁護士への着手金であることが認められる。
(B) W弁護士は、本件弁護士費用を請求人が支払った平成17年9月16日に本件交通事故について請求人の代理人になったことを遺族の代理人に通知する文書を作成している。
(C) W弁護士は、当審判所に対し、本件弁護士費用(着手金)は、後日精算して返金するものではない旨答述している。
(D) 日本弁護士連合会のホームページには、弁護士報酬(費用)の説明として「着手金は弁護士に事件を依頼した段階で支払うもので、事件の結果に関係なく、つまり不成功に終わっても返還されません。着手金は次に説明する報酬の内金でもいわゆる手付けでもありませんので注意してください。」と明記されている。
(E) Xは、当審判所に対し、本件弁護士費用について、労災交渉事件の着手金であり、後日精算されて返還される内容のものではない旨答述している。
(F) 本件申告書に添付された第19期決算報告書の「仮払金(前渡金)の内訳書」には、「仮払金 W 500,000円 弁護士料」と記載されており、請求人は、本件弁護士費用について、本件事業年度の損金の額に算入していない。
(ロ) 法令解釈
 法人税法第22条第3項第2号は、各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額について、当該事業年度の販売費、一般管理費及びその他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額を掲げており、同条第4項において、同条第3項各号の額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるものとする旨規定している。
 この「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算される費用の中には、費用収益の対応という正確な損益計算を行う立場から、将来確実に発生する費用を各事業年度の収益に対応させて、企業が合理的に費用の額を見積もって計上する引当金等も存在し、このような債務未確定の費用を実際の支払に先行して控除すること又は引当金の計上を企業の任意に任せるということになれば、その計算は恣意性が入り込みやすく、法人税の所得金額の計算における客観性を担保し、課税の公平を維持することは困難になると解されることから、法人税法第22条第3項第2号は、そのかっこ書きにおいて、債務の確定した費用のみを損金の額に算入する旨規定し、対外的に債務確定に至らない単なる費用の見越計上や引当金の設定は、法令に別段の定めがない限りこれを認めないとする債務確定基準を採っている。
 また、上記債務確定基準の具体的な適用に当たりどの程度の事実があれば債務の確定があったといい得るかについては、その要件として当該事業年度の終了する日までに、1当該費用に係る債務が成立していること、2当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、3その金額を合理的に算定することができることの3要件のすべてを充足する場合に債務が確定したとものとする旨基本通達2-2-12において定めており、この取扱いは、当審判所においても合理的なものと認められる。
(ハ) 遺族補償金の損金算入時期
A 債務が成立しているか否か
(A) 本件グループ傷害保険契約の目的は、上記(イ)のAの(A)のとおり、団体定期保険と同様に、不慮の事故により死傷し、後遺障害を負うこととなった従業員及びその遺族の福利厚生にあり、弔慰金、災害補償金、死亡退職金等の支払の原資に充てられるために契約されたものであることが認められる。そのため、J保険会社は、保険契約締結に際し、保険契約者から災害補償規定等を徴し、また、保険契約者に災害補償規定等がない場合には、被保険者の同意を得た本件同意書を災害補償規定等に代えて徴しており、本件においても、要旨次のとおり記載された本件同意書に被保険者代表として従業員の代表が署名押印して、これをJ保険会社に提出していることが認められる。
a 被保険者は、保険契約者(K社 代表取締役 X)をすべての保険金の受取人とする保険契約をJ保険会社と締結することについて同意する。
b 保険契約者は死亡保険金の50%以上を被保険者の遺族補償に充てるものとする。なお、死亡保険金額が遺族補償額を超える場合には、当該超過する部分の金額は保険契約者の費用等に充てられるものとする。
c 保険金請求に際して、保険会社から個別の被保険者およびその親族等への直接事実確認等を行うことについて異議はない。
d J保険会社との保険契約が継続された場合や保険期間中に保険契約内容に変更が生じた場合には、新たに「確認書兼同意書」取り交わし提出する。
e 「確認書兼同意書」は災害補償プログラム規定を兼ねており、また、当該保険契約等の内容については、被保険者となる者全員に周知されており、同意しなかった者は別途申し出るものとする。
(B) そうすると、この本件同意書は、従業員に対する災害補償規定を兼ねており、雇用者である請求人は従業員に対して保険死亡事故が生じた場合に、死亡保険金額の50%以上の金額を遺族補償として支払う旨を保証したものと認められる。
 したがって、被保険者が死亡した場合には、その遺族は、死亡保険金額の50%以上の金額を雇用者である請求人に対して要求する支払請求権を取得するものと認められ、仮に保険契約者が同意書にある内容に違反している場合には当該保険契約は無効となるものと考えられるところ、本件においては「傷害保険金請求書兼同意書」にNの住所氏名等を親権者であるVが署名押印を行い死亡保険金が支払われていることからすれば、従業員の遺族から遺族補償金の支払請求があれば、保険契約者は支払うかどうかの選択の余地はないものと認められ、遺族補償金を支払う債務は確定しているとするのが相当である。
B 当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しているか否か
 上記1の(4)のハのとおり、本件傷害保険契約の被保険者である従業員のMは、平成17年7月21日に本件交通事故により同日死亡しており、災害補償プログラムを兼ねた本件同意書において、被保険者が保険事故で死亡したときは死亡保険金の50%以上を遺族補償に充てるものとしているのであるから、この保険死亡事故の発生により、本件傷害保険契約に基づき遺族に対して具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していると認められる。
C 金額を合理的に算定することができるか否か
 原処分庁は、本件遺族補償金について、本件同意書の記述は具体的な金額でなく、また、具体的な金額をNらに提示していないことから金額が確定しておらず、また、上記(イ)のAの(H)のとおり未払金計上もされていないことから、本事業年度において損金の額に算入できないと主張する。
 しかしながら、被保険者が保険事故で死亡したときは死亡保険金の50%以上を遺族補償に充てるとする本件同意書があり、本件交通事故に伴う死亡保険金の請求に際し、傷害保険金請求書兼同意書の「受給者(法定相続人)」欄に、死亡した被保険者Mの法定相続人であるNの住所氏名等を親権者であるVが署名押印していることから、被保険者Mの遺族としては、死亡保険金が請求人に支払われた場合に本件同意書に基づき、当該死亡保険金の50%以上の遺族補償金を請求する権利を有することになったものと推認される。
 ところで、原処分庁は、遺族補償金を未払金に計上していない旨を主張しているが、確かに、本件事業年度末において、請求人は本件保険金額から支払うべき遺族補償金を提示するに至っていない状況にあり、支払うための積極的な行為も行っていない。しかしながら、請求人は、上記(イ)のAの(C)のcのとおり、Nらの関係者から多額の金銭を要求するような発言があり、紛争になることが想定されたため、上記(イ)のBの(A)のとおり、W弁護士に労災交渉を依頼しており、請求人は、当該労災交渉を開始したことに伴い、死亡保険金から支払うべき遺族補償金の総額が確定しないことから、その原資である死亡保険金自体を仮受金として経理し、遺族補償金も費用として計上していなかったものであり、そのような状況にあったとしても、遺族の有する支払請求権が否定されるものではない。
 そうすると、当該死亡保険金は益金の額に算入すべきであるとともに、少なくともその死亡保険金からの支払義務を負う遺族補償金の最低限である死亡保険金の50%相当額は費用として見積計上できると解するのが相当である。
 したがって、これらの点に関する原処分庁の主張は理由がない。
D 上記AないしCから、本件遺族補償金は、本件従業員が就業中の事故により死亡し本件傷害保険契約に係る保険金が支払われることが確定した段階で基本通達2-2-12に定める当該費用に係る債務が成立し、また、当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していることが認められ、さらに、当該保険金の50%相当額は合理的に算定することができるのであるから、本件補償金は損金の額に算入されるべきである。
(ニ) 本件弁護士費用について
 原処分庁は、本件調停及び本件訴訟は、いずれも本件事業年度以降にされたもの又は現在においても訴訟が継続しているものであり、本件事業年度に具体的な給付をすべき原因となる事実は発生しておらず、また、債務として確定していないことから、本件弁護士費用は、本件事業年度において損金の額に算入できないと主張する。
 しかしながら、本件のような損害賠償請求事件に係る弁護士費用は、法人側からみれば、一種の企業防衛費としての性格を有する費用であり、債務の確定した日を含む事業年度の損金の額に算入されるべきところ、上記(イ)のBの(B)のとおりW弁護士は平成17年9月16日に本件交通事故について請求人の代理人となったことを遺族の代理人に通知し事件に着手していることが認められること、及び上記(イ)のBの(D)及び(E)のとおり、弁護士費用における着手金は弁護士に事件を依頼した段階で支払うものであり事件の結果によって返還されるものではないことからすると、本件弁護士費用は、基本通達2-2-12に定める当該費用に係る債務が成立し、当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生し、さらに、具体的な金額も確定しているのであるから債務として確定していると認められ、この点に関する原処分庁の主張には理由はない。
 したがって、本件弁護士費用500,000円については、本件事業年度において損金の額に算入されることとなる。

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(2) 争点2(受取保険金を益金の額に算入しなかったことにつき、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由が認められるか否か)について

イ 主張

請求人 原処分庁
 本件保険金を本件事業年度の益金の額に算入しなかったのは、Nらとの間で損害賠償請求の調停中であったからで、そのため本件保険金を仮受金とし、本件弁護士費用を仮払金として経理処理をしたものであり、意図的に過少申告したものではないことから、請求人には通則法第65条第4項に規定される「正当な理由」がある。  本件賦課決定処分の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

ロ 判断
 請求人は、本件保険金を意図的に過少申告したものではなく、通則法第65条第4項に規定される「正当な理由」がある旨主張する。
 しかしながら、通則法第65条第1項は、上記1の(3)のハのとおり規定しているところ、そもそも過少申告加算税は、納税者自らが課税標準を決定し、これに税率を適用して税額を算出して申告することによって第一次的に納付すべき税額を確定させるといういわゆる申告納税制度の下では、当初から適正な申告をした者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、申告秩序の維持を図るために賦課されるものであり、過少申告加算税は、過少申告する意図があったか否かにかかわらず、通則法第65条第4項に規定する正当理由がある場合を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解される。
 また、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、納税者の故意過失に基づかないで当該申告が過少となった場合のように、当該過少にされた申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課することが不当若しくは酷になる場合を意味するものと解され、その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解によるなどの納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解される。
 そうすると、請求人は、Nらの関係者から多額の金銭を要求するような発言があり紛争になることが想定されたため、労災交渉をW弁護士に依頼し、当該労災交渉を開始したことから、本件補償金の支払をせず、本件保険金を仮受金とし、本件弁護士費用を仮払金として経理処理したものであると認められるが、本件保険金は本件事業年度の益金の額に算入すべきことに争いがなく、また、本件弁護士費用は請求人も本件事業年度の損金の額に算入すべきと主張しているところであることからしても、本件保険金を本件事業年度の益金の額に算入しなかったこと及び本件弁護士費用を本件事業年度の損金の額に算入しなかったことにつき、納税者の責めに帰すことのできないやむを得ない事情があったとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(3) 本件更正処分

 上記(1)のロの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件遺族補償金及び本件弁護士費用は損金の額に算入されるべきであり、そうすると、本件事業年度の所得金額は○○○○円、納付すべき税額は○○○○円となり原処分の金額を下回るから、その一部を取り消すべきである。

(4) 本件賦課決定処分

 本件更正処分は、上記(3)のとおり、その一部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分の基礎となる税額は○○○○円となる。
 そうすると、本件事業年度における法人税に係る過少申告加算税の額は○○○○円となり本件賦課決定処分の金額を下回るので、本件賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、主文どおり裁決する。

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